向かっ - みる会図書館


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1. SFマガジン 1979年1月号

ノテイタ / カ : : : ) 手もふれないのに、ふたりの背後でドアが音もなく閉まった。 ジローにはその声の意味するところをほとんど理解できなかっ た。しかし、しよせん″神″とは人間とはことなった言葉でしゃべ 夜空をまっかにそめて、県圃の内域が燃えあがっていた。 るものなのだ。その言葉を理解しようとっとめるのはおろかしいこ 雲龍の邸のまえに立ち、ザルアーがその光景をみつめていた。そ シャオチュウ とであり、″神〃にたいする冒漬でさえあった。 れは、かってザルアーが小丑の出張司邸のかまどのなかにみた光 「″盤古″よ、教えてほしい」 景と同じだった。ザルアーはやはりあのとき、県圃の減亡を予知し ジローはこの部屋のどこかにいるらしい″神″に向かってさけんていたのだ。 だ。その声が湾曲している壁にこだまし、しだいにちいさなものに ザルアーはなかば魅せられたように、燃えあがる県圃をみつめて なっていく。 いた。そして、自分たち三人の運命も予知できないものか、と、し 「俺たちは″空なる螺旋″をさがして旅をしている。″盤古〃よ、 きりにそんなことを考えていた。 フェーン・フェーン どこに向かえば″空なる螺旋″をさがしあてることができるか教え ( 第一一部死の霊都・了 ) てほしい・ イレーリー ( ″憎シミノ砂漠″ニ向カウガイイ ) 註たとえば北アメリカの草原に住む。フロングホーンは、もし やもじゃした毛のなかに、ながい保護毛をそなえている。これ そくざに声がかえってきた。 はいわば自然の喚気装置のようなもので、皮膚の筋肉をつか ( ″憎シミノ砂漠″ニ、 ″空ナル螺旋″ガアルハズダ : : : ) 、この毛を上下させることで、寒さをふせいだり、熱を適当 ケン 「″憎しみの砂漠″・ : ・ : 」 に逃がしているのである。おそらく県圃の草原も、この保護毛 そうつぶやいたジロ 1 の声には、よろこびがあふれていた。なが と同じ役割りを果たしていると思われる。草の角度を調整する ことによって、県圃の温度をコントロールしていたにちがいな く放浪してきたのちに、ようやく″空なる螺旋″の手がかりをつか いのだ。盤古の管理体制はまさしく完璧だったといえる。県圃 むことができたのた。 の里が笑ったのは、鬼の侵入によって、そのコントロールに狂 チャクラが背後から、ジローの肩を指でつついた。必要なことを いが生じ、一斉に熱を放出したからではないだろうか。 知った以上、こんなところに長居は無用た、と、 いってるのた。ジ ローも同感たった。この部屋はまったくうす気味がわるい 編集部よりお知らせ 足をしのばせて部屋をでていくふたりを、なおも声が追いすがっ 御好評をいただいている「宝石泥棒」は、都合により二月、三月号は休 てきた。 載させていただきますが、四月号よりなお一層の充実を期して再開いた します。 ( 教エテホシイ、ナニガイケナカッタノ力、ドコデ間違ッタノカ :

2. SFマガジン 1979年1月号

間が見える。くすれてゆくものでこそ時間を測れるというものだ。水晶のようにすきとおった冷めたい水が流れ落ち、直立する。 ( イプ 小大なら、あるいは猫でも、いまごろはもう大きくな 0 ているはずには粉末糖や澱粉の細粒がたま 0 てゆき、ポンべの中には泡立 0 た だ。赤ん坊はしゃべりはじめるたろう。 蛋白溶液が沈澱してゆく。 「俺は乳母になるべきだ 0 たんだ」彼は、廊下の目には見えない電そののちすべては、ビタミンを添加され、あたためられ、ときに 気の耳にどうせわかるはずもないと知 0 ていて、わざと大声でそんは角氷を混ぜられたり、炭酸ガスを含ませられたり、脂肪やカフ なことを言った。廊下は大きな弧を描いている。ギムナスチック・ インや、いろいろな味覚成分、こうばしい油に満たされてーーー彼の ーム。図書室。予備機関室。彼は不透明なガラスのドアの前を、 もとに帰ってくる。そのおかげで彼は、飲みかっ食べる物に、それ どこにも立ちどまらずに通りすぎて行った。どこに向かっているのもおいしいものに不足することはないというわけであった。 か知りたくなか 0 た。どこでもないところ〈行きたか 0 た。再生地球で何十回となく説明されたことだ 0 た。これはすべて排泄物 室。 とはなんの関係もないのだとーーあるいは、せいぜい、肥料を与え 物音の聞こえてくる唯一の場所。ここのほかはどこへ行っても静た地面にできる麦の、そのまた粉から作る。 ( ンのようなものだと。 かだ 0 た。この再生室の遮音を完全にするために、ヒスひとつ、物そのうえ、ーー・彼をなんとか安心させるために・ー - ー食糧のかなりの部 音ひとつまわりへ洩らさないように、設計者や = ンジ = アたちがど分は星間物質からシンセサイズされるのだから、と。が、実際の れほど骨を折ったことかー インシ = レーション・マス、硅酸発泡話、とくに彼のために星間物質を集めるわけではなかった。それは コンクリート、台座のない装置本体のマグネチック・サスペンショ エンジンの燃料であった。ロケットは、四年のあいだに光速に突入 ン、導管を包む四重のスポンジ状物質。しかし幸いなことにそれはしまた脱出するために、自らの本体よりはるかに大きな質量を消却 成功しなか 0 た。彼は目を閉じてそのささやくような、単調な歌にしつくさなければならない。そしてその。 ( ラド ' クスを現実化する 聴き入った。それは、彼に従うことのない地球の風に似て、彼がど ために、船首に電磁吸入機「ハンマー」を据えつけたのである。空 う命令しようと絶やすことのできない歌声だった。再生室。汚水、 間にむかってあんぐり開かれたその喉でもって数百キロメートル四 石鹸液、糞尿、あき銘、割れたガラス、紙。 - ーーすべては吸引パイプ方の稀薄な星間ガスーー水素、カルシウム、酸素などの原子ーーを をへてここへ集まり、マイクロ原子炉に流れこむ。遊離元素への分吸引する。飛行速度が光速の半分をこえないうちは、ロケットの質 解。多回路冷却。結晶化、同位元素の分離、昇華、分解蒸留。仕切量欠損は大きくなるばかりであるーー・電磁 ( ンマーのつかまえる量 り壁のむこうのシンセサイザーの銅柱の列、上から下まで銅でできがイオン・ = ンジンの焼却量に追いっかない。しかし、その境界を た美しい赤色の林 ( 船内の唯一の赤だ 0 た。赤は神経衰弱とマ = アこえると事態は変わることになっていた。ロケットは飛びながら空 の色であるという ) 。炭化水素、アミノ酸、セルローズ、炭水化 間に広大な「トンネル」を形成して、たまにふらふらしている原子 物、しだいに高度の合成をへて、最後には一階下にある貯水漕にはをひ 0 ばりこむ。そうして猛速度によ 0 て原子を集めながら、ます 幻 6

3. SFマガジン 1979年1月号

うつぶせになった。黒い。おちつかなかった。どうしたのか 2 にはそれを見やぶることは・せったいできないではないか ! 彼は、 んでもない。彼はひどく費用のかかる長期的実験に供された実験用自分のお粗末なグラフや簡略化した計算に必要な数字や方角はオー 2 2 動物だった。彼のしている代事などオートマットの精密さのまえで トマットから受けとるのである。それらをオートマットの助けを借 は、馬けた、こつけいな、プリミティヴな代用品でしかない。要りて整理して、オートマットたちに返す ! それは閉じた円環のプ するに、一週間か二週間前彼は計算ミスをして、それがしだいにつ ロセスであり、彼はその中の不必要な、ちつぼけな一部分にすぎな もりつもって大きくなり、食い違いがあまり大きくなって彼にも気かった。彼がいなくても彼らにはなんの支障もない。彼は彼らなし がついたのだった。もし、これまでの計算を全部やり直し、まちがではーーーやっていけない。 それでもときどき、かなりまれに、自分で計測をしてみることが いさえしなければ、何時間かのちには、はじめどこでずれたかもわ あった・ーー天体儀によるのではなく、直接スクリーンでやる。この かる。が、そんなことをして何になる ? マイクロ 目の前に、その、ほんのわずか、〇・五ミリの食い違う二本の曲まえ測ったのはーー三日前 ! 山の屋根の家の話の前 線が見えていたーーー・巨大なループに沿うロケットの予定軌道、そしメーターでもって星くずの間の距離を計り、カードに書きとめたー ーたしかにあの時だったろうか ? そしてカードから星図の上に書 て現実に飛び終えた道をあらわすこの黒い未完の線。これまで黒い 線はきっちり白い方と重なりあっていた。それが今ーーー黒線が白線ぎ移したのだったろうか ? 思い出せなかった。 一日があまりに長 から分れている。〇・五ミリメートルというのは一億六千万キロメすぎてー、ーどの日もどの日も似かよっていた。 ートルである。もしこれが本当ならば : 彼はべッドに腰かけた。 そんなことはあるはずがない。正しいのはオートマットたちにき「明かり ! 」 アストロデジ まっていた。広い宇宙船の中は彼らでいつばいだった。空間測定器緑つ。ほい曙光。 の各装置にはそれそれ自律的に動いている監督がいて、それがまた「大きい明かりだ ! 」 セントラル・コン。ヒュータの管理を受け、それを操縦室で見張って あたりはしだいに速く明かるくなってきた。いろいろな装置がも いるのが〈旅のパ ートナー〉だった。あの女は何と言っていたか ? う影を投げはじめた。彼は立ち上がり、朝のガウンを羽織った。ふ ートナー 狂いのない、けっして誤ることのないパ わふわした生地が裸の背を気持よくくすぐった。彼は服のポケット しかし、もしそれが本当なら、宇宙船の軌跡は今曲がっていなかをさぐった。 った。閉しようとしていなかった。地球に向かって帰ろうとせす、 カードが見つかると、しわをのばし、作業室へ向かった。 直線となって進んでいるのだったーー・無限の中へ。 「コンパス、曲線定規、からすロ、マイクロメーター ! 」 狂気の沙汰だーーー彼は思った。今のような瞬間に無数の妄想 テー・フルのアイリス絞りからキラキラ光るそれらの道具が現われ が胚芽する。もしオートマットたちが彼をだまそうとしてもー・ー・彼た。テープルのヘりで裸の腹を支えると、ひんやりとした感触がし

4. SFマガジン 1979年1月号

ただ蕩々と冷たい闇を湛える漆黒の宇宙を、二匹の龍がびたりとのことで死んじゃならねえぞ ! がんばるんだ。 : : : 先、先生 ! その身体寄せあい、獲物に向かって疾駆していた。 頼む、龍を助けてやっておくんなさい。あっしの身体で代用がきく 小惑星パラスは、小さな光の粒となって、いまレーダースクリー んなら、なんでもします。血液でも胃袋でもなんでも、龍に必要な ンの右端に姿を見せている。 ものがあったらあっしのを使ってもらいてえ。いや、龍が助かるん しろ 確認する梅原正二の蒼白い顔に、わずかな徴笑が浮かんだ。 なら、命とひきかえでかまわねえ」 「龍さん。どうやら、到着ですよ」 釜〔次郎が、うめくようにいう。 「わかりました寺島さん。なにかお願いする時は私のほうからいい 真継龍一郎は無言でうなすき、そっと目を閉した。その瞼のうらます。それより、この少年にいま一番必要なのは安静だ。興奮させ 側に、くつきりと寺島善次郎の生前の面影が甦ってくる。 てはいけない。もう少し、眠らせてやりましよう。なに、だいじ うぶですよ。この子はきっと助かる。あれだけの手術に泣き声ひと 「龍、だいじようぶか ! しつかりしろ ! 死んじゃならねえそっあげなかった。強い子だ。助かりますよ。矢野文二郎、アステロ イド総合病院院長の名にかけて保証します」 うっすらと開けた目の焦点の定まらない瞳に、善次郎の顔がだぶ消毒液のにおいのする、年輩の院長がうなずく。 「ほ、ほんとですね、先生 ! ほんとうに、龍の命は助かるんです った。消毒液のにおいがした。 ( : : : おやっさん : : : ) カ自分でも「だいじようぶですよ。さ、向こうにいきましよう。きみ、例の睡 龍一郎は、声をのどの奥からしぼりたそうとした。・ : 信じられないほどに、その行為はかれの小さな身体に激痛を与える眠剤を一本打っておいてくれ」 白衣の看護婦が、うなずいた。 ばかりだった。わすかに、唇が痙攣するように動いた。だが、声は でない。 「そうか、よかったな龍 ! 元気になったら、また練習機買ってや 「おお、気がついたか、龍 ! だいじようぶだ。たいした怪我しやるからな。今度は隕石になんそ当ったって、びくともしない丈夫な やつだ」 ねえ ! 安心しろ ! いま、お美津がくる」 善次郎の声が、龍一郎の耳には、なぜかとても遠くのほうから聞善次郎は、院長に退室をうながされながらも、顔だけ龍一郎に向 こえた。それに反して、ロの動きは必要以上にはっきりと目に写けて、大きな声でいった。 る。龍一郎は、もう一度、善次郎を呼・ほうとした。しかし、それは「寺島さん ! この少年は隕石事故で大怪我をしたんですよ。それ を、なんてこというんです」 今度もまた全身に苦痛を与えるばかりだった。 院長がたしなめた。 「苦しいか、そうだろうなあ。でも、龍、おまえは男た。これしき 8

5. SFマガジン 1979年1月号

ームに、光線刀が握られた。 「いい度胸だ ! 」 龍一郎は、それを確認して、握式操作器に手首を入れた。 梅原正二は、まるで宇宙船を自分の身体のように操ると、狂った 右上前方から、反転した川岸の戦闘機が襲いかかる。龍一郎はこように、向かってくる戦闘機をたたき斬った。 の一撃を、光線刀で受けとめた。宇宙船がショックにゆらぐ。 「 : : : たから、お園を譲った時、渡世の道から足を洗えと、あれほ 「くそ ! 」 どいったんだ : : : 」 川岸が無念そうな声をあげ、そして、また苦しそうにむせこん梅原は泣きながら、戦闘機を斬っていた。 「川岸、すまねえ ! 許してくれ、俺たちはどうしても、ここじや戦闘は十分と続かなかった。龍一郎の斬った一機をのそいて残り 死ねないリ」 の四機は、まるで怒り狂った鬼神を思わせる梅原正二の降り龍によ 次の瞬間、梅原正二の絶叫にも近い叫び声がひびいた。梅原のマ って、たちまちのうちに宇宙の藻屑と消え去った。 ジックアームが操る光線刀は、一瞬にして川岸の戦闘機を輪切りに 「さあ、かたはついた、一刻も早くパラスに降りましよう」 白装東の宇宙帽の接続ポルトをしめなおしながら、梅原がいう。 「梅原、み、みごとだぜ」 「すまない、二代目 : 。むかしの友だちを手にかけさせちまって : 」龍一郎がしった 川岸は、まつぶたつに断ち切られた宇宙船の中で、最後の微笑を 「いいんですよ。龍さん、さっき自分でいったじゃないですか。こ もらすと、自爆装置のスイッチを入れた。 れが渡世の道です : : : 」 銀の華が、闇の宇宙に花開く 「あ、兄貴 ! 」 梅原が笑う。 「若頭 ! 」 「おたがい、好きで入ったこの道ですか : 。二代目、着陸地点は 狼狽した藤原組の若者たちの声が、ふたりの耳に入り乱れた。 ポイント 4 だ。ここは小クレーターになっていて、着陸には絶好 「どうした雑魚ども。おじけづいたか。戦闘機ごと向かってくるも だ。そのかわり、少しばかりいり込んでいるが」 よし、宇宙船を降りて光線ドスで勝負をつけるもよし。どっちにす龍一郎がスクリーンの、。 ( ラス全図を見ている。 ふねあっか る。どっちでも、倉持組二代目梅原正二、好きなやりかたで相手し「おっと、龍さん。たしかに龍さんの宇宙船操いにやかなわないか てやるぜ ! 」 も知れないが、わたしもこれで級ライセンスはもってるんです 梅原がわめいた。宇宙帽の中にふたすじの熱い涙が流れ落ちる。 梅原がいった。 一機が降り龍に向かって突進してきた。 「いや、それは失礼 : ここだと、藤原組まで二キロの距離だ。

6. SFマガジン 1979年1月号

地形の複雑なところだから、やつらも油断があるでしよう。おそらもうもうと湧きあがる白い煙の渦の中で龍は満足気に、そのからだ く、コン。ヒュータも、わたしたちの着陸地点は計算不可能なはず。を休めていた。 宇宙船が煙の渦から解放されるのを待ちきれぬように、梅原正二 それより心配なのは、逆噴射時の電磁シールド減だが : : : 」 は白柄の光線ドスを手にとると、エアロックを開けた。クレーター 龍一郎がいう。 「その心配ならご無用。この宇宙船の外鈑はも 0 とも新しい特殊合の外縁部を形成している吃立した岩山が、のしかか 0 てくるような 金です。原子破壊砲以外のなまくら弾には、びくともしやしませ威圧感を与える。 ( お天道さまの下、歩くことのできない半端者にや、おあつらえ向 ん」 きの死に場所だ : : : ) 「なるほど」 「それに、レーダー攪乱鈑も用意してあります。上空からの宇宙船梅原は、遠い小さな暗い太陽をまぶしそうに見や 0 た。それか 攻撃がなければ、問題なく着陸できる。問題は己之介の戦闘機だがら、ゆ 0 くりと首をまわして、龍一郎の宇宙船に視線を移動させ こ。純白の宇宙服にロケット噴射装置を背中にしよった龍一郎が、 やつはくるでしようか ? 」 急ぎ足で = アロックをくぐり抜けてくるところだった。右手にはし つかりと光線ドスを握りしめている。 龍一郎はいった。そして、つけ加えた。 梅原が、つかっかと龍一郎に歩み寄る。宇宙帽の中で龍一郎が小 「たぶん : : : 」 「わたしも、そう思います。やつは本筋ものです。卑怯なまねはしさく笑 0 た。梅原も無言でほほえみかえす。このふたりの渡世人 ことばはいらない。四つの瞳の炎が燃えた。龍一郎は、ロケッ ト噴射装置のスイッチを入れた。 梅原がいった。 足元の砂塵が、軽く吹き払われ、龍一郎のからだは地表を離れ 「着陸減速リ」 龍一郎は、昇り龍の逆噴射スイ ' チを押した。梅原も降り龍のスた。続いて梅原の身体が宙に浮く。 藤原組のドームまで約二キロ。十五分あれば充分に到着できる距 ィッチを押す。微振動を起こしながら、二匹の龍は青い炎を吐い て、小惑星。 ( ラスに向かって、ゆっくりと下降していった。 龍一郎も梅原も、宇宙船をふりかえろうとはしなかった。覚悟の 一一匹の龍は、たがいに相手をかばうように身体を密着させ、小さ白装東で死地に赴くかれらに、明日ということばは見当らなか 0 なクレーターの底のわずかな平野部に、きやしゃな作りの四本の脚た。 柱でたっていた。 「馬鹿野郎 ! 役にたたねえやつらだ ! 」 宇宙船の頭部のシャワーから、大量のドライアイスが噴出され、 おとこ 5 2

7. SFマガジン 1979年1月号

展望室の中央で、藤原剛造が両手をふりまわして荒れ狂ってい 剛吐廻がいナ た。川岸を長とする五機の迎撃戦闘機は、ただのひとつもいいとこ 「ほう、親分さんは、そんなに子分衆が大事ですかい ? 」 ろなしに撃破され、コンビ = ータはふたりの着陸地点を割りだすこ己之介が、左脇に宇宙帽をかかえながらいう。 とができず、陸奥己之介に原子破壊砲の使用を拒否された剛造は、 「あ、あたりめえた。。 とこの世界に子分が大事じゃねえ親分がいる 焦りと腹たたしさに身もだえしていた。 もんかー 「それで、着陸地点はわかったのか ? 」 「なるほど、で、病気の若頭を迎撃にいかせたんですかい ? 飯さ 剛造は、コン。ヒ、ータ係の若い者に、食いっかんばかりの表情でえろくに喉を通さねえ病人をねえ。子分思いの親分さんだ」 己之介は、脇のテープルにたてかけてあった黒柄の光線ドスを、 「三分前、クレーター・ポイント 4 に降りたようです。あすこは複宇宙服の懐にしまいながらいった。 雑な地形で、とても宇宙船の着陸できるような場所じゃねえもん「そ、それあ、ちがう。川岸は自分からいかせてくれと : : : 」 で、コン。ヒュータにも予測がっかなかったようで : : : 」 「そりや、親分がどうだといやあ、そういうでしようよ。汚ないね え。汚ねえよ : : : 」 コン。ヒュータ係が、頭をかきながらいう。 「るせー よけいなことはいうんじゃねえ。俺はどこについたか「な、なんた。て、てめえ。流れ者のぶんざいで、この俺にたてつ と聞いてるんた。ポイント 4 か ! 向こうからくるの待っことはねく気か。まさか、一宿一飯の恩義忘れたわけじゃあるめえリ」 え。こっちから出向いていって、たたっ斬れ ! なに、相手はたっ藤原剛造が、顔をひきつらせた。 たのふたりだ。・ヒクビクすることなんざ、なにもねえ。すぐ、いか「ふふつ、 しっそ忘れたといいたいもんだ。だが、この陸奥己之 せろ ! 」 介、あいにくそいつのできねえ性分だ。親分に受けた義理は、宇宙 剛造は顔を、まっ赤にして命令した。 船と原子破壊砲を貸し、寺島善次郎殺しの罪ひっかぶったたけで充 「親分さん、その必要はねえ。さっきもいったが、ふたりは俺がや分返したつもりだが、川岸の若頭に受けた恩義はまだ返しちゃいね る。若い衆の手出しは無用にしてもらいてえ」 え。親分、俺はこれから、龍の兄貴を斬りこ、 冫しくオカこいっ 、つのまに、展望室に入ってきていたのか、コントロール。 ( ネル は、あんたのためにやるんじゃねえ ! 死にかかっていた俺の女房 の陰から、陸奥己之介がたちあがり、剛造に背を向けたまま低い声を、身内のように助けてくれた川岸カ蔵さんのためにやるんだ、よ でいった。 く憶えておいておくんなさい」 「客人、いつのまに : ま、そんなことはどうでもいい 、早いと己之介は、はじめて背後の剛造に一瞥をくれると、展望室のドア こなんとかしてくれ。あんたが原子破壊砲で殺ってくれねえから、 に向かった。 若頭はじめ、大事な子分を五人も失くしちまった」 「野、野郎 ! 」 6 っム

8. SFマガジン 1979年1月号

やつばりしかたないのか ? どっちみちときは、こっちに来たいと思ったんじゃないか。どうすれ・はいいん く醒めかえっていた。 だ ? ーー , 彼は、やわらかな、形のない扉をしめながら自分の中に閉 2 害になるわけじゃないじゃないカ っ 4 一言いえばそれでよかった。そうすれば、軽い、臭いのないガスじこもるかのように、ゆっくりとまぶたを下ろした。 が空気の中に一吹きまぜられて、すばやく、まちがいなく眠らせて朝もまだ早いうちのことだった。おびただしい露に、草の葉も、 くれるのだった。無害、確実な催眠剤。彼はそれを憎悪した。照明生垣も、金網さえも、すべてが濡れきっていた。あの前の晩のうち に雨が降ったのだろうか ? 今までそんなことは考えてもみなかっ の従順さやそのほか何もかもと同じように耐えがたいものたった。 すね 彼はくたびれていた。目がひりひりしたが閉じることもできす、う た。冷めたい水滴が脛をつたって流れるのを感じながら、彼は丈高 す闇の中でじっと目をこらしていなければならなかった。もし彼がい草の中を建物に向かって走って行った。つま先立ち、壁をおおう 「空」と言えば、天井が開いて星が現われるはすだった。音楽を命蔦のカーテンにしがみつくと、その壁をよじの・ほりはじめた。・ほろ じることもできた。歌でも、おとぎ話でも : ・ほろになった凧のしつばが、屋根の雨樋にぶら下がりながら、彼を あまりにも楽す 小馬鹿にしているように見えていた。道にいた彼は、そのしつぼの 彼は考えた。 飽きてしまったのか ? ぎるのじゃないだろうか ? ーー・彼はほほえんだ。それは、まっかな先をようやくのことで見つけだしたのだった。やわらかい蔦の枝 しつくい 嘘だった。しばらくのあいだ、彼は向こうの部屋にとり残されたあが、気味悪くしなった。彼はそれが漆喰の中に細い根をはいりこま いつのことを思った。置いてき・ほりにしてきたのが、何か恥すべきせて伸びていっているのを肌で感した。それでも彼は登っていっ た。軒のま下が最悪だったーー・・片手を自由にしなければならない、 ことのような感じがした。鋼鉄の箱。いまごろ何を夢見ているのだ しかしそうすると、、ハランスを失ってぐらぐらしそうになる。もうだ たとえば何を ? ろうか。何か思い出してでもいるのだろうか ? トタン張りの厚い屋根のヘりに、彼は 子供時代 ? いや、過去なんかあるわけがない。あいつは、その気いぶん高くまで来ていた があるかどうか誰にたずねられることもなく、ある日生命を吹き込力いつばいっかまった。そして体を引き上げ、屋根の上に腹ばいに まれただけだ。 なった。凧まであと二メートルくらいあった。彼はその方へ這って 動いていった。そのとき叫び声が聞こえた。 俺には、誰かたずねたか ? 馬鹿げた話たったが、すくなくとも今、この闇の中では、何かし・建物の窓は開かれていた。高すぎて、道からは中がのそけなかっ ら真実味があった。やつばり音楽か : : : 音楽も函詰めの中で待機し た。彼は、そこに人が二人いるのを、道の向かい側にある自分の家 ていたーー数千もの交響曲、オペラ、ソナタ、そのどれもが最上の屋根裏からときどき見かけていたーー二人は、その建物で夜を過 力ときには の、人間の手による不完全な、だからこそ美しい演奏で収められてごさないかぎりは、たいてい朝自動車でやって来た。・ : 二晩つづけて彼らの所に明かりがついていることもあったーーー窓は あっちにいた黒いカーテンでしめきられていたので、上の方のすき間から光がも どうすりやいいんだ ? ーーー彼は自問した。

9. SFマガジン 1979年1月号

しかし、その尊に大いにまどわされ、不安にかられている人間ももいるだろうし、謀叛が起きたのだとしたら、なにかとゴタゴタも しているだろうし : : : 」 いないではなかった。 チャクラとザルアーのふたりだった。 「たよりにならない人ね」 ザルアーは憤然と席を立ち、扉に向かった。 彼らの立ち場はややこつけいなものといわざるをえなかった。眼 をさましたとき、雲龍の邸にはだれひとりとして残っていなかった「わかったわよ。もうたのまないわよ」 「ま、待ってくれよ」 のだ。召使いにいたるまで、きれいにひきはらっていて、いかに雲 チャクラはあわてて、ザルアーをおしとどめた。そして、頬を指 龍の謀叛の計画が周到なものであったか、なによりよく物語ってい で掻きながら、すこし考えてから、なんとなく自信のなさそうな声 客として滞在しているうちに、その家の主人が一族郎党をひきつでいった。 れて消えうせてしまったのだ。チャクラたちでなくとも、これから「わかったよ。俺が宮廷に行って、ジローをとりかえしてくるか どうすべきか迷って当然たったろう。 ら、あんたはここで待っていてくれないか」 「そんなのいやよ。わたしも : : : 」 そこへもってきて、雲龍の謀叛の噂がったわってきたからたいへ ザルアーがそう抗議しかけるのを、チャクラは手をあげて制し んだ。宮廷にただひとり連れていかれたジローの身を案して、ザル リとした口調でいう。 た。それから、いやにキツ。ハ アーはほとんど半狂乱になってしまった。 「女連れで宮廷に入るのは、なにかとめだってますい。まあ、心配 「とにかく、ジローをとりかえすことよ」 するなよ。ジローはちゃんと連れかえってやるからさ」 ザルアーはさっきからそればかりをくりかえしている。 「謀叛のがほんとうだとしたら、ジローがどんなめにあわされて「でも : : : 」 いるかわかったものじゃないわ」 「それはそうだ : : : 」 チャクラは人差し指を唇にあてて、片眼をつぶってみせた。「な にもいわないで、このチャクラさまを信用してくれよ チャクラはなんとなくウロウロしながら、答えている。「まった ちゃんとここで待っているんだぜ , く、そのとおりだ。ちがいないよ : : : 」 そして胸を張り、悠々たる足どりで扉に向かった。部屋をでると 「だったら、はやく宮廷に行きましようよ」 ザルアーはついに忍耐の限界に達したようだ。チャクラは立ったきには、陽気に手までふってみせーーー外に足をふみだし、扉を後ろ りすわったりをくりかえしているが、し 、つこうに行動を開始する気手にしめたとたん、なんとも情けなさそうな表情になった。 配をみせないのた。 じつのところ、チャクラにはジローを宮廷から連れたす勝算など 「しかし、宮廷にしのびこむとロでいうのはかんたんだが、見張りまったくないのだ。勝算どころか、雲龍がおそろしくてならす、で や

10. SFマガジン 1979年1月号

乗りだ。あれに着陸してもらうか」 「そうですね 龍一郎は己之介のことばには答えす、空を見上げた。 龍一郎がヴィジ・スクリーンの梅原の顔を見ていう。 「いや、宇宙船なら自分のがある。藤原組の格納庫に人っているか梅原の指令で母船の収納ハッチが開く。最初に梅原の降り龍、次 ら、それに乗って兄貴たちの後を追います」 いで龍一郎の昇り龍がゆっくりと、吸いこまれた。 己之介がいった が、己之介の宇宙船は、 いつまでたっても収納ハッ チの指示ラン 「いまから、藤原んところへ戻るのは危ねえんじゃないか。光線ドプに従わなかった。 スはないし」 「親分、龍一郎の兄貴、お帰りなさいまし」 梅原が心配そうにいっこ。 宇宙帽を小脇にかかえて、コントロール・ルームに帰ってきたふ 「その点よむ己、 . 。 . 酉しりません。どこでも死ねる準備は怠っちゃいませたりに、倉持組の若衆たちがうれしそうにいった。 ん」 「ありがとうよ。いま、もうひとりお客人が増えたからな。丁重に 己之介は徴笑を浮べながら、宇宙服の靴の底から小型の回転レイおもてなししなきゃいけねえそ」 ガンをとりだした。 梅原が笑いながらいう。と、通信係の若い衆が、ひどく中しわけ 「それこ、 冫いくら藤原でも、まさかいま、俺を殺ろうとはしないでなさそうな声でいった。 しよう」 「それが、おやっさん。あのお客人はどうしても′ 、、ツチに入って 己之介は、藤原組のドームに続く一本道に向かって歩きはじめくれねえんです」 「なに ? 」 龍一郎と梅原が、顔を見合わせる。 宇宙の闇は、小さな人間たちの動きになど、まったく無関心のよ「よし、俺がかわろう」 うに、冷たく呼吸していた。星々もまた冷たく闇にまたたく。 梅原は、通信係の若い衆と席をかわると、ヴィジ・スクリーンに 倉持組の代紋を、小さな太陽の光に反射させながら飛ぶ梅原の中写っている己之介に向かっていった。 ふ ね 型自家用宇宙船の後を、二匹の龍が翔んでいた。 「どうした、己之介さん。宇宙船のぐあいでも悪いのかい ? 」 そして、さらにその後方から、型の宇宙船が追っていた。己「いや、宇宙船は、なんともないんですが : あっしはやつば 之介の宇宙船だった。小惑星。 ( ラスは、早くも野球のポールほどのり、龍の兄貴や梅原の親分さんと一緒にケレスにいくわけにやいカ 大きさになり、宇宙船の窓から遠ざかっていく。 ねえんです」 「そろそろ、母船にドッキングしましようか ? 」 意外なことばが、己之介の宇宙船から返ってきた。 梅原正二が、わすかに先をいく真継龍一郎にしった 「ば かいうんじゃない。急になにをいうんだ。だれもおまえを責め 8 っ 0