そのしぼりかすのなかから″オリアキコン″を採ったんじゃないか「ひとつは、この植物に名まえをつけることだ。学術名は地球の委 と思ったんだ。だが、。 とうも単位の大きさがちがう。″べテルギウ員会でつけられることになっているが、ニックネームは発見者がっ ス人″の持っていたのは、あるていどの面積の膜のようなものだっけていいんだ。発見したついでに命名してゆこうじゃないか : : : 」 ええと、どういう た。しかしこれは、微小なお皿のような形をしている。金属の性質「そいつはい、 」ヒ / は手をうった。 そのものは同じだが、形状がまったくちがっているんだ」 名まえがいいかな。タンポポに似ているからそれを利用するといし 「ふうん。がっかりしたと言うべきか、新しい発見があったとよろな。それから、″オリアキコン″を含有しているんだから、それも こぶべきか : : : 」 つか一つといし 。そうだシオダ、このふたつを組み合わせて、『オリ 「とにかく″オリアキコン″が発見されたことは、ひとつの前進だ ンポポ』というのはどうだ ? 」 ろう。 ″黒い石球″が歌をうたう原因がさらにはっきりしたわけ「うん、 いいかもしれないな。『オリン・、ポポ』ーーなかなかひびき だ。さて、つぎに細胞に含まれている成分が″長命ジュース〃と一 のいい名まえだー 致するかどうかということだが、・ さんねんながらその答はノーとい 「名案たろう ? 」ヒノはとくいの鼻をうごめかした。「ーーーで、つ うことらしい。それからもうひとつ、さっきの″黒い石球″の歌のぎのやることってのはなんだい ? 」 情報分析もしてみたんだが、マツリカ女史の報告以上のものは得ら「どうも気になるんたが、『オリンポポ』の種類は、いま調べたひ れなかった」 とつだけなのだろうか ? まだほかにもあるんじゃないだろうか : 「なんた、がっかりだな」 「植物の汁だから、むろん一致する成分もあるにはある。しかしこ 「それはあるかもしれん。だから、こうやって再スタートしようと のタンポポの種や茎のなかには、他の種類の商用にはならない成分しているんだ」 のほうがすっと多いんだ」 「いや、そうじゃなくてーーー」と、シオダは『オリンポポ』の林を 「それじゃ、しかたがない。サンプルを保存するだけにして、また見わたした。「 この林のなかに、べつの種類が混在しているよ べつの″黒い石球″好みの場所をさがすことにしよう」 うに思えてならないんだよ」 ヒノはロをとがらせて、ジー。フをスタートさせようとした。これ「それはまた、なぜ ? 」 を見たシオダはあわてた。 「さっきから風にふかれて舞いあがる『オリンポポ』を眺めている 「いや、ちょっとまて」 んだが、なかに動きかたがすこしちがうのがあるような気がするん だ。それから色彩も : : : 」 「あとふたつほど、やることがのこっているよ」 「それを先に言ってくれりやいいんだ ! 」 「なんだね ? 」 ヒノはおこったような声でこう言うと、ジープをとび降り、白綿 7
と、われわれの船をよく検分した結果、かれらのものがすぐれてい走らせた。 「この不可能性のごった煮をいくら温 るとわたくしは考えます。わたくしはかれらの初めての恒星間船「委員諸君ーかれはいった。 3 を見ました。あと百年たてば、かれらはわれわれよりすぐれた〈超め直しても、得るところはない。いまここに、とほうもない科学技 ーマノイドの一種族がある。同時にこの種族 単子〉を持つでありましよう。わたくしはかれらの兵器を見まし術の才をもったヒ た。かれらは歴史段階から言って、われわれより一千年遅れているは、超自然的な諸力に対するまったく非科学的な信仰をもち、個人 にもかかわらす、こちらにあるものはほとんど持っております。ま主義というか排外主義というか、ともかく信じがたいほど子供じみ た持っていないものも、やがて持つでありましよう。それも早急た独自性への偏愛をもち、なにより悪質なことには、銀河系全体に に。また、いま持っているものを、かれらは改良するでありましょわたって広がる文化というものを思い描けるたけの構想力がない」 かれは眼のまえにちちこまるケンタウリ人を、はったとにらムす 「この報告書がもしも信ずべきものであるとすれば、そのよ わたくしはかれらの軍需工場を見ました。われわれの工場のほうえた。 うな種族が存在しているにちがいないのだーー・・そして、まちがいな が近代化されておりますが、しかし、効率はむこうがすぐれてい かれらに敵対するよく、そのとき心理学の根本原理は倒壊せざるをえない。しかし、わ る。わたくしはかれらの兵士を見ました 味方としてともに戦えたら、とわたくしは希望いたします。 たしとしては、そのようなーーー俗な表現をお許しねがいたいが 「すでに、これはみな報告書に書いておきました。わたくしは何度そのような彗星のガスを信することはできない。これは結局、単純 でも、同じことを申しあげます」 な調裔のやりそこないであって、しかるべき当局の再調査にゆたね ぶつきら・ほうなアーンの言葉が終わり、フリアン・オーベルはまるのが適当である。わたしは諸君全員がこの見解に同意されんこと を希望する。この報告書はただちにゴミクズの山になげこみ、未経 わりの委員たちのつふやきが静まるのを待った。 「それで、かれらのほかの科学は、医学や化学や物理学は ? それ験な若い心理学者や、軍人などではなく、しつかりとした学識経験 のある専門家を長とする第二次遠征隊がーー」 らはどんなようすだ ? 」 オーベルの低い単調な声は、不意に、鉄のこぶしをテー・フルにた 「わたくしはあくまで素人であります。しかしながら、各専門家の 書いたものがその報告書には記載されており、私見として申しあげたきつける騒音のなかにかき消された。ジョゼリン・アーンはその 巨大な体驅を怒りにねしまげ、われを忘れて、軍神の怒りに身をま るならば、わたくしはそれを是認いたします」 ーマノイドなのたな ? 」かせていた。 「すると、この太陽人たちは、本当にヒュ 「いいか、テン。フリスののたうつ腹子にかけて、地を這う虫と空を 「ケンタウリの公転する諸世界に誓って、然りであります ! 」 老いた科学者は、けしからんといったジ = スチャをして、ゆった飛ふ・フョにかけて、糞っ・ほと疫病流行地にかけて、いや頭巾をかむ った死神そのものに誓って、こんなことは許さんそ。おまえらはい りと椅子にもたれかかり、素早く険しい視線をテープルのまわりに 7 ラトモ
ッチとお・ほしいものは見つからず、 x 線による内部走査「手術を、始めてくれ」 も、未知のものとお・ほしい構成金属の性質にさえぎられ、不可能と「了解」 いうことが明らかになっていた。 アンダースンは手をふり、作業員たちをレーザー トの背 宇宙機およびその乗員の早急な分析を命令されている准将は、 後に退がらせた。みすからはコントロールュニットに坐り、発射ポ ーそのための諸設備が、エクス。フローラ 1 号には準備されてあった タンに手をかけた。 ついに最後の断を下した。 その瞬間、テープによってマークされていたまさにその部分 が、音もなくひらいた。カメラの絞りが解放されるように、点から キャビンまたは司令室とおぼしい、頭部の球体部分を、レ 1 ザー により切開する指令を下したのである。船穀の金属が、レーザーを円へとひらいたのだ。 受け入れるかどうかも分からない。 すべてが試行錯誤の連続と「・ーー、待て ! 」 カその命令は必要なかった。すべてのスタ 准将は短く叫んだ。・、、 いえた。だが准将は決断を下した。そもそも、そのために彼はエク ッフはその瞬間凍りつき、球体のその部分を見つめていたからた。 スゾローラー号へ派遣されて来たのたった。 ッチ″は開かれ終わると、乗降用のラッタルと思わ ・ユニットの現場責任者が、ガラス越しに准将を見上げ宇宙機の″ れる板が、斜めにするすると伸びて来た。フロアに触れて、止まっ 「ーー準備は、完了しました。いつでも手術を始められます」 彼の声が、指令室に接続されたス。ヒーカーにひびき渡った。続は球体の内部から、白く眩ゆい光が放たれ始め : : : その光を背後 思わすにやりとした。さすがに陽気な人種た。いつでも、ジョ 1 ク に、黒っ。ほい姿が、ポードへとよろめき出て来た。 だけは忘れない。 っせいに新ライフルを構えた。 作業員の中の保安要員が、い レ 1 ザーガンの先端は、球体の正面部分の赤道位置にすえられて「射ってはならんそ ! 」 いる。直径一メートルの円周が、テ 1 ゾによりしるされていた。科 准将が鋭く命じた。 学者グルー。フが、そこを開口部分と決定したのだ。 「様子を見るんた ! 」 異星人は、ポードを下りかけていた。身長二メートル余り、 続は、掌にじっとりと冷汗がにじむのをお・ほえた。レーザービ】 ーマノイド・タイゾで、頭部が、地球人の二倍は大き ムが、未知のエネルギー・システムを持っ宇宙機の推進装置と干渉明らかなヒ、 デズモンド 、手足もひょろ長い。 し合い、大規模な破壊作用が起こる可能性もある。 防護スーツと思われる銀色の服を全身にまとっているが、頭部は ・・フラウンのいった通り、″すべては賭け″なのたった。 むき出しで、頭髪のない頭蓋の形がくつきりと見える。 「よろしい、アンダ】スン君」 眼裂はきわめて細く長く、鼻はないにひとしく、唇はまた異様に 唇もとにマイクを近づけ、准将は乾いた声で告げた。 せぎどう がんれつ 3
いちど午まへ鋼男の学校中に、人に話し 「ウンいノ字になった・ーーーでもやつばり前のようぢゃありません実を言うとそうなる前 ては不可ないので、さり気なく一人で行かうとしてみたが、見ン事 迷って、染井の植木屋につれ戻され、伯父と姉から大目玉を食った 「淋しそうネ」 といっても居なくなったものは居なくなったので、ばか大の腹へのが、今にして思えば足の遠くなった一つの理由でもあった。が、 はいってしまったか、舌に巻かれ歯へ挾まったか、とにかく奴のペ嫌だった「子日ク、も、遊び相手と一緒だとそれほどではなくな ロ / \ で無くなった者のことは諦らめて、残った二匹を前にも増しって、このところすっかり伯父薬籠中にをさまった形、夕食の膳に て大事にしてやることにしたがーー「大変」といふのはつまりこの小従兄と二人で、きようは何したしたと悪戯の手柄話を競ふのに 事で、雜司ヶ谷へ持ってゆけば、庭は一日ぢゅうあの馬鹿犬がのさも、怪我をしようが、着物を裂かうが、人に迷惑さへかけなけれ ば、伯父はけっして叱らなかった。「身体ハッビ」、あえてキショ ばり歩いてゐるのであるー ウしては不可ない筈だったが、伯父も伯父なりの考へあってして呉 「どうしよう、姉さん」 わからずや 「まアネ、どっちみち私達はあちらで暮すのですから、けふ持ってれてゐるので、たゞコチ / 、、の没義漢なのではないと解ったゞけで ゆかなくても、いっかは持って引越すわけでせう。部屋のなかへ置も、私にとっては大進境。 たうとうスッカリ「ノ手ッ子」になりきって、淋しがるどころ くか、ジュンの届かない高いところでも貸していたゞいて始終気を か、ずっとこのまゝこっちに居ると言ひ出した私の変りゃうに、 付けてゐれば大丈夫でせう」 「ソレ見ろ ! 」と伯父は姉をつかまへ鼻高、何でも男の児は元気 そうする外はなかった。貰った部屋は離れで、姉の来るときは二 人でそこで寝るが、ふだんは母屋で皆と一緒にゐることになったのに育てなくちやア不可ん。でないと国家のカンジョウが足らぬこと になるで、お前なそはそのカンジョウが生めるかどうか、危ないも で、鉢はけつきよく部屋へ置けずに庭へ出し、伯父にジュンの届か ぬ植木棚へおいてもらったのはいゝが こんどは私がそれで失敗のだと、何だか知らぬが頼まれた宝丹を池ノ端まで廻って買ってき っこ 0 た姉を真赫にさせる憎らしいご機嫌ぶり そこで秋には姉もこちらへ輿入れの話がきまり、私はそのま鋼 面目ないが : : : 忘れたのである。 青葉若葉の山ノ手雑司ヶ谷は、遊び場所がそこらちゅうにあっ男の夏休みちゅう高田で暮すことになった。 サアその夏休み。誂らえたように伯父には函館へ記録調・ヘの出張 た。護国寺の森、大塚の牧場、赤土の崖あれば活動ごッこに適し、 野川の流れは魚釣りと水浴びができた。蜻蛉つりにもソロ / \ 飽き用が出来て子ノタマまでクわなくてもいゝことになったから、遊び 野放しになって江戸川で泳 ると、入代って殫が鳴きだす。私は土地ッ子の鋼男の仕込みでだ盛りには願ってもない鬼のいぬ間ー 、鬼子母神さまの銀杏に登るーーイヤモウ二人とも真ッ黒 ! あ 4 ん点 \ 男の児らしい遊びに慣れて活になり、やうやく伯父の気に ひたに何度か来た姉もそのたびに驚くばかりで。 叶ひはじめた。れいの滝ノ川の御殿は、遊びに呆けてそれッきり。 / タマ
は、もつばら探査機による調査に委ねられていた。無害であること の証明を得てから地質学者をはじめとして、他の自然科学系の研究 8 者が人り込んで来て、つづいて私のような人文科学系の研究者もや ってきたというわけなのだ。 海原は緑色たった。鮮やかに、どこまでも、エメラルド色だっ 彼らの最初の報告書は次のとおりだった : ・ 。それははじめ、私の筋肉に作用体積からいって地球よりもはるかに小振りなこのカリフィャ星の 惑星の重力はたしかに強い 重力が、地球のそれに比較すると三十数パーセントも大きいという し、やがて私を疲労させた : カリフィヤは海洋惑星である。その全体が、まるで洪水に浸されことは、平均海洋深度が三メ 1 トルにも達しないこの海洋惑星が高 度の金属含有密度を持っているからである。そして、惑星進化の過 てしまったような浅海状の特徴を持っていた。 しかし、陸地も無いわけではなく、カリフィヤの赤道地帯には切程において、このカリフィヤの重金属類は地球のように中心部に移 動せす、もつばら地表部に均一に散在しているというのだ : れ切れに陥没した群島が、たった一つある。 それらの陸地の全体は、カリフィヤ・マングロしフの密林に覆わ重金属の主力は鉄である。鉄の多くは酸化した状態で存在してい れていた。それは別名をアイアン・マングロ 1 ・フと呼ばれ、一種のる。ということは、おそらく曾てこの惑星全域に亘って繁茂した植 物が多量の酸素を放出してこの夥しい酸素を地表部の鉄が化学的に 鉄木とも言うべき特徴を持っているのだ。 私自身は惑星生物学者でないから、その詳細な生態学的特質につとり込んだ結果であろう : いては知る由もないが、それらがこの″世界″に住むカリフィヤ人火山活動もあったようだ。太古の植物が盛大に繁茂していたとき の進化法則や、彼らの生活形態などに大きな影響を及・ほしているこ必要とした炭酸ガスは、火山が噴出し絶えず供給したものであった ろう。しかし、その後にこれらの地殻活動は終息したものと推定さ とは明白だった。 ・ : 。私の名前は。地球人た。地球政府の惑れる。 自己紹介をしよう : 星保護局が私に授与した上陸許可証には、″比較惑星文化形態学従って、現在のカリフィヤは、地質学的な安定期に入っているの である : 者″という長ったらしい肩書がつけられているのた。 無論私は、このカリフィャ星にとって、最初の外の世界からの来ところで、このカリフィヤの年齢は地球のそれよりも遙かに古 。造山活動や火山活動が活発に行われていた頃の山脈や、峯々、 訪者ではない。しかし、訪れた者の数はまた少数のはずだ。そうい 深海や海溝などは、億年という単位の長遠な時間における侵蝕作用 く 1 はまだ十台である。 えば、私が受け取った許可証の通しナンノ ともあれ、このある特殊な刺激臭を発散するカリフィヤの大気によって、今日みるようにすっかり均一化されたものであろう。 が、地球人の生命保持に必すしも有害ではないことが判明するまで事実、地形学者は彼らの報告書の中で、″超老年期〃などという かっ
を打ち身しただけよ、と彼女がいった。 「うつかりしてたのよ」と彼女がいった。「考え直してみたら、 わたしたちの帰路を全部書き出しても退屈なだけだろう。困難な〈爆発宝石〉による一番可能性の高い傷害が鼓膜の破裂たなんて、 旅だった、というのも、二人とも目が見えないってことについてのあたりまえね。ただわたし、そんなこと考えてなかったの」 経験がほとんどなかったからた。でも、わたしはすぐに適合でき「気にすることないさ。とってもよくやってくれたよ」 た。手を引いてもらナってのはごくやさしいことだし、最初の日の彼女はにつこりした。「ええそうよ、そうでしょ ? 」 後は「めったによろめくこともなくなった。二日めに山脈をよじ登視力の方がむしろ問題たった。予備の眼は全然なかったし、町の ったが、そのときわたしの〈追従機〉が故障した。エン ・ ( 1 ・はそれ人間は誰も、たとえどんな値段をつけられても自分のを一つ売って を捨て、わたしたちは彼女のを交替で使った。その間、わたしはしやろうなんていうわけがなかった。 ~ 彼女は自分の片眼を一時的な処 っとすわ 9 てなければならなかった。 , 彼女のは小柄な人間用にでき置としてわたしにくれた。赤外アイを残し、もう一方にはアイバ ていたからた。わたしがそれで歩こうとすると、すぐにペ 1 スが遅チをつける。そうすると彼女は凶悪そうに見えた。もう一つはビー れ 1 わたしを引っにつて・ハランスをくすそうとする。 ナス・ハ 1 グで買ってくる、といった。ふたりの血液型はあんまり良 ・、それから自転車を用意してペダルを踏むという間題があった。ペ く合わないんた。わたしの体は、三週間くらいで拒絶反能を起こし ダルを踏む以外何もすることはなかった。出発したときのおしゃべてしまうだろう。 りがなっかしかった。 . 〈爆発宝石〉がなっかしかった。はたしてそ ラストチャンスへ、週に一度の定期飛行船の出発する日がきた。 れなしの生活に適合できるかどうか疑問たった。 わたしたちは彼女の仕事場にすわり、足を組んで互いに見つめあっ 、しかしその追憶は、。フロスペリティに着いた時には消え失せて いていた。ふたりの間に、〈爆発宝石〉の山があった。 た。わたしは人間の心が本当にそれたけの大きさをもっ何かを呑み それは見られたものじゃなかった。いや、それが変質したわけし こむことができるなんて思わない。まるで夢が朝になると消え去るやよ、。 子・しテントの中で炎に照らされていた時より三倍も明るく輝く ように、それは時間とともにわたしからすべり落ちていった。あれまで、ふたりで磨きあげたんたから。でも、今わたしたちが見てい ほどすばらしい経験たったものが、思い出すのも難しくなっているるのは、汚れ、黄味がかった、それがかってそうであったものの骨 ことに気づいた。今では、本当のところ謎めいたことしかいえなくの破片にすぎないんた。ファーレン ( イト砂漠で見たものは、誰に なっている。わたしには影が残「た。まるで、日没を見たが、そのも話しちゃいない。確かめる方法なんてないし、わたしたちの経験 記憶を保存する方法をもたない ズのような気がする。 は完全に主観的なものばかりたった。そんなものは、実験室の中じ 町に戻ると、聴力を回復させるのはエン・ハ ーにとって朝めし前た やちっとも役に立たないだろう。わたしたちは、それの真のありさ った。要するに応急キットの中はたまたま予備の鼓膜を入れ忘れたまを知った、唯一の人間なのだ。おそらく、いつまでもわたしたち たけのことたったんた。 だけだろう。 いったい誰かに何が話せるっていうんだ ? 320
ない祝典がひらかれ、まったく節制のない状態が生じました。まっ 「それで、かれらはなんと言っておる ? 」 たく、おあつらえ向きの状態です。ぼくはかれらがエスペラントと 冫しいませ 若いアルクトウルス人はたじろいだ。「面と向かってよ、 呼んでいる簡単な言葉をつかって、かれらの議会に招待状を送りまんが、むこうのロ振りからすると、明らかに報告が不正確たと考え した。あの翻訳が九十五。 ( ーセント有効でなかったら、ぼくは首をているようです」 やってもいいです」 「そうか、その点の判断は、読んでからということにしよう。とも 「ほう ? それで、どうなった ? 」 いっしょに議事堂へ行こう。途中で、いくつか教えてもらい たいこともある」 「それからあとのことは、先生、・ほくには理解できません。ます、 中立的な反応があって、ぼくはちょっとびつくりしました。それか ら かれは思いかえして身ぶるいした 「七日のうちに アルフア・ケンタウリ人ジョゼリン・アーンは、たわしのような たったの七日ですよ。先生ーー・惑星全体が完全に態度を変えてしまひげを巨大な六本指の手でこすりながら、毛虫のような眉をあげ、 ったのです。かれらの心理はまったくつかめませんでした。五里霧テーブルの周囲からするどく自分を見つめている、いろいろな顔を 中というか、なにしろまるで見当もっきませんでした。当時、むこ こっそり見あげた。心理学委員会はそれそれべつの世界出身の二十 うで発行されていた新聞をもって帰りましたが、そのなかでかれら名の心理学者によって構成され、そのいっせいの凝視に耐えるの は〈異星の怪物同盟〉への加入に反対し、〈数十パーセクかなたのは、だれにでも簡単にできることではなかったのである。 世界に住む非人類による支配〉を断乎拒否するといっています。教「われわれの聞いているところでは」と委員長フリアン・オーベル えてくたさい、これを説明する理論がありますか ? がはじめた。かれは緑色の皮膚をした人々が住む・ヘガの原住民たっ しかも、こんなのはまだ序のロです。状況はもっととんでもなく 「この報告書の、ソルの軍事情勢をあっかった部分は、きみの 悪かったんです。ああ、善なる銀河よ。ぼくは完全に型反応にま仕事たそうたね ? 」 きこまれ、なんとか計算しようとしましたが、できませんでした。 ジョゼリン・アーンはあたまを傾け、無言の同意を示した。 しまいには、ぼくらは退去しなくてはなりませんでした。現実の、 「それで、きみはここに一種先天的なあいまいさをもって述べられ 物理的な危険が生じたんですよ、あの : : : 地球人と自称するやつらていることを、その先天的なあいまいさにもかかわらす、再確認す は、危害を加えようとしました : : : 」 る用意があるのかね ? 言っておくが、きみは心理学者ではない」 タン・ポーラスはしばらく唇をかんでいた。「おもしろい そ「ええ、もちろん ! わたくしは軍人であります」ケンタウリ人は の、きみの報告とやらは、持ってきたのか ? 」 強情にロ吻をとんがらかせ、重々しい声がホールいつばいにひびき 7 、え。心理学委員会が持っています。一日中、あっちこっちとわたった。「わたくしは方程式やグラフのことはまったく承知して 顕微鏡でながめまわしてますよー おりません。しかし、宇宙船はよく知っております。かれらの船 こ 0
た。点滴注射のためにペッドの金具に固定された細い手首が、不安口をきかす、トラン。フの神経衰弱遊びをやって、裏返しになったカ そうに震えていた。 ートを一回の間違いもなく全部合わせたり、指を一つ鳴らせばラジ ぼくはその手をにぎり、耳元に囁いた。 オが聞こえたし二つ鳴らせば消える、といった悪戯をしたり : 「大丈夫だよ。心配ないよ。・ほくがついてるからね」 ( 待てよ ) 病人の目は、焦点を結ばないまま、弱々しい光を早くも失いかけ ぼくは心の底が急に冷えていくのを感した。 ていた。 ( 馬鹿な。そんな 唇がかすかに動き、すぼめたロの奥から、たどたどしい言葉が洩しかし思い出は堰を切ったように溢れつづけた。祖母と過ごした れてきた。 あれらの日々の異常さが、猛烈な偏頭痛とともに、初めてぼくの眼 前に突きつけられた。『魔法つかいの夏』を書いていたときは、一 「 : : : ありがとう・・ : ございました : 度もそれを異常たとは考えなかったのに : ふたたび瞼が閉ざされ、軽い寝息が聞こえたした。 ぼくは病人の手をにぎったまま、さっきのうたた寝の間に夢書房偏頭痛はますます激しくなっていく。そして耐えがたさが頂点に 達したとき、何かが弾けるようにして、ある日の記憶が、なまなま のおやじとかわした会話を反芻していた。 およそ馬鹿げた話である。幼い頃のぼくが本物の超能力を持ってしく現前した。 いて、それを母が心配して封し込めてしまったなんて、まるでチャ 祖母が・ほくに心話でけしかける。 チなストーリ ーではないか。もしもその封印を破ることができ《タカシ、おばあちゃんを歩かせておくれ》 たならば、恐るべき超能力がよみがえって、波瀾万丈の事件がまた《無理しゃ。おばあちゃんはリュウマチでイザリじやけんな》 いつものように、念力を おこるとでもいうのたろうか。くたらない。そんな妄想にふけるに 《なーに、タカシならでける。簡単じゃ。 は、ぼくはトシをとりすぎてしまった。それよりは、時間の逆転現集中して、おばあちゃん、歩け、そう思うだけでええ。さあ、やっ 象の方が、まだしも興味深い。現に、目の前で死にかけている母親ておくれ》 は、すっかり幼児に逆行している。このまま彼女が肉体的にも胎児 《でけるかなあ》 に戻り、祖母の子宮に吸収されていったら、どんなに救われること《でけるでける。タカシにでけんことはなーんにもにゃあ》 ・ころう 《そないいうたかて : : : おばあちゃんの足、びったしくつついてし 考えを追っているうちに、久しく忘れていた祖母のことが、あざもうとるで》 《平気平気。さあ、おばあちゃんも一緒に念じるけに、頼むわ》 やかに思い出されてきた。晩年の祖母は慢性のリュウマチ症で足が 《ふん。ほしたら、やってみよか。数、一緒に数えてな》 立たす、隠居部屋に寝たっきりたったが、就学前のぼくは終日その 部屋で祖母にくつついて過ごしたものた。二人ともお互いに二一口も《よっしゃ。タカシ、かならすでけるで。ええか。一》 263
うほどのものでもない。構成している原子と原子の結びつきが通常 ヒノはすこしあせった声をだすと、手近かにあったダイヤモンドの結晶よりすっと強くなっているんだろう。・ほくの推理では、この 5 4 のドリルを持ちだして、″黒い石球″に突きさそうとした。 黒い物質はうすい殻になっており、中は空洞で、各種の機械がつま つるり。 っているのではないかと思う。つまり、物質それ自身の密度は、こ ドリルは滑って実験台に穴をあけた。 の球体全体の密度よりずっと高いんた」 「ちくしようめ ! 」 「それで、こんなに硬いわけなんだな」 ヒノは二度三度と試みたが、いずれも失敗だった。それを眺めて ヒノがおそるおそる、″黒い石球″を脚でけとばした。シオダは つづけた。 いたアールが、見かねたように、道具箱から大きなハンマーをもっ てきた。人間の手にはとても負えない、巨大なもので、これなら惑「ティスプレイが出したもうひとつの解答は、反射特性が測定でき 星を叩きつぶすことだってできそうに思えるーーーそんな代物だっ ないくらい小さい ということだ。やけに黒く見え、光沢もなに も感じられないが、これはまったく光を反射しないでいることをあ アールはそのハンマーをふりあげ、″黒い石球″をにらみすえらわしている」 こ 0 「まったく、黒色の球体があるんじゃなくて、影がそこにあるって 感じだなあ」 気合いもろとも、 ( ンマーは″黒い石球″の上にうちおろされ「このような特異な反射率は、この球体が光のエネルギーで作動す た。事態の推移にやっと気づいたシオダが、あわててやめさせようるものであることを意味しているのだと思う。外からのエネルギー としたが、もうおそかった。 をすこしでもむたにしないように、すべて吸収する性能をもってい 実験台がつぶれた。脚が折れ、板がふたつに割れてとび散った。 るんだ : ・ : ・」 むろん″黒い石球″は元のままの姿で床にころがっていた。蛙の面「ふうむ、いちいちもっともな推理だよーー」ヒノは″黒い石球″ とはこのことである。 に何 A 」か をうさんくさそうに眺めながら、シオダに説明を求めた。「 「すげえや」 イスプレイの解答への解釈はそれはそれでいいんだが、おれがいち ヒノが感嘆の声をあけた。あまりの硬さに、気をのまれ、いらい ばん興味をもつのは、なんといっても音楽だ。いったいあれは、ど らもおさまってしまったようだった。アールは実験台がこわれたのういうわけで、どういうときに鳴るんだろうなあ : を見て悲鳴をあげ、あわてて修理をはじめた。 シオダは小首をかしげ、それから確信をもった口調でこたえた。 シオダはそれにかまわす、自分の仮説の説明にもどった。 「この″黒い石球″がほんとうに音楽を演奏するのかどうかは、こ 「この硬度はただものではないが、物理的に想像できない れまでは″ペテルギウス人″の話を信じるだけのことたったので、 とい
そう思ったとおりの反応を、彼女は示した。 がら小さな声で言った。 「あの、もし間違 0 てたら御免なさい。あなた、ひょ 0 として水泳「あの、もしよろしか 0 たら、私に水泳の「ーチをしていただけま せん ? 」 チャンビオンの : : : 」 「コーチをねえ」 「ええ、そうですよ」 チャンビオンはつぶやき、じらすように視線を外して黙り込ん うなずいて、チャンビオンはった。 「ほう、俺好みの女だな」 「あの、あの、勿論、お暇なときで結構なんですけれど」 「あの、私、あの」 「暇といえば今夜が暇たな」 彼女は、身をよじらんばかりにして言った。 「私、あなたの大ファンなんです。先日の大会で金メダル五つもお他人事のようにつぶやき、視線を戻してまともに彼女の顔を見 とりになったときなんか、私、もう、本当に」 「今夜はどうです」 「つまらん映画だったなあー かなりもてていることを意識し、チャン。ヒオンは話を自分の目的「ええ、ええ、それは私の方はいつでも」 「ふむ」 にむけて強引に変更した。 チャン。ヒオンはさりげなく彼女の手を握り、ついでかなり強引に 「安つぼい人生論みたいなこと言って、こっちが恥かしくなってし その身体をひきよせ、耳もとできざっぽくささやいた。 まう。とても見ちゃいられないよ , 「で、明日の朝、一緒に食事をしましよう」 「ああ、それで : : : 」 彼女は感動したように彼を見あげた。 一瞬ギクッと身をかたくし、耳まで真赤になった彼女が、かすれ 「やつばり、男の人って、強い力を持ってることが第一の条件です る声でこたえた。 ものねえ」 「ええ : 「う、いや、別にそうと決ったわけでもないが」 言葉とは逆に、彼は首をぐるぐるとまわし、肩をあげさげし、拳「じゃ、今夜プール・サイドで」 そのまま彼は出て行ってしまった。 を強く握りしめてウッとりきんだりしてみせた。 ああ、私、あのたくましい腕で : 「へつへつ、こんな馬鹿女軽い軽い」