ばっている狂人は、みんな同しれいとうせいえきから生まれた兄弟が映った。 のようなものでして : ・ : こ 「おまえ : ・ チャクラは絶句しこ。 雲龍がどれだけチャクラの言葉を理解できたか疑問だった。た しかし、ジローはほとんどチャクラには注意をはらっていないよ だ、チャクラを凝視しているその眼に、しだいに奇妙な光が浮かんうだった。心なし、沈うつな面持ちで、広間にうすまく煙りを凝視 できてーー・ふいに、おかしさに耐えかねたというように、笑いはじしていた。いまだかって、ジローがみせたことのない成熟した大人 めたのた。 の表情たった。 「婆あたち : : : あの婆あたちが : : : 」 「おまえ、どうしたんた」 雲龍はヒクヒクと体をけいれんさせ、ときおり苦しげに咳込ん チャクラがなんとなく遠慮がちにきいた。 た。それでも、笑いつづけるのをやめようとはしない 「いまのま、 。いったい誰なんだ ? 」 「地獄で会ったら誉めてやるそ。よくもまあ、これほどあざやか「ああ : : : 」 に、俺をはめてくれたものよ。誉めてやるそ。真夜中の婆あたち」 ジローは意味もなくうなずき、どことなくさみしげな徴笑を浮か 雲龍は笑い、笑いつづけて、そしてこときれた。その死に顔に は、あのいつもの皮肉な笑いが残っていた。 「すべてが終わったんだよ : : : さあ、俺たちも″盤古″に会って、 チャクラは悄然として、広間の入り口に立ちつくしていた。 ここを退散するとしようよ : : : 」 炎が迫っているようた。広間にうすまく煙りが、しだいに色濃い ものになりつつあった。高熱にしつくいが溶かされ、石の壁がギシ 間接照明のあわい緑いろの光が、その部屋を充たしていた。ー ギシときしみはじめていた。 寺院の大伽藍のように壁が曲線をえがき、しかもその表面はにぶい とっぜん、広間にとびこんできて、チャクラのかたわらをすりぬ金属の光沢をはなっていた。どこかで、なにかが作動しているらし け、雲龍のもとに走っていった人影があった。ハ ッ AJ チャクラ、が眼 く、・フーン、という唸るような音がきこえていた。 をみはったときには、もう煙りが視界を厚くとざし、その人影はさ いたるところに、猫の眼みたいな光が明減し、部屋の隅には巨大 だかではなか「た。なかば反射的に、チャクラが足をふみたそうとな光の窓があった。その窓は青く光り、なんともわけのわからぬ白 したそのとき、 背後から声がかかった い描線を浮かびあがらせていた。しかも奇怪なことに、その描線は 「あの人は雲龍といっしょに死にたがっているんだ。救けようとす刻一刻とかたちをかえ、ときには光の窓いつばいにのび、ときには るたけむただよ」 フッと消減するのたった。 ふりかえったチャクラの眼に、うっそりと立っているジローの姿天井から人間の腕ほどの太さもある鎖が何本もたれさがり、巨大
きれば宮廷になど一歩たりとも近づきたくない心境なのである。 チャクラはチッチッと唇を鳴らし、首をふりながら、 ー人を人とも思わないようなところのあるチャクラには、まったく「まだ帰ってこないんたよ。なんだか、ぶっそうな話もきこえてく 0 めすらしいことといえた。チャクラ自身もふしぎでならないのたるしね : : : しかたないから、宮廷にしのびこんででも、つれもどそ が、とにかく雲龍という男は苦手の一言につきるのだ。 うと思ってね。あんたなら、宮廷によく出入りしているらしいか しかし、ジローをつれかえる、と、ザルアーに約東した手前もあら、なにかいい知恵かしてくれるんじゃないか、と期待しているん るし、まあ、ジローの身も心配ではあるし、で、いすれにしろ宮廷だが : : : 」 に足を向けないわけこよ、 冫をしかなかった。チャクラは渋い顔をしなが「 : ら、・フラブラと路地を歩きはしめた。 巫抵は走りだそうとした。しかし、チャクラはその襟首をつかん そして、ふいに前方に視線をすえ、ニャリと笑うと、次の瞬間、 たまま、はなそうとはせず、巫抵の足はむなしく空を蹴るばかりだ パッと薬屋の看板のかけにかくれた。息をひそめるようにして、しった , ーーやがて、巫抵はカつきたかのように、両足を地面におろし ばらくそこで待機していたが、やおら右手をのばした。 た。そして、いかにも忌々しげにいっこ。 「こらつ、なにをするか。はなさんか。はなさんとひどいめにあわ「なんでもきくがええわ、わしにわからんことはなにびとっとして ないからの」 チャクラに襟首をつかまれ、キーキーとネズミのようにわめきた「ありがたい : : : 爺さん、じつはな : : : 」 てた老人はー・・ーーあの巫抵たった。 チャクラはふと言葉を切り、 いぶかしげな視線を空に向けた。そ 「俺たよ、爺さん」 の視線に気がっき、巫抵をつられたように空をみあげた。 チャクラはヌッと巫抵のまえに顔をつきだした。 街の上空、おだやかな朝の光のなかを、なにか黒く、ちいさな蕾 「きのうはどうも世話になっちまったなー のようなものが舞っていた。ひとつやふたつではない。おびただし い数の蕾が舞い、しかも波濤のように、後から後から押し寄せてく 一瞬、巫抵は猜疑心の強、 しいかにもこすっからそうな眼つきにるのた。 なった。チャクラが害を加えようとしているのではないか、と、疑「おお・ っているような眼つきだった。 巫抵は顔をゆがめ、うめき声をあげた。 「いや、きのうはとんだことしやったな 「鬼た、鬼がやってきた : : : 」 そして、襟首をつかまれたまま、重々しくうなすき、あいさつを かえしてきた。「お友達はぶじに帰ってきたかの」 チャクラは呆然と空をみあげている。 「それなんだがね。爺さん : : : 」 異変に気がついた街の人たちが、ようやくさわぎはじめていた。
しかし、その尊に大いにまどわされ、不安にかられている人間ももいるだろうし、謀叛が起きたのだとしたら、なにかとゴタゴタも しているだろうし : : : 」 いないではなかった。 チャクラとザルアーのふたりだった。 「たよりにならない人ね」 ザルアーは憤然と席を立ち、扉に向かった。 彼らの立ち場はややこつけいなものといわざるをえなかった。眼 をさましたとき、雲龍の邸にはだれひとりとして残っていなかった「わかったわよ。もうたのまないわよ」 「ま、待ってくれよ」 のだ。召使いにいたるまで、きれいにひきはらっていて、いかに雲 チャクラはあわてて、ザルアーをおしとどめた。そして、頬を指 龍の謀叛の計画が周到なものであったか、なによりよく物語ってい で掻きながら、すこし考えてから、なんとなく自信のなさそうな声 客として滞在しているうちに、その家の主人が一族郎党をひきつでいった。 れて消えうせてしまったのだ。チャクラたちでなくとも、これから「わかったよ。俺が宮廷に行って、ジローをとりかえしてくるか どうすべきか迷って当然たったろう。 ら、あんたはここで待っていてくれないか」 「そんなのいやよ。わたしも : : : 」 そこへもってきて、雲龍の謀叛の噂がったわってきたからたいへ ザルアーがそう抗議しかけるのを、チャクラは手をあげて制し んだ。宮廷にただひとり連れていかれたジローの身を案して、ザル リとした口調でいう。 た。それから、いやにキツ。ハ アーはほとんど半狂乱になってしまった。 「女連れで宮廷に入るのは、なにかとめだってますい。まあ、心配 「とにかく、ジローをとりかえすことよ」 するなよ。ジローはちゃんと連れかえってやるからさ」 ザルアーはさっきからそればかりをくりかえしている。 「謀叛のがほんとうだとしたら、ジローがどんなめにあわされて「でも : : : 」 いるかわかったものじゃないわ」 「それはそうだ : : : 」 チャクラは人差し指を唇にあてて、片眼をつぶってみせた。「な にもいわないで、このチャクラさまを信用してくれよ チャクラはなんとなくウロウロしながら、答えている。「まった ちゃんとここで待っているんだぜ , く、そのとおりだ。ちがいないよ : : : 」 そして胸を張り、悠々たる足どりで扉に向かった。部屋をでると 「だったら、はやく宮廷に行きましようよ」 ザルアーはついに忍耐の限界に達したようだ。チャクラは立ったきには、陽気に手までふってみせーーー外に足をふみだし、扉を後ろ りすわったりをくりかえしているが、し 、つこうに行動を開始する気手にしめたとたん、なんとも情けなさそうな表情になった。 配をみせないのた。 じつのところ、チャクラにはジローを宮廷から連れたす勝算など 「しかし、宮廷にしのびこむとロでいうのはかんたんだが、見張りまったくないのだ。勝算どころか、雲龍がおそろしくてならす、で や
チャクラにも、自分がどうしてナイフを投げつけたのか、よ厚い胸を大きくなみうたせると、眼をとじ、グッタリと椅子の背に もたれかかった。そして、奇妙に抑制のきいた声でいった。 くわからなかった。巫抵から宮廷に通じる秘密の通路をききだし、 「なあ、チャクラ : : : ひとつだけ、きかせてくれぬか」 なんとかしのびこむことに成功したものの、どこをどう歩いたら、 「へえ」 いのかわからず、なんとなくうろついているうちに、偶然に雲龍が チャクラは反射的に腰をかがめ、頭をさげていた。いままさに死 銀ギッネを斬殺する場面にでくわしたのだった。そのとたん、ほと んど反射的に、右手が動き、ナイフを投げつけてしまっていたのでのうとしているときでも、雲龍のそなえているある種の迫力には、 ある。 いささかの変化もないようだった。 たしかにチャクラは、銀ギッネにたいして、ある種のしたしみの「俺は、ある占い師から、女の腹から生まれた人間は俺を傷つける ようなものをいだいてはいたが、そのしたしみにしても、まさか仇ことはできぬ、という言葉を与えられているのだ。その俺がどうし : なあ、おまえに ておまえのナイフに刺されることになったのか : 討ちをしなければならないほど、ふかいものだったとは思えない。 まったくの衝動、まさしく魔にとりつかれた瞬間としか形容しようそのわけがわかるだろうか、 よ、つこ。 いや、それをいうのなら、むしろ雲龍のほうにこそふさわしいか チャクラはふたたび頭をさげ、ちょっと考えてから、なんだか申 もしれなし し力に銀ギッネを斬った直後といえ、彼ほどの男が、 し訳なさそうにいナ ろくに戦闘の心得もない男の投げたナイフをかわしきれなかったの 「じつは、わたしは女の腹から生まれた人間じゃねえんで : : : 」 た。不運、というより、いっそ事故と呼ぶべきだったろう。 「なんだと」 雲龍はやおら胸のナイフをにぎり、 いとも無雑作にひきぬいた。 雲龍は眼をうすくひらいた。その眼光は、いまだにチャクラを射 おびただしい血糊がその胸をよごしたが、それすらまったく気にとるようにするどかった。 めていないようだった。 「狂人というのは、まあ、いってみれば、ひとりがみんな、みんな 「なるほど、布衣の下のハチのようなものか」 がひとりというような、ちょっとかわった一族でして : : : その、わ 雲龍はよごれたナイフを、ゆっくりとマントの端でぬぐいなが たしにもよく理屈はわからないんですが、ずっと昔から、女の腹を ら、 いった。「みごとに、この俺を刺しおったわ」 つかわないで、子供をつくる方法がったわっているんですよ : : : そ の方法を知っているのは一族の長老なんですけど、なんでもらんし チャクラは呆然としている。自分のしでかしたことがいまだに信とかを凍らせておいて、子供が必要になったときは、れいとうせい じられず、声もでないのだった。 がきと結びつけるんたそうです。そして、おかしな箱のなかに入れ 8 て、子供を大きくしていくんだそうで : : : だから、あちこちに散ら 雲龍はきれいにぬぐいおわったナイフを、床のうえに投げすて、
な金属の鳥をささえていた。ただし、この鳥の制作者は、あまり本「」という文字は″盤古″の姿を象徴していたのである。 「まちがいない : 物の鳥を模することに熱心ではなかったようだ。たしかに、三角の 冫しった。「ここが″盤古″の神殿だ」 チャクラがつぶやくようこ、 翼をとりつけ、頭部もくちばしの曲がった鳥に似ていないことはな ジローはチャクラに視線をはしらせた。そして、唇をかみ、思い いが、全体として鳥を連想させるというだけのことで、細部にはま 0 たく注意がはらわれていなかった。眼とか羽毛はもちろん、脚す決したように足をふみだそうとした。そのとき、ふいにふたりの頭 上に声がひびきわたった。 ら造られていないのだ。 ふしぎなのは、外は猛火でつつまれているはすなのに、この部屋 ( 人間カ・オマエタチ ( 人間カ : : : ) それはひどく無機的な、いまだかってふたりが耳にしたことのな がまったくあっくないことたった。それどころか、ヒンヤリとした いたぐいの声だった。歯車のきしみが声に合成されれば、ちょうど 空気がみなぎり、むしろさむいほどなのである。 奇怪な部屋だった。とにかく、この時代のものでないことはまちこんな調子になるかもしれない。 がいないようだった。 ふたりは体を凍りつかせて、あわてて周囲をみわたした。しか ふいに、部屋の一角が音もなくひらき、そこに立っているふたりし、どこにも人影はみえない。みえないが、なお声はきこえてくる の男の姿をあらわにした。 のだった。 ジローとチャクラだった。 ( オマエタチガ人間ナラ、ワタシノ話ヲキクガイイ。ワタシガドン 「これが″盤古の神殿か : : : 」 ナニ人間ヲ愛シテイタカ憶エテオクガイイ : : : アア、ワタシハ人間 チャクラがあきれたような声をだした。 ヲィックシミ、 ( シテイタ。ダカラコソ、ワタシハ″異変″ノノ 「なんとも、きてれつな神殿じゃねえか。気色わるいぐらいたぜ : チ、コノ県圃ノ土地ヲマサシク人間ノゅうとびあトシテ、建造シタ ノダ。自己増殖たんばく質カラナル視肉、畢方、聆ヲックリ、気 まったく、この神殿は彼らふたりにとってあまりに異質なもので象ヲこんとろ 1 るシ、ゆうとびあヲ建造シタノダ : : : サイワイ、ワ ありすぎた。この場を充たしている空間それじたいが、すでにふた タシニハ、他惑星ニオイテ、移民基地ヲ建造シ、人間ニ適シタ人工 りのそくしている世界とは隔絶されたものであるような気がするの環境ヲ造リアゲタ実績ガアッタ。ワタシノめいん・こんびゅうたあ コ だ。じっさい、足をふみいれるのさえためらわれるほどだった。 一ハ、ソノタメでーたーガスペテソロッテイタノダ : : : スデニ、 チャクラは呆然と部屋をみわたしていたが、ふとその視線を″金ノ地ニ県圃ヲ築イテカラ、二百年ガスギティル。シカシ、県圃 ( 永 属の鳥″でとめた。金属の鳥の姿形が、チャクラにかって眼にし遠ニ存続スルハズダッタノダ。ソレガイマ減ビョウトシティル : たことのある文字を想い起こさせたのだ。それはまさしく、あの人間ョ、ナニガワルカッタノカ教エテホシイ。ワタシ ( 人間ヲ愛 : ソレガイケナカッタノ力、ソレガ間違 シ、ソノ幸福ヲネガッタ : 「」という文字そのままの姿をしていたのた。
・前回までのあらすじ・ ジローはくりかえしこ。 「まちがっても、そんなことをするものか」 戦士ジローの生きる世界は奇妙な動物相・植物相を持っていた。 じっさい、ジローはとうてい女帝を軽蔑する気持ちにはなれなか そして、彼の故郷マンドール地方は、″稲魂″と呼ばれる存在が頂 った。彼女がなんといおうと、雲龍のことを忘れかねているのは、 点に立っ生態系に支配されていた。 彼はいとこにあたる美少女ランに恋をしたが、彼女は″稲魂んに たしかなことのように思われる。その苦しさ、やるせなさは、同し つかえる巫女、しかも近親婚は犯すべからざるタ . プーた。しかし、 ようにいとこを愛してしまったジローには、手にとるみたいにわか ランへの思慕を断ち切れぬジローは、放浪者チャクラ、女呪術師ザ るのだ。 ルアーの助けをかりてランのいる神殿に忍びこむ。ところが、ラン いまになってジローは、どうして自分がザルア 1 を抱いたのか、 を欲しければ失われた宝石″月″をとってこいと″稲魂″に命じら れる。チャクラ、ザルアーらと旅に出たジローは、まず県圃の街を はっきりとそのわけがわかるような気がした。そして、いま自分が めざした。その街は、視肉という生きている肉だけを食べる住民が ザルアーと同じ立場におかれ、それがどんなに彼女にたいして残酷 住む奇怪な街だった。その上、もめごとにまき込まれた三人を助け なことであったか、つくづくと思い知らされていたのだ。 た雲龍と名乗る男の周囲には、なにやら陰謀の陰が : 県圃の女帝のもとへ招かれたジローは、そこで女帝と寝ることに 女帝は、ジローのあまりに強い口調にややおどろいたようたっ なった。しかも、女帝がひそかに雲龍へ思いを寄せていることを、 彼は知る。一方、県圃の郊外では、クーデタをもくろむ雲龍が、配 た。ふりかえり、しばらくジローの顔をみつめていたが、やがて平 下の軍勢を従えて内域へと進撃を開始するのだった。 板な声でいった。 「おまえはやさしい少年ですね」 さすがに、その声はするどく、あらがいがたい響きを持ち、女帝 ジローは顔をあからめ、どぎまぎと眼をふせた。彼は、いまだかの権勢をつよく示していた。女帝としての誇りが、その一言に凝縮 ジローは。ヒョコンととびあがり、 って自分をやさしいだなどと思ったことはない。それに、自分ではされ、爆発した感じたった。 もう一人前の大人のつもりでいるから、少年といわれたことで、な反射的に逃げ腰になった。 んだか肚立たしいような、それでいてちょっとくすぐったいよう「″盤古〃に会うにはどうしたらいいのですか、 な、おかしな気分だった。 それでも、その場にかろうじてふみとどまって、そんな質問を口 「わたくしにたいして、あわれみをかけようというのですか」 にできたのは、森の住人として育ったジローが、身分の差というも のにたいして、やや鈍感だったからにちがいない。 ふいに、女帝はりんとした声をはりあげた。 : いますぐ、ここから出ておいきな「″盤古″ 「蛮人のぶんざいで、無礼な : ・ 女帝は眉をひそめた。「なにをいいだすのかと思ったら、おろか 8 9
ノテイタ / カ : : : ) 手もふれないのに、ふたりの背後でドアが音もなく閉まった。 ジローにはその声の意味するところをほとんど理解できなかっ た。しかし、しよせん″神″とは人間とはことなった言葉でしゃべ 夜空をまっかにそめて、県圃の内域が燃えあがっていた。 るものなのだ。その言葉を理解しようとっとめるのはおろかしいこ 雲龍の邸のまえに立ち、ザルアーがその光景をみつめていた。そ シャオチュウ とであり、″神〃にたいする冒漬でさえあった。 れは、かってザルアーが小丑の出張司邸のかまどのなかにみた光 「″盤古″よ、教えてほしい」 景と同じだった。ザルアーはやはりあのとき、県圃の減亡を予知し ジローはこの部屋のどこかにいるらしい″神″に向かってさけんていたのだ。 だ。その声が湾曲している壁にこだまし、しだいにちいさなものに ザルアーはなかば魅せられたように、燃えあがる県圃をみつめて なっていく。 いた。そして、自分たち三人の運命も予知できないものか、と、し 「俺たちは″空なる螺旋″をさがして旅をしている。″盤古〃よ、 きりにそんなことを考えていた。 フェーン・フェーン どこに向かえば″空なる螺旋″をさがしあてることができるか教え ( 第一一部死の霊都・了 ) てほしい・ イレーリー ( ″憎シミノ砂漠″ニ向カウガイイ ) 註たとえば北アメリカの草原に住む。フロングホーンは、もし やもじゃした毛のなかに、ながい保護毛をそなえている。これ そくざに声がかえってきた。 はいわば自然の喚気装置のようなもので、皮膚の筋肉をつか ( ″憎シミノ砂漠″ニ、 ″空ナル螺旋″ガアルハズダ : : : ) 、この毛を上下させることで、寒さをふせいだり、熱を適当 ケン 「″憎しみの砂漠″・ : ・ : 」 に逃がしているのである。おそらく県圃の草原も、この保護毛 そうつぶやいたジロ 1 の声には、よろこびがあふれていた。なが と同じ役割りを果たしていると思われる。草の角度を調整する ことによって、県圃の温度をコントロールしていたにちがいな く放浪してきたのちに、ようやく″空なる螺旋″の手がかりをつか いのだ。盤古の管理体制はまさしく完璧だったといえる。県圃 むことができたのた。 の里が笑ったのは、鬼の侵入によって、そのコントロールに狂 チャクラが背後から、ジローの肩を指でつついた。必要なことを いが生じ、一斉に熱を放出したからではないだろうか。 知った以上、こんなところに長居は無用た、と、 いってるのた。ジ ローも同感たった。この部屋はまったくうす気味がわるい 編集部よりお知らせ 足をしのばせて部屋をでていくふたりを、なおも声が追いすがっ 御好評をいただいている「宝石泥棒」は、都合により二月、三月号は休 てきた。 載させていただきますが、四月号よりなお一層の充実を期して再開いた します。 ( 教エテホシイ、ナニガイケナカッタノ力、ドコデ間違ッタノカ :