ヒノはうれしそうだった。 《ジュース》を出発してから似たよう線を反射していた。これまでの惑星群は紫、藍、青、緑、茶、灰色 な惑星ばかり見てきたので、いささかうんざりしていたのた。とに : などに見えていたが、こんどの惑星の表面は白銀色にかがやい 9 4 かく変化がなければ、ヒノのような調査員はたいくつでしかたがなているのだ。 い。たから、この異常は天の助けだった。 「とにかく 、パラメータをもうすこし測定して、データを整理して シオダはしかし、淡々とした調子をくすさず、説明した。 みよう。ヒノ、きみはスクリーンに注意していてくれ」 「質量はこれまでの惑星とほぼ同じで、地球質量よりやや小さい 「合点だ ! 」 正確に言うと〇・九三一地球質量た。しかし体積は一桁ちがってい ヒノはどんぐりマナコをさらに大きくした。 て「地球の一〇・四七倍もある」 あとで《アンテナ惑星》と命名されることになったこの惑星の諸 「そりや、おかしい。、 しままでのやつは、どれをとっても地球より定数は、反射能と密度をのそけば、ごくふつうの数値をしめしてい すこし小型・ーーというぐらいたったんだからな」 「質量が地球と同じで、体積が十倍もあるということは、密度がと 公転周期は〇・七年で軌道半径と矛盾はなく、自転周期は六十時 ても小さいということた。計算してみると水の〇・四九〇二倍にな 間で、他の十一個の惑星と同じだった。離心率は〇・二六三八でほ っている。ほかの惑星は水の五・五倍ていどたから、これはたいへとんど真円といってよく、質量は前述のように〇・九三一地球質量 んなちがいだ」 で、やはり地球類似たった。 「地球とくらべてどうなんだ ? 」 ただ、 0 ・九九九という極端に大きな反射能と、地球の十倍とい 「ほかの惑星は、《ジュース》をはじめとして、地球とほとんど同う体積、十分の一という密度が、奇妙だったのである。 一たった。これだけが地球の十分の一以下なんだ」 なお、体積が大きいので必然的に半径も大きく、一万三九五四キ 「そいつますますおかしい」 ロメートルほどあり、地球の二倍以上だった。 「水より軽い惑星というのは、むろん存在はするが、めすらしい シオダはこのような数値を、さまざまなセンサーを用いてクロス ガスでできているか、空洞があるか : : : 」 ・チェックし、数学の精度と確度を向上させ、さらに新しいデータ 「軽石製の惑星というのもあったが、これよりうんと小さかったなを追加していった。 その新しいデータのなかでも、とくに重要なものは、大気が希薄 「自重でつぶれてしまうから、そんなに軽い惑星はできないんだ」 であるーーーということたった。 「とすると、いよいよあやしい これはぜったい、着陸する価値「大気の検出はちょっと不可能だ。これは、もうひとつの決定的な があるな ! 」 他の惑星との差異だねー ヒ / はスクリーンをにらみすえた。たしかにその惑星は異常に光シオダはセンサーの出力を慎重にチェックして言った。これをき
ェイションにかくされてしまって、検出がきわめて困難だったから「承知した ! 」 である。『惑星開発コンサルタント社』のデータのなかに惑星《ジ ヒノはなれた手つきで制御卓をあやつり、十番めの惑星へと″ヒ ュース》が収録されていたのが、むしろふしぎなくらいであるが、 ノシオ号″をすすませた。 これはやはり、シンジケートや″ペテルギウス人″の動きが噂とな そしてその結果も、予想していたとおりのものだった。 って調査員のあいだにひろまっていたからであろう。 惑星のパラメータは他の惑星群と同じで、たた気候が異なり、そ 惑星の存在に関して、もうひとつ重要なことは、 : , ヒタ・フル・ゾの差異にもとづく風土の違いがあるだけだった。 ーン以外にその姿が発見されないことであった。惑星の発見がいく「やはり、われわれの推理はあたっていたな : : : 」 ら困難であるとはいえ、その発見を目的として習熟した調査員が軌 ヒノが、十一番めの惑星へと艇首を向けさせながら言った。 道を周回しながら探査するのであるから、あれば見つかるはずであ「われわれのーー・というよりも″黒い石球″の砂上の絵画が正しか ハビタ・フル・ゾ る。したがって、この恒星系の惑星は、厳密に、 ったというべきかもしれないね」 ということになる。そして ンの内部にたけしか存在していない シオダはうなずいた。 このことがいかに重要な事実であるかは、ご説明するまでもないだ「この結果から考えると、″べテルギウス人″もけっこうやるじゃ ろう。 あないか。頓狂な顔をしているが、あれでなかなかぬけめがないん 自然が、生命の住めるところにだけ惑星をつくるはすがない。生だな : : : 」 ヒノはロをとがらせた。シオダはそれにはこたえず、調査ノート 命の発生と進化に適したハビタブル・ゾーンにだけ惑星が見られる というのは、それらの惑星が人工的なものであるという大きな傍証をじっとにらんだ。そして言った。 なのである。 「母星である黄色わい星《ラジェイター》の質量や光度から計算し 「さて、いよいよ九番めの《ジュース》までやってきた。これはとて、この恒星系のハビタ・フル・ゾーンは〇・二一天文単位から 0 ・ 五一天文単位のところにある。その中心は〇・三一天文単位の球殻 びこしてつぎのに移っていいだろうな ? 」 あざやかなナヴィゲイションで軌道から軌道へと″ヒノシオ号 . で、ここに惑星《ジュース》がある。さすがに中心にある惑星だけ をとび移らせてきたヒノが、第八惑星から第九惑星への軌道変移をあって、《ジュース》は肥沃だ。そしてそのような肥沃さは、前後 では漸減的にうすらいでゆく。つまり《ジュース》よりも母星に近 終えて、シオダにきいた。 シオダはうなすいた。 い惑星では気温が高すぎてあまり豊饒にはなれないし、また《ジュ 「はやく外縁部の惑星まで探査してしまったほうがいいだろう。惑 1 ス》よりも母星から遠い惑星では、気温が低くなるので、やはり 星《ジュース》が豊饒さの頂点にあることを見きわめてしまいたあまり豊饒にはなれないでいる , 一「そういうことだ。これまでの調査のおさらいをしてるわけだな 4 引
「このスイカの発見によって、かなりのことが明瞭になってきた開するのが、利ロな方法であるといえた。 が、まだ、なにかこう全体のイメージがはっきりしてこない。″長というわけで、こんどはヒノは万能ジープのスビードをぐんとあ 8 4 命ジュース〃と″オリアキコン″の関係は、″オリアキコン″をふげることにした。 くんだ植物が空をとぶ性質をもっており、その性質をシンジケート そばを流れている小川はしだいに川幅をひろげ、もう小川とはい が宣伝の材料につかって値段の高いジュースにもっともらしい理屈えないまでになってきた。花園はほとんどなくなり、灌木が所どこ づけをしているーーということで一応解釈できるし、また″オリアろに見られるたけになった。空の色は地球と同じだが、雲の色はす キコン″をふくんた動植物が空をとんたり電磁気にふれて踊ったり こしちがって、金色にちかかった。その金色の雲がタ陽にそまっ するのも、物理学的に説明できる。しかし、全体としてどうなってて、美しい自然の眺望がジープの前方にひろがっていた。 いるのか という点になると、どうもまだすっきりしないんだ : ″黒い石球″は、ジープがスイカ畑をはなれ、スイカのサンプルが 片づけられるとすぐに、沈黙にもどった。 「そりや、まだすっきりはしていないさーーー」ヒノは連転席に坐り ヒノは鼻歌まじりで運転していたが、ふと思いついたようにシオ なおして言った。 「ーーーとにかく、また″べテルギウス人″が持っダを見た。 ていた膜状の″オリアキコン〃も発見はしていないんだ。さらに調「ところで、さっきのスイカだが、ニックネームはミサイル・スイ 力でいいのかね ? 」 査旅行をつづけようじゃないか ! 」 シオダはゆっくりとかぶりをふった。 「よかろう、行こう」 シオダも同意した。 「・ほくもいまそれを考えていたんたカ ミサイル・スイカ″では そして万能ジー。フは、この惑星《ジュ 1 ス》における、さいごのちょっと表現が直接的すぎる。露骨な感じだ。そこで、こういうの 発見の地へと出発するのだった。 はどうだろう。スイカに似た果実がスーイスイと空をとぶので、 『スーイ西瓜』というのは : : : 」 2 「うん、『スーイ西瓜』か、いいだろう。リズミカルでいいかもし れん。あまり学術的じゃないがな」 ヒノは同意すると、ロ笛を吹いた。こうして、″長命ジュ 1 ス″ 陽はもうすっかり西にかたむいていた。夜になれ・は泊れ ' はいいま の原料には、ミサイル果実『スーイ西瓜』というニックネームがっ でのことだったが、地球にくらべてすっと長い一夜をなにもしない ですごすのは、調査旅行にとってはむたなことである。だから、でけられることになった。 一。田よさらにひろがり、 万能ジープは、またス。ヒードをあげた。川中。 きれば日の暮れないうちに、主要な調査を終え、夜は調査艇にもど って体養し、それから惑星のまたべつの地点を探して調査旅行を再大きな湖が近いことを思わせた。調査員たちの気もちは、花園のな
ね ? 」船長は不慣れなしぐさで彼女の手をそっと撫でた。「わかっ 体は、一層また一層と剥ぎとられていった。超新星の核は、彼の前 にある白い眩暈だった。それは彼が近づくにつれて縮まり、ますまている、彼はきみの親友だったからな。しかし、きっとあれは慈悲 す小さく、濃密になっていった。輝きという言葉が意味を失うほ深い死だったはすだよ。一思いの、さ、つばりした死。わたしも、あ ど、それは輝かしかった。最後に、その重力が逃れようのないカんなふ一つに死ねるなら本望だ」 「彼にとっては : : : ええ、たぶんそうでしよう。そうであってほし で、彼をとらえた。 あい。でもーー」彼女はそれ以上言葉をつづけられなかった。「やめ ェロイ 1 ーズー 崩壊の苦痛の中で、彼は絶叫した。 て ! おねがい ! 」 あ、エロイーズ、助けてくれ , シリ船長はなだめるようなつぶやきをもらして、病室を出た。廊 星が彼をのみこんた。 .. を 彼ま無限に長く引き伸ばされ、無限に薄く 下で彼はマザンダーに出会った。 圧し潰されて、星とともにこの世から消えた。 「容態は ? 」物理学者が聞いた。 「よくない。精神科医のところへ運ぶま 宇宙船は、やや離れた宙域を周回しつづけた。まだたくさんの知船長は渋面を作った。 で、発狂せすにいてくれればありがたいが」 識が得られるかもしれない。 シリ船長は病室のエロイ 1 ・ズを見舞った。肉体的には、彼女は回「なぜ ? どうしたというんです ? 」 「彼女は彼の声が聞こえると思っているんた」 復しかけていた。 マザンダーは拳で自分の掌を打ちすえた。「そうならないことを 「わたしは彼を人間と呼びたいよー船長は機械のざわめきの中でそ い切った。 「たた、それでもまだ褒めたりない。同類でもない願っていたのに」ため息とともにいった。 船長はしん。ほう強く待ちうけた。 われわれを助けるために、彼は命を捨てたんだ」 ェロイーズは、不自然なほど涙の気のない目で、船長を見つめ「彼攵には聞こえるんですよ」マザンダーはいった。 た。彼女の言葉はほとんど聞きとれないほどたった。「彼は人間で聞こえるんです」 す。彼の霊魂も、きっと不減ですわね ? 」 「しかし、それは不可能だ ! 彼は死んでいる ! 」 「それは、あー、もちろんだ。きみが霊魂を信じるなら、そう、わ「時間膨張効果を思い出してください、マザンダーは答えた。「そ たしもそう思う」 う、彼は空から墜ちて即死しました。しかし、それは超新星時間で 彼女はかぶりを振った。「でも、な・せ彼は永遠の休息につけないのことです。われわれの時間とはおなじしゃない。われわれから見 んですか ? 」 て、最終的な星の縮潰には無限の年数がかかります。しかも、テレ 船長は医師がいないかとあたりを見まわしてから、この狭い金属 ハシ 1 ・には距離の限界がないのです」物理学者は足早にその病室か の部屋には彼らふたりしかいないのに気づいた。「どういう意味だら遠ざかりはじめた。「彼はいつまでも彼女とともにいるでしよう」 「ほん、・こ一つに
「このがかって見えるのは、そのためです。ところが、こんどの超新星の 「みんな気が立ってるんですよ」マザンダーはほほえんだ。 冒険はたしかに痛快だが、早く家へ帰ってほっとしたい。そうでし核は、太陽の三倍近い質量がある。しかも、非常な高密度であるた 5 めに、その表面の引力は、あー、信じられないほど高い。したがっ う ? 」 の四て、われわれの時計で測ると、それがシュヴァルッシルト半径まで 家か、と彼女は田 5 った。やかましい街路の上にあるアパート 面の壁。本とテレビ。つぎの学会で、彼女も報告を提出することに縮むには、無限の時間がかかります。しかし、超新星そのものの上 にいる観察者から見れば、収縮の過程はわりあい短時間に終わるで なるかもしれない。しかし、そのあとのパ , ーティに彼女を招いてく しよう」 れる男は、だれもいないたろう。 わたしはそんなにおそましい ? と、彼女は思った。見てくれ「シュヴァルッシルト半径 ? お手数だが、説明してくれませんか おもしろい女だと思われ が悪いのは知っているけど、感しのい ? 」ェロイーズは、ルシファーが彼女を通じて質問したことに気づ るように、精いつばい努力してるつもりよ。ひょっとすると、やり すぎなのかしら。 ですか、われわれが研究し 「数字を使わすに説明できるかな。いい わたしにはそうじゃないよ、とルシファ 1 。 ようとしているこの質量は、あまりにも大きく、しかも濃密なの 「あなたは別だわ」 で、どんな力も重力を超えられない。なにものもそれを打ち消すこ マザンダーが目をばちくりさせた。「え、なんですか ? 」 とができないんです。したがって、収縮過程は、どんなエネルギー も外に逃れられなくなるまでつづく。そして、星は、この宇宙から 「なんでもないの」彼女はあわてていった。 「気になることが一つあるんですがね」マザンダーは会話の努力を消失してしまう。事実、理論的には、体積ゼロになるまで収縮が進 つづけた。「おそらくルシファーは超新星のかなり近くまでいける行するはずなんです。もちろん、さっきもいったように、われわれ でしよう。あなたはそれでも彼と接触をたもてますか ? 時間膨張から見るかぎり、それには永遠の月日がかかるでしよう。しかも、 効果ーーーそれで彼の思考の波長が大きく変わるんじゃないかな」 この理論は、最終段階で介入してくるたろう量子力学的な因子を無 「時間膨張効果ってなんですか ? 」彼女はわざとらしく笑った。 視しているんです。このあたりは、まだあまり理解が進んでいなく 「わたしは物理学者じゃないので。平凡な図書館員に、とっぴな能てね。ま、この探険で、新しい知識が得られると期待してるんです 力があると認められただけですわ」 が」ワゴナーは肩をすくめた。「それはさておいて、ミス・ワゴナ 、わたしが気になったのは、われわれの友だちが超新星に近づい 「まだ聞かされてないんですか ? もう、みんなに説明してあるこ たとき、波長の変移によって、われわれとの交信ができなくなりは とだと思っていたが。強烈な重力場は、ちょうど高速とおなしよう に、時間に影響をおよ・ほすんです。大まかにいえば、なにもない空しないか、ということなんです」 間でよりも、物事の進行が遅くなる。巨大な星からの光が多少赤み「それはどうかな」しゃべっているのは、まだルシファーであり、
原子核と、カ場とでできていた。それは、電子や、核子や、線をとだ。われわれが死んでは、きみを故郷へ送り届けることはできん 代謝した。それは長い生命期間にわたって、一つの形態をたもつのだからね。 た。それは繁殖した。そして思考した。 そこでだ。きみの体を傷つけることなしに跳躍カ場の中へ包みこ しかし、なにを考えるというのだろう ? 御者座生物と意思を通むため、われわれは遮蔽スクリーンをいったん切らなくてはならな じ合える数すくないテレバス、はじめて人類に御者座生物の存在を つぎに出現するのは、致命的な放射能帯の中だ。きみはすぐに 教えた人びとも、そのへんをはっきり説明したことがない。彼ら自船から離れなくてはいかん。ジャンヲ完了から六十秒後に、われわ 身も、変わり者の集まりなのだ。 れは遮蔽スクリーン発生機を始動させるからだ。それから、きみは やおら、シリ船長はロを切った。「かれに伝えてもらいたいこと付近一帯の調査にかかる。気をつけなくてはいけない危険はーー」 がある」 シリはそれらを列挙した。「これらは、われわれが予測できる危険 「はい」ェロイーズはテープデッキの音量をし・ほった。彼女の目はでしかない。たぶん、このほかに、思いもよらないトラ・フルが待ち 焦点を失った。彼女の耳から言葉がはいると、彼女の脳が ( それは かまえているたろう。もし、なにか脅威と思えるものがあったら、 どれぐらい能率的な変換器なのだろう ) その意味を、それ自身の反すぐに戻ってわれわれに警告し、ここへジャンプで帰る準備をす 動推進で〈大鴉〉号と並んで飛んでいる火の玉に伝えるのだ。 る。わかったかね ? 復唱したまえ」 レンファー。 もうこんなことは何度も聞かされたと思う ェロイ 1 ズの口から言葉がほとばしり出た。正確な復唱たっこ。 が、きみが完全に理解するように、念を入れておきたいのだ。きみしかし、彼女はどれだけのことを隠しているのか ? の心理は、われわれのそれとは非常に異なったものにちがいない。 「よろしい」シリはちょっとためらってから、つけたした。「もし な・せきみは、われわれに同行することを承諾した ? わたしにはわそうしたければ、音楽をつづけたまえ。しかし、ゼロ・マイナス十 からん。ワゴナー技官は、きみが好奇心が強く、冒険好きだからだ分にはやめて、スタン・ハイせよ」 という。それが嘘も隠しもない真実なのかね ? 「はい、わかりました」ェロイーズは彼の顔を見ていなかった。ど まあ、それはいし 。あと半時間で、われわれはジャンプする。超こを見ているようでもなかった。 船長の足音はコッコッと廊下を遠ざかって、消えていった。 新星から五億キロの範囲内にはいる。きみの仕事がはじまるのは、 そこからだ。きみはわれわれがとうてい行けないところまで行き、 ? ルシファ 1 はそう なぜ彼はおなじことをくりかえすのか われわれが観察できないものを観察し、われわれの計器では手がか たずねた。 りさえっかめないものを、われわれに知らせることができる。しか し、その前に、われわれが超新星を周回する軌道にとどまれるかど「彼はこわいのよ」ェロイーズはいった。 うかを、確認しなくてはならない。これはきみにも関わりのあるこ 354
っていた。それにはほかに捕虜は乗っていなかった。 、、ツチはヘルメットと籠手をはずして、彼女の手を取って、そこ 「やつらは彼女をわたしのところに送り返す計画たったのだ」ミ に坐った。医者たちが手当てをしている間、かれは目をそらしてい チが話し終えると、カールセンは目を宙に据えていった。「あの。ハ た。医局員たちはなおも気安く喋っていた。ミ ッチは大して悪いと 1 サーカーが彼女をわれわれの方に射ち出さないうちに、こちらが ころはないのだろうと思った。 攻撃したわけだ。あいつは彼女を戦闘に巻きこまれないようにして 「名前は ? 」ひと通りの手当てがすむと、彼女はかれに尋ねた。そおいて、送り直しにきたのだよ」 ミッチは黙っていた。 の頭には包帯が巻かれていた。華奢な手がシーツの下から伸びてき て、かれの手との触れ合いを絶やすまいとした。 カールセンの目蓋の縁の赤らんた目が、かれを見据えた。「彼女 「ミッチェル・スペイン」彼女の顔をーー・生きている若い人間の女は洗脳されているんたよ、詩人くん。被術者の生来の傾向を利用す 性の顔をーーーよく見たので、急いで立ち去る気がしなくなった。 れば、かなり永続的な効果を与えることもできるんた。たぶん、彼 「きみの名は ? 」 女はわたしのことをそれほど思ってはいなかったんだろう。彼女が 彼女の顔を暗い影がよぎった。「それがーーわからないの」 結婚に同意するには政治的な理由が : : : 彼女は医者がわたしの名を 診療室の入口が急に騒がしくなった。最高司令官カールセンが、 口にするだけで悲鳴を上げるんだ。わたしに似せた、人間の形をし 文句をいう医者たちを押しのけて、検疫所に入ってきたのだ。カー た機械を使えば、そういう恐しいことを彼女にすることも可能たそ ルセンはミッチの横まできて立ち止まったが、 ッチの方は見てい うだよ。彼女はほかの人間ならある程度我慢できるんだ。だが、彼 女が二人っきりでいたい相手はきみなんだ。彼女が必要としている 「クリス」それは若い女に呼びかけた。「かわいそうに」かれの目のはきみなんだよ」 に涙が浮かんだ。 「ぼくが立とうとしたら彼女は泣き叫びましたが、でも ・ほくを レディ・クリスチナ・ド・ダルシンはミッチからヨハン・カール センに視線を移した。そのとたんに、ひどくおびえて悲鳴を上げ「ほら、生来の傾向さ。彼女が : : : 愛するのは : : : 彼女を救ってく れた男なのだ。救出された喜びのすべてを、最初に見る人間の男の 顔に結びつけるように、機械どもは彼女の心をセットしておいたん 「さあ、隊長。彼女を発見して連れ戻した時の情況を話してくれ」だ。医者たちはそういうことが可能たといっている。睡眠薬をもら 、、ツチは一部始終を話し出した。かれらは二人きりで、旗艦のプって寝ているが、眠っていてさえも悪夢にうなされ、苦しんでいる リッジのはずれの、飾り気のないカールセンのキャビンにいた。戦ことが、計器に表われている。そして、きみの名を大声で呼ぶん 2 闘は終り、 ーサーカーは引き裂かれた無害な金属のかたまりにな だ。きみは彼女にどんな感情を抱いているのかね ? 」
メーター係りの前に、見上げるように背の高い、関節のたくさん 沌の中には、反撃の兆候はなかっこ。く ーサーカーどもは、自分自 身の金属の皮膚の内側で戦うようにはできていないと考えられておある物体が立ちはだかり、青白い溶接の炎を剣のように振り回し 人間艦隊が主要な戦闘で勝てるだろうという希望の根拠は、 ッチが狙いをつけた自覚もないまま、カービン銃が二度火を ここにあった。 吹いた。弾丸がその機械に穴をあけ、機械はうしろにひっくり返っ た。それはただの、半ロポットのメンテナンス機械で、戦闘用に作 、、ツチはスポット号の船殻を守るために四十人の隊員を残し、自 分は十人の分隊を率いて迷路にもぐりこんでいった。戦闘司令所にられたものではなかった。 ーサーカー内部では、 ふんそり返っているわけこま、 メーター係りは胆っ玉がすわっていて、臆せす先の方に跳び出し いったん直視範囲から出てしまえば連絡が取れなくなるからであていった。分隊がそれに遅れすについていった。かれらの宇宙服の る。 ライトに見慣れない形が映ったり、ずっと遠くまで見通しがきいた りした。真空中なので物の影はナイフの刃のように鋭く、ぎらぎら 各捜索隊の先頭の者は物質スペクトロメーターというものを持っ ている。これは、生物が呼吸している区画から必す洩れてくる酸素と明るい部分と真っ黒い影の部分は、わすかに反射光によって柔ら の浮遊原子を探知する計器である。最後尾の者は、発光ペイントのげられるだけたった。 矢印を焼き付ける機械を持っていて、通り道にしるしをつけてい 「近いそ ! 」 。立体的な迷路の中では迷子になることがほとんど避けられない やがて一行は探り当てた。それは、巨大な空井戸の上のような所 からである。 だった。部厚い鋼板で覆われた宇宙船のランチのような卵形のもの ーサーカー内部のすっと深い所からこの井戸の 「匂いがします、隊長」ミッチ部隊のスペクトロメーター係りがい が、見たところ、 った。死にかけたーサーカーの、この分隊に割り当てられた区分中を引き揚げられ、こうして締め金具でドックに固定されているの ・こっこ。 の捜索を始めてから、五分後だった。 「ついていけ」縦隊の二番目にいるミッチは、カービン銃をかまえ 「これはランチだな。酸素がにじみ出ているのはこいつだ」 「隊長、こちら側に一種のエアロックみたいなものがあります。外 スペクトロメーター係りは、暗く無重力の機械的宇宙の中を、先側のドアが開いています」 それは罠の入口のように、なめらかに、入りやすく見えた。 頭になって進んでいった。かれは何度も止まって、計器を調節し、 ッチはエアロックの中に入った。「もし 「よく注意していろよ」ミ 探針をあちこちに向けた。それ以外には進行のスピ 1 ドは速かっ た。みな自由落下に慣れているし、体を押しやったり舵を取ったり 一分たって出てこなかったら、これを吹き飛ばして救出してくれ」 するための手がかりがたくさんあるので、マラソンのランナーより それは普通のエアロックだった。たぶん人間の宇宙船から切り取 ってきたものらしかった。かれは内部からドアを閉め、それから内 も速く移動できたのである。
放したこと自体は、取るに足らぬ小さな勝利だった。ところが、近過去においては、これらの生命単位は厄介ではあるが局部的な問 ナナナカこれらの一つが、近づきつつある決戦に全生命艦 くでこの過程を知覚していた多くの単位からの情報の流れが、その題どっこ。ど・、、 後増加した。 隊を率いて出撃してくるということになると、″死″の大義にとっ てこれは極めて危険なことであった。 間もなく、生命単位が艦隊を集結させていることが確認された。 より詳細な情勢が探求された。一つの重要な疑問のラインは、この近づきつつある戦闘が好ましい結果に終ることは、ほとんど確実 艦隊をコントロールする予定の生命単位に関するものであった。尋だと思われた。なぜなら、生命艦隊はたぶん二百隻ぐらいの船しか ないと思われたからである。だが、ヨハン・カールセンのような単 問および捕獲した記録の読みを通じて、一つの像が現われてきた。 位が生命を率いている間は、・ハ ーサーカーでいくら考えて、何から 名称ーーーヨハン・カールセン。経歴ーーかれについてはさまざま 何まで確信が持てるというわけこよ、 冫しかなかった。そして、戦闘で な矛盾したことがいわれているが、数百万の生命単位をコントロー あまり先に延びれば、敵の生命はもっと強力になるかもしれなかっ ルする地位に急上昇したことが、事実によって示されている。 長い戦争を通して、 ーサーカーのコンビ、ーターは″生命。のた。発明力のある生命が新兵器や、より新しく強力な宇宙船を開発 しているという、 兆候があった。 指導者となる人々の、入手可能なすべてのデータを収集し校合して 言葉のない会議が結論に達した。銀河の果てに、何万年も前か きた。今やかれらは、ヨハン・カ 1 ルセンについてわかったあらゆ ら、宇宙塵の雲の中や、重い星雲の中や、暗黒星の上などに、遺棄 る細部を、それまでに集積したデータと、一点一点、突き合わせて されたようにじっと隠れて待っている・ハーサーカーの予備軍がい これらの指導的単位の行動はしばしば分析に抵抗し、まるでかれた。この最大の決戦に、それらを呼び寄せなければならない。抵抗 らの内在している生命病の特質は、永久に機械の手では捉えられなする生命の力を今こそ撃減しなくてはならないのだ。 ストーン・・フレイス いものであるかのように思われた。これらの個体は論理を使いはすアトソグ星の太陽と地球の太陽との中間の岩場にいる・ ( ーサ ーカー艦隊から、伝令マシンが銀河の果てに飛んた。 るが、時には論理に拘束されないように見える場合もあった。とり わけ、最も危険な部類に属する生命単位は、時として、既知の最高予備軍のすべてが集結するには、ある程度時間がかかる。その 、尋問が進行していた。 の物理法則や確率と矛盾するように見える行為をする。まるで幻想 っ ではなくて、真の自由意志に取り憑かれた魂でありうるかのように 見えることがある。 「おい、おれは協力することにしたそ。このカールセンというやっ そして、カールセンはこれらの一人であり、これらの中でも特にだが、おまえたち、かれのことを知りたいたろう。ただ、おれの脳 際立った存在であった。他のものと比較していけばいくほど、かれはデリケートにできているんだ。痛いことをすると、脳は全然働か なくなるそ。だから、おれに対しては乱暴なことはやめてくれ。 が危険なタイプであることが、ますます明白になっていった。
「では、ここまでは意見が一致した」カールセンは、標定テープル望が見えかけてきた時に、そういうのはさすがに気がひけたのだろ ・マシンが戦争のいろ ( 目標の観測時の位置を標定し、必要な射撃諸元を ) から体を伸ばし、参謀たちう。これらの男たちは、一機の・ ( ーサーカー を見回していった。「われわれはほしいだけの数の宇宙船も、訓練いろな尺度において、一隻の通常型宇宙戦艦に較べて、どんな重み を受けた兵士も持っていない。たぶん、太陽から遠い政府が全力投があるか知っていたし、強靱な精神の持ち主でもあった。それでも なお、カ 1 ルセンはそうはいえなかったのである。 球してくれていないのだろう」 金星人の提督のケマルは、同じ惑星の出身者たちをちらりと見回「一つの大きな問題は」カールセンは続けた。「乗込み隊を率い したが、カールセン自身の異母兄であるノガラの、手薄な協力ぶりる、訓練を積んだ兵士たが、わたしは最善を尽して集めてきた。現 に一言する機会は、利用せずにおいた。この戦争の指導者として、在、乗込み隊要員として準備のできている海兵隊員、および訓練中 地球、火星、金星が真に同意できる人物は、生きている者の中にはの者の大部分は、エステール出身者だ」 ケマル提督は先を読んだらしい。椅子を押して立ち上りかけた 存在しなかった。ケマルはこのノガラの弟に賭けてみる気になった らしかった。 が、途中でやめた。あきらかに、確かめてからにしようと思ったの カールセンは続けた。「戦闘に参加できる宇宙船は二百四十一一一だ。 隻。これらは、わたしが採用しようとする新戦術に合わせて、特別 カールセンは相変らず平板な口調で続けた。「これらの訓練済み に建造、または改造されたものだ。百隻という大量の供与をしてくの海兵で部隊を編成する。そして、各戦艦に一個部隊ずつ割り当て れた金星の諸君には、われわれは全員感謝している。このうちの六る。それからーー・ー」 隻には、たぶんみんな知っているだろうが、新型の長距離 O ープラ 「ちょっと、カ 1 ルセン最高司令官」ケマルは立ち上っていた。 ス・カノン砲が搭載されている」 「何だ ? 」 「エステール人部隊を金星船に乗せると、本気でいわれるのか ? 」 この褒め言葉も、金星人の冷たさを、目に見えて溶かすことはで きなかった。カールセンは続けた。「われわれは数量的には四十隻「わたしの計画は、大ていの場合、本気だよ。その通りだ。反対で も ? 」 ぐらい優位にあると思う。しかし、一対一でいけば、火力もパワー も敵の方が優勢であることは、し 、うまでもない」間をおいて、「体「反対です」その金星人は、仲間の同星人を見回した。「われわれ 当り・乗込み戦法は、まさに必要な奇襲効果を上げてくれるだろは皆反対です」 う」 「にもかかわらず、わたしはそう命令する」 たぶん最高司令官は、ある種の奇襲効果が、理論的に、成功の希ケマルは仲間をもう一度、ちょっと見回すと、能面のような表情 望を与えてくれる唯一のものだ、とはいいたくないので、慎重に言で、着席した。部屋の隅のステノカメラのシ = ーという低い音が聞 葉を選んでいるのだろう。ここ何十年もかかって、やっと明るい希こえ、この一部始終が記録されていることを、全員が思い出した。