見え - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1978年11月号
24件見つかりました。

1. SFマガジン 1978年11月号

「嘘だ、嘘だ、嘘だ : : : 」 ジローのその声はしだいに狂おしいものになっていき、ついには「俺の守り神よ」 けだものめいた絶叫にかわっていった。 雲龍は奇妙に悲哀を感じさせる声でつぶやいた。「俺には、自分 の運命がみえない。みえないが、いずれ人は死なねばならないもの ながぎ 女帝の袍子がビリビリとひき裂かれる音がきこえた。ジローは女だ。おそれることはなにひとつない。なあ、そうではないか。俺の 守り神 : 帝を押し倒すと、すさまじい勢いで犯しにかかった。 そして、サッと右手をあげると、喉をかぎりにこうさけんだの 香に媚薬が混ぜられていることに、ふたりとも気がついていなか ミ」 0 「ときはいたった。今こそ、内域に向かって一気に押し寄せるの 窓の外から、からみあうふたりの肢体を見つめている一対のだーーーこ 背後の闇を、地鳴りのような喚声がふるわせた。そして、数百の 眼があった。 シャオチュウ 衛士の履音が、ザッ、ザッ、ザッと調子をあわせてきこえてくる。 丑だった。 シャオチュウ ついに、謀反のときがきたのだ。 丑は笑っていた。「いかにも嬉しくてたまらないというよう ( 以下次号 ) に、クスクスと笑っているのだ。悪意を、毒汁のようにしたたらせ ている笑いだった。 註Ⅱ中国では、すでに一〇八八年に、脱進機をもちいる水時計 あいかわらず美しいが、しかし毒蛾の美しさだった。 がつくられている。巫抵が所有しているこの時計は、棒てんぷ 丑はっと窓からはなれた。 式脱進機と呼ばれる機構を利用したもので、重りのついた横木 そして、おどろくほどの身の軽さで、回廊をつたうと、城壁のう を左右に回転させ、時計に規則性を与えるようにつくられてい えに立った。 る。こんな時計を所有していることからも、たしかに巫抵は県 圃ではかなりのインテリである、ということができるだろう。 城壁のうえには強く風が吹いていた。 シャオチュウ 丑は松明をとると、それを右に左に大きく振った。炎が風に あおられ、うなり声のような音をたてた。 遠く、外域のあたりにも揺れている炎があった。 雲龍は、首ヒモをかけられ、足元にうずくまっている銀ギッ ネを見つめていた。ながい苦労のすえ、ようやく捕えた″銀″たっ シャオチュウ

2. SFマガジン 1978年11月号

ほとんどわからなかったが、それが当然たったのだ。グルー。フが一 体になってしゃべっていたのたから。どんな言葉も、全体の意見と「あなたの罪に対するべナルティは、慣例にならって定められまし ならないかぎり、わたしには伝わってこなかった。 た。この慣例がなかったら、わたしたちは喜んで、べつの判決を下 「あなたが告発されたのは、一つは規則を破ったからであり」グルしたことでしよう。、 しまやあなたには、指定されたペナルティを受 ー。フの声がいった 「一つは、この ( わたしが〈傷跡〉と呼んだ女け入れ、罪をぬぐい去ってもらうか、それとも、わたしたちの裁判 性の ) 怪我の原因となったからです。あなたは反論しますか。なに権を拒否し、この地から身柄を引きとるか、どちらかしかありませ かほかに、明らかにされるべき事実がありますか」 ん。どちらの道を選びますか」 いえ」わたしは答えた。「わたしが悪かったのです。わたしの わたしは。ヒンクにもう一度くり返してもらった。とても重大なこ 不注意でした」 とだったから、どんな申し出かはっきり知りたかった。正しく読み 「わかりました。あなたの感じている良心の呵責に同情します。あとっていたと確信したとき、わたしはためらいなくべナルティを受 なたの苦しみは、わたしたち全員にとって明らかです。しかし、不け人れた。選択権を与えられて、心からありがたいと思った。 「よろしい。あなたはとくに選ばれて、わたしたちが同じ行為をし 注意は規則に反します。この点が、あなたにはわかりますか ? こ は犯罪であり、そのためにあなたは・ーー」それは一連の速記のた仲間を遇するのとまったく同じように、あっかわれることになっ たのです。わたしたちのところへ来なさい」 一三ロ号だった。 かれらは広がった輪をくすし、さらに寄りかたまった。なにが起 「いまのは何たろう ? 」わたしはビンクにたすねた。 「そう : ・〈あたしたちの前に連れてこられた ? 〉、〈裁判を受けるのかは教えられなかった。群れのなかに引きこまれ、四方からか るく押された。 ている ? 〉」彼女は肩をすくめた。どちらの訳にも不満そうだった。 「ええ。わかりますー 〈傷跡〉は、足を組んで、グループの中央あたりに坐っていた。彼 「事実には問題がないので、あなたが有罪であると意見が一致しま女はまた涙をながし、わたしも泣いたと思う。ほとんど思い出せな いのだ。気がつくと、顔を伏せ、わたしは彼女の膝に横抱きにかか した」 ( 「〈悪い〉という意味」とビンクが耳もとでささやいた ) 「わたしたちが決定に達するまで、しばらく席をはすしてくたさえられていた。彼女はわたしの尻を平手でたたいた。 それが信じられないとか、異様たとか思ったことは一度もない。 わたしは立ちあがり、壁のそばに立った。にぎり合わされた手と状況のなかから自然に出てきたことだった。だれもがしつかりとわ 手のなかを、論議が行ったり来たりしているあいだ、わたしはかれたしにつかまり、やさしく愛撫しながら、手のひらや脚に首や頬 らを見たくなかった。焼けるようなかたまりが喉にひっかかり、呑に、励ましの言葉をつづった。わたしたちはみんな泣いていた。グ 3 み込めなかった。やがて、わたしは輪の中にもどるよう要請されルー。フ全員が正視するのは、とても無理だった。一人また一人と、

3. SFマガジン 1978年11月号

、河岸に立ってみた。おせつが、健策とおきぬを連れてやってき「まあいいさ。折角鋸を探してきたんだし、竹は切ることにしょ 。表に七夕を飾る飾らないは作りあげてからのことでね。他に何 た。清太郎は大きく伸びをして皆に笑いかけた。 「久しぶりの雨上りたな。今日は何日だろう」 も娯楽はないし、今まで納屋に籠りきりたったのだし、おきぬちゃ 「六月の : : : 」そう言っておせつは細い指を眉間にあてた。「慥んも喜ぶんじゃないかな」 か、ええっと : : 健策とおきぬを交互に見やりながら困ったようその案には健策も同意せざるを得なかったらしく渋々頷いた。竹 に、「九日までは覚えてたんたけれど」 は納屋の周囲を覆うように林立していたから、手頃な笹を探すのに そうだ、まったくだ。あの化物に襲われた日から何日経ってしま手間は要らなかった。清太郎は五分くらいで二丈ほどの竹を切取っ た。かついだ笹の葉から水滴がしたたっていた。 ったのだろう。清太郎も憶い出せないのたった。 「ためだなあ」 どこから持ってきたのかおせつは硯を手にしていた。「あたし、 字が書けないの」おせつは困ったような顔をしていた。 健策が例によって実際の年齢より遙かに成熟した口調で言った。 「いいよ。うまい字じゃないけれど、俺が書こう」 「困るんたなあ。今気づいたのたけれど、日付がはっきりしない 、七夕が飾れないじゃないか。毎年ちゃんと一緒に七夕を作って清太郎がそう言うと納屋の中から甲田老人が声を掛けた。 「よし、わしと清太郎さんと二人で書こうか」 いたんだ。その日がわからなくなってしまうだろう。困るんだ。一 巻かれた障子紙を納屋の葛籠の中からとりだして、短冊の大きさ 応ぼくもそういう思い出は持ち続けたいと思っているんだから」 に切り分けた。健策もこの作法に徐々に乗り始め、筆をとる清太郎 おきぬも兄の言葉に同意するかのように何度も頷いていた。 につきっきりで文句を指示し始めた。 清太郎は暫く思案した後、納屋へ戻り、鋸を持って出てきた。 「竹を切ろう。気分転換だ。七夕がいっかはわからないけれど、今「願いごとを書くんたからね。それも限られた大きさの短冊に書く から飾っておけば七夕の日に飾り忘れるってことはないと思うけれわけたから、清太郎兄ちゃんは要領よくまとめなければいけない よ」 おきぬはわあっと奐声をあげ手を叩いて賛成した。健策はまだ浮健策の注文だった。いつの間にか清太郎の地位は″おじさん″か かぬ様子たった。 ら″兄ちゃん″へと変っていた。 「しかし、清太郎おじさん。どうなんだろう。七夕を飾ったりすれ「まず、このうんざりするような状況を終らせるような : : : ね。あ ば、あの化物にぼくたちがここにいるという目標を与えてしまう結の化物がいるってことがたまらないのが本音だな」 果になるんじゃないかなあ」 清太郎は健策の注文に従って金釘のような字でこう書いた。 火星人力エレ 「いや、おきぬは七夕見たいわ。ねえ見たいわ」 「火星人力エレか。まあまあたね。でも、火星人が帰ってしまった 清太郎は折衷案をたしてみた。

4. SFマガジン 1978年11月号

・シリーズ第一話「反在士の鏡」あらすじ・ 火星の西カラザの街で、傭兵のポーンはその男に出会った。オレ ンジ色のライオンのような長い髪をした美少年。だが、彼の腰には ふつりあいに大きなハンドキヤノンが吊りさげられ、そして彼の故 郷は戦争によって宇宙の塵と化していた。辺境の惑星からやって来 た田舎者ーーーしかし、彼は反在士だった。妄想の鏡を抜けていかな る場所へも出現できる。 宇宙は今、二大勢力がしのぎをけずっている。そして、勢力関係 のまた不安定な辺境世界でのみ、激烈な戦闘が戦われていたのだ。 この戦いの一切をあやつるゲームの差し手に対する復讐から、ライ 球型の指揮所の内部は、暗く、電子的な軽い刺激臭がたたよって オンはポーンたちの協力により、二大勢力の均衡を破壊する。しか し、二つの勢力もまた、この邪魔者に関心を向けるのだった : 球の中心に投影されているリアルタイム三次元ディスプレイの照 り返しによって、かろうじて見分けられる人影は着任して間もない 嶺エルダリアの頭上からは声高な参謀たちの議論が聞こえてく 若い参謀たちであるらしい。 ( まるで、星雲のようだ ) 彼等には、だが、未曾有の規模で闘われる今回の艦隊決戦の全体 ほとんどそれと分らぬゆるやかな動きで、しかし刻々と形を変え像が、少しも把握できていない、 とエルダリアは首をふる。 てゆく光点の群 : : : 指揮所の中空に浮かぶ三次元ディス。フレイの影彼等は優秀な戦術スペシャリストではあるが、かえってそのため 像が、相対峙するふたつの艦隊なのたとは、にわかに信じがたい気に、自己の経験を圧倒するスケールを、キャ。 ( シティの内にとりこ 分で、見るともなしにその一角を眺めやっていた嶺エルダリアは、 むことがついにできないでいる。今さら、ひとつひとつの艦の配置 ふとそこにぎごちないパターンを発見してとまどった。 にこだわって、どうなるものではない。全体を、その星雲とも見え る拡がりを、有機的なパターンとして把握しないかぎり、もはや、 太陽系を離れること五光年、・ハーナード大移動星とプロキシマ・ この新しい形の戦闘を遂行することは不可能なのた。 ケンタウリのほぼ中間にあたる全くの虚無のうちにあってすら、こ の〇・二光年にわたって展開する彼我の艦隊は、決して小さなもの たが、嶺エルダリアとて、そうは頭で理解しながらも、余りに厖 とは言えなかった。 大なこの物量の集結をどうしても整理しつくすことができないま 歴戦の嶺エルダリアにとっても、両軍あわせて八十二万艇におよま、この決戦を迎えてしまっていたのである。 ぶ艦隊の布陣など想像したことすらなく、今回の戦闘は、双方にと ( しかし、いったい、何故、このなにもない空間に、これたけの艦 って全く未知のゲームとなるはすだった。 隊が全銀河から呼集されなくてはならないのた ) ふと、そんな思い 「問題は、言葉に色々な違う意味を持たせることができ るかどうか、ということです」とアリス。 「問題は、どっちが主人か、ということなんだーーーそれ だけた」とハン。フティ・ダン。フティ ( 『鏡の国のアリス』より ) 202

5. SFマガジン 1978年11月号

は、表に湧き起った悲鳴、怒号に夢を破られ、目を覚した。石敷き村人達は、胡散臭そうにかれを見るだけで、どこにも取りつくシマ の床を通して、何十人もの人間が駆け回る足音も響いてくる。 がない。無理もなかった。かれらにとって、この金髪で大柄な男 ハリイデールは跳ね起き、立ち上がった。 は、見知らぬ怪しげな他所者にすぎないのだ。トラ・フルを引き起す 「ついに来たようじゃな : ・ : こ ハリイデールはヴァーグルから村人達に事情を説明してもら 背後で声がした。振り返ると、火皿を手にしたヴァ 1 グルとセアいたかった。 ラが奥の部屋から出てきたところたった。 ヴァーグルとセアラは、神殿の中央の四本の石柱に囲まれた、数 「巨人か ? 」 段高くなった台座の上にいた。二人ともまるで彫像のように身じろ 反射的にハリイデールは問い返した。 ぎもせず、しっと海のほうを見つめて立っている。ーー表情は強張 「とぼけないでよ ! 」セアラが血相を変えて叫んだ。「あんたが呼 り、まばたきひとっする気配すらない。 んだんでしょ ! 」 ふと気がつくと、周囲の人間すべてが先ほどまでのざわめきはど 「俺は知らん ! 」 こへやら、一様におし黙ってヴァーグルと同じ方角に視線を向けて 「セアラ、神殿じゃ。神殿を守らねば いた。そして規則正しい波の音に混じって遠くから響いてくる何者 ヴァーグルはもう外にいた。セアラはハリ ハリイデールは立ち止まり、村人達の見つめる先ー イデールを押しのけるかの喚声・ : ようにして戸口に向かった。 ーフィヨルドが外海に向かって口を開いているその彼方に目をやっ 「俺も行く : : : 」 二人に続いて、 ハリイデールも家を出た。 初めのうちは海上にかかっている淡い霧のために、何も見えなか たいまっ った。上下する波頭が、地平すれすれに留まっている赤い太陽の鈍 神殿の周囲は、夥しい数の松明によって取り巻かれており、そこ だけがまるで昼のように明るかった。人数を多く見せるつもりでもい光を浴びて輝いているのが、見てとれるだけであった。 と、だしぬけにそいつは現れた。 あるのたろうか。しかし、白夜にそれをやっても何の効果も得られ ないはすである。そくそくと神殿に集結する村人達は戦いを知らぬ それは三隻の巨大な木造船だった。船体は細く長く、ヘさきは大 烏合の衆た、とハリイデールは思った。 きく伸びて、そこに見事な裸婦像が彫られている。船腹からは十数 神殿の石段を昇った。 本の長い櫂が突き出していて一定のリズムで力強く波を掻き分け、 百人あまりの村人がそここ 冫いた。手に手にもりのような得物を持船足は目を瞠るほど速い。そして甲板の上には何十人という海の巨 っている。神殿はさほど広くなかったので、人々は肩が触れ合わん人が槍や刀を手にして立っていた。 ばかりにひしめいていた。 神殿に集まった人々の間から、畏れと絶望がないまぜになった悲 ハリイデールはヴァーグルとセアラの姿を捜した。まわりにいる鳴にも似た声が湧きあがった。中には呆けたようにその場に坐り込

6. SFマガジン 1978年11月号

コンテストの締切も近づいてきました。日 本のこれからを創るのは、マガジンを今 編集後記 読んでいるあなたです。ふるって御応募ください。 ところで、先月号で最終回を迎えた「矢野徹イ ■プームは別としても、の読者はここ数ンタビュウ」には、さっそく、な・せ中断したのか 恥年間着実に層を拡げてきています。特に、いわゆというお手紙をいただいています。しかし、創作 ⅶる古典ものの着実な売行きを示しているのが、た・翻訳と二人分の活躍をされている氏のこと、し んなるうわっいたプームでないことを感じさせてばらくお体みをいたたきたいと思います。 いくれ、頼もしいかぎりです。ところが、作家のほ最後におわびを。「日本こてん古典」と 「マッド・ サイエンス入門」は、今月は休載させ うとなると、あまり増えているとは言えません。 ( 今 ) ていただきました。御諒承ください。 これは、翻訳者にしてもしかりです。 こう書いてしまうと、生産が需要に追いっかず■狂熱の夏を無我夢中で過し、気がつけばもう 回嘆いていた、今年の夏のビ 1 ル業界のように見え秋。それも突然に。・フームで百家争鳴、活況 〕るかもしれません。たしかに、そう感じられない呈した大会、マガジンの増刊号 ( なんと こともありませんが、実際にはまったく事情は違いってもこれがすごい ! ) 等々、一夏にしては多 すぎる経験も今となっては一場の夢のごとし。気 います。 ビールならば、同じものを大量に作りさえすれ温の低下と共に、やっと落ち着きをとりもどしつ " ば良いわけですが、作家・翻訳家の場合にはそうつあります。 「はいきません。これから小説を書いたり、訳した「フォーカス・オン」でおなじみ、大空翠こと井 ⅲりしようという人たちの「個人的な努力にかか っロ健二氏が今月より連載を開始します。映画 の申し子といってもいい氏がうんちくを傾けて取 ているのです。しかし、徐々にではありますが、 優秀な新人も育ちつつあります。 り組む「映画講座」。映画のムックがは 今月号は、日米新人の大挙登場です。 んらんしている中、一本すじの通った本格的なも ( 池 ) なかでも牧村高雄氏は今回が初登場。しかも、 のにしていただくつもりです。 ⅶ本誌のリーダ 1 ズ・ストーリイ出身です。新人の■初秋の風物詩 : : : 高い空、透明な風、白い模型 出現を楽しみに始めたコ 1 ・ナーが、このように早飛行機、赤トンポ : : : すすき、月見草 : : : 柿、 い機会に実を結ぶとは嬉しいかぎりです。また、 栗、梨・・・・・・冷たい雨 : ・・ : 長い夜、コオロギの音、 co-c-4 マガジン一九七八年十一月号 ( 第十九巻十 臨時増刊号でデビ = 1 した高千穂遙氏も、本誌に読書 : : : いよいよの季節だなあ。 ( 松 ) 二号 ) 昭和五三年十一月一日印刷発行発行所 は初のお目見え。パワフルで、しかもなかなかの ・ストーリイ⑩過去がその改変をすべ東京都千代田区神田多町二の二郵皿早川書房 小説巧者です。日本には今までいなかったタイ。フ て終えたとき、現在がゆ「くりと鮮明になり始し東京 ( 二五四 ) 一五五一 ( 代 ) 発行人早 で、もしかするとまったくエボック・メイキング 川清編集人早川浩印刷所誠友印刷株式会社 めていた。 な出来事かもしれない、という気さえします。 乱歩賞受賞の女流作家登場 ! 栗本薫 イギリス S F 特集 キース・ロバーツ クリストファー・プリースト ポプ・ショウ プライアン・ W ・オールディス 新鋭注目のシリーズ ! 地球の血 ( 続 ) 鏡明 好評連載 「宝石泥棒」第 12 回 山田正紀 「宇宙叙事詩」 光瀬龍十萩尾望都 「日本 SF こてん古典」「私を S F に狂わせた画描きたち」ほか読物満載 ! 232 次号予告 1 9 7 8 年 12 月号

7. SFマガジン 1978年11月号

ザルアーが肚にすえかねたようにいった 「ご存知か、と ? 」 巫抵はようやく笑いをおさめ、 : こちらへ来るがええ。おもしろいものを 「ふん、ええじやろう : 巫抵はつかのま、キョトンとして、ジローの顔をみていた。そしみせてやろう」 三人を隣りの部屋にいざなった。三人の返事をききもしないで、 て、とっぜん体を折るようにして、笑いだした。けたたましい、や 先にたって、さっさと隣りの部屋に人っていってしまう。 や躁的なものを感じさせる笑い声だった。 三人は顔をみあわせ、しようことなしに巫抵にしたがった。 ジローは然としている。 すまい 巫抵はおよそ、住居に心を配るたぐいの老人ではないようだ。隣 「なんと・ハ力なことを : : : 」 巫抵は笑いの余波に、ヒクヒクと体をけいれんさせながらい 0 りの部屋も、いままで居た部屋と同じく、机、椅子などの必要最低 限の調度しかおかれていなかった。 た。「お、お、おろかなことを : : : 夢のようなことを : : : 」 ただ、正面の壁際に、奇妙なからくりが据えられてあった。 「″月″をご存知たというんですか」 「″空なる螺旋″・・ : : 」 巫抵の表情に好奇心の色が浮かんだ。 「″月″をとりかえすためです」 重版情報 ハヤカワ・ミステリ文庫 ハヤカワ文庫 SF/JA/NV/NF 〔宇宙英雄ローダン・シリーズ〕 ダールトン、マー ) レ プラント、ショルス ミュータント部隊 Y34 。 死にゆく太陽の惑星 Y32 。 核戦争回避せよ ! 3 20 秘密スイッチ X 3 20 ロポット皇帝の反乱 ! Y32 。 望郷の宇宙帝国 宇宙船タイタン SOS !Y300 消えた生命の星 \ 300 太陽系七つの秘宝 工ドモンド・ハミルトン Y340 ・ 多元宇宙の王子 キース・ローマー 360 宇宙の孤児 ロバート・ A ・ハインライン 280 「なんのために ? 〔 SF 〕 〔ミステリ〕 十日間の不思議 東京神田多町 2 ー 2 早川書房 振替東京 6 ー 47799 ェラリイ・クイーン \ 440

8. SFマガジン 1978年11月号

「とりしら した。たしかに、ザルアーのいうとおり、ここではとうていジロ 男はあいかわらずうす笑いを浮かべたまま、いった に勝ちめはなかった。復数の敵を相手にするときには、できるかぎべたいことがある。一緒に、来てもらおうか : : : 」 り動きまわる必要があり、狭い部屋ではそれが不可能たったからで ふいに、巫抵が笑い声をあけた。耳ざわりな、金属をこすりあわ ある。 せるような笑い声たった。 しナし、どういうことなんでしようか」 チャクラが抗議した。「わたしたちは決して怪しい者じゃありま せんが : : : 」 「それを決めるのは俺たちた」 要するに、衛士たちはわいろがほしかったのだ。旅人をいた いうならば衛士たちの常套手段にす ぶり、わいろをせしめるのは、 ぎない。ちょっとした臨時収入というところだ。 たが、どちらにとっても不運なことには、三人に現金の持ちあわ せはなく、それどころか貨幣経済そのものに不慣れたった。 衛士たちは、はじめはそれとなく、次にはかなり露骨にわいろを 】 ( ・要求してきたが、三人に金がないことをようやく納得すると、身勝 手にも激怒した。 一文にもならないうえに、三人を兵舎まで連行するという、わす らわしい仕事まで課せられることになったからた。衛士たちは、こ れを自分に対する重大な侮辱とうけとったようた。 三人にとっては、まったくの災難というしかなかった。 衛士たちはロ汚くののしりながら、三人を道にひきずりだした。 わいろをくすねそこねたうらみが、衛士たちをおそろしく凶暴にし ていた。さかうらみもいいところたが、しよせん理屈の通用する相 手ではなかった。 巫抵がしきりに金切り声でわめいていた。 はしめのうちこそ、三人の災難をおもしろがっていたようだが、 さすがに衛士たちの乱暴をみかねたらしい。しかし、巫抵がいかに

9. SFマガジン 1978年11月号

とは許しません。おまえはだまって、わたくしの命じるところにし「そうだ」 ジローはうなずいた。 たがえばいいのです : : : 」 「女帝さまなんだ」 ジローはなおもくりかえした。「雲龍さまのいとこのーー」 女帝の顔に、なにか傷ましいような表情が浮かんだみたいにみえ た。燭台の炎がゆらめき、かもしだした、たんなる影だったのかも 女の表情にかすかに動揺がはしった。その動揺は、すぐにうす笑しれない いにとってかわられた。 「蛮人、おまえの国ではいとこと寝ることを禁じられていないので ジローの頬が音たかく鳴った。 ・ : 禁じられている」 「だまれといったはすです」 ジローは苦しげに答えた。 女帝がいった。「おまえは話す必要がない。頭もいらない。た 「それでは、なにも考えることはないではありませんか : : : おまえ だ、そのたくましい体で、わたくしを満足さすことができればいい は、その娘をあきらめるしかないのです」 のですーーー」 「できない : その言葉は傲慢だったが、しかしどことなく背のびしているもの っこ。「俺には、ランをあきらめるなん ジローはうめ ~ 、ようにいナ を感しさせた。若い娘の身でありながら、最高権力者の地位につい ているために、いっさいの娘らしい喜びをうばわれている、ある種てできそうにない、 「わたくしはできました」 のさびしさみたいなものが感じられるのた。 「おしえてほしいことがある」 「嘘だーーー」 ジローは強く首を振った。「もし、あんたと雲龍さまが本当に愛 ジローはなぐられたことをまったく意に介していないようだっ た。「あんた、雲龍さまと好きあっていたのかー しあっていたというなら、たとえいとこ同士だったからといって、 そんなにかんたんに忘れることができるはずがない。あんたは自分 「どうして、そんなことをきくのですか」 女帝が逆にききかえした。 に嘘をついているんだ。嘘をついているということは、まだ雲龍さ まを愛しているにちがいないんだ」 「ききたいからだ」 「無礼な : 「だから、どうして ? 」 一瞬、ジローはためらいをみせたが、意を決したようにいった。 女帝の右手が白くひらめいた。しかし、ジローはその手を途中で 「俺には好きな娘がいる。その娘も : : : 」 しつかとんだ。 「いとこだというのですかー 数瞬、ジローと女帝は激しく睨みあった。

10. SFマガジン 1978年11月号

の斑点のように黒々としていました。下肢は強靱でしなやか、足首トをつまびいて過ごしました。木もしっときいては反応をしめすよ から先はふしくれだって、先端は木の根のようにほそっています。うでした。枝が本にふれてページをめくります。彼女の甘い歌声に 細やかな手には緑色の静脈が走り、ひとさし指と中指がくつつい 合わせて、木全体がゆらゆら揺れます。 て、一枚の葉のようになっていました。男はドルシラにほほえみか しかし、男がまた木からあらわれ出て、彼女の胸のなかで夜明け け、最前の彼女の訴えかけの仕種そっくりそのまま、両の腕をのべまで眠るには、つぎの満月を待たねばなりませんでした。 てきました。その腕が、風に吹かれたように上下に揺れました。 それでもドルシラは満足でした。というのも、木の男への愛がっ ドルシラは身じろぎもせす、息をのんで立ちつくしました。と、 のるにつれ、彼女の万物への愛が、ひそやかな芽生えにも似てはぐ 男がうなすき、彼女はその腕のなかにはいって行きました。口に男くまれたのです。花一輪、葉一枚にも、彼女は近しさを覚えまし のロがかぶさってきたとき、息に湿った木のにおいがありました。 た。緑の世界の声なき言葉がきこえ、樹皮の内側に心臓の鼓動が感 ふたりは彼の木の下で、根に抱かれて一夜をともにしました。けじられました。 れども、はるか遠くの山の端に日がのぼりはしめると、男はドルシ ある日、思いきって村へ出かけて行くと、人々は彼女が、狂った ラの腕から去りがたげに身をひきはなし、また木のなかに姿を消しゆえに美しさがいやましたように思いました。なかでいちばん遠慮 ました。 のなかったのが老婆で、これが問いかけました。 それつきりもうドルシラがよんでも男は出てきませんでしたが、 「どういうのだい、おまえさん、男なしにしちや色つ。ほくなったじ 枝が一本たれさがってきて、恋人の別れのあいさつのように彼女のやない 腕をさすりました。 ドルシラは老婆のほうを向いてほほえみました。ゆるやかな笑み でした。 つづく日々を彼女はその木の下で、本を読み、機を織り、リュー 2 9