思い - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年6月号
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1. SFマガジン 1977年6月号

から〈地球の希望Ⅱ号〉の上級将校が将来の展望などということをで、地平線上に姿を見せ、ゆ 0 くりと大きくな 0 てい「た。そい 0 しゃべ「た。その間おれたちは熱帯の熱気のなか、我慢強く立 0 ては一見果てしなく続く 0 ぎはぎ細工のキルトの中央、何十本という 道や鉄道が集中しているところに鎮座ましましていた。眼にうつる おれたちは大きな〈リ「プターで国際空港のあるジクスンヴ→その道は、すてきに白い紐で、その上を非常に小さい虫が這「てい ル〈向か「た。その街もシリが言 0 たとおりの外見であ 0 た。こいるのだが、脳はその情報を統合して街の大きさを判断するのを拒否 していた。そんなに大きいことがあっていいものか。 つには感銘をうけざるをえなかった。 最初は孤立した天色の山かと思 0 た。ちょ 0 と不規則な円錘型おれたちはさらに近づいた。上昇気流のせいでちょ 0 と揺れる。 幻 3

2. SFマガジン 1977年6月号

うすれば動かすことが出来るのか : : : そんな手段があるのか : : : そ 度の事柄しか発生していないのを意味していた。 フン、いっか、自分のシートに沈み込むようにして、また眠っして最悪の場合、先住者が残留し滅亡するのにまかせなければなら なくなったら、退避計画をどのように組み直すのがいいか : : : 計算 ていた。 マセは何となく、彼女が往路よりも深く眠っているのではないかし決定しなければならないのである。 という気がして、仕方がなかった。行きのときは、彼のふとした気その覚悟を決めながら : : : 彼は、あのミルル地区の風景や、ミル ル匚の人々のことが、すでに遠い夢のように思えるのを、自覚し 配で目をさましたのに、今は機が降下に移って、少しは揺れてもい ていた。あそこにいた自分は、あそこの雰囲気の中で、いつもとこ るにかかわらず、寝息さえ立てているのである。あるいはランは、 つもと違う意識のとりこになっていた 無事に自分の役目をはたしたばかりか、マセと気楽に話し合えるよとなる感覚のうちにあり、い うになったせいで、行きよりはずっと安心した気分になっているのような気がする。 ミルル地区を発ったあともまだ続いていたのだ。 その気分は、 かも分らない そう。 彼女を起こすのは、機が着地し終ってからでいいだろう。 マセは、思い返すともなく、きようのミルル地区行を思い出して彼は、ランとの会話を、頭の中で反芻していた。 あの会話。 いた。こうして、間もなく司政庁に戻るということになると、やは そのときも、自分はたしかにいつもの自分ではなかったのではな り疲れが出て来る感じである。戻れば、と、先住者たちをど う扱うかについて、検討をはじめなければならない。それがおそらいか。 くは厄介な作業になるであろうことは、彼にはよく分っていた。予ランとの会話で、自分は何度かランに意表をつかれたばかりか、 とも素直にランに応待していたのである。 知能力を持ち、みすから減ぶことを求めているという先住者を、どそれを許し、い 思考の憶え描き金 最吉【鍋博十四色使用変形版価 2800 円 イラスト界のパイオニアが繊細で秀麗なイラストレイションと奔放 なイマジネイションを駆使して織りなす四十二の宇宙改造計画 ! 早川書房 9- 2

3. SFマガジン 1977年6月号

「失礼なことを申しあげるようですが、いちばんの問題点は明々白た。いま彼はメアリイゲイも穏やかににらみつけていた。やがて、 いえ、みんなそうなんメアリイゲイは言葉を続けて、 白だと思われます。わたしの部下たちは 「マンデラ軍曹はべつにいまの状態に不平を言ったのではないとー この船に閉じこめられて、もう十四ーーー」 「くだらん。われわれはみな、狭い生活空間の重圧にも耐えられる よう充分に訓練をうけているではないか。くわえて、士願兵には性「マンデラは、自分のことは自分で言える。君の意見が聞きたいの 的な面でも基本的権利が認められておる」こいつは、すいぶんと徴だ。君の所見がな」 妙な言い方だ。「士官たちは禁欲を続けねばならんのであるが、士 たいして聞きたくもなさそうな口調だ。 気の問題などおこってはおらんではないか」 「はい、今度のことは心理状態のせいではないと思います。わたし 士官たちが禁欲していると小隊長は本当に思っているのだろう たち、、 しっしょに生活していても、べつにトラ・フルは起こりませ か。もしそうなら、ひとっ腰をおちつけて、 ーモニイ少尉ととつん。たた、みんなじれったくなっているのです。毎週毎週おなじこ くりとおしゃべりをすればいいんだ。もっとも小隊長のいう士官てとをするのに疲れきっているのです」 のは兵科将校のことかもしれない。つまり、コーテズと小隊長自身「では、戦闘を切望しているというのかね ? 」 のことだ。となると、禁欲の件は半分だけ当たっていることにな 小隊長の声にはいささかも皮肉つ。ほい様子はなかった。 る。コーテズはカメハメハ伍長とかなり親しいのだから。 「艦から降りたがっているのです。日常的な雜事から逃げたがって 「この件につき、治療専門家は君の心理状態を強化した」と、小隊いるのです」 長は続けて、「いつ。ほうでは、セラ。ヒストたちは憎悪を消去しょ「それなら、艦から降ろしてやらんこともないが」小隊長は機械的 にうすい微笑をうかべて言った。「今度は艦に戻りたくて大騒ぎす うとしておる、・ーーそのことをわしがどう思っているかは、みんなも よく知っとるだろう。セラビストどものやっとることは、ろくでもることだろうよ」 ないことだが、たしかに腕はいし こんな言いあいが長々と続いた。誰ひとり、部下たちが一年以上 ポッター伍長」 にわたって、来たるべき戦闘のことをくよくよ考えこまねばならな と、小隊長は階級をつけて彼女を呼んだ。な・せおれたちといっしかったという根本的事実に言及しようとはしなかった。部下の不安 ょに彼女も昇進しなかったのか、その理由を一同に思い起こさせるはつのるいつ。ほうだったのだ。しかも、いま、トーランの巡洋艦が 接近しつつあるのだーーーあと一カ月して地上での戦闘が始まろうと ように、だ。それから、穏やかすぎる声で、 いうのに、その前に運を天にまかせねばならないとは。 「君も、部下と〈徹底的に話しあった〉かね」 縮潰星のまわりをめぐる惑星を攻撃し、勝利をおさめうるとはと 「討論しました」 小隊長には、人を〈穏やかににらみつける〉という特技があっても思えなかったが、少なくとも、地上で戦うなら、自分の運命を Ⅳ 8

4. SFマガジン 1977年6月号

「彼は爆弾を持っているー りつかもうとするまもなく、夢は消えてしまったのだ。 「わたしは彼の接近を見ていた。そこで、彼がまたわたしの内部に彼が食べ物と水をと 0 ているあいだに、機械はまた話しかけた。 はいらないうちに、彼の爆弾を無効にしておいた。 , 彼の拳銃は、わ「もしへン。フヒルという男が戦略室へ案内しろといったら、彼をそ たしにたいした害をおよ・ほさない。おまえは、たったひとりのバッ こへ連れてゆけ。わたしはそこで彼を捕え、そのあとでわざと逃が ドライフがわたしを征服できると思うか ? 」 して、もう一度やりなおさせる。最後に、、 しくら刺激されても彼が いえ」ほっとして、彼は体を丸め、よりいっそう心地のよい姿戦わなくな「たら、わたしは彼を破壊する。しかし、あの女のいの 勢になった。「わたしの両親の話をして」その話はもう千回も聞い ちは保存しておこう。おまえとあの女は、わたしのためにもっと多 たが、いっ聞いてもいい気分のものだった。 くのグッドライフを生みだすのだ」 「おまえの両親は善良たった。彼らはわたしに身を捧げた。やが「はい ! 」 トライ て、ある大きい戦闘で、バッドライフは彼らを殺した。・ハツ・ それがどんなにいい ことであるかは、考えるまでもなく明らかだ フは彼らを憎んでいた。ちょうどおまえを憎むようにた。もし・ハッ った。ふたりで自分たちの肉体の一部を機械に与えれば、その細胞 ドライフがおまえを好きだといったら、それは嘘をついているのからしだいに新しいグッドライフの肉体が作られるのだ。そして、 だ。すべての / ッドライフは、邪悪で、真実をいわないのだ。 動きの早い腕で彼を罰し損傷したあのヘン。フヒルという男は、完全 しかし、おまえの両親は善良たった。そして、どちらもその肉体に破壊されるのだ。 の一部分をわたしに与え、その二つの部分からわたしはおまえを作 もう一度・ハ ッドライフのところへもどると、ヘンプヒルという男 った。おまえの両親はツ・ トライフによって完全に破壊された。そが大声でいろいろと質問し、罰を加えるとおどかしたので、グッド うでなければ、わたしは彼らの機能しなくなった肉体を保存して、 ライフは頭が混乱し、すこし怖くなった。しかし、グッドライフ おまえに見せただろう。そうできればよかった」 は、機械の計画していることをなにも知らせないように気をつけな がら、彼らに手をかすことに同意した。マリアは前よりもいっそう 「あのふたりの ' ハッドライフは、おまえを探しまわった。い ま、彼優しくなった。彼は機会あるごとに、彼女の体にさわった。 らは休んでいる。眠れ、グッドライフ」 ヘン。フヒルは、戦略ハウジングへ連れてゆけと要求した。グッド 彼は眠った。 ライフはさっそく同意した。わたしはそこへ何度も行ったことがあ 目ざめたとき、彼はいま夢で見たことを思いだした。ふたりの人る。五十マイルの旅たが、高速 = レベ 1 ターを使えばなんでもな 間が、劇場の舞台の上へいっしょに加われと、彼を招いていたの だ。彼はそのふたりが、姿はさっきのパッドライフに似ているが、 ヘン。フヒルはちょっと考えこんでからいった。「急に、えらく協 彼の母と父であるのを知っていた。目ざめかけた心がそれをしつか力的になったもんだな」マリアのほうをふりかえって、「おれはや ー 44

5. SFマガジン 1977年6月号

うために、一艘の・ホートをそちらへ送る」 手でかかえられるほどの大きさだ。勝負の歴然としたこの戦いが始 ヘンプヒルはやり場のない怒りに吐き気を感じた。これまで〈狂まったときから、全乗客は非常脱出用の宇宙服を着けている。 戦士〉の声を現実に聞いたことはないのに、その声は古い悪夢のよヘンプヒルは予備の空気タンクを一つと、だれか高級船員の持ち物 うに聞きお・ほえがあった。若い女も、彼の腕にそえた手を思わずひらしいレーザー拳銃を見つけ、それを宇宙服のベルトの輪にさし っこめたようだった。怒りに我を忘れたヘンプヒルは、振り上げた 両手をかぎ爪のように曲げ、つぎに拳を固めて、もうすこしで舷窓若い女がふたたび彼に近づいてきた。ヘンプヒルは油断なく相手 をなぐりつけようとしかけた。あのくそったれな機械は、おれを生を見つめた。 よりにもよって、このおれを捕虜にー 「そうなさい」彼女は静かな信念にみちた声でいった。たえず空気 捕りにする気なんだー たちまち一つの計画が頭にうかび、なめらかに行動に移された。洩れの音のする暗闇の中で、三人はゆっくりと回転をつづけた。 彼は舷窓にくるりと背を向けた。たしかこの船室のどこかに小型防「そうなさい。ポート一艘でも壊せば、むこうの力はいくらか弱ま 御ミサイル用の弾頭が置いてあったはすだ。前に見たおぼえがあって、つぎの戦いに役立つわ。どのみち、わたしたちが助かる見込 みはないんだもの」 さっき彼に口をきいた男は、この客船の航行士で、ずたすたに裂「うん」へン。フヒルはわが意を得たようにうなずいた。この娘は、 なにが重要かをわきまえている。それは〈狂戦士〉に痛手を負わせ けた制服を血に染めてゆっくりと死に近づいていたが、ヘンプヒル が残骸の中でなにをしているかに気がつくと、それをさえぎるようること、うち壊し、焼きはらい、最終的にとどめを刺すことだ。そ れ以外のことは問題ではない。 に彼の前へ漂ってきた。 ヘンプヒルは重傷の航行士を指さし、彼女にささやいた。「やっ 「それはいかん : : : むこうのよこす・ホートを破壊できるぐらいがせ きの山 : : : かりにむこうがそんな隙を見せたとしても : : ほかにもがおれの計画の足をひつばらないように、気をつけてくれ」 娘は無言でうなすいた。〈狂戦士〉に話を聞かれてはまずい。こ まだ : : : 生存者がいるかも : : : 」 男の顔が〈ン。フヒルの前にさかさまにぶら下ったかたちで、二人の部屋の壁を使ってしゃべれるなら、逆に立ち聞きすることもでぎ は宙に浮かんでいた。やがてそれそれの動きがおたがいの向きを変るだろう。 「ポートがくる」重傷の男が、穏やかな、淡々とした声でいった。 え、正位置で顔を見合わしたのもっかのま、傷ついた男は諦めて口 をつぐみ、もう死んでしまったようにぐったりとなって、回転しな 「グッドライフ ! 」機械の声が、例によってシラブルを一つすっ区 がら遠ざかっていった。 弾頭・せんたいは大きすぎてヘンプヒルにも扱いきれなかったが、切りながら呼びかける。 化学爆薬のはいった信管だけをそこから抜きとることはできた。片「はい ! 」彼はぎくっと目をさまし、急いで立ち上った。飲料水の こ 0

6. SFマガジン 1977年6月号

るんだとさ」 おれは肩をすくめて、 「クソ、そんなのはすっと先のことだって話でしたがね」 「〈スターゲイト〉ってのは、特別なんだよ。あの星でもっとも可 「新しい事態がおこったのだろうよ。艦長がなんか思いついたのか能性の高い射出角をカ・ ( ーするだけでも、七、八隻の巡洋艦を常時 もしれんよ」 運航させなくちゃならないんた。おれたちには〈スターゲイト〉以 「艦長のクソッタレめ。これからラウンジへいらっしゃいますか外の縮潰星をカバーする余裕はない トーランにもない」 「よくわからないわ . 無言でカップにソヤを満たした。「もしかし 「ああ」 たら、わたしたち、彼らにとっての〈スターゲイト〉を偶然に見つ 「こっちへ来るとき、一杯もってきてもらえませんか。砂糖はごくけてしまったのかもしれないわね。それとも、トーランはわたした 少しでけっこうですー ちより十倍も多く船を持っているのかもしれない。百倍かも。そん 「いいとも、二十分ばかりしたら行くよ」 なこと、誰にもわからないけど」 「たのみます。じゃあ、連中を狩り集めます」 おれはふたつのカップにソヤを満たし、砂糖を入れた。ひとつに 大豆をもと みんなはゾロゾロとソャ ( 封をする。 ) の配給機に近づいていった。 にした飲料 おれもポッター伍長のうしろに並んた。 「そう、それを知る方法はない」 「どう思う、メアリイゲイ ? 」 高重力でソヤがとびちらないよう注意しながら、おれたちはテー 「わたしはただの伍長たわ、軍曹。わたしなんかどうなったってー ・フルに戻った。 「シング少尉ならなにか知ってるわ」メアリイゲイが言った。 「おい、まじめなんた」 「かもしれん。でも、奴と連絡するにはロジャーズとコーテズをと 「いいわ。そんなにやっかいなことじゃないと思うの。もう一度、おさなくちゃいけないんたそ。いまそんなこと言いだしたら、コー わたしたちにシェルを試させようと思いついたのかもしれない」 テズに怒鳴られちまう」 「実戦の直前だってのにかい ? 」 「わたしならシングと直接連絡がとれるわ。わたしたち : : : 」彼女 「うーん、かもしれないでしよ」彼女はカップをとりあげると、フ はおれを厳粛な眼で見つめ、それから、小さなえくぼをつくって、 ッとカップの中に息を吹きこんだ。心配そうにみえた。眉と眉の 「わたしたち、友達ですもの」 間を二分するように小さな皺が一本きざまれている。「それとも、 おれはやけどするように熱いンヤをすすり、無関心をよそおおう ト 1 ランの宇宙船がすっと遠くでわたしたちを待っていたのかもしとした。 れない。わたし、不思議に思うんたけど、連中はなぜわたしたちが「水曜の夜、いなくなったのは、そのせいか ? 」 〈スターゲイト〉でやってるようにやらないのかしら ? 」 「わたしの勤務当番表を調べに行ったのよ」彼女は言い、微笑をう コラ・フサー

7. SFマガジン 1977年6月号

「それはおまえでしよ。慣れていないんだから」 ますが、その皮膚は、とかげのように、でこ・ほこがあり、皺が多 「はいはい、子供は母と言いあいをすべきじゃありませんからね」く、 色は淡いオレンジです」 「母親が正しいときは当然ですよ」母はおかしなことに、少しもユ 解説者「どんなにおいがしました ? 」においだって ? ーモラスでない口調で言った。「さあ、子供たちはお魚が好きかい おれ「さつばり見当がっきませんね。宇宙服を着ると、かげるの は自分自身のにおいだけですから」 おれたちは、どれほど空腹かしやべった。あぶなげのない話題解説者「ははあ、わかりました。わたしが申しあげたいのはです 」。それが数分っづいたあと、おれたちは米の上にのせられた、焼ね、軍曹、どんな感しがしたかということですが、 トーランを見て た大きなフ = ダイを前にしていた。この二十六年間で、おれとメの第一印象は : : : 恐か 0 たですか、吐き気がしましたか、腹がたち , リイゲイがいっしょにとる初めてのちゃんとした食事だった。 ましたか、あるいは他になにか ? 」 「そう、恐かったですね、最初は。そして吐き気がしました。おも に恐かったんですが、それは戦闘のはじまる前、ひとりのトーラン 8 が頭上を飛んだときのことです。実際に戦闘がはしまっちまいます 翌日、他の連中同様、おれも立体テレビのインタビ、ーをうけと、心理操作のためにーー・おれたちは地球で憎悪をうえつけられて ~ 。それはつまらぬ経験だった。 いて、ある言葉を聞くと、憎悪がわきあがるんです。で、おれは人 解説者「「ンデラ軍曹、あなたはでも 0 ともたくさん勲工の憎悪以外、あまり感じないというわけです」 ~ をおもらいになったひとりですが」それは本当だった。おれたち「 トーランをひどく嫌ったわけですかーーーまったく慈悲もみせす」 」みな、スターゲイトで手にいつばいの勲章をもらっていたのだ。 「そうです。皆殺しです。まあ、奴らが反撃してこなかったせいも ・あなたはあの有名なアレフ・ゼロ方面作戦に参加され、トーランありますけど。でも、催眠状態からもとに戻ったとき : ・ : ・えー、お 」初めて接触なさり、ヨド 4 攻撃から帰還なさったわけですね」 れたちは自分がこんなにすごい虐殺者だとは信しられませんでし おれ「正確に言えば、攻撃はーー」 た。十四人が気ちがいになり、残る者も何週間も精神安定剤を服用 解説者「ヨド 4 のことをうかがう前に、視聴者のみなさんも興味せねばなりませんでした」 」もっていらっしやると思いますので、 トーランについてのあなた 「それはそれは」相手は心ここにあらすといった調子であいづちを 一個人的印象をお話しいたたきたいと思います。あなたは面と向か うち、ちらっと横手を見た。「あなた自身は何人殺しましたか ? 」 てトーランにぶつかった数少ない人類のおひとりですからね。ト 「十五人か二十人かーーーわかりませんね。さっきも言ったとおり、 ・ランは恐ろしい格好をしていたのでしようね ? 」 戦闘中のおれは自分ではなくなっているんですから。あれは大虐殺 おれ「あー、そうです。写真をごらんになったこと、あると思い でした。 トランライザー 2 20

8. SFマガジン 1977年6月号

な作用をするのたろうか。 表情が消え失せてしまっていた。声も単調でぎくしやくしている。 スヴェッツは彼女の腕をんた。「ジーラ、われわれはーー」 これがパラドックスの付随効果でなければいいのだが。よもや、 。ハラドックスがジーラのケージをはじきとばして、彼女を過去に立彼女はそれをふりはらった。「なんとかしなきや、わたしたち。 自動車が消えたのよ。聞いてるの、あなた ? 」 往生させたり、別な蓋然世界に送りこんたり、あるいは : 「きみこそ、・ほくの話を聞いてないのか ? ケージのなかへ戻るん これまで一度も時間のパラドックスはなかった。 数学ではだめだ、役に立たない。タイム・トラベルの数学は特異た ! 」 「でもなんとか対策を立てないと。ねえ、どうしてなにも匂いがし 性たらけの判じ物なのだ。 去年、だれかがエクステンション・ケージの進路のトボロジー的ないの ? 」彼女は空気のにおいを嗅いだーーー無臭の、空虚な、死ん 分析を試みた。その結果はというとーータイム・トラベルが不可能だ空気を。当惑してあたりを見わたし、そしてここではじめて、す なばかりでなく、光より速く移動することもできないと、論証されべてがどれほど異常なのかに気がついた。 たのたった。これを聞いたラーチェンは、超光速宇宙船の運航を中と、両眼がつりあがって白限をむいてしまったので、スヴェッツ 止させることができるかもしれないと、万にひとつの願いをこめは一歩踏みだして彼女を抱きとめた。 て、このニュースを宇宙研に故意に漏らしたものたった。 どうすればいいのか ? 全員に濾過ヘルメットをかぶせてまわる ケージいつばいにのびて横たわる彼女の寝顔を、彼はつくづくと か ? 妙案た。たがヘルメットはセンターには置いていないから、 ながめた。おきているときの顔とは大違いだ。ずっと柔和で、繊細 町の向う側まで出なくてはならない。センターをこのままにして出た。そしてかわいい。 ジーラはじつに可愛い顔をしている。 かけてよいものかどうか ? 「きみはもっといつもリラックスすべきだな」彼はいった。 スヴェッツははやる心をおさえつけてすわりこんだ。 ダチョウに蹴られた肋骨がビクッと動いた。痛みが心臓のように 脈を打っている感じだ。 数分後、空気の置換されるポンという音に彼ははっと身がまえ ジーラが眼をあけた。彼女はたすねた。「どうしてわたし、ここ た。小ェクステンション・ケージが帰還したのだ。円形の出口からにいるの ? 」 ジーラがはいでてくる。 「ケージは独立した空調システムを持っているからさ」スヴェッツ 「なかへ戻れ」スヴェッツはどなった。「はやく ! 」 はいった。「そとの空気は呼吸できないんだよ」 「あなたから命令されるすじあいはなくってよ、スヴェッツ」彼女「どうして ? 」 は彼をおしのけて周囲を見わたした。「自動車が消えてしまったの 「きみの話が先た」 よ。ラ 1 ・チェンはどこ ? 」ジーラの顔はショックと極度の疲労で彼女の両眼がみひらかれた。「自動車 ! 消えちゃった ! 」 2 5

9. SFマガジン 1977年6月号

してこの本がそれを認証するようにしたてあげる。嘘かまことか、 朝の二時頃、彼らは意気沮喪し、逆上していた。 「だれも発明しちゃおらんのだ ! 」ラー・チェンがうっぷんを爆発だれに違いがわかるかね ? 」 「でももしだれかが同じ調査をしたらーー・あ、そうか。同じ答えが 「いつのまにかできあがってきたのさ、自動車は ! 」 させた。 えられるわけか。正解はなし、ってわけですね。フォ 1 ドとは、な 「ずいぶん広い範囲を調べたんですものね」ジーラも同意した。 かなか目のつけどころがいしほかのに劣らず」 「蒸気自動車なんて、見つけてきたってしようがないでしよう。だ から、キュノーやトレヴィシック、それにのちのイギリスの大型蒸「あら、最高よ、せんさくさえしなければね」ジーラは満足げにい 「ただ困ったのは、型にするわけにいかないことねーーあ 気自動車は除外できるわね」 「なんにしろ、除外できるとは、科学・ハンザイだ」 れだと、はるかに自動車らしいんだけど。こんなんじゃあ、まるで スヴェッツがいった。 「いちばんの狙い目は、フランスのル / ワ 乳母車に毛のはえたようなものじゃないの、たしかにフォ 1 ドの一 号車にはちがいないけれど。これ、中古のパイプで作ったそうよ」 ールと、ウィーンのマルクスみたいですね。そのほかには、まあ、 ダイムラーとべンツもいい線をいっているし、セルデンの特許も年「まさか」ラー・チェンがいった 代的にはわるくない 翌朝おそく、ラー・チェンは最後のこまかい指示を与えた。 「くそっ、どれでも、 しいからひとっ選びだせ ! 」 「ちょっと待って、所長」ジーラだけはいくらか、表面的にもせよ「すんなり取ってくるというわけにはいかんそ」彼はジーラにいっ 「このフォードっていうのが、いちば た。「もしじゃまがはいったら、手ぶらでもいいから戻ってこい」 冷静さをとりもどしていた。 んよさそうよ」 「はい、所長。でももっとあとの時代、たとえばスミソ = アン博物 「フォードが ? どうして ? 大量生産のシステムを発明しただけ館に展示されているのを複製するようにしたら、そんなに切羽つま ったものじゃなくなるんですけど」 じゃないか」 ジーラは一冊の本をとりあげた。スヴ = ツツもそれに見おぼえが「自動車というのは、新車でなきゃならんのだよ。おい、しつかり あった はじめのほうで読んでいた自叙伝だ。「この本によるしろよ、ジ 1 ラ ! 事務総長に中古車を献上するわけにはいかんじ と、フォ 1 ドはすべてを一身に引きうけ、独力で自動車産業をつくやよ、、 りあげたらしいわ」 「ええ、所長」 「でもそれが真実でないってことは、明らかじゃないか」スヴ = ッ「午前三時ごろきみをおろす。照明には赤外線を使えーー視覚変換 ツは抗議した。 用の錠剤をのんでおけ。可視光線は・せったいに見せるなよ。人工光 ラー・チェンが、右手で押しとどめるような格好をした。「そん線はおそらく彼らをひどくびつくりさせるだろうからな」 なに先走るんじゃない。われわれはフォード の車を手に入れる、そ「諒解」 3 4

10. SFマガジン 1977年6月号

モ = ター・スクリーンを眺めていられたらどんなにいいだろうと思「。ヒノキオを連れてゆけ「おまえは自分が行きたいのだろう、それ った。泥の中からわずかに顔を突きだして、こんなところに突った から二九一〇の分隊も連れて行きたいのだろう」 っているより、どんなにいいだろう ( 彼らは、エ・ ( 1 グレイドの実彼は二九一〇をちらりと見た。「おまえの分隊員数はそろってい 験で、カニのように細い軸の先についた眼を試作したが、軸が茸瘤るか ? 」 に浸されてしまい 二九一〇は、「はい、そろっています」と言いながら、感情を顔 彼の願望に応えるかのように二九〇〇がさけんだ ) さあ元気を出にあらわさぬように努めた。彼はこう言いたかった、巡察なんぞに せ、二九一〇。司令部にくるようにと主が望んでおられる」 行く必要はないんだ。おれは、おまえと同じ人間だそ、カイル、巡 彼が主というとき、それは神だった。たが二九〇〇はカイル中尉察は、試験管の中で育てられたものがやるんだ、金属の骨格に肉付 のことをいっているのだ。二九〇〇が小隊長であるのは、疑いもなけをしたものが、家族もいなけりや、幼年時代もないものが。 くそのためだ。それと端数のない数のばかげた威光によるものだ。 おれの仲間のようなものが。 彼は壕からはいあがると、二九〇〇のあとについて司令部へ行っ彼はつけくわえた、「われわれは中隊じゅうもっとも幸運な分隊 た。連絡壕が必要なのだが、まだそれを掘っている時間がなかった。であります。 プレナーはテー・フルの上のだれかを ( 二七八八か、似ているよう「よし。幸連がつづくように祈るそ、二九一〇」カイルの注意は二 だが確かめようがない ) 抑えていた。おそらく手りゅう弾からとび九〇〇に戻った。「鳥コプターで木の枝の下をすっかりしらべた。 だしたりゅう散弾にやられたのだろう。プレナーは彼らが入ってい鶏のように木のまわりを歩かせはしなかったが。何もいなかった。 っても顔をあげなかったが、攻撃がたっぷり十五分前におわったとそれゆえおまえたちは安全だ。臼砲の射程内から出ぬように、キャ いうのに、その顔はまた恐怖で真蒼だった。彼と二九〇〇は・ンプ内をくまなく巡回せよ、 ・マンを無視して、カイル中尉に敬礼した。 二九〇〇と二九一〇は敬礼し、回れ右をすると、足並をそろえて 中隊長は微笑した。「休め、おまえたちの区域には退出した。二九一〇は頸部に脈搏を感じた。歩きながら両手をそっ 被害はなかったか ? 」 と曲けたり伸ばしたりした。二九〇〇がきいた、「やつらを捕捉で 二九〇〇よ、つこ、 をしナ「はい、ありません。軽機関銃が、三小隊のきると思うか ? 」そうくのは彼にとって気休めにすぎないー・ー答 うちの一小隊を、ここにいる二九一〇が残る二小隊のうちの一小隊を予期した安易な友情。 を撃退しました。本隊前面の攻撃は、たいしたことはありません」 「そういえればいいですが。司令部は〈鳥〉とそれほど長くいっし カイル中尉はうなずいた。「おまえの小隊はいまのところ楽だか ょにいたわけではないから、敵の主力が射程内から後退したという 3 ら、けさは巡察を命する」 以外は何も確かなことはわからないと思います。そうあってほしい 0 「ありがとうございます」 です」 ラ