ウィリアム - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年6月号
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1. SFマガジン 1977年6月号

「ーー彼女のシェルをあけてみると・ーー」 おれは無力感にとらわれて、立ちあがった。 やがて深い傷口となっていたその傷は腹部をくだり恥骨の 「わからん。なにか思いついたのか ? 」 ええ、まだーーー」 「あんた同様、おれも医者じゃないさ」ドアを見つめて、彼は拳を 数インチ上でとまっていたが薄膜をはったような腸がとびだし : ・ もむようにした。二頭筋がビンと張りつめる。「いったい医者はな にしてるんだ ? そのセットの中に変型網板は入ってるか ? 」 アーーわかりました。左のヒップですね。マンデラ 「ああ、だけど、こいつは内臓に使っちゃいけないとーーー」 彼女はまだ生きていた。心臓は動いている。しかし、血の流れる「ウィリアム ? 」 頭はぐったりとたれている。眼は白眼がみえ、浅い息をするたび メアリイゲイの眼がひらいた。頭をあげようとする。おれはすば に、ロの端から赤い泡がうまれては、はしけた。 やくかがみこみ、彼女を支えた。 「左のヒッ。フに刺青があるんだ、マンデラ。さあ、落ちつけ ! そ「だいじようぶたよ、メアリイゲイ。医者はすぐに来る」 ら、彼女の血液型をーーー」 「なにが : : だいじようぶなの ? 喉がかわいたわ。水を」 「 O 型マイナス。ちくしよう : : : 。失し ネーーーマイナスか」 「だめだ、水は飲んじゃいけないんだよ。とにかく、しばらくの間 この刺青はもう一万回も見たことがあるんじゃなかったか ? はね。もし手術をすることになるのなら、水はためた」 ストルーヴが血液型を通信機で知らせ、おれはふいに、・ ヘルトに 「なんで血だらけなの」小さな声で言った。頭ががくんとのけそ 応急処置セットをつけているのに気づいた。そいつをとりはすすとる。「悪い娘だったわ、わたし」 なかを手探りした。 「シ = ルが悪いのさ」おれはすばやく言った。「皺のこと、覚えて しず 〈止血ーーー傷の保護ーーーショッ クを鎮める〉本にはそう書いてあつるだろ ? 」 た。まだ何か忘れてる、まだ何か : : 〈気道の確保〉 メアリイゲイはかぶりを振って、 彼女は息をしているーーーこれが息といえるならば、だが。けど、 「シェル ? 傷口が一メートルちかくあるっていうのに、こんな小さな絆創膏で 急に蒼白い顔がさらに蒼白くなり、弱々しく吐いた。 どうやって血をとめ、傷口を保護しろっていうんた ? ショックを「水 : : : ウィリアム、おねがい」 鎮める。こいつはおれにもできる。おれは緑色のアンプルをとりだ 背後で権威ある声がした し、彼女の腕におしつけ、ボタンを押した。それからおれは、絆創「スポンジか布に水をしみこませてきたまえ」 膏の殺菌してある面をはみだした腸の上にそっとのせた。柔軟な包おれは眼をあげた・ウイルスン軍医だ。うしろにタンカ運びがふ 帯を腰の部分にとおし、締めつけないように結んだ。 たりつきしたがっている。 ふともも 「他になにができる ? 」ストルーヴが尋ねた。 「まず太股に輸血た」博士は誰にともなく言い、絆創膏の下をそっ 田 8

2. SFマガジン 1977年6月号

の的みたいだ 0 た。一列に並んでいたんで、かた 0 ばしから射ち倒ていくと、今日の祭典につりあ「た二種類の衣装を示した。おれは してやった」 煉瓦色のやつを選んだーー淡い青灰色のやつはちょっとキザすぎる 「じゃあどうして ? 」母が言 0 た。「 = = ースでは、十九人が殺さと思えたのだ。おれはシャワーをあび、髭をあたり、化粧は断わ 0 れたんだって言ってたよ」 て ( マイクは美しく着飾っており、化粧の手伝いをしようと言いだ 「殺されたっていうのかい ? そうじゃないよ」 した ) 、会場に行く道順を書いた半ページの指示を読み、出発した。 「よく覚えていないけどね」 二度、道を間違えたが、通廊の交又点ごとに十四の言語でどこへ 「たしかに、十九人がやられた。けど殺されたのは四人だ。戦闘の行く道だろうと示すことのできる = ンビ、ータがそなえられてい 最初のほうでね。トーランの基地を見つける前のことた」チーのた。 死にざまについてはしゃべらないことにした。話が複雑になりすぎ おれの見るかぎりでは、男の服装は昔に戻っていた。腰から上は る。「残る十五人のうち、ひとりは味方のレーザーにやられた。腕そう悪くなか 0 た。短いケイ。フのついた、び 0 たりした ( ィネ , ク が一本なくなったが、生きてる。残りは : : : 気が狂った」 のプラウスだが、幅広のキラキラ光るべルトの役目をはたさないべ 「なにか、トーランの武器のせいなのか ? 」マイクが尋ねた。 ルトがついていて、それから、宝石をはめこんだ小さな短剣がさが 「そいつはトーランには関係がない ! 軍隊のせいなんだ。連中は「ているのた 0 た。おそらく手紙をあけるくらいにしか役にたたな おれたちの心をいじって、動くものはすべて殺せと命じた。軍曹が いだろう。大きなひたのついたパンタロンは、キラキラする合成皮 あるキイ・ワードを口にすると、その命令が効力を発揮するんだ。革の・フーツの中にたくしこまれている。そのプーツは ( イヒール 虐殺者になっちまうんたよ」 で、膝まであるのだった。これで羽飾りをつけた帽子をかぶれば、 おれは数回、あらあらしくかぶりを振 0 た。「リファナがきいてシ = イクスビアが舞台にでてくれと雇いにくるだろう。 しる 女性はもっとすごかった。おれはホールの外でメアリイゲイと会 「ちょっと失礼」おれはかなりの努力をして、立ちあがった。「二 十何年ーー」 「まっ裸みたいな気持よ、ウィリアム」 「もちろんよ、ウィリアム」 「けど、すてきだよ。これが流行なんだな」 母はおれの肘をとり、寝室に導くと、夕刻の式典には充分まにあ おれとすれちがった大部分の若い女性は、似たような衣装をつけ うよう起こすと約東した。べ , ドは途方もなく心地よか「たが、おていた。両脇にわきの下から裾までの大きな四角い窓があいたワン れはごっごっの木によりかかってでも眠れただろう。 ビースだ。裾は男の想像力がはじまるところで終わっていた。上品 空腹と麻薬と多忙な一日のせいで、母は冷水をおれの顔にかけにしているには、非常に控え目の動きをせねばならず、また静電気 て、おれの目を覚させねばならなか「た。母はおれを洗面所につれに信頼をおかねばならないのであ「た。 幻 6

3. SFマガジン 1977年6月号

茫然としていた。 エステルは・ハッグからカミソリとゲルのチュープをとりだして、 「さあ、紳士にしてなさいな」と言った。「さす、ここを」 彼女は四角いガーゼをアルコールに浸し、おれに手渡すと、 集会区画へ半分ほど進んだところで、自分がひどい格好をしてい 「さあ、手伝って。顔をぬぐうのよ」 るのに気づいた。下士官休憩室に顔をだす。カメ ( メハ伍長がせわ しげに髪に・フラシをかけていた。 おれは作業を始めた。メアリイゲイは眼をあけすに言った。 「いい気持ちたわ。何をしてるの ? 」 「ウィリアム ! どうしたの、 「紳士にしてるのさ。それに 「べつに」おれは蛇口をひねり、鏡にうつった自分の姿をながめ 「全乗員に通告。全乗員に通告」加速室のスビーカーの声ではなか た。乾いた血が顔や上衣に一面にこびりついている。「メアリイゲ ったが、声は備品室のドアの向こうからはっきり聞こえた。「医療イ、ポッター伍長なんだ。スーツが : : : アー、皺になって、アー および補修にたずさわっていない第六階級以上の乗員は、ただちに 集会区画に集合せよ」 「死んだの ? 」 「行かなくちゃ、メアリイゲイ」 「いや、でも重傷た。アー、彼女は手術室へーー」 彼女は何も言わなかった。彼女が通達を聞いたのかどうかもわか「お湯を使っちゃだめよ。しみになるわ」 らなかった。 「ああ、わかった」おれは湯で手と顔を洗うと、冷水を浸したタオ 「エステル」おれは階級をつけずに言った。紳士なんてくそくらえ ルで上衣を軽く叩いた。「君の分隊の区画はアルの区画のふたっ下 じゃなかったか ? 」 「ええ、手術の結果がわかったらすぐに知らせるわ」 「ええ」 「うん」 「何が起こったか見たかい ? 」 「だいじようぶよ」 「しいえ。ええ。起こったときには見てないわ」 しかし、顔つきは厳しく、心配そうだ。 おれは初めて彼女が泣いているのに気づいた。大きな涙が頬をつ 「さあ、もう行きなさい」 たって、顎からしたたっている。けど、その声は抑制されている。 静かに、彼女は言った。 彼女は荒々しく髪の毛を引っぱった。「めちゃくちゃね」 通廊を進んでいく途中、スビーカーは四度目の通達を繰り返し おれは彼女に近づくと、肩に手をおいた。 た。空気は新たなにおいがしていた。その原因をつきとめたくはな 「さわらないで ! 」 カ / 彼女は怒鳴ると、・フラシでおれの手を払いのけた。 20 ー

4. SFマガジン 1977年6月号

メアリイゲイはまだペッドに寝たままで、まだチュー・フを通して にとって特別の人なのね、きっと。でも、他にもたくさんの人が死 栄養を得ていた。おれはやけにカレンダーが気になりはじめた。日 んだわ : : : あなたも死に慣れるべきよ」 コライ・サー おれは飲物を口に含んだ。クエン酸が入っていないこと以外、彼に日に、身体はよくなっていくようだったが、縮潰星ジャンプのた 女の飲物と同じだとわかった。 めの加速に入ったとき、またべッドからでられないようだと、彼女 に生き残る可能性はない。ウイルスン博士からもエステルからも、 「君はひどく冷酷なんだな」 「かもしれないわね。 いえ、ただ現実的なだけよ。わたした励みになるような言葉は聞かれなかった。ふたりとも、すべてはメ ちはこれからも多くの死と悲惨にであう運命にあるような気がするアリイゲイの回復力にかかっていると言った。 突入の前日、メアリイゲイはべッドから診療室にあるエステルの カ速ヘッドに移された。もう正気に戻っていて、ロから食物を摂っ 「おれは違う。スターゲイトについたら、おれは除隊なんだ」 「そんなに確信を抱いててもいいのかしらね」そういった話は聞きていたが、一・五のもとでは、自分のひとりのカで動くことはで あきた。「わたしたちに二年間の兵役に応募させたあの連中は、あきなかったのだ。 おれは彼女に会いに行った。 っさりその二年を四年にもーーー」 ? テトへ戻るにはアレフ 9 を通 「コース変更のこと聞いたかい 「六年にも二十年にも戦争終結までにも変えちまうっていうんた ろ。でも、そんなことしやしないよ、連中は。そしたら、暴動がおらねばならないんだとさ。この牢獄船のなかでもう四カ月だ。で も、地球へ戻ったら、もう六年分の補償がでる」 こる」 「そうかしら。連中はわたしたちの心をいじって、合図ひとつで人「それはよかったわね」 「これからのことを考えて・ーーー」 を殺すように仕立てあげたのよ。それなら、他にもやれないことは 「ウィリアム」 ないでしよ。再志願よ」 そっとしない話だ。 おれは言葉をとぎらせた。嘘をつくことはできない。 そのあと、おれたちはセックスをしようとした。しかし、ふたり「わたしの機嫌をとろうなんてしないで。ね、真空溶接の話をし とも、考えねばならぬことが多すぎた。 て。子供時代のことでも、なんでもいいわ。でも、地球へ戻れるな んて嘘はつかないで」 それから一週間後、おれは初めてメアリイゲイを見舞った。彼女彼女は顔を壁の方に向けた。 はやつれていた。かなり体重が減ったようで、途方に暮れているよ「廊下でお医者さんが話しているのを聞いちゃったのよ。わたしが 5 うにも見えた。それは薬のせいだと、ウイルスン軍医はうけあっ眠っていると思ったんでしようね。でも、その話はわたしが前から 0 考えていたことを確認したにすぎなかったわ。 た。脳に悪い影響は見られないそうだ。

5. SFマガジン 1977年6月号

「もう戦闘はないわ」エステルはきつばりと言った。「まだ聞いて 彼女は黙ってメアリイゲイの腹をぬぐい続けた。その眼は数秒ご ないの ? 」 とに血圧計のほうを向く。 「ウィリアム ? 」彼女がおれに気づいたような声をだしたのは、そ「何を ? 」 いえ、メアリイゲイは、あ「この船が攻撃をうけたって知らなかったの ? 」 のときが初めてだった。「この女性 「攻撃をうけた ! 」じゃあ、生き残っているのは、いったい何人ぐ なたの恋人 ? 」 らいなんだ ? 」 「うん」 「そうよ , エステルはまた腹をこすりはじめた。「分隊区画が四つ 「とてもきれいね」 驚くべき意見たった。身体は裂け、血がかさぶたのようにひび割やられたわ。それに、火器室。船にはもう戦闘スーツは残っていな れて肌を覆い、顔は、ぬぐってもぬぐってもとめどなく流れる涙でいのよ : : : 下着のままじや戦えないしね」 「どこのーー・分隊なんだ。隊員はどうした ? 」 びしょぬれだ。そんな外見の奥に美を見いだすことができるのは、 「生存者なし」 医者か女か恋人ぐらいなものだろう。 三十人が。 「うん、きれいだ」 メアリイゲイは泣きゃんでおり、その眼はきつく閉じられ、もう「誰が ? 」 。ハータオルを吸っていた。 「第三小隊全部と、第二小隊の第一分隊よ」 ハサ。ハサになったペ】 アル日サダト、・フシア、マックスウエル、ネグレスコ。 「もう少し水をやってもいいかい ? 」 「なんてことだ」 「いいわ。前と同じように、たくさんはだめよ」 パータオルを捜した。 おれは備品室に行き、頭をつつこんでペー 「死者三十人。でも、なぜ死んだのか、まったく気づかすに死んで すでに加圧液のにおいは消えており、空気のにおいを嗅ぐことがでいったでしようね。けれど、同じことがいつまた起こるかもしれな きた。いやなにおいだった。金属加工場のような機械油と金属の焼いのよ」 けたようなにおいだ。空調装置に負荷がかかりすぎているのたろう「ミサイルじゃないのか ? 」 「ええ、ミサイルはぜんぶ迎撃したわ。敵艦もよ。センサーにはな かと思った。初めて加速室を使ったあとにも、こうしたことがあっ たのだ。 んにもうつらなかったわ。急にドカン ! そして船の三分の一がふ きとばされたの。駆動装置や生命維持装置がやられなかったたけ、 メアリイゲイは眼をあけすに水に浸したタオルをうけとった。 いっしょに暮らすつもりなの ? 」 運がよかったのよ」 「地球に戻ったら、 おれは彼女の言葉を聞いていなかった。ペンワース、ラ・ハト、ス 「たぶんね」おれは答えた。「もし地球へ戻れたら、さ。また、あ 、、サーズ、クリスティン、フリーダ。みんな死んじまった。おれは と一回、戦闘がある」 2

6. SFマガジン 1977年6月号

いるともみえなかった ) 、ホールへとつれていった。 「物理学はだめだろうな。それはわかってるよ。二十六年といった 前の方の数列に坐っていた各国代表が、おれたちのためにデスクら、地質学的年代ーー」 をあけわたしてくれた。おれは〈ガンビア〉の席に坐り、英雄的行「どんな仕事にもつけないんだよ」 為と自己犠牲についての不快な話に耳をかたむけた。マンカー大将「おれは大学に戻って、博士号をとろうと思ってたんだ。またやり は事実をおおむね正しく把握していたが、ちょっと誤まった言葉遣なおすさ : : : 」 いをした。 マイクはかぶりを振っていた。 それから、おれたちはひとりひとり名前を呼ばれ、オジュキュ氏「話を最後まで聞きましようよ、ウィリアム」メアリイゲイはおち が一キロはあろうという金の勲章を銘々に手渡した。氏は人類が一 つかなげに身じろぎした。「わたしたちの知らないことを何か知っ 致団結しなければならぬと簡単なス。ヒーチをおこない、その間、立てらっしやるのよ」 体力メラがおれたちをひとりひとり写していった。故郷の人々への弟は酒を飲み干すと、グラスの底の氷をからからとまわした。そ 娯楽というわけだ。やがて、おれたちは、いささかうんざりするよの氷をじっと見つめながら、 うな賞讃の拍手におくられて一列縦隊で外に出た。 「そうなんだ。月にいる人間は、軍人・民間人をとわすみな おれは肉親のいないメアリイゲイを食事にさそってあった。ホー の所属だ。で、わたしたちはつまらんうわさをやりとりして楽し ルの入口には人の渦ができていたので、おれたちは別の出口へ連れんだものだ」 ていかれ、エスカレーターで数階上にの・ほり、さらに自走路とエレ 「昔からの娯楽たね」 べーターにのったため、さつばり道がわからなくなった。それか 「まあね。で、あなたたちに関するうわさを耳にしたんた : : : 」弟 ら、例の交叉点のコンビュータを使い、家に戻った。 はあたりを掃くような仕草をした。「あなたたちは簡単にややめさ 母にはメアリイゲイのことを話しており、おそらくは家に連れてせてもらえないそうだってね。それは本当だった」 帰るだろうとも予告してあった。ふたりはなごやかに挨拶をかわす「ほう」 と、母はおれたちを居間につれていき、飲物をあてがうと、夕食の 「そうなんだ」彼はグラスをおき、マリファナをとりあげ、じっと したくをはじめた。マイクがやって来た。 見てから、またもとに戻した。「はあなたたちを取り戻す 「地球はひどく退屈たろう」 ためには、誘拐以外なんでもやるつもりだ。雇用委員会に手をまわ 礼儀正しい挨拶のあとで、弟は言った。 して、どの仕事にもつけないようにした。兵隊以外はねー 「よくはわからんな」おれは応じた。「軍隊生活もべつに刺激的っ 「本当なの ? 」 てわけしゃない。どんな変化もーーー」 メアリイゲイが尋ねた。おれたちは、軍がそれくらいのことはや 「あんたたちは、仕事をみつけられないよ」 りかねないと充分承知していた。 幻 8

7. SFマガジン 1977年6月号

たちはその日いちにちかけて、その区画をきれいにした。もちろはとりたくないの。な・せ 0 て、たくさんの、アー、汚物が圧力で腹 ん、艦長がよろこんでその経歴を犠牲にするというステキな証拠の膜におしつけられたからよ。万全を期して、腹腔中を、傷口と全消 0 2 たぐいは片付けやしない。 化器官を完全に消毒したわ。それにもちろん、死んでしまった腸内 いちばんや「かいた 0 たのは、死体を投げ捨てることだ 0 た。ス細菌を人口培養されたそれと取りかえねばならなか「たわ。ごく普 ーツが破裂した死体でさえなければ、そうやっかいなことしゃなか通の処置ね」 ったのだが。 「わかった」 ちょっとムカついた。おれたちは、自分がいやったらしいネ・ ( ネ 翌日、エステルの勤務が終わるとすぐ、おれは彼女の部屋へ行っ バしたものの詰まった動く皮袋だと思っちゃいない 思っちゃい こ 0 ないことに完全に満足しているのだが、医者というやつは、そのこ 「いま彼女を見舞いにいっても、いい結果は得られないわ」 とに気づいていないようなのだ。 = ステルは飲物をすす「た。 = チル・アル 0 ール、ク , ン酸、水「そのこと自体は彼女を何日か観察しないでもいい理由にはならな をまぜ、オレンジの皮の香りに似たエステルをたらしたものだ。 いわ。腸内細菌の取り換えは消化器官に激しい影響を与えるものな 「峠は越したのかい ? 」 のよーーー危険はないわ。彼女は常時観察されているんですからね。 「あと二週間が勝負ね。説明しましようか」 = ステルは飲物をおくでも、疲弊し、そう、びつくりしているのね。 と、指をくみあわせて、その上に顎をのせた。「ああした傷は、普 といったわけで、もしこれが普通の臨症状況だったら、彼女は峠 通の状況下ではごくありきたりのものなのよ。失われた血を輸血をこしているでしようけどね。でも、いまこの船は一・五で減速 し、おなかの傷口に魔法の粉をちょっとふりかけ、のりではりつけを続けていて、彼女の内臓組織はいちどめちゃくちゃになったの ればいいの。二、三日でよろよろとなら歩けるようになるわ。 よ。船のロケットが火を噴いて、二を超えたら、彼女の生命はな でも、やっかいなことがあるの。加速スーツを着て怪我をした人いものと思わなくちゃいけないわ」 など、これまでいないのよ。いまのところ、本当に異常なことは起「でも : : : でも、縮潰星に突入するときには二を超えるにきまっ こっていないわ。だけど、これから数日、彼女の内臓をよく観察しているじゃないかー しーし たいわね。 「わかっているわよ。でも、それは何週間か先のことでしよ。それ それに、腹膜炎のこともとても心配だわ。腹膜炎って知ってるまでには回復しているかもしれないわ、うまくいけば。 ウィリアム、事実を見つめるのよ。手術をして生命が助かっただ 「ああ、・ほんやりとはね」 けでも奇跡よ。その彼女が地球へ帰れるチャンスなんて、ほとんど 「加速中の圧力で腸が破裂したわね。わたしたち、通常の予防措置ないのよ。悲しいことですけどね。彼女は特別の人なのね。あなた

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どさまざまな建物が寄せ集まっていて、高さも数階、湖のまわりをの薬はすべて、市阪されているもののようだった。 囲み、さらにその外を木々にとりまかれていた。どの建物も自走路「医者にはみせたの ? で、店舗や学校、オフィスの入ったいちばん大きなドームにつなが「医者フ しいえ。ウィリイ、お医者はね : : : そんなに重い病気じ っていた。そこでおれたちは母の住まいへの方角を知った。湖の上やないって : : : べつに の重層ア。ハートどっこ。 「重くない ? 」八十四歳で。「そんなことあるもんか、母さん」 おれは台所の電話にむかい、かなり苦労して病院を呼びだした。 自走路を使うこともできたが、おれたちは落葉のにおいのする、 二十歳ぐらいの平凡な娘が立体画面にあらわれた。 すてきな冷たい大気のなかを自走路に沿って歩いていった。人々は 横のプラスチック・チュー・フの中を滑るようにすぎていった。おれ「ドナルスン看護婦です」 たちに気づきはしたが、じっと見つめたりはしなかった。 彼女は徴笑を顔にはりつけていた。職業的誠実さをみせているわ 、つけだが、地球じゃあ、みんなが徴笑しているんだ。 ドアをノックしても、母はでてこなかった。しかし、鍵がかカ ていなかった。気持ちのいい部屋で、宇宙船の規準からみれば、す「母をみてもらいたいんですが。母はーーー」 ばらしく広かった。二十世紀の家具がたくさんある。母は寝室で眠「お名前とナン・ ( ーをどうそ」 「ペッテ・マンデラ」スペルを言った。「ナン・ハ っていた。で、メアリイゲイとおれは居間でしばらく本を読んだ。 ーのことです、もちろん」娘は徴笑した。 ふいに寝室から大きな咳こむ音が聞こえてきたので、びつくりし「医療サービス・ナン・ ( おれは母に呼びかけ、ナン・ハーを尋ねた。 た。おれは寝室に駆けよると、ドアをノックした。 「ウィリアムかいフ わたしはーー」咳。「ーー・入っておくれ。来「母は覚えていないと言ってます」 「じゃあ、けっこうです。こちらで調べられると思いますから」 てるとは知らなかったよ : : : 」 母はペッドの上におきあがっていた。明かりがついており、さま娘は徴笑をかたわらのキイ・ホードに向け、コードをうった。 「べッテ・マンデラ ? 」娘は言った。徴笑がいぶかしげになる。 ざまな売薬がちらばっていた。母は蒼白く、皺だらけのように見え 「あなたは息子さん ? べッテさんは八十四歳のはずですが」 母はマリファナに火をつけ、それで咳が静まったようにみえた。 「たのみます。事情を説明してると長くなります。はやく見てもら 「いっ来たんだい ? わたしはちっとも : : : 」 わなくちゃいけないんですよ」 「二、三分前ですよ : : いっから : : : こんな風に : : : 」 「ご冗談おっしやってるんですの ? 」 「ジ、ネーヴで・ ( イキンをつかんじゃったんだねえ。なに、二、 「どういうことですの ? 」寝室から、窒息しそうな咳が聞こえてき 日すればよくなりますよ」 た。「ほんとなんですーー・重そうなんです。お医者をーー・・」 母はまた咳こみはしめた。瓶からどろっとした赤い液を飲む。母「でも、マンデラさんは二〇一〇年以来、優先度はゼロなんです 225

9. SFマガジン 1977年6月号

「ごめんなさい。もう行きましよう」 らはしきとばされることになるのである。もし物体がはじきとばせ 戸口で彼女はおれの腕に軽くふれた。 ないほど大きかった場合は、その存在をかなり遠方から感知できる 0 2 「ウィリアム : : : 」彼女は挑むようにおれを見て、「死んだのがわから、船の方が針路を変えるのである。 たしじゃなくて、わたし嬉しいのよ。わかる ? そういう見方しか「敵の武器が恐ろしいものであると強調すべきではなかったかもし ないのよ」 れない。本艦が攻撃をうけたとき、当方の敵ミサイルに対する速度 わかった。しかし、彼女の言葉を信したかどうかは、おれ自身には、本艦の全長を千分の十秒で通りすぎてしまうほどのものであっ もわからなかった。 た。さらに、当方は不規則に側面加速をおこない、その方向・速度 を小刻みに変えておった。そここ、 冫かの物体がぶつかったのだが、 「状況は非常に簡潔に要約できる」艦長は厳しい声で言った。「敵それは誘導されておったに相違ない。その誘導装置は内臓されてい 艦を破壊した十秒ほどのち、ふたつの物体・ーー非常に小さな物体がたのだろう。そいつが爆発したとき、すでにトーラン人も生きては 〈アニヴァーサリイ号〉中央部にて爆発した。それは探知されす、 おらなかったのだからな。そいつは、小石ほどの大きさもなかった また当方の探知装置の限界もわかっているので、その物体は光速のだろう。 フューチャー・シ当ッグ 十分の九ほどの速さで飛来したものと推定される。すなわち、もう諸君は若いから、おそらく〈未来の衝撃〉という言葉を覚えては 少し正確に言うと、その物体の〈ア = ヴァーサリイ号〉の軸線に対おらんだろう。七十年代のことだが、技術の発達があまりにも急激 する速度べクトルは、光速の十分の九を超えていたのだ。かの物体であるため、人間はーーー正常な人間はそうした技術についていくこ は反撥フィールドのうしろにもぐりこんできたのだ」 とができないと思った人々がいた。現実に慣れないうちに、未来が 〈アニヴァーサリイ号〉は相対論的速度で航行中は、ふたつの強力襲いかかってくるというわけだ。トフラーという男がこうした状況 な電磁フィールドを発生させるよう設計されている。ひとつは船かを〈未来の衝撃〉と名づけた」艦長はちょっとアカデミックになっ ら五千キロメートル、もうひとつのフィ 1 ルドは一万キロ離れたとて、「われわれは、この概念によく似た物理学的状況にとらえられ ころに発生するのだ。このふたつのフィールドは〈ラム・ジェッ ておる。その結果は惨禍た。悲劇だ。前会の集会で討論したごと ト〉効果により維持され、エネルギーは周囲にたくさんある星間ガ く、これに対抗する術はない。相対性理論がわれわれを敵の過去の スから得ている。 中にとじこめておるのだ。相対性理論が敵を未来よりもたらすの 船体にぶつかると破損する恐れのある程度の大きさの物体 ( つま だ。われわれはただただ、次回はこの状況が逆転することを願うの り、強力な拡大鏡で見える程度の大きさの物体つてことだが ) が最みである。その逆転を招来するため、われわれにできることといっ 初のフィールドを通過すると、その表面に非常に強い負電荷がかか たら、スターゲイトへ、そして地球へ帰投することである。地球に る。そうなった物体が第二のフ ィールドにぶつかると、船の進路か行けば、被害を見た専門家がなにか対抗措置を考えだしてくれるだ

10. SFマガジン 1977年6月号

世界 S F 情報 はヴァージン諸島のセント・クロアで撮影 コ市民公会堂で開催された、とスター ・ギャラクシイ誌の前途多難 トレックの合同大会は八千人もの参加者を中。製作費六百万ドルのこの映画、監督は ート・ランカス ギャラクシイ誌の出版元、社は他集め、このてのものでは最大の成功をおさドン・テイラー、主演は・ハ ハンデめた。アル ' ハ ・ロジャースが議長をつとめターとマイケル・ヨーク。獣人のメーキャ に保有していた雑誌〈ファミリ 1 ・ た″部門″の催しは、ほとんどが別室ップは〈猿の惑星〉で見事な手腕をふるつ イマン〉を売りに出し、さらにはニューヨ たジョン・チェイハースが担当。毎日メー ークの事務所も閉鎖して、イリノイ州ウェで行なわれたが、″宇宙とスタートレック ストチェスター市へと移転した。経営状態部門″に比べて少しも遜色のない出来だっキャップに四時間をかけている。テイラー の悪さでは定評のあるギャラクシイ誌、遂た。だが、唯一のとスタートレック合監督はこの映画について「この映画は一九 に廃刊か、と思うところだが、編集長のジ同の討論会は、スタージョン、ハインライ三二年にウエルズの原作を脚色して作られ た〈失われた魂の島〉の焼き直しではな ム・ビーン氏、独りニューヨークにとどまン、アーリン・マ】テル、マーク・レナー これは映画でもないのだ。我々は って自分のアパートで編集業務を続行中と ドらを呼びものにしたにもかかわらず不首 これを考えられるかぎり、リアルなものに のこと。今年最初の号は三月号として発行尾に終った。講演会ではシオドア・スター ーラン・エリスン、ロ・ するつもりだ」と語っている。 され、一月、二月号は発行されずじまいだジョン、ハ ンルヴァーく ーグ、ラリイ・ニーヴン、デ相当な力の入れようではある。 った。〈ガリレオ〉や〈アイザック・アシ ィック・ルポフ、アラン・ディーン・フォ モフズ・マガジン〉の新興一一誌が好調 なのとは対照的に、ギャラクシイ誌の前途スター、ウィリアム・チ、ーニングらが講『オズの魔法使い』を脚色したオーストラ リアのロックミュージカル〈ォズ〉がアメ 演を行なった。 は多難なようである。 リカで公開されるが、オーストラリア訛が 映画〈スタートレック〉の監督、フィル・ ・ヘビー・メタル誌創刊 カウフマンは格別これといったことは語らひどいため、吹き替えがなされるという。 ″おとなのイラスト・ファンタジー誌となかったが、オリジナルものの出演者たち いうふれこみで、ナショナル・ラン。フーンがまだ契約書にサインしていないこと、そテレビは四夜八時間にわたって、 レイ・・フラッドベリ原作『火星年代記』の 社から〈ヘビー ・メタル〉誌が創刊されして脚本がいまだ未完成なことを認めた。 た。月刊で、値段は一ドル五〇セント。四しかし、どちらも問題とするにあたらない翻案物の放送を計画中。ピーター・マシス 月創刊号には、フランスの雑誌〈メタル・ と語り、撮影開始予定が今年の八月であるンの脚色で、プラッドベリ自身のナレーシ ュルラン〉からの再録を含む、十二の続きことを公表した。映画は来年の四月に封切ョンが入る。 物コミックと、ファンタジー長篇『シャナられるそうである。 ・若手のホープ、ジョン・ ラの剣』の抜粋がおさめられている。印刷 この大会でもハインラインは献血連動を は美しく、ほとんどのページがカラー。毎推進し、二百パイントを採血した。そして近年、めきめき売りだしてきたジョン・ 号コミックのほかに、短篇、あるいは長篇いつものように、献血した人かこれからしヴァーレイ、アメリカの四つの傑作選のう の抜粋一篇を掲載する方針。現時点では十ようとする人、あるいは六十日以内に献血ち、現在のところ、テリイ・カー、ドナル ・ト・ウオレ、 ノ / イム、ガードナー・ドゾアら 五万部は売れる見込みだそうである。 した人たちには、自筆のサインを贈った。 の三つの傑作選に、作品の収録が決ってい ・大成功の / スタートレック大会 ・映画・の話題 る。しかも、それそれ違う作品というから 二月十三日から三日間、サンフランシス映画〈モロー博士の島〉 ( ウエルズ原作 ) 立派なものである。