「それで、おまえらレインジャー部隊のつもりか」ぼくはいった。 なで分け合う。一人はみんなのためにあり、みんなは一人のために 「そんなことでは、この周期は生き伸びられんそ」 ある。そして、この年齢では、かれらは文字通り、暴力や利己主義 かれらは跳び上り、申し訳なさそうな顔をした。無邪気なものは、情緒的に不可能な段階にある。 た。・ほくはこいつらを戦闘員に仕立てなければならないのた。 十二、三歳に成長すると、かれらはこの不能状態から脱け出し、 「何の周期ですか ? 」一人が尋ねた。みんなこの前の時は、幼なすジャングルを目指し始める。ジャングルはすぐ目の前に、自分たち ぎて覚えていないのだ。 の不毛の砂原のすぐ隣りにあり、入っていくのをさえぎるものは何 「周期だけじゃない。 クラハリ人も理解しなくてはならん。さもなもない 十三歳から十七歳の、年上のクラハリ人以外には。この ければ死ぬそ。たが、かれらを憎んではならない。かれらのやるこ年頃になると、若いクラハリ人の男性は、五フィ 1 トから六フィー とに悪意があるわけではない。地球にたって、ヒ、、ハロ族がいた。アト半ぐらいに、急激に身長が伸びる。それから、ジャングル生活の マゾン川の首狩り族だ。ヒ・ハロの少年たちは、成長していく間、毎日残りの四年間に、ゆるやかな成長を続ける。そして、ジャングルに 説教された。敵を殺してもかまわないばかりでなく、それは立派な入った瞬間から、他のクラ ( リ人の少年は一人残らす、潜在的な不 ぐたいてん ことであり、名誉なことであり、男として望みうる最も偉大な行為倶戴天の敵となる。ジャングルの中では、食物も飲物も、手を伸ば 自分 なのた、と教えこまれた。この掟は、かれらが生れ育ったジャングしさえすれば得られる。そして、恐れるものは何一つない ルから発生したものたーーーそして、これがかれらの一部をなして、 しの命にしがみつきながら、できるたけ多くの他人の命を奪うこと以 るのと同様に、クラ ( リ人の若者の生き方は、かれらの世界から発外には」 生したものであり、同様に、かれらの一部をなしているのだ。 「クラハリ人の命を、でしよう」一人の隊員が心配そうにいナ かれらはこのジャングルの外の、砂漠のずっと向うの方で生れ「な・せ、ぼくらに手を出すんです ? 」 る。そして、九歳ぐらいまでは男も女も一緒に、蒸気機関の段階を「出してはならない理由があるか ? 喰うか喰われるかだ。かれら 越えたばかりの文明を持っ都市で、育てられる。それから、少女た が、もう少し歳を取り、ジャングルの経験を積むと、十二人ぐらい ちはそのまま留まって、都市生活の雑用を習い始める。だが、九歳までのグル 1 プを作りさえする。そうすれば、一匹狼の者や、小さ のクラハリ人の少年たちは、押し出されて、砂漠で我が身を守らな いグループの者を、やつつけることができるからた。これはなかな ければならなくなる。砂漠では、互いに助け合うか、野垂れ死するかうまい手だーーー自分のグループの仲間に、後ろからやられないよ 、つこ、 という点を別に か、どちらかだ。少年たちはゆるやかな集団、または部族を作り、 冫いつも背中を警戒していなければならない、 このジャングルはだれのもので 三年間、助け合ったりしながら命をつなぐ。かれらの生活は、ほとすれば。ルールというものはない。 んど完全な兄弟としての生活だ。砂漠では、かれらの問題は生きのもないのた。だからこそ、クラハリ人は最初、ここに人間が入植す 3 びることであり、見つかった水の一滴も、食物の一かけらも、みんることに反対しなかったのだ。成熟の途中にある若者たちにとっ
て、われわれという試練が一つ増えるだけなのだろう。かれらは成は、ジャングル経験が四年以下のものと違 0 て、互いに信用し合 0 人になるまで生きのびれば、都市へ戻ることができるのだ」 て、共通の目的ーーっまり、ジャングルの一部を自分らの王国とし 6 部下たちは事態を把握し、それが気に入らなか 0 た。分隊一の利て恒久的に確保しようという目的ーーを持「て、大きな集団を作る ロ者のジェンが、すぐに関連を覚った。 ことができるのだ」 「つまり、おれたち人間は狩猟鳥獣なみ、ということですか ? ぼくの部下たちは、今や、一心に聞いていたーー・もう、たれも笑 「その通り。だからこそ、この分隊がジャングルに派遣されている ってはいなかった。 のさ。われわれの仕事は荒つぼい下町の警官の役目と同じたーー一 「昔、人間がやってくる以前には、十七年一世代に一度起るこの過 度に半ダース以上のクラ ( リ人の集団ができたら、すぐに引 0 張り程は、必す最後に、主としてポスト・シ = アたちによ 0 て構成され いしゆみ 出して、解散させる。若いクラ ( リ人は、自分らの棍棒、弩、槍なる集団同士の決戦を引き起した。これらの戦争は、クラ ( リ人の中 どではライフルに適わないのを知「ている。そして、家を攻めるとの遣伝的変種を廃絶し、昔から続いている都市↓砂漠↓ジャングル か、畑の入植者を襲うとかするには、少くも半ダースは集まらない ーマ都市、というクラハリ の男性を育て、各世代の不適応者を排除す とためなんだ。それで、入植者、兵隊、クラ ( リ人の取り合わせるパターンを、妨げる可能性のある者を除去した。われわれがくる は、たいていうまくい 0 ているーーーかれらにと 0 て一世代を形成す前には、すべてがうまくいっていた。だが、われわれ人間がジャン る十七年の内の一年を除けば。なぜなら、一世代に一度だけ、大きグルに入「た現在では、集団を作 0 たポスト・シ = アたちが、十七 な衝突が起るのだから。 年毎に、ごく自然にわれわれを襲うことになった」 それを起すのは五年生のクラ ( リだ。その連中をポスト・シニア ・ほくの話は効果があった。なぜなら、除隊しなかった者は、良い と呼ぶ人もある。われわれは、クラ ( リの若者を、砂漠を出てかレインジャー隊員に育「たからである。かれらは自分の仕事と ら、ジャングルに入っている年数に応じて、フレッシ = マン、ソフその理由を理解したのだ。 オモア、ジ = = ア、シ = アと呼ぶ。ポスト・シ = アは、都市に戻れ季節が一つ一つ過ぎていき、次に、幼いジャン・デプレに会う ば入れてもらえる年齢に達していてー , ーそれをためら「ているクラまで、ぼくは仕事で手一杯だ「た。六人編成だ 0 た・ほくの分隊は、 ハリのことである。かれらは、ジャングルでお山の大将になってい この時までには、十二人編成の小隊に成長していた。な・せなら、あ ることは、都市に戻 0 て、どん底からやり始めるのよりも、本当にのサイクルの十六年目の第二季節、つまり最後の季節の終りにさし 良いのだろうか、と疑い始めているクラ ( リである。かれらはジャ かかっていて、十五人にもふくれ上るクラ ( リ人のグループを解散 ングルに一生涯落ち着いてしまうという考えを、もてあそんでいるさせては歩いていたからである。それたけでなく、ポスト・シ = ア クラ ( リであり、他のクラ ( リを見堺もなく殺したいという衝動たちの行動を注意していると、かれらは解散させられる端から、わ が、成熟と経験によ「て抑えられているクラ ( リである。かれられわれが通り過ぎると、すぐさまグルー。フを再構成し始める、とい
て呼び続けているうちに、かれはゆっくりと立ち上がり、横にあつうなものを。これらの文句を、クラハリ人に通じる程度に言えるよ た官給品のライフルを持ち上けた。そして、それを持ったまま、ゆうになる者も、少しはいる。だが、最も単純なクラハリ語の文章を 8 つくりと広場を横切り、西の塀の裏側の狭い通路を通って、厚さ二半ダース以上理解できるようになる者はまれである。それは、原住 フィート の塀の上にあがった。そこは、ジャングルに隠れているク民の声が異なるーー連中は高い声で、人間とは形の違う喉の奥の方 ラハリ人から丸見えの場所だった。かれはそこにあぐらをかき、ラで喋るーーーばかりでなく、かれらの思考が異なるからである。 イフルを膝に横たえ、ジャングルの中を覗きこんだ。 例えば、われわれはこの惑星を「ウトワ 1 ド」と呼ぶが、これ 呼び声がやんた。それに続いて、説明のしようのない音が聞えては、それを表わす原地語を使おうという一つの試みなのである。こ きた。一種のざわめきと溜息のようなもので、何かの大観衆がほんのクラ ( リ語はーーー語というよりむしろ音だがーー・実際は「 U 、」と の一瞬、不安を感じて、息を詰め、それからまた催物に見入る時の いうような音で、ロの奥の方にむかって、高く、鋭く、跡切れるの 音、とでもいえばいいのだろうカ 、。・ほくは双眼鏡に切り替えて、西のである。だが、大切なことは、クラハリ人は決して自分の惑星を、 塀の前の空き地をじかに見降ろした。ジャングルから背の高いクラ単に「ウト」とは呼ばないことた。クラ ( リ人は常にそれを「ウト リ人が何人も出てきて、その二十フィート 四方ばかりの空き地かの世界」と呼ぶ。なぜなら、この一つの惑星に縛りつけられている ら、死者を運び出し始めた。かれらは死体の下になっていた濡れた クラハリ人には四つの世界があるからである。過去の世界、つま 地面にしやがみこむと、きれいなしだの葉を取り出して、そこの地 、すべて過ぎ去った時の世界。これから存在する世界、つまり、 面を覆った。 きたるべぎ時の世界。一種のクラハリ人の地獄ーー過失で死んた者 それから、かれらは後退し、今度は、羽毛や装身具で、いままでたちの住む世界ーーそれ故、かれらの魂は、これから生れてくるク に見たこともないほど体を飾り立てた三人のクラハリ人が、ジャン ラハリ人の中に再肉化することはできない。それと、現在の物質的 グルから出てきて、そのしたの葉の上に独得な坐り方であぐらをか世界、つまり、ウトの世界の四つである。だから「ウトワード」は 、こーー・城壁の上のジャンはそれを真似て坐っているのたった。か人間のワールドという言葉に「ウト」を結びつけて、クラハリ人に れらが着座すると、クラ ( リ人たちがジャングルから続々と現わ発音できない 1 の音を省いたものなのである。 れ、空き地を埋め、三人の後ろに立って見守った。かれらは、坐って こうしたわけで、・ほくは喋っているクラハリ人の言葉は全然わか いる三人と、ジャンを見通す線を除いて、びっしりと空き地を埋めらなかった。かれが拠点の塀と、後ろのジャングルとをしきりに指し 尽し、また静まり返った。静寂は数秒間続いた。それから、先頭の示すので、おそらくここで起った抗争について喋っているのだろう クラハリ人が立ち上り、ジャンに語りかけた。 と、・ほくは見当をつけた。そして、坐って聞いているジャンの様子 レインジャ 1 部隊で、・ほくらはクラハリ語の文章をいくらか教わから、・ほくにはわからなくても、かれにはわかっているらしいと推 っているーーー「解散しなさい 」「武器を置きなさい」というよ測した。話し手は話が済むと坐った。すると長い沈黙が訪れ、いっ タイム
と、肩の槍傷のためにうめき声を立てながら、自分の息子を負傷者 丿ートの塀に取囲まれた内部の建物の中でも、特に、コンクリート の世話という仕事だけに縛りつけ、こき使っていたのである。ジャの角柱のような見張塔が五十フィートほど空中にそびえ立っている 7 ンの味方は二人の兵士だけだった。かれらはジャングルの中でのかのが目についた。ストルデンマイアはその上の、日よけの下のエア れの戦い振りを見て知っていた。しかし、この二人は、入植者たちコン付きパプルの中に当直を置いていたが、呼び声が始まった時、 からは、どのみち、無視され、見捨てられていた。なぜなら、民間そいつは居眠りをしていた。 人たちはこんな事態になったのは、かれらの、そして一般的には軍それから一台のスキャナーのスクリーンからジャンの声が聞えた 隊の、せいなのだと非難する理由を見つけたい心境でいたからであので、・ほくは拠点の内部を見せているスキャナーの列に注意を戻し る。 た。かれは日よけの下の負傷者のいる所と、塀との中司こ、 ド冫した。ス つまりーー・馬鹿は馬鹿に耳を傾け、賢者を無視したのだ。こんな トルデンマイアはかれの腕をつかみ、それより先にいかないように 引き止めていた。 言葉をどこかで読んだような気がする。胴間声の、三白眼のこの仲 買人は、恐怖と自惚れのために太鼓腹をいっそう膨らめ、畑のこと「 : : : 何のために ? 」・ほくがそのスキャナーに近寄った時、ストル 以外には何も知らない近視眼の、苛酷な、そして負傷している父親デンマイアがいっていた。 に、耳を傾けーー・この静かな、無ロな少年を無視したのだ。ジャン 「あいつらが呼んでいるのは、・ほくなんだよ」ジャンはいった。 だったら、拠点の中でストルデンマイアがどんな行動をとろうと、 「きみを ? きみがここにいるのを、どうしてやつらが知っている クラハリ人がどのように反応するか、毎日毎日、時々刻々、かれにんだ ? 」仲買人は不安そうにかれを見降ろした。 教えることができたはすだったのに。・ほくが監視哨に入った最初の ジャンは、説明しようがない時に子供がよくやるように、だまっ 日の午後に、拠点の塀に対して、先走った攻撃がまたあった。そて、ただ、まじまじと見返した。かれにとってーーーそして、眺めて して、 ーカーという名の入植者が弩の矢を胸に受けて重傷を負 いるぼくにとってーーークラハリ人が、ジャンがここにいることを知 一時間足らずで死んだ。 っているばかりでなく、砦の中にいる人間を一人残らず知っている ナ一声の、 日没の直前に、ジャングルから一つの呼び声が起っこ。 理由は、あまりにも明白たったので、喋っているのは時間の無駄だ と思われたのだ。しかし、ストルデンマイアはクラハリ人にごく単 。ヒッチの高いクラハリ人の声が、何度も何度もくり返しきこえた。 ・ほくは拠点の外側と周囲のジャングルを見渡すスキャナーをよく見純な知能があるかもしれないとさえ、考えたことはなかった。かれ たが、呼んでいる者の所在は止められなかった。スキャナーで見るは多くの都市や、これらの体を飾った若い原住民たちが卒業した学 限り、場面は平静だった。クラハリ人の大部分はジャングルの葉陰校のことなどは無視し、かれらを、動物に近いものとは考えないま になって見えず、拠点は小さな空き地の中にぼつんと取り残されでも、野蛮人たと考えていたのである。 て、熱気にうだっているように見えた。高さ三十フィ 1 トのコンク「戻ってきたまえ。父さんに話してみよう」しばらくして、仲買人 いしゆみ
「それで大きくなったら何になりたいんだね、ジャン ? 」かれは尋長」かれはそういって、黒くなったコンタクトレンズの陰で、よろ 「この場所はーー」片手を開墾地の方に振って ねた。「人間かそれともクラ、リ , かね ? 」そして、われわれほかのしくと目で頼んだ。 見せ、「この辛い仕事の報いを受け取るほど、おれは長生きしな 者に向かって、愛想よくウインクした。 い。だが、いずれあの子が豊かになる。わかるかい ? 」 少年は考えこんだ。考えるというより、むしろ、自分の知ってい る人々を想い画いた ジャングルを開墾したふやけた土地と格闘「ああ。法律は破らないでくれよ」ぼくはいった。そして、部下を している母親、父親、自分自身・ーーそれと、宝石や羽根毛をきらめ呼び集め斥候の隊型を取って、家の裏側のジャングルに踏みこんで いった。あとになって、ペランに少し辛く当りすぎたかな、と思っ かしていて、背が高く、色が濃く、力強く、ジャングルの中を自由 に、軽やかに走りまわっているクラハリ人、それもシニアのものた。 を。 その季節には、その地域は二度と通らなかった。次の季節の初め 「クラハリ」ジャン・デュプレはついにいっこ。 に通りかかった時には、・ほくはほやほやの新兵を一分隊引き連れて 「クラハリ いた。新兵どもを隠しておいて、自分だけジャングルの縁にいき、 ! 」父親はその言葉を叫び、椅子の上で、ぎくりと体を 起した。子供は身をすくめた。だが、その瞬間、ペラン・デュ。フレ姿を見せすに様子をうかがった。ペランはこの季節二度目の作物の は客がいることを思い出したにちがいない。急にこわい顔をしてジ種をまいていた。そして、一インチほど背の伸びたジャンが、また デ・ハローマー銃を持って歩哨に立っていた。・ほくは邪をせず、通 ャンを睨みつけ、それから、笑い話にしてしまおうとした。 。しナ「どう思うね ? 子供だよなり過ぎた。留置場にぶちこむと脅しても、。ヘランがやり方を改めな 「クラハリだと ! 」かれよ、つこ。 いなら、ぶちこんでも仕方がない。かれはた・こ、科料を払い、・ほく いいながらも、荒々しく子供 あ ? 子供じゃしようがないよ ! 」と の方を向いた。「おまえはなりたいのかーー・おれたちを殺そうとしを憎み、かれが農作業もできず家を空けている間、家族全体が苦し ているーー・父さんや , ーー母さんの口から。 ( ンを取り上げようとしてむだけだ。そういうことは、納得づくか、かれらのために役に立っ 場合にだけ、やれるものだ。 いるあいつらの仲間に ? 」 オナヘランにあんなこと それに、・ほくは自分の仕事で手一杯・こっこ。。 妻が歩み出て、子供の体に腕をまわし、食卓から引き離した。 「さあおいで、ジャン」彼女はいった。その後、・ほくらが立ち去るをいったが、やはり・ほくの本当の職業は兵隊であって、仕事は入植 者を見張ることではなく、クラハリ人を見張ることであった。そし まで、少年は二度と姿を見せなかった。 いよいよ立ち去る時 : ほくらが家の外で、移動に備えて装備を点て、この仕事は、季節が、十七年周期の満期に近づくにつれて、厳 ・、、ぼくに近寄ってしくなっていった。 検していると、家の階段から眺めていたペランカ ぼくの分隊は食糧。 ( ックを開いて食事に夢中になっていたので、 きた。 「あの子のためなんだ ジャンのためなんだ。わかるだろ、伍近くにいっても気づかなかった。
「ジャン、よせ ! 」・ほくはいった。「出ていくつもりじゃあるまい ! 」る様子に、ぼくは驚いたーーーやがて、かれがジャングルに向かっ かれはばっと抵抗をやめた。 て、たとえ子供の喉でも出すのは無理だと思われる言葉と発音で、 あまり突然だったので、ぼくは一瞬、 トリックだと思った。・ほく大声でしやべっているのがきこえた。二、三分たっと、かれは戻っ を油断させて、またかかってくるのたと。それからよく見ると、かてきた。 れの顔はまったく平静で、虚ろな諦めの表情が浮かんでいた。 「待つって」かれは、こちらに近づいてきながらいった。「不作法 「母ちゃん、死んだ」とかれはいったが、その言葉はまるで墓碑銘なことはしたくないって」 のように、かれの口から流れた。 ール・デュプレを そこで、われわれは、夫は不在のまま、エル、、 ・ほくは用心しながら、手を離した。かれは静かに・ほくのところを葬ったーー夫はその朝、隣人の畑へいっていたのであるーー・・・ジャン 通り過ぎ、戸口から出ていった。だが、かれが外に出た時には、すは涙一つ見せなかった。そして、もし居間の・ ( リケードの前にあの でに部下の一人が、彼女の死体を、クラ ( リ人が剥ぎ取ったカーテクラ ( リ人の死体の山がなかったら、ジャン自身はこの場の出来事 ンで覆っていたので、その姿は見えなかった。かれはそこまでゆに何の関係もないと、・ほくは思ったことだろう。最初・ほくは、かれ き、カーテンを見降ろした。しかし、それを持ち上げて遺体を見よ がショックを受けているのだと思った。だが、そうではなかっこ。 うとはしなかった。ぼくは歩み寄って、何か声を掛けてやろうとし かれは完全に分別があり、正常だった。どうやら、かれの悲しみや た。ところが、かれは依然として不思議な冷静さを保ったまま、先母親の喪失は、ここで起ったことと次元の違うことであるらしかっ に口をきいた。 た。これまた、クラハリ人と似ていた。かれらは、、 しつ、どのよう 「母ちゃんを葬らなくちゃ」かれは、相変らず虚ろな平板な声でい に死ぬかということよりも、な・せ死ぬのか、ということにより関心 った。「あとから、地球の故郷に送るんだ」死骸を地球に送り返すを持っているのである。 としたら、その費用は、全デュプレ農場を売って支払いに当てなけ ・ほくらは墓に目印を置くと、戦闘と退却をくり返しながら、移 ればならないほどだろう。だが、そんなことをジャンに説明できる動を続けたーーーそして、ジャン・デ = プレは・ほくらと並んでよく戦 のは先のことだ。 った。いつぼくの部下になってもいいくらい いや、もっと優秀 「クラハリ 「葬るまで待てないと思うよ、ジャン」・ほくはいった。 だった。なにしろ、・ほくらより静かに移動することができるし、・ほ 人がすぐ後に迫っているから」 くらのだれよりも早く、襲ってくるクラハリ人を見つけるのたか 「いいや」かれは静かにいった。「時間はある。ぼくがいって話しら。かれは例のデ・ハローマー銃を引きずってきている・ーーと・ほくは てくる」 思った。なぜなら、ずっと前から、かれはいつもそれを持っていた かれはデ・ハローマー銃を降ろして、一番近いジャングルの縁の方から。ところが、それはかれにとって、ただの武器にすぎなかっ に歩き出した。・ほ くがかれを行かせるものと、頭から思いこんでい こ。・ほくらのジャングル銃の方が、軽さでも、火力でも優っている 0 7
けた。言葉はかれからこ・ほれ出て、下で聞いている原住民に振り掛れは、身をかためたまま塀の角の階段のところまでいき、それを下 って、日よけの前に戻った。そこで、四面の塀の外側を見るスキャ 8 かったーーそして突然、かれのいっていることが、ぼくにわかった。 一瞬・ほくは、奇跡が起ったのかと思った。だが、奇跡ではなかっナーを、前の・ ( ッテリ】に差し込み、キャンプチェアに腰を降ろ た。かれはたた英語に切り替えただけのことであった。無意識にそし、膝の上にライフルを横たえ、スキャナーを見つめた。 語のリズムに乗せて英語を喋 うなったのは明らかだった。クラハリ かれのスキャナーは、・ほくのと同様、クラハリ人がジャングルの り出したのだ。 中に次第に姿を消していくのを映し出した。かれらが全部いってし 「 : : : おれは人間だ。ここは恐ろしい所だ。母ちゃんはここに留まるまうと、あたりは静まり返った。そして、少し経っと、かれは目を のを嫌がっていた。父ちゃんはここが好きしゃなかった。だが、お拭い、ライフルを下に置き、食物を取りこ 冫いった。今すぐ襲ってこ れを金持にしようとしていたんだ。父ちゃんのペランほどよく働く なければ、当分は大丈夫たと知っているみたいだった。・ほくは木の 者はなかった。おれはここに留まりたくない。おれは地球へ帰る。 上で、坐ったまま後ろによりかかった。頭がくらくらした。 かみ そして、セント・ジョン湖の上に昔からいる人々と一緒に金持にな あの少年が自分で耕した畑を、クラハリ人が歩くように歩いてい るんた。もう、カハリもジャングルも二度と見ないぞ。そして、カた姿が、今になって思い出された。あの場所に一人でいれば襲われ ハリ人はジャングルに戻れ。人間は自分の作物のところから押し出るかもしれないといわれた時のかれの反応や、母親が殺された時の されたりはしないからな。そうとも、おまえたちはそんなことはしかれの反応が、・ほくをとまどわしたことを、・ほくは今にして思い出 ない。この拠点へは入ってこない。な、せなら、おれは人間で、カハ した。今では、かれをより良く理解できた。クラハリ人のいるジャ リ人を中へ入れないからだ : : : 」 ングルは、かれにとって当り前のものであった。なぜなら、これは かれは原地語に戻り、・ほくは意味がわからなくなった。かれは涙かれが知っている唯一の世界たったから。地球は話に聞いた場所に を・ほろ・ほろこ・ほしながら、そこに立ち続けていた。疑いなく、砦を過ぎないが、かれを取り巻くここが、真の世界だった。そのルール 明け渡しはしないそと、クラハリ 語で何度も何度も繰り返し叫んでは人間のルールでなく、クラハリのルールたった。その正常な姿 いるのだった。そして、ついに、前に聞いた文章で、話を締めくくっ は、地球の草と太陽ではなくて、焼け付くような白熱の光と、しだ た。そして、今度は、ぼくにもついに意味がわかった。なぜなら、そと、ウトワードのふやけた土だった。かれは、父親やその他のおと れはひどく簡単だったし、前にも同じことをいっていたからである。 なに、ウトワードと原住民がいかに異質なものであるか、言い聞か 「カハリトトマグナ、マノイ ! 」 「おれはクラハリの兄弟でされると、それを信じたーーーそれらは、かれにとって異質でなく、 はよい、人間だ ! 」 それがかれの知っている唯一の世界であったのに。 そう言い終えると、塀の上から内側の通路に跳び降りて、すぐに そして今、クラハリ人がきて呼びかけた。かれらの仲間に入り、 身をかがめた。だが、弩の矢も、投げ槍も飛んでこなかった。か拠点を明け渡して、兄弟としての生得権を受けよ、「と。そうすれ いしゆみ
はいった。二人はペランのところに戻っこ。。 ナヘランはストルデンマの三の男たちが射ち始めたというべきであった。なぜなら、その他 ィアの状況報告を聞くと、仲買人と息子の両方を罵った。 の体の大軍が波のように、塀の下に押 の者は、黒ずんだ七フィート シし寄せてきて、丸太を立て掛けて、登ってこようとするのを見て、 ストルデンマイアは結局、結論した。「間違いにちがいない、・ 凍りついていたのだから。しかし、残りの四分の三の有能な男たち ャン。きみにクラハリ語がそれほどわかるはすがないからな。いい かい、あの塀に近付いてはいけないそ。お父さんはきみがいないとは、自動コントロール銃のおかげで三倍の火力を持ち、文字通りホ 1 スで水をかけるように、敵に弾丸を浴びせかけた。すると、突 困るんだ。わたしもきみに怪我をさせたくない。あの塀はおとなが 然、攻撃が跡絶え、クラハリ人は逃走した。 守るもので、きみのような子供がいくところではない。いいかい、 突然、朝日の下に、ジャングルは静まり返った。そして、拠点を取 いう通りにするんだそ ! 」 り巻く四方の空き地は、クラハリ人の死骸と、死にかけている者の、 ジャンは従った。ロ答えさえしなかった。信しられぬーーーことた ットに覆われていた。内部では、戦闘員ー・ーーと が、子供の適応性とはそうしたものだ。それがここで、否応なしに証見るも無惨なカーベ 非戦闘員ーーーの中で、死者一名と、いろいろな程度の負傷者五名が 明されることになった。ジャンは本当の自分を知っていた。だが、 父親やほかのおとなたちのいう自分を信じた。もし、おとなたち出た。そして、一番ひどい一人たけが日よけの下の野戦病院に運ば が、おまえはクラハリ語がわからないといい、拠点の塀のところへれた。 く資格がないといえば、それがたとえ全事実に反していても、そ 死んだクラハリ人は、大軍で進行中に、低空の飛行機から殺虫剤 うにちがいないと思うのである。かれは戻ってきて、負傷者たちのを撒かれたいなごのように、ばらばらに、そして、折り重なって倒 ために冷い飲物を取りにいったり、配ったりし始めた。そして、しれていた。周囲のジャングルにいる連中が、負傷者たちのごく少数 ばらくすると、ジャングルの声は跡絶え、太陽は沈んだ。 の者をしだの葉陰に引っぱりこんだ。だが、かれらには医薬品も外 それそれのクラハリ人は、夜間に殺し合うことはしない。それ科の技術もなかった。そして、間もなく、塀の外の原住民の負傷者 で、夜こそ拠点を落すチャンスなのに、暗くなると、自動的に襲撃と、塀の内側の人間の負傷者たちから、一様に声が上がった。間も なく、目には見えす感じでわかるのだが、太陽が昇るにつれて、温 の試みが止んた。だが、翌日の明け方になると、二千人のクラハリ 人が拠点の塀に跳びかかった。 度が上昇した。そして、拠点の周囲に屍臭が漂いはしめ、目に見え 今回は隠密行動ではなかった。そのお陰で拠点は助かった。見張ない第二の塀のように立ちこめた。 塔の上の唯一の哨兵は、下の連中と同様に眠りこけていたのであ こんなことをくどくどと書いて申し訳ないが、実態はこうなの る。砦の男たちは全員、塀に取りつき、手持ちの銃だけでなく、そだ。こういうことはいつも、こんな具合なのだ。そして、ジャン・ れそれの側に一梃すつ自動リモートコントロールで取りつけられてデュ。フレにとって、これがどんなものか、読者諸君に知ってほしい 7 いるライフルを射撃し始めた。いや、そうではなくて、全体の四分のた。七歳の少年で、母親を失い、死に取り巻かれ、一人でそれに
類のどんな男の成人とも、比較したりしてまことに申し訳ない、と人たちも、局地的な襲撃が激化するにつれて、安全地帯にくる人数 いうような表情が浮かんでいた。・ほくはその陰に、かれの父親の一が日を追って増えていった。 しかし、結局、ジャンのいった通りだった。原住民問題が最終段 方通行の、無意識な、粗暴な心を見た。 「まあ」・ほくはかすれた声でいった。「ほとんどおとなだな・ーーそ階を迎えないうちに、この季節は終ったーーそれから突然、一気に 噴き出した。 ういうように、スキャナーとライフルを扱えるんだから」 ・ほくが巡回を終えて、地方施設でシャワーを浴びていると、非常 たが、かれは信じなかった。そんな見えすいた嘘をつく・ほくに、 不信の念さえ抱いたのが、その目からわかった。かれはペランの目呼集がかかった。二時間後、部下を全員引き連れて、ジャングルの 奥深く、ほとんど砂漠の縁まで人りこんでいた。 を通して、自分を見ているのだーーーデ・ハローマー銃、スキャナー それに、クラハリ人と会話する能力があるにもかかわらず。 われわれとしては、戦いながら後退するより手がなかった。クラ リ人の爆発が、この季節の終りまで延び延びになっていたことと もう、先に進む時間だった , ーー・次の入植者のところへいって警告 今日まで、これほど大きな爆発がなかったことには、それなり を与えなければならないから、時間を無駄にできないのた。だが、 語の会の理由があった。われわれがウトワードで経験した種族間社会問題 ・ほくは、さらに二、三分ねばって、かれがどうしてクラハリ 話を覚えたのか、突きとめようとした。ところが、ジャンには説明は、ちょうどおもちゃの風船を半分ふくらませたようなものであっ がっかなかった。どこか成長の過程で、覚えてしまったのだーー。逐た。ある場所を押えて平らにすると、どこかほかがふくらむのであ 語訳の効かない、あの子供特有の無意識的なやり方で。ジャンは英る。成熟途中のクラ ( リ人に及・ほすわれわれ入植者の圧力は、五年 語で考えるか、クラ ( リ語で考えるか、どちらかだった。この季節児、つまりポスト・シニアを、今まで要望の必要もなかったほど、 の終りまで、クラハリ人はなぜ、大集団も作らず、攻撃もしないと団結させてしまったのである。 クラハリ人のこの前の世代以後、十七年間に、われわれ入植者の いったのか、・ほくはかれに尋ねたが、その説明はまったくできなか 数は増加し、今では、切り開いた畑、住居、拠点などが目に付い て、ジャングル王国を夢みるポスト・シニアのクラハリ人にとっ そんなわけで、・ほくは先に進み、人々を説得して歩き、クラハリ 人の大集団に出会えば小・せり合いを演じ、小集団に出会えば追い払て、この邪魔者を無視することはできなくなっていたのだ。 それで、クラハリ人は集団を作らずに、協力して計画を練り、そ 、解散させて歩いた。最後に、・ほくは受持区域の巡回を終り、地 方施設に帰着した。すると、少尉への昇進と、連隊半分の指揮を執れから一夜にして、組織を作り上げた。それは兵力二万から三万の れという命令が待っていた。入植者たちを、家族連れで、防衛地区軍隊ーー軍隊といえぬまでも、一つの略奪団・ーーで、ジャングル中 に引き戻す作業は七割がた成功していたーーーその成功は主に、十七の人間の痕跡を拭い去ろうと押し寄せてきたのたった。 われわれ人間の兵士たちは、かれらを前にして退却した。まる 年以上ここにいる人たちのおかげだった。そして、ためらっていた 7 6
・ほくはそこに近づいていくのを意識していた。このような場合の で、薄い前哨線が、統制の取れない、武器の劣弱な、しかし、止め 難い大軍と対峙したように。あのジャングルの底で、一人一人が悪テクニックを、身につけていたのである。・ほくらはかれの畑のすぐ 6 戦苦闘した。これまで何百回も経験した、個々の小集団との小ぜりそばまでいって、ジャングルから出ずに、立ち止って様子を見た。 合いと、ほとんど違いはなかったがーーー今回は、殺した敵がすぐにそれから、近くにいたクラハリ人を撃退しておいて、ジャングルか 生き返って、また向かってくるように思われた。新手の戦士がいくら踊り出ると、遠いエイカナー星の白熱の輝きの下を、最近耕やし らでも、あとを引き継ぐのだ。突撃し、戦い、後退する。それからて黒く見える畑の向う側の、いくつかの建物めがけて全速力で退却 半時間か、いや、たぶん一時間ぐらい息をついてーーそれからました。 いしゆみ ・ほくらは腹背に敵を受けていた。・ほくらが駈け寄っていく間に た、黒っぽい姿が突撃してきて、弩の矢や槍の雨を降らせる。こ ういう具合に戦闘は続いた。われわれは一人で十人ーーー二十人の敵も、建物のあたりで戦闘がおこなわれていた。・ほくはそのまっただ 中に走りこんだ。背の高い、黒っぽい、裸の、飾り立てた体が渦巻 を殺した。だが、味方の数も少くなっていった。 いしゆみ しまいに、こちらの散兵線が薄くなりすぎた。いまや、味方は一き、わめき声、金切り声が響き、投げ槍、弩の矢が飛びかった。 ール・デュプレは家から引きずり出されていて、・ほくらが行 番外側の入植者の土地に後退しており、もはや連続した前線を作るエル、、 ことはできなくなっていた。それそれ自分の判断で戦い、それそれった時には死んでいた。 の拠点に向かって退却しつつあった。やがて、本当に容易ならぬ事クラ ( リ人は何人か殺されると、ほかのものは逃げ去った つでも、すぐ逃げるのだが、また必らす戻ってくるのだ。ペランは 態が始まったーー今や、われわれに対する突撃は、前からだけでな く、前と左右からくるようになった。味方の兵士はばたばたと倒れどこにも見当らなかった。壊れた玄関から押し入ると、部屋の中は クラハリ人の死体でいつばいだった。その向うにジャン・デュプレ ていった。 が一人きりで、片方がばっくり口を開けた家具のバリケードの陰 われわれは退却しながら拾い上げた少数の入植者たちーー愚かに も、もっと早く立ち退かなかった連中ーーを使って、いくらか隊形に、身をかがめ、隙間からあのデバローマー銃を突き出していた。 を立て直した。そうだ、そうやって、あそこへついた時にはもう手その銃身には、クラ ( リ人につかまれて、ひったくられないよう に、手製の銃剣が二梃熔接されていた。ジャンは・ほくを見ると、ラ 遅れで、そういう馬鹿者をもはや拾い上げることはできなかった。 男ばかりでなく女たちまでも、破壊され、焼けこげた建物の廃虚のイフルを引っこめ、大急ぎで・ ( リケードの端を回ってきた。 「母ちゃんがーー」かれはいった。そして、・ほくのところを通り過 中で、見分けもっかないほど、切り刻まれてしまっていたのた。 : とにかく、そんな具合で、最後に、・ほくと、・ほくの指揮下にぎていこうとするので、止めようとすると、打ちかかってきた 残った三人の兵士と一人の入植者は、ペラン・デュプレの家にたどそれも、だしぬけに、声も立てすに。はっきりした目的意識がある ためか、子供とも思えぬ力だった。 りついた。