っぷりあって、核戦争はある程度行きづまった。核無効装置の発明ただの軍医なのだ。ヒンズー教徒とか婆羅門僧とか、そういったも がそれを決定的にした。そこでまた歩兵の登場となったわけた」 のとは、まったく関わりない。その名前は、二、三年前まだこの技 9 「わかってます、わかってます」 術が開発されてまもないころ、ある新聞にのった記事から始まっ 「たが敵は数において優っていた。今でもそうだ。何百万、何千万た。記者はその中で、軍医が戦死者を再生し、戦闘に復帰させてい のロシア兵、中国兵 ! こちらも戦闘員をふやさねばならん。最る事実をすつばぬいた。当時はかなりのセンセーションを巻きおこ 低、現状の数は維持しなければならん。だから死者再生技術が開発したものた。記者は = マスンの詩を引用した。詩はこう始まる された」 「それはわかってます。いいですか、曹長、味方が勝ってほしいと たとえ赤い人殺しが殺したと思おうと は、わたしも思っていますよ。何がなんでも勝ってほしい。わたし また人が殺されたと思おうと はよい兵士であったつもりです。しかし三回も戦死してーーー」 その徴妙なちがいは彼らにはわからない 「問題はだ、赤軍もまた死者を再生しているということだ。前線に わたしは動き、去り、ふたたび現われる おける人的資源の確保は、もっか最重要問題となっている。この数 カ月のうちには、。 とちらにころぶにしても結果が出るだろう。だか そういうものだ。たとえ敵を殺したと思っても、相手が死んだま ら、生きるの死ぬのということは、このさい忘れたらどうかね ? までいるか、あくる日塹壕から射ち返してくるか、決して予断はで こんど戦死したら、放っておくと保証する。今回は見のがしてくれきない。また自分が殺されても、死んたままでいられるかどうかは んか ? 」 わからない。エマスンの詩の題名は「梵天」、そこで軍医たちに・ハ 「監察官に会わせてください」 ラモンの名が冠せられたわけだ。 「そうか、兵卒」やさしい曹長さんは、あまりやさしくない声でい 生きかえるのも、はじめは悪い気分ではなかった。あの痛みを通 った。「では、三〇三号室へ行け」 らなければならないにしても、生きているのはいし 、ものだ。たが殺 され、再生され、殺され、再生されるうちに、、、、 ししカげんにしてく 三〇三号へ行った。そこは副官のオフィスで、おれは待たされれと思うようになる。お国のために何回死なねばならないのか、死 た。こんな騒ぎをおこしている自分に、ちょっとやましい気がしんだほうが気持よく休めるのではないか、そう考えるようになるの た。とにかく、 だ。そして大いなる眠りが恋しくなってくる。 いまは戦時なのだ。だが腹だちはおさまらなかっ た。戦争の最中であっても、兵士に権利はあるはすだ。くそ・ハラモ 当局もそのあたりは心得ていた。たび重なる再生は、士気に悪影 ソどもめ : 響を及・ほす。そこで再生は三回までと決定された。三回目の戦死 考えてみると、彼らの名前の由来というのもおもしろい。連中はの前に、配転か永久死かの選択ができるのだ。当局が望むのは死
。あるいは、この十年ちかい期間に歩兵の戦法をみっちり練習しまわないじゃないか、どうせ、メモリー・ クリスタル、ロジック ているかもれない。まあ、惑星におりてみりや、わかることた。 、ンク、ポルトとナットのかたまりじゃないかと言っていた : おれが火器係といっしょに分隊の連中の戦闘スーツをチェックしコンビュ 1 タがジンギス汗になるようにプログラムすれば、そいっ ているときたった、十億キロ以内に敵艦が接近してきて、シェルのは戦略コン。ヒータになるーーたとえ、その機能が株式市場を監視 横で待機せねばならなくなった。 したり、下水蒸留を制御したりすることであっても、だ。 シェルにもぐりこまねばならなくなるまでには、五時間ほどあっ しかし、もう一方の声は頑固で、人間というのは少しの髪と骨の たので、おれはラビとチェスをやり、負けた。やがてロジャーズが かけらと繊維質の肉とからできているにすぎないのだと言った。ど 小隊の連中を集めて、元気のいい美容体操をはしめた これからのような人間であろうとかまわない、教え方がうまければ、禅僧を 少なくとも四時間、シェルに入って、なかばおしつぶされていなけ血に飢えた戦士に変えることも可能なのだ、と。 ればならないという思いから、みんなの注意をそらすためにほかな では、おまえは、われわれは、おれは何なのだ。もう一方が尋ね らなかった。これまでの最長時間の倍は人っていなければならない た。おれは〈工 1 丿ート徴兵法〉により召しあげられ、殺人機械とな のだ。 るよう教育された、平和を愛する真空溶接の専門家で物理の教師 五億キロに近づく十分前、おれたち分隊長は隊員が全員そろって だ。おれは敵を殺した。殺すのが好きなんだ。 いるのを確認した。八分間で、おれたちはシェルにもぐりこみ、液 だが、そいつは催眠術じゃないか、動機づけだよ、ともうひとり が満たされ、兵站コンビュータのなすがままになった というのおれが言い返す。もうそんなことはお偉ら方もやりやしない。 か、庇護の、もとにはいっこ。 催眠術をやらなくなった理由はただひとつ、おまえが催眠術なん 身体を絞めつけられて横たわっているうちに、おれはヘンなこと かかけられなくても敵を殺すようになるだろうと考えられるから を考えた。その考えは超電導体の中をはしる電気のようにクルクル さ。そいつは論理的必然ってやっさ。 とおれの頭の中をまわった。軍隊の形式主義によれば、戦争の遂行論理のことを言うなら、根元的な疑問があるーーーなぜ、人間の仕 ロジスティック はふたつの部類にはっきりと分けられるという 戦略と兵站だ。事をするために兵站コンビータがつまれているんだ ? 兵站は人員の移動、食料配分など、実際の戦闘以外のすべてを担当 ライトが緑になり、おれは機械的にボタンを顎で押した。圧力は する。実際の戦闘は戦略だ。いま、おれたちは戦闘中だ。しかし、 一・三までさがり、おれはようやく自分が生きていることに気づい 攻撃と防御を監督するのは戦略コンビュータじゃない。平和的人工 頭脳を備えた雑貨屋の番頭、つまり、兵站ーーーゴチックで書いてく 最初の小競合には勝ったのた。 れーー兵站コンビュータなんだ。 それは半分たけ当たっていた。 だが、頭の反対側は、コンピュ 1 タにどんな名前をつけようがか 6
We Åre Very Happy Here 終りなき戦い く第ニ部〉 ジョー・ホールドマン 訳 = 風見潤イラスト / 加藤直之 ついに恐るべき敵影は背後にせまり すぐさま艦は戦闘体制に入った・・ ヒューゴー、ネビュラ両賞に輝やく 戦争 S F の名口 ーに登場一一 ! 、、 We Are Very Happy Here ・ ' ◎ 1 973 by Joe Holdeman. ロ 6
卒とは別の扱いをするべきなのかもしれませんよ、と助言し、将軍構えていた、とのことだった。事前に警告を受けたので、下士官兵を も、曹長の発言がきわめて感動的であった、と言った。結局、同意を保護するために現場に行っていることにしたというのだ。その後の 得たのは、今後五年間毎月、一カ月分の俸給を罰金として支払うこと調査の結果、副官は伍長に格下げされ、遠くの戦線の兵士に衛生学の と、曹長をはるか北方での自動車訓練にやることだった。将軍は、講義をするよう送り出された。中佐は大佐に昇進し、曹長は六週間 お前にお誂え向きの場所もいくつかあるのだが、と言いつつ、かなの営倉処分となった。営倉を出てみると元のままの階級章を返さ り限られた予算で生活せねばならんのだから出費を極端に切り詰めれ、民間人の検閲委員会によって、これからは兵員輸送に回される、 と伝えられた。委員長は、これですいぶん経験の幅が広がるはすだ、 るように、と強調した。 曹長は質素な暮らしを身につけ ( いまだに司令部から給与が送らと言い、実際に戦闘に参加することはないが局地戦の前線に配属さ れて来ても受け取るのを忘れてしまう。いつもびつくりしてしまうれることになった、と告げた。急いで縫いつけた階級章を震わせな がら六人の男の前に立っていても、曹長には、この気も遠くなりそ のである ) 十四年間、車輛を修理してきたが、内心では怒り狂ってい うな幸運が実感できなかった。まるで手のつけようのない幸運に思 た、自動車隊に勤務しているせいで、いくつもの戦争や局地戦に参加 えた。やがて、士官から指示を受ける段になって、遠方の沿岸地帯 しそこなったし、それに妻も ( 志願する前に結婚していたのだが ) 曹長が友人の旦那さん達のように戦死しないというので、恥に思っで隠密に進行している重要な戦闘の、情報伝達曹長の任を引き継ぐ とわかった。口がきけるようになるとすぐ、曹長は、保養休暇を三 ていた。その結果、やがて妻とも内々に別居し、曹長は ( その頃に 日いただけますか、と尋ね、士官は、規則が当てはまるからいいだ は本当に曹長になっていた ) 自動車隊に送られたばかりの連中に、 戦争一つと局地戦三つとを戦い抜いてみると、個人的にはこの仕事ろう、貢献したのだから資格がある、と言った。 は素晴らしい息抜きたと思うよ、などと言うようになった。この話曹長はジープを一台借り出し、別居中の妻がウ = イトレスとして は信じてもらえたようで、それは結構なことだったが、それにしても働いている薄暗い町まで、駐屯地から数百マイル走った。妻は映画 将来への可能性を大部分奪われたような感じは拭いきれなかった。館の二階席で、戦闘映画を観ながら・ほんやりと涙を流していた。初 曹長は年少兵の小隊が寝起きする兵舎に移り住み、知る限りの軍歌めのうち、曹長とかかわりあいになるのを嫌がったが、曹長の身に 何が起こったか聞かされると、曹長にそっと手をふれ、そんなにう を教えてやった。 軍隊生活もあと一年あまりという年の九月、曹長は素晴らしい幸まく行くなんて信じられないわ、と言った。下宿のおかみは下宿人 運に巡りあった。まるで戦争映画のような成り行きだ、とよく思っが他人を連れこむといい顔をしないので、二人はホテルへ行き、長 引話し合った。そこで初めて曹長は、今の成り行きをありがたい たほどだ。曹長が修理責任者になっているジープが、売春宿の前で 駐車中に爆発し、中佐とその副官とが重傷を負った。後で二人が証とは思うけれども、同時に恐ろしくもあるんだ、と言った。こんな 6 言した所によれば、そのあたりが民間警察の急襲を受けるのを待ち長く第一線から離れていると、自分を信頼していいものかどうか、
るようだった。爆撃はきわめて不規則だし、。ハイロットの中にはあは、軍規のはるかに及ばないところで、自由に出入りする権利をい まり興味のない者もいるようで、友軍の上に爆弾を落としたり、型ちじるしく損なわれているのだった。 はずれの飛び方をしたりする。それに加えて、中隊の一部の者が戦大尉には戦争そのものに反対する理由が格別なかった。すべて準 場の中の特定の場所に愛着を示しはじめていて、今では、この戦争備教育で教わった通りに事が運んでいる。確かに、この戦いには奇妙 の全目的は、戦場を確保して永久的に定住することにある、と言い な面があって、敵も地図で見るところの森の部分に愛着を示し、特定 出す始末だ。大尉には、これをどう扱っていいかわからなかった。 の気に入りの木を守るためには猛然と戦うのだが、こうしたことも、 それにまた、ヘイスティングズは、大尉が休暇申請をどうするか結局、ストレスの高まった状況では正常なのた。一定の人間の集団の 知ろうと、たびたびテントの外で待ち構えていて、そのために大尉中では、しばらく時間が経っと、あらゆる抗争も分離も詰まるところ
おれは艦長の言葉を聞いてはいたが、おれの心にあるのは、友達 ろう。 の三分の一の生命がつい一時間ほど前に失われてしまったというこ 一方、われわれは宇宙よりトーランの基地のある惑星を攻撃し、 君たち歩兵の助けをかりすに敵基地を破壊することができるだろとたった。艦長は立ちあがり、軍のセオリーをしゃべりだした。 う。しかし、それには非常な危険が伴うものと考えられる。われわ「それゆえ、ときには、戦争に勝つ一助とするため、戦闘を放棄せ れは : : : 本日攻撃をしかけてきた物体により撃ちおとされるかもしねばならぬこともある。いまわれわれがしなければならぬのも、ま れん。きわめて重要と思われる情報をスターゲイトへ持ち帰ることさしくそれだ。 もできなくなる。敵の新兵器についてその推論をつんだ連絡機を送これは容易な決定ではなかった。実際、わたしの軍人としての経 り帰すことは可能だ : : : しかし、それでは充分ではない。その程度歴中、これほど困難な決定はなかったのである。な・せなら、この決 定は、表面上は臆病者のなせるわざと見えるからだ。 では、軍は大幅におくれをとるであろう。 ーセントだとはじきだ それゆえ、当艦はヨド 4 をまわる針路をとる。敵との遭遇は避兵站コン。ヒ、ータは成功の確率が六十二パ した。それなら、敵基地を攻撃すべきだろう。だが不幸にして、生 け、できるだけすみやかにスターゲイトへ帰投する」 成功の計画中に きて帰れる可能性は三十パーセントしかない 信じられないことだが、艦長は腰をおろし、こめかみをもんでい は、光速でとぶ〈アニヴァーサリイ号〉で敵惑星に突っ込むという 「諸君らは少なくとも分隊長もしくは班長である。すぐれた戦歴をものも含まれているのだ」なんてこった。 「諸君らがかような決定を下さねばならぬ情景にたちいたらぬこと もっておる。君たちのうちの何人かは除隊後もふたたび軍役に戻っ てきてくれると、わしは願っておる。さすれば、少尉になれる。そを、切に願うものである。スターゲイトに戻ったら、わたしは間違 いなく軍法会議にかけられるたろう。しかし、トーランの基地の破 して、初めて本当の指揮ができるのだ。 わしが話をしたいと思うのは、そうした諸君だ。君らの上官とし壊よりも〈アニヴァーサリイ号〉の被害を分析することによって得 られる情報のほうが重要だと、わたしはほんとうに信じている」艦 て : : : 上官のひとりとしてではなく、先輩、忠告者として、だな。 指令というものは、戦略状況の判断やどのような戦闘行動が当方長は背筋をのばして、「一兵士の経歴よりも重要なのだ」 おれは笑いだしたいのをこらえた。たしかに〈臆病〉は艦長の決 の最小の犠牲で敵に最大の被害を与えうるかと考え、その考えをお しすすめることでできるものではない。現代の戦争は、特に二十世定と少しも関係がない。たしかに艦長は生きるという根元的かっ非 紀以降、非常に複雑になっておる。戦争は、一連の戦闘に勝てたか軍隊的意志をもちあわせてはいなかったのだ。 らといって、勝てるものではない。軍事的勝利、経済圧迫、兵站、 3 敵情報の利用、政治状況など数十の、文字どおり数十の要素によっ整備員はどうやら〈ア = ヴァーサリイ号〉の横腹にあいた大きな R て勝つものなのた」 裂け目につぎをあて、再び気圧を正常にすることに成功した。おれ
「認識票を見てくれ」 がっしりした温厚そうな曹長のところへ連れていかれた。気やすく 男は認識票をのそきこんだ。男の顔で外から見えるのはひたいだ話しかけ、いろいろ面倒を見てくれる、例のものわかりのいいタイ 9 けだったが、そこに皺が現われた。「これは大変だ ! 」 。フだ。といっても、おれは面倒をかけたいわけじゃない。 「そうだとも ! 」 「まあまあ、きみ」と、やさしい曹長さんはいった。「再生された 「しかしね、きみは死体で埋まった塹壕の中にいたんだ。みんな初のが不満たとか聞いたが、どういうことなんだ ? 」 「そのとおりです。兵卒たって、軍法により権利は保証されている 回兵だといわれていた。われわれは全員を再生させる命令を受けた のだ」 わけでしよう。すくなくとも、そういう話だ」 「そのとおり 「じゃ、認識票を読みもしなかったのか ? 」 「仕事が多すぎた。時間がなかった。本当にすまんことをした。知「わたしは義務をはたしました。陸軍に十七年、そのうち八年は実 ってさえいたらーー・」 戦に参加しています。戦死三回、再生三回。服務提供によれば、三 「あやまったって遅い。監察官に会わせてくれ」 回目には死を要求できるとあります。わたしはその要求をしたので 「きみは本気でーー」 す。認識票にもスタン。フが押してある。ところが、死なせてくれな あたりまえだ。塹壕の主とまではいかないから軍法はくわしくない かった。くそ軍医どもが生き返らせてしまった。ずるいですよ。死 が、申し立てたいことはちゃんとある。監察官に会う権利はあるはんだままでいたかったのに」 ずだ」 「生きているほうがずっといいと思うんだがね。生きていれば、非 戦闘任務にもどされるチャンスは常にある。人的資源の不足で、交 連中が密談にはいったので、そのすきに、おれは体じゅうを見ま替ははやいとはいえん。だが、まだチャンスはあるんだ」 わした。く ノラモンの手ぎわはみごとなものだった。もちろん、戦争「わかってます。だが一刻も早く死にたいのです」 が始まったころのように完璧ではない。植皮はいいかげんだし、腹「六カ月かそこら待てば、きみの望みどおりになると思うが・ーー」 「死にたいのです」おれはきつばりと、つこ。 の中も多少ごたごたした感じがする。それに、右腕が左より二イン しナ「三回目には、軍法 チばかり長い。接合がうまくいかなかったのた。それでも、なかなで死ぬ権利が認められている」 かの仕上がりだった。 「もちろんだ。やさしい曹長さんはおれにおほえみかけ、兵士ひと 話合いがすむと、 ハラモンたちはやってきて服をよこした。おれりひとりを見わたした。「しかし戦時には、まちがいもおこる。特 は服を着た。「さて、その監察官の件だがね」ひとりがいった。 にこういう戦争ではな」椅子にそりかえり、頭のうしろで両手を組 「いまはちょっとむずかしい。知ってのとおりーー」 むと、「昔を思いだすよ。始まったばかりは押しボタン戦争みたい いうまでもないが、監察官には会えなかった。かわりに、大柄のに見えたものた。だが、わが軍も赤軍も対ミサイル用ミサイルがた
パイプの末端、ぼたぼた雫の垂れてくる真下で、うたたねしていたれ、彼らをくわしく調べる。おまえのつぎの用途は、わたしの実驗 のだ。 を彼らといっしょに受けることだ。忘れるな、彼らは悪い生命た。 「グッドライフ ! 」この小さな部屋の中には、ス。ヒーカーもスキャ用心しなければいけない」 ナーもない。声はすこし離れたところから聞こえてくる。 ッドライフ」それが彼自身とおなじ形をした生き物で、機械の 「はい ! 」金属の床にひきずるような足音をひびかせて、彼は声の世界のかなたに住んでいることを、彼は知っていた。戦闘のときに するほうへ駆けだした。いましがたつい居眠ってしまったのは、疲震動の衝撃や損害が起こるのも、 ッドライフのしわざなのだ。 れのためだった。戦闘は小規模なものたったが、それでも余分の仕「・ハイ トライフーーーくる . そう考えるたけで、さむけがした。彼は 事があったからだ。修理のために果てしない導管や廊下を動きまわ両手を目の前にかざしてそれを見つめ、つぎに自分の立っている廊 っている仲間の補助機械たちを世話し、指図してやらなくてはなら下の左右を見まわして、 ッドライフが現実に目の前に現われると ない。自分にできる手助けがほんのわすかなものなのを、彼は知っころを想像しようとした。 ていた。 「すぐ医務室へ行け」機械が命じた。「・ハ ッドライフと接触する前 さっきまで着けていたヘルメットのために、頭と首すじがひりひに、おまえは病気に対する免疫を受けなくてはいけない」 りと痛かった。戦闘の開始と同時に身につけた、なじみの薄い被覆 のために、体のあちこちがすりむけていた。幸いなことに、今回の破壊された船室から船室へと進んでゆくうちに、ヘンプヒルは外 戦闘での損害は皆無だった。 殻にできた裂け目を見つけた。穴はほとんど詰め物でふさがったか スキャナーの平らなガラスの眼の前までくると、彼はぶきっちょ たちたった。彼が詰め物をひき剥がそうとしているうちに、カーン に立ちどまり命令を待った。 という金属音がひびいた。〈狂戦士〉のポートが、捕虜を迎えに到 「グッドライフ、あの邪悪な機械は破壊された。残された少数 2 ハ着したのた。思いきりカをこめてひつばると、裂け目に詰まってい ッドライフは、なんの力もない」 たものがはずれ、彼の体は船外に吐き出された。 「はい ! 」彼はうれしそうに体を揺さぶった。 客船の残骸のまわりには、何百という漂流物が、弱い磁カか、そ 「忘れるな、生命は悪た」機械の声がいう。 れともおそらくは〈狂戦士〉のカ場にひきよせられて、近くに浮か グッドライフ んでいた。ヘン。フヒルは、自分の宇宙服がまだちゃんと作動するの 「生命は悪だ。わたしは善い生命 ! 」彼は体を揺らすのをやめて、 急いで答えた。むこうが罰をくだすとは思えないが、念を入れておを知った。その小さな噴射装置を使って、彼はこわれた客船の外側 きたかったのだ。 をまわり、〈狂戦士〉のポートがとまっているほうへ近づいた。 「そうだ。死んだおまえの両親とおなじように、おまえも役に立っ深宇宙の星空を背景に、黒い巨大なしみとなった〈狂戦士〉の本 てきた。いまからわたしは、ほかの人間たちをわたしの内部に入体が見えた。昔の要塞都市のように銃眼に覆われたそれは、たが、 ー 3 2
・ほくはそこに近づいていくのを意識していた。このような場合の で、薄い前哨線が、統制の取れない、武器の劣弱な、しかし、止め 難い大軍と対峙したように。あのジャングルの底で、一人一人が悪テクニックを、身につけていたのである。・ほくらはかれの畑のすぐ 6 戦苦闘した。これまで何百回も経験した、個々の小集団との小ぜりそばまでいって、ジャングルから出ずに、立ち止って様子を見た。 合いと、ほとんど違いはなかったがーーー今回は、殺した敵がすぐにそれから、近くにいたクラハリ人を撃退しておいて、ジャングルか 生き返って、また向かってくるように思われた。新手の戦士がいくら踊り出ると、遠いエイカナー星の白熱の輝きの下を、最近耕やし らでも、あとを引き継ぐのだ。突撃し、戦い、後退する。それからて黒く見える畑の向う側の、いくつかの建物めがけて全速力で退却 半時間か、いや、たぶん一時間ぐらい息をついてーーそれからました。 いしゆみ ・ほくらは腹背に敵を受けていた。・ほくらが駈け寄っていく間に た、黒っぽい姿が突撃してきて、弩の矢や槍の雨を降らせる。こ ういう具合に戦闘は続いた。われわれは一人で十人ーーー二十人の敵も、建物のあたりで戦闘がおこなわれていた。・ほくはそのまっただ 中に走りこんだ。背の高い、黒っぽい、裸の、飾り立てた体が渦巻 を殺した。だが、味方の数も少くなっていった。 いしゆみ しまいに、こちらの散兵線が薄くなりすぎた。いまや、味方は一き、わめき声、金切り声が響き、投げ槍、弩の矢が飛びかった。 ール・デュプレは家から引きずり出されていて、・ほくらが行 番外側の入植者の土地に後退しており、もはや連続した前線を作るエル、、 ことはできなくなっていた。それそれ自分の判断で戦い、それそれった時には死んでいた。 の拠点に向かって退却しつつあった。やがて、本当に容易ならぬ事クラ ( リ人は何人か殺されると、ほかのものは逃げ去った つでも、すぐ逃げるのだが、また必らす戻ってくるのだ。ペランは 態が始まったーー今や、われわれに対する突撃は、前からだけでな く、前と左右からくるようになった。味方の兵士はばたばたと倒れどこにも見当らなかった。壊れた玄関から押し入ると、部屋の中は クラハリ人の死体でいつばいだった。その向うにジャン・デュプレ ていった。 が一人きりで、片方がばっくり口を開けた家具のバリケードの陰 われわれは退却しながら拾い上げた少数の入植者たちーー愚かに も、もっと早く立ち退かなかった連中ーーを使って、いくらか隊形に、身をかがめ、隙間からあのデバローマー銃を突き出していた。 を立て直した。そうだ、そうやって、あそこへついた時にはもう手その銃身には、クラ ( リ人につかまれて、ひったくられないよう に、手製の銃剣が二梃熔接されていた。ジャンは・ほくを見ると、ラ 遅れで、そういう馬鹿者をもはや拾い上げることはできなかった。 男ばかりでなく女たちまでも、破壊され、焼けこげた建物の廃虚のイフルを引っこめ、大急ぎで・ ( リケードの端を回ってきた。 「母ちゃんがーー」かれはいった。そして、・ほくのところを通り過 中で、見分けもっかないほど、切り刻まれてしまっていたのた。 : とにかく、そんな具合で、最後に、・ほくと、・ほくの指揮下にぎていこうとするので、止めようとすると、打ちかかってきた 残った三人の兵士と一人の入植者は、ペラン・デュプレの家にたどそれも、だしぬけに、声も立てすに。はっきりした目的意識がある ためか、子供とも思えぬ力だった。 りついた。
た。とうとうここの状況に完全に順応する事ができ、僕の可能性を イスティングズに関する連絡がなぜか司令部に本当に届いてしまっ たらしく、ヘイスティングズを収容所に入れるようにとの命令を受試す最良の時が始まったように感じる。昔の僕がどんなに野心満々 ここまで書いて、ほかには全く何も けた伍長が、司令部からやって来ております、とのことたった。こだったか、君は憶えているかい。 れを聞くと大尉は激怒に襲われ、この中隊を指揮するのは自分であ書く事がないのに気づき、妻の乳房を思い出しながら、紙を片づけ る、誰からもこんな扱いは受けん、と曹長に告げた。曹長は、心かて長い散歩に出た。ず 0 と後にな「て、ああな「たのはあれでよか ら大尉殿に賛成いたします、これから私が行って伍長と交渉しまったのだ、と思い定めた。今はただ〈イスティングズを殺すという しよいよ指揮監督できるのだ。 す、と言「たのだが、大尉は、今度だけは私が自分で、あるべき形問題だけた。そうすれば、、 で処理してみよう、と言い出した。曹長には、一人にさせろ、と命曹長はもはや状況と何の関係もなくなる。奇怪な姿がうようよす じて、伍長がジープに乗って待っている空地へ出て行き、〈イステる、ねじくれた眠りだったが、朝、曹長が起こしにきて、たった今 イングズは数時間前の攻撃に失敗して戦死をとげ、埋葬することに司令部からコミ = = ケが届いて、全面勝利政策が発効したと布告し なっている、と告げた。伍長は、そいつあ残念だなあ、司令部じゃています、宣戦布告したんです、と言った。これを聞くと、大尉は みんなこの話を聞いて、このヘイスティングズてのがどんなやっかわくわくしはじめ、いろいろな物が苦にならなくなった。曹長に、中 隊が束縛を解かれたということたと思うか、と説くと、曹長は、絶対 楽しみにしてるのに、と言った。大尉は、話をしてやってもいし が、その気はない、と言い、伍長に、原隊に帰れ、と命した。伍長にそういうことに違いありません、と答えた。大尉は、これではっき は、おれは命令権限を与えられているから、あんたの命令に服従するり〈イスティングズの始末がつく、邪魔にならないように簡単にし 、こう付け加えた。軍隊の士気の問題につ 義務はないよ、と捨て台詞を残し、ジー。フに乗り込むと、これからむけられるわけだ、と言い 原隊に戻って、ここであ 0 たことを報告する、と言「た。それから大いて研究したんだが、その成果をいよいよ実行に移せるんだな。軍 尉に、〈イスティングズには何か、弔慰書簡で触れるような独特な隊という物はね、と大尉は言う、どんな戦闘にも喜んで参加する物 性格はあったかい、と尋ねた。大尉は、〈イスティングズはいつもなのに、何の役にも立たないことに使われてるという風に感じる とこか非現実的な所はと、子供つ。ほく頑固になる傾向があるんだ。大尉はいい機嫌になっ 個人主義者で、彼なりに激しい性格だった、・ あ 0 たが、とてもひたむきだった、と言った。伍長は、それは使えて、曹長に、雑事を忘れて最近妻から来た手紙でも見ないかね、と誘 そうだ、と言って走り去った。一時間近くも、大尉はその場から動ったのだが、曹長は、大尉殿の奥さんならもう存し上げているよう くことができなか 0 たが、しばらくして、ようやく歩くという動作をな気がしますし、それに戦争の準備にかかりませんと、責任重大で 思い出し、よろめきながらテントに戻ると、妻宛てに長い手紙を書すから、と答えた。軍曹の弁解は、これで戦争は五つめですが、そ き始めた。今日、僕はいつもと全く違う権限で命令を出した、と書れそれの戦争が新しい始まりですので、これまで一度も戦闘に参加 6 き出したが、これではうまくないと考え、代わりにこう書き始めした事がないような感しがしますし、メモを取りたく思いますので、