てしなかった。サン・オイルと夏の海辺、山小屋とスキー場、どんで、蒼白くほほえんでいるようにさえ見えて、しばらくのあいだ、 なに世のなかがすすんで、作りかえられてきても決してなくならな彼女はかれをあいてにとりとめもない無駄話をしかけていた。 それにも惓きて、彼女はホキをそこからきたところーー・・・無の中に 、むだでむなしい遊びの古めかしさが、わたしはとても好きだっ かえしてやったが、そうやってまったくのひとりきりになってみる た、そこにはいつもいい男の子たちがいっしょにいてくれたから。 もっともーー・と彼女は思う。わたしはいつだって、あのヨナ・アと、宇宙と彼女とが同じものになるためのさいごの扉さえもひらか ンダーソン、誰でもが恐れるだろうおそるべき人生を背負いこんだれてしまい、彼女はもう自分のからだがもとのままのヒ = ーマノイ ドのかたちをしているのか、それとも裾模様に星々を散りばめた宇 女であることにさえ、決して惓まなかった。何かしら、見る価値の ある新しいもの、もういちどあじわいたい古いものは常にあった宙空間そのものの一部にとけこんで、ひろがっていってしまってい し、そしてわたしはいつも、まるで生まれたばかりの仔猫のようるのかさえさだかではないような、そんな平和なここちよさの中に つつみこまれているのだった。 に、見るものすべてにおどろいてばかりいた。 ( わたしは、幸せなのだ ) ( わたしは、いつだって、目を丸くしていた。わたしの身の上にお 宇宙よーー彼女は、はてしなく手をさしのべて、その手のさきが こるすべてのことが、あまりにも途方がなくて、わたしはそれらの おこることは前もって宇宙の秘密の時間割に書きこまれたことなのそのまま闇とのさかいめをなくしてこの無限そのものを抱きしめて いる、という、寄妙な悠久の感覚にひたりながらそっとささやいて だ、と思ったり、みんなわかっていた、と思ったりしながら、わた みた。わたしを生み出し、わたしをこのような存在にさだめた、宇 しの上におこってくるすべてのことに驚異の目を見ひらいていたー 宙よ。 ーわたしはそうしながら、いつだって、とても幸せだった ) もちろん何ものも答えはしなかった。ここでは星はまばたくこと いまでさえーー彼女は思う。月日も、時間も、上下左右の感覚さ えもすべては用をなさなくなって、目は星々と闇のいろにぬりこめさえもしないのだし、時間はーーー時間はとっくの昔、彼女がこの星 のあいだを漂いはじめるよりずっと以前から、彼女をおきざりにし られ、耳は星々の音のない音にふさがれ、そして思いはこのせまい わたしのからだの中にとどまるしかないいまでさえも、わたしはとていた。時間も空間も彼女を急流のさなかの岩のように、時になま めかしく、時には激しく、ただふれては通りぬけて流れ去ってゆく ても幸せなのだ。 だけだった。それらは彼女を、彼女がそれを超えているがゆえにそ さっきまで いつのさっきだろう、一分前、十時間前、それと も数千年前 ? 手をのばせば届くところに、「カルナ」号の残骸につと拒んでいた。 ( それでもわたしはこうして星々を美しいと見ることができる。す はりつくようにして通信士のホキのちぎれたからだが漂っていた。 下半身は、瞬間にふきとんで、あとかたもなくなったかれの顔でに死んでしまったいい男の子たちとのやさしい思い出をとりだし は、しかし彼女がおだやかになるように手をさしのべてやったのて数えることもできる。わたしは、何者なのだろう。時のなかにあ オ・ヘレーー
きこんでいる。ルカは、はしめて見る人のように婚約者を眺めた。 ように、何ともいえない、あどけない笑みを顔しゅうにうかべて、 「どうして・・・ーー・」 冷たい飲物のキュー・フがあてがわれた。少し咳こんで、ルカは言 「ツトム ! 」 「どうして呼び戻したの。すべてが明らかになるかもしれないとこ ルカは叫んだ。いとしさが胸にこみあげてきた。 ろだったのよ。 いまやっと、ホルツ症候群のすべてが」 ( ットムは、わたしを信じてくれた ! ) 草むらをはしりぬけて、赤ん坊を胸に抱きとろうと、彼攵はまろ「それで、なかなか、こちらのシグナルに気づいてくれなかったん び寄った。赤ん坊はそれをじっと見つめている。彼女の手が裸の清だね」 なためるようにオコーナーがいった。彼も白衣をつけていた。 潔な肌のやわらかな感触をすくいとろうとした刹那 もう、こんなしんきくさいこと、しなくた 「それどころしゃない。 すべての世界がっきとばされたように消えた。 っていいんだ」 ルカは悲鳴をあげた。 戸村博士はいった。ルカは眉をひそめて、フィアンセを見返し 赤ん坊が火のついたように泣き出すのがかすかに耳に入った。ル 力は泣き出した。 「どういうこと ? 」 「赤ちゃん ! ットム、わたしの坊や ! 」 「この星の運営委が、たったいま議決を採択した。地球の本部も了 全身をもぎとられ、叩きつけられるような激動が彼女を襲った。 彼女はさかさまになったり、ひきちぎられたりしながら悲鳴の尾を承したよ。ホルツ症候群の第一号から第十号までの患者たちは、救 命艇に搬人して、無限軌道で発射することになった」 引いて、真暗な空間へ吸いこまれていった。 ルカはロがきけなかった。やっと、声が出た。 「何ですって 覚醒は苦痛だった。しばだたいた目の中にまっ白なするどい光が あふれ、むき出された腕に注射器の冷たい金属がおしあてられる感「最も初期の、完全に岩石に化しきってしまった患者は、これ以上 の治療に見切りをつけることになったのた。伝染病の媒体は危険度 触があった。 白い世界ーールカは思った。わたしは、ここに、ずっと暮らして特の物体と見做して法令にしたがって処理しなくてはならない。 この石ころにかかわるのも、これでおしまいだよ、ありがたいこと 日付さえも 来たのか。白い、白一色の世界、夜もない、朝もない、 白い人たちーーールカはやっと光に慣れてきた目をあけて、上にか「石ころーー・石ころですって、トムラ ! 」 ルカは叫び声をあけた。怒りに、目がくらんた。白い世界が彼女 がみこんでいる白衣の医者たちを見た。戸村博士のやせた顔がのそ っ 0
で日本の > にこんなにすごい TJ は実写もふく ( 中略 ) このコナンという少年がすごいのです。銛一丁めてありませんでした。「スター・ウォーズ」く 係は呈 で大ザメをしとめ、飛行機の翼に足の指でつかまそくらえで、来年度星雲賞映像部門は「未来少年 とに進 コナン」なのです。 り、数百メートル上空から海へ落ちても無事 : ・ 一分冊 アニメーションのすばらしさをすべてぶちこんだ ( 横浜市磯子区上中里町一一三ー三〇 ぼ載一 トーリーはインダストリアに ような少年です。ス 服部真一郎 ) て , 新つかまり脱出、ラオ博士との再会、大津波、再度 誌照最の大変動の蔔 目兆 ( インダストリアは沈む ! ) 、 「いやあ、出たか。早川さんも頑張るね」 第 ( 迎当参庫イ ( ーへの帰還、再びインダストリアへ、そ「え ? 何の話だい」 一 ) 歓は付文して独裁者・行政局長との戦い、とすすみますが「ほら、今きみが読みふけ「ている増刊号のこと , 」 : , を ) を〈稿先奥— もうこれは僕の手では書き表わすことのできないさ。その極端にぶ厚いやっさ」 投宛 ( rn ほどの迫力なのです。ハモンド・イネス、デズモ 「ん ? 別に厚くたっていいじゃないか」 ンド・。ハグリーがアニメーションでといった感し「しかし、きみ。すべての読者が金持ちという訳 の超一流の冒険になっているのです。 じゃないんだぜ。それに一二〇〇円の増刊号を出 の読者の皆さん。ここにひとつの報告をもちろん、こんなことは今さら言ってもしようす雑誌というのもそうないと思うがね」 オしか。俺は買いたくて買ったんだ 提出したいと思います。おそらく読者の大部分、がないのです。十月いつばいで終ってしまうので「いいじゃよ、 そして編集者の方々はアニメーションなどほすから。しかし、知ってもらいたいのです。そ」 とんど見られないことと思います。また、全アニメーションにもこんな作品のあったことを。 「しや、言うけど、俺は買いたくとも買えないん 冫しいがね。要するに早川さ 体からみればさして興味ある現象もない、といつアニメーションは特撮ものに比べて、などだそ。ま、そのことよ、 たふうに考えられているのではないでしようか。 にもとりあげられず不遇です。それは、アニメ】 んは非常に幸せな出版社だ、ということだから 手塚先生のように″コマーシャリズム″などと無ションがわりに制約なしに何でもできるにしてはね。高くてもちゃんと買ってくれる読者がいつば 、るということだもの」 情なことをおっしやられる人もいます ( むろんこ目新しいものがなかったせいもありました。しかいし れは全体のことではないのですが ) 。「ヤマト」し、は宇宙船やメカたけではないはすです。「ふん、何か言いたそうじゃないか」 などもケムリ、モクモクでスベオ。へでしかないと「ヤマト」や「ハ ーロック」のように宇宙船がし「つまり内容の問題さー・ー」 ? なかなかのラインナップじ 言えば言えますし、見るべきものはない。そんなやしやりでて大画面を占領し、閃光をひらめかせ「何が悪いんだい 感じのアニメーションだと思います。 ていかにも出てるぞといった時、そこには語るべやないか。山尾悠子も載ってる」 だがここに注目すべき作品が登場したのです。き重みもストーリーもどこかになくなってしまつ「石川喬司さんの『夢書房シリーズ』が読めるの が娯楽路線へ転換して生まれたアニメーシています。そんなものだけがではないはずでも嬉しいね」 ョン第一作、「未来少年コナン」がそれです。す。 「じゃ、どこが不服なんだい ? 」 では原作の名がちらっと見かけられただけで「コナン」の中にはオーソドックスなのすべ「つまりね、毎月のマガジンはスマートだけ すが、「スター・ウルフ」 ( またか、の失敗作 ) てがあります。そして冒険、笑い、涙。ヘンと鼻ど、増刊号は肥大した感じなんだよね」 をとりあげるよりこちらをとりあげたほうがはる先で笑う前によく見てやってください。そこには「ん ? 内容が増えれば厚くなるのは当然さ」 かによかったと思います。そんなものはガキむけ、『デ = 1 ン砂の惑星』にも劣らぬ世界がありま「いや、そういうことじゃない。内容の・ハランス アニメ誌にでもそんな意識があるのでしようか。す。建物、飛行艇、服装、そのすみずみにまで配の問題なんだ。毎月のマガジンは小説の長さ、本 それ以降、「てれ。ほーと」にさえ登場しないので慮がいきとどいています。本当に見るものを楽し数、コラムとのパランスなど二三二ページの長さ 3 すから。しかし、僕はこれが日本で作られた最初ませ、終ったあとにさわやかさが残る。そんな作に過不足なくおさまっている。だからスマートな の本格映像だと思うのです。 品なのです。・フームといわれる中で、いや、今まんだ。しかし、増刊号で厚くなるからといって
「ふっと、思ったたけさ。 めるとこ どうなんだろうな。ホルツ症候群がて集めてまきちらしたようだった。あるところでは ( 、 あのまますすんで、われわれみんなそれそれ小惑星になっちまったろではまばらに、しかしいつも同じ思い出を彼女に呼びさますその としたら , ーーアステロイド・・ヘルトってのは、案外、ずっとむかし光の群れ。 にホルツ症候群にやられて全減した種族のなれのはて、ってなこと「ロケットから眺めた宇宙空間みたいだね」 もあり得ようじゃないか。 人はみな孤独な星 : : : そんなふう彼女は、思い出していた。 に、詩も書きかえなきゃいけないかもしれないな」 あれは、いつのころだったたろう。どの男の子だっただろう。夜 「あんたは、何をいってるんだね、ビ 1 タ の、超高層ビルでの食事。目の下のシティはすべて光の海で、それ オコーナーはいぶかしげにきいた。リーは首をふって、ルカ・プを指さして男の子は言っていたのた。 ラウニングの輝く目をまぶたの裏から消した。 ( 宇宙空間に出たこともないくせに ) 「何でもない。さあ、行こうか , そのとき、彼女は、男の子の思いが向かっている宇宙と、彼女の そら 「ああ」 知っている宇宙との違いに、・ほんやりとほほえみたくなったもの そして、かれらは星々をちりばめた窓のシャッターをしめた。か だ。男の子はもちろん、彼女があのヨナ・アンダーソンだというこ れらが戻ってゆくところは、夜のない白い世界、白い人びとと白い とを知ってはいなかった。 壁によって守られたその星のなかにしかありはしないのだった。 知っていれば、もちろんまた、あの話ーー、誰でもがロにしたがる あの話、そしてさぐるような、好奇にみちた目つき。だが彼女はい O LLJ Z u-J 3 マザ くつかの名まえのひとつを名乗ったし、そしてたしか、それはいっ までも覚えておきたいようなとても楽しい夜のひとつだった。 それはたぶん、何億年に一回起こるかどうか、という確率の出来 ( あれから、地上では、何年たっているのだろう ) ごとだったはずだ。 あの男の子ももう、とっくに死んでしまっただろう。結婚し、子 どもをつくり、育て、腹の出たどっしりとした壮年の男になり、満 宇宙は凍っていた。 足した老人になって、昔の気紛れなアフェアーを思い出すこともな 上も、下も、右も、左も、見わたすかぎりの星の海だった。 くーーーそれとも思い出しただろうか ? 慕標に名を刻まれて。 なんてきれいなのだろう、彼女は考えた。そして、なんと遠いの「生身」の男の子だったから、もちろんそのはすた。 だろう。またたくことのない、冷たく凍った、光の群れ。そして星 ( あの子は、、、 し男の子だった ) 雲の輝かしい渦。 しい男の子たち , ーー・彼女はうっとりと思った。いい 男の子たち、 それは言うならば、すでに滅び去った都市の窓々の灯りを、すべ いい男たち。かれらのおかげで、わたしはいつも退屈なんそは決し
彼女は、自分が幸せであったことを思った。冷やかな宇宙空ゴ 降と感情とがすべてひらかれて彼女の前にあった。彼女はそれを見出 で、やさしいおずおすしたべムと共にいて、彼女はいつでもほんとした。ペムの、奇妙な漂流も、その孤独も、その悲しみもーーそし うには自分のそこにいること、そうあることにおどろいてさえもいて、その訴えも、すべてを彼女はただひとつの語におきかえて、見 はしなかったのた。わたしにはわかっていた、と彼女は思った。 出し、理解したのだ。 ( 地球に帰るのだ ) 船は、やはり、ペムには気づきもせぬようだ。星から星に達するほ ど巨大で、星がすけて見えるほどに稀薄で、そして真空の海を漂い そのおずおずとした、不安な好奇心、そしてその、彼女を見出し つづけているような、そんな生き物が存在しようとは、それは、極小てからの異質なやすらかさとおちつき。 ーマノイドたちには想像もっかないことなのにちがいない のヒュ ( あなたはーーそうだったの、あなたは : : : ) ペムは捨て児だったのだ。 ( わたしも、もうきっと少しすつ人間たちの理解をこえる生物にな ってしまっているのかもしれない ) ( ーー赤ん坊だったのね : : : べム・ーーーわたしのペム ) それでも地球に帰らねばならないのだ。救われるためではなく、 それは、たぶん何億年に一回、起こるか起こらないか、という偶 救うために。守られるためではなく守るため、失いつづけ、いとし然だったのだ。捨てられた巨大な宇宙の孤児と、不死の母との、無 みつづけ、そしていたみつづけるために。 限の宇宙のなかでのふたつの点の出会い ( 地球へ : ・ : ・ ) 、まや、ほとんどペムを彼女の目からおおいかくすま 船はいま、ゆっくりと、彼女をめざして進みはじめていた。船内捜索船は、し でおこっているどよめきを彼女の思いは感じとることができた。 での距離に近づいてきていた。いまはもう、船をはなれようとして そして、そのとき、それは、彼女に届いたのだ。 いる救命艇、それに乗っている人間たちのあわただしい動きまでが 熱い思い ・ : 異質なーーあまりにも異質な、それなのに、彼女はっきりと見えた。その救助の手を待ちながら彼女は星々の向こう がよく知っていながら長いこと見失っていた、という濃密な甘ずつを、そこにひっそりと漂っている巨大な赤ん坊のことを考えてい ばい悲しみをさそう訴え。 た。彼女の頬はあふれ出す涙であっく濡れた。 戻ってきて、とそれはささやきかけていた。・ほくのところへ、こ ゆっくりと、救命艇が彼女に近づくのを見ながら、彼女はひとり こへ、戻ってきて、と。 涙を流しつづけていた。 彼女は叫んだ。 この作品のタイトル、ならびに歌詞の使用を快諾していただい 5 ・ヘムの、あらゆる異質な、しかしはっきりとわかる思い た筒井康隆氏に感謝いたします。
( わたしはヨナ・アンダースン、宇宙の不死者 ) り、宇宙のなかにあって、わたしはそれらに侵されない。それらは ここにこうしていれば、自分が宇宙よりも長生きなのかどうかー ただそこにあるだけで、わたしはここにある。だのに、わたしは、 こうして、宇宙よ、とささやいて手をさしのべ、それと一体にとけーというその最後の疑問にも答えを見つけることができる。 あっている思いをさえ持っことができるのだ。わたしは、一体何者 ( 地球よ、わたしが見える ? わたし、ここにいるのよ ) なのだろう。私は、何なのだろう ) 少し、眠ろうーー彼女は思った。いつまでたっても動くことのな い星々にとりかこまれていることに、微かな疲れを感じはじめてい その答えは、おのづから彼女のくちびるにの・ほってくる。 ( わたしはヨナ・アンダースン、この宇宙のなりゆきを見守るためた。 彼女は目をとじて、瞼の裏にひろがる暗闇のなかへとけこんでい に生まれてきた《その人》 ( わたしはただひとりのヨナ・アンダースンなのだ ) わたしを愛し、わたしにくちびるをよせたとき、と彼女は思っ それは、たぶん、何億年に一回起こるかどうか、という確率の出 た。君たちは、自分が抱きしめている腕のなかの宇宙空間が見えた 来ごとたったはすだ。 かしら、男の子たちょ。 わたしの目の向こうにひろがっている幾億の星々が見えたのかし何かが、やわらかく、彼女をとりまいていた。やわらかな、おず 日おずとした、遠慮がちな、好奇心の触手。それが、彼女をさぐり、 ら。わたしのからだの中の、虚無と真空へとつながってゆく空門 その輪郭をたしかめ、そしてそっとよりそってこようとしているの ・ - 」っこ 0 ( わたしはいつもとてもあなたたちが好きだった ) 夢をみているーーーそう、彼女は夢のなかで思っていた。でも、な わたしはいま、何歳なのだろうーーー三千歳 ? 一億歳 ? それと ももっと ? ・ んと奇妙な夢なのだろう。冷たい宇宙空間で見る夢、だからたろう ここにこうして星々に見つめられ星々を見つめ返しているままもか。 う何年ぐらいたってしまったのだろう。「カルナ」号が流星雨にま ( ョナ・アンダ 1 スン、人類最初の恒星間飛行から帰還 ) きこまれ、わたしにぶつかってくる時と空間とは嵐になってわたし ( 生存者はヨナ・アンダースンひとり ) ( 宇宙の縁をこえた超女性 ) を打ち、そしてすべてが突然永遠の中でとぎれた。 人びとのさんざめき、どよめきーーー彼女はうっとりと夢のなかで ( これですべてよくなってゆくのかしら ) いっかここへたどり ほほえんだ。人びとはいつも彼女をほほえましくさせた。それは神 この何もないところへきてしまうことさえ、 つくことがわたしには心のどこかでわかっていたのではなかった神の座にあるものも死すべき運命にあるものたちをいとしむよう に。人びとに悩まされたり、怪しまれたり、拒まれたりしながら か、と彼女は思った。 ふち 4 4
オーロラはいよいよ色あざやかに、雲の波、光の波となって大 平原を染めた。 嗽叭が嶋りひびき、兵士たは息を殺した。 そのありさまは、ヴーラタ大平原に銀の小札を敷きつめたよ 余の陽炎ゆらめいた。 うだった。その上に、 遠い西の空、オーロラ中から山ッれぬ物音がったわってきた。 の耳にったわってきた。 ' それは急速に大きく、つきりと兵 びカごにしなかった つづけざまに号笛と喇叭が鳴り、 西の空に何かか重した オーロラを背景に、灼熱の陽光をあびて、それはみるみる、兵十 たちのひれ伏し、埋めつくす大平原のなか空に、迫ってきた。 遠雷のような、底力のあるひびきが、ひれ伏している兵十の背を 地面におしつけた。 空気よとめどなく震え、陽光の暑さとは異なる、灼けるような熱 が地上のすべてのものに降りそそいだ。 兵士たちのくちびるからはいのりのつぶやきがもれた。
するのだが、身体の奥深くにある何かが、そうさせようとしない。 「おれにもわからない」 ヴァスゲンの巣で受けた教育のすべてが、今こそがチャンスなのた まるで袁訴するような目を、ジンに向けて、ヒロは言った。 と身体を動かそうとする。たが、それ以上こ虫、可、 冫弓しイカが、ジンの身「歩哨に立っていたら、急に、すべてをぶちこわしたくなった。誰 体を縛りつけているのた。それは初めての経験たった。まるでもう かが、おれにそう命じたように思えた。それが、おれの役割のよう 一人の自分が、身体の中にいるように思えた。ジンは、精神的な恐に思えたのだ」 慌に襲われそうになっている自分に気付くと、必死で冷静さを取り ジンは、ヒロを抱き起こす。 戻そうとした。 「では、おまえ一人でやったのか ? ほかに反乱に加わった者は できないなら、やらないほうがいい。導士のシグの言葉が、よみ がえってくる。そうだ、相手は攻撃力を喪失しているのだし、何よ「反乱 ? 」 りも友人のヒロではないか。殺し合うことはないのだ。自分にそう 何かがヒロの目の中で輝いた。 言いきかせ、ジンは焼夷弾を握った手をおろした。突然、身体の自「わか「たような気がする。そうか、反乱か。おれ一人の反乱とい 由が戻ってくる。 うわけだ」 そうは言っても、今の経験の衝撃は、ジンの身体のしなやかさを ジンは、ヒロが錯乱状態におちいったのかと考えた。同時に、ヒ 損ねていた。そのときは夢中で、その原因を考える余裕もなかっ 口がたった一人でこの破壊をもたらしたことを知って、誇りに似た た。だが、自分の身体が、思っているとおりの身体ではないのかも感情を覚えた。ヴァスゲンの巣の者ならば、その気になれば、この しれないという予感はあった。ぎごちなく、ジンは、ヒロに向かっ くらいのことはできるのた。それは同時に、自分自身の能力を確認 て歩いた。ヒロは、〈ルメットをはずそうとしていた。そしてジンさせてくれるように思えたのかもしれない。 が、すぐ目の前で立ち止まり、身を屈めてきたときに、ようやくそ「気がついたら、ジン、おまえがいたのだ。驚いたよ。心臓が止ま れに成功した。乾いた音をたてて、ヘルメットは路面に転がる。 りそうだった。そうしたら、本当に止まりかけやがった」 「ヒロ ? 」 「しつかりするんだ。早くここから出よう」 疑問と不安に満ちた声。 ヒロは、ジンを見上げた。かすかに笑みを浮かべる。この炎の照 「どういうことなんだ ? 」 り返しの中でも、ヒロの唇が血の気を失って、紫色になっているの がわかる。 ジンは、今日一日で、何度、同じ質問をし、同じ質問をされたか と、一瞬、考える。何もかもが、狂いはじめ、わけがわからなくな「畜生。また、来た」 ったように思える。 ヒロは、呻くようにそう言うと、身体を硬直させた。やがて、発 ヒロはひどく苦しそうだった。煙にむせて、咳き込む。 作がおさまる。だが、今度は、以前よりも身体の力を失っている。 ー 42
「どうやら、この星を去らなくちゃいけない時が来たみたいです 2 サ 1 ジナーは頷く。サラファンドに帰る自分を想像してーー、、・遙か な空の彼方へと、素晴しいスビードで旅立つのをーーたがしかし、 ヴィジョン まぶしい円環の残像が、彼の視界に焼き付いて、いつまでも、いっ までも消えないのたった。 薄暗い洞窟の中でマッカーレインはカなく動く。叫・ほうとす る。だが肺のうつ血があまりにもひどく、出るのは弱々しく、 乾いたしやがれ声。洞窟の入口で小さな灰色の人影が、じっと したまま、外の森の、雨に濡れた崖を心配そうに見つめ続けて いる。これだけの歳月をもってしても、彼女に彼の声が聞こえ ているのかどうか、知る方法はなかった。彼はあお向けに横た わり、熱が激しさを増す度、死に甘んじようとしていた。 すべてを総合するならばーー・彼は幸運だったといえよう。。、 ラドルの女は、人類がかって出会ったあらゆる異種族と同じ く、決して打ち解けることはなかったが、いつまでも彼の傍に 留まり、彼の助けを受け入れて来たのたった。出産とその後の 病気という難しい時期に、彼は彼女を助け、そのうえ彼女の瞳 に何か感謝のようなものを見たと誓うことができた。そう信じ ることは彼にとって有益だった。あるいはまた、彼のほうが病 気にかかったり、彼女と子供たちのために食物を捜していて、 間違った果実や草や種を試食し、そのため中毒して寝こむとい ったこともあった。そういう時、すくなくとも彼にはそう思え たのだが、彼女は決して彼の傍から離れようとしないのだっ / ラドル人の女とその すべての内で最も喜ばしかったのは、。、 種族がとても多産たったという事である。その結果、最初に生 まれた四つ子が今では若い大人となり、さらに多くの子を生ん だのである。子供たちがふえていくのを眺めるうちに、ジョ ジタウンの事件以来彼をむしばんできた罪の癌が、彼の生活を 支配するのを止めた。もちろんそれは依然として存在してい る。けれども彼は何時間もそれを忘れ続けることを学んだのだ った。もし子供たちに彼の言葉を教えることができるなら、ひ とつの思考を、論理構造の障壁を越えて伝えることができるな だが、何もかも求める ら、事態はもっと良くなるだろうに わけにもいくまい。俺は三十歳で、男だ。意識が重苦しく傾 き、離れていった時、マッカーレインはそう悟った。俺は自分 の経歴を正すチャンスを手にしたんた。それで十分じゃない その日の暮れ、太陽の光が木々のすき間から逃れ去る頃、 「一族 . はマッカーレインの体が横たわるべッドの周りに集ま った。彼らは黙って立っていた。「母親」が、片手を露の結ん だ冷たい額に置いた。 この存在は死にました。彼女は静かにそう語った。そして今 や、わたしたちの彼に対する負債は返され、わたしたちもまた 彼を必要としなくなりました。ですからわたしたちは、わが民 の待つ、大いなる、母なる時へと旅立っことにしましよう。 子供も大人も、互いに手と手をつないた。そうして「一族」 は、消えた。 ー 05
に、水分を含んでいないのかもしれない。 乾燥し、悲しいくらいにかるく、小さくなった死者を、ひとびと 0 u-l z u-J 1 海へ は台によこたえ、順にすすみ出てその儀式用にだけつかう、赤く輝 く石で叩く。その石は少しさがせば、いくらでも出てくるのたが、 海がかれの前にひろがっていた。 それを来たばかりのとき、殺風景なドームを飾るためにもちこもう 赤い海。乾いた海。何万年もまえに干上がったきり、その上に小 として、かれはレティナにうろたえきったようすでとめられた。そ 波の立っことも、その深い淵に銀色のビチビチとはねる生き物を憩 わせることもなかった海。それは、かれが長いこと馴染んできた海れは「葬いの石」だ、と彼女は言った。その石で、かれらは死骸を 粉々に砕く。 とは、まるで似ても似つかない。 そしてそれが、赤茶けた砂になるまで何回も、かわかしては叩き これでも、海だというから、笑わせるじゃないか」 つぶす異様な儀式をくりかえす。三ヴァルナ年ごとに、昔の死者が かれはひとりごちて、足もとの砂の波を、銀色のプーツをはいた 叩きつぶされ、砕け散ってゆき、十三ヴァルナ年になると、まず完 つまさきで思いきり蹴くすした。 赤いやわらかい砂はきしみもせすにふわりとくずれてゆき、赤茶全に原型をとどめなくなった死者は、ヴァルナの砂漠にまきちらさ けた埃がもわもわとたって、それは一種波がしらが砕け散ってしぶれ、それによって、すべての葬送の儀式がおわる。 「誰某はミンドラの海に帰った」 きをあげるさまに、見えないこともない。 そう唱えながら、一人がひとっかみすっ赤い粉をすくって砂漠に いや、と彼は思い返した。何が、波がしらだ。海というのは、も っとずっとずっと違ったものだ。こんなに赤茶けて、いまいましく撒いてゆく、それをはじめ見たとき、かれは胸がわるくなった。こ も妙にそれらしいうねりを浮かべながら、見わたすかぎりつづいての砂漠の赤がすべて、死んだミンドラの屍の息を吸いこむたびに鼻 いる、砂、砂、砂、砂の波、砂の地平線、こんなものがこれつぼっ孔にとびこんでくる、恐慌にとらえられ、飯もろくに咽喉を通らぬ ちでも、おれの海と似ていてたまるものか。 思いをしたものだ。 しかし、呼吸をつづけぬわけにもゆかなかったし、そして五年め ここでは人は砂の中で生まれ、砂の上で死んでゆく、かれは思っ た。そして死ぬとヴァルナの人間は砂に還ってしまう。一回だけ、 のはじめには、レティナの族長親が死んだ。 並ばせてもらえた、 ミンドラたちの葬式を、かれは思い出してい かれはウーロの葬式に加わり、乾しあげられてちちんだそのから た。それは土葬や火葬に対して、《砂葬》としか、言いようのない だを葬いの石で叩いた。手に、なまかわきの骨が折れるおそましい ものだ。死者は、奇妙な技術によってからからにひからびさせら手応えがったわり、かれは二日ばかり熱を出した。 れ、ミイラよりももっとかわいた水気のない棒のようなものにな そのときも、海の夢を見た。 いつもかがやきわたっていた。青い る。もともとミンドラそのものが、あまり赤っぽいその皮膚の中海は、かれの思いの中に、