美獣 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1978年11月号
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1. SFマガジン 1978年11月号

トの顔を見た。 「行ってしまうの ? 」 、リイデールよ : 。お前が美獣だったのか : : : 」 セアラが説いた。ためらいがちな口調だった。ハリイデールは振 「おれのことを知っているのか、獅子王よ ! おれのことを : : : 」り返ることなく答えた。 ハリイデールは勢い込んで訓いた。戦いの前にかれの名を聞いた「俺自身を捜さねばならない : 「あんたは美獣よ ! それがわかれば充分じゃない ! 」 へニングリートが動揺して先手をとられたことを思い出した。へニ ングリートは失われたハリイデールの過去のことを知っているに違「獅子王があてをくれた。ガロナの氷の女王 : : : 。何者のことを言 よ、つこ。 . し / 、カュ / ったのかはまだわからぬが : : : 」 「異なことを訊くのだな、ハリ 「捜してどうなるのよ ! 」 お前を知らぬ巨人が おるというのか : : : 」 「セアラ ! やめなさい」 「巨人だと ? どういうことだ、獅子王。 おれには過去の記憶 そして、 ヴァーグルが強く制した。 ハリイデールに向き直っ がないのだ。話してくれ、おれのことを : : : 」 て言った。 「記憶がない : ? 」そこでヘニングリートはむせかえるように小 しかし、これ 自分を捜しに行くがいし さく笑った。「そうか、オ】ディンが : : : そうか : : : 」 からの旅は楽ではないそ。お前が美獣と知れたのだ。あらゆる巨 ( ニングリートの息が荒くなった。ときに言葉が跡切れ跡切れに人、悪霊がお前を倒さんものとつけ狙うことしやろう」 なる。 ラグナロッグ 「言ってくれ ! おれは何だ ? 」 「おそらく、神々のたそがれのその日まで闘い続けることが、お前 「お前は : : : お前は・ : ガロナの : : : 氷の女王 : の宿命なのたろうて : : : 」 そこでガクッとへニングリート の首が横倒しになった。ハリ ールは慌ててその顔を覗き込んだ。目から光が失せてしまってい 無言のまま、 ハリイデールは歩き始めた。右手に持ったグングニ た。絶命したのだ。 1 ルの槍が、陽光をあびて盛んに煌めく。ようやく白夜が明け、地 ハリイデールは、全身から気が抜けたように茫然となってその場平をのろのろと這っていた太陽が昇りだしたのた。 に立ち尽した。 「あんたが、美獣だったのね : : : 」 セアラがあとを追おうとして二、三歩前に進み、ヴァーグルにと められた。 だしぬけに背後で声がした。振り向くと、セアラが立っていた。 ヴァーグルと数人の村人も来ている。 美獣の前には、荒凉と広がるツンドラの原野があった。 ハリイデールは視線を戻し、かれらに背を向けた。

2. SFマガジン 1978年11月号

すべての人々がそう思った。しかし、ハリイデールはグングニ 選ばれた者なのじゃ ! さあ、討て ! グングニールの槍もて、巨 ルの槍を手にしたまま何ごともなく立っていた。 髪は雄々しく人を、悪霊を討つのしゃー 逆立ち、筋肉は闘志にあふれた緊張で小山のように盛り上がってい な・せた ? なぜ力がみなぎる ? なぜからたが、血が燃え る。その姿はまるで一匹の猛獣ーーー均整のとれた美しい獣のようる。 ・ : おれが美獣なのか ? おれが選ばれし者なのか ? おれは 誰なんたー 神によって選ばれた男 : 行動が思考を超えていた。 村人達の脳裏をあの古い予言の詩の一節がよぎった。 いつの間にかハリイデールはグングニールの槍を振りかざし、神 「美しき獣 : : : 」 殿をあとにしてフィヨルドの崖の上を走っていた。な。せそうしたの ふっと、まったく意識することなしにセアラの口から言葉がつい かは、自分でもわかってはいなかった。身の内にどこからかっきあ てでた。つぶやきのような、本当にかすかな声たったが、それは意 がってくる闘いへの衝動がそうさせたのた。 外なほど大きく響いた。 巨人の群れが足下にきた。 「美獣たっ ! 」 ハリイデールは何のためらいもなく、目もくらなような崖からダ 誰かがそれに応えるように叫んだ。 イビングした。目を見開き、驚愕のあまり唖然としている巨人の顔 「美獣たっ ! 」 がぐうんと迫ってぎた。 さらにそれに和す声が次々とあがった。たちまち神殿の周囲は巨人達の間にけたたましい悲鳴がまきおこった。血が迸り、空も 然となった。 海も大地も真紅に染まった。巨人の首がいくつか、鈍い水音をたて ハリイデールは当惑していた。 て海に落ちた。そして、しばらく間をおいてからゆっくりとからた も倒れる。 な・せだ ? なぜた ? なぜだ ? おれは・ 。おれは : 。おれは : グングニールの槍を風車のように回して巨人を切りきざみなが 言葉が精神の中で渦を巻いていた。何かを考えることができなくら、ハリイデールは身を翻して軽やかに巨人の船の甲板に立った。 なっている。全身はたぎる血の昻奮で、火のように熱い。何かする恐怖にかられて逃げ出した者もいるのだろう。何十人といた巨人 ことをかれは求められている。 たが、何をすべきかがわからなの数は、半分ほどになっている。 いのだ。 残った巨人はハリイデールの立っ船を素早く包囲した。 グングニール ハリイデールは槍を巨人に向けて投げつけた。 ヴァーグルの声がかれを呼んだ。 の槍は、投げれば必す相手を倒す力を持っている。そのことを知る ノリイデール、選ばれし者よ : 。お前こそ美獣、神々によって巨人達は思わず立ちすくんだ。そこへ槍が躍り込んだ。 ー 70

3. SFマガジン 1978年11月号

と、セアラ。 んでしまった者もいる。 「ひとっとして : : : 」若者はうなだれた。「巨人の船はあまりにも 6 巨人の船はフィヨルドの中に進入してきた。フィヨルドの水深は 深い。これほどの巨船でも幅さえ広くなければ充分、奥部まで入っ頑丈で、一抱え二抱えくらいの岩ではビクともしません。その上、 てくることができる。 黒小人にでも造らせたか、鉄の板を巧みに組み合わせて、我らが放 ハリイデールは台座に立っヴァーグルとセアラを見た。怯える村っ松明をすべて海にはたき落とす楯をも備えています。もはや打っ 人達の喧騒の中にあって、どちらも凝固したように徴動だにしてい手はどこにも : : : 」 ハリイデールはごった返す間を縫って二人のもとに近づいて「お父さま ! 」 セアラは絶望の表情でヴァーグルを見た。 台座の石段を昇って、ヴァーグルの後ろに立つ。その 気配を察したのか、ヴァーグルは振り返った。 「フィヨルドは天然の要害じゃ。だからこそ、神殿はここに築かれ 「どうする気た ? 」 ハリイデールは説いた。「勝てる相手ではない しかし、どうやら巨人は万全の策をたててきたようじゃ な」 「わかっておる : : : ー老人は答えた。「じゃが、アスガルドの神々 「オーディンの守護が : : トールの守護がありますわ : にかけて、ここを明け渡すわけにはいかん」 「美獣、か : : : 」 「降伏を勧めにきたのね ! 」 老人のそれは、つぶやきのような一言だった。だが、その一言を セアラが言った。 周囲の者は誰ひとりとして聞き逃さなかった。 「どういう意味た ? 」 「美獣だ ! 」 「巨人の襲撃は、あんたがここへ来てオーディンの神殿の話を聞い 真っ先に叫んたのは、あの伝令の若者たった。 た直後よ。巨人達はあんたに呼ばれてやってきたんだわ ! 」 「俺達には美しい獣がいるんだ ! 予言にうたわれた美獣が神殿を 「俺は巨人の仲間ではない」 守ってくれるはすだ ! 」 ハリイデールがそう言ったときだった。一人の若者がヴァーグル あちこちで呼応する声があがった。″そうた″とか″美獣だ″と の協に駆け寄った。肩で大きく息をしており、松明の赤い火の下でか叫ぶ歓喜の声である。その昻奮は次々と伝播していき、神殿の上 見ても蒼ざめているのがわかる。 はまたたくまに熱狂の場となった。再び、巨人の船が出現する前の 「崖上からの攻撃はだめじゃったか ? 活気が戻ってきたような喧噪である。人々は足を踏みならし、手を しかし、これは伝説という 振り上げ、ロぐちに巨人を罵った。 若者が言うよりもはやく、ヴァーグルが説いた。 幻に支えられた影のような活気にすぎないのだ。それがどんなに早 「ためです。ーーまったく効果がありません」 く瓦解するかを老人は痛いほど承知している。 「岩も火も利かなかったの ? 」

4. SFマガジン 1978年11月号

新鋭の放つヒロイック・ファンタジイ・シリーズ堂々の開幕 ! 美獣シリ、ズ 北海の獅子王 高千穂遙 ラストレ ツイノ ンン = 之 6

5. SFマガジン 1978年11月号

だが、ヴァ 1 グルの頃悶は長くは続かなかった。 ヴァーグルは耐えきれず、はしゃぐ村人達から目をそらした。 誰かが発した次の一言で、騒ぎが瞬時にして静まり、昻っていた と、冷ややかにかれを見つめるハリイデールと視線が合った。 村人達の心がまるで氷を押しあてられたかのように冷えきってしま ハリイデールは村人の昻奮を尻目に 「不用意な一言たったな : : : 」 静かに言った。「神殿を護るのは美獣の役目ではない。それは村人ったからである。 そうではなかったのか ? 」 それはこう言った。 達自身の役割だ。 「巨人が上陸するそ ! 」 「予言は、村の長にのみ伝えられてきた。かれらが聞いているの は、そのほんの断片にしかすぎない。きよう、あなたが聞かれたほすべての目が、一斉に巨人の船に向けられた。 ども、かれらは知らないのしゃ : そして水しぶ くろぐろとした巨人の影が次々に宙へ躍った。 「教えてやらねばなるまい、ヴァーグル。美獣が護るのは神々であ このように浮かれていては戦さになきがあがり、しばらく間があって、ひっきりなしに激しい水音が響 って神殿ではないのだと : いてきた。 らんそ」 船から海に飛びこんだ巨人は、影が重なり合っていてよくわから 「わしは迷うている : : : 」 ないが、少くとも五十人はいた。フィヨルド特有の切り立った深い 老人の声はかすれて小さく、ほとんど聞きとれないほどたった。 理由はどうあれ、村人達の戦意はいま、これ以上ないほどに高揚入江にもかかわらす、水面は巨人達の腰のあたりまでしかなかっ していた。しかし、ヴァーグルが真実を告げれば、その戦意はたちた。 巨人は、手にした剣や斧などの得物をこれ見よがしに高く振りか まちにして萎えてしまうことだろう。それが得策かどうかを老人は 判断できないでいたのた。このまま真実を語らねば、村人達はひたざし、おどろおどろしい喚声をあげて、一歩また一歩と村に向かっ もちろん、これは村て進み始めた。 すらに美獣の出現を期待して戦うに違いない。 ハリイデールは周囲の空気が変わったことに気がついた。村人が 人を欺くことを意味しているが、この未曾有の危機を前にして、き 迫りくる巨人達の群れを見て、おびえだしたのだ。無言のまま、恐 れいごとを言っておられるだろうか。 ( リイデールは今のままでは戦さにならんと言った。しかし、ヴ布にかられてジリジリと後退っているのがはっきりとわかる。 と、巨人の前進が止まった。海岸まであとほんの一息という アーグルは今のままでないと戦さにならないと思っていた。 ところである。 が、はたしてそうなのか : なんだ・ : 迷いは迷いを生み、ヴァーグルの心は千々に乱れた。老人はみす ーー自分は決断を下すべ からを面罵し、そのふがいなさを恥じた。 ( リイデ 1 ルがそういぶかしんだときであった。まるで壁のよう に立ち並ぶ巨人達を掻き分けて、一際立派な体驅の巨人が前に進み き長ではないか ! それがいったい何をしているのたー

6. SFマガジン 1978年11月号

珠玉のファンタジイ 反在士の罠 宇宙戦争秘話 清太郎出初式 新鋭の新シリ ーズ開幕ー 北海の獅子王〈美獣シリ 迫り来る無気味な視線 窓のない家 木の女房 気鋭の超未来幻想連載第十一回 宝石泥棒 時空をつなぐ鏡の謎ー 俊英の最新カ作一六 0 枚 残像 1978 年 11 月号 目次 ーズ〉 又千秋田 梶尾真治 高千穂遙 滝原満 ジェイン・ヨーレン 0 村上博基訳 9 山田正紀 ジョン・ヴァーリイ 7 冬川亘訳 巧 6 0 / き

7. SFマガジン 1978年11月号

槍は右に左に上に下にと自在に走る。巨人達は反撃のひとつもで尋常な現象ではなかった。何か魔の力がもたらした、まがまがしい 引き潮に違いなかった。 きないまま、タ・ハタと斬り裂かれ、息絶えていった。 槍カハリイデールの手に戻ってきた。巨人はもう数人を数えるの新たな戦いの予兆がそこにあった。 みである。 ハリイデールは宙に跳んだ。 海が割れた。 槍をふるい、一人また一人と巨人を屠っていく。 剥き出しになった海底に着底して傾いた船の上で、 デールの全身は真っ赤になっている。 は槍を手に身構えた。何が現れるかはまったく想像できなかった。 「たっ、助けてくれエ・ ただ、何かが出現するという確信たけがあった。 最後の一人になった。崖にへばりついて必死に許しを乞うてい 突然、天まで届こうかという水しぶきが爆発的にあがった。 ハリイデールは船を伝ってジリッ、ジリッとその巨人に近づい そして、巨大な遙か上空へと続く柱がそびえ立った。 た。グングニールの槍がその右手で光る。 いや、柱ではない。 巨人は半狂乱になっていた。崖を登ろうと手をしきりに動かして それは信じられないほど巨大な蛇の鎌首だった。ぬめぬめと妖し いるが、指はむなしく崖を削るのみである。 く光る黄金色のうろこ、燠火のように赤く燃える双眸ーー。地上を ひと巻きして、まだ自分の尾をくわえることのできる海の怪物、 ッドガルド蛇である。 巨人は叫び声をあげ、崖にそって逃げようとした。と、同時に槍 「お前が美獣かー が一閃する。 首と胴がすつばりと離れ、首は崖にめりこんだ。からたの方は勢ふいに頭上から声が降ってきた。割れ鐘のような、ガンガンと頭 に響く蛮声であった。 いよく水しぶきをあげて海中に沈んでいく。 / トラスより 声の主は、ミッドガルド蛇の頭の上に立っていた。・ : ハリイデールは息をつぎ、村に目をやった。 不思議に村は静かだった。恐ろしい敵の攻撃を退けたという喜びもさらに一回り大きな巨人である。 も昻奮もないようだった。 おそらく黒小人が造ったものだろう。黄金の鎧を身につけ、角か ふっと、村人達がどこか遠くを見ていることにハリイデールは気ぶとをかぶり、腰に剣を佩いて、三ッ又の鉾を手にしている。 リイデールの背後である。ハリイデ•— 顔はといえば、その半分は真っ黒な髭に覆われ、表情を読むこと がついた。陸に面して立っハ すらできない。しかし、らんらんと輝く両眼は残忍な色をはっきり ルは振り返って後ろを見た。 とたたえている。 海が、凄ましい勢いで引き始めていた。 背の真紅のマントが風にあおられて、激しくはためいた。 水面がみるみる下がり、海底が沖へ向かって露わになっていく。 る。 返り血でハリイ

8. SFマガジン 1978年11月号

「あなたは不吉よ ! 不吉すぎるわ ! からだに血をしたたらせ、 目に野獣の光を宿らせて : でてって ! アスガルドの神々の名「信仰ではないのだ、 ハリイデール。これはわれわれの役割なの にかけて、すぐにでておいき ! 」 だ。神々の命により定められたわれわれのな : 「セアラ、落着くんじゃ」 そこでヴァーグルはわずかに間を置き、ややあって言を続けた。 ヴァーグルは、セアラの肩に手を置いた。 「あの神殿には、オーディンの宝、グングニールの槍が納められて 「お父さま、この男は巨人の仲間よ ! きっと様子を探りにきたの いると伝えられる。 「お父さまー 「セアラ ! 」 「お前は黙っていなさい」 ヴァーグルの重ねての叱責に、セアラは渋々ながらロを閉じた。 色をなして詰め寄るセアラを、ヴァーグルは一言で制した。 が、憎悪にあふれた、たぎるような眼差しは、じっとハリイデール 「代々、この村の長にのみ語りつがれてきた古い予言をお聞かせも に向けたままである。 うそう」 「神聖な地 : : : 巨人の仲間 : いったいそれは何た ? なぜそ そしてヴァーグルは、予言の詩の一節を朗々と歌ってみせた。 れが俺に関わってくるんた ? ハリイデールは困惑して説いた。どうして自分が疎まれるのか、 「天は咆え、地は唸る その理由がさつばり解せなかった。 神々のたそがれはすでに近い 「随分白々しいことを言うわね : : : 」 聖なるトビアンの地にも セアラがまたロを出した。そっ。ほを向き、馬鹿にするような口調 大いなる禍が迫りくる である。ヴァ 1 ・グルはそんな娘をちらと一瞥し、そしておもむろに そのとき遠き地より 言った。 美しき獣が姿を現すだろう 「トビアンの村は、神々のためにある」 美しき獣は 「神々の : グングニールの槍もて巨人悪霊を討ち 地は再び光の満つるところとなる 「村の中央に神殿があることに気づいておられるかな ? 」 ハリイデールはうなすいた。 命あれ 「あれは、オーディンの神殿じゃ。 この村に住まうわれらはす ラグナロックののち べて、あの神殿を守るためだけに存在しておる : 神々は復活したまう : : : 」 「それはあなたがたの信仰だ。俺は何もそれに異をとなえる気はな よ い」 る 3

9. SFマガジン 1978年11月号

詠誦はそこで終わった。何か途中で打ち切ったような感じたまとった者が現れることを忌み嫌う。しかし、わしはトビアンの 長。ーーー強者には少しでも長く村に留まってもらいたい」 「無駄なことよ : : : 」セアラがつぶやくように言った。「こんな男 老人は言った。 を置いたところで、巨人どもがますます凶暴になるだけだわ」 「これが出たしのほんの数行じゃ。しかし、これで充分じやろう。 「やれやれ ! 」 し力がかな ? 」 ハリイデールは両足を投げ出した。 「あんたが俺に何を言いたいのかは、さつばりわからない。 「ようやく一夜の宿を得られたと思ったら、その代償が北海の獅子 が、この村が神聖な地であることの由来だけは、よくわかった」 そうだ、美しい獣た。 王の相手とはね : : : 。何といったかな。 ハリイデールは素っ気なく答えた。 「この予言は、長い間、他に知られることはなかったーヴァーグル竜たか熊だか知らんが、その美しい獣というのに早く来てもらった の表情が、心なしか暗くなった。「ところが、近頃、海の巨人どもらどうだい ? 」 「神々の言い伝えをちやかさないで ! 」 がこの予言のことを聞きつけたらしく、何かとうるさいのじゃ」 またセアラが噛みついた。 「ほう : : : 」 「本来ならあんたの穢らわしい耳になんか入らない言葉よ ! 」 「海の巨人の王はヘニングリ 1 トじゃよ」 ハリイデールは無言のまま、セアラを睨みつけた。セアラはその 「北海の獅子王か ( リイデ 1 ルは、思わず腰を浮かせた。へニングリートは猛々し気魄に一瞬たじろいだ。 「セアラ 、、い加減にしておきなさい」それを見て、ヴァーグルが い巨人族の中でも、勇猛なことでっとに名高い。北海の獅子王と聞 間に割って入った。「今夜はもう遅い。ますはひと眠りして、あと いてまた戦いを挑めるのは、神々といえどもオーディンとトールく の話はまたあしたにしようじゃないか」 らいのものであろう。 「村の者は怯えている : : : 」ヴァーグルは言った。「巨人族ーーーそ「わかったわ、お父さま : : : 」 ハリイデールの視線を逃れ、ホッとしたようにセアラは答えた。 れも北海の獅子王を相手に神殿を守り通すのは容易ではない」 ヴァーグルはハリイデールにかまどの前にわらを積んで寝るよう 「不可能じゃないのか ? 」 ハリイデールがそうするのを待ってから壁につるしてあっ ハリイデールは気休めを言わなかった。 た灯心の火を吹き消し、セアラとともに奥の部屋に入った。 「おそらくな : : : 」 巨人の襲撃は、その夜のことたった。 「俺の力を借りたくて追い返さなかったのか ? 」 「それもある : : : 」ヴァーグルはあいまいな言い方をした。「セア ラはオーディンに仕える巫女た。こんな時たからこそ、血の臭いを寝入ってから、一時間と経ってはいなかった。 4

10. SFマガジン 1978年11月号

泉の園】 約束の地を スケッチ傑作展 ・他 / 浅倉久志・編訳 不毛の現代にひとときの安らぎを ペンチリ 贈る短篇集。サー ュ ーなど英米の名ェッセイスト、 ーモア作家の珠玉の短篇を収録ー ズ 脱出航路 ワ 叫び カ 夢の冠 ャ コーマ〈昏睡〉。 ロバート・ m ・パーカー / 菊池光訳一ニ〇〇 〈アメリカ探偵作家クラブ最優秀長篇賞受賞〉 私立探偵スペンサーがまきこまれた、ウーマ ン・リプの銀行襲撃。傑作ハードボイルドー ・アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作 ホップスコッチ プライアン・ガーフィールド \ 一ニ〇〇 死者の舞踏場 トニイ・ヒラーマン \ 一ニ〇〇 ・イギリス推理作家協会賞受賞作 隠された栄光 アントニイ・プライス \ 一ニ〇〇 シルヴィア・ウォーレス / 北見麻里訳 \ 一三〇〇 カリフォルニアの高級美容施設 〈泉の園〉に集う、上流社会の女た ち。美を求め、恋を追うはなやか な群像の光と影を描く口マネスク 絶賛発売中 ! トマス・トライオン ヤ ク ヒ ク ズ ク ロ 00 \ ロ 00 田 00 に 00 ノエル・ロリオ クん腿