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検索対象: SFマガジン 1977年6月号
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1. SFマガジン 1977年6月号

っぷりあって、核戦争はある程度行きづまった。核無効装置の発明ただの軍医なのだ。ヒンズー教徒とか婆羅門僧とか、そういったも がそれを決定的にした。そこでまた歩兵の登場となったわけた」 のとは、まったく関わりない。その名前は、二、三年前まだこの技 9 「わかってます、わかってます」 術が開発されてまもないころ、ある新聞にのった記事から始まっ 「たが敵は数において優っていた。今でもそうだ。何百万、何千万た。記者はその中で、軍医が戦死者を再生し、戦闘に復帰させてい のロシア兵、中国兵 ! こちらも戦闘員をふやさねばならん。最る事実をすつばぬいた。当時はかなりのセンセーションを巻きおこ 低、現状の数は維持しなければならん。だから死者再生技術が開発したものた。記者は = マスンの詩を引用した。詩はこう始まる された」 「それはわかってます。いいですか、曹長、味方が勝ってほしいと たとえ赤い人殺しが殺したと思おうと は、わたしも思っていますよ。何がなんでも勝ってほしい。わたし また人が殺されたと思おうと はよい兵士であったつもりです。しかし三回も戦死してーーー」 その徴妙なちがいは彼らにはわからない 「問題はだ、赤軍もまた死者を再生しているということだ。前線に わたしは動き、去り、ふたたび現われる おける人的資源の確保は、もっか最重要問題となっている。この数 カ月のうちには、。 とちらにころぶにしても結果が出るだろう。だか そういうものだ。たとえ敵を殺したと思っても、相手が死んだま ら、生きるの死ぬのということは、このさい忘れたらどうかね ? までいるか、あくる日塹壕から射ち返してくるか、決して予断はで こんど戦死したら、放っておくと保証する。今回は見のがしてくれきない。また自分が殺されても、死んたままでいられるかどうかは んか ? 」 わからない。エマスンの詩の題名は「梵天」、そこで軍医たちに・ハ 「監察官に会わせてください」 ラモンの名が冠せられたわけだ。 「そうか、兵卒」やさしい曹長さんは、あまりやさしくない声でい 生きかえるのも、はじめは悪い気分ではなかった。あの痛みを通 った。「では、三〇三号室へ行け」 らなければならないにしても、生きているのはいし 、ものだ。たが殺 され、再生され、殺され、再生されるうちに、、、、 ししカげんにしてく 三〇三号へ行った。そこは副官のオフィスで、おれは待たされれと思うようになる。お国のために何回死なねばならないのか、死 た。こんな騒ぎをおこしている自分に、ちょっとやましい気がしんだほうが気持よく休めるのではないか、そう考えるようになるの た。とにかく、 だ。そして大いなる眠りが恋しくなってくる。 いまは戦時なのだ。だが腹だちはおさまらなかっ た。戦争の最中であっても、兵士に権利はあるはすだ。くそ・ハラモ 当局もそのあたりは心得ていた。たび重なる再生は、士気に悪影 ソどもめ : 響を及・ほす。そこで再生は三回までと決定された。三回目の戦死 考えてみると、彼らの名前の由来というのもおもしろい。連中はの前に、配転か永久死かの選択ができるのだ。当局が望むのは死

2. SFマガジン 1977年6月号

のごろ、古いけってしまった。・ほくが母にせがんだのか、母のほうか ′仲間たちら連れていってくれたのか記憶がはっきりしないが、こ が、界かの映画などかなり今日の・ほくの存在に影響を与えている ら足洗ってい のであろう。一ペ 1 ジ一ページを、ノスタルジイにした くケースがリ りながら読む。 」【、一 ~ 常に多い。残 , を】念でならな三月〇日 『ドグラマグラ』を読みながら、駅の階段を歩いていて 米田氏は、 つまずく。ひっくり返って、右ひざを強打。家に帰って ・ほくにあずけ調べてみると青くあざができていた。「こてん古典」の ればコレクシ〆切日、明後日に迫る。さあ、どうしよう " " ョンを死蔵す ることなく、 三月 x 日 , , 界に役立埼玉県所沢市の竹内学さんというかたから、一冊の古 ててくれるか書を送っていただいた。昭和二十三年、明々社という出 ・・ . 第らという。そ版社からでていた冒険科学文庫の一冊で、伴大作『怪獣 、・一。〕れはそうた国探険』。 ・ほ / 、 A 一 1 レ ゴジラを思わせる大恐竜が、少年を食べようとしてい ては、彼の研究成果発表を待ち望んでいただけに淋しる、いかにも紙芝居ふうの絵がなんともいえない。 たぶん、 O ・ドイルの「ロストワールド」の翻案では チ ス ないかと思って、パラバラとめくってみたら、やはり、 そうだった。ドイルとウエルズの「世界文化史」を参考 三月 x 日 にしたと書いてある。 会社の帰りに、ふらりと立ち寄った近所の古書店で、 そういえば、これまでに、日本でドイル、ウエルズ、 昭和二十五年に公開された ( 日本での公開は翌二十六 年 ) ・・ ( イゾライン原作のアメリカ映画「月世界ヴェルヌらの作品は、いったいなん種類の作品がなん回 征服」を絵本化した『月世界旅行』 ( 昭和二十六年、新ぐらい新訳されているのだろう。・せひ、一度調べてみた いとは思うが時間がない。誰かやってくれる人はないも ・】の潮社刊 ) を入手。 界 小学生のころ、母に連れられて地方の三流館に観に行のだろうか ? ああ、もう原稿まにあわない " 【 った記憶がよみがえってきて、なんともいえぬ感慨にふ 4 3

3. SFマガジン 1977年6月号

はこれもはなむけの手紙と思い込んで、ナップサックに丁寧にしまとだった。申請その物は一点非の打ち所もないのだから、新任の大 い込んでしまった。彼はヘイスティングズや他の者に向かって、皆尉の来ることがあれば、きっと認可してもらえるさ、とも言った。 ヘイスティングズは封筒を持って大尉の許を辞し、軍歌を歌いな の示してくれた好意には感動した、戦局が進んでから自分の配属区 がら自分のテントに戻ると、テントの杭をキチンと打ち込みはじめ 域にやって来る者があれば、親しくどうなっているか聞いてみたい、 たが、全部がしつかり埋まる頃には、恐ろしい予感に心を捉われて と言った。こういったことが一通りすむと、前任の大尉は肩越しに、 中隊から得た経験は一生忘れないよ、と言いつつテントに潜り込んいた。大尉に会おうと戻ってみると、士官用の便所に行っていると た。中隊の者は、入り口を閉じた大尉のテントに徴笑みかけ、ポー わかり、その外で待っていると、やがて大尉が出て来た。ヘイステ ( この日、中隊は森にいたのた ) カーをやりに散って行った。 イングズは大尉に、司令部か新任の大尉かが、この申請を冗談たと ヘイスティングズもポーカーに加わるつもりだったが、それでは思わないでしようか、と尋ねた。私の立場からでは物が言えないが、 いけない、もう一押ししておかなくては、と思い直し、うやうやしく概要から推測する限りではおかしいところはまったくないし、きわ 大尉のテントに潜り込むと、大尉は寝床の上で胎児のように丸くくめて真摯で適切だと思う、と大尉が言った。大尉殿にはそう思ってい るまっていたので、これに向かって、いくつか説明しておかなくては ただけるかもしれませんが、結局、先頭を切って戦いに加わっていた ならないことがありまして、と話しかけた。ヘイスティングズは大尉方でもあり、司令部の方は、切迫した事態が目にはいらないかもし に、先ほどお渡ししたのは保養休暇の申請で、はなむけの便りではあれません、とヘイスティングズが言った。大尉は、司令部には思い りません、と言った。これを聞くと、大尉の両脚がポールのようにやりのある人が一杯いるし、私自身の転属申請を許可してくれた人 丸まっていた体から跳ね出て、大尉はヘイスティングズに、すいぶ達もそういう人達なんた。必要な手段は理解している人達たと信し ん思いやりがないじゃないか、と言った。ヘイスティングズは、そてもいいんじゃないか、と言った。ヘイスティングズが、下士官兵 れはそうかもしれませんが、本当に病気なので、と言い、申請の大に対しては偏見があるかもしれないという意味のこの場に不適当な 要を説明した。大尉は一心に体を丸めてくるまると、考え込み、おことを言うと、大尉の顔が鮮やかな緑色になり、まだ便所で用事をす まえを軍法会議にかけてやる、と言いたした。大尉は陽気になってこませていないのを急に思い出した、と言った。ヘイスティングズは、 う付け加えた。自分は今では法律上、中隊の指揮を任されておらん中に追いかけて行くことは勿論できす、二時間待っと大尉が出て来 のだから、おまえは部外者に機密事項を洩らしたことになり、営倉に たので、この問題を続けて話そうとした。ところが大尉は急いで立 入れられてもおかしくないんたそ、と。そこでヘイスティングズがち去りながら、おまえが何のことを言っているのかさつばりわから 跪き、大尉に、正式にはどうしたらいいのでしようかと、尋ねると、ん、その申請とかいうものすら知らん、実際一度も聞いたことがな 大尉が言うには、まったくわからんね、たたおまえが申請を撤回す い、と言った。さらにこうも言った。考えてみると、ヘイスティング れば、こちらも譲歩して、軍法会議の手続きをやめてもいいとのこ ズという男も知らんし、絶対に一度も会ったことがないと気づいた 26

4. SFマガジン 1977年6月号

奪取したら戦闘をやめないように注意しておきたい、と声明した 。その上、ヘイスティングズの事情は、快方に向かうよりむしろ ) だ。戦争の目的は森を越えるものである。イデオロギー上の争点悪化の一途をたどっている。この件について話そうとしてヘイステ 5 ) 局地的勝利にも関わるので、一カ月の猶予を与えるから中隊は衿イングズが大尉を訪ねるたびに、大尉は逃げ出してしまうのだ。大 亠正して新たな手順を身に着けるように、というのだ。と同時に、 尉は曹長に対して、ヘイスティングズが無責任に問題から逸脱した 〕長に地雷原の話を聞いても信しようとせず、夜間、兵隊に黒っぽ行動をとっているということを本人に自覚させてほしい、と語って 。服装をさせ、その区域を検査させた。地雷は、二十年たっても爆 いたという。この話を聞かされても、ヘイスティングズには、格別 R するという評判た、と言いはるのだ。曹長は、もう二十年どころに心の慰めとはならなかった。私の行動は無責任じゃありません、 、はないと指摘したが、大尉は、そんなことは間題ではない、い っと大して興味もなさそうに聞いている曹長に言った。むしろ、とっ ) も爆発するのだ、という。さすがの曹長も、手のつけようがなか くり考え抜いた上での行動です。中隊の為を思えばこそ、休暇を取 》た。しかも、こういったことだけでなく、噂によれば士官たちにろうとしているんです。曹長は、おれにもよくわからん、おれは四 ( しては内々で、全面勝利方針について語り、この土地の外まで持度の戦争を経験してきた、八回の局地戦を勘定に人れなくてもな、 0 出されてこそはじめて、この戦争が成功といえる、といった意味のと言っていた。ヘイスティングズが自分で満足のいくまで、やって 」とを話しているという。こういう事柄の含みを悟ったとき、ヘイみるしかないことだ、とも言った。 ( ティングズは一時、ただ大尉が間抜けなだけだ、と思いこもうと そうは言っても、今になってヘイスティングズにそれほど満足の 」た。が、やがて、事態の単純な真相が、きわめてはっきりしてきゅく物など、ほとんどなくなっていた。一つには、戦争につくづく 」。新任の大尉は気が狂っているのだ。狂気は忌むべきものではな嫌気がさしていたし、それに、中隊がどう思っていようと、彼はこ ヘイスティングズ本人が狂っていることを自覚していた。問題の土地に飽き飽きしていたのだ。森を一度見れば、それで見るに値 、大尉の精神異常がヘイスティングズの都合に、どう関わってく いするところはすべて見つくしたことになる土地なのた。疑問の余 ) か、ということだ。こうなると、大尉は絶対に保養休暇申請を許地なく、崖も迫台も地雷原もひどい代物だった。もし敵と何らかの っしてくれないだろう、とヘイスティングズは結論を下した。 合意に達して、平和裡に利益を分配するとかできれば、どうしよう この申請は、もう何カ月も前の物だった。新任の大尉が中隊に着もなくなることもなかったかもしれないが、そんなことを司令部が 宀したその日、ヘイスティングズが手ずから渡したのだ。当座、大認めてくれないのは明らかだったし、それに敵側にもおそらく司令 圸に冫、いろいろ気懸りなことがあるからーーーヘイスティングズに部があるだろう。中隊の中には、限定された生き方でいいと言う者 新しい状況に順応しなくてはならない、と言っていたくらいでもいるかもしれない。そういう連中には、こういう生き方もたいへ ヘイスティングズも多少遅れるのはやむを得ないと納得してい ん結構かもしれないが、ヘイスティングズには他の者より、まあ多 。それにしても、選挙がすんだというのに、まだ何もしてくれな少とも視野が広い人間たろうと自認する傾向があった。 , 冫ー 彼こよ、事

5. SFマガジン 1977年6月号

「月世界旅行」イラスト 〔今月ガッカリしたこと〕 ところが、届いた雑誌を開いてガックリきた。たった 先々月号の「テレポート欄 . に紹介があったのひとこと「ノーコメント」と書かれてあったからた。好 でごそんじのかたも多いかと思うが、関西の有力フききらいは別として、マガジン・レビューとしてある以 アンが発行しているファンジンに「オービット」という上は、ほんの少しでも評してほしかったのに。 のがある。 そうでなくても、古典 (f) のファンというのは数が少 一応は海外研究誌ということになっているらしい なく話のできる人間がいなくて、淋しくてしようがな のだが、や奇想天外の作品考課表などが載ってい 。それでも、足を棒にしてセッセと歩き回り、高いお て、これが目玉商品になっている。 金をだして買い、なんとか読者に親しみを持ってもらお 現在、や奇想天外の作品評をしてくれる機関うと努力してきたのに、これじゃ、あんまりた。 は、ほとんどないから、ファンジンとはいえとても参考それではと考課表のほうを見ると、二十二人のうち十 になるので、・ほくは欠かさす読んでいる。 ( もっとも、人が読んでなくて、 八つの作品中のプービー賞。あー ぼくの作品なあ、情けなくなっちゃった。 ど、いつもケチ ョンケチョンに〔今月よくわからなかったこと〕 もうひとつ「オービット」に関連した話を書いてお / 「を・酷評されて泣い てるけど ) で、・ほくは今先日、ファンから電話をもらった。「こてん古典」や 度刊行された第小説の話をした後、そのファンはこういった。 四号に、少々期「横田さんて、界の黒幕なんですか ? 」 待していたこと なんのことやらわからないので、「えっ ? 」と聞きな があった。それおすと、そんなふうにとれる文章が「オービット」の " 【ツは、昨年九月号 Ed 一 ( or こというべージにでていた、ということだった。 の本誌に翻案しあわてて、ペ 1 ジをめくってみたら、なるほどでてい た、巌垣月洲のた。こんなことが書いてある。 ・ ) ' 日本最初の 「征西快心篇」◇このファンジンに掲載された雑文の文責は、すべてそ が、どう評価さの書いた本人に帰する。編集長は個々の雑文に対する責 ライターの意見Ⅱエデイターの意 とたった。 見という誤解はなさらぬように。 5 3

6. SFマガジン 1977年6月号

「失礼なことを申しあげるようですが、いちばんの問題点は明々白た。いま彼はメアリイゲイも穏やかににらみつけていた。やがて、 いえ、みんなそうなんメアリイゲイは言葉を続けて、 白だと思われます。わたしの部下たちは 「マンデラ軍曹はべつにいまの状態に不平を言ったのではないとー この船に閉じこめられて、もう十四ーーー」 「くだらん。われわれはみな、狭い生活空間の重圧にも耐えられる よう充分に訓練をうけているではないか。くわえて、士願兵には性「マンデラは、自分のことは自分で言える。君の意見が聞きたいの 的な面でも基本的権利が認められておる」こいつは、すいぶんと徴だ。君の所見がな」 妙な言い方だ。「士官たちは禁欲を続けねばならんのであるが、士 たいして聞きたくもなさそうな口調だ。 気の問題などおこってはおらんではないか」 「はい、今度のことは心理状態のせいではないと思います。わたし 士官たちが禁欲していると小隊長は本当に思っているのだろう たち、、 しっしょに生活していても、べつにトラ・フルは起こりませ か。もしそうなら、ひとっ腰をおちつけて、 ーモニイ少尉ととつん。たた、みんなじれったくなっているのです。毎週毎週おなじこ くりとおしゃべりをすればいいんだ。もっとも小隊長のいう士官てとをするのに疲れきっているのです」 のは兵科将校のことかもしれない。つまり、コーテズと小隊長自身「では、戦闘を切望しているというのかね ? 」 のことだ。となると、禁欲の件は半分だけ当たっていることにな 小隊長の声にはいささかも皮肉つ。ほい様子はなかった。 る。コーテズはカメハメハ伍長とかなり親しいのだから。 「艦から降りたがっているのです。日常的な雜事から逃げたがって 「この件につき、治療専門家は君の心理状態を強化した」と、小隊いるのです」 長は続けて、「いつ。ほうでは、セラ。ヒストたちは憎悪を消去しょ「それなら、艦から降ろしてやらんこともないが」小隊長は機械的 にうすい微笑をうかべて言った。「今度は艦に戻りたくて大騒ぎす うとしておる、・ーーそのことをわしがどう思っているかは、みんなも よく知っとるだろう。セラビストどものやっとることは、ろくでもることだろうよ」 ないことだが、たしかに腕はいし こんな言いあいが長々と続いた。誰ひとり、部下たちが一年以上 ポッター伍長」 にわたって、来たるべき戦闘のことをくよくよ考えこまねばならな と、小隊長は階級をつけて彼女を呼んだ。な・せおれたちといっしかったという根本的事実に言及しようとはしなかった。部下の不安 ょに彼女も昇進しなかったのか、その理由を一同に思い起こさせるはつのるいつ。ほうだったのだ。しかも、いま、トーランの巡洋艦が 接近しつつあるのだーーーあと一カ月して地上での戦闘が始まろうと ように、だ。それから、穏やかすぎる声で、 いうのに、その前に運を天にまかせねばならないとは。 「君も、部下と〈徹底的に話しあった〉かね」 縮潰星のまわりをめぐる惑星を攻撃し、勝利をおさめうるとはと 「討論しました」 小隊長には、人を〈穏やかににらみつける〉という特技があっても思えなかったが、少なくとも、地上で戦うなら、自分の運命を Ⅳ 8

7. SFマガジン 1977年6月号

三日目、曹長は連絡の中で、戦争努力への熱意を示すために、中隊グズはちょうど死んだ所だ、と言おうとしたが、大尉がついて来 の戦死者を増すよう命じた。この日は戦闘中、二人の兵士が内密裡て、そんな必要はない、私が自分でヘイスティングズの将来を決め に少尉達によって撃たれた。この頃までには、曹長はすでに、疑問の たんだ、これからは私が事態の処理にあたる、と言った。大尉の言 余地なく、五百世代にわたる現代思想を通じた西洋文明のあるゆるうには、どのみち私の中隊とあればヘイスティングズを逃がしたり 努力を超越した、と信じていた。 はせん、これからはヘイスティングズがいたたまれないくらい、居 司令部もいっこうに気にかけないようだった。補給トラックは従心地悪くしてやるから、誰一人面白がるやつなそいなくなるそ、と 来通りやって来て、下士官兵があたりを見回して兵士と悪態をつき いうことだ。大尉は、私こそ事態を掌握しているのであって、そ あい、戻って行った。曹長は、連中の相手をするほど暇ではないと前 の点については、全く疑問の余地がない、 と言った。曹長は大尉の もって知らせておいたから、曹長に会いたいと言い出す者すらいな許を離れ、外へ出ると半時間ばかり泣いた。ところが、戻ってみる かった。曹長は日課を決め、早朝に司令部からの伝達事項を毎日一と空地には誰もいず、これからどうすべきかはっきりと悟った。日 山ずつ渡せるように、午後には昼寝するようになった。ある朝、こと暮れまで大尉に会わないようっとめ、あたりが安全になるとすぐ、 のほか気分が良かったので通信機材を修理し、身震い一つせすに、 全面戦争指令を書き上げた。朝、息を荒げながら、それを大尉に手 ヘイスティングズの保養休暇申請を送信し、大尉の暗号副署を添え渡した。大尉はまるまる二回読み返し、よたれを流した。軍の不幸 ると、無線機をこれが最後と壊してしまった。自分の幸福のお返しな歴史全般を通じて、これこそ最上の出来事である、と言い、ただ ちに出て行って、私の兵隊達に演説を行なう、と言った。曹長はこ に、せめてこれぐらいの事はしてやってもよさそうに思えたのだ。 これが曹長の最後の過ちとなった。一日後、司令部から伍長が大う言った。私はいい事だと思いますよ。連中を奮い立たせて下され ば、戦闘で何かしら意義があるでしようから、と。 尉に会いに来て、その後で大尉が生白い顔中に混乱を表わしなが ら、曹長を捜しに来たのだ。一体全体どこのどいつがあのヘイステ イングズなんそにテントに忍び込ませて機材をいじらせたんだ、と曹長は大尉の馬鹿げた演説など、聞こうとも思わなかった。後ろ 大尉が尋ねた。曹長は、私は何も知りませんが、こういう事が起こに立って、演説の終わるのをただひたすらに待つだけたった。演説 るというのも大いにありうることです、私は他にも仕事がありますも終わり、ヘイスティングズがやって来て、銃剣で大尉の尻に害意 し、時には無線機の傍を離れなくちゃなりませんからね、と答えなく切りつけた時、曹長は呵呵大笑した。しかし後になって、破壊 た。大尉は、そいつはいいんだ、もう司令部はヘイスティングズ召し尽した機材の所へ行き、もう一度組み立てられるかどうか考えて 還を命じて、やつが病院に収容されるよう準備しておるんだからな、みると、笑い事かどうか自信がなくなった。むしろ、一生で最悪の 伍長は何やら精神病治療除隊とか言っとる、と言った。曹長が、こ事をしでかしてしまったのではないか、と思い悩んだ。ずっと後に刀 れは私が処理しましよう、と言って伍長の所へ行き、ヘイスティンなって、別の状況の下で、そうでもないな、と思い直した。

8. SFマガジン 1977年6月号

頭の回転の早い女性だ、と、マセは思った。いや、頭の回転が早ランは正面からマセをみつめた。「みんなの見方はそうして変っ いというよりも、直感がするどいというべきなのかも知れない。彼て来たけど : : : マセ司政官、あなた自身は、すっとあなたそのもの 人々の評価に関係なく、あなただ でありつづけたわけでしよう ? がちらりとそんな意識を脳裏に走らせたときには、ランは別のいい とういう人なの ? 人々の見 ったんでしよう ? そのあなたとは、・ かたで喋りはじめていた。 「わたしは、マセ司政官、あなたに対するこの世界の人たちの評価方の変化にかかわりなくそこにいたあなたとは、何なのかしら」 「答えにくい質問だね」 というか、態度がいろいろと変るのを見て来たわ」 「でしようけど、一言でいったら ? 」 ランは、ひとり頷きながら続ける。「わたしがこのラクザーンに 「一言でいうのなら」 来てしばらくは、みんな、あなたを時代遅れのー・ーお気にさわった マセは、言葉を区切った。その返答ははっきりしていた。「つま らごめんなさい。時代遅れの名誉職についている人という風に眺め り : : : 司政官であったということだろう」 ていたように思うの。中にはあなたが、縁の下のカ持ち的役割を果 「そういうお返事になると思ったわ」 : どちらかといえば、別に毒 たしているんだという人もいたけど : ランは、小さな溜息をついた。「分りました。でも、それじゃ聞 にも薬にもならない人間たと考えている者が多かったみたい」 かせて。あなたにとっては、司政官であることが、すべてなの ? 」 「そうだろうね」 「それが、あの長い旅行中に、はじめは少しすっ、そのうちに急速「それが職責だからね」 とこかにある ? たとえばこうし に、あなたが何かをやろうとしているのに気づいて、どんどん変り「司政官でない部分というのは、・ はじめたわ。簡単にいえば、時代錯誤だという嘲けり、ついで困てお話ししている瞬間も、依然として司政官なのね ? 」 惑、それから警戒という順序ね。あなたが大パレードをやったとき「枠をはみ出してはいないはずだ」 には、これから何をやるのだという不安や怖れと、非難が湧きあが いったものの、彼は、かすかに危惧をお・ほえた。そうだろうか ? 今の自分は、司政官としての枠の中にあるのたろうか ? もちろん 「多分ね」 それは言動がではない。言動が司政官にふさわしくないものとなれ そうなのた。ランのいったことは、マセが計画したことが、的をば、それだけで怠慢と考えなければならない。まして、司政官には 射ていたのを証明するようなものであった。 許されない行為をしたときは、誰ひとり知らなくても、みずから職 「例の会議のあと、あなたははっきりと、この世界の権力者になつを辞すべきなのだ。それは、そうしなければならないと義務づけら た。そうでしよう ? 」 れているのではないけれども、すくなくともマセは、そうありたい と念し、そうあるべくおのれを律していた。だから、言動がではな 7 「どうかな ? それ程じゃないだろう」 。意識としてなのだ。自分は今、司政官としての意識のうちにあ 「わたしには、そう信している人が大多数だと思えるんです」

9. SFマガジン 1977年6月号

事務総長のほしがるものは、どんな無理難題であろうと、それを断るわけこよ、 冫冫しかないじゃありませんか ! 」 手に入れるのが至上命令なのである。 「彼の気をそらせることなら、できんこともない」 グ ( ビング 「どこかのバカが坊やをロサンゼルスへ潜水に連れだしおった」ラ 二人はしだいに声をひそめて、陰謀めいたひそひそ声になってき ・チェンはいった。「そこで坊や、こんどは沈没する以前のあの た。いまやダチョウには見むきもせすに、ときおりガラスの檻の表 都市を見てみたいと、こううるさくせがんでな」 面を撫でるたけになって、ガラスそいに移動していった。 「どうやってです ? 」 「そんなことなら、さほど大したことないんしゃないですか」 「まあ、そこまででとどまっていてくれたらな。ところが、とりま「それはまだわからん。彼の乳母と近づきになれたら、なんとかな きの〈諮問院〉のだれかがこれを嗅ぎつけて、ロサンゼルスの歴史るんだがな」ラー・チェンは歯のすきまからいった。「やってみて テープを彼に渡した。そりやもう彼は大喜びだ。で、こんどは第一はいるんだが、これがなかなかの難ぶつでな。たぶん ( 宇宙 研 ) の手がまわっているんだろう。とにかく、若君に忠誠ひとすじ 次のワッツの暴動に参加してみたいと、こういうわけだ」 スヴェッツは息をのんた。「それじゃ、警護の問題が出てきますだ。なにしろ、おそばにつかえて三十八年だからな。 ね」 何が事務総長のお気に召すか、どうすりやわかる ? たった四 「事務総長の家系は純粋な白色人種にきわめて近いから、外見上で回、それも公式の場で会っただけなのに。わかっているのは、彼の はまず見分けはつかん」 関心のおよぶ範囲、それが法律たってことたけだ。新しいおもちゃ このときダチョウが、二人を観察するように小首をかしげた。どで気をそらせることさえできたらな。ロサンゼルスのことなんそ、 うみてもこれは、はるかにもっと大きな鳥の、とほうもないヒナときれいに忘れちまうんだが」 しか思えない。こいつが。 ( ンガローほどの大きさの卵の殻をやぶつ 二人がちょうどさしかかった檻には、こう記されていた。 て出てくるさまが、目にみえるようだった。 象 「頭が痛くなってきました」スヴェッツま、つこ。 ーしナ「どうしてそん 七〇〇年 ( 原子力紀元前 ) 頃の地球、インド地区より復元。 なこと、わたしに聞かせるんです ? わたしに政治向きの話がから絶減種。 きしダメだってこと、ごそんじでしよう」 しわだらけの灰色のけものは通りすぎる二人をねむたげな無関心 「事務総長の一命にかかわるようなことにでもなったらどんな事態な眼でながめていた。これはスヴェッツの生捕ったものではない。 になるか、想像がつくかね ? そうでなくてもいまでさえ、この時 だがスヴェッツはここの動物のほ・ほ半数を捕獲しており、そのな 間研究所を解散させたがっている強大な勢力がいくつもあやーーた かには何頭か、水を半分いれた水槽にはいっているものもある。ス とえば宇宙研た。連中、大喜びでうちを吸収してしまうだろう」 ヴェッツは動物がこわいのだ。とくに、大きな動物が。どうしてラ 9 「でも、どうすりやいいんです ? 事務総長じきしきのご要望を、 ・チェンは動物採集にいつまでも彼をつかうのたろう ?

10. SFマガジン 1977年6月号

この痛みを説明する気にはなれない。麻酔をかけられていても耐憶がみるみるよみがえった。小隊の仲間たちを思いだした。塹壕を えがたいほどだった、といえば足りるだろう。それに耐えたのは、 思いたした。 2 6 4 5 4 はこの一年あまりおれの家みたいなも そうするしかなかったからだ。やがて痛みはうすれ、おれは目をあので、塹壕としてはけっこう悪くないところだった。敵は前からこ けると、まわりに立っ・ハラモンたちの顔を見上げた。数は三人、おれを取ろうとしていたので、おれたちの夜明けの強襲は、いってみれ ば反撃であったわけだ。マシンガンの弾にすたずたにされたこと、 定まりの白い手術衣に白いガーゼのマスクという衣装。マスクをか けるのは、おれたちを細菌から守るためだと称している。だが、顔そのときの真底ほっとした気持はお・ほえている。そういえば、ほか にも何か : の見分けをつかなくするためだということぐらい、兵士ならみんな 知っている。 おれはがばっと起きあがった。「おい、待ってくれ ! 」 「どうした ? 」 麻酔に耳まで漬っているので、記憶は切れぎれにしかもどらなか 「人間を再生できる時間の上限は、八時間だったはすだそ」 った。おれはきいた、 「どれくらい死んでいた ? 」 「あれから技術も改良されてね」・ハラモンのひとりが答えた。「わ 「十時間ばかりたね」ひとりのバラモンがいった。 れわれは絶えず前進している。今では上限は十二時間だ。ひどい頭 脳損壊がないかぎり」 「どんなふうに死んだ ? 」 「それはご苦労なことで」記憶はもう完全にもどり、事情がのみこ ラモンがいナ 「思いだせないのか ? 」いちばん背の高い めてきた。「ところが、わたしを再生したのは重大な失策なんです 「今のところは」 な」 「そうかーと長身の・ハラモン、「きみの小隊は塹壕 2 6 4 5 日 4 にいた。夜明けを待って、きみらは全隊で正面攻撃をかけ、となり「何か文句があるのか、兵卒」ひとりが将校特有の口調でいった。 の塹壕を奪取しようとした。 2 6 4 5 日 5 だ」 ート・シェクリイと言えば、古手のあった。しかし、アメリカでの評価がどうか 「そのあとは ? 」 ファンにとってはすっかりおなじみの作家というと、必ずしも日本ほど高くはない。決 である。いや、日本の界にもっとも大きして悪い作家ではないが、いわゆる中堅作家 「きみはマシンガンの弾を何発か受けとめた。シ な影響を与えた作家のひとり、といっても過というところ。日米のファンの好みが歴然と ョック弾頭のある新型のやつだ。思いだしたか 説言ではあるまい。実際、名作リストとい表れていておもしろい。彼はデビ = ー当時、 ね ? 一発は胸、あと三発は足。衛生兵が見つけ 有望な新人として多くの専門誌に書きま 解ったものが作られるたびに必ずといっていし たときには死んでいた」 ほど『人間の手がまだふれない』などは顔をくったが、その後発表の主舞台をプレイボー 「塹壕はとれたのか ? 」 出すし、アシモフ、クラーク、ハインライン、イなどの一般誌に移している。本篇は一九五 プラウン、シェクリイといったところを読ん九年の彼が油の乗り切った時期にアメージン 「いや。今回は失敗だ」 でいなければモグリという風潮さえかってはグ誌に発表された作品である。・ *) 「わかった、もういい」麻酔が切れるにつれ、記 9-