ろに、部屋が取れたからもういいわという矢野三省堂で出ていますよ、福島正実のも。しかし、英語を日本語に訳す場合とい ので、かれ、きっとル・グインにいい感情「の世界」が。ぶあっくて、あまり うのは、ちょっと感しが違うと思うんで を持ってないと思うんですが ( 笑 ) でもか高くない。九百円ぐらいの本だと思いますす。そういう点から考えますと、翻訳して れ大人物ですから、なんとも思ってないか が、その本にあの人の感じる範囲で、どん いるとき、自分の地というものが、かなり もしれません。 なものを読んたらいいかというのが出てい 入ってくるんじゃないかと思うんですけれ さて、ル・グインというのはお父さんが ます。それに全体についての展望も出ども。そのへんはどうですか ? 有名な文化人類学者で、「イシ」という、 ているから、その意味でもいい本ですよ。 矢野非常にいい質問ですね。何か本質を アメリカの昔の土人のことを書いた本があ編集部ガイドみたいなのは、いまのとこ ついてこられたような質問であり指摘であ 十 / し・・刀レ J : り、お母さんは作家という恵まれた環境にろあれぐらいじゃよ、 るとは思いますが、一面、それほど漠然と 育った人なんですね。そのせいか、すばら質問翻訳されているか、翻訳されていな した質問はないんじゃないですかね。個性 ℃カ」い、つのは ? ・ しい小説を次々と発表しています。一家の のない人間というものはないんだから、地 教養が子供ににじみ出てくるんでしよう矢野ぜんぶ翻訳されたものだけです、そが出ないはすはない。ではそれがいいのか の本に出ているのは。 ね。ですから、あなたが一生かかって読ん 悪いのか、おさえるべきなのかです : : : 要 でも、別にがっかりする対象ではないと思質問原文でどういうものが ? するに、もとは英語で書いてある。これは いますよ。作家によっては、なんだこんな矢野それに出ているのは、原文がいいも英語で読むのがいちばんいいんたけれど やつの作品に時間を浪費して損をした、とのしか翻訳されていないですから。もうひも、翻訳者と出版社はそれで食べてゆく ゴー賞のリストを見ると 腹が立ってくるものもありますわな。そんとつは、ヒュー し、読者は楽に読める。翻訳者には、もう か、あるいはアナトミイ・オプ・ワンダー なものではない、立派なものです。 ひとつ、義務感みたいなものがあり、これ といった本を買って調べてみるかですね。 ただし、自分がそれを将来翻訳してやろ は文化の発展に寄与することである、意義 うと思う場合は、もうとっくに彼女の作品編集部あとはペ ックの棚で、名のあることである、なんてことも無意識の を一生の翻訳対象にしている人がいるでし前がたくさんならんでいる作家というのうちには考えているんでしよう。・ほくは中 は、だいたいそれだけ売れているわけなん ようから、勉強のためならいざ知らす、 学時代まったく英語ができなかったんで、 まからやっても手遅れですね。あなたは別で : 翻訳していると学問をしているような気が のものを探さないと、出版社のほうでは、 矢野帰りにここの二階へ行って、売場のする。それが仕事の拍車にもなっているん ですね。 ル・グインはだれに頼もうと、すでに翻訳人に、どれがいいですかと尋ねたら、見つ 者を決めていますよ。 くろってくれるのじゃないですかね ( 笑 ) 。 日本語に訳すというのは、外国語での発 質問初心者にとって比較的読みやすい海質問英語からドイツ語なんかに翻訳する 想を、どのように日本語の発想のものに変 外の作家というのは、どういうのがあるで場合、似たような単語がい つばいありますえるかの作業ともいえる。それももとの文 から、すぐ翻訳できると思うんですけれど体をなるべく残しながら、というか、もと
〈海外未紹介作家コーナー〉 新鋭の & オムニバス 気鋭の超未来幻想連載第十三回 宝石泥棒 ホロガー その町の名は ? 超能力の結末 目覚めればアイデア イキリスに主むとい、つことは 酒の上のちょっとした冗談が : 的コールガール事件ー マッドな作家のマッドな作品 古典の名作に挑戦ー ロスト・ワーレド 2 〈連載第一回〉 1979 年 5 月号 目次 牧村高雄 ・ O ・コンプトン 8 安田均訳 山田正紀 ート・・ヤング。 黒丸尚訳 ・ < ・ラファ一ア・イ 9 浅倉久志訳 田中光ニ
らず、アイデアどもに頭を空つぼにされて あるし、まずは順調と言いたいところだが : ( くそ : : : 泣きっ面に蜂かよ : ・ : ・ ) 実は、ここ数日、ちょいと気になることがあるのだ。と言うのは おばさんの節くれ立った太い指を思い浮かべながら、僕はそれ以 あの晩からおばさんが凄い勢いで小説を書き始め、二日前にそ 上に太い溜息を吐き・ーーかけて、やめた。 れが出来上がったので、すぐに某誌のコンテストに応募したと 「指 : いうのである。 あの指ーー太い中指ーー・脹れ具合。あれは、もしかしたらーーベ あとから判明したことだが、おばさんの実力は、文章力、構成カ ンだこではないのか ? 共に群を抜き、僕などは足元にも及ばないものらしい。それでい そう気付いた途端、僕の頭の中を思考の塊りが猛烈な勢いで疾走て、今まで芽が出なかったのは、唯一アイデアに乏しかったから し始めた。 おばさんの作家贔屓は有名で、昔からこのアパート だ。そんなおばさんに、たとえ屑とはいえ、僕はアイデアを。ーー、そ には好んで作家の卵達を住まわせている。現在、文壇で活躍中の第れも大量に与えてしまったのである。もしもおばさんがコンテスト 一線作家の中にも、昔、おばさんの世話になった者は数多くいる。 に入選するなんてことになったら、拙い僕の作品などは : が、それを一歩進めて考えればーーーおばさん自身も作家志望ではな そう思うと、どうにも落着いていられない今日この頃なのであ いだろうか ? そう考えても決しておかしくない筈た。いや、それる。 どころか、以前に僕が筆に詰まったとき、びつくりするような表現 テクニックを教えてくれたことすらあるのだ。 そうだ。間違いない。おばさんは書ける。いや、書く気があるー だとすれば この騒動にも、うまくケリがつくじゃないか。 真夜中ーーー 「待ってろよ。すぐにおまえらを世に出してやる ! 」 ぐっすり眠っていると、 そう言うと、驚くアイデアどもを尻目に、僕は戸口に走った。そ「ヂリヂリヂリ ヂリヂリヂリ ! 」 して静かにドアを開けると、噴怒の形相も凄じく仁王立ちとなった と、枕元に置いてある電話が、けたたましい音をたてた。 おばさんに対し、にこやかに語りかけたのである。 条件反射で、瞬時に目覚めた私は、すぐさま受話器を手に取って 「おばさん、実は折入って御相談があるのですが : : : 」 耳に押し当てた。 「もしもし : : : は、、 そうです : : : ええ : : : わかりました。枚数は 一カ月後。 二十枚。締切りは二十日。 : ええ、結構です : : : はい、それじゃ 思った通り作家志望だったおばさんに、うまく屑アイデアどもをあ」 押しつけた僕は、以来平穏な日々を送っている。注文はポッポッと 私はホクホク顏で受話器を置いた。今月に入ってから二十二本目 Ⅲ
0 ー OR A LA CARTE ウォルハイ乙は S F の歴史 そのもののような 工テイターだ。 1 4 安田均 アメリカに編集者はいろいろといるが、このダムといわれる世代に属す。 するが、よく注意すれば、後の世代の中心とな ドナルド・ << ・ウォルハイムほど長い間、第一 ファンとしては、彼はいわゆる大会の創る作家が実にここから多く巣立っているこ 線のエデイターとして界にかかわってきた始者といってもよく、後に世界大会が一九とがわかる。フィリップ・・ディック、サミ 人はいないだろう。あの、ジョン・・キャン三九年に開催されたときも、いわゆるュエル・・ディレーニイ、アーシュラ・・ ( ビッグ・ネ 1 ムド・ファン ) として大きな影ル・グイン、ト ベル・ジュニアでさえ、一九七一年には亡くな ーマス・・ディッシュ、 ってしまったし、グロフ・コンクリン、オーガ響を与えた。 ラン・エリスン、プライアン・・オールディ スト・ダーレスといった昔から活躍してきた人編集者生活に入ったのは、四〇年代のはじス、彼らはみんな初期の作品をこのエース・ダ たちもみんな鬼籍に入ってしまった。ひとり、め、いわゆるパルプ雑誌からだが、これは短命プル・ブックで出版しているのだ。もちろん、 こ終っている。 ウ . オレ、 ノノイムだけが ( と言ってよいだろう ) か冫 これは当時・ハランタイン・ブックスなどが完成 くしやくとしているばかりか、七二年以降はア第二次大戦後は = イヴォン社に入社。この頃された作家しか出さなかったこともあり、まだ どうなるかわからない新人作家は、いきおいや や評価の低いエースあたりでしか出してもらえ なかったからなのだが、そうした新人を見つけ てきて激励し、巧くのばしたのはやはりウォル ハイムの功績といってもよいだろう。 こうして、彼は一九七二年エースも退社し て、いよいよ自らの頭文字をかぶせたプ ックスを設立する。もちろん出版は専門 だ。当初からエース時代と同じく冒険ファンタ ジイを中心路線とした同叢書は、やがて安定し た基盤を勝ち得、現在ではペー 三大出版社の一角を占めている。 さすがに新人の発掘という点ではエース時代 より衰えたとはいえ、最近も O ・・チェリ イ、タニス ・リーと、いまプームの女性冒険フ アンタジイの先鞭をつけた新人を送り出せたの は、やはり彼の慧眼のたまものというべきだろ メリカ最大の出版社の一つ、・フックから彼の本格的な編集活動がはじまる。何とい スの責任者としてますますその活動範囲は拡がってもここで成し遂けた業績は、ファンタジイ彼はこの他にも、一九四三年ほ・ほ世界最初の っている。 ・リプリント誌「エイヴォン・ファンタジイ・ (-n;-v アンソロジイの編集、一九六五年以来の最 ・リイやフレリーダー」だろう。 彼に比べると、レスター・デル 長の″年刊傑作選″の編者、非英米圏 デリック・ポールなどは貫禄の点でまだまだと この成功を足がかりに、彼は一九五一一年エー の積極的な翻訳紹介など、その業績は数えあけ いった気がするのは、・ほくだけだろうか。 ス・ブックスに移動。いわゆるエース・ダブル るときりがない。 ・ブックを中心として、の新人発掘に精力ときに評論などで「はの上に作られ ドナルド・・ウオレ、 ノ , イムは一九一四年ニ的にあたることとなる。 る」などという迷 ( 名 ? ) 言を吐くが、とにか ューヨークの生まれ。一九三〇年代初期からの エース・ダブルは一見したところ、ほとんどく、彼もある意味での″ミスター ;.æ″である 熱心なファンで、いわゆるファース ト・ファンが通俗的な宇宙冒険ものとして軽んじられたり ことには間違いないだろう。
世界 S 、下情報 ント ニス・リ 1 「白い魔女の探索」 "Quest of 2 ・ネビュラ賞ノミネート発表ほか 「死への穏やかな革命」 "A Quiet Re ・ the 「三 te Witch"' マイケル・ムアコ 毎年プロ野球の開幕が近づいてくると、 volution for Death" ジャック・ダンツク「グロリアナ」 "Gloriana" 、スティ 「カッサンドラ」 "Cassandra" O ・ 賞の世界もにぎやかになってくる。例 1 ヴン・ドナルドスン「コヴナント年代 ・チェリイ 年この種の賞の先陣となるのがアメリカ 記」 "Chronicles of Thomas Covenant 作家協会のえらぶネビュラ賞。受賞が決 the UnbeIiever" など。なかなかカ作揃 まるのは四月二十一日とまだ先だが、候補ごらんのように、〈ノヴェル〉以外はど 作ははやばやと発表されている。 のカテゴリイも候補作わずか二 ~ 三篇とな ・「デューン」映画化ニュース っているが、これは予備投票が極端に分散 フランク・ したためだという。アメリカの界でも 〈ノヴェル部門〉 ハートの現代クラシ 作品の多様化が目立っということだろう 「ドリームスネーク」 "Dreamsnake" ック「デ、ーン / 砂の惑星」が、「キング ・カ ヴォンダ・マッキンタイア コング」などの製作で名高い、ディーノ・ 「異星の人びと」 "Strangers" ガ 1 ド マッキンタイアの長篇は昔ネビュラ賞をデ・ラウレンティスの手で映画化されるこ ナー・ドゾア 獲得して本誌に訳載された「霧と草と砂ととなった。 「衰えゆく太陽【ケスリス」 "The Fa ・と」のノヴェライズである。また、ヴィダ ラウレンティス側の発表によると、この ded Sun 】 Kesrith" O ・・チェリイ 1 ルの作品も一部が訳されている。チェリ映画、「ジョーズ」に次ぐ史上第一一位の規 「カルキ」 "Kalki" ゴア・ヴィダールイの長篇は新たな冒険ファンタジイ三部作模の小説 / 映画タイ・アップ作品になると 「かくれた声」 "Blind Voices ・・トム・ の第一部。一方、 リ】ミイの方はこの惜しのこと。すでに作者ハ ハートの手には映 まれて逝った作家の遺作である。どうやら画化権料として百万ドル以上が支払われて 〈ノヴェラ部門〉 〈ノヴェル部門〉も新しい世代の作家たちおり、ハー ートはこの映画の脚本に現在 「残像」 "The Persistence of Vision ・・に占有されてきたようだ。 とりかかっているといわれる。 ・ンヨン・ヴァーリイ 〈ノヴェラ〉はおそらく邦訳もされたヴァ 「デューン」映画化の話はすでに数年前に 「アメリカ七夜」 "Seven American ーリイがとるだろう。〈ノヴェレット〉も一度あったのだが、諸々の難点から現実 Nights" ジーン・ウルフ 〈ショート・ストーリイ〉は混戦。逆にい に製作されるまでには到らなかった。その 〈ノヴェレット部門〉 えば図抜けた作品がなく、ちょっとさびしため、今回にかけるハ ハートの意欲はな 「ロウソクの輝き、一角獣の眼」 "A い気もする。 みなみならぬものがあるらしく、シリーズ GIow of CandIes. A Unicorn ・ s Eye" 第四作「デューン」第四部の執筆を一時中 O ・・グラント 他に、英国ファンタジイ賞のノミネート 断してまで、映画の方を先行させているよ 「きみの知らない悪魔」 "DeviI イ ou も発表されている。これは別名〈オーガスうだ。監督は現段階ではまだ決まっていな Don't Know" ディーン・イング ト・ダーレス賞〉で、昨年は長篇部門で。ヒ いらしいが、いずれにせよ、あのラウレン 「ミカルの歌う鳥」 "Mikal's Song- アズ・アンソニイが受賞している。リスト ティスのことだから、かなりの大物をすえ bird" オ 1 スン・スコット・カード が長くなるので長篇部門で目立ったところることだろう。今後のニュースが注目され 〈ショート・ ストーリイ部門〉 る。 をあげると、リチャード・カウバー「コー 「ストーン」 "Stone" エド・プライアレイへの道」 "The Road to Corlay" タ ( 安田均 )
目立つようになってきた。作家だからといって、宇宙人性善説 了の合図である。 ティ ・カップその他を、食器洗浄機にまかせると、私は悠然との信奉者でもあるまいに 書斎にもどった。途中、両手を天井に突きあげて「うーん ! 」と背 ( まあ、いいさ 考えるのは後で良い。今の私は自動書記人形同様の身だ。二十二 を伸ばす。 本の注文のうち、仕上がっているのは三本だけで、他は一枚も書い 「ようし、作業開始といくか」 お気に入りの北欧風の椅子に深く腰をかけて、姿勢を正すと、私ていない。今夜中に最低二本はこなさなくては間に合わなくなる。 ( さあて、どんなアイデアが出てくるか ? ) は静かに両眼を閉じた。次に、ゆっくりと呼吸を整える。十も数え ないうちに、頭がすうっと軽くなり、天色に霞んできた。アイデア私は、眠を閉じたまま、灰色の霞の中に現われてくる筈の天の啓 示を静かに待った。 矣である。 が湧く兆イ 一分。ーー二分。 そう、私は日頃からアイデアのストックはいっさい持たない。、 や、持っ必要がない。要請があれば、アイデアの方から私の元にや更に待つ。 五分。そしてーーー十分。 ってくるーーーこうして熱い紅茶で心を鎮めた後、机に向かって瞑目 「 ? 」ーーー私の心に徴かな動揺が生じた。 すれば、書くべきものが自然と脳裏に浮かびあがってくるからだ。 私は、その湧いてくるアイデアなり文章なりを、機械的に原稿用紙やがて二十分が過ぎ、続いて三十分が経過する頃 上に書きとめるだけ。だから、私は机のことを作業台と呼び、執筆「 : 私の顔面は蒼白となっていた。 を作業などと称している。 いつもなら五分以内に二本や三本のアイデアはすぐ浮上してくる とにかく、瞑目しさえすれば、泉のごとくアイデアが湧いてくる というのに、今夜に限って、アイデアのアの字も出てこないのだ。 のだから、こんな楽な仕事は他にないのである。 : どうしたことだ卩 ) もっとも、そこにある程度の。 ( ターンが生してくるのは止なを得 ( これは : 動揺する心を抑えつつ、再度試してみる。姿勢を正し、呼吸を整 ないだろう。湧いてくるアイデアは、その大部分が宇宙人オチ それもどういうわけか、善良な宇宙人ばかり登場することにな 0 てえ、眼を閉じる。そうするとアイデアが : : : やはり湧かない ! 依 いる。愚かな地球人同士のいがみ合いが = スカレートして、あわや然として頭の中は空白のままた「た。 破局という時に、智力体力外観共に人類より格段に優れた他の惑星 ( 大変だい ) 私のような & 作家にとって、アイデアの枯渇は、即、死活問 からの使者が降臨して救済するーーこれが今まで書いた作品の九割 題に結びつく。この世界では信用と実績が第一だ。いったんあいっ 3 を占めているのだ。 そう言えば、先輩作家諸氏の作品にも、近頃やけに同傾向の話がは駄目だと烙印を押されたらもう終りである。アイデアを得られな
「この林を過ぎたらすぐに、家が見えるはずだ」 彼は指をボタンから離した。 「そして、きみがその家をはじめて見てどう感じたかをしゃべりだ したら」男のきれいな首すじに向って言う。「きっと、わたしはや めてくれと叫ぶだろうな」 「じゃあ、前にもここへ ? 」運転手の声。 「何度も」再びボタンを押す。「非常に古くからの友人の家なん 車は林の最後をぬけた。 「あそこにちょっとした家がありますね」運転手は言った。「ああ いった家を見ると、わたしがどう思うか知ってますか ? 自分がイ ギリス人であることを誇りに思う、なんて言ったら笑われますか 「わたしは笑わないな」 「アメリカ人は何でも持ってますが、あれに匹敵するものは持って いないですから」 「いまのところはね」 「わたしの友人は有名な作曲家なんだ。彼が死ぬと、あの家は″文 化の谷″へ行くことになってるんだ。もう、そういう契約になって いる」 「いっか、本物のイギリスというのは何も残らない日がくるでしょ うな、カッサヴィーツさん」 ポールは答えなかった。それはあたかも、彼自らもこの国に生ま れたのではないような印象を与えた。とにかく、もはや本物のイギ リスというものはない。かってあったと仮定してもだが。だから、 九七四 ) にしても、二十世紀末、極度にマスコミの発達した社会で 自らの眼を″テレビ・アイ″として大衆の手に委ねた主人公の内面 的な葛藤の物語というある意味で実にやりきれないストーリイとな っている。それを救っているのが、登場人物の個性をみごとに描き わけるこの人の文章力なのだが、正直にいってを気軽に楽しも うとする人たちに向くタイプの作家でないことは確かだろう。た だ、を現実を直視した一つの社会諷刺機能を有する小説として とらえるなら、最上級の一人としていささかもこの作家に損われる ような点のないことは事実である。 本名デヴィッド・ガイ・ノ 、ミルトン。一九三〇年ロンドン生ま れ。 (f)V-v 作家になるまでにはさまざまな職業を経たあげく、ラジオ ・ドラマの脚本などでまず頭角を現わす。へのデ・ヒューは一九 六五年、「慈悲の本質」 "The Quality of Mercy" という長篇 だが、以後もつばら長篇ばかり 9 冊を発表して今日に到っている。 合成ドラッグ、時間旅行、コンビュータ予測など的な設定はさ まざまだが、テーマは先ほども述べたように、ほとんど「テクノロ ジーの発達とそれが人間性に与える影響」に絞られ、それをオーソ ドックスな手法で描き、英米界に一種独特な地位を占めてい る。 をにを "The UnsIeeping Eye"
ラ 1 でそれを見たものの放っておいた。 ポールは自制した。心の動揺を静める。それから正しいボタンを 見つけ、それを押して語りかけた。タクシーのインターコムくらい 前に何千回となく使ったじゃないか。長旅で気がゆるみさえしてい なければ、決して失敗したりはしなかっただろう。 コノデレッグス 「あの角を左へ」彼は言った。「あの短期滞在客用の建物群を越し たところた。せまい角だからな」 秋の陽ざしが店々の表に、すりへった銅貨のような輝きを与えて した。こうした店は暖かく明るくて、このような日にうってつけ だ。モテルは道路からひっこんで建っており、その一階は長いノ になっていて両側に出入り口があった。そこに並ぶ旗の列、あるい は前庭の給油所に沿って並ぶ旗は、風にあおられて音をたててい た。丘の頂上は下方の平原をのしかかるように見おろし、遠くスト 1 ンヘンジまで格子模様が見わたせる : : : コンプレックスの他の建 物は、おそらくボーリング場、ダンス場、彫刻教室、室内クリケッ ト、音楽鑑賞クラ・フといったようなものなのだろう。彼はそれらが 掲げる馬鹿でかい文字を読みそこねた。べつに見たくもなかったが。 ー・ドライ / くーは、じっと前方を見ながら言っ 「左へ ? 」タクシ た。「確かそう言われましたね ? 」 「せまい角だと言ったんたが」 「わたしは、いつだってきれいで。ヒカ。ヒカの・ハンパーが気になった りしませんよ」 砂利道だった。かきねの間の粋な、ほんの僅かの幅の道。高価 で、遠慮がちな自意識。しかし、車は音もたてす、正確に進んでい った。運転手は息を大きくつきながら加速した。砂利がとぶ。 「もう、そんなに遠くない」ポールはボタンに指をかけて言った。 安田均 英米の作家のなかには、日本に訳紹介されるときめぐりあ この〈海外未紹介 わせの悪い人というのが確実にいる。だいたい、 作家コーナー〉というのは、そういった人たちのためにあるような 欄だが、それでもこのコン。フトンという人などはかなり可哀そうな 部類にいるのではないだろうか。 とにかく、中短篇が少ない。というより、実質的にの中短篇 というのは、本号に載せたこの「イギリスに住むということは」 ( インパルス・一九六七年二月号 ) が唯一のものなのだ。これ では、いかに彼が長篇型で、長篇にはすばらしいものがあると いっても、ちょっと紹介しにくいのは事実だろう。こういったタイ 。フの作家では、他にビアズ・アンソニイ、ジェイムズ・ホワイトな どがいて、やはり若干ワリを喰っているようなところがある。 ただ、それに逆比例するかのように、彼の作品の評価は高い。唯 一の短篇である本篇なども、翌年のウォルハイムとカーの年刊 傑作選「ワールズ・ベスト第四集」の巻末におさめられているし、 何よりもその長篇群が「こうした才能の持ち主がには・せひ必要 だ」 ( ・プリッシ d) として、ほぼすべてが絶讃されている。 マガジンでも、スキャナー欄でかって伊藤典夫氏が「いまいちば ん気になっている作家」として彼の第四作「合成快楽」 "Syntha ・ 」。ご ( 一九六人 ) を紹介し、また浅倉久志氏も同欄で「ジョン・ ウインダムの作風に、・・・ハラードの鋭さと苦味を加えたよう な」と評価しつつ第六作「時間量子」 "Ch 「 onocules" ( 一九七〇 ) を紹介されている。これほど持ち上げられながらそれでも、いまだ に一作も邦訳されないとは、よほどわが国に対して、悪い星のもと に生まれついたといってもよいのではなかろうか。 たしかに彼の場合、その力量に比べてテーマの地味な点が災いし ているとはいえるだろう。前記一一作もそうだが、ごく最近発表され てこれまた好評だった「睡まぬ眼」・ "The Unsleeping E こ ( 一 0
ると た。そして 「ちょっと好い加減にして下さいよ。今何時だと思っているんですそこにいた。 か。他の人達に迷惑じゃないの ! 」 六畳の部屋の隅に机があり、その周囲にそいつらはたむろしてい と、まくしたててきた。 た。眼を覚ました時には、暗かったのと、人の気配がしなかったの で、つい気がっかなかったのだ。 気配がないのも道理で、そいつらは人間ではなかった。かと言っ 僕はヤョトンとするしかなかった。 おばさんは続けた。 て動物でもない。そもそも生物の形をしていないのだ。そいつらは 「いくらを書いてるからって、行動まで非常識にしていいわけ 机の上の書きかけの原稿を交代でのぞきこんでは、恨めし気な がないでしよ。他の管理人はどうあれ、このあたしは黙っちゃいま風情でこちらを見ているものどもはーー・何たることか、僕の過去に せんからね。言うべきことは断固言わせてもらいますよ」 考え出した「アイデア」どもたったー それも、一応考え出してはみたものの、単なる思いっきでパッと 一体どうしたことだろう。常日頃から大変な読書好きで、作家の 卵である僕や他の間借人達に対して、何くれとなく好意と理解を示しなかったり、他の作品の二番せんじだったりで、価値がなく、そ のまま使わずに放り出しておいた、そんな屑ものばかりが、徒党を してくれているおばさんの、この突然の豹変ぶりは 「とにかくね、九時や十時ならまだ許せるけれど、夜中の二時三時組んで僕の部屋の中に出現していたのだ。 までガャガャやられたんじゃ、安眠妨害もはなはだしいわ。あたし「こんなことが : : : 」 の作家最員にも限度がありますからね。これ以上、他人に平気で迷一瞬混乱した後、我に返った僕がそうつぶやきかけると、 惑をかけるようなら、ここを引払ってもらいますよ」 「あり得るのだよ。現に我々はこうしておまえの前に出現している 直後、ドアが「。ハシーン ! 」と閉じられ、八十三キロの巨体がのだ」 「ミシミシ」と階段をきしませながら遠去かっていく足音を、僕は という声ならぬ声が、そいつらの中から伝わってきた。 まだ″ ? ″マークを顔面にへばりつかせたまま、呆然と聞いていた。 「おまえも作家を志しているのなら、超常現象には少なからず 冫たった一人で、今の興味がある筈だ。ひとっ腰を据えて、我々の出現という異常事態に 僕は一人暮しだ。この 1 のアパ 1 トこ、 今まで安らかな眠りをむさぼっていたところだ。寝言を言うクセも対処してみたらどうだ ? 」 ない。それなのに、おばさんの話からすると、つい先ほどまでこの代表らしい図体のデカい奴が、僕を小馬鹿にしたような口調で、 部屋で大勢が騒いでいたらしい そう言った。 ( : : : どういうことなんだ ? ) そいつの正体はすぐわかった。ある特殊な人間がいて、その人間 わけがわからないまま、僕はのそのそと部屋の中にもどった。すを見る者は、逆に自分の内面 ( エゴ ) を見せつけられるという『人
S F スキャナー 全く、こういう意外性があるから洋書あつめはので、割り切って言えば、作家も次の六人に絞れて面白かった。 ( 過激なことを言うわりに、 / ラード、オールデ最近プリーストの作品にはますますエンターテ られるという。六人とは、く やめられない。 あまりばかりもつまらないので、例えばイス、ムアコック、ディッシュ、ディレーニインメントの衣がうまくかぶさってきているの その中の「ニュー ・ウェーヴ」という項目に何イ、ゼラズニイ。そして、これらの作家によりはどういうわけだろう ) があるかのそいてみる。執筆は、今をときめく領域は広げられたものの、結局運動体としての クリストファー・。フリースト いろいろと書い内的緊張性を保ちえず、イギリスでは七〇年代さて、イラスト・・フックでは、また趣向のち ているが、その起源や影響、意義など、つまりに入ると消失、もともと連動体ではなかったアがう大物が一冊ある。サミュエル・・ディレ 前半部については、これまで多くの人が述べてメリカでは商品的ラベルとしても消えたと見ーニイ原作 ( 三年ぶりの新作 ) 、 ・ウェーヴは きた意見とそう変らない。おもしろいのは、彼る。しかし、だからもはやニュー ・チェイキン画 ( あのスター・ウォーズを劇画 ・ウェーヴ のアメリカ製ニュ 化した人 ) の「エンパイア」 "Empire" だ。 観と、いわゆる″ニュ 最近はこの手の名作ストーリイにイラストをつ ーヴ″の総決算について、つま けるというのがでは大流行だが、まさかあ り後半部である。彼はアメリカド のディレーニイの書き下しで、こんなイラスト で論争された″ニュー ・ブックが出るとは思いもしなかった。さっそ ヴ″とは本質を見誤っていると 、大枚一〇ドル近くを払ってとり寄せると、 0 ・、ツ″ン 0 。、 明確に断定する。つまり、ニュ これが大きな体裁のペー tT2 .- ラバラ ・ウ = ーヴが起るもととなっ 0 矼とめくると確かに迫力はあるのだが、何となく たパル。フ雑誌的約束事の世界、 間の抜けたようなコマ割りもある。まあ、はっ つまりゲットーに対する認 きり言って、・ほくには画の方はどうでもよく 0 識を持たず ( あるいは認めず ) ま て、ディレーニイの新作ということで読みだし に、やたら文体や形式など現象 たのだが 面にだけ眠を向け、″ニュー 新物語は六十三世紀、宇宙では数万という惑星 ウェーヴ″というラベルをつく 世界が相互に関連を持って存在しており、これ り出すことで、それを全体の一つのサプ・ 必要ないとは彼は見ない。確かに、領域は広げは″エンパイア″と呼ばれていた。この″エン ジャンルにして無害化してしまったというのられ、従来はとてもとして発表できなかっ パイア″の中でも最大の政治権力を握るのは、 だ。だから、こうした矮小化したレッテルの中た作品が現われるようになったのは進歩だが、 クンドウークという帝国。それは情報を凍結す からは何も革新的なものは生まれ得ず、終局的旧態依然としたが大きな力を有しているのるシステムを有することによって他星を侵略 にアメリカ製″ニュ ・ウェーヴ″なるものがは事実である。だから、そうした面が強まればし、その権力を築き上げたのだ。このシステム 早々と否定されたのは当然だと見なす。彼によやがて第二、第三のニュー ・ウェーヴ運動が現を完成させた科学者は、自らの発明が悪用され ・ウェーヴは六〇年代に逼塞状況われるのは必然だろうと彼は結論している。まるのに憤り、このシステムを破壊してしまう結 に陥った英米が必然的に求めた新しいア。フあ、正論だろうが、イギリス側から見たアメリ品体メタ日マックスを作り上げるが帝国に知 ローチであり、ある意味では非常に状況的なもカ製″ニュー ・ウェーヴ″への焦立ちが感じられ、殺されてしまう。たた死ぬ前に、彼はこの 日 C Ⅱ◎ N 6