入っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年6月号
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1. SFマガジン 1977年6月号

どさまざまな建物が寄せ集まっていて、高さも数階、湖のまわりをの薬はすべて、市阪されているもののようだった。 囲み、さらにその外を木々にとりまかれていた。どの建物も自走路「医者にはみせたの ? で、店舗や学校、オフィスの入ったいちばん大きなドームにつなが「医者フ しいえ。ウィリイ、お医者はね : : : そんなに重い病気じ っていた。そこでおれたちは母の住まいへの方角を知った。湖の上やないって : : : べつに の重層ア。ハートどっこ。 「重くない ? 」八十四歳で。「そんなことあるもんか、母さん」 おれは台所の電話にむかい、かなり苦労して病院を呼びだした。 自走路を使うこともできたが、おれたちは落葉のにおいのする、 二十歳ぐらいの平凡な娘が立体画面にあらわれた。 すてきな冷たい大気のなかを自走路に沿って歩いていった。人々は 横のプラスチック・チュー・フの中を滑るようにすぎていった。おれ「ドナルスン看護婦です」 たちに気づきはしたが、じっと見つめたりはしなかった。 彼女は徴笑を顔にはりつけていた。職業的誠実さをみせているわ 、つけだが、地球じゃあ、みんなが徴笑しているんだ。 ドアをノックしても、母はでてこなかった。しかし、鍵がかカ ていなかった。気持ちのいい部屋で、宇宙船の規準からみれば、す「母をみてもらいたいんですが。母はーーー」 ばらしく広かった。二十世紀の家具がたくさんある。母は寝室で眠「お名前とナン・ ( ーをどうそ」 「ペッテ・マンデラ」スペルを言った。「ナン・ハ っていた。で、メアリイゲイとおれは居間でしばらく本を読んだ。 ーのことです、もちろん」娘は徴笑した。 ふいに寝室から大きな咳こむ音が聞こえてきたので、びつくりし「医療サービス・ナン・ ( おれは母に呼びかけ、ナン・ハーを尋ねた。 た。おれは寝室に駆けよると、ドアをノックした。 「ウィリアムかいフ わたしはーー」咳。「ーー・入っておくれ。来「母は覚えていないと言ってます」 「じゃあ、けっこうです。こちらで調べられると思いますから」 てるとは知らなかったよ : : : 」 母はペッドの上におきあがっていた。明かりがついており、さま娘は徴笑をかたわらのキイ・ホードに向け、コードをうった。 「べッテ・マンデラ ? 」娘は言った。徴笑がいぶかしげになる。 ざまな売薬がちらばっていた。母は蒼白く、皺だらけのように見え 「あなたは息子さん ? べッテさんは八十四歳のはずですが」 母はマリファナに火をつけ、それで咳が静まったようにみえた。 「たのみます。事情を説明してると長くなります。はやく見てもら 「いっ来たんだい ? わたしはちっとも : : : 」 わなくちゃいけないんですよ」 「二、三分前ですよ : : いっから : : : こんな風に : : : 」 「ご冗談おっしやってるんですの ? 」 「ジ、ネーヴで・ ( イキンをつかんじゃったんだねえ。なに、二、 「どういうことですの ? 」寝室から、窒息しそうな咳が聞こえてき 日すればよくなりますよ」 た。「ほんとなんですーー・重そうなんです。お医者をーー・・」 母はまた咳こみはしめた。瓶からどろっとした赤い液を飲む。母「でも、マンデラさんは二〇一〇年以来、優先度はゼロなんです 225

2. SFマガジン 1977年6月号

・チをいれた。メアリイゲイとおれだけがシェルに入っていた。溶操、無意味な作業 ( 強制的な講義ーーーかって訓練兵だった頃のよう の注入と排出はコントロールからでもできるのだから、おれまでな睡眠割りあてが再開されるといううわさも流れたが、そんなこと 0 一エルに入る必要はないといえた。しかし、代理機能性があったほ にはならなかった。暴動がこわかったからだろう。 ノがより安全だし、それにおれはそここ ~ いたかったのだ。 軍の規則の執拗さにおれは困惑していた。それがつまり、おれた いつものときほど悪い気分じゃなかった。おしつぶされ、ふくれちは除隊させてもらえないということを意味しているかもしれない ~ がる感覚がないからだ。突然、身体はプラスチックのにおいのすと思っていたからである。おれは偏執狂だとメアリイゲイは言っ ) フッ化炭素に満たされる ( そいつが肺の中の空気にとってかわろた。連中が執拗に訓練を課しているのは、他に十カ月間も秩序を守 〉とおしよせてきても、最初はそのにおいに気づかないのだ ) 。そしらせる方法がないからなのだ、と。 うわさには例によって軍についての泣き言もあったが、大部分 、ちょっと加速があり、ふたたび空気をすっているって寸法だ。 / ーがひは、地球がどれほど変わってしまっており、除隊後いったい何をす エルが。ほんと開くのを待つ。やがて、栓が抜かれ、ジツ。、 ればいいのかということについての推測だった。おれたちはかなり ソかれ、外へ出て くの金持ちだった。二十六年分のサラリイがいちどきに手に入るの メアリイゲイのシェルはからつ。ほだった。おれがシェルに近づ だ。さらに複利の利子がある。入隊した最初のひと月の給与五百ド 血が眼に入った。 ノが、いまや千五百ドルを超えていた。 「彼女は出血した」ウイルスン博士の声が陰にこもって聞こえてき グリニッジ日付けで二〇二三年の末、おれたちはスターゲイトに おれはふり返った。痛む眼に、博士が備品室のドアによりかかっ到着した。 いるのがうつった。 「予想したとおりだった。ハーモニイ博士が世話をしている。彼女基地は、おれたちがヨド 4 方面作戦に従事していた十七年ちかく 一まもなく元気になるよ」 のあいたに、驚くほど拡大していた。一万人ばかりの人が住む、テ イコ市ほどの大きさのひとつの建物。〈アニヴァーサリイ号〉と同 程度か、もしくはもっと大きい巡洋艦が七十八隻。こいつらはトー ランの住む星の攻撃用たが、スターゲイト自身を守るのは、十隻の それから一週間、メアリイゲイは歩けるようになった。さらに二巡洋艦で、さらに二隻が軌道上をまわって訓練の終わった歩兵や乗 間で〈友愛の結びつき〉ができるようになり、六週間後には、全務員を待っている。戦闘から帰還した〈地球の希望Ⅱ号〉がスター ゲイトで別の船の帰ってくるのを待っていた。 したとの宣告をうけた。 宇宙での長い十カ月。ずっと軍隊、軍隊、軍隊であった。柔軟体〈地球の希望Ⅱ号〉はその乗員の三分の二を失っており、たった三 6

3. SFマガジン 1977年6月号

う愉快な感じを、われわれは常に抱いて、いた。 何か別の感じがっきまとっていた。・ほくはしだの陰にしやがんだま 今や、入植者とその家族をせき立てて、地方施設に人れ始める時ま、その謎を解こうとした。それから、ふとわかった。かれはクラ 期になっていた。それは、かれらの苦情を聞かされ始める時期でも リ人のような歩き方をしているのだった かれらがやるよう あった。後で戻った時に、建物が焼かれていたり、引き倒されたり に、尻から上の体を常に直立させたまま足を振り出し、足の親指の しているとか、耕地の半分はジャングルに飲みこまれてしまってい付け根のふくらみで地面を踏みしめるようにして、用心深く、正確 るとかいうのたがーーーそれは、まったくその通りだった。それはまな足どりで歩いていた。 た、かれらの土地を守るために、十七年毎に地球から軍隊を呼ぶの ・ほくはもっとよく見ようとして立ち上った。その瞬間、かれはば 。いかに実情に合わないかを説明し始める時期でもあった。そしっと地面に腹這いになり、・ほくの前のしだの方にさっとデ。 ( ローマ てまた、われわれはクラ ( リ人の土地の無断借地人であり、たとえー銃を向けた。ぼくの動きが、かれのスキャナーに捉えられたの 可能でもーー・・可能ではなかったのだがーー原住民を絶減させて、惑 だ。ぼく自身も、鉄砲玉のように地面に伏せ、ロ笛を吹いた 星を乗っ取るのは、地球の政策に反する、ということを再び説明しのロ笛というやつを、クラ ( リ人は吹くことができない。かれらの てまわる時期でもあった。都市には何百万のクラ ( リの成人たちが舌と唇の筋肉は、それに適した動きができないのだ。 おり、われわれは技術的に、それほど大勢を相手にするほど優って かれはすぐに立ち上った。ぼくも立ち上って、畑に入り、かれの いるわけではなかったのである。 ところにいっこ。 そんなわけで、。ほくがデ = 。フレ家の土地へきた時には、違った相「おじさん軍曹だね」かれは・ほくが近づくと襟章を見ていった。 「そうた」ぼくはいった。「レインジャー部隊のトウフ・レベンソ 手と何十回も、同し不愉快な議論を繰り返してきたあげくだったの で、もう勘忍袋の緒が切れかかっていた。事実、ここは嫌だった。 ン軍曹だ。この前きみと会った時は伍長たったよ。覚えているかい なぜなら、。ヘラン・デ、プレは頑固な連中の一人たと知っていたか らである。・ほくはゆっくりと接近し、かれの一枚の畑の隅のしだの かれは眉をしかめ、考えこんでいたが、やがて首を振った。一 陰に隠れて、様子をうかがった だが、見えたのはペランではな方、ぼくの方もかれを観察していた。かれにはどこか、おかしなと くて、ジャノだっこ。 ころがあった。たしかにあの少年なのだが、なにか違うものが余計 かれはこちらへ近づいてくるところたった。今度は用心深く、畑に付いているーー・七歳の子供に、その子が今になるはすのおとな の端からたっぷり三十ャード入ったあたりにおり、目の上にスキャ が、かぶさっているように、見えるのた。まるで、未来の成人が、 ナーを引き降ろし、例の古い全目的ラッパ銃ともいうべきデバロー 昔の自分に、自分の影を投げ戻している、とでもいえばよいのだろ マー銃を抱えていた。三年ぶりで見るかれは、背が伸びて、痩せてい うか。その影は、かれのライフルの持ち方に、その立っている姿勢 5 た。今では、おかしいことに母親の方によく似ておりーーしかも、 に、その目に、あらわれていた。

4. SFマガジン 1977年6月号

「神かけて本当だよ。雇用委員会の月面支部に友達がいるんだが楽をやり、小説を書きーーー」おれはメアリイゲイの方を向き、「ス ターゲイトで軍曹が話してくれたようなことをやってみよう」 ね、そいつが指令書を見せてくれた。非常に上品に書いてあったぜ。 「新ルネッサンスに参加しようってのかい」 〈例外はいっさい認められない〉とかね」 弟は抑揚のない声で言い、 パイプに火をつけた。それは煙草で、 「おれが学校をでるころにはーーー」 いい香りがした。 「学校に入ることさえできないよ。資格とか入学割当てとかではね られるさ。それでも入ろうとすると、年をとりすぎているとか言わ弟はおれが空腹なのに気づいたにちがいない。 「ああ、こりやホスト失格だな」 れるだろうーーわたしだって、博士課程は無理だしー・ーー」 「それはわかるが、おれは普通より二歳年上なだけだ」 と、煙草入れから紙をとりだし、煙草に巻いてさしだした。「さ 「そこだよ。あなたたちは、これからの一生を生活保護をうけて暮あ、メアリイゲイは ? 」 「けっこうよーーー話に聞くとおり手に入れにくいものなら、わざわ すか、兵士になるか選ぶんだ」 ざ習慣にしたくないわ」 「選ぶまでもないわ」メアリイゲイが言った。「生活保護よ」 弟はうなすき、パイ。フにまた火をつけた。 おれも同意して、 「とてもたっふりは手に入りませんね。煙草がなくてもリラックス 「五十億だか六十億たかの人が職業もなくまあまあの生活をしてい できるよう、訓練したほうがいいですよ」それから、おれの方を向 けるのなら、おれたってできるだろうさ」 いて、「軍で癌の免疫剤をうってもらったか ? 」 「みんな太っちまってる」マイクが言った。「だけど〈まあまあの 「ああ」 生活〉ってわけこよ、 冫。しかないだろう。大部分の人はただ坐って、マ リファナをふかし、立体テレビを見ている。そのカロリー消費量に 冫。しかない。おれは細し そんな軍人らしくない原因で死ぬわけこよ、 みあった分しか物を食べることができないから、一級生活保護者た紙巻きに火をつけ、 って、肉は週に一回だ」 「いい煙草だ」 「昔からそうさ」おれは言った。 「とにかく、食料のことはそうな「地球で手に入るやつよりはいいさ。月のマリファナも上等だ。そ とにかく、おれとメアリイゲイ うひどくハチャハチャになることもない」 んだーー軍隊と変わっちゃいない。 はぶよぶよになって、テレビばかり見てるなんてことにはならんだ 母がやってきて、腰をおろした。 ろう」 「タ飯はあと一「三分でできるわ。マイケルがまた不公平な比較を 「絵をかくわ」メアリイゲイが言った。 「いちどおちついて絵をかしていたようね」 いてみたかったのよ」 「なにが不公平ですか ? 地球のマリファナを二、三本やると、あ なたは気が狂っちまうんだから」 「博士号はとれなくても、おれは物理の勉強を続けよう。ときに音 幻 9

5. SFマガジン 1977年6月号

メアリイゲイはまだペッドに寝たままで、まだチュー・フを通して にとって特別の人なのね、きっと。でも、他にもたくさんの人が死 栄養を得ていた。おれはやけにカレンダーが気になりはじめた。日 んだわ : : : あなたも死に慣れるべきよ」 コライ・サー おれは飲物を口に含んだ。クエン酸が入っていないこと以外、彼に日に、身体はよくなっていくようだったが、縮潰星ジャンプのた 女の飲物と同じだとわかった。 めの加速に入ったとき、またべッドからでられないようだと、彼女 に生き残る可能性はない。ウイルスン博士からもエステルからも、 「君はひどく冷酷なんだな」 「かもしれないわね。 いえ、ただ現実的なだけよ。わたした励みになるような言葉は聞かれなかった。ふたりとも、すべてはメ ちはこれからも多くの死と悲惨にであう運命にあるような気がするアリイゲイの回復力にかかっていると言った。 突入の前日、メアリイゲイはべッドから診療室にあるエステルの カ速ヘッドに移された。もう正気に戻っていて、ロから食物を摂っ 「おれは違う。スターゲイトについたら、おれは除隊なんだ」 「そんなに確信を抱いててもいいのかしらね」そういった話は聞きていたが、一・五のもとでは、自分のひとりのカで動くことはで あきた。「わたしたちに二年間の兵役に応募させたあの連中は、あきなかったのだ。 おれは彼女に会いに行った。 っさりその二年を四年にもーーー」 ? テトへ戻るにはアレフ 9 を通 「コース変更のこと聞いたかい 「六年にも二十年にも戦争終結までにも変えちまうっていうんた ろ。でも、そんなことしやしないよ、連中は。そしたら、暴動がおらねばならないんだとさ。この牢獄船のなかでもう四カ月だ。で も、地球へ戻ったら、もう六年分の補償がでる」 こる」 「そうかしら。連中はわたしたちの心をいじって、合図ひとつで人「それはよかったわね」 「これからのことを考えて・ーーー」 を殺すように仕立てあげたのよ。それなら、他にもやれないことは 「ウィリアム」 ないでしよ。再志願よ」 そっとしない話だ。 おれは言葉をとぎらせた。嘘をつくことはできない。 そのあと、おれたちはセックスをしようとした。しかし、ふたり「わたしの機嫌をとろうなんてしないで。ね、真空溶接の話をし とも、考えねばならぬことが多すぎた。 て。子供時代のことでも、なんでもいいわ。でも、地球へ戻れるな んて嘘はつかないで」 それから一週間後、おれは初めてメアリイゲイを見舞った。彼女彼女は顔を壁の方に向けた。 はやつれていた。かなり体重が減ったようで、途方に暮れているよ「廊下でお医者さんが話しているのを聞いちゃったのよ。わたしが 5 うにも見えた。それは薬のせいだと、ウイルスン軍医はうけあっ眠っていると思ったんでしようね。でも、その話はわたしが前から 0 考えていたことを確認したにすぎなかったわ。 た。脳に悪い影響は見られないそうだ。

6. SFマガジン 1977年6月号

彼女はいらだたしげな顔になった。「論理的すぎるわ。じゃあ、 センターの壁の一面は総ガラス張りになっている。センターは丘 どうすればいし 、っていうの ? 」 のいただきに立っていて、丘は宮殿へとつらなり、その途中、檻が 5 「きみを迂回してなら、なんとか行けるかもしれないな」スヴェッ 二列に並んでいるところが動物園だ。檻のひとつに、みるまに亀裂 ツはためらっていたが、やがて意を決した。「よし、やってみよう。 が走り、こなごなに割れていく、まるで 以前のジーラが到着する一時間まえの時点に、・ほくを送りこんでく まるで、卵が孵化するように。そして殻から出てくるひょこ れ。自動車はまだ消減していないはすだ。ぼくはそれを複製し、複のように、ロック鳥が、檻の残骸のなかにすっくと立ちあがった。 製を複製し、複製の複製をそこに残して、裏返しの複製とほんもの ふたたび絶叫が聞こえた。 の自動車を大ケージにのせてきみのわきを通過して戻りはじめる。 「なんなの、あれ ? 」ジーラがささやくようにいっこ。 その間にきみは自動車を消失させるが、それは複製の複製た。きみ「ダチョウだったんだがね、もとは。新たに命名する気にはとても の去ったあと、・ほくは再び出現して、ほんものの自動車をそこに置なれないな」 き、裏返しの複製を持って戻ってくる。どうだい、 これで ? 」 鳥の動きは、まるでスロー・ モーションのようたった。それも無 「すばらしく聞こえたわ。わるいけど、もう一度いってみてくれな理からぬことだ ! 緑と黒、美しくもまた邪悪にして、永劫のごと く巨大、そして黄金の羽毛のいただきが冠状になってひたいに芽を 「いい力い。まず・ほくが過去へ ふいている。鉤型にまがったくちばしが、となりの檻にふりおろさ これを見て彼女は笑っていた。「ごめんなさい。でもそれはわたれる。 しでなきゃならないわ、スヴェッツ。あなたは道すじがわからない 檻は紙のように裂けた。 でしよう。道を訊けないし、道路標識も読めない。あなたはここに ジーラが彼の腕をゆさぶっている。「来て ! あれが動物園から 残って、装置を動かしてくれないと」 出たら、わたしたち、悩んでいる必要もなくなるわ。自動車をもと しぶしぶスヴェッツは同意した。 の場所へ戻したときには、窒息しているわよ」 「ああ。わかった」スヴェッツはいった。二人はエクステンション 二人がケージを出ようとしたとき、どこからか、世界の終末のよ ・ケージをさらに二、三時間過去へ戻す作業にとりかかった。 うな絶叫が聞こえてきた。 スヴェッツがつぎに見たとき、鳥はいままさに離陸しようとして 一瞬、二人はぎよっとして身体がすくんだ。それからスヴェッツ いた。翼を帆のようにひるがえし、その黒い影は家々を雲のように は、ケージの湾曲した外壁の側面に走ってまわりこんだ。ジーラもおおった。ロック鳥が完全に視野にはいるところまで上昇したと それに続いた。フォードの自動車を複製するときに着けていた濾過き、スヴェッツは、そのとほうもないツメのなかで何かが身をよじ ヘルメットを着用している。 り、もがくのを見た。

7. SFマガジン 1977年6月号

「ーー彼女のシェルをあけてみると・ーー」 おれは無力感にとらわれて、立ちあがった。 やがて深い傷口となっていたその傷は腹部をくだり恥骨の 「わからん。なにか思いついたのか ? 」 ええ、まだーーー」 「あんた同様、おれも医者じゃないさ」ドアを見つめて、彼は拳を 数インチ上でとまっていたが薄膜をはったような腸がとびだし : ・ もむようにした。二頭筋がビンと張りつめる。「いったい医者はな にしてるんだ ? そのセットの中に変型網板は入ってるか ? 」 アーーわかりました。左のヒップですね。マンデラ 「ああ、だけど、こいつは内臓に使っちゃいけないとーーー」 彼女はまだ生きていた。心臓は動いている。しかし、血の流れる「ウィリアム ? 」 頭はぐったりとたれている。眼は白眼がみえ、浅い息をするたび メアリイゲイの眼がひらいた。頭をあげようとする。おれはすば に、ロの端から赤い泡がうまれては、はしけた。 やくかがみこみ、彼女を支えた。 「左のヒッ。フに刺青があるんだ、マンデラ。さあ、落ちつけ ! そ「だいじようぶたよ、メアリイゲイ。医者はすぐに来る」 ら、彼女の血液型をーーー」 「なにが : : だいじようぶなの ? 喉がかわいたわ。水を」 「 O 型マイナス。ちくしよう : : : 。失し ネーーーマイナスか」 「だめだ、水は飲んじゃいけないんだよ。とにかく、しばらくの間 この刺青はもう一万回も見たことがあるんじゃなかったか ? はね。もし手術をすることになるのなら、水はためた」 ストルーヴが血液型を通信機で知らせ、おれはふいに、・ ヘルトに 「なんで血だらけなの」小さな声で言った。頭ががくんとのけそ 応急処置セットをつけているのに気づいた。そいつをとりはすすとる。「悪い娘だったわ、わたし」 なかを手探りした。 「シ = ルが悪いのさ」おれはすばやく言った。「皺のこと、覚えて しず 〈止血ーーー傷の保護ーーーショッ クを鎮める〉本にはそう書いてあつるだろ ? 」 た。まだ何か忘れてる、まだ何か : : 〈気道の確保〉 メアリイゲイはかぶりを振って、 彼女は息をしているーーーこれが息といえるならば、だが。けど、 「シェル ? 傷口が一メートルちかくあるっていうのに、こんな小さな絆創膏で 急に蒼白い顔がさらに蒼白くなり、弱々しく吐いた。 どうやって血をとめ、傷口を保護しろっていうんた ? ショックを「水 : : : ウィリアム、おねがい」 鎮める。こいつはおれにもできる。おれは緑色のアンプルをとりだ 背後で権威ある声がした し、彼女の腕におしつけ、ボタンを押した。それからおれは、絆創「スポンジか布に水をしみこませてきたまえ」 膏の殺菌してある面をはみだした腸の上にそっとのせた。柔軟な包おれは眼をあげた・ウイルスン軍医だ。うしろにタンカ運びがふ 帯を腰の部分にとおし、締めつけないように結んだ。 たりつきしたがっている。 ふともも 「他になにができる ? 」ストルーヴが尋ねた。 「まず太股に輸血た」博士は誰にともなく言い、絆創膏の下をそっ 田 8

8. SFマガジン 1977年6月号

テ・ハローマるのだと、ずっと想像していた。かれらの目から見れば、これはち と知ると、さっそくーー味方に戦死者がでるとすぐに、・ かれらのこのテスト よっとばかり優越感を覚えるところだった ー銃を放り出して、官給品の銃と取り替えた。 ついに拠点一一四の門にたどりつき、中へ入った時には、・ほくら場に、あんなに遠くから、われわれが自らの若者をテストするため に、わざわざやってくるとは。明らかに、われわれには、他所に、 は三人の兵士と一人の少年たけになっていた。拠点には女はいなか った。拠点は今や、高く、のつべりした塀と、一つの頑丈な門のあこれに匹敵するテスト場がないのだと。もちろん、われわれはかれ る、純粋な、そしてただの砦になっていて、中にいるのは仲買人らにそう思わせておいた」 のですか ? 」ぼくはい と、手遅れにならぬうちに立ち退くことを拒んだ、一握りのこの土「それで、今になって、そのどこが悪い テスト った。「・ほくらは今、確かに試練を受けていますよ」 地の入植者たちだった。かれらは今ここに集まり、ここに留まるつ 「まさにその通り。今回は、おまえたちにテストを受けさせなけれ もりでいた。われわれもそのつもりだった。この避難民たちが、こ つまり成人の連中は、ここで起 ばならなくなった。都市クラハリ、 れからさらに五十キロもジャングルの中を逃げ延びる望みはなかっ っている変化を、とうとう心配し始めたのた。連中はむこうの子供 だから、われわれもおまえたち 門の内側の中庭にジャンと部下を残して、・ほくは地方施設に電話たちに干渉しないと伝えてきた を入れるために、仲買人のオフィスに駆けつけた。輸送機を一台さに干渉しないことを期待するというのだ」 し向けてくれれば、三十分でここに着陸し、入植者も・ほくの部下た ・ほくは眉をしかめて、大佐を見つめた。最初、何をいおうとして ちも全部拾い上げられるはすである。。ほくがニュースを聞いたのは いるのかわからなかった。 「と、 いうと、・ほくらをここから救出することはできないと、おっ その時だった。 理由を尋ねる暇もなく、電話はレインジャー部隊の大佐にじかにしやるのですか ? 」 つながれた。大佐は頭の禿けた陽気な人物で、ぼくは今までに三ロ「食糧さえ送ることはできないのだよ、少尉。もう手遅れなので、 と口をきいたことはなかった。かれは単純明快に、そして、できる今、地球の連中はどうやってクラハリ人に本当の事情を説明し、そ しいか、時間外勤務 だけ優しく説明してくれた。 れに基いて、何らかの協定をどうやって結べば、 この世界に投 ・ジャングル・クラ、リ ノが単一の集団を作るというこの異常事をして知恵を絞っているところだ。だが、その間 の成人と戦 態に、都市クラ ( リが不安を感じ始めた , 大佐は電話から・ほくをま資してある人員と装備には手が出せんーー今、クラ ( リ って台無しにするには、もったいないからな」かれは言葉を切っ ともに見つめて、いった。「おまえも承知しているように、クラハリ 人どもは、われわれがここに連れてきている人間は、われわれの若て、しばらく・ほくを見つめていた。「自力でやってくれ、少尉」 ・ほくは了解した。 者、つまり、クラハリ人の少年に相当する者たちであって、どこか 「はい、大佐殿」結局・ほくはいった。「わかりました。ここを死守 他所にあるわれわれ自身の文明に戻す前に、最終テストをやってい こ 0 7

9. SFマガジン 1977年6月号

「怪獣国探険」表紙 を書いたのたろう。ひょっとしたら、ジョークなのかも - しれないが、 ・ほくには理解できない。 書かれたのがプロジンではなく、ファンジンだから、 なにもそう目くじらをたてなくてもいいような気もする が、、奇想天外と専門二誌に広告をだしている有 カファンジンとなると、相当たくさんの真実を知らない ファンがこれを読んでいるだろう。無責任なことは書か ないでもらいたい。たとえ、ファンジンでも筋道は通し てほしいものだ。現に、電話の例があるのだ。やはり、 誤解をされたくないので、貴重な誌面をお借りして、事 情を説明しておく次第。乞う ! ご許容 ! 〔今月のゴメンナサイ〕 このところ、なんやかやと忙しくて、古典 g-q に関す ◇が編集を降りたのも分かるような気がします。過激る質問などのお手紙をいただいても、返事が書けませ な意見が散見しますが、八割方は・ほくと見解を異にしてん。返信用ハガキ、切手の同封があっても、どうしよう いるのです。とにかくこれだけのことを書いておかないもないのです。 と、社会的に抹殺されそうで気分が落ち着きません。な失礼なやつだと思っておられるかたおいででしよう にしろ熱烈な読者の中には、横田順彌氏のような名前まが、お許しください。余裕ができましたら、返事するつ であるのですから。 もりではおりますが : 。中しわけありません。 、ようのない責それにしても、ビューティ・ペアは、なんであんなに まったく、編集者には不向きとしかいし 任回避の言葉もさることながら、なんで、ここにぼくの人気がでてしまったのでしよう。これまでひそかに楽し 名前がでてくるのかわからない。この文章を読むかぎんでいたのに、あんなになってしまっては、もうダメで り、どう見ても・ほくが、このやたらになんだかビクビクす。ポスト、ビュ 1 ティ・ペアは″ゆりと耕一〃しかあ している編集者を、社会的に抹殺することができるだけりません。 の力をもっているように受けとれる。 よリそれでいいのです。 ″ゆりと耕一知らないでし でも、・ほくには、もちろんそんな力などあるわけがな い。いったい、なにを考えて、この編集者はこんなこと 6 3

10. SFマガジン 1977年6月号

「それで、おまえらレインジャー部隊のつもりか」ぼくはいった。 なで分け合う。一人はみんなのためにあり、みんなは一人のために 「そんなことでは、この周期は生き伸びられんそ」 ある。そして、この年齢では、かれらは文字通り、暴力や利己主義 かれらは跳び上り、申し訳なさそうな顔をした。無邪気なものは、情緒的に不可能な段階にある。 た。・ほくはこいつらを戦闘員に仕立てなければならないのた。 十二、三歳に成長すると、かれらはこの不能状態から脱け出し、 「何の周期ですか ? 」一人が尋ねた。みんなこの前の時は、幼なすジャングルを目指し始める。ジャングルはすぐ目の前に、自分たち ぎて覚えていないのだ。 の不毛の砂原のすぐ隣りにあり、入っていくのをさえぎるものは何 「周期だけじゃない。 クラハリ人も理解しなくてはならん。さもなもない 十三歳から十七歳の、年上のクラハリ人以外には。この ければ死ぬそ。たが、かれらを憎んではならない。かれらのやるこ年頃になると、若いクラハリ人の男性は、五フィ 1 トから六フィー とに悪意があるわけではない。地球にたって、ヒ、、ハロ族がいた。アト半ぐらいに、急激に身長が伸びる。それから、ジャングル生活の マゾン川の首狩り族だ。ヒ・ハロの少年たちは、成長していく間、毎日残りの四年間に、ゆるやかな成長を続ける。そして、ジャングルに 説教された。敵を殺してもかまわないばかりでなく、それは立派な入った瞬間から、他のクラ ( リ人の少年は一人残らす、潜在的な不 ぐたいてん ことであり、名誉なことであり、男として望みうる最も偉大な行為倶戴天の敵となる。ジャングルの中では、食物も飲物も、手を伸ば 自分 なのた、と教えこまれた。この掟は、かれらが生れ育ったジャングしさえすれば得られる。そして、恐れるものは何一つない ルから発生したものたーーーそして、これがかれらの一部をなして、 しの命にしがみつきながら、できるたけ多くの他人の命を奪うこと以 るのと同様に、クラ ( リ人の若者の生き方は、かれらの世界から発外には」 生したものであり、同様に、かれらの一部をなしているのだ。 「クラハリ人の命を、でしよう」一人の隊員が心配そうにいナ かれらはこのジャングルの外の、砂漠のずっと向うの方で生れ「な・せ、ぼくらに手を出すんです ? 」 る。そして、九歳ぐらいまでは男も女も一緒に、蒸気機関の段階を「出してはならない理由があるか ? 喰うか喰われるかだ。かれら 越えたばかりの文明を持っ都市で、育てられる。それから、少女た が、もう少し歳を取り、ジャングルの経験を積むと、十二人ぐらい ちはそのまま留まって、都市生活の雑用を習い始める。だが、九歳までのグル 1 プを作りさえする。そうすれば、一匹狼の者や、小さ のクラハリ人の少年たちは、押し出されて、砂漠で我が身を守らな いグループの者を、やつつけることができるからた。これはなかな ければならなくなる。砂漠では、互いに助け合うか、野垂れ死するかうまい手だーーー自分のグループの仲間に、後ろからやられないよ 、つこ、 という点を別に か、どちらかだ。少年たちはゆるやかな集団、または部族を作り、 冫いつも背中を警戒していなければならない、 このジャングルはだれのもので 三年間、助け合ったりしながら命をつなぐ。かれらの生活は、ほとすれば。ルールというものはない。 んど完全な兄弟としての生活だ。砂漠では、かれらの問題は生きのもないのた。だからこそ、クラハリ人は最初、ここに人間が入植す 3 びることであり、見つかった水の一滴も、食物の一かけらも、みんることに反対しなかったのだ。成熟の途中にある若者たちにとっ