おしてからいった。 ん」 「 : : : というわけで、あたしも北村も橘も、龍に三代目を襲名させ龍一郎は、両手のこぶしを合成たたみにつけ、顔だけあげていっ たいと思っているんですが : : : 」 美津はことばの終りを濁らせた。 「しかし、北村も橘も、おめえを推挙してるんだぜ」 「ですが、というと、なにか問題がありなさるのかい、お美津さん義三は、納得のいかない顔をする。 「龍は、もうひとり福永がいるというんですよ」 変則軌道小惑星キロンの中里左吉郎がたすねる。 美津がいう。 「ええ、かんじんの龍が、どうしても、首をたてにふってくれない 「福永は謹慎中の身じゃないか」 んですよ」 今度は左吉郎が、けげんな顔でいった。 「実はそのことは、後でみなさんにはかろうと思っていたんですが 美津が、ちらっと龍一郎のほうを見ていう。 「そりやまた、・ とういうわけたい ? 俺も龍なら、立派な三代目に 。あの人も亡くなったことたし、福永の謹慎はここいらで解い てやろうと考えているんです」 なれると思うが」 ジュノの国枝達治が、みごとな口ひげをひねる。 美津が、四人の叔父貴の反応をうかがうようにいった。 いいだろう。福永の所払いは、ちょっとばかりかわ 「おお、そりや 「そのとおりだ。龍なら、三代目として文句はねえ。いや、俺はひ よっとして北村たちと対立があって、それを調整するための集まり いそうな気もしてたところた。なあ、兄弟」 かと心配してたんだが、北村も橘も大賛成とありや、なにも問題は達治のことばに、残りの三人の叔父貴がうなずいた。 ねえじゃねえか。それとも、龍。なにか、おめえ、どうしても、う「ありがとうございます。では、さっそく、使いをやることにしま んていえねえわけでもあるのか ? あるんなら、聞こうしゃねえかす」 美津が、うれしそうに笑い、頭をさげた。 叔父貴衆の中で、もっとも年若のアイリスの高垣義三が、龍一郎「すると、なにかい ? 龍、おめえは、福永を含めた三人の兄貴分 の中から、三代目を選べというのか ? 」 のほうに身を乗りたす。 「へい。おことばに甘えてしゃべらせていただきます。姐さんはじ義三が、ふたたび龍一郎にいう。 め叔父貴衆が、ふつつか者のわたくしを、三代目にご推挙くたさる「へい。それが、筋かと : : : 」 「まったく、堅えやつだな、おめえは。いや、たしかにそれが筋と お気持ち、身に余る光栄でございますが、ごそんじのように、わた いえば筋にちがいねえが、俺たちも北村たちも、おめえが継ぐのが くしには三人の兄貴がおります。渡世の筋からまいりましても、こ っていってるんだ。・こ、、 ナししち、寺島の兄弟は、最初つからおめ こはわたくしのような貫目不足のもののでるところではございませ 2
S F スキャナー りて行くと、まだ船の中のはずなのに、そこはめ、身分を下げられ、今では黄泉の国で龍神のじめる。悪運、失敗、死。それが三人の 古い洞窟である。そこにはアイゼンの部下であ家令をしているのです。できればあなたがたとの答えである。 る鬼、シコメたちがいる。オノゴロ島から追わ行を共にし、オロチを退治して家の汚名を晴らオオノヤスマロが異議をとなえる。日本書紀 によれば真実は二面的であり、予言は不可能で れた彼らは、アイゼンの力を借りて故郷を奪還したいと思います。 しようとしているのだ。その大将は羅生門でサ干珠を使って海水を干かせ、三人は海岸に立ある。旅人は自ら運命を切り開かねばならな ムライ頼光に片腕を落とされたイぶラキであっ。崖を登ると、ちょうど海からアマテラスのい、 る。 鏡・ーー太陽が昇るところだった。朝日の中で一一一詩人と学者はそれそれ着物から古い巻物と筆 その時、戦いが起こった。〈霧の海〉に棲む人はそこにもう一人の男が立っているのを知を取り出す。ヒ工ダ / アレは古事記を、オオノ カツ。ハたちが〈大舟〉を襲ったのだ。 ミロクのる。古めかしい鎧を着け、兜をかぶったその男ャスマロは日本書紀を。二人が筆と巻物をかま えると、それは大刀と手楯に変わる。二人はそ 水夫、ンコメカツ。、こちが 2 、、当、 ~ 、一 " ( 0 ~ 。 ( ( 、ー一を れで戦いはじめる。首がとび、腕が落ちるが、 入り乱れての戦いにキシモも第 ( ( 決着がっかない。オオクニヌシは笑って手を。ほ 巻き込まれる。 んと打つ。すると二つの霊は消え去る。オオク 戦いが終わった時、キシモ ニヌシは三人に告げる。旅人よ、ヤマタノオロ は無人となったカッパの船に ポチが待っているそ ! わたしもおまえたちに加 乗っていた。そこで再びアイ わろうー ゼンと出会い、二人は〈霧の さて、キシモ、アイゼン、スサノオ、オオク 海〉の底へと降りて行く。海 イズモ ニヌシの一行は出雲の国へ到着する。ヒの川の の底には森があり、草原があ ( チ河口で一軒の農家に入ると、年老いた夫婦が泣 り、池まであった。二人は水 いている 品と黄金でできた宮殿へと歩工 み寄る。ここは黄泉の国、 この後しばらくは、おなじみのヤマタノオロ 〈霧の海〉で死んだ水夫たち チの話なので、カット。 のたどり着く所。その王であ気、 それにしても驚いたなあ。日本神話もここま る龍神は、二人を龍宮の宴に 招く。笛や太鼓、琴や琵琶の合奏に、タイやヒこそ、魂魄の支配者、オオク = ヌシだった。三でデフォルメされると、あきれるというより感 ラメの舞い踊り。宴が終わると、龍宮の家令が人は自分たちの運命について予言を求める。オ動してしまう。神仏混淆、古代と中世がごたま 二人に海の潮の満干を自由にする二つの珠、満オク = ヌシはそれに応えて、霊界から二人の霊・せで、何となく中世、近世の伝奇物めいた感じ 珠と干珠を手渡す。家令は二人を海の上へと続を呼び出す。烏帽子をかぶり宮廷風の長い着物もある。古事記、日本書紀ばかりじゃなく、太 く高い塔へ案内しながら、自分の生い立ちを話を着た青白い顔の一一人が現われる。一人は白い平記や平家物語も参考にしたに違いない。 5 す。わたしはスサノオといいます。かっては高髭を生やした詩人、ヒ工ダノアレ。もう一人は原文は力強くてなかなか格調高い。ちょっと クサナギ 2 驚くのは、語り物めいた効果を出すためか、直 貴な家柄だったのですが、家宝である草薙の剣髭のない学者、オオノヤスマロである。 ヒ工ダノアレはおじぎし、古事記を朗唱しは接話法が一つもなく、会話が全部地の文に織り を先祖がヤマタノオロチに奪われてしまったた オオフナ
もないだろう。だから、ここはひとまず橘が三代目を襲名し、五年「なに、でえじようぶだ。おめえなら三代目は務まる。北村や龍も でも六年でもしてから、改めて龍が四代目を今度は気持ちよく継い手貸してくれるたろうし、どうしてもいけなきや、俺がカになる じゃあどうたろう」 よ。安心しな。しかし、なんだな。これでお里さんもよろこぶぜ」 こやりと笑った。 一策は、ロを開きかけた橘をさえぎっていい、冫 一策は、もの柔かい口調でいった。 「めっそうもない ! 野村の叔父貴、あっしはとても。三代目は龍「本日は、叔父貴衆には遠路はるばるごそくろういただきありがと うございました。おかげさまで、寺島組三代目跡目相続の件もぶじ おさまりました。つきましては、粗末ながら、隣室に会食の用意が 橘が、びつくりしていった。 なにかといえばおめえたちは龍っていうが、もございます。どうか、ごゆるりとおくつろぎくださるよう、おねが 「ばかやろうー い申しあげます」 し、龍がまだタイタンにいたら、この場をどうおさめたんた。いい から、おめえが三代目を襲名しろ。それが、この際、一番の解決方美津が、叔父貴衆に向かって、ていねいにあいさっした。が、こ 法なんた。お美津さん、みなの衆、それで異存はあるまいな」 の美津のあいさつが終るか終らないうちに、一策は脇の宇宙帽を小 それまでの口調とはがらり変わった、有無をいわせぬ威丈高な野脇にかかえ、そそくさとたちあがるといった。 、一策のダミ声が、部屋の中に響き渡った。 「お美津さん。好意はありがたいんたが、俺は今日は、これからち 美津も三人の叔父貴たちも子分衆も、この一策の決定にはおおい っとばかり所用があるんで、すまねえがこれで失礼させてもらう。 に不満だった。 : 、 カ一策自身のことばどおり、ここにいる九人の中襲名披露は、なるべく早い時期にすませたほうがいいと思うよ」 で、寺島組の二代目を「善次郎」と呼び捨てにできたのは一策ただ そういい残して、すたすたと出口に向かう一策に、城があわてて ひとりなのた。その一策の決定に不満をいうのは、野村組百八十人自動ふすまの開閉装置を足で踏んだ。 を敵にまわすに等しい 「どうも、ありがとうございました」 しかも、どうしても三代目襲名を承諾しない龍一郎を納得させる 一策のうしろ姿に、美津は両手をついておじぎした。 ことも、これといった代案を見つけることもできないとあっては、 「野村の親分はお帰りか。それじゃ、俺も今日は申しわけねえが、 この決定に従わざるを得なかった。 これで帰らせてもらうことにするかな」 「だれも反対はねえようだな。そうかい、この野村の顔をたててく今度は左吉郎が、席をたった。 れてありがとうよ」 「しゃあ、俺も帰るよ」 一策が、満足そうにいナ 義三がいう。 「叔父貴・ : : ・」 「お美津さん、ま、元気だしてがんばんなさいよ」 橘が、一歩前にでようとした。 達治も、なぐさめとも皮肉ともとれることばを残してたちあが 2
ろ、お出迎の準備をするか。おい、レーダー。やつらは、あとどれ龍一郎が答える。 くらいでベスタに着く ? 」 「これでも、まだ、おめえはをとめるつもりか : : : 」 「へい。中速で向かっておりやすから、かれこれ一時間ぐらいかと「 : 「そうかい。それじゃ、 、ってもいいんだな ? 」 「へい。ただし、ひとりじ 、いけません」 レーダー係が、計器を見つめながら答えた。 「よし。二十分後に全機発進開始だ。よく整備しておけ。相手はた 「なんたとに」 ったの三人た。全機でかかればわけはねえ。それから、全員に伝え ーアカぐっと身を引き締める。 ろ。三人のうちたれでもい、。 ひとりでも殺った者には、小惑星フ 「ひとりでいくのは、この昇り龍が許しません」 オカエアの繩張りを預ける。三人で分けても立派なも・んたぜ。今度 , 龍一郎が、じっと目をつぶっていう。閉したまぶたら、ふた筋 は、みつともねえことのねえように、頼んたぜ」 の泪が、を冫 一策は、ぐるりと部屋の中を見回した。 「じゃあどうしろと ? 」 「あっしも、 っしょにい . きます」 コン。ヒュータ・ルームの子分たちが、声をそろえた。 「龍、おめえ卩」 「よーし。声ばかりじゃなく、立派な働きをするんた。せ。発進ま「ためです、兄貴。 いいだしたら、聞かねえのは知ってのとおり で、あと十九分。全員持ち場につけ。原子破壊砲の手入れを忘れんだ。い っしょにいきます」 なよ」 「いや、今度は俺のとめる番だ。橘も死んだいま・これ以上の犠牲 秋山が、全員を叱咤した。 はいらねえ。あとは俺ひとりが死ねばいい」 福永が、龍一郎をさとすようにいう。 : このばかが、なにも自爆することはねえものを : : : 」 「いきます。橘の兄貴のためにも第っしがいかなかったら、の すでに、銀色の断片さえ見えなくなった窓の宇宙に釘づけになっ兄貴はなんのために死んだんだがわからない」 たまま、福、水は呟くように、 龍一郎の決意は固かった。 龍一郎と梅原も、エンジンを停止したまま、無言でなにもない宇 「わたしも、おともさせていただきますよ」 宙を見つめる。 ふたりの会話のとぎれ目に、梅原が口をはさんだ。 、「二代目、それはいけねえ。これは寺島の組内の問題だ」 ネ、「 , 力いった。 被永があわてる。 「でも、わたしは龍一郎さんに、命あずけた身なんでね」 8 4
構想に対する反対 : : : 。なにか、手をうたなければならない、一策「しかし、兄貴。残念たが確たる証拠がない」 は考えこんた。 龍一郎がいう。 とはいえ、美津や他の叔父貴衆の手前も、そう軽々しくことに踏「そのとおりです、福永さん。滝本は顔見たとい 0 てるが、は 0 き み切るわけこよ、 冫冫しかない。妙案はないものか ? りはしていない。殺られた三人の子分はかわいそうだが、わたしの 「もし、どこの組にも属さねえ、流れ者の暴漢一味が、偶然、通り気持ちはわか 0 てくれるはすだ。もし、福永さんがいわれるよう かか 0 た福永を殺「たとしても、親分はなんら困ることはねえでしに、野村組がとんでもねえ野望いだいてるようなら、なおさらこら えなきゃなりません。いま、ここで福永さんや寺島組がへたな動き 考えこむ一策に、代貸の秋山がいった。 したら、向こうの思うつ・ほです」 「そりや、そうだが、そんな流れ者がいるのか ? 」 梅原が、きつばりといった。 一策がたすねる。 「ありがとう、二代目。この寺島のことをそこまで考えてもらっ 「おりますぜ。威勢のいいのが百八十人ほどね」 「じゃ、組の者を ? 」 美津が、その目にうっすらと熱いものをにじませて梅原に頭を下 「いや、盃返せば、赤の他人でさあ」 げる。 「なるほど。橘からの連絡では、三日後に福永はひとりでこっちに 「兄貴、梅原さんもこういってくたさるんです。ここは、なんとか やってくる。その途中、どこかで事故が起こるかも知れねえな」 こらえてくたさい」 一策は、秋山と顔を見合わせて笑った。 龍一郎は、拝むようにいう。 筋書きどおりことが運べば、事故が起こったかも知れなかった。 「龍、おめえは野村の叔父貴が、どさくさまぎれに橘を三代目に襲 だが、出発のその日、福永は美津の頼みで、いまはす 0 かり和解し名させた時も、俺にこらえろとい 0 たな。また、今度も同じことを たパラスの藤原組に使いにでなけれ。はならなかった。そして、予定 いうのか ! 渡世の筋ないがしろにしようって相手でも、こらえな を変史した梅原正二が、流れ者の暴漢が待ち構える宙域を翔んでい けりやいけねえっていうのか」 くことになったのたった。 福永は右手で、外から帰ってきたばかりで、まだ着替えのすんで いない宇宙服の膝を力いつばい擱んでいう。 「龍、そこまでわかていながら、なぜ止めるんだ。倉持の親分さ「こらえてもらいたいんです、兄貴。相手が野村の叔父貴たからこ んの大事な子分衆が三人も殺られていなさるんたぜ」 そ、がまんしておくんなさい。名親分とうたわれた善次郎親分が亡 寺島組の会議室の中央で、福永は顔を、鬼のようにま 0 赤にしてくな 0 て、一年もたたないうちに、いわば身内でもめごと起こした ら、寺島組は世間のもの笑いです」 4
前、仕事場を訪れた男もいっしょだった。彼は三人を見てびつくり「おれはあの男にどこかで会ったような気がしてたんだ。いま思い したようだった。 出したよーー二週間前に、ヴォルタス知事の選挙事務所から出てく 3 「やあお歴々、こんなに早く仕事が片づいたのかね ? 」 るところを見たんた」 「坊さんが姿をみせないんです」ロ ・、ールが息を切らして言った。 「顔をみせないって ? そいつはおかしい ! ほんとかね ? 」 ノ、力し しばらくあっけにとられた沈黙がつづいたあとで、、 「もちろん、まちがいありません。現場にいたんですよ ! 」 まいましそうに言った。「だまされたんだ。まちがいない。オリッ 「ねえ」ドルフが口をはさんだ。「仕事をさせようとあなたが雇っクにしてやられたんだ」 た僧侶は、何という名前です ? 神殿へ行って、その人を探したい 「じゃ、どうすりやいし」 んです」 「おれたちに何ができる ? 」 「彼の名前 いや、そういうことをしちゃいかん。そんなことを「知るもんか」 したら、いろいろ面倒なことが起る。わしが神殿へ行ってみよう」 「ちょっと待った、みんな」クレヴァムがとりなすような声をあげ 「われわれもお供します」 た。「コンドールはむかし僧侶だったな。たぶん奴さんにも思念移 「それにはおよばん」オリックはつつけんどんにはねつけた。「き動はやれるだろう」 みたちはこのまま砂利坑にもどって、用意が万端ととのったかどう「なるほど。見込みはあるそ ! さあ急ごう」 かたしかめてくれ」 だが、コンドールはすっかり参っていた。 「そりゃないですよ、オリック、準備ができてからもう何時間もた かれらはゆすぶった。顔に水をぶつかけて、行ったり来たり歩か っています。クレヴァムを連れていって、坊さんの道案内をさせたせた。老人はとうとう酔いをさまして、どうやら質問に答えられる ほどになった。 らどうです ? 」 「そういうことはわしにまかせなさい。さあ、帰った帰った」 ロ。ハールが渡りあう。「ねえ、おやじさん、だいじな話だよ。あ 三人はしぶしぶ言われた通りにした。むつつり黙りこんで、もとんたには思念移動をやれるかい ? 」 きた道を引返した。砂利坑に近づくと、クレヴァムが大声をあげ「はあ ? わしが ? そりゃあむろん、できんかったら、ピラミッ た。「なあ、みんな気づいたかいーー」 ドなそ造れはしますまい ? 」 「何だ ? ちゃんと言えよ」 「。ヒラミッドなんかどうでもいいんだ。ここで今夜、あの像を動か 「オリックといっしょにいたあの男だが ここに連れてきて、引せるかい ? 」 つばりまわした奴じゃなかったかい ? 」 コンドールはくいさがる相手に、まっ赤な目をすえた。「あんた 「そうだ。どうして ? 」 な、偉大なアルケインの諸法は、時と所をとわず不変ですそ。黄金
る。城、北村、橘の三人が血相を変えて、叔父貴衆を引きとめよう と腰を浮かした。それを美津が顔で制した。 それは、あの流刑星タイタンの猛吹雪を、なん百回となく経験し 2 「さようでございますか。叔父貴衆のお忙しいご都合もうけたまわてきた龍一郎にさえ、カプセル防雪車の外へ足を踏みだすことを一 らす、ぶちょうほういたしました。お気をつけてお帰りください」瞬、ためらわせるほどの激しい、アンモニアの氷嵐だった。 「姐さん、橘の兄貴、申しわけありません。あっしがわがまま通し「おどろいてなさるようだが、この地獄の星じゃ、この程度の氷嵐 たばっかりに」 は珍しくもないだよ」 両手を膝の上に乗せ、まばたきもせずにたたみの一点に視線を集道先案内の老人が、窓から外を見ている龍一郎と田島の表情を読 みとって、笑いながらいう。 中していた龍一郎が顔をあげた。 「いいんだよ、龍。なにも気にするんじゃない。野村の親分のいう「宇宙服のヒーターを最強にして、防雪外套のボタンをしつかりと とおり、お前のいうことのほうが正しいんだ。むりじいした、あためなさらんと、風邪ひきますでな。天気情報によると、ここいらあ たりは、いまマイナス一八〇度を越えてるようだで。しかし、福永 しが悪かったんたよ。橘、組のことはよろしく頼むよ。それから北 さんも、街に住みなされま , ーいいのに、たいへんなところで暮しゃ 村。お前の顔に泥塗るようなことになっちまってすまなかったが、 る。じゃ、 いいですかな、扉をあけますそ。ワイバーは役にたたん ここはがまんしておくれ」 美津が、三人に順番に頭をさげた。 ので、わしに、しつかりと捕まっておいでなされ」 「と、とんでもねえ。なんてことなさるんです、姐さん。あっし老人はい 壁のボタンに指を触れた。二重ロックの扉が静かに は、顔に泥塗られたなんて、これつぼっちも思っちゃおりやせん」開く。老人がます、中に人り、龍一郎と田島が後に続いた。 北村が、真剣な顔でいう。 背後で内側の扉が閉まるのを待って、老人は、外側の扉をあけ 「そうかい。そういってもらえると、ほっとするよ。それにして も、みんなには、ほんとに、いやな思いさせちまった」 吹雪というにはあまりにも激しすぎる氷の壁が、金星の火炎竜の 「もう、 しいしゃありませんか、姐さん。それより、福永の兄貴を咆哮を一万倍にも増幅したようなうなりとともに、三人の前進を阻 、と思いますが」止しようとたちはたかっていた。 迎えにいく役はたれに ? 少しでも早いほう力いし 「あ、兄貴ー 北村が話題を変えた。 「その役、あっしがうけたまわります。橘の兄貴の襲名披露に出席田島が、恐怖に顔を歪める。 できないのは残念ですが、ぜひ、いかしてもらいます。いっしょ 「うむ、話しに聞いていたより、はるかにすごい氷嵐た。怖いか に、兄貴がかわいがってた田島を連れていきたいと思います」 龍一郎がいう。 龍一郎がした
ころも。彼女があなたに、パ ンザレラ博士には言わないと約東させっていた。明らかに、キャリントンがむりやりに着せたのだ。まる てる声も、聞きました」 で、祭壇に卑猥なイタズラ書きをするワルガキみたいに。しかし、 それを着た彼女の、落ち着きと奇妙な威厳とが、かれを当惑させて わたしはじっと待っていた。希望がわいてきた。 いるらしい、とわたしは気づいた。わたしは彼女の眼を見つめ、に かれは涙をぬぐった。「ここへ来たのは、。、 / ンザレラのところへ こっと笑った。「やあ、おチビ。こいつは素敵なテープだぜ」 行くと、言いに来たんです。見たことを、かれに話しに。あの男は きっとキャリントンを脅かして、すぐに彼女は送りかえされるでし「見てみようか」キャリントンがいった。かれと少佐とは、デスク のうしろに、シャーラはそのよこに坐っていた。 「それで ? 」わたしはいった。 わたしはオフィスの壁につくりつけになったヴィデオ装置に、テ 1 。フを押しこみ、灯りを暗くし、シャーラの向いに坐った。それは 「ぼくは、あのテープを見てしまった」 「すると、きみは『スターダンス』で、たぶん彼女は死ぬとわかっ 二十分間、まったく中断なく、サウンドトラックもなく、素っ裸で つづいた。 たわけだな ? 」 「ええ」 まったく、すごかった。 「われわれは、なんとしても彼女にあれをやらせなくてはならない 「たまげる」というのは面白い言葉だ。人をぶったまげさせるに ということも ? ・」 は、なにかが正確に、人がまだ冷笑や皮肉で武装していない場所 「ええ」 を、射抜かなくてはならない。わたしはどうやら生まれつき、シニ 希望は死んだ。わたしはうなすいた。「それじゃ、出てって、おカルな性格らしく、記憶にあるかぎり、また生涯に三度しか、たま れに仕事をさせろ」 げたことはない。最初は、三歳のとき、故意に仔猫を傷つける人間 かれは出ていった。 がいると知ったときた。二度めは、十七歳のとき、この世にはほん とうに Q を飲み、楽しみのために他人を傷つけるやつがいると ウォール街でも、スカイファックでも、午後もだいぶ遅い時刻に知ったときだ。三度めは、『質量は動詞である』がおわり、キャリ なったころ、わたしはとうとう満足の行くようにテー。フを仕あげントンがまったくふだんと変らない口調で、「じつに楽しい、じっ た。そして、キャリントンに電話をかけ、シャワーをあび髯をそり に上品た。気にいったよ」といったときだった。あのときわたし 服をきちんとして、三十分で行くからと伝え、出かけていった。 は、四十五歳になって初めて、この世には・ハ力でも気ちがいでもな 理性のある人間で、しかもシャーラ・ドラモンドの踊りを見 オフィスに入ると、スペース・コマンドの少佐がいっしょだった が、紹介がなかったので、わたしは無視した。シャーラもまた、オて、まったくなにも見えない人間がいると知ったのだ。われわれ人 間というやつよ、 をいくらシニカルでも、つねに幻想をいだき、そ、 レンジ色の煙みたいな、乳房のむき出しになる服を着て、そこに坐 幻 6
「まあ、せいぜい考えたほうがいい。親分の帰りを待って、話して親分も人のいいお方だ。自分の命狙われても、また、福永をかばう みるのもいいだろう。もっとも、俺があんたの立場だったら、これんだから。それは、それとして、さっきのうちの親分からの話し、 はもう考えこんでる場合じゃねえがな。そうだ、こんな方法もある聞いてもらえるでしようね」 ぜ。今日の午後、俺はちょっとばかし内密の話しがあって、橘の親森田は、操縦を自動に切り替え、横目で橘をちらりと見ながらい 分と、小惑星四八ー二九の廃坑で会う予定になってる。親分はった。 若い衆連れすにひとりでくるはすだから、田島さん、あんたもそこ「考えさせてほしい」 橘が静かに答える。 へきて、直接橘の親分の気持ちを確かめてみちやどうだ」 「けれど、あんたのいうようなことを橘の親分が、本気で考えてる「考える ? 冗談じゃないですよ。考える余地なんざなにもありや としたら、聞いても、正直にや答えてはくれまい」 しない。連合会ができりや、いままでみたいに、警察の目を気にす ることもないし、政府の仕事もどんどん入ってくるんですぜ。なに 「そりや、そうだな。なに、まだ時間はある。じっくり考えたらい しろ、。ハックにや、星嵐党の鬼塚先生がついていなさるんだ」 森田は、それだけいい放ってスクリーンを消した。田島は、椅子「いやとはいっていない。考えさせてくれといってる」 「時間がないんですよ。鬼塚先生が、・ヘスタにこられるのは、一週 からあがった。 間後た。それまでに同意書に判押してもらわねえと、うちの親分が 困るんです」 「まだ、あの若い者のことを考えておいでなさるんですかい ? 」 宇宙船に乗りこんでから、終始無言で窓の宇宙を見つめている橘森田が食いさがる。 「しかし、俺の一存じゃ決められねえ。姐さんや龍一郎の意見もき 文吾に、森田啓一がいった かなけりゃな」 「本家の親分に刃向ければ、殺られてあたり前のことですぜ。そう じゃなくても、ありや、正当防衛だ。あっしが殺らなきや、親分が橘は、はしめて目を窓の外から隣席の森田に移していった。 殺られてたんた。それにしても、福永さんという人も、汚ねえこと「それが冗談じゃねえってんですよ。そういうめんどうくせえこと をする人だ。あの男が、親分のためといったことからもまちがいねがねえように、うちの親分は橘さんを三代目に決めたんしゃねえで え。これは福永のさしがねだ。自分の顔を飛びこえて三代目襲名しすか」 森田は、身体を乗りだすようにしていう。 た橘さんへの腹いせに決まってるんた」 「俺あ、野村親分のあやつり人形ってわけかい ? 」 「福永の兄貴のことは、いわないでくれ」 そと 「いえ、そういうわけじゃねえですが、橘さんが寺島組の三代目に 9 橘は、窓の宇宙に向けた顔を、びくりと、動かさすにいった。 なれたのも、親分の青婦だったお里さんといっしょになれたのも、 へい。橘さんがそういうんなら、なにもいいませんがね。
とこへ行くのか、かれなわれ、多くの小さな島が残されているだけなのを見た。かれらが 、、かれらはそこから出発しようり一 (-). ていた。・ 地中海と呼海は、その地域で、それまでの何倍もの大きさにひる、 らは自分たちの街を見棄てようど攻いるのだ「た。 「祭壇の上にうすくまるものが、めまぐるしく形を変え、その表面がっていた。 残「ていた人々は、木の葉 9 ような島に移り住んだ。かれらはそ 光はさざ波のように、 たえ寸微々な翳と動きを生み出しながら、一生こをクレタ島と呼んだ。 したい何か起り、どのようなできごとがあったのか、誰も知ら き物のように二人を甲しつなもうどした , ハルナが、アグニのうでをとると、光の縞をくぐって走った。 残されたヴァョラタ国も、 いっとは知れすに亡び、その地に新し 光の縞カ反転し、ふたたび黼紋・のように二人をとらえた。 く別な国生れるまでには 0 なお、八千年余を過さなければならな その 、パルナの指は確に、扶差が押そうとして押すことが いのたった 、できな ~ たホタンにとど、ていた。 、パルナとアグニ 去ネ小さな爆発が起った。一一回、三回、それは , ネルをはずし、」 ( 今でも、イズミルやエドレミトの岸辺に立っと 曾彫を床い落しな「何回目かの爆発は、王城の半分を飛 ) , の姉妹の悲しい唄が聞えてくると、その地方の漁師たちは一『〔う。 散さこ。そして、大発が起 ? た ~ 誰か、新しい節をつけてくれ。 爆発 = 、はる 0 」西「海 ) 〕第、アグ卩一人 0 大陸をるわせた。 悲しい唄は、楽器をひく指も疲れるとい、つものだ。 また、東はヴァーラタの平い打ちのめし、コンロンやテンシャン の山用を燃え上らせ、はるかにサハリンの水原を真紅に浮き上らせ 北から来た吟遊詩人サダ・ た。・発の衝撃波はさらに東の海をひとまた、ぎして、アクロンの大 ナフリン・カカの唄、つ。 陸お、たり、その地の人々を再度、恐布におとし入れた。 ( アョドーヤ物語・第 ) き上られたとほうもない土の量と、爆発によ「て作られた未 知の科学物質は「。厚い雲となって、天も地も、すつばりとおおいか 註 1 クルーガー 3 亠パ亠日「い写にレ小った。しかし、はとんど翻印Ⅳィ一口ム日 くした。 であり、そのような気分とのみ解していただきたい。 太陽も、月も、全く姿をあらわさない年が、百年近く 註 2 地球上で考えられる爆発の中で、ある種の量子物理学的反応に の果から、南の果から急速に水の海がせり出し、 , ひろが よるところの最大級のものであろう。その痕跡は、今日なお、地 ( 計 3 ) 球 -= の各地に残されていると考えられる。 、めた。あらゆる生き物の死がやってきた。 註 3 記録によると、地球の新生代と呼はれる時期における最後の水 い年月が過ぎて、陽光が雲の切れ目からのそいたどき、生 河期であったという。これと「オシコシ・バルガ水期』の関係は 不明。同水河は《青の海一万二千年期》に最大の面積を示した。 き残やて . 、発人々いアトランティス大陸と呼はれた部分が完全に失