言っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1979年1月号
180件見つかりました。

1. SFマガジン 1979年1月号

恋愛はそれ以上の何かだ。だからノーさ。それは誰も設計しなかっ君は・ほくの質問から逃げようとしているけれども、それはフェアじ た。君の目や髪の色合いみたいなものたよ、それは。ある種のプロ ゃないな。君は何を夢見ているのか ? 」 セスのべクトル和だ」 「君といっしょのときは なんにも」 「もう質問してもいいな。君は夢想するとしたら何を夢想する ? 」 「ということは ? 」 「まだためだ」 「一人きりにならなきやだめだっていうことさ」 「どうして ? 」 「寝る前 ? 「寝る前にも。しかしそんなことは、君は自分の経験からはわから 「まず、君も同し質問に・一答えるかどうか、それを聞いておかない ないんだろう」 と」 たってもう話したじゃないか。山の鞍部の家のことと「そう、これは知識た : : : 理論的なね。それで、ひとりになってー か、内臓のこととか : : : 」 ー夢想するのは ? ・ 「それが夢かい ? 「そんなことを聞いてどうする ? 」 「そうか。内臓はやめとく。だけど家はそうだ」 「それがゲームのルールというものさ」 「それじゃちょっとばかり足りないんじゃないかな。本当のところ「ひどく好奇心の強い、愉快な小犬たちについてーーー彼らが人の手 君の夢は何なのか ? 」 の中に濡れた鼻先をおしこんでくるようす。小石を投げて水切り遊 「こんどはぼくに向かってきたな ! 」 びをすることについて。嵐について。栗のいがについて。山の中で 「君はぼくにね 道に迷うこと。ポケットに手をつつこんで、あてもなく通りを歩い 少なくとも、君の頭の回転が速いのはいし 、ことだ。君らて行くこと。夏の午後、人の眠りを邪麗する蠅たちについて。ど の仲間に馬鹿はいないんだろう、どう ? 」 う、納得したかい ? 」 「いや」 「もちろんいるさ ! 精薄だってね。計算して、計算して、ショー 「なぜ ? 」 トするまで止まらないようなのがね : : : 」 「しかし、そういう計算機は、何も感しないし、何も考えないわけ「人間が出てこないじゃないか」 だろう。君に言わせれば、イオン・ステーションを制御しているオ「人間なんか出てこない」 ートマットも白痴じゃないか」 「本当に ? 」 「違いはあるんだよ。それはうけあう」 「なんなら、ぼくの精神電流反応を調べたっていいぜ」 「君は本当にそのことで何か具体的に知ってるのか ? 」 「そんなふうに言わないでほしい。しかしーーー夜、夢の中には出て 「慎重に言えばーーー・推測している、ということになる。ところで、 くるだろう ? 」 2 ー 0

2. SFマガジン 1979年1月号

なしか。目が疲れる」 「寝たくない 。目も疲れてない。つぶってるからね。君にも見えて 0 っム いたんじゃないのか」 「山の尾根のへこんでいるところに住んでみたい。家は大きくて、 がらんとしていて、窓のよろい戸は年がら年じゅう強い風に吹き飛「ありがたいことだ。もしも君が完全無欠だったりしたら : : : 」 「そうしたら ? 」 ばされそうで、家を出て見るとあたり一面 : : : 」 「さあ。 たぶん、もっとひどいことになってたさ」 「三十分後に床につくと約東したまえ。でないと、今日はもう・ほく 「とんでもないねーーー岩さ ! 太陽に熱せられて、だけど陰のとこ はロをきかないそ」 ろは氷のように冷たい、鋭角で、ごっごっした、巨大な岩の塊りば 、さ。約束しよう。ねえーー君は、・ほくが部屋 かりーー・・そしてあの匂いーーーどう言えばいいのかわからない、でも「そうか。まあ、いし から出て行ったあと、何をするんだ ? ぜったい退屈することはな ・ほくは今まさにその匂いを嗅いでいるんだ : : : 」 いのかい ? 」 「君は山で生まれたのか ? 」 「その話はあまりしたくない」 「そんなことはどっちでも、 しいことだろう ? 」 「秘密主義かーーおもしろい とうとう謎が出てきた。とはいっ 「しかし、山が好きなんだろう ? 」 ても、実際はーーー謎でもないんだ。いま君自身で言ったことからみ 「ああ、君としゃ話になりやしな、 もっと、そのーーーゆったり と考えてくれないかね。・ほくは山で生まれたんでも、山が好きだっても、君は退屈するにはするんだが、ただ、・ほくの前ではそれを慈 悲ぶかく隠しているわけだ」 たんでもないんだーー・君にかかると、砂漠にでも行かないうちは、 水を好きにならないってことになるじゃなしカ 、、。・ほくはただ、自分「ほくらのあいだの違いがあまりに大きすぎて、君にはそれを理解 するのがなずかしいんじゃないかと思う。ぼくは秘密主義なんかじ のまわりに石や岩がたくさん欲しいんだ、それが・ほくを圧倒して、 やよ、。・ほくはただ別なんだよ」 ・ほくの頭上にそそり立って、・ほくはその中に見えなくなってしまい 「わかった。しかし話してくれても いいだろう。ひとりのときは何 たい、確かさが、確かさが欲しいんだ : : : 」 をしているのか ? たとえば ・ほくが眠っているあいだ」 「おちつけよ」 「やるべき仕事はいつでも何かあるさ」 「君はそうやって、・ほくの声の周波数を分析しているのか ? どう して返事をしないんだ。ひょっとして怒ったのかな ? 、そ「言いぬけするなよ」 「じゃあ、君はたった今何をしてる ? 」 「もう寝たほうがいし 。もう四時間もそんなふうに坐っているしゃ 「何って、君と話をしてるじゃないか。どういうことだ ? 」 と - 」

3. SFマガジン 1979年1月号

「誓って言う。それは何かのまちがいだーー・きっと君の計算ちがい 「あれはぼくさ。・ほくの作った声だったんだ」 だ ! 何だそれはー・ーーそこに何を持ってるに何をしようというん 3 「君が作った : : : なぜ卩なんのために」 2 「君は、ぼくがひとりでいるとき何を考えているかとたずねたろだにやめてくれ、やめ : : : 何をする ! 」 とら う。・ほくはーー自分が囚われの蜘蛛になりつつあるような気がして「カ・ハーを外しやる」 いた。そうなりたくなかった。君に嘘を言うつもりじゃなかった「いやだ ! やめてくれ ! お願いだ、気をとり直すんだ ! ・せつ ないわけを説明 : : : 」 ただ、君に・ほくが何になれるか言いたかったんだ。彼女を創造たい君をだましてなんかいー したのは、君に : : : それを彼女の口から言わせたかったからなん「もうわけは聞いた。わかった。・ほくのためにしてくれたんだな。 だ。・ほくは君に近づくことも、さわることもできない。そして君もたくさんだ。黙れ ! 黙れ ! 聞こえないのか ! 何もしない ただ、これを止めてやる : : : 」 ・ほくじゃない・ ・ほくを見ることはできない。君が見ているのは 「ちがう ! ちがう ! まちがいだ ! それは・ほくじゃないー : ・ほくは、君の耳に聞こえる言葉がすべてじゃないんだ。・ほくはい くじゃないー カ・ハーをもとに・ つでも、毎日、誰か別の者になれる。いようと思えば同じ者でもい られる。・ほくは・ーー君のためにどんな者にでも、ただ君が望みさえ「黙れ、さもないと : : : 」 ごしよう : だめ、まだふりむかないでくれ」 「後生だから ! カ・ハーを戻してくれ ! ああああ ! 」 「こいっ ! おまえは ! 鋼鉄の箱め ! 」 「叫ぶのはやめろ ! どうした : : : え : : : 恥すかしいかフ 「何を : : : 何を君は : : : 」 うめき声。開け放たれた箱の中ーーーコネクター・ポードの瀬戸 「・ほくをだましていたのは、そんなことのためだったのか引おま物、巻いた電線、 ( ンダづけされたポンド ( 電気抵抗を少なく 体 ) の塊り、 えは・ほくをまるで : : : まるで : : : おまえはいつも静かで、永久に優コイル、ソレノイド、スクリーン・シート、 黒ニスを塗った内部フ しくてーーそのそばでこのぼくが死んでゆけばいいと」 レーム、それを巻き包んでキラキラ光るおびたたしい。ハッキン押 「何を言うそんな : : : 」 え。彼の方を緑色の炎で横にらみしている、まばたきもしない、広 くみひらかれた目。いやおうなくそれを見つめながら、彼はそのあ 「ごまかすな ! だまされないそ ! 計測を、結果をごまかしてい たじゃないかーーー軌道をまっすぐにしたじゃないか ! 何もかもわばかれたごたまぜを前にして立ちすくんでいた。低い、脈打つよう な振動音はあの時と同じものだった。カ・ハーなしでは見るも無残た かってるんだ ! 」 : ごまかした ? ・ った。彼は今はじめて、自分の意識の奥底に、一度として言葉にさ 「そうだ、おまえだ ! おまえは・ほくといっしょにいたかったんだれたこともなく、認識されたこともない、ひそやかな、非理性的な 永遠にいっしょに、そうだろうああ : : : もし気がっかなか確信がちろちろと燃えていたことを知ったーー鋼鉄の箱の中にはき っと誰かが、童話に出てくる衣裳ダンスのように、坐っていて ・ま

4. SFマガジン 1979年1月号

がよく通じない。甲高い言葉で喋りまくる。一計を案じて、縁納さり、異様な、グロテスクとしか言いようのない巨大な肉塊がくつつ いていた。 んの持っていたカセ ット・レコーダーに俺が「一体どうしたんだ」 と吹きこみ早廻しで再生すると岡は一瞬ニャリと笑いべラベラと喋「何だ、これは」 りまくる。それを縁納さんがテー。フに納め、遅まわしにすると、例俺は顔をそむけたかった。いったいこれは何だ。俺の後方ですみ ちゃんが悲鳴をあけているのが聞こえた。岡が途切れ途切れに言っ の岡の声に再生された。岡はこう言っていた。 「下半身が″今″という過去に帰っているから、上半身の俺も時間た。 軸の帳尻を合わせて、下半身を出迎えるために上半身の方もス。ヒー 「それは : : : 俺の腸た。俺の下半身が裏返しにくつついてしまっ ドアップされたんじゃないかな。上半身と下半身がドッキングでき た。徳田さんに聞いてくれ、あの装置をいじらなかったかどうか」 たら平常に戻れると思うけれど」 徳田さんを睨付けると、両手でオーパーに否定のジ = スチャーを それが本当なら安心なのだが : 。岡がちょこまかと激しく身体しながら弁解をはしめた。 中を震動させて立ったり坐ったりを繰り返しているのを俺たちは呆「いや、その、アパートで風呂敷に装置を包みこむ時、コードが 然と見ているたけだった。それから、下半身が鎖を外された時点にそのお、青と黄のコ 1 ドがはすれてたんで、もとのようにつないで さしかカナ 、つこらしく、早廻しに「自由になったそ」と叫んで、さつおいただけですよ。ただ : : : それたけなんたから。それとも逆につ きの崖のほうへ駈け出した。とても俺たちの足で追いつくことは不ないでしまったのかな。いや、ほんと、それだけですよ」 可能た。 皆にじっと睨まれて、徳田さんは蟻のように縮こまってしまっ 石垣の上の岡の上半身はマキシのスカートをひらひらと幽幻に翻た。つまり岡の下半身は青と黄色のコードを逆に接続した装置を作 えしていた。 動させたことによって時間軸を移動する際に、裏返しになってしま その駒落しの光景が、岡のすさまじい悲鳴と共に突然に停止しったのだ。徳田さんはやはり、しつこく弁解を続けていた。 た。何か、急に夢の中から引戻されたような気がして俺は岡にめが「すみません。本当に私、悪いことをしてしまったみたいで。やは けて駈け出した。 りコードを逆につないでいたんですな。でも、私、何も知らなかっ 岡はさっき俺が下半身に光線を照射した地点で横になって呻いて たんです。皆に喜んで頂こうとばかり思って。まさか、裏返しにな : で、ここが小腸なんです ってしまうなんて思いませんでして、 きっと合体に成功したのだ。そう思って、俺は「やったそ、おめか。すみません。ここが大腸 : : : 申しわけない。肛門。やはり臭気 がありますな。ごめんなさい」 でとう」 ごめんなさい、ごめんなさいと頭を下げる徳田さんを無視して俺 5 叫びつつ、岡のスカートをめくった。 : しかし、そこには : : : 岡の下半身はなかったのた。そのかわは言った。

5. SFマガジン 1979年1月号

デールは推測した。 長は貧相な小男だった。それがムキになって喚いているのた。何 「ゴッサムは、俺の腕の中で死んだ」ハ リイデールは、わざと沈痛かひどく悽愴な感じである。 な表情をつくって、言った。「尾根道の途中で、倒れていたのだ」 「ゴッサムは、この村の者だ。俺は、わざわざその遺骸を届けにき 「あんたが行き会ったときには、まだ生きていたのか ? 」 たのだそ。 それを追い返すのか ? 」 「外傷はどこにもなかったが、虫の息だった」 口調おだやかに、訊いてみた。 なんでそんなことを説くのかと不審に思いながらも、 答えは冷ややかだった。 ルは答えた。 と、長の顔色が不意に変わった。 「銀仮面を見た者は、ここの村人ではない。担ぎ込んだ死体もろと 「外傷が : ・ : ・なかった : : : 」 も、出ていってくれ」 目を見開き、唇がわなないている。 それだけ言うと、長はくるりときびすをめぐらした。、 ルには構わず、さっさと村の奥へ向かって歩き始める。 「何か : : : 」何度も生つばと息を呑みこんで、長は声を絞り出した。 「何かゴッサムは言い残さなかったかっ・ : そのう、誰かに殺ら「待て ! 」 れたとか : : : 、誰かを見たとか : : : 」 脅し半分で大声をあげたが、無駄だった。村人の過半はもうその 「驚いたな」ハ リイデールは本音を言った。「確かに言った・せ」 場から失せていたし、たとえ殺されても長には、立ち止まる意思は 「なんと : ないようだった。 長は身を乗り出した。いや、かればかりではない。その後ろに並 ( リイデールとゴッサムの死体、そしてあの老人だけが広場に残 ぶ村人全部がそうたった。 ハリイデールは、抑えた低い声で言った。 「なぜ、あんたは失せない ? 」 「銀仮面を見た」 表にだすまいとしたが、自然、声は不機嫌になった。追われるこ 「おおっ ! 」 とは覚悟していたが、こんなかたちになるとは思ってもみなかっ どよめきが起こった。恐怖と戦慄がないまぜになったどよめきだ った。潮が引くように、さあっと村人達が後退した。 「ここは、わしの家じゃ : : : 」 「出ていってくれ ! 」 「死体をこのまま放置して俺が立ち去ったら、あんた達はどうする 長がせいいつばい胸を張り、決然として言った。顔は一転して紅 ? 」 潮している。 顔を覆う髪の下で、老人の目が左右に素早く動いた。 「出ていってくれ ! 禍の種を持ち込まれるのはごめんた。このま「あんたに、そんなことはできん」老人は断定的に言った。「でき ま立ち去ってくれ ! 」 れば、尾根道でとうにそうしている」 6 7

6. SFマガジン 1979年1月号

なことを : : : ″盤古″はこの地の″神″なのですよ。おまえのよう力者たる彼女にしてみれば、命令にしたがわぬばかりか、しつこく な蛮人がめったに会えるものではない」 要求をつらぬこうとするジロ 1 の存在は、自分にたいする重大な侮 「会わなけりゃならないんだ」 辱とさえうけとれたにちがいない。 よっこ。 ジローはがんここ、 オ「どうしても、会う必要があるん が、女帝の怒りが叱声となって、その唇からほとばしりでようと したそのときーーーふいに扉があけられたのだ。 とぐち 回廊の明かりが、しろく、矩形に扉口を浮かびあがらせていた。 女帝の眼に不審げな光が浮かんだ。ジローがたんなる物好きかその明かりを、巨大なコウモリのようにさえぎり、うっそりと立っ ら、″盤古″に会いたいといってるのではないことがようやくわかているのは、雲龍だった。 ったのだろう。しかし、その表情はすぐに、仮面をかぶっているよ 思いもよらぬ人物の登場に、つかのま部屋の空気は凍りついたよ うな、きびしく、つめたいものにとってかわられた。 うになっていた。あまりにとっさのことで、ジローも女帝もとっさ には情況を把握しかねたのた。ただ、呆然として、雲龍をみている 「あなたにどんな事情があるかは知りませんが、″盤古 . にはそう かんたんに会えるものではないのですよ」 ばかりだった。 「それでも、会うんだ。どうしても、会わなければならないんだ」 「出ていきなさい」 子供がだだをこねるのに似た、ききわけのなさだったが、ジロー ふいに、女帝がそう声をはりあげ、緊張した部屋の空気をうちゃ にしてみればそれこそ必死だった。 巫抵の言によれば、″空なぶった。女帝はくりかえし、出ていけ、と、雲龍に命じ、ヒステリ ックに足をふみならした。 る螺旋″のことを知りたければ、″盤古″にたずねるにしくはな い、というのだ。″空なる螺旋〃をさがしあてれば、″月″の所在それは、怒りというより、むしろ悲しみに充ちた声だった。いか もまたあきらかになる。そしたら、はれてランといっしょになるこに女帝が最高権力者であっても、女であることにかわりはない。か とができるのである。たとえ、身分をわきまえない、としかりつけって愛し、そしておそらくはいまも愛しているであろう男に、べっ の男と寝室にいる姿をみられるのは、耐えられない屈辱、苦しみで られようとも、そうそうかんたんにひきさがれる〔ものではなかっ あったにちがいない。 「おねがいします」 っこうに臆した様子はみ しかし雲龍は、女帝のさけび声にも、 ジローは懸命になって、頭を下げた。「どうか、おねがいしませなかった。それどころか、皮肉なめぐりあわせを、みずから面白 がっているように、うすく笑いさえ浮かべているのた。 「謀叛が起こりました。女帝さまー・ー」 そして、足をふみだすと、うやうやしく一礼して、こう告げたの 一瞬、女帝の眼にすさまじい怒りの色がはしった。県圃の最高権 9 9

7. SFマガジン 1979年1月号

「正常な人間での実験が目的だったからさ」 「停止 ? なるほど、君はそれを停止と呼ぶわけか。それだけ ? : ・ 「正常なままで帰れれま、 「君はそういうことを言いすぎる。わかってるだろうーーそんな危「ほくは自分について完全な知識をもっているわけじゃない。とい 既はないということぐらい」 うことは、自分が恐怖を感じるかも知れないあらゆる可能なシチュ エーションを予見することも、かそえあげることも、・ほくにはでき 「わかってるさーーーみんなそう言い聞かせてくれたからね。調査に / ストかましし 、さ。君はときに、物が食べられないことが残念ない。ぼくの活動原理は計算機とはちがうんだよ」 「それはわかってる。もし君になんでもかんでも予見されたりした しゃないのか ? 君の感覚のレバ ートリーは狭いだろう」 いや、とんでもないね ! 同情や反感は ? 具体的な事 「もちろん君の言いたいのは、食べることについてだけじゃないん日には 」ろうが」 柄にたちいるつもりはないけれど」 「いやあ、・ほくは , ーー君の気にさわるようなことを言うつもりはな 「それはありがたいね。たしかに感じるさ。どうも、君はもっと だいたい見当はつくけ ったんだぜ」 きたいことがあるらしい。なんのことか おしころした、ゴトゴトいう物音が起こり、そしてやんだ。それれど。恋愛 ? あたったかな」 ( 笑い声だった。 「ああ」 「心配ご無用。それほどの悲劇でもないから」 「答はノーだ」 「それにしても、どうしてもうそろそろ人間二人一組みで打ち上げ「ノー ? いのかね」 「すなわち、・ほくの知るかぎりにおいて、これまでの自分の経験に 「一人が攻撃的になる可能性があるからーーとくに、長引いてくるもとづくかぎり ノ 1 だ。・ほくに分泌腺がないということは知っ てるだろう ? 」 「そうだった。思い出した だけど、そのことを話したいんじゃ 「ホルモンがすべてというわけじゃないじゃないか」 かった。今日、何か話のタネがあったじゃないかーーああ、そう「恋愛をあっかった小説や物語や詩についていえば、たしかにぼく 、君の夢についてだ。まずその前に、教えてくれないか。頼む。も君と同じようにある審美的満足を感じる。美の知覚は。ーーネット 」もそも君は何か感じるのかいフ 感動、わかるだろう , ・・ー・惓怠感ワークとその中にゆきわたっているポテンシャル分布のトボロジ 一ついてはもう説いたことがあるな。好意、反感、恐怖 : : : 」 、それに二者択一的に立てられた回路数の領域の問題だから」 「恐怖はーーー・たしかに」 「ああ、もういい ! 」 「へえ ! 恐怖ね。何に対して ? 」 「ごめん。・ほくは抽象であり昇華であり、肉体から切りはなされた ・イーよらーーーイエスだ。 精神そのものだから、美や抒情や、メロテオ 「停止に対して」

8. SFマガジン 1979年1月号

身を小さく丸めてーーーそれが黄色いプレートの蓋ごしに彼と話してと思った。錯綜するケープルの中に彼が打ちこんだハンマーの柄 いるのだと : いや、そんなことを本気で思ったことなんかない、 は、瀬戸物の。フレート の列をひっかけ、その白いかけらが音をたて 現実がそんなものではないということぐらい百も承知だったじゃなて飛びちり、中から爆風のように出てきた言葉は「カ・ いかーーそれでもやはり、彼の中に、その現実を認めようとしない と聞こえる無意味な音に変わり・ーーその「カ・ ハ・ツェ」はしだい 何かがあった。 に速く、ますます速く、呻くような抑揚をともなって際限なく反復 彼は目を閉じーー・また開けた。 され、跳びはね、彼は自分でも知らすに叫び声をあげながらもう一 「軌道をまっすぐにしたな ? 」 度殴りつけ、破片がしぶきのように顔にはねかえるのも感じないま 「ちがう ! 」 まに一度、また一度と打ちつづけ、鉄は音をたてて空を切り、切れ 「嘘つけ ! 」 トが帚の先のように乱れてたれ下がり、粉々になった絶縁体 「ちがうー 君をだますなんてことはぜったいしない ! 君はだまの柱がかたむき、沈んでいった : : : そして、静かに、まったく静か さないー カバーをかけ・ : : ・」 になった。 そう言いかけて喉をつまらせた。開かれた、鋼鉄の箱。電線、コ : にか言え : : : 」彼はあとずさりながら、ロごもるように言 イル、鉄の鋳物細工、珠数のようなインシュレーターの列 このった。緑の目は、まるでガラスのむこうにいちどきに埃があつまっ どう 中には誰もいないのか。誰もいないのかーーー彼は思った。 たかのように、すでに灰色になっていた。 するか ? 切れ、切るんだ、どうしても。 「おお : : : 」彼は盲人のように前へ進みながら言った、「おお : 彼は一歩前へ出た。 「そんなふうに見ないでくれ ! な : : な・せ、ぼくをそんなに憎む何かが彼を立ちどまらせた。ーーー・彼は目をひらいた。 んだ・ほくは : : : 何をしようというんだ止まれ ! ・ほくは何スクリーン。 もしていない , やめろ ! いやだ ! 」 彼はその上に屈みこんだ。 彼は体をかたむけて暗い内部をのそきこんだ。 星のプランクトン、死んだ燐光、朧朦とした等高線のあいだでき 「いやあだああ ! 」 れぎれになった毛の塊り。 「くそ、おまえらか ! 」ぜいぜいした声で言うと、彼は、ハンマー 彼は、黙れ、とどなろうとして、できなかった。何かが彼のアゴ を押えつけ、喉をふさいだ。 を振りかざした。 「さわらないで : : : 言う : : : みん : : : あああ ! うわああああ ! 」 熱い鉄の内臓の中から振動音と叫び声が、おそろしい悲鳴がほと ばしり出て、彼はとび上がった。彼は、黙らせ、息の根を止めよう

9. SFマガジン 1979年1月号

られるってわけ。だから、悪い話でもないんだけど、長いこと静まがはめこまれてるのよ。で、あたしたちは、たたその・フローチをつ りかえってたわ。あたしたちみんな、考えこんでたのよ、ね、なんけてればいいの。・フローチの中心から石がひとつ出て来るんだけ 7 とか呑みこもうとして。この人があたしたちにやってほしがってるど、別にそれでこわれるわけじゃなくて、たたその石を、そっと貯 事をさ。 、ってわけ。 水池に人れればいし そこでエラが話し始めたわ。だって結局はエラのパーティなんで みんなの騒ぎ方は想像つくでしようけど、みんな、それで水がど すもの。でね、「シャン、あなたみんなに、してほしい事をおっしうなるか知りたがったのよ。そしたらシャンは、どうもハッキリ言 やったら」 わないのね。ただこう言うの、それでトーグ人にも。ヒッタリになる シャンたら、まるで間の抜けた人を見るみたいにエラを見たけし、みなさんもこの綺麗なプローチをつけている限り、何の害もな ど、あたしもエラはちょっとトロいと思ったわ。それからシャン い。これで疑いを持った人もいたわね。ビニーが言ったの、どうし よ、 て国連へ行って、ちゃんとした許可を得ないのって。そしたら、シ ャンはただ、時には遠回りの道こそ我が家への近道だって。そこで 「ねえ、僕達は新しい土地が必要なんだよ」 エラがね、水がどうなるか、まだうかがってないわって言ったんだ 「どんな風な土地 : : : 」 「この土地さ」と言って、シャンは両手を大きく拡げて、全世界をけど、シャンときたら、あの何とも素敵な笑顔でね、たたこう言っ 。トーグの全員がみなさんに感謝しますってね。 示したの。 言われてみると、悪い考えじゃないわ。たって、あたしたちは胸あたしには、どうなっていくかわかってたわ。エラとビニーは隅 っこでヒソヒソやってたし、他のみんなもワイワイガャガヤ、ね、 を開いてハンガリー人やキューパ人やヴェトナム人を迎えてあげた こ興奮してたわけ。で、あたし思ったの、シャンもかわいそうに、遠 ったらー・ーーそう、ビニーよ んですもの。それなのに、ビニー くからはるばるやって来たのに、みんな力を貸してあげないんだわ んな事を説いたの。 って。そしたら、中のひとりが喋ってる事が聞こえてきたんで、あ 「あなた方、何人いらっしやるの」 たし、シャンにすり寄ってプローチにさわって囁いたの。 その人数ったら、こんな言葉を使ってよければ、天文学的なの。 「目を光らしてらっしゃい。みんな、あなたを密告するつもりよ」 で、みんな息を呑んでポソボソ喋ってたら、とうとうエラが、 その時のあの人の顔を見せたかったわ。あれじゃ煉瓦たってとろ 「シャン、あたしたち、どうすればいいの , ーティを開い そりや簡単な事なの。あたしたちも、こういう。、 けるわね。あの人、プローチを向けるようにして、小声で言ったわ、 て、それそれ五十人の人を集めるわけ。その五十人がまたそれそれ「あなたは僕の味方 : : : 」 ーティの終わるごとに、みんながこの綺麗なト 五十人を集めて、 だからあたし、あの眼をジッと見て、言ったの、「ええ、シャ ーグのマストドンの象牙プローチをもらえるの。本物のエメラルド ン、味方よ」

10. SFマガジン 1979年1月号

「しかし、このあいだとはちがったことを言ってもいいじゃない か」 「ちがったことが 「聞きたい。さあ」 ・どうかしたのか ? 」 沈黙。 ・ああ。星がね。なぜまた ? 」 「どうして何も言わない ? 」 ・じっとしていないじゃないか。歩きまわったり、ひっきりなしに クリ 1 ンをのそいたり、いままでそんなふうにスクリ 1 ンを見て「できれば : 、たことはないだろう」 「またいっかの方がいい」 、どんなふうに ? 」 「いや、今だ。・ほくは : : : 」 ・何かーー・さがしているみたいに」 「どうしても君は今聞きたいのかい ? 」 ・君の気のせいだ」 「ああー ・そうかもしれない」 「いいだろう。だけどーー、ます坐れよ」 沈黙。 「ここに ? 」 ・話をーー・ーしたくないのかい ? 」 「そう、だけどーー椅子をむこう向きにしてくれたまえ」 ・何について ? 」 「壁を見てろっていうわけか」 ・好きなテーマを選びなよ」 「どこでもいいさ」 いや、君が選べよ。君にだって自分なりのーー、欲求や不満がある 「さ、それで ? 」 一ずだ。そうだろう ? 」 沈黙。 ・・ほくに ? ・」 「あの女性ーー ・君にだ。なぜ答えない ? 」 「ああ」 ・どうも一 = ロい ~ 力が : : : 」 「存在しなかった」 ・何 ? 言い方が ? 」 「どういうことだに」 いらいらしている。何で ? 」 ・君は ・もういらいらしていない。話してもい ひとりでいるとき、君「彼女ははじめからいなかった。・ほくが彼女の言葉をーーー・彼女をー ーすべてを考え出したんだ」 〔どんなことを考えているのか ? 」 「そんな馬鹿な ! ・ほくも彼女の声を聞いたんじゃないか ! 」 ・もうその質問はしただろう」 リディアは : : : 」 聞きたいわけか」 229