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検索対象: SFマガジン 1979年1月号
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1. SFマガジン 1979年1月号

みしかったんですのよ」 うするかっていうとね」 奴さん、きまりわるそうに眼をむいた。「はあーーーそりや気がっ彼女はたくらみを説明してくれた。みごとなアイデアだった。ぼ くは〈蚊〉を手にとり、作業が開始された。・ほくらはやつにはなば きませンで。こりやどうも。奥さンの健康を祈って」そして一息に よし、症状を授けてやった。全身いたるところに例の薬を注射した 飲みほした。大したものだ。ふたつの目玉が別々に動いて鼻の先をオし のだ。その間、彼はやすらかにねむりつづけ、うれしそうな声をあ 見ている。二回ほどまばたきすると、名残りおしげにグラスを置い た。彼女はまたなみなみと注ぐと、・ほくのほうへこっそりと、黙っげたりまでした。考えれば考えるほどーーああ、かわいそうなや ていてねと暗号で合図した。マイラがこういう行動に出たときは、 つぎになにが起こるかを思案しながら傍観している以外にしようが とるものをとったあと、・ほくは彼を裸にしてローションでそうき んがけした。正気にかえったときには、新品同様になっているだろ う。彼を居間のペッドに寝かせておいて、マイラとぼくはこの夜の こうして、彼女はプレットに身の上ばなしを開陳させた。二百語 しゃべるごとに、やつはグラスをからにする。やがて、彼女は中味のこりを実験室での作業にうちこんだ。 をすりかえはじめた。やつばりね、こういうことになるんじゃない 完成すると、そいつを居間に運びこんでセットした。・フレットの かと思ってたんたよ。彼女のお気にいりは いびきはもう泥酔者の異常な息づかいではなくなっていた。なんと といっても、他人に 消費させるためのもので、本人はぜったいに手をつけないがーー・彼まあ、しぶといやつだろう。マイラはしのび足で近づくと、やつの 女のいうところの「三ー ー一」だ。ウイスキーを指三本ぶん、ジ枕元に目ざまし時計を置いた。そして、・ほくらは実験室のドアのわ ンが二本、ソーダが一本。ただし、・フレットむけには、ソーダのかれめから覗いていた。 わりにラムを使ったんだがね。お気の毒に。 朝いちばんの陽射しが窓からさしこんできて、・ほくらの傑作を照 たった一時間半で、やつは両腕をひろげて、「ママ ! 」といつらしだす。目ざましの音が炸裂する。・フレットはぎくりとしてうめ た。そしてつぶれた。 き声をあげ、頭をかかえる。時計を手さぐりし、椅子から叩きおと マイラはやつを見おろして首をふる。「ちえつ、ちえつ。つまんす。時計はわめきながらソファ兼用のべッド の下にころがる。・フレ ノックアウト ないの、ねむりぐすりをつかうひまもないんだもの」 ットはふたたびうめくと、眼をしょぼっかせながらあけた。まず窓 「おつぎはなんだい ? 」ぼくは小声でいう。 をみつめ、そうしながらぼんやりと、どこが変なのかをみつけだそ 「注射器、とってきて。この官憲殿にも感染させようってわけ」 うとしている。彼の考えていることが、耳にきこえるようだ。どう 「なあ、マイラーーーちょっと待てよ。いけないよ、そんなーー、」 いうわけか、ここがどこなのか、よくわからない。時計の音がうす 「いけないなんて、だれがいってるの ? さあ、はやく、ディヴィ れていく。・フレットはまぶしそうに室内を眺めわたす。天井、壁、 気がっきやしないわよ、こいつは。あのね , ーーこいつをどそして ドロツ・フ

2. SFマガジン 1979年1月号

よろこびを発揮できる。 十分前になったのに、彼女の顔はとれていない。癒ったのだ ! すくなくとも、彼女の顔は。ぼくは彼女の足がとどかない背後にま いいところまで行きかけた途中で彼女の動きがふっと停止し、顔 わる。 いちめんに脳波が記入された。「ディヴィッド、わたしたち、ちょ 「マイラ、ごめんよ、こんなふうにやらなきゃならなかったことっとした余興ができそうよ」床の中央にすわりこんだまま、彼女は は。でもーーーそりゃあ、・ほくだって知ってはいるよ、治療するって悲鳴をあげはじめた。ここでいいたいのは、彼女にだって悲鳴をあ ことをきみがどう思ってたかは。だからぼくにはできなかったんだげることができたということだ。 三十秒ばっちりで、重い足音がーーーこれまたばっちりーー階段に よ、説得してこれを受けさせることは。これが唯一の方法だったん ひびぎ、・フレットの蛮声がとどろきわたった。「法の、名に、よっ だ。いま、ぼくのこと、どう思ってる ? 頑固屋さん」 「プタだと思ってるわ。とっても頭は切れるけど、でもやつばり・フて、はいらせて、もらった ! 」声のかぎりにロごもれる人間にお目 にかかったのは、これがはじめてだ。 タよ。ほどいてちょうだい。出ていきたいのよ」 マイラは立ちあがってドアにかけよる。「あらーーープレットさ ・ほくはにやりとする。「とんでもない。第二幕の幕がおりるまで は退場させないよ。立ち去るなかれ、さ ! 」作業台までいって、注ん。よくいらして下さいましたわね」彼女は最高の接待用の声でい 射器を手にとる。「動いちゃだめだよ、いまは。この蚊の針を、きった。「さあ、おはいりになって」 みのあごに刺さったまま折りたくはないんでね」ローションで彼女相手はしぶい顔になった。「なにがどうなっとるンだ、ここでは の顔をくまなくやさしくふくと、ねらいをさだめる。 彼女は無邪気にやつを見る。「どうなすったんですの、プレット 「あなたの : : : もくろんでることが立派なものだといいんだけど」 針があごの骨の下のやわらかい肉にくいこむあいだ、くいしばったさんーー - ー」 「あんた、悲鳴をあげとったンでは ? 」 歯のすきまから彼女はいった。「わたしーーあ ! あ ! これは : 彼女はにこやかにうなずく。「あたくし、悲鳴をあげるのが好き : かゆい。ディヴィッド なんですの。あなたはおきらい ? 」 彼女の顔が突然ちちれた。皮膚のひたいのところをつかんで、・ほ 「好かンね。どういうつもりなンだ ? 」 くはやさしく剥ぎとる。彼女は大きく眼をみはり、そしてしずかに 「まあ、おすわりになって、おちついてお話しましよう。さあ、こ 「わたし、あなたにキスできないわよ、奇跡の人、ほどいてくれなちらへ。一杯どうぞ」彼女はウイスキーをなみなみと注ぐ。あんま り勢いがいいので、まるでウイスキーがこぶしを振りあげているの そこで、・ほくがそれをすると、彼女はそれをし、ふたりで居間へを見るようだった。やつを椅子におしこむと、彼女はタンプラーを 入った。ここでなら、大事なものをなにひとっこわさずにマイラが手わたした。「ぐっとあけて。あなたがいらっしやらないんで、さ

3. SFマガジン 1979年1月号

「あのね」ある日、・ほくは彼女にいった。「今夜はいい顔をしてい つく絞り、椅子の背もたれの下に投げて、もう一方のはしを彼女の てほしいんだけど。きみのライフ・マスクがつくりたいんだよ。で首にかぶせたのた。「動かないで、いい子だから」と・ほくはささや も、そのまえに準備万端ととのえておかなくちゃ。きみの顔がはず く。「静かにしていればいいんたよ。暴れたりしたら、自分で自分 れるのは、八時四十五分だったね ? じゃあ、八時半に実験室へきののどをしめることになるからね」彼女からみえる位置に時計をお てくれないか。手筈はこうだ。きみに粘土を塗る、顔がまんべんな くと、・ほくはその場を離れた。最愛のひとがきたない言葉でののし くはがれるようにして乾燥させる、石膏で裏打ちする、石膏が固まるのを聞きたくないからだ。 ったら粘土を洗いおとす。どうだい、・ ほくは天才だろ ? 」 彼女が静かになったのは、ほ・ほそれから十分後だった。「ディヴ 「後光がさしてるわ」彼女はいった。「じゃあ、約東ね」 ・ほくは必死に、聞くまいとした。 ・ほくは粘土をこねはじめる。使うことはないだろうと知っていな がら。すくなくとも、彼女の顔をはがすのには使わないのだ。ひど「ディヴィッドーー・・おねがい ! 」 く卑劣な人間になってしまったような心境だった。 ・ほくはドアのところまで行く。「ねえ、ディヴィッド、あなたが なにをやろうとしているのかはわからないけれど、きっとそれはい 彼女は、時計なんか見たこともないわといった感じで時間きっか いことなんでしようね。おねがい、こっちへ来て。あなたの姿が見 りにやってきてーーこの特技が、・ほくはうらやましくてならないー えるところへ。わたし : : : わたしこわい ! 」 すわりこんだ。・ほくは布をローションに浸して彼女をよくふい た。液はみるまに乾いて深くしみとおった。彼女はくんくん鼻を鳴 まったく、うかつだった。マイラは、うまれてから一度だって、 らす。 なにかをこわがったりしたことなどなかったのだから。・ほくは歩み 「これ、なに ? 」 寄って彼女の前に立った。彼女は・ほくにほほえみかける。・ほくはさ 「下塗り液さ」・ほくはなにくわぬ顔でいった。 らに近づく。彼女は、ぼくの胃を足で一撃した。「あれはわたしを 「あら。このにおいはーーー」 動けなくするためだったのね、この : : : この悪党。さあ、これから 「しつ。だれかが聞いてるかもしれないんだぜ」きみのことなんだ どうしようっていうの ? 」 よ、読者くんー 床からはいあがって、呼吸をととのえてから、・ほくはいった。 ・ほくはみじかい物干しづなを持って彼女の背後にまわった。彼女「いま、何時かな、がみーーー屋さん、わがいのちの光明さま ? 」 は眼をつぶって椅子に深ぶかと腰をおとしていて、とても愛らし「九時十分まーーーディヴィッド ! ディヴィッド、なにをしたの、 い。・ほくは上体をのりだして彼女の唇にくちづけし、両手を背中にあなた ? ああ、おばかさん ! なんてとんまなのー いったでし まわさせる。それから、大急ぎで動いた。つなの両はしにはなすび よ・ーーああ、ディヴィッド ! 」そして、・ほくの生涯において二度目 5 目の輪がついている。その片方を彼女の両手首にまきつけると、きにして最後のことだが、ぼくは彼女が泣くのを見たのたった。九時

4. SFマガジン 1979年1月号

かなくなった。あたりまえのことじゃないだろうか。君はそうは思判断規準があった。言葉なし、概念なしの。・ほくのネットワークの ーー視覚的刺激の作用 綜合的、協同的な反射作用と定義してもいし わないかい ? 」 「ああ : : : そうだろう。そう、君の言うとおりだ。そんなことは考のもとでの、循環するポテンシャルのべクトル和、エトセトラ、エ : ・ほくには形容することができなかっ トセトラ。あのころ彼女は : えたことがなかったーーーそんなふうに」 「そりや君はぼくを外から見ているからさ。・ほくは自分を鏡の中でた。今ならーー怪物じみていたとでも言えるけれども」 「またどうして ? 」 見るだけだ。はじめて自分を見たときは : : : 」 「君はわざとそんなに単純なふりをしているんだろう ? そうでも 「どうだった ? 自分が誰だか、それでわかった ? 」 ないのか。要するに君は、・ほくの告白が聞きたいんだな。そうだろ 「わかった、けれども : : : 」 いいさ。鹿ゃうぐいすや毛虫が、地球上で一番すばらしい女 「けれども ? 」 性をやはり美しいと思うだろうか ? 」 「その話はしたくない」 ・ほくと同じよう 「しかし君は人間同様にできているじゃないか 「いっかそのうち ? : : : に働く頭脳をもってるじゃないか ! 」 「あるいはね」 「君が三つか四つのとき、色つぼくて、豊満で、セックス・アビー 「ところで、その、女性はーーー・どんなだった ? 」 ルたっぷりの女性のことをいいと思ったかい ? 」 「君の言うのは : : : きれいだったかとか ? 」 「なるほどね ! 「それだけじゃないが : : : それもある」 「だろう」 「それは : : : 好みの問題た。それそれが信奉している美学の」 「まあそうじゃなかったけれども、よくよく考えてみれば、あのこ 「ぼくらのはおそらく共通しているんじゃないのかい ? 」 ろだって、いし 、と思った女性がいたような : : : 」 「どんな女性もすべての男性にとって魅力的だろうか ? 」 「どういう女性かというと、絵本の中の天使に似ているとか、母親 「ねえ、アカデミック・スタイルで話すのはまた別のときにしてく や女兄弟を思い出させるとか、そんなタイプだろう」 。彼女は君の気に入ったのかい ? 」 「まあ、そんなにかんたんじゃないだろうけれども、こんなことを 脈打つような物音。笑い声だ。彼は自分の記憶の中にあるあの音 とっちにしてもこれは分泌腺だけの 議論してもなんにもならない。・ との違いをはっきりつかまえた。 かんがん 「・ほくの気に入ったかどうか ? 複雑な問題だなー はじめのうち問題じゃないーーー美しい女は宦官だって魅惑する」 ま ノー。あとになってーーーイエスだ」 「・ほくは宦官じゃない」 「なぜ ? 」 「いや、君のことを言ったんじゃない。本当だよ。ただ、問題は自 2 「まだ内容的に〈非人間的〉だったころでも、・ほくには・ほくなりの然陶汰の基準だけに限定されないということを強調したかったたけ

5. SFマガジン 1979年1月号

「誓って言う。それは何かのまちがいだーー・きっと君の計算ちがい 「あれはぼくさ。・ほくの作った声だったんだ」 だ ! 何だそれはー・ーーそこに何を持ってるに何をしようというん 3 「君が作った : : : なぜ卩なんのために」 2 「君は、ぼくがひとりでいるとき何を考えているかとたずねたろだにやめてくれ、やめ : : : 何をする ! 」 とら う。・ほくはーー自分が囚われの蜘蛛になりつつあるような気がして「カ・ハーを外しやる」 いた。そうなりたくなかった。君に嘘を言うつもりじゃなかった「いやだ ! やめてくれ ! お願いだ、気をとり直すんだ ! ・せつ ないわけを説明 : : : 」 ただ、君に・ほくが何になれるか言いたかったんだ。彼女を創造たい君をだましてなんかいー したのは、君に : : : それを彼女の口から言わせたかったからなん「もうわけは聞いた。わかった。・ほくのためにしてくれたんだな。 だ。・ほくは君に近づくことも、さわることもできない。そして君もたくさんだ。黙れ ! 黙れ ! 聞こえないのか ! 何もしない ただ、これを止めてやる : : : 」 ・ほくじゃない・ ・ほくを見ることはできない。君が見ているのは 「ちがう ! ちがう ! まちがいだ ! それは・ほくじゃないー : ・ほくは、君の耳に聞こえる言葉がすべてじゃないんだ。・ほくはい くじゃないー カ・ハーをもとに・ つでも、毎日、誰か別の者になれる。いようと思えば同じ者でもい られる。・ほくは・ーー君のためにどんな者にでも、ただ君が望みさえ「黙れ、さもないと : : : 」 ごしよう : だめ、まだふりむかないでくれ」 「後生だから ! カ・ハーを戻してくれ ! ああああ ! 」 「こいっ ! おまえは ! 鋼鉄の箱め ! 」 「叫ぶのはやめろ ! どうした : : : え : : : 恥すかしいかフ 「何を : : : 何を君は : : : 」 うめき声。開け放たれた箱の中ーーーコネクター・ポードの瀬戸 「・ほくをだましていたのは、そんなことのためだったのか引おま物、巻いた電線、 ( ンダづけされたポンド ( 電気抵抗を少なく 体 ) の塊り、 えは・ほくをまるで : : : まるで : : : おまえはいつも静かで、永久に優コイル、ソレノイド、スクリーン・シート、 黒ニスを塗った内部フ しくてーーそのそばでこのぼくが死んでゆけばいいと」 レーム、それを巻き包んでキラキラ光るおびたたしい。ハッキン押 「何を言うそんな : : : 」 え。彼の方を緑色の炎で横にらみしている、まばたきもしない、広 くみひらかれた目。いやおうなくそれを見つめながら、彼はそのあ 「ごまかすな ! だまされないそ ! 計測を、結果をごまかしてい たじゃないかーーー軌道をまっすぐにしたじゃないか ! 何もかもわばかれたごたまぜを前にして立ちすくんでいた。低い、脈打つよう な振動音はあの時と同じものだった。カ・ハーなしでは見るも無残た かってるんだ ! 」 : ごまかした ? ・ った。彼は今はじめて、自分の意識の奥底に、一度として言葉にさ 「そうだ、おまえだ ! おまえは・ほくといっしょにいたかったんだれたこともなく、認識されたこともない、ひそやかな、非理性的な 永遠にいっしょに、そうだろうああ : : : もし気がっかなか確信がちろちろと燃えていたことを知ったーー鋼鉄の箱の中にはき っと誰かが、童話に出てくる衣裳ダンスのように、坐っていて ・ま

6. SFマガジン 1979年1月号

「自分でわかってるはずだ」 : ? ・ほくは、ここにこうして坐りながら、ときど なのは、内臓 : 「へえ、そう ? いや、たいした洞察力だな。つまり、ぼくと君はき思いうかべていることがある。内臓をね。君はきっと、そんなと そんなに違わないってことだ。スクリーンが・ほくの顔の正面で光っき・ほくは家のことだの母親のことだの、森の中の歌声だのの思い出 ている。・ほくは目の内側を見ている」 に耽っているとでも思っていたんじゃないかな、そうだろう ? そ ちり うじゃないんだ。・ほくは自分自身の内臓を想像していたんだーーね 「ひらひら舞っている、あの塵みたいなものを見てるのかい ? 」 ふくろ くだ こもみあっている管、大きい嚢、小さい 「目がないのに、君がこの塵のことを知っているというのは妙だばねばとして、おたがい冫 な。そう なかには実におかしなのもいる。今日は、ひとつじっ嚢、糊のような液体、ねとねとする黄色つぼい膜ーーーあの生そのも として動かないやつを発見した、つまりーー・眼球といっしょにしかの : : : 」 てぎちゅう 動かないやつだ。虹色をしていて、水滴の中の滴虫を顕徴鏡でのそ「そんなものを想像してどうするんだ ? 」 いたような感じだ」 「なんとなく元気が出てくるのさ」 「まだ目はつぶったまま ? 」 「本当に ? 」 「ある意味ではね。つまり、このぐじゃぐじゃしたものの全体の中 「ああ。奇妙なダンスだ : ・ : だんだん速くなる。あ、沈んでゆく。 まぶたも下の方になるともう赤くない。暗闇だ 小さい頃、地獄に想像力で入り込んでゆくと、何もかも同じようにぐじゃぐじゃし というのはこんなものだろうって想像していたつけ。いま、目をあてきて、あとでーーーなんとなくーーー楽になるんた。こんなふうに言 けてーーーそれからまたもう一度目をあけることができたらいいと思っても、君に伝わるかどうか」 う。そうしたらスクリ 1 ンがなくなっていて : : : 」 「伝わったよ」 「信じられないね」 「山の尾根の家の前に自分が立っているー・ー ? 」 「家はどうでもいい それより石、足の下の砂さ : ・ : ・海辺にはあ「ほくにもそういうことがある」 れだけ砂があるのに、なんて無駄な話だ ! 最悪なのは、そのこと「まさか」 に誰も気がついてないということだ ぼく以外はね」 「あと二十分」 「君にも ? ・ : ・ : それは : いや、そんなことは、まずありえない 「もうちょっと控えめになれないのかな、君は。ねえーーー礼儀作法さ。冗談だろう ? 待てよ、ぼくは、君に嘘がつけるかどうかも知 なんていうのは別個に組み込まれているのかい、それとも ? 君はらないんだ。ひょっとしてーー・・とくべつな安全装置でもあるのかな こういう質問が嫌いだろう。前に気がついたよ。だけどなぜ ? そ ? 」 れに、君の中味が、ぼくのみたいにねとねと、ぬらぬらしてなく「嘘に対する安全装置なんかないよ。可能な組み合わせの関数だか て、熱くもないからってどうってこともないだろう。要するに問題らね、嘘も」 203

7. SFマガジン 1979年1月号

に見られることもない。 とを真剣には聞いていない。申しぶんのない、自分の爪を見ている 玄関のベルが鳴り、・ほくは大あわてでとびあがった。立ちあがるのた。「わたしのせいじゃないでしようね ? わたしに恋いこがれ 5 と、ふくらはぎの皮膚が割れ、セロファン製のゲートルのように舞てやつれたの、ディヴィッド ? ディヴィッド、でもわたしとは結 婚できないわよ、申し込んでくれるまえにい っとくけど」 いおちた。それをわしづかみにしてソフアの枕の下に押しこみ、 「申し込むつもりはなかったけれど、そいつま、 。しいことをきかせて アめがけて走った。たどりついたとたん、両の耳がばちんと警告音 を発した。むしりとってポケットに入れ、さっとドアをあけはなくれたね」・ほくはいった。顔がはすれてしまったので、わしづかみ にして上着の下に隠した。彼女、見ていなかったそ、ありがたい ! つ。 「ディヴィッド ! 」と彼女はいった。つまり、・ほくに会えてうれしとなると、あと二、三時間はまずます安心だ。残りは左手だけ。こ このまえ会ってからもう八カ月ね、元気にやっているわ、手紙いつが始末できたらーーーあ、大変だ ! もうとれてしまっているー ドアの取っ手のところだろうか。しめた、まだ彼女の眼にはつい 書かないでごめんなさい、でもまだ一度も書いたことないのよ ていないはずだそ ! 客間に入って大急ぎでさがした。どこにも見 誰にも、ということなのた。 彼女は急降下するように・ほくのわきをかすめて部屋に舞いこむあたらない。もしや、彼女のえりまきにくつついているのでは ? 彼女のすわっているそばの床のうえでは ? いま、こうして彼女の と、まるで翼でもたたんでいるようにして停止し、うしろに・ほくが いるかどうかたしかめもせずに、というのもかならずいると知ってヒステリーに直面させられそうなはめになってみると、とても耐え 彼女は、そばにいるだけで、あん いるからなのだが、コートを振り脱ぎ、長いあしを組んで毛氈のうられそうもないことがわかった。 / よこーーーしあわせな人間なんだから。あの皮剥ぎナイフの手元が狂 えに三点着地した。両側にさしのべられた彼女の手の一方にたばこオ冫 ってからというもの、百万べんも・ほくは呟いたものだ。「それにし を、もう一方の掌にキスを、・ほくは献上し、ここでようやく彼女が ても、どうしてこんなことがよりにもよっておれに起こらなきゃな ・ほくを見た。 「あらーーーディヴィッドー 素敵じゃない ちょっと近づいてみらなかったんだ ? 」 て。顔、どうしたの ? 皺だらけじゃないの。大変。働きすぎなの ね。わたし、たのしそうに見えて ? たのしいの。ねえ見て、この 居間へ戻った。マイラはまだ床のうえにしナカ火 、 - ー、丁りの下へ位置 へびかわ を変えていた。ものめずらしそうに手をいじくっていて、顔に泛べ 新しい靴。蛇革よ。蛇っていえば、それはともあれ、お元気 ? 」 られた微笑はちょっとしたものだった。ぼくは無言で立ちつく 「蛇っていうとね、マイラ、・ほくはばらばらになりそうなんだよ。 ちっちゃなかけらが剥がれていって、勢いよく身体を動かすとばらし、嵐を待ちうける。・ほくはもうこれに慣れているけれど、マイラ ばら舞いおちる。皮膚の下になにかできたらしいんだ」 「なんておそろしいんでしよう」と彼女はいったが、・ほくのいうこ ちらっとこっちを見上げた。いつもの、鳥のような眼の動きだ。

8. SFマガジン 1979年1月号

私服警官の依頼に、俺はやや照れくさかったのたが正直なところのだ。お役所を型通り定年まで真面目に務めあげ、退職金と銀行の 0 を申しあげた。 借り入れでアパ ートを建てたものの、やっと一息の途端に連れ合い 「何もないようですが : : となると犯罪は成立しないのでしように先立たれ、さあ遊・ほうにも身体にガタがきて ( 糖尿とか言ってた か」 つけ ) ままならす、さしあたって生活の心配はないものの、この老 「いや、何も盗られていなくとも、家宅侵入及び窃盗未遂の刑事犯体で日々の自炊暮らし。身寄りといえば俺と同い年の息子が一人。 罪に該当すると思えますが。また、詳しい調書をとりに二、三日中遺産を残そうにも数年前、水商売の年上の女と駈け落ちしたきりた にうか力いますが」 って話していた。だから、徳田さんの楽しみはテレビを見ること と、暇そうな店子に愚痴る程度。というわけで、こういうアクシ デントは家主の徳田さんにとっては最高級の娯楽というわけだろ 2 警察が引きあげてくれて幾分ほっとした。家主の徳田さんがにや「しかし、徳田さんのいる管理人室の前を通らなければ、私の部屋 にや笑いながら部屋へあがりこんできて、大変でしたね、一種の災には来れないはすですが、私が出張してた二日間、顔見知り以外は 誰もこなかったのですか」 難ですナアと俺の横でほざいている。 俺の質問に徳田さんは首をひねった。 「サンダルくらい脱いでくたさいよ」 俺がたまりかねて言うと「いや、かなり土足で汚れております「さあ、見ませんねえ。夜は知りませんが、寝る前には通用門を閉 し、この部屋の掃除の具合からみても別に気になさらないのではなめてしまいますからねえ」 いかと思いまして」と頭をかきかき、にやにや笑いを続けながら部全然、真剣に思いだそうという態度が見受けられない。 屋を見廻している。 「すると、内部の人、つまりア。ハート の住人が侵人したという可能 この徳田さんは好奇心の固まりのような男で、他人に不幸がある性がでてきますよ。別に盗られたものがないからいいのですけれ ど」 と喜び勇んで訪ねていく。もっとも俺にしても他人の不幸は楽しい のだが、こんなに喜色満面、清一色ではなく表面を或る程度の悲愴俺は目を細め、″疑惑の眼差し″という表情を作ってシビアな口 さで隠すことにしている。だから、その点だけについて論しるとす調で言った。徳田さんが困ったような顔をした時、廊下から声があ ると徳田さんの方が自分に対して正直で純粋な心を持っているのか もしれない。ま、いずれにしろ厚顔であることは間違いない。そん「あのう。夕方ですね、うちのが変なものを見たっていうんです たな なに厭だったら部屋から追い出せば良いと思うかもしれないが、店よ」 子の義理ということもあるし、思えばこの徳田さんも可哀相な人な隣室の銀ちゃんだった。このアパート裏のローカルテレビ局に勤

9. SFマガジン 1979年1月号

彼女の投げかける視線はとても速くて、どれだけのものを眼におさ「マイラ、いいんだ。たのむから、泣かないでくれ。咬まれたんじ めたのかはまずわかりつこないーーーおしゃべりはやむことを知らやない。皮を剥いでいて、ナイフがすべったんだ。・ほくは自分で傷 す、きらきらと眩しい個性を示しているけれど、そうした魅力の背ついたのさ。配達されてきたとき、蛇はもう死んでいた。そうかー うかつだっ ーやはりきみだったのか、あれを送ってくれたのはー 後にはもの静かで鋭敏な頭脳が隠されているのだ。 ほんとうは手じゃなくて皮膚だけなんだがーーーセロファ こな。はがきも手紙もついてなかったんだから、どう考えたってき : いっからこんなふうにな いっから : ンの手袋に似ている。マイラは自分の手をそれに入れて、指のすきみしかいないはずなのにー ったんだい ? 」 まからこっちを見ている。「こんちわ、爬虫類さん」彼女はくすく す笑いながらいう。と、不意に笑いはおびえたような小さな悲鳴に 「よ、四カ月ま、まえから」ぐすんと鼻を鳴らし、彼女は赤むけの 変わり、・ほくにむかって両腕をなげだすと、愛らしい顔は涙にゆが鼻を・ほくの襟でかんだ。胸の。ホケットにハンカチを入れておくのを いとしい んでもう愛らしくはなくなった。けれど、 そうなん・ほくが忘れていたからだ。「心配はしてなかったわ : : : 痛むような ・ほくにしがみつくな だ、もうどうしようもなくいとしいんだー こともなかったし、どの部分の皮膚がいつはがれるかもすぐに見当 がつくようになったから。それにーーーしばらくすれば癒るだろうと り、こらえきれすに彼女は叫んだ。「ディヴィッド、わたしたちこ れからどうするの ? 」 思ったし。そのあと、アルバカーキのあるお店のウインドウであな たの手を見かけたの。ベルトの・ハックルよーーー手がステッキを握っ なにをいったらいいのかわからないまま、・ほくは彼女をしつかり と抱きしめた。彼女はしどろもどろに語りはじめる。「あなたも咬ていて、手首がベルトの片方のはしに、ステッキはもう一方のはし まれたの、ディヴィッド ? わ、わたしも咬まれたのよ、あの小さに固定されていた。買ってみて、それがなんなのかわかったわ。詰 な生きものに。インディアンが崇拝してるわ。あ、あれに咬まれるめてある石膏はあなたがハチドリのプローチなんかにいつも使って と、み、みんな、へ、ヘびになってしまうらしいの : : : わたしもそるいい匂いのする石膏だしーーーそれよりなにより、あなたしかいな れが心配だった : : : 次の朝から、二十四時間ごとに脱皮するように いじゃない、あんな魅力的なベルトをデザインできる人は。それだ なったのよーーーあれから、ずっと」いっそう・ほくにすがりつき、声けじゃなくて、自分の皮膚まで : : : ただ手近にあるってだけの理由 だから、わたし、自分が厭 はやや冷静になってきた。こんな事態になっても、やはりほれ・ほれで、利用しようなんて思いつく人は するような声だ。「あの蛇、殺そうと思えば殺せたんだけど、はじになって、あなたが、あなたが好きになったのよーー」・ほくの腕の めて見たものだし、あなたが手に入れたがるかもしれないと思った なかから身をくねらせて離れると、彼女は・ほくの眼を覗きこんだ。 から だから送ったのに、今度はあなたまで咬まれてしまって、彼女の顔にははっとしたような驚きの表情があった。そして歓喜 あれからすっと皮膚をうしないどおしなのね、あなたまでーーう、 の。「愛しているわ、いまも、ディヴィッド、いまもよ。こんなに引 だれかを愛してしまったなんてこと、生まれてはじめてよ。かまう

10. SFマガジン 1979年1月号

結果はご存しのとおり。 ったことは、あとで調べてみ てわかった。しかし会場にい ここまで書いたところで、しかしこれで た三日間は、ごったがえす人 大会に参加したのか、という疑問は残ごみの中で、まともな話など る。もっと実のある話をどこかでしなかっするどころではなかったの たのか ? その問題については、こんなエ ・こ。フォレスト・アカーマ ビソードを書くしかない。 ン夫妻の姿は、到着した日に ホテルにチェック・インしたとき、サ、、 鏡明が見つけ、部屋の番号ま ュエル・ディレイニーが通りかかった。 , 彼できいておいたのが、連絡は とは四年前に一週間ほど付きあっている。 とれずじまい。やっと会った 「チップ」と声をかけた。これが彼の愛称のは、フロントでチェック・ なのだ。「・ほくを覚えてる ? 」 アウトの手つづきをとってい 彼は近づいて、ぼくの名前を見、 るときたった。 ス・コヴナント年代記』の作者である ) え ? まさか ! 」 「あ、覚えてる。しかし今はちょっと用事大会参加者は「ローカス」の発表による鏡「え ? ・ほく「それどころじゃないそ。ナタリー と、世界大会史上最大の四七〇〇。べ ・ウッドとロ・ ート・ワグナーが登録費ち それつきり。彼が「ディレイニーとの対テラン・ファンの中にも、人が多すぎて、 話」という。フログラムに出かけるところだ知りあいと話もできなかったという声が多ゃんと払って、参加していたんだって」 え ? そんな人、どこにいナ く聞かれた。ましてや、・ほく プン らは、である。 んだろう ? オレたち見なかったよなあ」 ナヴ ・ほく「のメン・ハーも来てたんた 一・ツ帰国して「ローカス」のレ イ一ポートを読んだのち、鏡と電って」 。ン・話。 ・ほく「おい、イグアナコン ーリイも・米 ~ 、 ~ 第だのジイによンヨン . ヴァ 与うゲ 【、、 ~ ~ ~ 物 ( の授あにてたんだ「てさ。ステ ' ーヴ 賞りろン . ドナルドスンもいたらし 一語後 ゴとぐいそ ! 」 ( ドナルドスンは、 ファンタジイの昨年最大の収 ュウ ヒラジ といわれる『不信心者トマ ファンと喜びを分ちあうエリスン 5 4