一つとくだけていく。それそれが歯痛のような断続的な音をたてな がら : : : われるような苦痛のなかで、彼はまだジョセフに、そして マッケイ医師に説明しようとしていた。彼は泣きだしたかった。た が、連中は聞く耳をもたず、締めつけてくる。何千もの彼ら。鏡地 獄の彼ら : ・ ピアノの鍵盤はかたく、すこしばかり暖かかった。そして、サテ ンのリポンのように、白くどこまでも伸びている。彼は顔の片側を その上にくつつけていた。そこから逃れることは不可能だった。ジ ョセフとマッケイがしゃべっている。二人は彼をかかえあげ、ソフ アーの方へと移した。二人がやすやすと彼を運ぶのを感じた。 顔、そのロが動いている。 「 : : : 溢血た。これから見ると軽症だな」 「かわいそうな男だ」 少なくとも、彼には二人の動くさまは見えなかった。 「 : : : かなり影響したのかな ? 」 「ちがうだろう。もっとも、要因の一つには数えられようが」 たとえ彼の精神が影響を受けたとしても、どうしてそれがわかる だろう。もっとも恐しいことは、知らないでいることだ。 「麻痺たな。ほらーー右側が全体的に」 「それで、ヨダレを垂らしているのか」 ・どうだ 「彼にはわれわれのことが聞こえているかもしれない・ ね、カッサヴィーツさん ? どーんーなー感じですか ? 」 氷。氷、割れ、裂け、こだまする。雑音。彼はほほえもうとし 「彼は」ーー・静寂・・ーー「死なないな ? 」 「もちろん、大丈夫」 「またひけるだろうか ? 」 「彼は」ーーさらに、静かに 「たぶん。電気的な再教育テク = ックを使えばね。息者の協力さえ 得られれ・は、われわれは何でもできる」 患者の協力。 「でないと、世界の大きな損失になる」 「みんなとり戻せますよ。気にしないで」 患者の協力。 「救急車を呼ぼう」 患者の協力さえ得られれば、彼らは何でもできる : ・ 彼らはポールが震えていると思った。いろんな布で彼をくるみ、 ショックに耐えられるようにする。だが、彼は震えてなどいなかっ た。彼は笑っていたのだ。しかし、その顔がちっともおかしいよう に見えなかったので、彼らにはわからなかっただけだ。彼はクロム ウ = ル式の階段をタンカで運ばれていくあいだ中も、ずっと笑いっ づけた。そして、その笑いを内奥の耳朶で聞いていた。 彼は連中をうち負かしたのた。
「あ、そうか。しかし鏡の上に落下して危くないかなあ。俺達のテんとふくれた物は、あきらかに諸子ちゃんの乳房の一つである。 ' フ レポートは今のところ肉体だけしかまざりあっていないけれど。他リンのようにぶるぶると揺れていた。まさか、こんな状態であこが の物とまざりあったら大変なことになっちまう」 れの諸子ちゃんの胸を見ようとは・ もう一つは下の方にあっ しかし、何と言っても醜悪なのは男三人の性器だ。幸いに 「じゃあ、あそこまで、ためしに床の上を歩いてみるか」 も諸子ちゃんの頭の傍にないだけ助かったといえよう。 俺達はなかばころがるようにして床の上を移動しようとした。 が、どうたろう。何と俺達の体がふわりと浮いたではないか。 俺の頭を真中にして左右に五十嵐と諸子ちゃんの頭があった。仁 「う、ういたぞ平目 ! 」 さんの頭だけは胴の真下にくつついてしまっている。と言っても逆 になれば俺達三人の頭が下になってしまうのだが。 手足はもう 「ほんとた。そうか、これはきっと念力というやつだな。四人がい っしょになっちまったんで集中力が増して、こんなことも出来るよどれが誰のやら、動かしてみなければさつばりわからない。動かし てみても、とんでもない所についているので役に立ちそうもない。 うになったに違いない」 四人の手足合計十六本が、丸い胴の表面に、まんべんなく針のよう 「そうかもしれないな」 に突き出ていた。 俺達は店の中の空中をふわふわと浮かび、カウンターに置いてあ 内臓など内部は、もう想像を絶した状態に違いない。 る鏡の上に移動した。 仁さんはさすがに泣きやみ、ぐすぐすと鼻をすすっていた。諸子「ああいやだいやた。私はもう見ていられない。おおぶ、 「こらまた吐くな ! 」 ちゃんはじっと黙っている。 「これからどうする五十嵐」 鏡の上に浮かんだ。 「むろんテレポ】トだ。さっきも言っただろう。とりあえず、こん 「いやああん ! これがあたし ! 」 な狭い店の中でごちやごちややっていないで外へ出よう。やれ、平 口を切ったのは諸子ちゃん。 目」 「うわああ。おおぶ」 「こら ! 仁さん吐くな ! 」 「わかった。皆も手伝ってくれ」 「ああ、これはみんな俺のせいなのだ、ああ」 三人のときよりもっとひどくなっていた。四人の胴体は完全に一 一瞬後、俺達はスナック「ボコボコ」の外の路上に浮かんでい つになってしまって、球に近づいている。その表面に四人の頭や手た。四人の力はかなりなものらしく、もう真白の視界や、落下感覚 足が生えていた。 も起きな、。 胴の表面はかなり凸凹が激しく、よく見ると、そのでつ。はりやヘ 外はすでに、うっすらと夜が明け始めているしまつだった。朝の 3 こみが、もと誰の何だった物かわかる。俺の顔の真下にある、ぶく空気が冷たく、雀の囀りがチュンチ = ンとかまびすしい
の度がすぎるのさ」 「エビクトは脱落査定法を使って、それをさぐりあてたのさ」スミ ルノフが説明した。「おそらく抹消のしかたが不完全だったんだろ「一つ。な・せ、アメリカ・インディアンの平和のパイプが、なにか 3 う。わしの見るところ、キュ 1 ・フというのは、民衆記憶からなんら卑猥なもののように言及を避けられて、どこにも見当たらないのか かの方法でむりやり消し去られたある単語の、ゆがめられた形だ。 工。ヒクトはこの手がかりをある民謡から得たのだが、その民謡はど「これはわれわれが集まってからの新発見だ」と、スミル / フ。 「やつの蓄積はもう相当な量にのぼっている」 うやら抑圧の主流から遠く離れていたらしい。でなければ、たとえ ? 」と、エビクトがはじめた。 ゆがめられた形にしろ、いままで生き残ることはできなかったろ「一つ。なぜ う」 「もういい、おしゃべりはやめて仕事にもどれ」スミルノフは機械 「一つ。なぜ、紐やロー。フの両端をつないだだけのものに、小圏とに命令した。「諸君、明日までやつをそっとしとこう。それまでに いうややこしい名称がついているのか ? なぜ、もっとやさしい単は、なにかがまとまりはじめるかもしれん」いうと、スミルノフは 語が使われないのか」ェビクトが問うた。 のつしのつしと出ていった。 「船員がいつもおかしな用語をこしらえ、陸の人間がしよっちゅう「これはでつかいよ」工。ヒクティステスは、彼のポスが去ったあと それをとりいれてきたことを、エ。ヒクトは考慮に入れたかな ? 」コで、残った一同にそう述べた。「みなさん、これはでつかいことに グズワ 1 スがきいた。 なりますよ」 「もちろんだー・ーエビクトはつねにあらゆるものを考慮に入れとる よ」スミルノフが答えた。「やつはこのての事項をもう何千となく 翌日、一同はシップラップのパ 1 ティーを兼ねて、機械のまわり 集めたし、それらを一つのパターンにまとめられると、自信を持つに集まった。アロイシャス・シッ。フラップはーーー史上はじめて ているようだ」 左巻きの草を育てたのだ。その名がついたのは、この草が左に渦を 「一つ。な・せ、初期のジャズには大きな空白があるのか ? べニー 巻いているからではなく、それを作り上げている有機構成物質の構 ・フラットの言葉をかりれば、まるでその大きな塊が根こそぎひ造が逆だからである。左巻きの鉱物はずっと昔から作られている きぬかれたように見えるが」 し、天然にも存在するかもしれない。左巻きの・ハクテリアや肉汁も かなり昔から知られている。しかし、左巻きの草のように複雑なも 「スミルノフ、きみの機械に並みはすれた才能があるのは知ってい る」グラッサーがしナ 、つこ。「しかし、もしこれらの疑問を一つにまのは、これまでだれも育てあげたことがない。 とめることができたなら、彼は連結型の天才だ , 「あらゆることについて、その効果が逆になるんだよ」シッ。フラッ 「それとも偏屈型の道化師かな」スミルノフがいった。「やつが仕。フは説明した。「この草を飼料にした牛は、体重がふえないで、逆 事のストレスから気分を解放したいのはわかるが、ユーモアと冗談に減っていく。もし万一、骨と皮の牛に販路ができたらと、それを おか
フ。それに、ふざけた機械の扱いにかけては、きみよりもちょっぴのは、無数にあるはずだよ。きみが思い出そうとしているものが、 り厳格なんだ」 どの穴にあたるのか、エ。ヒクトにどうしてそれがわかる ? 」 「わかった、わかった。じゃ、話そう、グラッサー」スミルノフは「一つ。その埋もれた穴は、わたしのポスのスミルノフと埋もれた 不承不承にいった。わしの最初の命令は、こういうものだった。わ関係を持っています」機械のエビクティステスが答えた。 れわれは、その存在が知られていないあるものを、証拠の不在を綿「うん、それはもちろんだ」グラッサーがいった。「エビクトはな 密に検討することによって、発見しなくてはならない。この一般論にかを掘り出したのかい ? 」 的なかたちでエビクティステスに問題を提出したとき、やつは頭か「シャベルで一すくいほどな。しかし、海のものとも山のものとも らわしを笑いとばした」 わからん」スミルノフが悲しげにいっこ。 「わたしの最初の衝動もそれとおなじたったろうよ、スミルノフ」 「一つ。なぜ、ある時代のハンガリーの百科辞典では、 Sik という と、シッ。フラップがいった。「あんたは自分がなにを探しているか単語と Sikamlos という単語のあいだに、不必要な埋め草があるの か ? 」工。ヒクティステスが問うた。 を、もっとうまく表現できないのか ? 」 「シップラップ、わしは自分が忘れるように強制されたなにかを、 「おまえの考えはわかるよ、エ。ヒクト」と、グラッサーがうなずい 思い出そうとっとめているような気がしてならないんだ。わしの二た。「それはなにかの手がかりになりうるそ。もし、ある概念と名 度目の命令も、たいして変わりばえはしなかった。ェビクトにこう称があらゆる参考図書から削除されたとすれば、すべての初版本 いったんだ。″そういう概念そのものが完全に消去されているようで、それとおなじページにあるほかの項目が水増しされるか、それ ななにものかを、再構成できるかどうか試してみようじゃないか。 とも別の項目にさしかえられているはすだ。この作業があわてて行 それが決して存在しなかったという過大な証拠を検討して、それをわれた場合には、質の劣った記事になるかもしれない。さて、 Sik 見つけられないかどうか、試してみようじゃないか″このかたちと Sikamlos の中間にあって、いまでは使われていない単語を、だ で、エ。ヒクトはやっと承諾してくれた。それとも、面白半分に調子れか知らないか ? もしその単語がわかったとして、われわれにそ を合わそうとしたのかもしれん。このガラクタ機械がなにを考えての意味がわかるだろうか ? もしその意味がわかったとして、それ いるのか、どうもよくわからんのだよ」 がなにかの参考になるだろうか ? 」 「しかし、どんな穴も完全に埋まることはない」と、コグズワース 「一つ。な・せクマの子は、むかしキュ 1 プと呼ばれていたことがあ 、力し / 「なにを穴埋めに使うにしろ、量が多すぎるか少なすぎったらしいのに、いまではパップと呼ばれているのか ? 」工。ヒクト るか、それとも、質のちがったものになるかだ。問題は、きみがエが問うた。 ピクトになんの手がかりも与えなかったことにある。忘れられたこ 「クマの子がキ、ー・フと呼ばれていたなんて、聞いたことがない」 と、抑圧されたことーー・一つの穴を埋めたあとのでこぼこを示すもシップラップが反論した。
とだった。だが、もし彼が喜んでそうしたら、ジョセフはこの先何な。山の湖の澄んだ水面って調子だ」 「そんなに偽善者ぶるなよ。きみなら、びいき目はしないと思って 週間も考えこむだろう。 「いや、かなり気に入ったことは確かさ」彼はその理由を説明しはるんだろう」 じめた。そして、一瞬言い迷った。「だけど、難しいとも思った : 「″ひいき目″ ? あんな曲をまた作れるきみが″ひいき目″をす : ・あの、最初の楽章、たとえばーーーあれは本当に鍵盤むきのやっかるかね ? 」 い ? どうも、わたしには、あれはーーー」 ジョセフはソファーに身を投げだした。彼は陰になっている部分 に身を沈め、その白髪だけがビロードのような壁紙に映えている。 「あれは何だと思った ? 」 「わからない。弦楽器の一つだろう。たぶん、大きなフィドルぐらポ 1 ルは六本の透明な柱の上の、この固苦しい窓もない部屋で椅子 をまわした。そして、ジョセフ・プラウン老人が思い出すのをみつ いかな ? 」 めていた。彼に思い出させよう。 ジョセフは立ち上った。歓喜にみちた叫び。 あいっ 「もちろん、彼女がちょっとしたあばずれたってことは : : : 」 「そうか、じゃあきみはあのゴシップは聞いたんだな。そうだよ、 かなり、長い間がある。 全部真実だ。はしからはしまで」 ポールはそんなゴシップは聞いてなかったので、ほほ笑みを浮べ「彼女が芸術家肌であることは知っていた。彼女にとっては、何に つけたやすく妥協などできないだろうとは思っていた。・ほく自身が て待った。ジョセフはまた腰をおろし、ひじを鍵盤のうえに置い だけ・ど、よりに た。その騒々しい調べが、かすかな雑音へと消えていくまで彼は待そうした道をたどってきたからだ、そうだろう ? っこ 0 もよってカクテル・。、 ーティの席を選ばなくとも : : : 。一週間まえ、 フィレ、 / ーモニ 1 協会で、みんなのいるまえだった。そりや、・ほく 「スウェーデンがはじまりだった」彼は言った。「ストックホルム での、・ほくの音楽祭のときだ。彼女は・ほくの第二チ = ロ協奏曲をひがああいった・ハガテルを書いたときは若かった。彼女よりずっと若 いていた。それは、見事なものだった。だから、・ほくは彼女をいっかったんだ。もちろん、それを好かないという権利はあるさ。・ほく だって、そんなに好きじゃない。でも : : : 」 しょに連れて帰ったんだ。そして、翌月ロンドンで彼女をデビュー させた。それから、ニューヨ 1 クでも」 ジョセフの机の、大きな白いテー・フル・ランプの下には時計があ 彼は。ヒアノから立ちあがった。部屋を大またに歩き、 ( イファイることにポールは気づいた。それは、ジョセフのレコード装置のた 装置を閉じ、テー。フ・デッキの端子をいじくり、棚に並んでいる半めに針の音をたてなくしてあった。 インチほどの小さな石の彫像を動かす。 「昨夜、彼女は電話をかけてきた。あやまりの電話だよ、ール。 ・ほくは、その間すっと針のムシロさ。電話がある、ということは、 「彼女はイルマガルト・ペレンセンという名だ。二十三歳たった」 「イルマガルトね : : : きみのその名の呼びかたは、暁をみるようだ彼女はまだロンドンにいるんだ。明日まではイギリスを離れられな 5
していた。しかし、ここに集めたのは、ガムの四十九種類の風味に にも述べていないのか ? 」 ここでヴァレリーが高らかに笑い出した。アルファベットさえも関する残酷な童謡である。たとえば が愉快に聞こえるような、そんな笑い声だった。 リ・ . 1 「レ・、ワリ - 1 ー シッ。フラツ。フが、ニャニヤ笑いの中からなにかをつまみ出した。 ガムになに混・せた、 ニャニヤ笑いの延長のように、テー。フがするすると出てきた。 ノの生血とベビーの脳みそ、 味はまるきりジューシー 「一つ」と、彼は読みあげた。「グレート・プルー・アイランド沼 そしたらママが、「だめよ、ウィリー、 沢地帯のなにが、地質学者を悩ませるのか ? それともーー昔の署 あんまり入れると、ドくたもの」 名記事流にいえばーーー最近とはどのぐらい最近なのか ? 」 トッシャーのジンは笑いのジュ 1 スだった。グラッサーの笑い声 は、ひとつながりの爆竹がはじけるようだった。 「ふむ、ザクロの味がしそうだね」グラッサーが感想を述べた。 カクテル・クッキ 1 をかじり、クティステック・マシンの言葉を スミルノフは、自分のクッキ 1 の中にあったテープを、威厳たっ ぶりにとりだした。 / : 彼よそれがきわめて重要な言葉であるかのよう読むのは、無性に愉快だった。研究所の一同は、お祭り騒ぎとしか しいようのないものを生みだした。しかし、彼らは忙しい人間であ に読みあげたーー事実、そのとおりだった。 ( シフィック鉄道の有蓋ったから、どこかでパーティ 1 をお開きにしなければならなかっ 「一つ。古いロックアイランド・アンド・ た。一同が帰り支度をはじめたところで、エ。ヒクティステスが一篇 貨車の剥けた塗装から、どんな異様なものがほとんど判明しかかっ の詩を披露した。 たか ? 」 べつにそうおかしくは 「おい、クスクス笑うのはよせ、エビクト。 世界最後のトッシャーは飲みほされ、 ないぞ ! 」 世界最後の事項も飛び去りぬ、 「おかしい、おかしい ! 」ヴァレリーが泡立つように笑った。それ 研究所員みなへべれけりて、 からもうすこしで息をつまらせかけながら、自分のクッキーから長 ェビクトもまた い長いテープをひつばりだし、陽気な陽気な声でそれを読みあげ なんと、彼はそこでつつかえてしまった ! 彼の内部には八百万 「一つ。あの残酷なリトル・ウィリー の童謡が一九八〇年代初期に の十億倍のそのまた十億倍の記憶接点があるのに、 子供たちのあいだで復活したとき、なぜそのほとんど全部がチュー インガムに関係したものであったのか ? それより六十年前のオー韻の合う単語が出てこないのだ。 「いったいおまえはどれたけの事項を集めたんだい、エビクト ? 」 ストラリアとイギリス本国では、この童謡はあらゆるものを題材に 0 、 0 、 ドランクン に 4
連載 C / ル C C 沢 / 7706 市 なちがいである。 という結論を出し、 それだけに目立っ存在ではなく、また天王星 自身に近いところにあるため、その反射光に眩 世界に先駆けて発表し 惑されて、発見が遅れたのであろう。 たのである。 この掩蔽の観測は、 しかし直径は、八万数千キロにたっし、地球 の、ゆうに六倍半はある。 むろん日本などでも行 われていた。そしてエ アメリカのカリフォルニア工科大学の・ノ イゲバウアらは、七八年三月に、パ ロマー山の リオットが観測したの 通 と、同じようなデータ 五メートル望遠鏡を使って、赤外線の二つの波 長で、天王星の周辺を詳しく探った。 が、日本でも得られて いたのだ。 そして観測結果をコン。ヒュター処理し、天王 しかしそれは、エリ 像星の環の像をとらえることに成功している。そ オットの発表があって 想れを見ると、環はさながら、皆既日食のときの から、あわててデータ 太陽のコロナのように、ほ・ほ円形に天王星の周 環 のりに広がっている。 を調べ直した結果、初 ノイゲバウアは、このときの観測から、 めて分かったことだっ 五 た「環を構成する粒子は、岩石ではないか」 といっている。むろん、氷の塊りのようなも かんじんの掩蔽のあ 見のも、まじっていよう。 ったときには、観測し とにかくこうして、 た日本の天文学者はだ と 星「環をもつのは、土星だけ」 れも、この重要な事実 には気づかず、いたず 天という太陽系の定説の一つが、見事に崩れ去 ったのである。 らに見過してしまって いたのである。 私は、あと一億年もすれば、 五重の環は、天王星 「天王星のとなりの海王星も、環をもつように の赤道の上方約一万八 なるだろう」 〇〇〇キロのところに と予測している。 あり、比較的薄くて、 ほ・ほ円形の内環四層 環ができるかどうか、その運命を決めるもの 「ロシュの限界」というのがある。 と、かなり厚い楕円形 の外環一層とから成っている。 未満とみられている。たとえば土星の環の幅私たちの月が、地球の周りをまわりながら、 環の幅はせまく、最大のものでも一〇〇キロが二万五八〇〇キロもあるのにくらべて、大変その引力によって海水を引っぱり、潮の干満を こ 0 4 0
したが、記憶抹消の方法は意識下のレベルまで押し下げられたにすすぎる。つい二十年前にある大都市が全減したのに、われわれはな これだけでも眉唾ものだ。だが、その町の名 3 にも知らんという ぎません。もし、また人為的な大災害が起きた場合、その方法はい がシカゴとは、珍無類もいいところだそ。もしもおまえがすべての つでも再発掘されて、使用されるでしよう」 「で、いったい・せんたいその都市は、アメリカ中部のどこにあった音韻の組合わせを比較検討したのならーーエ。ヒクト、おまえのこと だ、きっとそうしたろうがー・ーせめてもうすこし気のきいた名を思 んだ ? 」コグズワースがわめいた。 いつけなかったのか」 「その廃墟は、いまではグレート・ブルー・アイルランド沼沢地帯 と呼ばれています」ェビクトが答えた。 「みなさん、これはもともとそう思われるようにでぎているので 「出しおしみするな、このぎよろ目のギャジェットめ ! 」シップラす」ラヒクティステスが述べた。「みなさんはそれを思い出せな い。みなさんはそれに心当たりがない。しかも、いったんこの部屋 ツ。フが金切り声を上げた。「その町の名は ? 」 を出れば、みなさんはそのヘンテコな名前すらもう思い出せないで 「シカゴ」と、エ。ヒクトは答えた。 こりやひどい こりやむちゃくちゃだ ! やつばり彼らはかっしよう。ふざけた機械がみなさんになにかふざけたいたずらをしで がれたのだ。この度はすれのドタ・ハタ道化師は、みんなをみごとにかしたという、お・ほろげな印象が残るだけです。そうした災害はど いつばい食わせたのた。ヴァレリーは独特のけたたましい笑い声をれもーーーというのは、このたぐいのものが一つだけではないと考え 上げ、彼女の良き夫コグズワースは、アホウドリのしやっくりのよられる根拠があるからですがーーみごとに忘れられています。も うな失笑をもらした。 し、それをはっきり思い出せば、全世界が病みついて死んでしまう 「シカゴー まるで動物園の小さなビー ・ハーが、泥の斜面を滑り落でしよう。 シカゴだって ! 」それはヴァレリー ちて水にはまった音みたい ! しかしながら、・シカゴという大都市はほんとうに実在したので がこれまで耳にしたなによりも滑稽な単語たった。 す。ハンガリー語で Sikago と表記されていたそれは、ある百科辞 「よくよくおどけた機械でなくちゃ、そんな名はひねり出せんな」典のページに空白を残しました。また、プチ・ラルース辞典は、 「シカゴか ! 」 グラッサーが爆竹のような笑い声を立てた。 Chicago の項目のあった場所を。チプチャ (Chibcha) インディア ンに関するたわいない記事で穴埋めしなければなりませんでした。 「きみにはシャッポをぬぐよ、エ。ヒクティステス」アロイシャス・ シップラツ。フがいった。「きみはほれ・ほれするようなホラ吹き計算わたしがシカゴ・スタイルと仮称をつけたあるものは、ジャズの複 機だ。諸君、この機械はハチャメチャだ ! 」 合体から根こそぎ引きぬかれました。この町のどこかにはカルメッ 「わしは少々失望したよ」スミルノフがいった。「泰山鳴動してネト川が流れていたので、カルメットと呼ばれるインディアンの平和 ズミ一びきか。しかし、なにもわざわざ道化服を着たやぶにらみののパイプにも、言及がさし控えられました。シカゴは大都市でし ネズミにする必要はなかろうが、エビクト ? 作り話にしてもひどた。そのダウンタウンの中心部はループ ( 輪 ) と呼ばれ、この町を
心待ちにしてるわけさ」 らばらになってアーク・スナファーやソレノイドを投げ飛ばすの 一同は成功を祝って、 トッシャーのジンで乾杯した。トッシャー で、近くにいるとえらく危険らしい。この道化者の機械よりも始末 のジンは、人間とクティステック・マシンの両方を酔わせる、唯一 の悪いのがいつばいいるわけだーーーもっとも、やつもかなりの泣き の飲み物だった。トッシャーのジンに使われている香料が、機械を上戸だがね、 酩酊させるのだ。その中に含まれたアルコール分は、それに似た効 ヴァレリー・モックは、エ。ヒクティステスの一 = ロ葉を集めて、こっ 果を人間におよ・ほすことがある。 そりそれをカクテル・クッキーの中へ忍ばせておいた。いま、それ 工。ヒクティステスは、ポッタワタミー郡のカボチャのように赤くをかしったグラッサーは、金属テープの切れはしが歯にあたるのを なってきた。クティステック・マシンは、アイルランド人やインデ感じた。 , 。 彼よ舌の上からそれをとりだして、読んでみた ィアンに似ている。ジンが入ると、彼らのゼンマイはゆるみはじめ「一つ。オクラホマ州ヴィニタにある施設で、男子手洗所の壁に聾 る。気をつけて見守っていないと、かなり羽目をはすした行動をと唖の白痴が書いた謎の名とはなにか ? 」 ることが多一い。 ェビクティステスはくすくす笑った。しかし、その事項をはじめ 一方、研究所員たちも、大いに楽しくやっていた。 て発表したときの彼は、まじめだったのかもしれない。 「やつがこうでなかったら、わしはがまんできんだろう」スミルノ コグズワースが、クッキーのかすを舌でとりのけながら、別のテ フがいった。「くつろぐときには、やつは徹底的にくつろぐ。ホー ープを口の中からとりだした。 キンスの機械は、難問にでくわしてむしやくしやすると、文字どお「一つ。なぜ、プチ・ラルース辞典は、古代コロンビアのチプチャ りみんなに咬みつくそうだ。ドレクセルの小さいほうの機械は、ば ・インディアンについて、五行もよぶんに費しながら、ほとんどな 中意表をつく設定と展開ー 房 発 \ 1 2 0 0 評矢野徹 とある山奧に住む狂女の子衛門は、読心能力を持っていた。そして 好 四六判上製 超能力者たちをめぐる血なまぐさ屋しー 、、ま意外な結末を迎えるが し ■■ 第こ仭まれた竹林をぶ紙※機はおを 々の R3' 、のい ~ を : 第をに・滷珱を 3
ポール・カッサヴィーツはタクシーの後ろの席のまん中に落ちつきたりした。彼は高速連転がめまいをひきおこすさまを説明したさ い、この運転手の眼のかげの思考が彼に反駁したのを知っていた。 いて坐っていた。車での旅は、人生の不断の緊張からひととき逃避 できることを意味しており、こうして静かに坐り、リラックスできス。ヒード自体は人にめまいをひきおこしたりしませんよーー・乗り物 るのは正直うれしかった。タクシーは、決して彼が自由に選べるよ酔いをおこすのは危険という考えです。それに、偉大なカッサヴィ ーツ氏といえども、いったい全体わたしの車を危険に思ったりする うな目的地へ連れて行ってはくれないだろうが、それでもイギリス の地面の上を運ばれていくということだけでも楽しいことだ。おま権利がどこにあるんです ? だが、老人と議論したりするのは馬鹿 だけだ。ましてや、お客とするとなれば、底抜けの馬鹿たけだろ けに、そのことで余計なことをしなくていいということも。彼は八 十四歳であり、あれやこれやするということには、もう飽き飽きしう。だから、彼が百三十以下を守りつづける一方、この年老いた火 ていた。しかし、彼はやりがいがあると思ったら、たとえマネ 1 ジ色の肌の猿の子は、後ろの席のまん中で馬鹿馬鹿しいほど背をしゃ ャーに不平を鳴らしつつも、本当に行きたいところに行かないと言んとして、小さな胃と腿のあいだに・フリーフ・ケースをかかえてい 本当に見たいものを見たくないと言い、本当にしたいこともしたのだった。 サリスペリを通りすぎると、運転手は高速道路をはなれ、手なれ たくないと言っただろう。彼は大衆に仕える存在であり、たとえ自 分の音楽を商っている人々に対してさえ、彼は下位にたっと言うにた彼の技倆にもっとふさわしい道を選んだ。ビンクの郊外住宅地の ちがいないのだ。いま、少なくとも望んではいない時に昔なじみのプロックを進むうちに一つの村にきた。いまや広告業や合成樹脂関 ジョセフに会いに行くというこの大旅行ーー・これもまさに、彼が年係の人々の住む高級住宅地となった古い家々。ポールは、こざっぱ りとした壁や窓、小さな前庭などがすぎるのを見ていた。彼の記憶 寄りジョセフに仕えることだったのである。 にある村というのは、いつだって少しばかりみす・ほらしいものだっ ある意味で、こうしたことはすべて真実であった。全生涯を顧み ても、彼がかって本当にしたかったことといえばただ一つ、。ヒアノ その村を越すと、道は険しい坂となっていた。ポールは前に身を をひくことだけだ。たた、彼はもうそれを七十年にわたって行って かがめ、仕切りガラスをたたいた。 きたのである。 彼は座席の中央で、しみの浮きでた手をそれそれの膝を囲うよう「とんとんしないで下さい、先生」運転手がていねいに、しかし気 に置き、きちんと坐っていた。自分につねに注意していなければな軽につげた、「座席の両側にコ 1 ル・ボタンがあります。それを押 らぬ老人にありがちな硬ばり、そうしたものにもめげず彼は気楽にしているあいだは、聞こえますから」 老人の行動の統一がくずれた。腕かけにはいくつかのボタンが並 していた。運転手にはのんびり行くよう伝えてあったが、この若い 男はきげんよく車を低速レ 1 ンにくぎづけにしたまま進んでいく。 んでいたが、それそれはっきりと標示がしてある。それをまちがえ ときに、横を通りすぎるスマートな車体の後流が激しく吹きつけててボタンを押したために、手近の窓がさがりはじめた。運転手はミ