である。 ″を、その位置に向けた。 ″さて、そのネガを現像してみて、彼らは驚い そしていろいろな観測から、姿の見えない白鳥 ″た。画面の中に、押しあっている二つの星雲らし ル座 ><—の質量は、太陽の八倍もあることが判明し〃 ″く思われるシミが写っていたのである。 ーデはこれを見てすぐに、白鳥座は一対の しかも白鳥座の >< 線の強度は、千分の一秒 くらいの周期で、鋭く変化している。 ラ ) 銀河系外星雲が衝突しているもので、そのために プ信 強大な電波が放出されているのだ、と結論してし このことから白鳥座 X—の直径は、なんと三〇 れ通 さ tn 〇キロメートル以下という結論がでたのである。 ″まった。 しかし、それから十年をへて、大型の電波望遠 ( そして、こんなに小さくて、太陽の八倍もの質 ″鏡が建設され、電波源の精密な測定ができるよう かく量をもっ天体といえば、これはもう、プラック 質輝 物く ・ホール以外にはよ、、 になるとともに、白鳥座については、意外な事 ということになったの の赤 実が判明したのである。 星はナ 銀河系外星雲が衝突しているとすれば、電波は ス・フラック・ホールというのは、星が進化し、老″ ガ 当然、写真に写「たシミのような部分から出てい いて行く過程で、中性子星になっても、なお太陽″ なければならない。それなのに、電波は、その両 画つの質量の三倍以上というような大きな質量をも 0 ″側の、かなり離れた部分から出ていることが分か ている場合、さらにその星の直径が三分の一ほど″ 工る ″ったのだ。しかも電波源の広さは、写真に与った 一れ収縮して、突然、宇宙から姿を消したものであ″ コま ″部分の二〇倍もあったのである。 こうして白鳥座は、銀河系外星雲が衝突して このような星の世界では、重力が無限に強くな イ吸 ″いるのではなく、実は銀河系のような宇宙が、妻 口にり、重力以外のどんなものも、対抗できなくな 0 ~ てしまう。 まじい爆発を起こしているものだと、解釈される 位置を決めた >•< 線星である。 に至「たのである。 そのため光も物質も、どんな信号も、強大な重 ″すなわち「爆発する銀河」が、この強烈な電波その後、オランダのライデン電波天文台で、こカ場のために、ことごとく吸いこまれてしまい、 ″源の真の正体であったわけだ。 の白鳥座 ><—の近くに電波源のあることが分かもはやそこから逃げだすことができないのであ″ 一方、白鳥座の方は、東大宇宙航空研究所の小り、 HDE226868 という登録番号がつけらる。 田稔教授ら日本グルー。フと、アメリカのれた。 白鳥座は、星の方から、大量の物質 ( アメリカン・サイ = ンス・アンド・ = ンジ = アは青白色の巨星で、白鳥座 ><—とべアをを吸いこんでおり、その過程で、強烈な線を放 ″リング研究会社 ) とマサチ、ーセッツ工大のロッ組んでいることも明らかになった。つまり、たが出しているものと思われる。 ~ シ教授らのグループとが、激しい競争を演じて、 いに共通の重心の周りを回る近接連星だったわけ こ 0 / 8
″いてい星座になっている。 る。それにしても、海蛇座を始めとして、ヘびの″ にもかかわらず、ネコはなぜ天に昇れなかった フランスの・・ラランドも、その一人だっ名のつくものは、蛇座、蛇つかい座、水蛇座と、 た。彼は、こういっている。 四つもある。それにたいして、カエル座の如きも ″のだろうか。 庭で立小便をしながら、そんなことを思った私「私は、猫が大好きだ。猫を讃美している。六十のが、一つもないというのも、奇妙なことである。 は、どうも気になるので、早速、星座の歴史を調年間にわたる私の天文学界での努力に免じて、猫 を一匹、空に入れることを認めてほしい」 夏の天頂高く昇る白鳥座は、北十字星とも呼ば べてみた。 こうしてラランドは、夏の初め、南西の地平近れる。 すると、やはりネコ好きの天文学者はいるもの で、ネコも一度は星座になったことがあるのであくを、長々とうねる海蛇座の近傍に、ネコ座を新アルファ星のデネプと、べータ星のアルビレオ″ る。 設したのだった。 を結ぶ線と、イプシロンとデルタをつなぐ線と″ / ヒロニアに始まり、古代ギリシアの 一八〇一年に、ベルリン天文台長の・・ポが、ガンマ星のサドルのところで交差し、均整の ″星座よ、・ : ) の四ーデが刊行した星図には、このネコ座が記載されよくとれた美しい十字を形作っているからだ。 頃には、すでにプトレマイオス ( トレミー ている。 白鳥の姿を描く場合は、デネ・フは尾、アルビレ″ 八の星座が完成していた。 が、その後、星座が天球上の区画として、境界オはロばしである。そうして、イ。フシロンとデル これは、中世の暗黒時代から文芸復興期に至る 千五百年間にわたって、ヨーロッパを中心に、広線をきちんと引かれ、整理されるようになるととタが翼となる。 もに、ネコ座は姿を消してしまった。 白鳥の首の中ほどには、近頃、人々の大きな関 く使われたものである。 しかしその後、航海術の発達とともに、新大陸ネコ好きの者にとっては、大変残念な話であ心を集めている線星ーー白鳥座がある。ま た、その近くには、強力な電 や大、小マゼラン雲の発見などがあり、ヨーロッ 波を放っラジオ星ーー白鳥座 ″パ人は南半球の星々に、親しく接するようになっ がある。 一九五二年に、イギリスの すると、そこには星座のない空白のところが多 電波天文学者・ライルは、 いので、新しく作る必要が生じてきたのである。 通 また天文学が発展し、観測が精密に行われるよう rn 同僚のスミスと協力して、こ″ ( の白鳥座の位置を正確に測 になるにつれ、北半球でも、。フトレマイオスの星 座だけでは、不便になってきた。 定し、その結果を、アメリカ″ 座 島 のパロマ山天文台に詳しく通 こういう時代の要請を背景にして、一七世紀か 知した。 ら星座の新設が少しずつ始まり、一八世紀には、 ハロマ山では、早速、 頂点に達した。ちょっとでも名の知れた天文学者 7 2 デらが、この報告を受けて立 なら、天空のどこかの星の群を勝手に集めて、新 ″しい星座名をつけることに、熱中したものであ ち、口径五メートルの望遠鏡 る。 ・ ) い耋一 3 ャ「ゾを
でてくたあ 世界 (-DL-L 情報・ ▽俊英の異色作△ コート ( 前篇 ) カメガル ▽珠玉ファンタジイ△ インキーに詫びる 消えた少女 良き隣人 ◇連載◇私をに狂わせた画描きたち ジェイムスン教授の肖像 ( その一 l) 星座の歳時記連載ロ白鳥座とラジオ星の正体 日本こてん古血 ( 第回「科学童話」という名のハチャハチャ ・連戳 2 ワンダーランドへようこそ・ 放浪者シルハーサーファー スキャナーゼラズニイはやつはり大物なのだ サイエンス・トピック連載 2 日本も静止衛星時代へ 宇宙塵周年を祝う会 COSMICON く 7 ・レポート 3 ^ 日本 > 柴野拓美 ^ 海外 > 設水研 てればーと : かんべむさし ート・・クリ 6 村上博基訳 リチャード ・マシスン 伊藤典夫訳 エドガー ングボーン 伊藤典夫訳 2 野田昌宏 4 日野ニ郎 日下実男 2 横田順彌 田三平 大野万紀 池見照ニ 204 120 2 14 122 ーー 3 イラスト 真鍋博中島靖侃 金森達楢喜八 岩淵慶造畑農照雄 佐治嘉隆中村銀子 浅賀行雄加藤直之 スタジオぬえ 表紙 加藤直之 目次カット スタジオぬえ 扉・目次レイアウト安藤三香子
少々、水をかけたくらいでは、逃げてさえもゆ かない。食事のときなど、このネコがガラス戸の 6 向こうから、じっと部屋の中をうかがっているさ まを見ていると、こちらが実は動物園のオリの中 - 、に入 0 て」るも 0 で、ネ「 0 方が自由な見物人で 。なしか、と疑いたくなるほどである。 草むらでは、先ほどからガマが眼をむき、 悠然と坐ったままだ。 、ガマを眺め、ネコを見ながら、 「星座の中には、ガマ座とかカエル座、あるいは ネコ座というのは、あったかなあ」 と考えた。春の初めに、天頂近くに現われる淡 い星座に、ヤマネコ座というのはあるが、ヤマネ コとカイネコとは、別な種類である。 白鳥座とラジオ星の正体 つかまれてしまったのだ。それも一瞬のことで、 カイネコの先祖は、アフリカや南ヨーロッパ、 気がついたときには、もう数メートルも向こうに 庭に出て、ばっと前をまくり、小便をする。夏行っており、たちまち闇の中に消えた。その鮮やインドにかけて分布するリビアネコで、古代エジ プトの第五王朝 ( 二四九四 ~ 二三四五・ O) の ともなれば、草いきれや土の香が、微かに漂ってかな手口から見て、たぶん常習者だ 0 たにちがい 頃の絵に、すでに首輪をつけたネコの姿が描かれ ″きて・ : : ・日常の行事の中でも、私の最も気分のいない。 い瞬間の一つである。 家の庭で立っているときは、つかまれる心配はている。 したがって、少なくとも四千五百年も前から、 近所の人に見られて恥ずかしいとか、草や木がないが、代わりに、三歳の幼女が、大きなサンダ 枯れてしまうとかいって、これまでに何度も、家ルをひっかけ、キャッキャッと騒ぎながら、前を人間にならされ、飼われていたわけである。それ ほど古くからの、親しい間柄でありながら、人間 人から苦言を呈されたがーーそうとて、事実はまのそきにきたり、六歳の坊主が飛び出してきて、 さにその通りなのであろうが、こればかりは、当親子で連れションという光景を展開することになの作った星座に、ネコ座というのがないのは、何 とも不思議なことに思えてきた。 ったりする。 ″分、止められそうにない。 立っていると、いろいろなものが寄ってくる。 今日は、人間は寄ってこなかったが、股ぐらをネコというと、イヌの名がすぐ浮かぶが、この 新宿の西口に、屋台の飲み屋がずらりと並んでいくぐって、ネコが首を出した。のらネコのくせ方は、大大座、小大座、それに猟犬座と、三つも に、いつのまにか庭のあたりに棲みつき、よく人空にある。 た頃は、とんでもない目にあったことがある。 このほか馬も、牛も、兎も、山羊も、蠅まで 例によって、暗がりで、やっていると、不意にになれて、飼いネコみたいな、大きな顔をしてい : およそ人間の身近にある生きものは、た 横あいから若い女が現われ、いきなり前のものをる。 連載 曰生座の歳時記 日下実男 フォト / 佐治嘉隆
はるか海上から、波と風音をぬって銀のすずやかな叫びが返ってオランダ人は激しい歓びの声を残して波間へ消えたのだ・ 来た。高く甘い、人智を越えた狂喜の叫びであった。 ・マックリンの足はとまり、思わず息を呑んだ。洋上に目 この時、彼が激しい衝撃を受けたのは、ルースの運命の恐ろしさ をこらす。 のためではなかった。その恐怖など忘れてしまうほど激しい嫉妬に 「ティアマット ! 」彼はかすれた声で叫んだ。 とらえられたためであった。 近くの海から泣き喚くしわがれ声が聞こえてきた。 他人がティアマットを甦らせ、他人が彼女の呼びかけに応えて海 「ティアマット ! 中に眠る都市へと彼女とともに去ったことだ ! 彼、ヒュー そのしわがれているが感情のこもった声の主は、ジャン・ルースクリンこそが、本来彼女の選んだ人間であったはずた であった。そして、マックリンは、彼の姿を認めた。 のちになって、マックリンは、このときあやうく狂気の淵に立っ 太ったオランダ人は浅瀬を、なかば転び、なかば泳ぐように太いており、まかりまちがえば呼びかけに応えて彼自身が海へ乗り出す 腕を無器用にまわして、もがきながら進んでいる。 ところだったと気づいた。 銀のすずやかな呼び声に、彼は答えているのである。まもなく彼 は波の上に頭を見せているばかりとなった。 彼を思いとどまらせたのは、海岸へ駆けつけてきたアラブ人作業 「ルース、待て ! 待つんだ ! 」呪縛を破るようにマックリンは呷員たちの興奮した叫びと、彼をいましめる言葉を口にしながら、波 び、波打ち際へと走った。 打ち際から引き戻したソープとド・ファーディのおかげであった。 ルースは一度も振り返らない。彼は狂ったように先へ先へともが 「マックリン、どうしたんだ」 いている ・マックリンは震える腕で洋上を指し示した。「ルース いったいどこへ。遠い波頭に見え隠れする軽やかに泳ぐ白い女性が ! ティアマットを甦らせる鐘を鳴らした。すると彼女はやって の姿をしたものへ向かっているのか。それは、女性だろうか、それ来て彼を導いた ! それで彼は行ってしまったんだ ! 」 とも白波の錯覚たろうか。 ソープが確信にあふれた口調でド・ファーディに言うのが聞こえ やがて、ヒュ ・マックリンに、月へ向かって、伸びる白い両腕た。「彼は、あらぬことを口走っている。落着くまでいっしょにい と歓喜に満ちた顔がちらりと見えた。そして、喜びの叫びが再び聞てやってください。その間にルースを捜して来ますから」 こえてきた。またそれに答えるルースの叫びが聞こえ、彼は波間に マックリンは砂に腰をおろすと頭を抱えた。ド・ファーディの神 隠れていった。 経質な言葉も、おびえたアラブ人たちの低いささやき声もほとんど その瞬間、マックリンは二つの頭が見え、しかも蛇がとぐろを巻彼の耳に入ってこなかった。やがてソープは戻って来た。 くように白い腕がルースの首にまかれていたのを目撃した。そして「ルースはどこにも見当たりませんよ、隊長 ! マックリン、本当 8 5
泳ぐ彼女を見守り、彼女の唄うような声を聞いていたい。彼女を通 笑い、小さな銀の波を彼の心に立たせた。 して、人は永遠の生命と若さ、終りのない美に触れることができ 6 「知っています。でも、できるかしら」彼女は言った。 彼は言わねばならない。彼は彼女の瞳を見なければならす、しかる。 ・マックリン。その醜いもの 「ヘルメットを脱ぎなさい、 も言わねばならない。 言葉は、彼にと「てもあまりに刺激的で、ひと言すっ、や 0 とロは、海の美しさを味わう妨げになります。直接水に触れるのです。 わたしに、あなたが触れられるように。唇にくちづけできるよう に出した。 に、そして陸地から永久に自由になるのです」 「君は、邪悪だ、ティアマット。君はわたしの友人を殺した。君は 彼女は彼に腕を伸ばした。彼女の柔らかな唇は、情熱的に微笑ん 彼はロを閉じた。喋り続けるのが難しい。彼女の体は、美事なばでいる ・マックリン」 かりすらりと伸び、漂う黒髪の下の肩は、まるで白い珊瑚だ。彼は「〈ルメットを取りなさい、ヒ 1 彼はぜひともそうしたかった。だが、心のどこかに眠る恐怖がそ 再び話そうとした。 れをおしとどめている。神殿の壁画の記憶が、ティアマットの呼び 「わたしが来たのはーー」 彼は言葉を続けることができなかった。あまりの冒濱だ。それかけに応じた人々の描写が泛んできた。 は、「わたしは、君を殺すために来た」と言う言葉だけではすまな「彼らは、どうだ「たろう」彼は動揺する我が身に荒「にく問いか いのだ。命あるこの美しさを生けるまま死につなぎとめなければなけた。「真の死をまぬがれた彼らは、ここで仕合せだったろうか」 「な・せ彼らのことをそんなふうに考えるのです。彼らは永遠の生命 らないとは ティアマットは微笑んでささやきかけた。「あなたは、わたしをを得たのです。彼らは死すべきものであったがゆえ、マルダックに まわりをごらんなさい。ここで、あな 減・ほされはしましたが 愛したからやって来たのです」 たは不満なのですかー ・マックリンは、その言葉が正しいのを悟った。 そして、ヒュー いや、とマックリンは考えた。妖精の国で、ひとりたりと不 彼女は白い腕をゆっくりと上にあげて言った。「以前わたしは、 仕合せな者がいるだろうか。 愛する者を人間の世界からつれて来ました」 ティアマットは言った。「ここで、わたしといることに、不仕合 彼女は一層彼に近寄った。彼女の瞳は楽し気な光に輝いている。 ・マックリン。わたしを愛して、ずせがありますの」 「お気に召したかしら、ヒュー マックリンはゆっくりと腕をあげると、ヘルメットの重い・ホルト っとここにいなさい」 をはずしにかかた 「ああ」彼は言った。「そうする」 ルースとソ 1 プが、海の民とともにぎごちなくやって来たのは、 。冫いたいと強く願った。そして水品の塔の間を 彼は、彼女のそ・よこ
いて答えた。 行きつくところまでいかなければ、彼は納得しないだろう。 ソー。フは波が腰のあたりまで来るところにいた。そして白い女性「わたしは、彼らのあとを追う。ティア「 , トのあとを。彼女はこ がゆ「くり、ゆっくりと彼の方に泳いでくるのを石のようになってれ以上犠牲者を必要としてはいないだろう」 ド . ファーディは少々たじろいだ。「気が狂ったのか。海へ、自 見つめている。 マックリンは突然、彼を柱にしばりつけている皮ひもをひつば分から入ってゆくというのか」 「潜水具がある。全身を包んでしまえるから、かなりの深さまでだ り、とりとめのない警告の叫びをあげた。 いしようぶだ。それを使って行く」マックリンは答えた。 彼は、ソープの耳にはその叫びが何の効果もないと判っていた。 しかし、ソープは自分で恐怖にとりつかれ、踵を返して海岸〈と向彼は急に声を荒らげた。「他にどんな手がある。「ルダ , クの警 告を無視して、古代の邪悪を目覚めさせてしまったのは、われわれ 力いはじめた。 ゅ 0 くりと、なめらかな動作で泳ぐティア「〉トは彼の背後に迫の落度だ ! われわれの頼るべきは、現代科学だけとは限らない った。月光のもとでソープの青ざめた顔がゆがんだ。白い両腕が彼 ! 」 小男の学者は腕をふった。「そんなことは狂気のさただ ! それ の首に背後からまきついたのである。 マックリンの耳に恐怖の叫びと、歓喜の銀の叫びが同時に聞こえでも、ーーわたしはたしかに、見はしたが ! 」 マックリンは、あまりにも夢中で数時間彼を無視していた。潜水 た。そして、二つの頭は倒れていった。 具の整備に没頭していたのだ。背にジ、ラルミン製の酸素ポン・〈が ついている。浅い海でアマチ = ア・ダイ・ ( 1 が使いこなせるように 彼は、あとになって皮ひもに縛られた自分がなかば気が遠くなっ ていたのだろうと思った。というのも、次の記憶は、ド・ファーデくふうされた簡単なものだった。 ベルトに鉛のおもりをつけるころには太陽が昇ってきた。鉛底の イが鋭い声で語りかけながらあわてて彼のひもを解いているところ 靴をはいて、彼はどしどし歩いて神殿へ向かった。 に飛んでしまっているからだ。 ド・ファーディはおびえた様子で彼についてくる。小男の学者 「見たそ ! 」ド・ファーティは上ずった声で何度も言った。「見た は、碑文の記された石の迫持からマルダックのシストラムをマック ぞーーーなにかをーー来るとソー。フを引きずり倒してしまった ! 」 小男の学者は体を震わせ、ひもを解く手元もまるで定まらなかっリンが取り上げてベルトにさすのを、目を丸くして見つめていた。 「マックリン、なんてことを ! 」彼は叫んだ。「まさか古代の呪術 「アラゾ人たちも見ていた ! 奴ら逃げ去ってしまった ! マック用具に力があると思ってはおらんたろうなーー」 マックリンは陰気な目差しで、石の碑文をたどった。「マルダッ 3 いったいどうしたらいいんだ」 ・マックリンには戻っていた。彼は落着クのカ、マルダック英智、マルダックの王笏、そして凍らせ、縛る 寄妙な冷静さが、ヒュー
は卑怯者でもなければ馬鹿でもない。かれは状況を把握しておる。 とともに、幽霊のささやきを思わせるような、絶望に満ちたつぶや ところが、われわれの方はなにもわからんときている。そのわれわきを聞きとったのである。 そら耳か いや、サイモン・ライトの聴覚にそら耳はあり れがしびれをきらして、かれを危険な目にあわすようなことになっ てはならんそ」 得ない。だがしかし、かれはいま、ひたすらそんな音が伝わってく カーティスは溜息をついた。「わかっているよ」岩の上に腰をおることを待ちわびているのだ。そのために、風のそよぎがかれの聴 覚と脳をそんなふうに反応させたのではあるまいか : ろしているかれは、全身で伸びをしながらつづけた。「とにかく、 カーティスとおなしく、かれもまた、そのケオグとなのる男が一 早いとこやって来て欲しいもんだぜ。まったくこの苔蘚類ときた 刻も早く姿をあらわして欲しいと待ちのそんでいるのである。 ら、こっちの頭の中までおかしくなってくる」 手足の代りとなる磁気ビームを操りながら、サイモン・ライトは時間が過ぎた。土星の輪は白い炎のように中天へかかり、 もの月が現われては消えていく。苔蘚類は風が通るたびに徴細な埃 ひらりと宙空へ浮上した。透明金属で作られた箱型の体からは、レ を立てながらかすかにそよいだ。時たまカーティスは立ちあがり、 ンズ眼と共振唇とがっき出ている。 せかせかとそのわずかな空き地の中を歩きまわったりした。そんな サイモン・ライトにとって体というものはないにもひとしい。か れ自身、その体を見ることはほとんどできないと言ってよい。かれかれを見守っているオットーは地上に体を投げ出したままたが、そ はただ、む臓の機能をはたしている漿液ポンプのリズミカルな音をのさまは、夜目にも白い弓が一張り、無造作に地上へころがってい るかのように思えたりした。グラッグの方は逆につっ立ったまま、 感じ、人工感覚器による音や光を感じとれるにすぎないのである。 かれのレンズ眼はどんな場合でも、人間の肉眼よりはるかに鋭敏夜闇の中に黒々とそびえ立つかのよう : とっぜん、耳馴れぬ音が伝わってきた。サイモンが耳を澄ませ、 な能力をそなえているが、そのかれでさえ、谷間の彼方におきつつ ある出来事を見通すことはできなかった。町は、霧と夜闇の彼方にしばらくしてから言った。 「男が二人。谷間の方から斜面をこちらの方へ登ってくる」 たた、ひっそりと沈んでいる。 ー・、ばッと立ちあがった。カーティスは鋭く言った。「よ 何事かがそこにひそんでいるとも思えなかった。平和そのもので あった。だが、そこに住むそのケオガとなのる男からの連絡は、そし ! 」そしてつづけた。「正体を確認するまでかくれていた方がい いそ」 の町に、到底かれひとりでは戦いきれぬ恐るべき危機が迫りつつあ たちまち四人は暗闇のなかへ身をひそめた。 るーーーと絶叫しているのである。 と、そのとき、サイモンは、かすかに苔蘚類が踏みしだかれるよ近づいてきた二人は、ひそんでいるサイモンの磁気ビームにひっ かかりそうな位置から姿をあらわした。かれらは空き地へ入ってく 3 うな音を感じとった。電子マイクロホン機構によって常人の耳より もはるかに鋭いかれの聴覚機構は、かすかに移動していくその足音ると、長い登りにはけしく息をきらせながらあたりを必死で見回し
たちはいけにえとしてささげられた。その邪神のためにマムルスの異教徒たちにとってはとほうもないといえるほどの金額を申しでた 賢人たちは、この世のどこにもないような巨大な神殿を建て、そこのに、どこに向かおうとしているかをつたえると、 っしょに行こ でマムルスの人びとは神をあがめるのである。その都市をのがれたうという者はひとりもいなかった。そこに足を踏みいれたものはお 私は、のちの人がマムルスに向かい命を落とすことがないように、 らず、砂漠もその方角にはあまり遠くまで馬を駆ることすらないの ここにこの警告をのこす〉 だった。とにかく全員が、山を越えた土地は悪魔の住みかであり、 その碑文がわたしにおよぼした効果を想像できるでしよう。人類邪悪な神霊の巣窟であると完全に信じきっているのだ。 の記憶からうしなわれてしまったひとつの都市への唯一の手掛か その迷信が彼らの性根に確固としてきざみつけられていることを り、時の大海に没した文明の、最後の浮遊物なのだから。そのよう知り、説得をあきらめて、わたしはひとり、水と食糧を積んだ二頭 な都市が存在したということ自体は、ありうるように思われた。そもの痩せたラクダを引いて出発した。そして三日のあいた焼けつく太 そもカルタゴについては、 いくつかの固有名詞以外ほとんど知られ陽のもと砂漠を横切り、四日目の朝に、峠道へとたどりついた。 ていないのだ。ローマのスキ。ヒオがその神殿宮殿をまさに塵へと打 ちくだき、大地を完全に鋤きかえしてしまって、かって都のあった砂峠は狭い岩の割れ目にしかすぎす、しかも地面には巨大な岩石が 漠には勝利のロ】マ軍旗のワシがはためいたのだが、かってこれほ厚く積もっていたから、そこをとおりぬけるのは長時間の苦行だっ ど完璧に地上からほろびさった都市、ほろびさった文明はなかった。 た。そして両側の絶壁はひじように高くそびえ、その狭間はといえ その碑文のある石塊をみつけたのは、さびれたアラ。フ人の小集落ば、陰になり微風がたって半分闇となっているのだった。やっと通 の近くだった。同行してくれる者をだれかその集落でみつけようと過しおえたのは、午後も遅くなってからで、わたしはしばし身じろ 思ったが、ひとりとして応じる者がない。峠道はそこに見えておぎもせずにたたすんだ。峠のこちら側から砂漠が斜面をなして広大 り、高くそびえる蒼碧の断崖に細い裂け目となって通していた。本な盆地へと向かっており、その中央、たぶんわたしの立っていると 当は何マイルもさきなのだが、砂漠の陽光が引きおこす目の錯覚のころから二マイルばかりのところに、マムルスの廃墟が白くかがや ため、すぐ近くのように思われた。地図にはその山脈はたしかに、 いていたからである。 アトラス山脈の低い支脈として載っており、背後の平地はイジディ そこから廃墟まで二マイルの距離を行くあいだ、自分がひじよう ー砂漠と記されていたが、地図でわかることはそれだけだった。確に冷静な気持ちたったのをおぼえている。その都市が存在するのは 実に当てにできるのはただ、峠を越えると砂漠があるのだというこ事実たと信じてしまっていたからで、もし廃墟がそこになかったと とたけで、たどりつくにはじゅうぶんに糧食を準備しなければならしたら、逆に、みつけたときにも増しておどろいたことだろう。 ないというのも明らかだった。 峠の出口から目にはいったのは無秩序にかたまりとなった白い破 だがアラ・フ人たちは、それ以上のことを知っていたのだ。貧しい片群だけだったが、近づいてみれば、そのそれそれがくずれおちた 7
そのとき隣の爺は畑を鋤かないで麦を蒔いていたの ら、甘い西瓜も出来るだろう。甘い瓜も出来るだろ で、花咲爺は大声で「おーいおーい隣の爺さん、そん う」とおっしゃいました。 な堅い土に麦を蒔いてはだめた。畑を鋤きなされ。馬 「はてな、西瓜や瓜のことは存じませんが」と、花咲 と鋤を貸してあげよう」と、 いいましたが隣の爺は知爺がいうと、 らぬ顔をしています。 「ははははは、苺でも瓜でも西瓜でも同じじゃない 花咲爺は、きこえないのかと思ったので、わざわざ か。一体どうして苺を甘くするのか」 そばへ行って教えてやりましたが、隣の爺は「面倒臭 「骨の肥料で甘く致します」 いからいやだ」と、 「では、骨の肥料で瓜や西瓜を作ってごらん。きっと いって堅い土に麦を蒔いてしまい ました。 甘くなる」と殿様がおっしゃいました。 殿様がおっしやった通りにしたら、本当に甘い瓜や 春が来ると、花咲爺の麦は大そうよく出来ました が、隣の爺のはさつばりためでした。 甘い西瓜が出来ましたので、それを殿様に差し上げる 「ちえー、やつばり花咲爺のいう通りか」と、ぶつぶ と、殿様は大そうお喜びになって、また御褒美を沢山 下さいました。 ついいながら隣の爺は花咲爺の馬と鋤を勝手に持出し て畑を鋤きましたが、その時は麦の根が長く伸びてい 隣の爺も苺を作りましたが、下肥ばかり沢山やっ たので、それが鋤の先にひっかかって皆切れてしまい て、骨の肥料をやらなかったので、葉ばかり繁って、 ました。それで麦はすっかり枯れました。 実といえば、味も香もないものが少し出来たばかりで した。 隣の爺は腹を立てて、花咲爺の馬を食べてしまいま そこで、隣の爺は花咲爺の真似をして、苺畑に骨の した。そして骨は畑へ捨てました。 粉を撒きました。それから苺の実を笊に入れて、 花咲爺は馬の骨を拾い集めて畑へ埋めて、その上に 「甘い苺、甘い苺、骨の肥料で作った苺」と、売って 草苺を植えました。 次の年の春になると、白い草苺の花が咲いて、やが歩きました。ところが、その苺を買って食べてみる と、やつばり味も香もなくて大根のようだったので、 て真紅な苺の実が沢山なりました。香がよくて、蜜の それからは爺が町を通るたびに「やあ、大根苺が来 ように甘い苺でした。骨がとけて肥料になったので、 こんなに美味しい苺が出来たのです。 た」と、言って人が、からかいました。 ざる そこで花咲爺は骨の粉を笊に入れて、 実がなってしまってからでは、 いくら骨の肥料をや 「花咲爺、花咲爺、甘い苺をならせましよう。美味し っても役には立ちません。たから皆様も骨の肥料をや い苺をならせましよう」と、 いって歩きました。 るには早くしないと駄目です。 ことば 又殿様がお通りになって、 父兄への言 「よく面白いことをいう爺さんだ。甘い苺が出来るな ざる 64 :