時間 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1978年12月号
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1. SFマガジン 1978年12月号

先月の話の続きである : 古本屋がある。間ロはかなりあって、ショーウインドウもついてい 実は、アメリカで本を買ったのは、″キャンディー・ スのスーちゃるのに、客は一人も入る気配はなくて、店番のロッド・スタイガー んの写真の裏″を頼りに捜しあてたその店以外にももう一軒ある。風の老爺が居眠りをしている。私が眼についたのは、そのショ ロスとサン・フランシスコの中間にあるパリ・ロ・フレスという小インドウのなかにグルーチョ・マルクスの自伝〈グルーチョと私〉 きな町でロケを終り、。ハイバーのチェロキーをチャーターしてその ( いかにも彼らしいではないか ) がでんと並んでいるのだ。そこで 小さな町の飛行場から ( リウッドに飛んできて一仕事して ( フジテ私は刺身と天ぶらがくるまでの時間を利用して、のこのこその店に アー、わたしは〈スター レビ系の六〇〇、六三〇の = 、ースの頭にあらわれるめくるめく入 0 ていって、「 = ー ・ウォーズ〉の翻 ようなあの映像が他ならぬその時の仕事の成果である ) 、さて、サ訳者であるが : : : 工工、 工ヘン、エヘン」とやったところが利いた ン・フランシスコ行きの便の時間までめしを食おうと、通訳氏がのなンの : この時に限らす、今回の洋行中、このひとことの効 つれて行ってくれた汚い日本料理屋で十日ぶりにラアメン・ライ果はまさに魔法的であった。空港でキャル・ポリの大学院生と称す スにサンマをむさぼり食い、つづいて頼んだ刺身と天ふらがくるる金髪美人と仲良くなってそいつをやったら "Really?!" と目を丸 まで何の気なしに道の向かい側を見たら、そこに一軒の古・ほけたくされたのもうれしかったが、横にすわってた母親がハイスクール ◇連載◇ 私を ()D u- に狂わせた画描きたち 値段もワンダーな U)LL イラスト 野田昌宏 カット / 加藤直之艤髜「 朝Ⅲ〒Ⅲ 1 : 判Ⅲ蜀「当第 " 4

2. SFマガジン 1978年12月号

全身が汗に濡れはじめた頃、ジンは遠くで爆発音を聞いたような人々のわめき声は、ますます大きくなってきた。やがて、空港の 気がした。しかもそれは空港の方角から聞こえたようだ。続けてま方角の空が、・ほんやりと明るくなった。道を歩く男も女も、それに た二つ。ジンたちは、ウォルムスのメイン・ストリートに平行して気付き、茫然として見つめている。夜明けにはまた早すぎる。何か いる裏道を、抜けようとしていた。ジンは、そこで足を止めた。どが起きている。それはジンの心に不安をかきたてた。また光が走 0 ジンは思った。ヴァスゲンの照明弾だ。あの強烈 た。間違いない。 こか奇妙な雰囲気が、闇を満たしているように思えた。 システム・ターミナルが襲われたことが、もうわか 0 てしま 0 たに光輝き、赤の混「た不気味な色を、見まちがうわけはない。 ジンたちは、夜間演習には、必すその照明弾を使ったものだ。そ のカ ? ジンは耳をすます。どうやら人々のわめき声らしいものも 聞こえる。それは祭りのざわめきとは、異なっていた。まるで悲鳴してその光を発する時間の短さを呪ったものだ。その一瞬の間に、 全体の状況を把握しなければならない。導士たちは、その照明弾の 突然、闇を光が切り裂いた。それはすぐに消えたが、ジンの目を発光時間の短いことの有利さを力説していた。だが、目つぶしには くらませるには十分だった。ジンはよろめき、建物の壁に手をつ有効だろうが、事実、偏光グラスをはすしているとひどい目に会 う、照明弾としては、役に立たないのではないかとさえ、ジンたち く。その横を誰かが駆け抜けていった。レヴンが呻き声をあげた。 は考えたものた。それを開発したのはヴァスゲンの人間であり、そ どこかが壁にぶつかったらしい れを使いこなしているのもヴァスゲンの人間たけたと聞かされて 「どうしたんだ ? どこだ、ここは ? 」 目をし・はたたかせながら、ジも、なるほどと思えただけだった。もっとも、それたからこそ、な まだ完全には正気に戻っていない。 おさら導士たちが、それを使用することに固執したのかもしれない ンが答える。 「もうすぐ空港に着く」 ジンは、ほとんど走るようにして歩いた。誰が、何のためにヴァ そのときだった。もう一度、閃光があたりを照らし出した。それ スゲンの照明弾を使っているのか、それを知らねばならない。 は空港の方角から昇ってきた。 空はますます明るく、赤くなってくる。燃えているのだ。きな臭 「何だ、今の光は ? 」 い匂いが、強く感じられる。人々のわめき声が、建物の間でこだま 今度は、かなりしつかりした声だった。 「おれにもわからない。だが、おれたちのやったことが、見つかっしていく。そのあたりまでくると、空にたちの・ほる炎と煙がはっき りと見えた。ジンたちを追い越して、多くの人々が、その方に向か たというわけでもなさそうだ」 って走っていく。彼らの背後には、長い影がついていく。 しかし、ジンには、今の閃光と似たものをどこかで見たことがあ るように思えた。いや、たしかに知っている。まさか、ロの中で呟街そのものが、暗いオレンジ色に染まってしまったようだ。爆発 3 き、ジンは、歩きはじめた。急ぎ足になっている。 音と悲鳴がそのオレンジ色を一層、暗いものに変える。

3. SFマガジン 1978年12月号

って標準戦闘装備をさまになるよういじくっている、浅黒い、黒い ケルヴィンという名前だがーー軍曹と全然話そうともしない。軍曹 ロ髭の将校に目をやった。彼の後に、ビンク色の顔でそれを弁護すのジャニへの受け応えも平板でそっけなかった。サージナーはマッ るように青い眼の中尉と、ライフルを手にした、がっしりした体格カーレインについて耳にした汚いゴシップの数々を思い出そうとし の軍曹がいた。 たが、頭の中にあるのはもつばら現在の探険に関することばかりだ 「皆が乗り込むまで、動かすわけにはいきません」サージナーはやった。 んわりと指摘した。ある意味でそれは、運転手扱いされることに対〈霊幽〉の最初の報告が、キャ。フテン・イソッ。フー、・、、サラファンド する彼の嫌悪感を表わしていた。彼は中尉と軍曹が後ろの補助席にの中央コンビュータをモジュールの搭乗員たちはそう呼んでいるー ーの所へ送られて来た時、コン。ヒュータ・デッキで作製中のパラド 着き、少佐が前の空席に座るまで、じっと待っていた。軍曹は、サ ルの測量図がチェックされ、幽霊が目撃されたのと同じ場所で三十 ジナーの記憶によるとマッカーレインという名前だったが、ライ フルを下に置こうとせず、膝の上で揺らせていた。 万年前に基盤岩に手が加えられていたという証拠が見つかったので 「これがわれわれの行先た , と、ジャニが、サージナーに一枚の紙ある。この段階でーー地図作製サービスには無人惑星以外扱うこと 切れを手渡した。そこに格子座標が書かれている。「ここからの直が許されていなかったからーーーイソッ。フは測量モジュールを回収 セクダー C 線距離は、およそ : : : 」 し、タキョン通信を宙域司令部に送っていた。その結果、宙域を遊 「五五〇キロ」と、サージナーがすばやく暗算して口をはさんた。弋中だった巡洋艦アドミラル・カーベンターが二日後に到着し、管 ジャニはその黒い眉毛を上げて、サージナーをまじましと見つめ理を引き受けたのである。 た。「きみは : : : ディヴ・サージナーだね ? 」 陸戦隊の司令官、ニーツェル大佐によってイソッ。フに発せられた 「そうです」 最初の命令は、。、 ノラドルに関するすべての情報を極秘扱いとし、民 「やあ、それじゃあディヴ」ジャニの顔にわざとらしい徴笑が広が 間人に渡らぬようにせよというものだった。これは本来サラファン った。この怒りつぼい民間人に俺がユーモアを解する人間だってこ トの乗員をこの事件から完全に締め出すはすのものたったが、二つ とを教えてやらねばならんな。そして格子座標を指さした。「ここの船の間には人間的な接触があったから、サージナーもそのうわさ まで船時間で八〇〇時までに行けるかい ? 」 を耳にしていたのだった。話によると、アドミラル・カーベンター サ 1 ジナーにとっては、事務的な口調でいてくれた方がよっぽどの打ち上げた観測衛星は、何十もの建物、不思議な車や動物、重々 ゲランド・エフェクト マシだった。彼はモジ = ールを回転させ、地面効果のスイッチをしく着飾った人影などといったものが部分的に実体化するところ 入れて、コースをおおよそ真南にセットした。二時間の旅の間、会を、パラドルの表面すべてに渡って記録しているという事た。ま 話はほとんど交されなかったが、ジャニのマッカーレインに対するた、建物や人影の中には完全に実体化したものもあったが、快速艇 口調にはむき出しの敵意が感じられた。一方、中尉はというと がそこに到着する前に消えてしまったという。それはあたかもパラ 8

4. SFマガジン 1978年12月号

てしなかった。サン・オイルと夏の海辺、山小屋とスキー場、どんで、蒼白くほほえんでいるようにさえ見えて、しばらくのあいだ、 なに世のなかがすすんで、作りかえられてきても決してなくならな彼女はかれをあいてにとりとめもない無駄話をしかけていた。 それにも惓きて、彼女はホキをそこからきたところーー・・・無の中に 、むだでむなしい遊びの古めかしさが、わたしはとても好きだっ かえしてやったが、そうやってまったくのひとりきりになってみる た、そこにはいつもいい男の子たちがいっしょにいてくれたから。 もっともーー・と彼女は思う。わたしはいつだって、あのヨナ・アと、宇宙と彼女とが同じものになるためのさいごの扉さえもひらか ンダーソン、誰でもが恐れるだろうおそるべき人生を背負いこんだれてしまい、彼女はもう自分のからだがもとのままのヒ = ーマノイ ドのかたちをしているのか、それとも裾模様に星々を散りばめた宇 女であることにさえ、決して惓まなかった。何かしら、見る価値の ある新しいもの、もういちどあじわいたい古いものは常にあった宙空間そのものの一部にとけこんで、ひろがっていってしまってい し、そしてわたしはいつも、まるで生まれたばかりの仔猫のようるのかさえさだかではないような、そんな平和なここちよさの中に つつみこまれているのだった。 に、見るものすべてにおどろいてばかりいた。 ( わたしは、幸せなのだ ) ( わたしは、いつだって、目を丸くしていた。わたしの身の上にお 宇宙よーー彼女は、はてしなく手をさしのべて、その手のさきが こるすべてのことが、あまりにも途方がなくて、わたしはそれらの おこることは前もって宇宙の秘密の時間割に書きこまれたことなのそのまま闇とのさかいめをなくしてこの無限そのものを抱きしめて いる、という、寄妙な悠久の感覚にひたりながらそっとささやいて だ、と思ったり、みんなわかっていた、と思ったりしながら、わた みた。わたしを生み出し、わたしをこのような存在にさだめた、宇 しの上におこってくるすべてのことに驚異の目を見ひらいていたー 宙よ。 ーわたしはそうしながら、いつだって、とても幸せだった ) もちろん何ものも答えはしなかった。ここでは星はまばたくこと いまでさえーー彼女は思う。月日も、時間も、上下左右の感覚さ えもすべては用をなさなくなって、目は星々と闇のいろにぬりこめさえもしないのだし、時間はーーー時間はとっくの昔、彼女がこの星 のあいだを漂いはじめるよりずっと以前から、彼女をおきざりにし られ、耳は星々の音のない音にふさがれ、そして思いはこのせまい わたしのからだの中にとどまるしかないいまでさえも、わたしはとていた。時間も空間も彼女を急流のさなかの岩のように、時になま めかしく、時には激しく、ただふれては通りぬけて流れ去ってゆく ても幸せなのだ。 だけだった。それらは彼女を、彼女がそれを超えているがゆえにそ さっきまで いつのさっきだろう、一分前、十時間前、それと も数千年前 ? 手をのばせば届くところに、「カルナ」号の残骸につと拒んでいた。 ( それでもわたしはこうして星々を美しいと見ることができる。す はりつくようにして通信士のホキのちぎれたからだが漂っていた。 下半身は、瞬間にふきとんで、あとかたもなくなったかれの顔でに死んでしまったいい男の子たちとのやさしい思い出をとりだし は、しかし彼女がおだやかになるように手をさしのべてやったのて数えることもできる。わたしは、何者なのだろう。時のなかにあ オ・ヘレーー

5. SFマガジン 1978年12月号

れは″人類の歴史に新たなる時代〃をひらくだろうと述べた。い それから数日ってものは、おれはおそろしくみじめだった。よっや、ひょっとすると、″新たなる誤り〃と言ったのかもしれない。 ぽど彼女に宛てて遺書を書こうかとも思ったが、あいにくその書きいずれにしろ、は、何万光年もかなたにある他の文明と接触す かたを知らなかった。 る道を、われわれにひらいてくれるはすたった。われわれの敵がそ 愛するネリー、 うするより前に、それらの異種文明と手を握っておくことは、われ あんたがこんな手紙のことなんか気にもかけない ほど冷たい女たってことはわかってるんだが、やつばりあんたは気われが生きのびるためには不可避のことたったのである。 にもかけないだろうな。あんたは洟もひっかけないにちがいない。 「だったら、その敵とやらとしかに手を握ったほうが早道じゃない なんとも思わないにちがいない。無関心そのものにちがいない。お ? 」と、ナンシーがしよっぱい顔でおれに言った。だいたい、場所 柄へのわきまえってことを知らない女なんだ、彼女は。 れがどうなろうと、あんたは・せんぜん関心なんかないんだ。 あんたがそうやって新しい恋人の合成の腕のなかに横たわってい るあいだに、おれがなにをしようとしてるか知ったら、多少は関心式典会場から出てきたときに、おれは不愉快な衝撃を味わうこと を持ってくれるかもしれないな。 になった。ネリーが例のアンドロイドの電気技師と肩を組んで歩い というのているのを見たんだが、なんとやっこさん、びつこをひいてるん だけどおれは本気でそうしようとしてたわけじゃない。 ここにもまた演すべき役柄が も、その後ナンシ 1 と意気投合したからなんた。そして彼女は、おだ。アンドロイドがびつこをひくー れの″偉大なる恋人〃の役割を楽しんでくれた。彼女は彼女で、 あるってわけた。バイロンふうーーっまり悲壮で感傷的で憂愁の詩 うかうかしているとやつらは、おれたちの ″わたしはわたしたちがどっちもこういうことをするにはちと分別人的なアンドロイドー がありすぎるってことを知ってるわ″の役柄を演じるのが非常にう女を横どりしたように、《人間の条件》まで横どりしちまうたろ まかった。しばらくたっと、おれは配置変えになって、右舷のコンう。そうなったらもう未来は暗黒、われわれの運命のくずかごは、 デンティスターで彼女といっしょに働けるようになった。彼女はよ自殺者の遺書で溢れかえることになる。 くおれに珍しい料理のつくりかたを教えてくれた。ときおり、酒保 おれは心底からそっとした。ナンシーがおれを見つめたーーまる へいって仲間たちの顔を見ると、ひどくほっとしたものだ。 でおれの肩ごしに、だれかが親指を耳の穴に、小指を鼻の穴につつ こんで、おかしな顔をしてみせてるのが見えるというように。ど : とうとう、が完成するというおおいなる日がやってきた。大もちろん、おれがふりかえってみたときには、そこにはたれもいな 統領がやってきて、演説をぶち、その高さ二マイルの光った鋼鉄のかった。 針を検分した。われわれへの演説で、大統領は、この船には南米大「おい、早く帰って、まだ時間があるうちに、″偉大なる恋人〃ご 陸全体の値段よりももっと多額の金がかかっているのたと言い、こ っこをしよう・せ」と、おれは言った。

6. SFマガジン 1978年12月号

の周囲でゆらいだ。 彼こよ、やらなくてはならぬこ 戸村は肩をすくめただけだった。 , 冫を 「ツトムは石ころじゃないー 人間よ。物を思い、感じ、それをそとが山のようにあったのだ。 う望むものには伝えることのできるりつばな人間なのよ。人間を口 「わたしは、行くからね。忙しいんだ , 戸村はいった。 ケットにつめこんで発射するですって ? あなたたちはーーあなた たちは : : : 」 「きみもこんな石ころになんかかまっていないで、早くスタッフに 「ルカ」 入ってくれ。きみの助けがいるんだよ、女丈夫のルカーー女英雄」 戸村博士は声を荒げた。ルカを見る目は、さも嫌そうに冷たく光冗談めかして言い、彼はルカの額に、ごく義務的にくちびるをつ っていた。 けた。その、ゴムのようななまぬるい感触はルカを身ぶるいさせ 「いいかね。エリザベ ート・ラングと、ロン・。フライアムの質量た。 が、この衛星の無重力装置で中和できる限度をこえはじめたんだ 戸村が去るのを待ちかねるようにして、ルカはオコーナーとリー よ。ットム・タキも増加しつづけている。このあと、早期罹患者たをふりかえった。 ちは、あとからあとから同じコースをたどるだろう。わたしは病院「ーーしかたないんだよ。われわれが生きるためなんだ」 衛星運営委のメイハ ーとして、この衛星を、これ以上無用の危険に リーが低い声でいう。ルカはそれにはかまわすに、起き直って早 さらすわけこま、 ~ 。し力ないからね」 ロで言った。 「トムラ : 「お願い。転移機をセットして。すぐによー まだ、ロケット発射 ルカよ、 。しいかけたが、戸村の目をみて、ロをつぐんだ。 , 彼女は婚といったって少しは時間があるはずだわ。いまやっとわかりかけた の、何かがわかりかけたところなのよ。ねえ、協力して。重症の患 約者の性格を知りつくしていた。 者をロケットで始末したって、あとからあとから病気が進行するの 「何をいってもむだなのね : : : 」 に、それじゃ何も抜本的な対策になりはしないでしよ。ひとりで 「そうた。われわれには、義務がある。その神聖な義務の前では、 大の虫、小の虫、というものさ。これは、わたしの生まれた日本州も、儀牲者を少なくするためだわ。ねえ ! お願い、もう一度だけ の、古いことわざたが」 「しかし、ルカ : 「あなたは、つよいのね」 オコーナーがいいかけたが、ルカの決意にもえる目をみて、黙っ ルカは呟いた。その目はどこか遠くを見ているように、婚約者を てうなすいた。 つきぬけていた。 「ふしぎねーーーットムと、あなたが、偶然 ~ こも同じ日本州で生まれ「急いでね」 たというのは」 ルカは言い、あわただしく自ら支度しはじめた。 0 ・ 3

7. SFマガジン 1978年12月号

に前方の砂漠で、亡霊のような光がまたたき、消えた。「少佐、スて替わった。何秒か遅れて警報回路のかん高い連続音が、放射性物 。ヒードを落とした方がいい。この速さじゃ止まるまでに時間がかか質でキャビンが汚染され始めたことを知らせた。 の後ろから自動的にはね出した安全装置を体 最初の衝撃でシート り過ぎます。それだけ俺たちが楽な標的になっちまう怖れがある . からはすして、サージナーは一番近いドアを開け放った。暑く湿っ 「標的たって ? 「見やすくなるんですよ。時間の中で。われわれの行動が彼らによた空気がすっと招き入れられる。湿った空気ーー彼の本能がすばや ノカ長い地質年代の間に忘れ去っ く反応するーーそれは惑星パラドレ : り予知されやすくなるんでさ」 「いい考えがある、デヴィッド」ジャニは席についたまま体を回ていたものたった。 し、ケルヴィンににやりと笑いかけてからいった。 「今夜のディナーの前に二分ばかり暇を作って、戦術のハンド・フッ 一行はモジュール 5 号の衝突で生じた荒れ道を、サージナーの手 クを書くっていうのはどうだね ? きみがニーツェル大佐に教授し首につけた多目的計測器が放射能漏れからの安全距離を示すまで後 てあげれば、彼はきっと恩に着るよ」 退した。ケルヴィンとマッカーレインは経かたびらの異星人を地面 サージナーは肩をすくめた。「そいつは確かにいい考えだ」 に降ろし、裂けた木の切り株にもたれさせた。二メートルも歩いて 『時間戦争における諸戦術』」ジャニは自 「題はこうすればい いないというのに、彼らの制服は汗でじとじとになっていた。サー 分のジョークの先を越されたくないようだった。「運転手、 Q ・サ ジナーの服もぐっしよりと湿り、腕や股にまとわりついた。だが肉 ージナー著」 体的な不快さは転移の精神的ストレスに比べれば取るに足らない。 なにしろ夜が昼に、砂漠がジャングルになってしまったのた。熱い 「わかったよ、少佐」サージナーは忍耐強くいった。「俺はただ : 黄色い太陽ーーあり得ない太陽。ーーが、彼の眼を刺し、彼の心を狼 彼の声がと切れた。何の前ぶれもなく、モジ = ール 5 号は目くら狽で満たした。 めく緑色の光に浸された。日の光ーー彼はかすかにそう思った。重「二つのうちどちらかが起こったのだ」ジャニが無感動にいう。彼 車が落下し、スクリーンをみすみすしい緑の葉の影がさっと横は木の枝に腰を降ろして踝をマッサージしていた。「同じ時間で別 切った。モジールは傾き、片側を地面に打ちつけ、もう一度はねの場所にいるのかーーそれとも場所は同じで時間が違っているのか 」サージナーが真正面から彼を見つめていた。「何がいいたい 上がる。それが低木の茂みをなぎ倒した時、一連の爆発音が鋭く響 いた。センサーが外板から剥ぎ取られ、スクリーンが消えた。そうんだ、デヴィッド ? してついに、ねばねばと樹液のしたたる、もつれ合った植物の群落「運転手・サージナーが書いた戦術入門書の最初の規定さ。『徐 の中で停止した。さっきまでの雷のような轟音は消え、破裂したパ 行せよ』 , ー・・俺のいったとおりたろ。こうなったのは大体、われわ イ。フからガスの逃れる、シューシューといういらだたしい音に取っれ自身のせいなんだ : : : 」 ショーファー

8. SFマガジン 1978年12月号

仕事は、彼の予想よりも、どちらかといえば楽たった。当主のフ別にすると、ならず者が欲しがるような物はなにもない。狼や妖精 ツツギポンは宮廷の上層グルー。フに加わっていて、めったに家にのほうがもっと危険だろう。もっとも、前者は南部ではほとんど絶 いたことがなく、屋敷のとりしきりは彼の妻と二人の十代の娘にま減していたし、年若い彼にとって後者はお笑い草だった。レイフ かされていた。レイフの予想どおり、彼が送信をたのまれるメッセは、任期を終えたばかりの退屈しきった伍長から仕事をひきつぎ、 ージのほとんどは、ごく家庭的な性質のものたった。彼は、こうしおなし線の信号塔を通して自分の到着を本部に報告してから、在庫 た立場にある若いギルド組合員がみんなそうであるように、思う存品調べにとりかかった 分特権を楽しんだ。夜はいつも調理場の中の暖かい場所が確保できすべての報告からおしても、単独勤務の信号塔での最初の冬は、 たし、ローストを最初に切り分けてもらえたし、いちばんかわいい あの耐久試験よりもつらい試練だといえる。なぜなら、それはまさ 女中が服をつくろったり、髪を刈ったりしてくれた。石を投げればしく試練たからだ。これからの暗い数カ月のあいだに、ひょっとし 届く距離で海水浴ができたし、祝日にはダーノヴァリアやポーン・ て昼間のどんな時間に、東または西から、死に絶えた塔の列を伝っ レイフは必すその場にいて、 マウスへの旅もできた。一度、小さな市が私有地の中に立ったことて通信がやってこないとも限らない。 もあった。どうやらそれは毎年の行事らしかった。レイフは蒸気機それを受信し、つぎへ回さなくてはならないのだ。認知の応答が一 関用の油と、曲芸団の熊のための生肉を請求する通信を級信号塔分遅れても、ロンディニアムから正式の戒告が舞いこむたろう。そ へ送ることになり、その半時間を有頂天ですごした。 うなれば、昇進は数年間、それとも永久にお預けた。ギルドの基準 一年はまたたくまに経った。晩秋になって、いまや信号隊の伍長は高く、それが弛められることは決してない。級信号所を監督す に進級したレイフは転任の辞令を受け、別の少年が彼のあとをひきる少佐でさえあっさり左遷されるとすれば、名もなく実績もない伍 ついだ。レイフは彼にとっての最初の重任につくため、馬で西へ向長の首など、どんなに簡単に飛ぶことか ! 毎日の勤務時間は短 く、たったの六時間、厳冬の十二月と一月には五時間たった。しか ーセットの南の一角にかたまった丘陵の中へ分け入った。 、力し し、そのあいだは、一回の短い休憩を別にすると、レイフはつねに その信号所は、高地を西へ縫いながらサマーセットに達している 待機状態でいなくてはならないのた。 級線の一部だった。冬になると、日が短い上に視界も悪化するの で、この線の信号塔は使われなくなる。レイフはそのことをよく知ひとり・ほ 0 ちにな 0 てからの彼の最初の行動の一つは、小さい信 っていた。いわば完全な孤立生活なのた。山地の冬は厳しく、吹雪号塔に登ることだった。この信号所は、一風変わった構造になって いた。高度の不足を補うため、屋根のすぐ下に高架歩路がとりつけ で旅はほとんど不可能になり、何週間も氷に閉ざされてしまう。冬 のあいた西国を徘徊するというのある追い剥ぎの一味を、あまりられており、その真中に操作台がある。一方、歩路の両端には二重 ガラスのはまった窓があって、西と東への眺望がきく。歩路は二つ 2 心配しなくてもすみそうだった。信号所は街道から遠くはすれてい る上に、小屋の中には、信号手の必需品であるツアイスの双眼鏡をの窓をつなぎ、信号機の ( ンドルの前を通っているが、その厚い板

9. SFマガジン 1978年12月号

女というのは、えらく情緒的である。大勢の女がアンドロイドと おれはやつのスイッチを切ってやった。もちろんおれはジャクス 恋におちいった。男どもは、このことでおおいに感情を傷つけられ ンよりすぐれている。なんてったってやつのスイッチを切ってしまたものた。おれの最初の恋人である i--) 組立班の班長、ネリ えるんだから。 も、おれを捨てて、あるアンドロイドの電気技師にのりかえた。や 翌日、交替時間がきて職場にもどったとき、おれはまたスイッチっこさんのほうが丁重に彼女を扱ってくれるんだそうた。 を入れた。 酒保で顔を合わせると、おれたち男どもはセックスや哲学を語 り、つぎの思考討論コンテストで優勝するのはだれか、といったこ やつは即座にしゃべりたした。「あんたの比喩的な安楽椅子の背 後では、あんたの気がっかないありとあらゆる恐ろしいことどもとを語りあう。女たちは料理の秘訣を教えあう。ときどきおれは、 が、さかんに合図を送ってるんだ」 女というやつはわれわれ男性ほど、《人間の条件》を多く持ってい 「すくなくとも、人間は自殺用の遺書を書くよ」おれは言ってやつないんじゃないかという気がする。 た。たしかにこれは、 いままで全面的に認められることのなかった はじめておれたちがべッド・インしたとき、ネリーは言ったもの ひとつのマイナーな芸術である。非常に個人的な性質の芸術。人は だ。「あんた、ちょっと神経質になってるんじゃない ? 」 知らない相手に宛てて遺書を書くことはできない。 敬愛する大統領閣下、私の名は閣下には未知のものでありましょ まあたしかにそうたった。たけどおれは言った。「いや、神経質 うが、これでも私は、この前の選挙で、閣下に一票を投じたものでになんかなってやしないさ。ただ問題はな、この″役を演じる″っ あります。そして、閣下がこれを受け取られるころ、私はもはや閣てことなんだ。またいまのところ、現在のこの特別の状況にあては 下をお騒がせすることはできないようになっているでしよう。 まるだけの役柄を開発していないんでね」 私はもはや、二度と閣下に一票を投じることはできないでありま「そう、とにかくがんばってちょうだい。でないと、いまにホイツ しよう。次回の選挙では、閣下を支持することはできなくなってい スルが鳴るわよ。あんたたって、″偉大なる恋人″かなにかの役に るでしよう。 ならなれるんでしょ ? 」 親愛なる大統領閣下、この手紙は多少のショックをもって受け取「おれが″偉大なる恋人″タイ。フに見えるか ? 」おれは憤然として られることと思います。とりわけ閣下は、私のことなどなにもご存 問いかえした。 じないのですから。 「もっとけちな男だってたくさん見てきたわよ、そう言って、彼女 敬愛する閣下、閣下は私にとってたんなる大統領以上のものであはほほえんだ。それ以後は、おれたちはすっとうまくやってたんだ りました。 が、そのうち彼女が、相手もあろうにアンドロイドの電気技師なん 3 かにのりかえるために、おれをほうりだしたってわけた。

10. SFマガジン 1978年12月号

その技術をものにした誇りを感じられるようになった。彼がはじめにはたびたびなった。彼が課題に取り組みはじめたとき、日は昇り かけたばかりだった。彼がそこを去ったとき、日はもう西 . の地平線 て同軸信号の恐るべき複雑さにでくわしたのは、そのときたった : に沈みかけていた。最初の二時間、三時間は、なんということもな 二年間の信号所勤務をすませた実習生は、ようやく一人前の信号かった。やがて、苦痛がはじまった。両肩に、背中に、腰とそして 手として卒業に近づいた。つぎに、いちばんむすかしい試験が待ちふくらはぎに。世界がせばまってきた。太陽も遠い海も目に入らな くなった。存在するものは信号機と、ハンドルと、目の前にあるテ うけていた。試験の現場は、セント・アドへルムズから約半マイル の先にある低い禿げ山たった。その上に、約四十ャードの距離を隔キストと、窓だけだった。二つの小屋を隔てた空間のむこうに、ジ ョッシュがこちらを向き、彼の果てしなく、そして無益な作業を見 てて、二つの Q 級信号塔と付属の小屋が、おたがいに向きあって立 つめているのが見えた。レイフはしだいに信号塔を憎み、ギルド っていた。ジョッシュはこのテストで、レイフの相手をつとめるこ とになった。二人は早朝に現地へ連れて行かれ、そこで課題を与えを、彼自身を、彼がこれまでにやったことのすべてを、シルべリー られた。聖書のネヘミャ記を交互に一節すっ、そのたびに「注目」とグレイ軍曹の思い出を、憎みはじめた。なによりも憎いのはジョ ッシュであり、その白く・ほやけた間抜けな顔であり、その頭上で彼 「認知」「送信終了」の符号を頭と終わりにつけて送信すること。 の肉体の滑稽な延長部分のようにカタカタ鳴っている信号機だっ 十分間の小休止は数回許されているが、それはとらないほうがいい と、二人とも内密に注意されていた。いったん台の上から離れたらた。疲労といっしょに夢うつつの状態が訪れ、その中では論理が停 さいご、疲れきった体でもう一度 ( ンドルの前に戻る気力はなくな止し、行動の理由が失われてしまった。なにもない人生、なにもす ることのなかった人生ーーーただ、台の上に立ち、ハンドルを握り、 るかもしれないからだ。 小さな禿げ山のまわりには何人かの審査員が置かれ、刻々と送信腕木の反動を感じとり、それを体で受けとめ、反動を感じとり : ・ 。彼の視野は二重に・ほやけ、三重に・ほやけ、やがて前にあるテキ を見まもりながら、まちがいや遅れをチェックする。審査員の満足 する出来で送信が完了したときには、実習生はそこから離れ、信号ストの文字が・ほうっと光って読めなくなった。それでもまだ試験は えんえんとつづいた。 手を名乗ってもよ い。だが、それまではだめだ。もし、完了しない うちに仕事を投げ出したくなったら、そうするのは自由である。だ午後になってから、レイフはもし手が届くものなら親友を殺して れも非難がましいことはいわないし、処罰もない。しかし、その代やりたいという気持に、何度おそわれたかしれなかった。しかし、 、即日ギルドを去ることになり、二度と帰ることはできない。こ手が届くはすはない。彼の両足は台の上に根を生やし、両手は信号 うして逃げ出す少年も、少数ながらいる。また、気絶するものもい機の ( ンドルに膠づけされていた。信号機は不平そうにキイキイ軋 んだ。彼の呼吸は、まるで蒸気機関のように荒々しく彼の耳に聞こ る。彼らには第二の機会が与えられる。 レイフは気絶もせす、逃げ出しもしなかったが、そうしたい気持えた。目の前が暗くなった。テキストと向かいの信号機が虚空の中 2 円