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検索対象: SFマガジン 1979年1月号
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1. SFマガジン 1979年1月号

時の旅人 しがこれを好きなのは、わたしたちが相棒でいられるからよーーーあはちっとも知らなかったのだが、まえにもいったように、なにしろ なたの手助けができるからよ。あなたを愛しているから。あなたのマイラには超人的な才能があるんだ。けれど、彼女が奴のことを話 手助けができるってことは、わたしにとっては、けっしてただ単にしてくれたとき、・ほくは肩をすくめて無視しようとした。あんなや ああ、ディヴィッド、わからないの ? わからないの、あなたっ、まともに相手にすることはないじゃないか。これが笑わずにい られるかい、考えてもごらんよ、ぼくの指紋と店で買った手の指紋 ・ほくは彼女にくちづけする。「そうか、 ~ ・まくはきみが強がりをい とを照合してみたとき、警察でどんな大騒動があったか。 っているだけだと思っていたんだね」声をひそめていった。「そし あれが人間の皮膚であって、しかも何十という標本の指紋が全部 て、それを〔から元気だと思っていたんだね、マイラ 」いやはおなじだという事実は、連中を何日間か悩ましつづけたにちがいな や、こういう次第なのだ。彼女の勝ち、ぼくの負けだ。女とはかく 。二個の点と一本の直線に関する公理が誤りだと証明されたとし も不思議なものなのであります。だが、そうはいっても、治療法のよう、そのとき幾何学の全体系はどうなってしまうか ? では、お アイデアを一つ二つ、まだ・ほくは持っていた なじ指紋をもつ手が一つだけではなくて何十もあるのだと証明して みせたらどうか。何人もの専門家が、ひとりごとをいいながらぐる 疲れを知らぬ密偵プレットを、・ほくはかるくみすぎていたよう ぐると歩きまわるはめになること必定だ。 だ。どこへ行っても奴さんがぼくらを尾行していることや、筋むか ・フレットのやっ、この事件を解明する任務をみずからに課したに いの戸口に何時間も車をとめたり、ときにはドアに耳をくつつけてちがいない。頭を壁にぶちあてたいというのなら、こころよくそう ナしか。ぶちあたったとぎの感触はさそかしすば いたりすることに気がついたのは、マイラだった。そんなことだとさせてやろうじゃよ、 The Time Travelle1 、 ノーマン & ジーン・マッケンジー ー・・ウエルズの生涯 村松仙太郎訳 / 三五〇 0 『タイム・マシン』『字宙戦争』などの古典的傑作を生んだ ウエルズ。その時代と生涯を描く ! ハヤカワ・ノンフィクション 《好評発売中》 早川書房

2. SFマガジン 1979年1月号

板″と呼ばれる、この公園の名所の一つなのだ。地面から三十セン「痛たたたっ」 チ程の高さで岩板が凸凹に突出している。平常に歩けば、その地点岡の尻から皮膚片が採取されているのだろう。残念ながら俺たち はやや足場の悪さを感じるくらいのものだろうが、今の岡では受けにできることは何もない。 るダメージはかなりのものだろう。 「他にどんな仕打ちを受けたんですか」 「ガッンうぎやっ・ : : ・ゴチンぐえつ。 : ボクッむぐふ : 。グワ縁納さんが困ったような顔でロ籠った時だった。岡の眼差しが急 ンぎよえ」 にどろんとなり、はあはあと荒い息を吐き始めた。縁なしのひび割 : これは西部で行われたという鞭打ち刑だ。岡の放っ悲鳴に俺れた眼鏡をずり落しながら身体をのけぞらせたのだ。ただごとでは たちは呆然と立ちすくんでいたにすぎない。岡は一定のリズムテン ポをとりながら頭を″洗濯板″の突出の一つ一つにぶつつけていた 「一体どうしたんです」 のた。 縁納さんが仕方がないという様子で言った。 俺は咄嗟の肉体的反応が迅速なほうではない。助けなければいけ「実は精液も採取して行ったのよ」 ないとは頭のほうは考えているのだが身体のほうはオロオロとして いるばかりなのだ。銀ちゃんが岡のほうへ駈けだした時、初めて俺 6 も我にかえって後を追った。瘤だらけの岡の頭を銀ちゃんと二人で 支えながら俺はあまりの哀れさに涙のでる思いたった。 虚脱状態の岡とその下半身を取囲んでいた。縁納さんの話による 下半身の脇に岡を横たえると、縁納さんがすまなそうに言った。 と岡の下半身を剥製にする案まで出ていたそうである。岡はあきら 「岡さんも可哀相よねえ。これから受ける仕打ちを考えると : : : 」かにその話に戦慄していた。しかし、すでに岡の自尊心は粉々に打 「何ですって」 砕かれていたのた。あれから浣腸を施されて衆人の眼前で脱糞した 俺が言ったのと岡が呻いたのが同時たった。 のだそうだ。そのうえ、下半身は鎖で繋がれており上半身も下半身 「今、岡さんの下半身から、血液の採取が行われているわけよ」 の動ける範囲内でしか移動できなくなってしまっている。 縁納さんは横に立っている岡の下半身の太股に貼られた絆創膏をすみちゃんが提案した。 指さした。 「少くとも鎖からだけは即刻解放すべきだと思うわ。人権問題です もの」 「それから、ここもなのよ。 ・ : 皮膚片を採取していたから」 大の動物学の教授が岡の身体から、 いいように資料採取をおこ下半身は時折がしやがしやと鎖を引張り、自由への願望を主張し ていた。 なったのである。 頭を抱えていた岡は急に顔をしかめた。 「鍵は誰が持っているのかしら」 が / トレット

3. SFマガジン 1979年1月号

「私が思うに、岡さんを我々で何とかしてあげるべきではないでし ようか。せつかく、岡さんはこうして加塩さんを頼ってきているん 「正体不明とはいえ、下半身が人間そっくりだったら、人間か動物 : テレビって本当に残酷ですね。あんなふうに下半身を晒 かの結論がでる迄、覆うべきところは覆っておくべきでしよう。プ リーフよりも褌のほうがはかせやすいし、セックスアビールもあしものにして、それにさっきのアナウンサーの表現はあんまりです 。ありゃあ差別です。せめて上半身の よ『性器人間』たなんて : る。待てよ。これは演出の一つとも考えられるなあ」 「というと、演出たったらこれから脱がせるわけですな。むふふ不自由な人と呼ぶべきた」 ふ。テレビ局も残酷ですね。当事者のことをちっとも考えない。面・フフッと音がした。カップ・ヌードルの湯気と涙で眼鏡を真白に 白ければ良しとする態度た。むふふふふ。失礼ー 曇らせた岡が、鼻の穴から麺をたらし感極まった顔で俺たちを見廻 徳田さんはいまわしい想像をたくましくさせつつ、舌なめすりしし声を詰まらせた。 「銀ちゃん : : : とか言われましたね。あ、あなたは神さまのような 人だ」 突然アナウンサーが大声をたした。 この生物が、動物か人間かは、現在迄の行動形態から判断しすみちゃんも大いに同情したらしく、瞳を潤ませて銀ちゃんにせ つついた。 ても不明であります。目的を持って連動をしているようにも見えま すが、脳や心臓が存在しないため、知性もないものと想像されま「ねえ、私たちはみんなで、岡さんのこれからの一番よい取るべき す。 道を考えてあけるべきだと思うわ。岡さん自身にしても他に頼る人 がいなかったから加塩さんとこへ相談にきたんだから、もっと真剣 に考えてあげましようよ」 4 「それじゃあ、ですね。今から、あの公園へ行って皆であの足を取 俺たちは、カツ。フヌードルをむさ・ほり食う岡をみつめてまだ押黙りおさえましよう。それを外科医院に連れていって縫いつければよ 。完全に縫合しなくても、適当で良いと思いますよ。今でも生き っていた。 テレビは岡がぶつ壊していた。あれから、アナウンサーが岡の下てるんだから、大丈夫でしよう。要は上半身と下半身を早く添わせ 半身について無責任なことばかりならべたてるものでかんしやくをてやることですな。このままでは磯のアワビの片想いですよ」 徳田さんが、いかにも自分だけが不真面目なのではないのだ、神 起したというわけだった。 だから俺の部屋の中はするするとヌードルをすする音たけが大きょ御照覧あれといった口調でまくしたてた。 そこで皆が、ワワワワッと堰切ったみたいに喋りだした。 く響いていたのた。 の裏なんだ どうせ、公園まで十分もかからないわ。このアパ 1 ト 最初に口を切ってくれたのは銀ちゃんだった。 7 5

4. SFマガジン 1979年1月号

うとなかろうとワレ関セズっていう人間でなきやだめなのさ : : : 今 「関数はどうでもいい、で、いったい君は何を想像するんだ ? 」 日は何日だ ? 」 「君と同じさ。具体的な相違はいくらでもあるけどね」 「第一一六五日」 「電線とか、ダイオードとか ? 」 「速度は ? 」 「まあそんなところだね」 「〇・八 O , 「君のような正直もおそろしい。むしろ、ふりをしようじゃない こう : : : というカ ・ほくはこれからふりをすることにしょ「飛行距離と加速度は反比例しているかな ? 」 「している」 「・ほくは ? 」 「まったく、・ほくはなんのためにここにいるんだ ? 君がひとりで 何もかもわかっているんなら」 : ふりをしなきゃいけないのかい ? 」 「・ほくもやつばり : 「体を作っている材料の違いという観点から」 いやあ : : : よくは知らないが、そんなことは君には無縁「そりやそうだ。百年前は犬を送った。日数も短かったし、犬には 「君が ? にとばかり思いこんでいたな」 理解力がない」 「いくつかの点で、・ほくは君に、自分がそうでありたいと思う以上「君も、理解力がなかったらいいと思うのかい ? 」 2 よく似ている。似すぎている」 「君は、たまに中国の賢人のように思えることもあるかわりに、と 「じゃ、たとえばほかの誰に似ていたらいいと思 : : : うわっい」 きどき子供みたいな質問もする。君はーーー・せん・せん眠らない、だろ 「どうした ? 」 前にも説いたことはあるな」 「目をあけたんだ」 「何回もね。・ほくは眠らない」 「夢想は ? 組み合わせだろう」 「スクリーンを消せばいいじゃないか」 「そう。その話は長くなるからまた明日にしよう」 「おくびよう風に吹かれてか」 「明日 ? 明日なんてものがあるかね。いつまでたっても今日、ま 「分別たよ。自分で自分をいじめるのが好きなのかい ? 」 っ ったく同じ今日じゃないか」 「そうじゃない ただ、自分をごまかすのがいやなだけさ。い 「君が寝ているあいだにも、地球では恐ろしい速さで時間がたって にいどこのどいつが星にあこがれたりなんかしたんだろう ? 高熱 いるということでも考えて自分を慰めたらどう ? 」 り中で腐蝕する廃物の燐光ーーこの世の終わりまで存在するのはそ 「慰める ? それが慰め ? まあ : : : いいさ。楽しい夢を見たま れだけーーー・星なんてそんなことぐらいが唯一のとりえじゃないか。 こうせ星に人間を送るなら、婆さんをロッキング・チェアに坐らせえ」 、毛糸の玉の予備と編み棒を持たせてやればいいんだ。何があろ「おやすみ」 8 2

5. SFマガジン 1979年1月号

務している二十四歳。総務のほうの仕事をやっているらしく、美術わたしが見たのは、アレ人間じゃなかったみたい」 部のすみ子ちゃんを″ひっかけ〃て同棲している。「うちのが」と舌ったらすに一生懸命話してるすみちゃんの横で銀ちゃんは合槌 いうのが銀ちゃんの″愛人″すみちゃんというわけだ。我々の不穏も打たずに腕組みして苦笑しているだけだった。その銀ちゃんの眼 な会話を耳にはさみ、身の潔白、指の白さを証すために一言申しあは無言のうちに我々に、「阿呆な女でしよう。このアホなところ が、また可愛いんですよ。いや、大昔から女はこんなものなんで げようというつもりかなと一瞬思ったのだが、多分、下衆のカンぐ りだろう。その証拠に、あまりにタイミングが良すぎる。銀ちゃんしようけど。これを言わないとすみ子もおさまらないようなので : という人物は若いには似合わず気がよくて、仲々″できてる″人物 : ・」と告げているように見えた。まあ、一応の責任だけは果してお なのだ。自分の個性をうまく抑えている。はた目にもふとそれがわこうという気持だったのだろう。しかし、銀ちゃんというのは、さ かることがあるのだ。それにハンサムなのだ。だから″ひっかけ″すが若いのに良くできた人物なのだ。 たのは銀ちゃんではなく、すみちゃんの方だったという可能性は十「すみちゃん。箒と雑巾を持っといで。こういう場合の後かたづけ 分にある。うひひひ。 は男がやるもんじゃない」ポソリと銀ちゃんはそう言った。 銀ちゃんの後ろからすみちゃんが浅黒い顔をびよこんと突きだしすみちゃんもよくしたものでロ答え一つするじゃなく、ええと気 持の良い返事をして、掃除道具を取りに行く。 「さつぎ見たのよ。本当よ。洗濯しようと思って共同炊事場へ行く 掃除が済むまで、部屋に来ませんかとの銀ちゃんの勧めに甘えて 途中、何か気配がしたのよ」 俺の部屋とは殿様と乞食ほどの差のある銀ちゃんカップルの文字ど 大きな瞳をくるくる回しながらだんだん身体を乗り出してすみちおりスイート・ル 1 ムをけがすことにした。手づくりの人形やら、 ゃんは話に熱を入れてきた。 気の利いたパターンの壁紙、食器棚、編みかけのレースが眼につく 「それで、振り向いたら、加塩さんの部屋から高さ一メートルくらと新婚家庭に招待された気分だ。徳田さんまでニャニヤ笑いながら いのね影が出てきて歩いていったの」 くつついてきた。 それ何だったのと聞いても丁度、タ陽が照りつける時刻で逆光に 「いったい、すみちゃんが目撃したのは何だったのでしような。一 なってわからながったそうだ。 メートルほどの大きさなら人間としても子供ですよ。私が昼間いる 「わたし、しばらく・ほおっとしてたの。夢でも見たんじゃないかと管理人室から通用門を見張っているような形でテレビを見てるんで 思って : 。それで銀に話したらネズミじゃないのかっていうの。すが、管理人室と通用門の間の窓枠は高さが一メ 1 トルあるんで、 絶対ネズミなんかじゃないわ。そう言ったらやつばり夢たろって言私が坐ってたとすれば、その大きさの人間が通っても気がっかなか うもんで、今まで夢のつもりでいたのよ。でも、加塩さんとこ、本ったでしような。でも外来客がある時は必ず顔を見るように注意を 当に泥棒が入ったと聞いてアレたったのかなと思ったの。でも : ・ はらってるんですよ。たとえば四号室の北村さんがホモだってこと 5

6. SFマガジン 1979年1月号

ぼくは大体きちょうめんな人間じゃない。ちょっとしたごみがウ ・ほくは右足をひつばる。するっとぬけた。まるめてポールにして、 エストサイドのこの二部屋半のわがダッグアウトのあたりにあったくずかごにほうりこむ。さてと、おつぎはーーあ、そうだ、まだ片 ぐらいでは、まず気にもとめない。廊下に押し出さなきゃならない手が大簟笥のひきだしの取っ手にくつついたままだった。・ほくは近 ような大きなごみでもないかぎり、蹴とばしておけばそのうち行方寄ってそいつをむしりとる。 しったい、なんだってマイラは電報な 不明ということになってくれる。でも、今日はちがう。マイラが来んか打ってきたんだろう、電話ですむものを ? もう、彼女の針路 を変史させるチャンスはない。彼女はふらりと舞いこんでくるの るのだ。こんな有様をマイラに見せるわけこま 冫をし力ないじゃない だ、いつものように。これに対するに、・ほくときたら、心の中にこ といって、彼女が特別に気むずかしいというんじゃない。 このごんなに ろでは・ほくという男をよく知ってくれて、平気でいる。でも、この ビアノから人さし指を拾いあげて、左足といっしょにくずかご 種のごみとなると、ちょっとーーー面倒なのだ。 へ。玄関わきの小部屋にぶらさがっているトルソーもとり除いたほ うがいいんじゃないだろうかと考えてみたが、よすことにした。あ 床いちめん掃きまわったあと、めだたない物陰も覗いてみること にした。なにかの拍子に、気まぐれなそよ風が、説明のつけようのれは最高級品だ。なにか傑作がつくれるかもしれない。そうだな、 スーツケースか、防水のスポーツジャケットといったところだ。こ ない証拠を部屋のまんなかに送り出しでもしたらーーー困るんだよ、 マイラが部屋にいるときには。彼女のことを考えていると、そいつれだけの天然素材がたっぷり手に入るんたから、利用しないという をひとつ、彼女の目につくところに置いておきたい誘惑にまけそうてはない。 になってきた。彼女はいつも、ものに動じないようなところがある念入りに点検する。足は両方ともとれてしまっているから、朝ま 彼女のヒステリー、 みものたろうな。 では心配ない。おそろしいのは、握手したときにマイラが、自分の こんな反騎士道的な考えを、・ほくは追いはらった。マイラは・ほく手に密着しているのが生命のないしろものだと気がっきはしないか ということだ。左手をひつばってみる。ちょっとたぶだぶした感じ に対していつだってとても上品にしてくれてるじゃないか。ただ この病気は、ほうっておきさえす ちょっと迷惑なのは・ほくにまでそれとおなじようにさせようとするだが、無理に剥がしたくはない。 ればちっとも痛くはないのだ。顔はいまにもはずれそうだ。笑いす ことで、その点たけは絶対に・ほくのタイプじゃないんだな。べッド ツ。、守、 の下にもぐりこんでいると、スリ ノカ出てきた。なかにまだ・ほくぎないようにしなきや。彼女が帰るまでは、まあなんとかもつだろ の足がはいったままだ。そいつの片方を炉棚のてつべんに隠すと、 ・ほくは隣の部屋に入る。ここでなら、すわりこんで残りの一方から 両手をのどにあててちょっとねじってみる。くびすじがばちっと 足をひつばりたすこともできる。このスリ、 ッパというのが妙ちくり 音をたて、皮膚はあっけなく脱けおちた。これで大丈夫。ネクタイ 9 んなものでね。左のほうが右よりも段違いにでかい。悪態をついてさえしておけば、鎖骨のすぐ上の皺だらけの皮膚の切り口がマイラ

7. SFマガジン 1979年1月号

S F スキャナー え ジャン・マーク・ギャヴロン ) 。ポ先に幽霊のようにつきまとう彼女の弟との関を描く者はいないとはいえる。今でも性とその ーランド系ということなので、ポーランド係、また彼女の出会う人々との関係は、彼女に素質とには関係がないとは思っているのだが。 の作家の話をする。「レムはどこがいいの状況を変えていくことについて、そして彼女自何がどうあろうといい作家はいい作家なのだ。 かさつばりわからない。ゴンヴロヴィッチ身についての知識として付加されていく。私はとにかく、自分自身このとてつもない新人作家 ャやムロージェクが好きだな」とジャン・次の二点についてギャヴロンを称賛する。ステにあたってみるべきだ」 マーク。 ンレス鋼のように輝かしくなめらかな ( 生々と スタージョンは、主人公や作風からギャヴロ これでは売れるが書けないのも無理して流暢な ) 散文体、そして類似物として、寓ンを女性としているが、それは間違い、れつき 話として、よちょち歩きの文化のように、我々とした男性である ( 女性作家の台頭の時期だか らスこ、つい一つ日 が立ち向かうか消減するかしなければならない 門違いが起こったのだろう ) 。と これは、本誌七六年 ころが、この作家の経歴がほとんどわからな 一〇月号に載った伊藤、 。断片的なものを寄せ集めると、ギャヴロン 典夫氏の「北アメリカ は、パリ生まれ、クラリオン・ワークショップ ・の旅」の一部で にいたことがあり ( その時にディレーニイは彼 ある。そして、今回紹 と会っている ) 、現在一一三、四歳の若い作家と 介するのがこの作家ジ いうことになる。長篇一一冊以外に作品は書いて ャン・マーク・ギ . ャヴ ~ いないようだ。短篇は一篇も見つからない。 ロンなのだ。 さて、紙数にも限りがあるので、彼の第二作 残念ながら処女長篇 『アルゴリズム』 "Algorithm" ( 1978 ) の紹 『雨とは呼べないしろ 介に移ろう。 もの』 "An ApoIogy 一一 for Rain" は持ってい ェアカーの中。おもむろにダントンは新聞を 見る。第一面が目をひく。 ないのだが、ギャラク一←三 シイ誌の七四年八月号 ″一人を選ぶ、暗殺者 にスタージョンの書評が載っていたので、それことに関する立派な教訓的対比としてのアプロ そして二十五人の顔写真。その中にダントン を引用しておこう。 ーチ。 ( 中略 ) この小説には、極端だが完全にの顔がある。彼に識別できる顔がもう一人、ヴ 「ミズ・ギャヴロンのこの小説は、近未来の破抑制されている暴力シーンがかなりある。それンダーダーメン ( 英語に訳せばワンダーウーマ 滅後の世界を取り扱っている。主人公は異常能はジョゼフィン・サクトンやアーシ = ラ・・ ンとなる ) た。 / ・ - 彼女はこの地球一の大金持ち、 力を持っ超人だが、 , 彼女 ( ポニーと呼ばれる皮ル・グイン、ジョアンナ・ラス、マリオン・ジあらゆる職業の。 ( トロンだ。あとの二十三人は フラッドリー を身に着けた少女 ) は部分的にしかその性質やマー ドリス・。ヒサーチャの作全然知らない。 程度、またそのカでしなければならないことを品の中にも見つかったものだ。私にはこれが何彼ダントンは、誰ともわからぬ暗殺者に狙わ 知らない。やがて、彼女の探索行は内面的かつを意味するのかわからない。ただ私の知り合いれる可能性のある犠牲者の一人なのだ。その認 まったく驚異的なものとなる。その冒険行の先の男性作家には、これほど上手にこういうもの識が彼を襲う。 ー G ①一 0 6

8. SFマガジン 1979年1月号

部屋の幾何学的中心に、盛装したホーレス・・フレット警部が立っ的に発展している。あまり大きくなりすぎないようにしているのだ ていた。・ハッジが陽光にきらめいている。顔には殺人的な睨み、手が、ちょっとしたこけおどしの看板だのちょっぴり誇大宣伝だの 6 の上の男の眉間をびたりとねで、実際には景気がいい。たとえば、マイラの排他的な高級美容院 には警察の制式拳銃があって、・ヘッド らいさだめている。両者はたつぶり十秒間、にらみあっていた。ふには大金持のひいき客のための特別席がとってある。マイラはクリ つか酔いの男と、銃を構えた男の皮膚とが。やがて、ブレットが動ームやローションをふんたんにつかって客を雰囲気にひきこむ。そ れから、顔の皮膚を隔離しておいて、小さな針で感染させる。二、 電光石火、おのが似姿をつきぬけた。・ほくのいちばん上等のうね三分すると皮膚ははがれるが、泥パックで隠蔽してある。ご婦人は うるわしいすべすべした新しい顔を獲得なさり、古い顔は、マイラ 織りのかけぶとんを背にひるがえし、下着と腕時計だけを身にまと 「て、ドアをつきぬけー、、・つきぬけたというのは、文字どおり、開が・ほくのところへ送ってよこし、うちの専門家連中が剥製にする。 けるために停止するということをしなかったのたーー、ぎゃあっと悲こうして、マイラのはでな宣伝につられて、ばあさん連中がライフ ・マスク欲しさにわっと押しかけるという寸法だ。ぼくはそのばあ 鳴をあげながら浮足たって階段をかけおりていった。このアパート に三階ふんの階段しかないのを彼が今度もまた忘れていなかったさまを二、三回かよわせる。ー。・、まあ、降霊術の会の要領だーーーもっ ら、・ほくはとても追いつけなかっただろう。奴さん、壁にべ 0 たりともらしい口上をうんと多くして、それからおもむろにマスクを伝 と貼りついていて、すぐに捕まえられた。隣人たちが顔を出さない授するーー実物大で、きれいに彩色したやつを。あわれ、ばあさま がたはご存じないのだ、「薬物ーの範疇を逸脱した奇怪なしろもの まえにぼくは彼を拾いあげ、背負って部屋まで運びあげた。マイラ は床でころげまわっていた。ぼくがプレットをかついで戻ると、彼を植えつけられ、そしてそれを治療されたとは。この商売はいまで 女ははねおきて銃を構えた彼の似姿にくちづけし、。ほくのためにとは大企業になっている。いくらでも儲かる。 もちろん、大企業であるからには、ご多分に洩れす、ちょっとし ってあったはずの名でいとしげにそいつに呼びかけた。 ぼくらはあわれなプレ ' トをやさしくなためすかした。けがの手た汚職もある。ある警察官が、週に三度、三十秒間のひげそりをし 当てをし、おちつかせる。最初はかりかりしていたが、やがて感謝てもらいにや 0 てくるのだ。無料で。いまではお偉がただ。彼の似 の念を示しはじめた。それに、ちゃんと評価すれば、とてもいいや姿はいまなおわが家の居間を威圧している。おもちゃの鉄砲を持「 て。かわいそうに。 つだ。・ほくらはすべてを説明してやった。秘密を誓わせる必要もな った。ぼくらは彼に貸しがある。・ほくがひきとめてやらなかった ら、彼は下着姿のまま署まで駈け戻るはめになるところたったの という次第で、これは災難じゃない。めしのタネた。事業は驚異

9. SFマガジン 1979年1月号

リリアンは言を続けた。 「こぶし大ほどもある、真紅の宝玉です」 「望む者に、欲する知識のすべてを授けるそうです」 「ラガナの氷の女王。ーー・聞いたことがないか ? 」 「おもしろい」 ハリイデールは、すっかり真顔に戻っていた。「そ の〈ウルドの瞳〉を銀仮面が、持っているのたな」 うつむいたまま、リリアンはかぶりを振った。 ( リイデールは嘆息した。「記憶を「〈ウルドの瞳〉はトルべリスの命です。この宝玉を奪われたら、 「ただひとつの手掛りだ : : : 」 トルべリスは生きていけません」 甦らすためなら、何でもやる。また、挑まれたら、闘いもしよう。 しかし、俺が銀仮面と命のやりとりをするいわれはーー・、」 だしぬけにリリアンの肩がビクンと震えた。顔をあげ、涙でしつ 「お願いをきいて下さるのですか ? 」 ハリイデールに向けた。その中で、不思議な「話せ ! 」 ハリフデールは鋭く言った。「すべては事情を聞いてか とりと濡れた猫の目を ハリイデールの口かららた」 輝きが渦を巻いている。激しいとまどいに、 リリアンは語った。この地、カルンリットに銀仮面が現れ、住み 言葉が消えた。 ついたときのことを。仲間の妖精達がどうやってみな、殺されてい そこへリリアンが熱つ。ほい口調で言った。 ったのかを。そして彼女自身がいま、どんな目にあおうとしている 「銀仮面を倒せば、記憶を甦らすことができますわ ! 」 のかを ( リイデールは大きく目を見開いた。そして次に、大声で「銀仮面がカルンリットに来たのは、今から二つ前の春のことでし 笑いたした。 あの赤と黒のまだらの馬、ドラ・フグールに乗り、銀の鎧と銀の剣 いくら俺が断ったからといって、 「これはまた馬鹿なことを : を佩いて、まるで勇猛な騎士のように遙か北の地からやってきたの そのように他愛のない嘘をついてまで : : : 」 です。あたし達妖精仲間は、きっと名のある騎士がこの地を訪れた 「嘘しゃありません ! 」 のだ、と嚀し合ったものでした。 リリアンはムキになった。 「銀仮面の持っ知識の宝玉〈ウルドの瞳〉が、必ずそのお役に立っ銀仮面が着いた翌日のことです。一人の妖精が自分の母体、カル はすです」 ンリット・ローギーの山頂にそびえ立つ、石造りの豪勢な館に気が つきました。きのうまでは何もなかった場所です。 「〈ウルドの瞳〉・ ハリイデールの顔から笑いが失せた。〈ウルドの瞳〉という名を築いたのは銀仮面でした。一夜にして銀仮面が館を築いてしまっ たのです。 耳にするのは初めてたったが、知識の宝玉の話は、どこかで聞いた また銀仮面を騎士のひとりと思い込んでいたその妖精は、この暴 ことがあった。 2 8

10. SFマガジン 1979年1月号

る芸当だ。 に入れたンだね ? 」 「そうだなあ、まずーーー」といいかけた矢先、ドアに重いノックの「育てたんですよ」 音がした。 マイラは部屋の中をびよんびよんとびはじめた。たのしくてたま はてな、鳴らすべき呼び鈴というものがあるのに、むやみにドアらないのだ。プレットは床から帽子を拾いあげると、まるでそれが を叩くようなとんまな畜生がいるとしたら、それはほかでもない、 信頼できるたったひとつのものであるかのように帽子にしがみつい 警察の人間だ。実験室で待っているようにと・ほくがいったので、マ こ。・ほくはこの男が気の毒になりはじめた。 イラは玄関部屋までついてきた。 顕微鏡での 「鑑識ではどういうことをやったんです、プレット ? 「おたく、ディヴィッド・ウォース ? 」刑事はたずねた。平服で、切断面判定 ? 酸ー塩基分析 ? 」 顔もとても平板だ。 「ああ」 「どうそ」とぼくはいった。 「話してもらえませんか、あれはどういう扱いをうけているんです なかへはいると刑事はすすめられもしないのに腰をおろし、ちょ 手は ? 」 っぴりではあるけれどあけすけにものほしげな視線をウイスキーの 「ああ、それと足が二つだ。・フックエンドだよ , びんに向けた。「あたしゃ・フレット。・・フレット」 「あなたの足はいつだって美しかったわ、ダーリン」マイラが祝歌 ハリトウシス 「というのはロ臭の略ですの ? 」マイラがすましてたずねた。 をうたった。 「いいや、ホーレスさ。あたしゃ何もンに見えますかね、ギリシャ 「・ほくがなにをするか、申し上げましよう、・フレット」・ほくはいっ 人 ? ところで本署アおたくン装身具、調べとるンだがね、ウォー た。紙を一枚とりだして、吸いとり紙にインクをたらして印肉がわ スさん」この男、語尾をかみくだくというおどろくべき才能の持ち りにする。念入りに全部の指先にインクをつけ、紙に押しつけた。 ぬしだ。「ありや人間の皮でできとるようスな。おたく、剥製師で 「これを署へ持ち帰って、うたぐり深い先生がたにお渡しねがいま したな ? 」 しよう。この指紋と装身具類の指紋とを照合するよういっといて下 「そうですが ? 」 さい。報告書を書いて、この件はきれいさつばり忘れるよう勧告し 「どこで手に入れたンだね、あンななまン材料 ? 鑑識の判定によてやって下さいな。でないと、きっと・ほくは市の当局を、みなさん ると、あれは人間の皮膚たそうた。なンとかいってもらえませんかを、まただれであろうと・ほくの邪魔をするやつを、名誉毀損で訴え ることになりますんでね。べつに不作法だとは思いませんよ、・フレ ・ほくはマイラに目くばせして、「そのとおりですよ」といった。 ットさん、あなたがおやすみもいわずにいますぐここをお立ち去り これは、・フレットの期待していた答とはあきらかにちがってい になったとしても」・ほくは部屋の奥からドアのところまで行き、彼 た。「ほう ! 」しめたとばかりに彼はいった。「それで、どこで手のためにあけてさしあげた。 キャ 0 ル