拠点 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1977年6月号
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1. SFマガジン 1977年6月号

て、一種の刺激臭となって空中に漂っていた。・ほくは一日中その木った。西の部隊が全減した今となっては、ここはジャングルの中で の又に留まっていて、暗くなってから、残りを登っていった。監視人間が確保している最前線基地になってしまっていたのだから。こ 7 こより先はすべて、壊減してしまっていた。略奪団の先頭に立っク 哨のプラットフォームに着いてみると、暗くて、空つ。ほだった。一 般守則によってそう置かれている装備の貯えは、まったく手が触れラハリ人のポスト・シニアたちは、ここを無視して、前進すること だが、かれらにはそうした性質はなかった。 られていなかった。ストルデンマイアは全然部下を派遣していなかもできた そして、そのまっただ中に、ストルデンマイアは二十人の男と一 ったのだ。 朝がくると、それがどんなに酷い失敗であったかわかった。・ほく人の少年ーーいや、十七人の男ーーーといっしょにいた。西の庭の天 は頭上にこんもりと繁っている梢の大きな葉から、飲料水を取るじ幕の下に負傷者が三人かそえられた。そちら側の塀がすでに襲われ ようご型の露受けを設置し、その他、暗い間に音を立てずにやれるたのは明らかだった。今でさえ、若いクラハリ人たちには真の規律 ーダーたちは人数がそろうまで待っ忍耐カ 二、三の単純な作業を済しておいた。翌日の夜明けとともに、監視哨はなかった。たとえ、 の設備、特に、拠点および他の監視哨と連絡を取るための通信機をがあったとしても、一つの群が辛抱し切れなくなると、すぐ攻撃を 用意した。案の定、他の監視哨はからだった , ーーそれどころか、ス始めてしまうのであった。 だから、かれらが待ち切れなくなって不用意に塀を攻撃したか、ま トルデンマイアは拠点の通信室に、当直を置いてさえいなかった。 覗いてみると、部屋はからつぼで、ドアは閉まっていた。呼出し・フたは、ストルデンマイアが・ほくの予想していた以上に駄目な指揮官 ザーを鳴らしても、だれも現われなかった。 であって、銃を銃眼からオートマチックと、リモートコントロール ・ほくは拠点内部の大部分の部屋を見ることができ、建物の外側、 で使用するかわりに、兵士たちを、射ってくれといわんばかりに塀 塀の内側を一通りと、それから塀と中心の建物および見張塔とを隔の上に配置したかどちらかであった。・ほくはこれらのことを考える てている中庭を見ることができた。壁や天井に仕込んであるスキャ端から、心の外に押し出していた。その時・ほくは、仲買人がそれほ ナーは完全に働いていた。だが、・ほくがここにいることを、ストル どだらしない指揮者だとは信したくない気持だったのだと思う。な デンマイアやその他の連中に伝えることができなかった。地方施設ぜなら、・ほくにはかれを拠点の責任者にした責任があったからであ の局からの無線は受信できたが、・を呼び出すことはできなかる。しかし、丁度その瞬間、その考えを心から押し出すのを助ける った。なぜなら、ここの発信は拠点の通信室を経由しなければならことが、もう一つ起った。というのは、哨兵の仕事を調べていて、 この梢の監視哨に新しい欠点、つまり、哨兵たちには後衛がない、 ないのに、そこに当直がいなかったからである。 百八十フィート下の地面と、拠点を構成している四つの塀の周囲ということを発見したのである。 には、クラハリ人が、新しい巣に向かう蜜蜂の大軍のように群が拠点の内部の様子を見せてくれる塀のスキャナーに加えて、塀の り、しかも、時々刻々、その数を増していた。それも不思議はなか内側に、そこの司令官が哨兵たちと連絡を取るための八本の電話が

2. SFマガジン 1977年6月号

こうして、・ほくは出発した。 にーーーそれなのに : かれはぐるりと向きを変え、見張塔の壁に 顔を伏せて泣いた。・ほくは後ろに退がった。だが、ジャンは取り巻森林はクラハリ人であふれていたが、かれらは移動中で、人間を いている人々を掻き分けて出てきて、父親に近寄った。そして、父捜索しているわけではなかった。生き残っている人間はすべて、 親の白いガラスシャツの下の幅の広い背中を叩き、父の厚い腰に手一、二か所にかたまっていると考えているようだった。未完成の拠 をまわして、その脇腹に頭を押しつけた。だが、ペランはそれを無点に着くのに三日かかった。ところが着いてみると、軍曹もその部 視して、とめどもなく泣き続けた。ほかの連中はゆっくりと向きを下の兵士もやられてしまっていて、拠点はもぬけのからになってい た。そこでぼくは二人のシニアに不意を襲われたが、なんとか音を 変え、二人を後に残した。 西方の未完成の拠点に伝令を送って連絡を取ることに異存はなか立てすに二人を殺して脱出し、また拠点一一四に戻り始めた。 帰路はもっと辛く、八日間かかった。その距離の大部分は、夜、 った。伝令は、この中で最もジャングル経験の豊富な者でなければ は - ふく ならなかった。とすると、それは・ほくだった。・ほくはストルデンマ匍匐して進んだ。それにしても、幸運と、そして、クラ ( リ人が下 っそのこ生えの中の人間を探していなかったという事実がなかったら、・ほく ィアという名の仲買人の命を受けて、砦を後にした。い は決してそこまで帰ってくることはできなかったろう。かれらの注 と、二人残っている兵士の一人から命令される方がましだったが、 意はすべて拠点一一四に対する襲撃の準備に向けられていた。拠点 仲買人は自分自身の拠点の中では、規則の上では士官であって、二 人の兵士より位が上だった。それに、この拠点を持ち堪えている土に近づくほど、かれらの数は多かった。そして、さらに、あらゆる 地の入植者たちと面識もあり、当然、指揮を執るべき人間だった。方角から、絶えす集まってくるのたった。かれらはジャングルの中 だが、太鼓腹で、胴間声で、白目が妙に目立っ男で、・ほくは胆っ玉にうすくまって待っており、その数は時々、刻々増えていった。・ほく は、拠点そのものに戻ることはとてもできないと判断し、梢に北方監 が小さいと睨んでいた。 拠点の四方に、百メ 1 トル離れて、高さ二百フィートほどの大木視哨が隠してある木の方に向かい、そこの哨兵と合流することにし た。 ( クラ ( リ人は普通、木に登ることも、見上げることもできない ) があり、それそれの梢に監視哨が作ってあった。 ' ほくはそこへ哨兵 を出しておいてくれるように、かれにくれぐれも念を押した。しか 八日目の夜、日の出の一時間前に、・ほくはその木の根元に到達し 力なり高くまで登って、隠れることがで 明るくなった時には、、 も、無期限にそこに留まれる者を選んでくれと頼んだ。また、クラ ( リ人が本気で拠点を占領しようと攻撃をかけてくるまで、兵員ときた。そして、一日中、クラ ( リ人が静かにまた通っていく間、・ほ 弾薬を節約するように頼んだ。 くはそこの木の又にしがみついていた。かれらには、揉んだ草のよ : 心配はいらないそ」・ほくは門を出る直前に、かれと、ほかのうな体臭があるが、ごく接近するか、よほど大勢集まっているのでな 男たちにいった。「いいかい、弾薬があって、それを使う兵士が残ければ、ほとんど匂わない。だが今や、大勢おり、その体臭は、人 3 間の鼻にはごみの匂いを思い出させる不快な息の匂いと混り合っ っている限り、拠点が奪われたためしはないんだからな」

3. SFマガジン 1977年6月号

直面しているーーそして、これまで、周囲のおとなたちに起ったすィアは手間を惜しんで、それを取り替えようとはせす、二本の裸線を べてのことを体験し、その中を生きのびてきた。これからかれは、捻り合わせて、必要に応じて、仮りにつないで、セットに電力を供 7 拠点の中に一緒にいるおとなたちの多くが、自分の目の前で、人間給していたのである。そのワイアは操作板の前に横たわっていて、 だれの目にもよく見えた。だがディクハムは、大ていの近代人がそ としての生得権を回復していくのを見ることになるのである。 大部分の者は、事実それを回復した。これまた、常に起ることでうであるように、無線の知識は皆無だったーーそして、ストルデン ある。拠点に対するクラ ( リ人の総攻撃は、からざおでもみや植物マイアは、みんなに通信室に放り上げられた時、青い顔をして抵抗 クのために、何も喋りたくない心境だっ から、穀物をたたき落すようなものだった。それが終ると、ストルもせず、深い心理的ショッ デンマイアはもはや指揮を執っていなかった。そして、負傷者の多たのである。 ディクハムは諦めて外に出て、拠点の通信室のドアを閉めた。・ほ くが、ペラン・デュ。フレのように、起き上がり、再び銃を執った。 くの覚えている限りでは、それは二度と開かれなかった。 ストルデンマイアは攻撃されている間、一発も射たない者の一人た った。かれと、もう一人の男は、数日後に死ぬまで、結局一発も射その晩、クラ ( リ人はもう一度塀に攻撃を掛けた。それは前回ほ こなかった。しかし、二時間前にしろうとが守っていた拠点は、今ど力強いものではなく、前回以上に力強い抵抗を受けた。今回は、 わすか二名の軽傷者が出ただけで撃退された。だが、これは本格的 や・ヘテランによって守られていた。・ほくの部下の二人の兵士はとい な攻撃の第一日目に過ぎなかった。 えば、一人は戦死し、もう一人は瀕死の重傷を負っていた。たが、 ディクハムという入植者が、今や指揮を執っていた。かれは襲撃の その後、クラハリ人は日に二回、そして時には三回も、拠点を攻 終った直後に一人を見張塔に上げ、自分は通信室にいって、地方施撃した。砦のまわりの屍臭はますます強くなり、高い稍にいるぼく 設軍司令部を呼び出し、救援隊は無理たとしても、助言を得ようとの夢にまで入りこんでくるようになった。そして・ほくは学校の生徒 した。 だった頃読んた、過去の、忘れられた、いろいろな戦争の死者たち ところが、かれは無線機を働かすことができなかった。・ほくは監のいる野原を、さまよって歩く夢をよく見たものであった。クラハ リ人は攻撃のたびに、信じられないほどの死者を出した 視哨の壁のスキャナーでそれを眺めながらどうすることもできす、 せっしやくわん いつもさらに多くの者がジャングルから出てきて、人数は増えてい 切歯扼腕した。こちらの声が届かないので、どこが悪いのかかれに った。この一拠点が全クラハリ人の前進を阻んでいた。というの 教えることができず、かれの無知を呪うばかりだった。どこが悪い かといえば、それは、ストルデンマイアが、一人だけでやっているは、かれらは抗争が一たん始まってしまうと、一時的に退却して休 多くの交換手がたいていそうなるように、自分の機械の操作や維持息することはあっても、心理的に抗争を中断することはできないか を、不注意な自己流のやり方でやるようになってしまっていたことらである。だが、拠点の内部では、守り手の数は減ってきていた。 である。主電源スイッチが擦り切れてしまったのに、ストルデンマもう、見るに堪えない感じだった。ばくは銃をかまえ、引金に指を

4. SFマガジン 1977年6月号

はいった。二人はペランのところに戻っこ。。 ナヘランはストルデンマの三の男たちが射ち始めたというべきであった。なぜなら、その他 ィアの状況報告を聞くと、仲買人と息子の両方を罵った。 の体の大軍が波のように、塀の下に押 の者は、黒ずんだ七フィート シし寄せてきて、丸太を立て掛けて、登ってこようとするのを見て、 ストルデンマイアは結局、結論した。「間違いにちがいない、・ 凍りついていたのだから。しかし、残りの四分の三の有能な男たち ャン。きみにクラハリ語がそれほどわかるはすがないからな。いい かい、あの塀に近付いてはいけないそ。お父さんはきみがいないとは、自動コントロール銃のおかげで三倍の火力を持ち、文字通りホ 1 スで水をかけるように、敵に弾丸を浴びせかけた。すると、突 困るんだ。わたしもきみに怪我をさせたくない。あの塀はおとなが 然、攻撃が跡絶え、クラハリ人は逃走した。 守るもので、きみのような子供がいくところではない。いいかい、 突然、朝日の下に、ジャングルは静まり返った。そして、拠点を取 いう通りにするんだそ ! 」 り巻く四方の空き地は、クラハリ人の死骸と、死にかけている者の、 ジャンは従った。ロ答えさえしなかった。信しられぬーーーことた ットに覆われていた。内部では、戦闘員ー・ーーと が、子供の適応性とはそうしたものだ。それがここで、否応なしに証見るも無惨なカーベ 非戦闘員ーーーの中で、死者一名と、いろいろな程度の負傷者五名が 明されることになった。ジャンは本当の自分を知っていた。だが、 父親やほかのおとなたちのいう自分を信じた。もし、おとなたち出た。そして、一番ひどい一人たけが日よけの下の野戦病院に運ば が、おまえはクラハリ語がわからないといい、拠点の塀のところへれた。 く資格がないといえば、それがたとえ全事実に反していても、そ 死んだクラハリ人は、大軍で進行中に、低空の飛行機から殺虫剤 うにちがいないと思うのである。かれは戻ってきて、負傷者たちのを撒かれたいなごのように、ばらばらに、そして、折り重なって倒 ために冷い飲物を取りにいったり、配ったりし始めた。そして、しれていた。周囲のジャングルにいる連中が、負傷者たちのごく少数 ばらくすると、ジャングルの声は跡絶え、太陽は沈んだ。 の者をしだの葉陰に引っぱりこんだ。だが、かれらには医薬品も外 それそれのクラハリ人は、夜間に殺し合うことはしない。それ科の技術もなかった。そして、間もなく、塀の外の原住民の負傷者 で、夜こそ拠点を落すチャンスなのに、暗くなると、自動的に襲撃と、塀の内側の人間の負傷者たちから、一様に声が上がった。間も なく、目には見えす感じでわかるのだが、太陽が昇るにつれて、温 の試みが止んた。だが、翌日の明け方になると、二千人のクラハリ 人が拠点の塀に跳びかかった。 度が上昇した。そして、拠点の周囲に屍臭が漂いはしめ、目に見え 今回は隠密行動ではなかった。そのお陰で拠点は助かった。見張ない第二の塀のように立ちこめた。 塔の上の唯一の哨兵は、下の連中と同様に眠りこけていたのであ こんなことをくどくどと書いて申し訳ないが、実態はこうなの る。砦の男たちは全員、塀に取りつき、手持ちの銃だけでなく、そだ。こういうことはいつも、こんな具合なのだ。そして、ジャン・ れそれの側に一梃すつ自動リモートコントロールで取りつけられてデュ。フレにとって、これがどんなものか、読者諸君に知ってほしい 7 いるライフルを射撃し始めた。いや、そうではなくて、全体の四分のた。七歳の少年で、母親を失い、死に取り巻かれ、一人でそれに

5. SFマガジン 1977年6月号

っていた。それは事実だった。しかし、だからどうということもなを射殺した。まるで、頭の後ろに目がついているみたいだった。そ かった。かれらは人間と同様に、それが価値あることたと思えば、 れから、突然、ある朝の襲撃で、二人の男が死に、ペランも出血多量 8 何日も断食していることができるーーーそして、今この場合は、それで倒れたーー・・戦闘中に脇腹の傷が開き、出血していたのたった。そ たけの価値があるのだった。餓えることは、仲間であることの代償の日遅く、二人の負傷者が死んだ。夕方の襲撃では、ペランは日よ にすぎなかった。何日か経てば、最も空腹のものが脱落して、植物けの下に、役に立たずに横たわっていた。そして、ジャンと、残っ の実や根を求めてさまよい出るだろうが、満腹すればまた帰ってくているもう一人の入植者が、戦闘の装備をつけて、拠点のまん中の るのである。 広場に背中合わせに立ち、それそれの前にスキャナーを置き、それ : この季節は一週間もすれば終る ! 」カジャよ、つこ。 。しナ「このぞれ最寄りの二面の塀の銃を、オ ート・リモコンで発射していた。 季節が終れば、やつらはいつもよそにいくんた」 半ダースのクラハリ人が塀を乗り越え、拠点に侵入した。ジャン これはもっと正しかった。これこそ頼みの綱だった。しかし、一と入植者ーー。・・名を思い出せないがーーは手持ちの武器をひつつかん 回に二度も三度も攻撃されながら拠点に立て籠っている者にとってで、それらを射殺した。どうして、そんなに運がよいのかわからな は、二週間というのはなみたいていの長さではなかった。ラジオの いが、その男と少年はかれらを皆殺しにし、自分たちは無傷で残っ 夕方のニュースも、これを強調するようになった。 「このジャングルの小さな拠点は、クラハリ の若者たちをまったく 夜がきて、その日の戦闘は終った。だが、後になって、真夜中頃 寄せ付けずにいます」アナウンサーは冷静に喋った。「原住民の前こ 冫、たった一発たけ鋭い。ヒストルの音がして、樹上の・ほくは目を覚 進は阻止されております : : : 」 ました。・ほくはスキャナーに向かい、フードを一つ一つ上げてい ・ほくは揺れる梢で眠りこんた。 き、ジャンが日よけの前の広場に立っているのを突き止めた。塀の 次の二日の間のどこかで、ジャンがついに塀に戻った。何時から内側の隅に何かが横たわっていて、かれは半分影になって、それを だったかぼくは覚えていない。拠点の中の人たちも正確には覚えて見降ろしていた。・ほくが見ていると、かれは向きを変え、灯火の下 いないだろう。かれは自動発射になっている一連の銃を、その射手を横切り、日よけの下に戻ってきた。そこにはスキャナーがあっ が、塀を乗り越えてきたクラ ( リ人に殺された時、引き継いだにちた。前にも述べたかもしれないが、夜の陰影と屋内の灯火とのコン がいない。とにかく、かれは再び戦列に復帰したのだ。そして、戦トラストがひどく強いので、黒っぽく立っているジャンの姿と、。〈 える者は三人に減っており、二人は日よけの下で死にかけていた。 ランらしい横たわっている男の姿とを見分けるのは、非常に困難だ だから反対する者はなかった。 った。ペランは初めのうちは半ば意識がなかったが、今や、その声 砦は、その二日間は人員を失わなかった。その期間中、ジャンは が、近くの電話を通して、弱々しく聞えてきた。 塀の持場を守ったばかりでなく、塀を乗り越えた三人のクラハリ人「ー・・・ー・なんだ ? 」 こ 0

6. SFマガジン 1977年6月号

と、肩の槍傷のためにうめき声を立てながら、自分の息子を負傷者 丿ートの塀に取囲まれた内部の建物の中でも、特に、コンクリート の世話という仕事だけに縛りつけ、こき使っていたのである。ジャの角柱のような見張塔が五十フィートほど空中にそびえ立っている 7 ンの味方は二人の兵士だけだった。かれらはジャングルの中でのかのが目についた。ストルデンマイアはその上の、日よけの下のエア れの戦い振りを見て知っていた。しかし、この二人は、入植者たちコン付きパプルの中に当直を置いていたが、呼び声が始まった時、 からは、どのみち、無視され、見捨てられていた。なぜなら、民間そいつは居眠りをしていた。 人たちはこんな事態になったのは、かれらの、そして一般的には軍それから一台のスキャナーのスクリーンからジャンの声が聞えた 隊の、せいなのだと非難する理由を見つけたい心境でいたからであので、・ほくは拠点の内部を見せているスキャナーの列に注意を戻し る。 た。かれは日よけの下の負傷者のいる所と、塀との中司こ、 ド冫した。ス つまりーー・馬鹿は馬鹿に耳を傾け、賢者を無視したのだ。こんな トルデンマイアはかれの腕をつかみ、それより先にいかないように 引き止めていた。 言葉をどこかで読んだような気がする。胴間声の、三白眼のこの仲 買人は、恐怖と自惚れのために太鼓腹をいっそう膨らめ、畑のこと「 : : : 何のために ? 」・ほくがそのスキャナーに近寄った時、ストル 以外には何も知らない近視眼の、苛酷な、そして負傷している父親デンマイアがいっていた。 に、耳を傾けーー・この静かな、無ロな少年を無視したのだ。ジャン 「あいつらが呼んでいるのは、・ほくなんだよ」ジャンはいった。 だったら、拠点の中でストルデンマイアがどんな行動をとろうと、 「きみを ? きみがここにいるのを、どうしてやつらが知っている クラハリ人がどのように反応するか、毎日毎日、時々刻々、かれにんだ ? 」仲買人は不安そうにかれを見降ろした。 教えることができたはすだったのに。・ほくが監視哨に入った最初の ジャンは、説明しようがない時に子供がよくやるように、だまっ 日の午後に、拠点の塀に対して、先走った攻撃がまたあった。そて、ただ、まじまじと見返した。かれにとってーーーそして、眺めて して、 ーカーという名の入植者が弩の矢を胸に受けて重傷を負 いるぼくにとってーーークラハリ人が、ジャンがここにいることを知 一時間足らずで死んだ。 っているばかりでなく、砦の中にいる人間を一人残らず知っている ナ一声の、 日没の直前に、ジャングルから一つの呼び声が起っこ。 理由は、あまりにも明白たったので、喋っているのは時間の無駄だ と思われたのだ。しかし、ストルデンマイアはクラハリ人にごく単 。ヒッチの高いクラハリ人の声が、何度も何度もくり返しきこえた。 ・ほくは拠点の外側と周囲のジャングルを見渡すスキャナーをよく見純な知能があるかもしれないとさえ、考えたことはなかった。かれ たが、呼んでいる者の所在は止められなかった。スキャナーで見るは多くの都市や、これらの体を飾った若い原住民たちが卒業した学 限り、場面は平静だった。クラハリ人の大部分はジャングルの葉陰校のことなどは無視し、かれらを、動物に近いものとは考えないま になって見えず、拠点は小さな空き地の中にぼつんと取り残されでも、野蛮人たと考えていたのである。 て、熱気にうだっているように見えた。高さ三十フィ 1 トのコンク「戻ってきたまえ。父さんに話してみよう」しばらくして、仲買人 いしゆみ

7. SFマガジン 1977年6月号

つながっているのがわかった。司令官は、その受話器を取り上げ諸君は、クラハリ人のような脅威を前にして、撤退せずに最後ま て、何でも心に浮かんだことを尋ねさえすればよいのである。とこで踏み留まっていた者は、入植者たちの中で最も勇敢で、最も優秀 ろが、このくそ電話は一方通行なのであったー な連中だと思うかもしれない。だが、それはちがう。そういうのは その受話器を、こちらで働かせることはできる。つまり、ぼく 入植者の中でも、最も頑固で、最も馬鹿で、最も貪欲な連中であ は、その電話機のすぐそばで、だれか喋っていれば、それを聞くこ り、石頭で、不信心なやつらなのである。こうした事実のすべてが、 とができる。だが、そちらの端の者が受話器をはずさなければ、ば ・ほくの目の前のスキャナーから、そして、開いている受話器から、 くの声はそちらに届かないのであった。そして、その受話器をはず流れ出してきた。今や、かれらは完全に孤立し、ぐずぐず留まって すように、・ほくがかれらに呼びかけるべルまたはシグナルは存在しいた報いが、初めて、はっきりと現れてきたのである。 ないのであった。もちろん、ぼくは手当り次第、すべての受話器を そして、ストルデンマイアが、かれらに天から授った指揮者だっ 開いた。すると、砦じゅうのいろいろな会話が、こちらの監視哨へ 流れこんできて、目の前のスキャナーの映像のいくつかと合致し この仲買人がなすべきことで、したことは何一つなく、してなら た。だが、監視哨の一つに電話してみようなどといっている者は、 ないことで、しなかったことは何一つなかった。かれは部下が反対 一人もいなかった。な・せ、そうしないのか ? かれらの知るかぎりしたので、哨兵を出さずにしまった。かれは、・ほくが拠点に連れて では、監視哨は無人だったからである。 きた二人の兵士の軍事的な知識と経験を利用するのを怠った。そし こんもり繁った梢の葉陰に横になっていると、ジャングルと拠点て、拠点の守備という問題が生じた時、この二人の軍事的少数派 に対して、多数派ーー戦闘に無知な入植者たちーーに組したのであ の上の空にエイカナー星が昇り、下界には、時々刻々クラハリ人が る。かれは塀の上に兵士を登らせ , ーークラハリ人の先走った攻撃を 増えていった。・ほくは安全で、快適で、そして、手も足も出なかっ た。半年分の食糧があり、露受け器は飲み切れないほどの真水を供招いた。どのみちこの攻撃では拠点が落ちるはすもなかったが、味 給し、そして、微風に吹かれている快適な止まり木の上の・ほくの周方の戦力を削り取る可能性はあったのに。それも、べラン・デュプ 囲には、ありとあらゆる文明の利器がそろっていて、その中には食レを含めて、三人の有力な味方が負傷していて、すでに戦力が落ち 物を暖めたり、ひげ剃りの時期がきたら、その水を温めたりするたているというのに、である。そして、馬鹿の上塗りとして、ジャン めの、太陽熱調理機も含まれていた。・ほくは、下の拠点の中で起る ・デ、プレの身分を、戦士から、ただの七歳の少年に格下げするこ 出来事の大部分を見たり聞いたりしながら、しかも、見られているとによって、自分の部下の中から最も優秀な射手と、クラハリ人に 連中からまったく疑われずに、まるで、目に見えない神のように、 ついての最高権威者を除去してしまったのだ。 そこに横たわっていた。兵隊を持たない指揮官と、間もなくわかる かれがそうした理由は、べランがこの子を馬鹿にしてこき使って 5 のだが、指揮官を持たない兵隊の、運命の傍観者として。 いたからだった。。ヘランは天幕の下に横たわり、妻を失った悲しみ

8. SFマガジン 1977年6月号

せ、覆いかぶさり : っていた最後の二日間に、この季節が終り、年が変ったのだった。 かれらの後から、さらに多くのクラハリの戦士たちが、絶えず塀その瞬間に、クラハリ人にとって、それまでに成功しなかったすべ を越えて押し寄せてきていた。拠点の門がさっと開き、黒っ。ほい手ての冒険は御破算になり、新たな冒険が始まるのである。こうし 足や武器を振り回す羽毛と宝石の川が、広場にどっと流れ込んだ。 て、ウトワードにいるわれわれ人間すべての上にのしかかっていた ろう・せき 間もなく、建物から煙が立ち昇り始め、襲撃者の洪水は乱暴狽藉の脅威は、終った。 跡を残して、引き始めた。 しかし、クラハリ人の年や季節と同様に、あらゆる終りは、始ま 一か所だけ、地面が比較的きれいな場所があった。それは見張塔りにすぎないのだ。数週間たっと、入植者たちはそれそれの畑に戻 の根元の周囲の小さな円の中で、ジャンが倒れていた場所だった。 り始めた。そして、四万人のクラハリ人に包囲攻撃されて、焼か 引き揚げるクラハリ人の最後の群の中に、塀の前でジャンに話しかれ、打ち砕かれた拠点は再建された。その後間もなく、地球から交 けたあの三番目の者に、どことなく似た、背の高い、装身具をつけ渉団が到着し、諸都市のクラハリの成人たちと長い協議を重ねた。 た原住民がいた。そいつは見張塔の根元にきて、しばらくの間、見そして、ウトワードにこれ以上入植者を入れないことが決定され 降ろしていた。 た。だが、すでにいるものは、そのまま留まることが許され、かれ やがて、かれは身をかがめて、ジャンの血を指につけ、体を伸ばらとその家族はタ・フーとされることになった。こうして、若いクラ ハリ人がジャングルでの成人を立証するために行う攻撃から、被害 の壁に厚地の文字を書い して、見張塔の白い滑らかなコンクリート こ。・ほくはクラハリ語を話すことはできなかったが、読むことはでを受けることはなくなったのである。 一方、デュプレ家の財産は、ウトワードに跡取りがいないため きた。そして、かれがアラビア文字に似た書体で書いたのは、次の ようなものだった。 ルの遺体を地球に返送する船 に、竸売に付され、ペランとエル 賃を支払うだけの値が付けられた。そして、二人は出身地のケベッ ク州の小さな町に埋葬されることになった。一方、ジャンについて は、地方施設について無事に生き残った善意の人々が募金をして、 かれの遺体も両親と一緒に送り返されることになった。 ・ほくはこれに反対したが、信じてもらえなかった。ジャンはそん この父親の畑に、 なことは望まなかったろうーーー本当は、ここに、 この意味は〈これは人間の一人であった〉 葬ってもらいたかっただろうに、というと、そんなおかしなことを 書き終えると、かれは向きを変えて、拠点を去った。かれらは全いうのは、よほどひどいめにあったからだろう、と人々は思ったの 9 部拠点を去り、ジャングルに戻っていった。ジャンがこの場所を守だった。

9. SFマガジン 1977年6月号

掛けたことが何度あったかわからない。だが引金は引かなカった てから十五日目に、・、 ート・カジャという一人の入値者がいってい ・ほくのちつぼけな助けが、戦いの結果を左右するわけはないし るのを聞いた。かれは日よけの下に、負傷者やディクハムたちとう ・ほくにとっては、それは自殺に等しかったからである。そんなことすくまっていた。 をすれば、連中は暗くなってから・ほくを追って登ってきて、・ほくを「まあな」ディクハムはあいまいに答えた。かれは背が高く、痩せ 監視し、・ほくが眠るのを待つだろう。眠った時が死ぬ時なのだ。ぼていて、ちょっとロの尖った顔で、目が鋭かった。 くはこれを知っていた。そして、仲間が一人また一人と殺されてい 「やつらたって、永久にこうやっていられるわけはない。食糧がな くのを眺めながら、・ほくにのしかかってくる無力感をどうすることくなるだろう」カジャは日焼けした顔で、地面にあぐらをかいてい もできなかった。 た。「今頃は、このあたりのジャングルの食物は喰い尽されている 冫力いない」 包囲攻撃しているクラハリ人にも、拠点の中の人間にも見えなか ったが、その地域の上空の、目に見えないほど高いところを、偵察「まあな」とディク ( ム。 機が毎日のように旋回して、戦闘の画像と報告を地方施設に送って 二人はこの話題を、まるで地球の人々が株式市場の話をするよう いた。揺れる梢の監視哨で、ぼくは毎日、地方施設からウトワ 1 ド に、感情の籠らない声で話し合った。そこから八フィートも離れて の他の人間たちに情報を伝える、ニースキャスターの歯切れのよ いないところに、ジャン・デュプレがいた。そして、質問されれば い声を、音声受信機で聞いていた。 答えることもできただろうに、かれはまたストルデンマイアに恐い 「 : : : 今日の夜明けの少し後で、第三十七回目の攻撃が、拠点に対顔で命じられた仕事ーー負傷者の世話ーーにかかり切っていて、質 問がないので、黙っていた。 して行われた模様です。偵察機は、四方の塀を取り巻く空き地に、 原住民の新たな死傷者が横たわっているのを目撃しました。周囲の いま、かれは父親の最初の傷ーー・肩の槍傷を洗っているところだ ジャングルの中のクラハリ人の数は、四万人近くにのぼると推定さ った。ペランはかれを見守っていた。ジャンが立ち上って、いなく れ、一回の攻撃に参加できるのは、その内のほんの一部の者に限らなった。しばらくして、突然、ペランが悪態をついた れているのは明らかです。拠点については、映像の示すところでその肩に新しい包帯を巻いたのだった。 は、内部に立て籠っている人々は、その事態を冷静に受け止めてい 「ーー気をつけろ、間抜けめ ! 」 る模様で : : : 」 ジャンは包帯を緩めた。 そして、・ほくは自分のスキャナーと電話に向かい、拠点の中の情「おまえ : : : 」動かしている手元を見るために下に傾けている息子 景を見、負傷者や、死にかけている者や、死と向き合っている人たの顔を、ペランはますます酷いしかめ面をして見つめた。「おまえ ちの音声を聞くのだった : と、母さんは、帰りたがっていたな : : : 地球へ、え ? 」ジャンはび 9 「 : : : やつらだって、いっかはいなくなるはずだ」・ほくが木に登っ つくりして顔を上げた。「母さんは地球に葬ってもらいたがってい

10. SFマガジン 1977年6月号

ば、かれらは拠点を破壊し、他の人間の居留地に進むことができるれはスキャナーを放り出し、振り向きざま、銃をひつつかんで身を から、と。かれはそれを拒否し、今あそこに降りて、たった一人で伏せた。そして、かれが射殺した二人目の敵の槍は、そいつが地面 いる。突然、・ほくはかれの孤独に思い到り、強いショックが体の中に倒れる前に、かれの頭のすぐ上の見張塔の壁に、ぐさりと突き刺 を駈け抜けた。たった一人 , ーーあそこに、父親や他の男たちの死骸さった。 と一緒に。外ではクラハリ人が再び攻撃の用意をしているのに。た 攻撃は失敗し、原住民は後退した。ジャンはスキャナーを放し とえ、自分が死ぬことになろうと、あの子を救い出さなければならて、二人のクラ ( リ人の死骸を、邪魔にならないように塔の向う側 ない、とぼくは思った。 に引きずっていくという重労働に取りかかナ っこ。人間のおとなだっ 今すぐ、この白昼に、・ほくが木の幹を降りていかない唯一の理由たら、そうやってかれが引きずっていくことはできなかったろう。 は、万分の一ぐらいは成功するチャンスのある作戦を、たてたいとしかし、クラ ( リ人は人間よりも、骨が細く、痩せており、必死に 思ったからだった。・ほくは自分の命が惜しいのではなく、ジャンのなって動かせば、かれでも片付けることができたのである。 ためにーー犬死はしたくなかったのた。・ほくは起き上り、快適で安その晩、日没直前に、もう一度、軽い攻撃があったが、塀を乗り 全な止り木の上を、ゆきっ戻りつした。二歩あるいて、くるりと向越えた原住民はいなかった。それから、夜の闇がわれわれを包んだ き直って、また二歩あるいて : : : 必死に考えながら。 ・ほくはまだ頭を絞っていたが、かれを救出する方策は浮かばな そうしているうちに、クラハリの攻撃が始まった。ほとんど・ほく の真下で、はしけるような喚声と、物音が起った。・ほくはスキャナ大ざっぱにいえば、かれを救出してから、拠点の門を明け放しに 1 に跳びついた。 しておくことを、・ほくは考えていた。そうすれば、クラハリ人は中 ジャンは見張塔の西壁を背にして立ち、一連のスキャナーを前にに入って、内部を荒らし、先に進むーーーわれわれが戦いをさけるよ して、全部の壁の、全部の銃をリモー ・オートにして射ちまくつりも、もっと装備の良い所へ、移っていくと思われたからである。 ていた。もしも銃が、数年前のように、自動装坂式でなかったら、 おそらく、拠点を落せば、かれらはジャンやーーー・ほくをーーー探し回 りはしないだろう。 決してこういうことはできなかったろう。だが今では自動装坂式に なっているので、かれは一人で拠点を持ちこたえていられるのだ。 ・こ・、、・ほくは手が出せなかった。・ほくは木の上で地団太を踏ん かれは模型の列車を、カープから飛び出すほどのスビードで走らせだ。この高い場所にいれば、気づかれずに、まるで地球にいるみた ている子供のように、かすかに顔をしかめて、一心に銃を操作して いに安全だ。しかし、木の幹を降りていけば、暗闇に紛れていった いた。うしろの見張塔の陰になって、かれから見えない塀を二人のとしても、三十秒とは生きていないだろう。それはちょうど、数千 攻撃者が乗り越えた。だが、かれには依然として、頭の後ろに目があ頭のライオンがひしめいている闘技場に垂らしたロープを、降りて 7 るようだった。その二人が丁度、後ろの見張塔の角を回った時、か いくようなものだ。降りていって : : : それから先の妙案は、何一つ っこ 0