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検索対象: SFマガジン 1978年10月号
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1. SFマガジン 1978年10月号

ズク , 信彦ー もう私達は 逃げる事は 出来ない : でもこ、つなる 事は前から 感じていたの = おかあさん はやく逃げ 一信 ー ) つか C ・ ずいぶん前 夢の中で こんな日か 来る事を 見たのよ そして : これは 私達が 起こした響ド一 0 のよー カン ( び 427

2. SFマガジン 1978年10月号

はケレスに帰る。時間にして、あと半日だ。それが待てずにドッキ「へい、まちがいありません。目撃した人足は、もと地球の宇宙港 ングを希望するというのには、なにか特別な事情があるにちがいなで働いていた宇宙船には詳しい男です。梅原の親分、なにか心当り かった。 「よし、ヴィジスクリーンのスイッチを入れろ ! 」 城の目が光った。 わらじ 梅原の指示でスクリーンに、寺島組の若頭城喬介の顔がアップで 「うむ、ある。二週間ばかり前に藤原組に磁カ靴脱いだ流れ者が、 映った。その顔は、ひどく蒼ざめていた。 なんでもこのあたりじゃ珍しい型をもっていると聞いた・、・ 「どうしなさった若頭 ? 」 そういえば、タイタン帰りとも聞いている」 その蒼ざめた表情を見て梅原がいった。 「タイタン帰り ? 」 「ああ、倉持の親分さん。龍の兄貴をおねがいします。おやっさん 龍一郎が聞き返した。 が、おやっさんが殺されたんです」 「外惑星のどこだかで、兄弟分を殺して十年以上入っていたが、半 ヴィジスクリーンの中の顔が、くしやくしやになっこ。 年ばかり前に出所した男といううわさです」 「なに、寺島の親分さんが」 梅原が、龍一郎に知っているのかという表情でいった。 っしょに働いていた : 梅原が叫んだ。そして、龍一郎に視線を移した。その時、龍一郎「陸奥己之介だ。タイタンの刑務所で、い はすでにヴィジスクリ 1 ンの前に立っていた。冷静をよそおっては いるが、肩が小刻みにゆれている。 陸奥己之介、忘れられない名前だった。龍一郎の脳裡に、己之介 「城 ! おれた。おやっさんが殺されたって。どこで、誰にだリ」 のおもかげが浮かびあがってきた。七年ほど前のこと、龍一郎は、 「あ、兄貴 ! 藤原の親分のところに話しをつけにいった帰路、第危く巨大な岩塊の下敷になりかかった己之介を体当りで突きとばし 八十七鉱山区で、宇宙船もろとも爆破されました。凶器は原子破壊て救ったことがあった。それいらい、己之介は龍一郎を兄貴と呼 砲です」 び、龍一郎も己之介を十五年間の刑務所生活で知りあった唯一の友 「犯人は ? 」 人として、なにかと親しくしていたのだった。 「それが、まだ : : : 。近くの鉱山人足の話しじゃ、おやっさんが殺出所の前日、自分が義理にからまれて手を下した兄弟分の墓参が されるほんのちょっと前、型のひとり乗り宇宙船をそのあたり済んだら、小惑星帯に行ってみたいといっていた己之介の顔が、龍 で見たというんですが : : : 」 一郎の眼前をいったりきたりした。 城は大粒の涙をぼろぼろとこ・ほしながら、報告する。 「ち、ちきしよう、やつばり、そうかリ藤原がやったことはわか 「型 ? 若頭、そりやまちがいないのかい ? 」 ってたんだが、証拠がなかったんだ。・、、 カそうとわかったからには 5 梅原がいう。 この足で、藤原組に突っこんでやるぜ " 】」

3. SFマガジン 1978年10月号

一瞬、その場の数人は理由も分らないまま無意識に口をつぐんでし雇ったその夜の客である老人の姿は、すでに市民会館の前を過ぎて 2 まう。その間彼らの眼は決して二人の上には向けられず、漠然とホ下り坂の先の証券会社の角を曲がって見えなくなっていた。 っ 1 ールの屋上を見あげたり、かすかに居心地の悪そうな眼付きで自分日の新聞で、彼はその夜のコンサートが立ち見まで出る盛況で観衆 の足元のアーク灯の灯影を見おろしたりしている。そして二人が通は千二百人を越えていたことを知った。しかしその千二百人の中 り過ぎてしまうと同時に彼らの顔からは当惑した表情が消え、そのに、あの自動拳銃を片手に下げた老人の姿を目撃した人間は、確か 間のことは何も覚えてはいないかのように再び心地よい静かな興奮に一人もいなかったのだった。 の熱気の中へ戻っていくのだった。 二人が雑踏の中心を横断してタクシー乗り場の行列に近づいてき そしてメタルクロームの台に厚い気泡人り。フラスチックを盛りあ た時、彼は街燈の灯を片頬に受けたふたつの顔を間近に見た。濃紺げた土星のッジは、驚くほどのはやさで街頭に氾濫するようにな のネクタイを締めてシャツの袖をまくりあげた若い男が、異様に痩った。それはあのスマイル : ハッジと同じく最初はアメリカで流行 せ細った背の高い老人の肩を支えている。薄い髪を振り乱してシャし、それが数箇月遅れで日本に上陸したもので、若い女の子たちだ ツの裾がズボンからはみ出しているのにも気づかない様子の老人けでなく男たちも襟や胸ポケットにつけて街を歩いた。ハイティ ンから会社員までが土星の / ・、ツジを身につけるようになってしまう ひどくとりとめのない視線を夢見るような虚空に据えて、若い 男に抱きかかえられてやっと歩いているような様子だった。 と、彼はその中から商会の男たちを見分けることができなくなっ 二人が彼の眼の前を歩き過ぎていこうとした時、老人の手から何てしまった。従って、真夜中に・ハッジの男をつけていって物影でい かがすべり落ちて煉瓦の舗道に固い音をたてた。若い男はすばやくきなり刃物をつきつけ、彼があの夜目撃した光景の謎ときを強制し 身をかがめて手を伸、はし、そして彼はその肩に光るメタルクロームてみたとしても、それは無駄なことであるに違いなかった。 の輝きを見た、呆然と眼を据えてぼんやり突っ立っている老人の手オームの力に支配されて商会の夜の客になっている人間たち に拾いあげたものを再び握らせると、男はその肩を支えて歩みを促は、昼の間はこの街のいったいどこに隠れ潜んでいるものか、彼の した。老人は 細い涎の糸を垂らした陶然とした表情で、黒光り眼にもそれと見分けられることはない。 する、手にあまるほど大きい自動拳銃を玩具のように無造作に握る と、ふらふらと歩き始めた。 「 : : : お客さん ? 」 * 紅 声がしてふと気づくと、ドアを開いたタクシ , ーが彼の前に止まっ ていた。後部シートでは、皮袋のように丸くなった Z さんが鼾に移真夜中に灯をつけて低空飛行しているヘリコプター ・ : それも 行する寸前の鼻にかかった寝息をたてている。商会の男と、男を目の前のビルの屋上すれすれからいきなり現われたヘリコプターと

4. SFマガジン 1978年10月号

闇の中でもうひとつの靴音がそっと踵を返した。真夜中の植物園通七年間を過ごした家は、市の北端の丘陵地帯にあった。今では取り りを、ふたつの足音はわすかな距離を保ったまま遠のいていき、や壊されて、団地だか製薬会社の寮たかが建っている筈だ。 がて角を曲がって聞こえなくなった。 鍵と財布をポケットに人れて頌春館を出ると、彼は歩いて五分ほ 最後に振り返ってみた時、誰もいなくなった歩道の上には構う者どの私鉄の駅へ向かっていった。。フロ。 ( ンガスは昼間湯を沸かして のいない紙片が丸まったまま置き忘れられていた。そして脇を走り いる最中に切れてしまったので、ア。ハートを出ていくまでのあと何 過ぎたタクシーの風にあおられて、溝に転げて見えなくなった。 回かの食事は外で取らなくてはならない。電車でふた駅先の中央通 りまで出て誰かを呼び出してもよかったし、今夜を一人だけの時間 と決めて自由に過ごしてもよかった。その金曜の夜は、彼に与えら れた最後の白紙の時間であり、その上に気の向くままに時間割りを * 歌のおわりに 書きこもうと、また空白のまま怪く丸めて道端に無為に投げ捨てよ 彼がその招待状を受け取ったのは、市を出ていくまであと六十時うと、選択権はすべて彼自身の手に委ねられているのだった。 電車から降りると彼は手近な店で軽くタ食をすませ、橋を渡って 間しか残っていない金曜の夜のことたった。 頌春館に引っ越してきてからもう季節がひとめぐりして、窓の外中央通りの交差点まで出た。公衆電話のポックスに人って暗記して いる番号のひとつを回してみたが、呼び出し音を三回まで数えると には早い秋の風があった。床に座って窓を見あげると、奥行きの深 い初秋の六時半のタ空を背景にして、灯のついていない向かいの屋急に気が変わって切った。人と一緒に気を紛らせてこの時間を使っ てしまうのは、もったいないような気がした。 根が黒く浮きたっている。後に残された週末の二晩は、友人たちが ポックスから出ると、そこにはショ 送別会や荷物の片付けの手伝いにやってくる予定たから、一人で過 ーウインドウの水のような照 ごせる夜は今夜が最後だった。 明の交錯の中に半透明の人影が入り乱れて動いている、九月の夜の 市街があった。ふいに幸福感に似たい感覚が生暖くひろがり、彼 二十数年の間で、これが五回目の引っ越し。 手に人りにくいのを苦労して集めたカラーインクのセットを、彼は息がつまるのを感じた。 中央通りをゆっくり一往復して最後に入った書店の二階に はビスケットの空き罐にきっちりと詰めこんでいった。この前に南 部の * * 荘から引っ越してきた時にも、インク壜はこの罐に詰めは、彼の他には一組のアベックとレジの若い男がいるだけだった。 て運んできた。その前は北の大学通りの下宿に三年半住んでいて、美術書のコーナーの前に立ったまま・ほそ・ほそと喋り続けている二人 ザルマのカラーインクはその頃に集め始めたものだった。大学の一連れの声だけが、八時に近い店の中を低く流れている。 年の半ばまでは中央通りの裏手の父親の家にいて、家族たちは今で「 : : : 図書館のはもう誰かが借り出してるから : : : 買わないと」 は隣りの 0 * * 市に住んでいる。そしてその前、彼が生まれてから「だって、高価いよ」 386

5. SFマガジン 1978年10月号

って示されているのだろうな」 工作局の幹部たちは、い っせいに椅子を蹴った。先任工作員とし 本部長は、唇を歪めた。 て会議に参加していた続も、傍の曾根とともに、ゆっくりと立ち上 2 他人のことはいえない筈だーー続は思った。おれたちが手を染めがった。 て来た仕事も、決して文化的とはいえないしろものではなかった 「ひるがえって、わが国の状況だが、情報コントロール面におい 続と曾根が、儀礼的なノックの後、局長室に入って行くと、局長 て、面白くないかげりが出て来ている : : : 」 の犬養がデスクから立ち上がった。 葛城は続けた。 きよそ 「むろん、すべてのマスコミには、厳格な報道コントロールが強制 つねに冷静なこの男としては珍しい挙措たった。目がかがやき、 されて来た。世論操作は、とどこおりなく行なわれて来た筈だっ頬が興奮を示して紅潮している。二人に、デスクの前のソフアに坐 うわさちまた るよう指し示し、自分はデスクのふちに腰を下ろした。 たが、根づよい噂が、巻には流れ始めているらしい。 被汚染者となることが、決して忌むべき体験ではないこと。むし「最優先事態だという伝言でしたが : : : 」 ごたっ 続は、ソフアに腰をおちつけると、上司の顔を見上げた。 ろ、それは一種の悟達にひとしいこと。 「いったい何ごとです ? 新らしい情報工作。フロジェクトが、ちょ ひそかに、″解放″ということばが、囁かれ始めているらしい。 異星人たちは、われわれに有意義な精神革命をほどこすために、接うど始まるところだったのですがね」 かっき 「分かっている。だが、画期的な事態が、生したのだ」 近しているというわけだ」 犬養は、興奮をもて余しているかのように腕を組んだ。 葛城は唇をつよく結んだ。 ムープメント ーーー・昨夜、房総の 「ツキが、こっちに回って来たといってもいい 「われわれがもっとも恐れる必要があるのは、この精神的運動で ある。すべての物理的努力も、このヴィジョンの感染の前には、徒航空自衛隊レーダー基地が、大島と野島崎との中間に墜落した敵の 労に終わってしまうだろう。 宇宙機をとらえた。母船と目される。大型の精子形のやつだ。 あやまった価値観がはびこる前に、新たな汚染源を絶たなければ海面に突入したきり、飛び立った形跡がない。おどろくべきこと ならぬ。 従って諸君の今後の活動は、その工作に集中すること だが、不時着したと見ていいようだ。 になる。 「そいつは信じがたいですね」 うわさ 目下、情報局が、この噂の伝達メカニズムを分析中である。行動ずけりと続はいった。 要目が決定され次第、ただちに実施してもらいたい。 「今まで、一度もそんな事故を、敵は起こさなかった。敵のテクノ 今日のところは、以上だー ロジーは、われわれとは段ちがいな筈です」 いぬがい

6. SFマガジン 1978年10月号

セリカは、画像から目をそらし、パ。ヒルスを二つに折って皮の文セリカの一団は、しのびやかにエレサレムへ入った。 広壮な町なみはあらかた焼野原となり、セリカも二、三回訪れた 7 袋に入れた。 ことのある総督公館は瓦礫の山となっていた。 早馬は出発していった。 町は無人ではなく、小数の人々が、黙々と焼跡を掘りかえし、崩 翌日。セリカは何人かの従者と護衛の兵をひきいてパレスチナへれ落ちた家の残骸をあき地へ運び出していた。 かれらの首には、細い鎖で。ヘンダントがかけられていた。 向った。 イズメアからへ・フロンへと馬を走らせ、夕刻、べツレヘムへ入っ セリカが兵士に命じてそれをとりはすさせ、手にとってたしかめ ようとすると、かれらは必死に暴れて兵士の手を拒んだ。身はエド エレサレムの異変は、だれ一人として知らぬ者はなく、たくさんムの総督でもここは他国である。腹が立ったがセリカは馬から下り て、町の男の首にかけられた。ヘンダントをのそきこんた。 の避難民がべツレヘム街道を南へ南へと下っていた。 それは人頭を形どったものだった。 「なんぼ、えれえ神さまだかしんねえが、エレサレムにはもうおら その人頭は、アルべラの描いたものと同じ顔、貌をしていた。 だの住む家はねえたよ ! あの神さまに焼き払われたたよ。おらた は金持ちでもねえ、役人でもねえ。どんな神さまにも恨まれるすじ灰とほこりと砂けむりの渦巻く街路を進んでゆくと、道路に面し て、巨大な彫像がそびえていた。 はねえだ」 これまで、エレサレムの町に、そのような彫像が設けられている 「世界中は、やがてあの神を信仰するようになるのでしよう。だ . っ などとは聞いたこともなかった。 て、そうじゃありませんか。ゾロアスタ 1 の神も、波羅門の神も、 かれらは馬をいそがせた。 太陽の神も、直接、私たちの前に姿をあらわすことはありませんで 砂塵と灰かぐらが静まると、それは目の前にあった。 した。ひとり、ナザレの男の神だけは、私たちの目の前に姿をあら とっ・せん馬は竿立ちになり、兵士たちは、そのものを目にしまい わしました。その姿がたとえどんなに恐ろしいものであろうとも、 いまわしいものであろうとも、あれは正しく神です。破壊と死を掌と本能的に手綱を持つうでで顔をおおった。 セリカは太刀のつかに手をかけ、そのものを必死にねめつけた。 管するこの世の支配者に相違ありません」 しばらくたってから、それが彫像であることに気づいて、力を抜 「こうなったからには、あのナザレの男の言うとおりに、これまで いた。そこへ座ってしまいたくなるほどの急激な疲労を感じた。 の神を棄て、新しい神のために神殿を建て、毎日礼拝するよりしか 兵士たちも、あぶら汗に顔をゆがめて彫像をあおぎ見た。 たないんじゃありません ? ええ。私は神さまのよりごのみはしま その奇妙な顔貌を見つめていると、急速に自分の心が失われてく せんことよ」 る。心の内部に、もやがかかり、それが心から体全体にひろがって セリカに呼び止められた男や女は、こもごも語った。

7. SFマガジン 1978年10月号

第二次大戦末期に並ぶものなしと謳われたドイツの名戦車、ティ メッサーシュミット 10 9 は、ゼロファイタームスタン ーゲルⅡーーー通称ケーニヒス・ティーゲルがそこにいナ グ、ス。ヒットファイヤーと並ぶ、ドイツが生んだ傑作戦闘機であつ 「ミサイルで応戦しろ ! 」 ただし、それも遠い昔の話であって、今ではドルフのよう レイノルズはすかさず命令した。 な軍事の専門家、あるいは一部のマニアの間にしか知るものはいな リ砲が間断なく吐きだしているのは、やわな徹甲弾などで はない。強力な原子弾であった。百年前の兵器たとたかをくくっ ドルフは錯乱状態に陥っていた。 て、安閑と眺めておられる敵ではなかった。 最初はスツーカ。そしてケーニヒス・ティーゲルにメッサーシュ ドルフの指がコンソールを走った。 〈ダイダロス〉の左舷前 。百年以上も前の第二次世界大戦で使われたド 部の装甲が開き、三連の小型ミサイルがその鎌首をもたげた。戦車ィッの兵器が立て続けに出現して〈ダイダロス〉に襲いかかってき たのだ。 はミサイルに弓し しかも、これら旧式兵器を相手に、最新の科学の産物 ドルフは発射ボタンを押した。 である〈ダイダロス〉はまったくなす術がない。索敵の能力を奪わ と、同時にそれは起った。〈ダイダロス〉を凄まじいショッ れ、フェーザーカ / ンは役にたたず、ミサイルランチャーが消しと クが突き抜けたのだ。船体が震え、鳴動する。ミサイル発射のショ んだ〈ダイダロス〉は、今や演習用の標的のごとく切りきざまれて ックではない。 いるのだ。 ミサイルが発射寸前に、ランチャーの上で暴発したのである。 ドルフにできることは、歯噛みしてスクリーンを見つめることだ 〈ダイダロス〉は人工重力実験工作室までが大きく抉られ、残る唯けであった。そして、その間にも飛来する砲弾は情容赦なく〈ダイ 一の武器を失った。 ダロス〉の外鈑を剥ぎ取り、装備を破壊していく。 動力制御室を一弾が貫いた。 ミサイルが被弾暴発しました ! 上空にも敵がいます ! 」 ドルフはうろたえながらも、上空の映像をサ・フスクリーンに入れ そこには龍麗香がいた。麗香は爆風で壁に叩きつけられ、床に崩 た。高度三百メートルを舞う、二機のやはり旧式のプロペラ機が映れ落ちた。・スーツを着用していたので即死は免れたが、意識 あのは完全に失った。ビクリとも動かない。 った。スツーカではない。しきりに機銃掃射をしている。 銃弾がミサイルを暴発させたのだ。 〈ダイダロス〉は十数カ所に被弾して、黒煙と炎に染められてい それは直線的で鋭い主翼を持った、スマートで精悍な印象を与え た。反撃はまったくできず、ただ一方的にケーニヒス・ティーゲル る機体だった。明らかに戦闘機である。 の原子弾を浴びるのみである。 「メッサーシュミット 10 9 までが : : : 」 ドルフはパネルに拳を叩きつけた。 もうほとんどの計器が死 んでしまっている。 ドルフの口から呻くように言葉が漏れた。

8. SFマガジン 1978年10月号

た。点滴注射のためにペッドの金具に固定された細い手首が、不安口をきかす、トラン。フの神経衰弱遊びをやって、裏返しになったカ そうに震えていた。 ートを一回の間違いもなく全部合わせたり、指を一つ鳴らせばラジ ぼくはその手をにぎり、耳元に囁いた。 オが聞こえたし二つ鳴らせば消える、といった悪戯をしたり : 「大丈夫だよ。心配ないよ。・ほくがついてるからね」 ( 待てよ ) 病人の目は、焦点を結ばないまま、弱々しい光を早くも失いかけ ぼくは心の底が急に冷えていくのを感した。 ていた。 ( 馬鹿な。そんな 唇がかすかに動き、すぼめたロの奥から、たどたどしい言葉が洩しかし思い出は堰を切ったように溢れつづけた。祖母と過ごした れてきた。 あれらの日々の異常さが、猛烈な偏頭痛とともに、初めてぼくの眼 前に突きつけられた。『魔法つかいの夏』を書いていたときは、一 「 : : : ありがとう・・ : ございました : 度もそれを異常たとは考えなかったのに : ふたたび瞼が閉ざされ、軽い寝息が聞こえたした。 ぼくは病人の手をにぎったまま、さっきのうたた寝の間に夢書房偏頭痛はますます激しくなっていく。そして耐えがたさが頂点に 達したとき、何かが弾けるようにして、ある日の記憶が、なまなま のおやじとかわした会話を反芻していた。 およそ馬鹿げた話である。幼い頃のぼくが本物の超能力を持ってしく現前した。 いて、それを母が心配して封し込めてしまったなんて、まるでチャ 祖母が・ほくに心話でけしかける。 チなストーリ ーではないか。もしもその封印を破ることができ《タカシ、おばあちゃんを歩かせておくれ》 たならば、恐るべき超能力がよみがえって、波瀾万丈の事件がまた《無理しゃ。おばあちゃんはリュウマチでイザリじやけんな》 いつものように、念力を おこるとでもいうのたろうか。くたらない。そんな妄想にふけるに 《なーに、タカシならでける。簡単じゃ。 は、ぼくはトシをとりすぎてしまった。それよりは、時間の逆転現集中して、おばあちゃん、歩け、そう思うだけでええ。さあ、やっ 象の方が、まだしも興味深い。現に、目の前で死にかけている母親ておくれ》 は、すっかり幼児に逆行している。このまま彼女が肉体的にも胎児 《でけるかなあ》 に戻り、祖母の子宮に吸収されていったら、どんなに救われること《でけるでける。タカシにでけんことはなーんにもにゃあ》 ・ころう 《そないいうたかて : : : おばあちゃんの足、びったしくつついてし 考えを追っているうちに、久しく忘れていた祖母のことが、あざもうとるで》 《平気平気。さあ、おばあちゃんも一緒に念じるけに、頼むわ》 やかに思い出されてきた。晩年の祖母は慢性のリュウマチ症で足が 《ふん。ほしたら、やってみよか。数、一緒に数えてな》 立たす、隠居部屋に寝たっきりたったが、就学前のぼくは終日その 部屋で祖母にくつついて過ごしたものた。二人ともお互いに二一口も《よっしゃ。タカシ、かならすでけるで。ええか。一》 263

9. SFマガジン 1978年10月号

でも いくら同じ夢を 見たからといって 夢で おれたちが 死ぬものか すると 大森くんは からだが ノラハラになら なかったのか ? ・ あいつにぶつか「て / , ハラ・ハラになったけど 目がさめた時 、もとにもどったんだ おれの夢の中の 宇宙船は あいつにぶつかる前に 止まってしまって つの土にか目カ さめていたんだ 、そうだったわ たしかにあれは 出て来たけど ぶつか 0 て ↓もしこ ( もどるものと そして死ぬものと・ / / / れることに なるのか : 、こっ

10. SFマガジン 1978年10月号

の場はひとつおれに預からせちゃ、くれまいか。小松実之助、面子 にやりと笑っていった。 にかけて、あんたの顔に泥を塗るようなことはしないつもりたが , 「皆の衆、ごらんの通りだ。こりや、、超小型だが磁カ転換装置よ。 こんなサイコロ使われたんじゃ勝てるわけはねえや。おう、寺島「小松のご隠居のことばとあっちゃ、聞かねえわけにはいかねえと いいたいところだが、こればっかりはお断わりだ。いかさま盆で金 の、これでもいかさまにやってねえっていいはる気かい」 をまきあげられ、手ぶらですごすご帰ったんじゃ、組の若い者にし 剛造はサイコロの砕片を、盆の上に投げ捨てた。 「ば、ばかな。こ、これはワ、ワナだリ」 めしがっかねえ。まあ、年寄りは引っこんでておくんなさい . ほほをひきつらせながらいった。 善次郎が、 藤原剛造は、両手で実之助の肩のあたりをぼんと突いた。実之助 「ワナだと、いまさら、見苦しい。せ寺島 ! 目の前に証拠があるん がよろよろとよろける。 だ。じたばたせすに、おとしまえをつけてもらおうじゃねえかリ」 「なにをしやがるリ」 剛造がつめ寄る。 実之助のポティガードをつとめる伊那組の若い者が、懐から五連 発レイガンを抜いて構えた。 「どうしろというんた。おれの命でもとろうというのか ? 」 一瞬の狼狽を見せた善次郎だったが、もうこの時はいつもの冷静「藤原の親分さん、さしでがましいようですが、小松のご隠居に対 して、ちょっとおことばがすぎやしませんか . さを保っていった。 「そんなものはいらねえ。おれが欲しいのは、おめえのもっている梅原正二が一歩前に進みでていった。 鉱山の採掘権た。これの半分を譲ってくれりゃあ、いまのいかさま「うるせえ、たかが火星の穴掘りじじいの代貸が、二度も三度も口 出しするもんじゃねえリ」 は見なかったことにしようぜ」 剛造がわめいた。病床の親分を穴掘じじいとののしられた梅原正 剛造は、ロもとにうす笑いを浮かべ、勝ち誇ったようにいう。 二の顔色がみるみるうちに変わ・つた。 「なるほど、藤原の、あんたの目当てはそれたったのかい ? 」 善次郎は、そういって目をつぶった。 ( い、いけない。おやっさんはこの場を丸くおさめるため、採掘権梅原はすばやい動作で光線ドスを引き抜くと、藤原剛造に向かっ て突進した。 を渡す気でいる ) 龍一郎は、善次郎の顔を見て直感した。なんとかしなければ、そ「ま、待ちねえ、倉持の代貸ー う思った時、それまでひとことも発言しなかった小松実之助が、つ ようやく身体の・ハランスをたてなおした実之助が、剛造の前にで た。あくまで、この場は丸くおさめようというのだ。・ かっかと藤原剛造の側に歩み寄った。 「どいてやっておくんなさい、親分 ! 」 「藤原の、いうことはよくわかった。たが、今日はこの老ぼれのめ でてえ日だ。いざこざはやめにしてもらえはしめえか。どうだ、こ実之助にたちはだかれて梅原のス。ヒードが落ちる。その瞬間だっ 8 4