る。亭主の方はパイルの敷物を掻き分け掻き分け、行ったり来たり複製像を作り、対象の″虚像″が生まれるわけです。これを出発 点に、トマス・ウエントワースはホロ・フリケータを〔発明したわけ 5 しながら、揉み手でこう繰り返している。「他の女の子ですって・ : 。他の女の子ですって : : : 」 あたしが斧を手に踏みこむと、全員が眼を剥いた。 今度はセスポルの視線もあたしの脚に向けていなかった。机ごし あたしは一同を尻目に内扉を蹴り開け、中間待合室にはいりこむに、あたしの顔を見詰めていたのた。「で、あんたは壊しちまった と、あの忌々しい鏡を粉々に叩き割った。その裏に立っていたののか、この , ーー機械を : : : 」 は、クリスマス・ツリー のように人り組んだクリスタルやら管やら「よく御存知の通り。あたしの尻拭いをしてくれたんでしよ」 電線やら器械類。これまた、あたしが叩き壊す。それがあった奥で「うむ。だが、あんたのためじゃないそ。〈セスポル聳天〉のため 。もちろん は、防音用の超ガラスで隔されて、昨日の収穫のうち最上のホロガだ : ・ 。それにしても、何だって壊しちまったんだ : ・ ール達が、中古パジャマをまとい、寝椅子にもたれて眼を教習スクオドラッシに手に入れさせないためだけじゃないな。奴だってでき リーンに据えている。最上以下の女など、ひとりも見当たらなかつるわけがないんだーーー国税庁が現場にいたんだから」 「セシリ・クーリルマンも現場にいたんだから、できないことでも ないですけどね。ウエントワースの機械というのは」とあたしは言 誰ひとり、あたしが出て行くのを止めようとはしなかった。消防葉を継ぎ、「レーザー・ホログラフィの基本原理だけを使っていま 士用の斧を壁の窪みのケースに戻してから、下に降りてブルー ・ジした。四次元幾何学が平面幾何学を越えているように、それを遙か ェイに一栞りこみ、アパートに向かう。 に越えた物だったんです。実物大の立体像を空間に生み出し、像が 途中でアイディアリア公共図書館に立ち寄り、遅まきながら調べ独自の存在となるほど見事なものだったんです。静物を相手にする ものをした。 と、こうした存在の持続時間はほとんどゼロに近いほど短かったん 「レーザー・ホログラフィでは」と翌朝、あたしはセスポルに話しですが、何やらわからない原因があるらしく、生体細胞から生じた ていた。「一筋のレーザー光が鏡で分割されます。その結果、二筋虚像たけは、かなりの時間、存在できーーー人間の場合、時には四十 に分かれたレーザー光の一方は対象物を照らし、その対象物からの六時間も保ったそうです。ただ、ウエントワースの目的は人間をホ 反射光が感光フィルムに当たります。もう一方のレーザー光は鏡でロ。フリケートすることじゃなくてーーーウエントワースは人間なんて 十プジェ・ダール 反射した後、直接、感光フィルムに当たります。これが参照光で好きじゃなかったから。望んでいたのは、美術品の永久的ホロプ す。これが対象物からの光と感光フィルム上で混じりあうと、干渉リケーションを集めることだったわけで、そのホロ。フリケーション 縞が生まれます。そこで今度は、参照光だけをフィルムに当ててや がどうしても一瞬間以上は存在しないとなった時、その機械は失敗 3 ー ると、フィルムをつき抜けた光は干渉縞を置き換えて、正確な立体とみなしました。そこでクーリルマンが買い取ろうと申し出たわけ
る。それを書くために話をどう発展させる そういう時間的経過が非常に大切です。 話さなければいけなくなりました。そのほ か、原因結果をどう書いてゆくか、それがそれからもうひとつ大切な要素、原因と結かのことは、あとの質疑応答でいくらでも 9 小説作法ですよね。 果、たからこうなり、こうなったんだ。ど ご相談にのりましよう。どういうふうに編 そこで、さっきの誤訳冫 こもどるわけでうも近代小説においては、あの人があのと集者に売りこむか ( 笑 ) というような実際 す。なぜ翻訳をやる人は、小説作法を心得 き意地悪をしたから、私はこうやって苦労的な技術も、あとで必要ならばお話します よ。 ていなければいけないかに をしているといった、原因と結果を大切に 何のために書いてあり、どんなふうに話しますね。勉強したから大学へ通りました 翻訳というのはどうやるものか、ぼくの が進行してきたかがわかっているときに というのが大切なんで、私は何年に生まれを読まれたかたはたぶんご存知でしよう は、「ミスター ・ハンガ。ハー」が出現するてどこへ入ったというのは問題ではない、 : 、・ほくは自分の本を売るためにいいます 必然性はまったくない。小説作法からはあとあなたがたもいうだろうと思いますが よ。この本の二巻目 ( ハインライン「悪徳 り得ないことだ。小説作法というほど大げね。たたし・ほくの考えとしてはですね、 なんかこわくない」 ) のあとがきに書いて さなものじゃあないですけどね、実際は。 説を理解する上で、われわれはもうずいぶあります。ます字引きを見すに、絶対に字 論理的といってもいいですよ、こんなに簡ん頭がよくなってるから、原因結果は、こ 引きをあてにせずに原書を読むんです。持 単なのは。これはおかしい、辞書で引いてれはもう自明の理た。もっと初心に返っ つなら字引きというものは多ければ多いほ みないといかん、ということになる。するて、時間的経過を追っていくというのが非 うがいいもので、・ほくもたくさん持ってい と、ハンガバーではなくて、ハングオ 1 常に大切だと・ほくは思いますよ。 ますがね。 二日酔いだということになる。メキシ だからこれから小説を読まれるときに でも、最初の本を、初めての原書を読む コの少年の話たって、年表を作ってみれは、時間の流れはどうかということを頭のときには、字引きを使わず、一語一語を読 ば、便所へは行っていても、ロ・ハを洗う必中にちょっと入れておかれると、あ、おか まず、すーっとなるべく早く目をとおす。 然性はない。 ロ・ハというのは、お尻というしい、これはどこかで間違っているそと ・ほくは二十四、五のときに「長く大いなる 意味なんだな、とわかる。だから、小説が か、これは出版社がミスプリントしている沈黙」というタッカーの小説を、京都から わかるということが、非常に大切な英語のそ、これは組み間違えているそ、というの 三宮まで五十分の電車の中で読んだことが 力になってくるんです。 がわかるはすてす。それは英語の本を読まあります。目がよかったんですね。ですか ですから、あなたがたが翻訳をやられるれる場合も、自分の文章を書かれるときも ら、一冊の本を二時間ぐらいで読む。それ ときに、小説作法というものをむきになっ同じことで、時間の流れ、原因。結果とい が難しければ、八時間でも仕方がありませ ておぼえる必要はありませんが、漠然とでうことをお・ほえておくことですな。そんなんがね。少なくとも、朝目が覚めてから夜 も頭の中にあれば、非常に原文の理解が容 に難しくないでしよう。 までにぜんぶ読む。夜目が覚める人は夜か 易になるんです。作家は何を書こうとして さて、時間がなくなりましたから、実際ら朝まで : : : とにかく、明日になったら忘 いたのかがわかるわけですからね。 の翻訳をどうするかということを三分間でれてしまうからです。とにかく、起きてい
信を取りもどしたんですがね。それでいま なるってのが原則です : : の点でおじい ( 笑 ) 、中央公論社から出た「日本の歴史」 と、うンリー ごろになって、人に知られるようになりま さんが山へ行き、の点では川で桃がドン ズの百年分を読んでみた。あ したが、これは光文社の編集者が「どうで ・フリコドン・フリコ、とこういうふうに流れあいう本は前後するところもあるけれど す矢野さん、明治百年に合わせて何か書い ていくわけですね。そうすると、このまま も、まあ年表にそって書いてありますわな 力、なあ。そして、自分で年表を抜き書きしてい てみませんか」というんで、書かせていた書きつづけると、ああ、昔話か、・ハ たきますと答えたものの、ぼくは英語の、 んていわれるから、ちょっと工夫をこら った。主人公が生きていった背景を知る必 それもの本ばかり読んでいたから、日 して、考えてみれば三十年前、愛しあった要がありますからね。この中で面白い事実 本の歴史小説をどう書いていいかわからな のが原囚でこうなったと書いて、これは近が発見された。勉強しなおしてきませんで 代的小説でございます、と威張ってるわけしたから、思い違いがあるかもしれません が、フランス公使の通訳官のメルメ・ド・ ところが、小説作法というのは、百七十だ。カト ッくックだ、フラツンユくッ 冊も翻訳していると自然におぼえてしまう カションというのが、その一、二年前に函 とか、時間の流れを中断して昔にもどった 館にいましてね、あとで外国奉行になる栗 ものです。いや、そのころはまだ九十冊ぐ りしますね。しかし、どんなに複雑に書い らいたったと思いますが。例えばハインラ てあっても、小説というのは時間の流れに本鋤雲という人とそこでフランス語の交換 授業をしているんですね。ふしぎじゃない インなどというのは、小説作法の天才ですそった物語におき換えられるものですよ。 から、馬鹿でもチョンでも、読んでいると だからあなたがたが、小説を読み終ったですか ? カションは、幽閉されたナポレ 小説作法が身についてくる。 ときに、時間の流れにそった物語にしてしオン三世に会って、「おまえ、日本へ行っ さて、。ほくはどういうふうにやったかと てこい、なんていわれてスパイになったの まうと、どうなるかを考えるのが必要で いいますと、あ、写真を撮るなら撮るとい は、まぎれもない事実である。想像ですけ す。もっと詳しくいいますと、・ほくが「カ ってくれたら、もっときれいな文字で書く ムイの剣」を書いたとき、時間的にはどれどね。このふたりが、うまくやろうぜ、な のに ( 笑 ) 。ぼくは時間というものが、ど だけの長さを見たらいいか、最後の場面をんてことでやったに違いない。 っちへむいて流れるのかは知らん。まあ、 ここまでは現実ですよ、背景になる現実 明治元年とし、主人公をそのとき二十五歳 この黒板の上では、左へ流れるものとしま とすると、そいつを生んだ両親、祖父母をの上に、ひとりの人間の嘘の二十五年間を のせるわけだ。背景がぜんぶ本当たから、 せんか、そして小説というものほ、昔々お入れるとまず百年間ぐらいを考えることが じいさんとおばあさんが : : : そして、めで必要た。まあ難しい本を読むのは大変たか読むほうは本当の事件のように感情移入し : いまは。ヘリーといってるけれど、・ほ てくれるわけです。そこへ、何のためにこ たしめでたし、というふうに、時間の経過ら : に従って進んでいくのが基本にあるわけでくらはベルリと習いましたがね、それがやの小説を書くのかというアイデア、精神を す。 ってくる。あるいは安政の大獄があるとか入れる。何のために書くのか、いや、金儲 これを物語というわけですよね。物語風 : 難しい本を読むのは嫌だから、とい けのために書きます、という人はますいな い。私はこれを書きたい、というものがあ の小説。どんな小説も、分解すれば物語に って三省堂から出した本はなかったから
るうちにぜんぶ読む。最後まで読む。眠一回目に読んたときわからなかった単語の質問確か「デ、ーンの第三部」というの たくたっていいじゃないですか、一日ぐら半分ぐらいが、 はっきりした意味ではなく がアメリカでは出ていると聞いたのです っても、こうではなかろうかと、たぶん八 が、その翻訳をされる計画はありますか ? そうするとね、まあ、一冊読んだら、だ十パーセントぐらいの確率でわかり出すん矢野もう、とっくに渡してあります ( 笑 ) 。 れかが殺されたとか、宇宙船がどうした、 ですね。 今日は、ある外人の書いたあとがきの原稿 ぐらいのことはわかるはずです。少なくと さて、三回目には : : : まあ、・ほくは二回も渡しました。 も入学試験に通ったような方は、たぶんも 目のときにそうしますが、字引きを引きな編集部もう間もなく出ます。 うすこし何かわかると思いますよ。もやも がら読みます。話がわかっているし、時間 質問文庫で出るんですか、それとも海外 ノヴェルズで出すんですか。 やした状態たけれどもわかる。字引きを使の流れがわかっているから、非常に理解し わないんたから、そんなに詳しくわかるはやすい。それから、三回目のときに、登場編集部文庫で出ます。 ずがない。そして二回目には、わからない 人物を名前でいいから書き出していくんで矢野文庫で出る理由のひとつは、そうし 単語に鉛筆でひげを生やしながら読むんです。これは本を読むとき非常に大切なことてほしいといったからでもあるんです。 す。するとふしぎなことがおこるんです。 ートカ ですよ。事件を書いていかずに、ジャック 「デューン砂の惑星」は最初、 とかスミスとか、人間の名前を書き出して 1 で出そうということだったんです。で ゆくと、事件がよくわかるようになるんでも、非常にいい話だから、なるべく安い値 す。これが主人公、これが情婦、だからこ段で出したほうが、若い人に読んでもらう の人間には「おれ」を、こいつには「あた可能性が多くなるってね。本というものは い」。こいつには「わし」を使ったらびた十代のときにたくさん読まないと、読む癖 りだな、ということもわかりますね。 もっかないと思うんです。小説を読むって 三省堂の店長さんがいわれた一時間がこ のは、一面においては縦の論理ってことを れでちょうど終りました。いまから、どんお・ほえます。縦の思考といってもいいです な質問にもお答えいたしましよう。 ね。時の流れ、原因結果とね。もうひとっ 編集部何か質問のある方がいらしたらどの平面思考っていうのは、どちらかという うぞ。・ほくは、最初にいい忘れちゃったんと美的感覚みたいなもので、必ずしも縦の 風ですが、マガジンをやっている今岡と論理を必要としない。漫画、劇画の一シー いいます。よろしく。 ン。縦の論理なしで、平面の一枚にたくさ 会 質問翻訳のことじゃなくてもいいでしょ んの情報が入っているというもの。小説と いうものは縦の論理でしかながれていませ 9 矢野はい、何でも。 んね。これがどんなに大切かというと、劇
太陽系の概念を根底から変えるような新知見 ー空輸天文台」に乗っていた。 0 男亦夂私たちは、太陽系 0 激変時に生きて」る。 これは 0141 型ジェット機に、口径九一セ , 乂ーそのような思いを、ますます強くさせられるは、何一つ見出されなかったからである。 だが、二年前の一九七七年三月に、最初の驚ンチの望遠鏡を搭載した文字通り「空飛ぶ天文 近ごろである。 台」であって、空気の薄い高層から、天体の精 アポロⅡ号の宇宙飛行士たちが、初めて月にくべき発見がもたらされた。 下系 / 着陸して、月面をとんだり、はねたりするのをコーネル大学の・エリオットらによって、密な観測を行うのが目的であった。 日笏 エリオットは、オーストラリアの南西端のパ 天王星に五重の環のあることが突きとめられた ド見たとき、私はその感想を、 日 ースから飛び立ち、その西南約一一〇〇〇キロの 太「疑いもなく、一つの時代が終りを告げ、ま 0 のである。 たく新らしい別な時代が始まったのだ。その時これは「掩蔽」といって、ある天体が、他のケルゲレン諸島の上空を、高度約一万二〇〇〇 代を私は、太陽系の時代、月と惑星の時代とよ天体により隠され、見えなくなる現象を利用しキロを保ちながら、飛行した。 そこはほとんど南極大陸に、近いところだっ て発見されたものだ。 びたいと思う」 と、『宇宙に挑む人間』 ( 一九六九年・文藝掩蔽がよく起こるのは、月が惑星や恒星を隠た。そして天王星による掩蔽が始まるのを待っ ていると、奇妙なことが起こった。 す場合である。 春秋 ) という本の冒頭に書いた。 たとえば今年は、三月二十七日に、月が火星掩蔽が起こる時刻は、あらかじめ計算されて この場合の太陽系の時代というのは、人間が いたが、その四十分ほど前に、突然、恒星の光 次第に月や惑星を変容させてゆく、という意味を隠すのが、日本で見られる。同じような月に よる金星の掩蔽は、四月二十四日に起こり、やが約七秒間、消えてしまったのである。 をこめたものである。 何物かによって、星の光が遮断されたとし だが、そのような側面を、まったく除外してはり日本でも観測できる。 も、このところ太陽系についての私たちの認識また月が、恒星アルデバラン ( 光度一・一か、考えようがない。 さらに、つづく九分間に、同じようなこと 等 ) を隠す現象は、今年中に十三回も起こり、 は、大きく転回しつつあるのだ。 このうち、三月五日、四月二十九日、七月二十が、四回も起こった。すなわち合計五回にわた ついこの間までーーそう、少なくとも二年前日、十月十日、十二月四日の五回は、日本で見つて、 SA0158687 の光は、天王星のま わりにある何物かによって、遮られたのであ までは、惑星についての私たちの描像は、五十えるのである。 このように月による掩蔽は、夜空に占める月る。 年間不変であった。 この掩蔽現象そのものは、二十五分間で終り 太陽をめぐる惑星は九つであり、水星、金の見かけの直径が大きいために、よく起こるも 星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星、のだ。が、掩蔽のなかには、惑星が恒星を隠すを告げた。が、その後も、恒星からの光は、前 と同し五回にわたって、遮断されたのである。 場合もある。 冥王星という配列には、寸分の狂いもない。 しかも、その時間間隔は、まったく対称にな 全惑星中、もっとも小さいのは、直径四八七一九七七年三月十日夜には、まさにそのよう っていた 八キロの水星であり、太陽系中、環をもつのはな掩蔽の一つが起こった。 。しナしど一、つい、う - こし J42 ろ、つか 土星ただ一つである。ーーそういう、親しみな天王星が、太陽系よりはるか彼方の れた惑星たちの概念について、私たちは少しも 58687 という光度八等の、肉眼では見えなエリオットは、予想外の出来事にぶつかって驚 いたが、彼は冷静にデータを調べ、解析した。 い恒星を、おおい隠したのである。 疑わなかった。 ・エリオットは、その瞬間をとらえるたそしてついに、 一九三〇年一一月に、ローウエル天文台の 0 ・ トンポーが、最外側の冥王星を発見して以来、め、のエイムス研究センターの「カイ「これは天王星が、五重の環をもっている証拠 えんべい
の顔はいかにもつわものの戦士らしく、傷だらけだったが、おだや「俺にはあんたたちを救けなければならない理由があったのさ」 かな光をたたえた、澄んだ眼が、彼の印象をよほどちがったものに ダフームはニャリと笑うと、チャクラをみつめた。「俺の死んだ 8 していた。一言でいえば、なんとも優しげな感しがするのだ。その友人というのは、あんたと同じ人だったんだ」 優しさに加えて、たれにもこびず、たた槍だけを友にしてきた、男それから、その視線をジロ 1 にうっして、い 小ぶとむし の威厳のようなものがそなわっていた。 「それに俺はあんたと同じ″甲虫の戦士だしな」 ダフームの説明によれば、彼はつい三日ほどまえに友人をうしな ったばかりということだった。そしてダフームは一族の掟にしたが 3 、友の魂が地上をはなれるまでの三日二晩、自分も死んでいたの 夜の沙漠に風が吹いている。 「自分も死んでいた ? 」 昼間の猛暑とはうってかわった寒さだ。フードの襟をあわせる手 チャクラがあきれたような声でいった。「それはどういうことかもかじかみ、吐く息もしろく凍っていた。 まったくなんという土地た、と、チャクラは思わないではいられ ジローたち三人は大グモの巣穴から脱出し、ダフームに水をわけよ、。 ナしこの土地においては、″自然の恵み″などという言葉がなん てもらい、ようやく人心地のついた気分になったところだった。 とそらそらしくひびくことか。この土地は人間にたいし、徹底して 「一族の掟なんだ」 吝嗇であり、徹底して残酷なのであった。 ダフームが淡々とした声でいう。「死人がさびしい思いをしない マンドールの緑濃いジャングルが思いだされる。あの人間をやさ でもすむように、生前もっとも親しかった人間が三日二晩、つきそしく包みこみ、ほどよく調和したやおろずが、なんともなっかしい ってやるしきたりになっているんだ : : : そのあいだ、飲まず食わすものとして思いだされるのだ。 で、ビクとも動いちゃいけないんたよ。さすがに ′ミルメコレオ″ しかし、彼らの旅はやおろずの頂点に位置する″稲魂″に反逆し の巣穴にころげおちたときには、困ったことになったな、と思ったけたことから、はじまったのだ。いまから考えれば、あのまろやかに ど、ちょうど死者送りの時間が終わりになって、運がよかったよ」統一された″やおろず″にたいして、なんという恩知らずな真似を 三人は顔をみあわせた。彼らには、ダフームの一族の掟はなんとしでかしたことか。あんなにも人間にやさしい自然は、マンド 1 ル も奇怪なものに思えたにちがいない。 をのそいて、この地上のどこにも存在しないというのに : 「おかげで救かったわ」 どうしてか、マンドールにはもう永遠に帰れないような気がす それでも、ザルア 1 が気をとりなおしたようにいった。「ありがる。ジローが″月″をとりかえして、マンドールにもどり、ランと とう」 結ばれることなど絶対にありえないような気がするのた。
した」 少尉は金星人にとらえられ、金星の独裁者ザんだ」 「凄いや」 「凄いや」 ルカンダー大王の前へ連れて行かれた」 「爆発までは一時間しかない。二人は急いで 「地球防衛軍随一の腕前を誇る少尉は、次々 「そいつ、悪いやつだね ? 」 「ああ。悪いの悪くないのって、悪ばかりの宇宙艇の格納庫へ走り、番兵を倒して宇宙艇 に金星の迎撃機をうち落としていったんだ」 「かっこいい」 金星人の中でも、こいつはとびきりのワルを奪った」 「ところがやはり多勢に無勢、遂にスター だ。その大王がフィリツ。フス少尉に下した判「それで脱出するんだね ? 」 そルモット 「そう。とび出した宇宙艇に気づいた金星人 ファイター号も敵弾を受け、金星の砂漠へ墜決は、デルザール博士の実験台になることだ たちは慌てて追って来ようとした。と、ちょ った」 落していった」 うどその時、超強力爆弾が爆発して、金星は 「死んじゃうの ? 」 「それ、どんな奴 ? 」 「いやいや、大丈夫。機が砂漠に激突する寸「うん、これはマッド・サイエンティストであとかたもなく消えてしまった」 「少尉たちは脱出できたの ? 」 前に、少尉は脱出装置を使ってとび出した」 な、人間の頭をゴリラやワニのそれとすげか 「うん。二人は地球に帰り、そこで恋におち 「良かった」 えるのが趣味という、変質者なんだ。少尉は て結婚したんだ」 「ところが一難去ってまた一難。着地したと こいつの実験室へ連れて行かれた」 「その一一人に子供できた ? 」 ころは、いろんな怪獣がウョウョいる金星の「絶体絶命だね」 「うん、できたよ」 大ジャングルだった」 「そう。しかし救いの手がさしのべられた。 「その子はどうして生まれたの」 「どんな怪獣がいるの ? 」 手術台に縛りつけられた少尉の首が、今まさ 「金星ライオン、金星ヘビ、金星ゴリラに金にレーザー・メスで切りおとされようとした 、募規定 星力。ハ、エトセトラエトセトラ : とき、博士の助手をしていた女が突然博士を ■応募資格一切制限なし。ただし、作 「そいつらに襲われるの ? 」 ぶん殴って気を失わせ、少尉を助けたんだ」 品は商業誌に未発表の創作に限りま 「そう。武器は光線銃がたったの一挺。普通「その女、何者だったの ? 」 す。 の人間なら一時間とたたないうちに怪獣の腹「さあ、この金髪の美女こそ実は火星人の女枚数四百字詰原稿用紙八枚。必ずタ の中へおさまってしまうところだか、少尉はス。ハイ、サラー・キャパックだ。火星人も金 テ書きのこと。 そうはならなかった。優れた頭脳と体力を駆星人の宇宙征服の野望を打ち砕くため、スパ 原稿に住所・電話番号・氏名・年齢・ 使して怪獣どもをなぎ倒し、とうとうジャンイを潜人させていたんだね」 職業を明記し、封筒に「リーダ 1 ズ ・ストーリイ応募」と朱筆の上、郵 グルを脱出した」 「二人は脱出したの ? 」 送のこと ( 宛先は奥付参照 ) 。べン 「強いなあ」 「いやいや、その前にやらねばならないこと ネームの場合も本名を併記してくだ 「ところがホッとしたのも東の間、ジャングがある」 さい。なお、応募原稿は一切返却し ルを出たところは金星の首都アル・カトル。 「何、それは ? 」 ません。 少尉はたちまち金星人の。 ハトロールに発見「女スパイはデルザール博士が、惑星を一つ ■賞品金一封 されてしまった」 まるごと破壊できるくらいの超強力爆弾を完 ■掲載作品の版権および隣接権は早川書 「でも逃げられるんたろう ? 」 成させたことを知っていた。そこで二人はこ 房に帰属いたします。 「いやいや、今度はダメだった。奮闘空しくれに時限装置をとりつけ、スイッチを人れた
C / 、 C C / 770 市 ったのである。 ってもいいほどである。 大きさについても、直径一一 九〇〇キロから二四〇〇キロ 今年になって、冥王星は、さらに一つの という数字が出た。これは、 異変を追加した。 通それは、太陽系中、最遠の惑星ではなくなっ それまでの値の半分以下であ T2 る。 たことである。 そして重要なことは、この 冥王星の公転軌道は、かなり円から外れた楕 冥王星の大きさによって、も い円で、太陽から遠くなったときは、七三億八二 七〇万キロも離れる。 はや水星は、全惑星中最小の 惑星ではなくなったことであ が、太陽に近づいたときには、四四億四四五 星 る。 衛〇万キロくらいになり、海王星の軌道の内側に まで入りこんでしまうのだ。 九つの惑星中、もっとも小 星 さいのは、いまや冥王星にな 王日本時間の本年一月二十二日午前六時五十八 ったのだ。さらに冥王星の比 分三秒ーー冥王星は、発見以来初めて、海王星 重についても、新らしい数字 しの軌道内に入った。 は水のそれの一・〇程度であ そしてこのときを境にして、太陽系でもっと 撮 ることを教えた。 のも遠い惑星は、海王星となったのである。その 台 これは、冥王星が、それま 太陽からの平均距離は、四四億九七一〇万キロ 文 守 - 」 0 天 で考えられていたような地球 ク 型の惑星ではなく、きわめて このような現象は、およそ二百五十年に一 小さいにもかかわらず、木星 度、冥王星が近日点に達する時期にしか起こら や土星のような巨大な惑星の 仲間た、ということを意味す そしてこの状態は、一九九九年三月十四日十 る。 時すぎまで、二十年以上にわたって、つづくの である。 このように、太陽系についての概念は、冥王この値そのものは、太陽系の衛星仲間では、 星の新知見によって、つぎつぎとくつがえされそれほど大きなものではない。が、母惑星にた 静かな太陽系にも、激変の時代がやって たのである。 いして半分から三分の一という比率は、異常にきたのである。 新発見の冥王星の月は、カロンと命名され大きい そしてこのことは、カロンが衛星というより 日下実男氏へのお便りをお待ちしていま その大きさは、冥王星の半分から三分の一とは、冥王星の副惑星といったほうがいいような す。宛先は当誌編集部「サイエンス・ク みられている。ということは、一〇〇〇キロ前ものだ、ということを示している。 リティック」係まで。 ( 奥付参照 ) ・後とい、つこと、た。 あるいよ、、 さいけれども、一一重惑星系とい こ 0 以 3
暗赤色の砂の広野に、何か見えた。それは建物のようでもあり、 崩れ砕けた岩塊のようでもあり、難破した舟のようでもあった。 船内の者たちは、首をふってたがいに顔を見あわせた。 「だめだ。かれらは、かれらだけの世界にとうのむかしに行ってし 「何だろう ? あれは」 「建造物にちがいない」 まったのだよ」 「今まで地ド深く埋没していたのだろう。それが砂の対流で、地上「でも、もう何千万年もたったはすなのに、かれらはどうして。あ のように生きていたときと同しような姿でいられたのだろう ? 」。 へ押し上げられてきたのだ」 宇宙船はさらに高度を下げ、平原すれすれに飛んだ。重力の変化「おれたちにはわからない、何か特別の原因があるのだろう』 が起き、宇宙船が通過した地表では、砂塵が生きているもののよう「あの遺跡を調べてみよう。また何かわかるかもしれない」 「あの死体も、葬ってやろうではないか」 に渦まき、わきかえり、航跡のようについていった。 「よかろう。はんの少しだが、まだ時間はある」 「見ろ・あれを」 ーに手をかけた 一人が着陸用意のためのレバ 「人間がいるぞ ! 」 そのとき、そこが砂の対流の埋没点だったのか、残骸は急速に砂 「まさか , ・」 の中に沈みこんでいった。 「いや。たしかに人間だ」 ) ングしろ。できるだけ近づけ」 「早くしろ」 「だめだ。もう間に合わない」 宇宙船はゆっくりと降下した。 それはあきらかに建物の残骸だった。ガラスも、金属も、それか建物の残骸を呑みこんだあたりから、けむりのように砂が噴き上 らかれらの全く知らぬ物質で作られている部分も、はなはだしくそっていた。が、間もなく、それも終った。 その上空にとどまっていたが、やがて、 こなわれ、朽ち果てていた。 宇宙船は、なお短い間、 その窓に寄りかかって、二個の人影が、こちらを見上げていた。白光をひらめかせると矢のように急上昇していった。 「一人は男で、一人は女でしよう。女はとても美しい。助けを求め ているのだろうか」 二度と、どこかの宇宙船が、この惑星に訪れてくることもないだ 女は長い髪と、美しい布で織られた衣装に包まれ、男の腕に抱かろう。 れていた。男と女の身につけた長い首飾りがもつれ合い、からみ合赤色巨星になった太陽のフレアが、この惑星にまで届いてくるの は、も、つ間もなくだった。 って、二人の体をしつかりと縛りつけていた。 一一人はほほ笑みを浮かべて、宇宙船を見上げていた。 だが、宇宙船の位置が変っても、二人の視線の方向は変らなかっ真の静寂がこの惑星を今、押しつつんでいった。
る味たった。 「ロクストン卿、食事にお招きいただけたことはうれしい」 その時、トムが再び姿を現わし、無表情な顏で、晩餐の用意がと 2 チャレンジャ 1 教授が、咆えるようにいナ とのったことを告げた。 「たがわしは、ご存知の通りいそがしい体だ。目下取り組んでいる ライフワーク : : : 白亜期化石の分類を仕上げるためには、体が 3 つあっても足りんほどなのた。 たが他ならぬあんたのご招待とあって、こうして出て来た。あん 一時間後、・ほくらは食堂から再び居間へと戻り、食後の・フランデ たの土産ばなしとやらが、わしが潰した研究時間の貴重さに引き合 1 と葉巻でくつろごうとしていた。 , ・・ - ーー食事は、ロクストン卿のチ わぬものだ「たら、わしとしてはあんたに対する気持をあらためざ = ルトナムの領地から運ばれて来たという新鮮な鹿と雉肉をメイン るを得ないそ。 ・コースとしたすばらしいものたったが、あまり楽しい雰囲気とは これたけは申し上げておく。ここにいるサマリー教授も、同し気 いえなかった。 持だと思うが : : : 」 二人の教授は、食物の味など分からぬように黙々と食べていた サマリー教授は、再びこくりと頷いこ。 が、チャレンジャー教授が、最近テポンシャーで発掘された白亜期 「その通りですな」 化石のことを口に出すに及び、サマリー教授との間にはげしい論争 しわがれた声でいった。 が始まりそうになったが、ロクストン卿の取りなしでようやく静ま 「わしに残された時間は短い。きわめて有効に使わねにならんの だ」 ロクストン卿はすこぶる陽気でたのしげに振舞っており、オリノ ぼくは、胸の内でひそかに微笑した。この愛すべき二人のしいさ = 上流の未開のインディオの珍奇な風俗や、川にすむ動物 : : : 川イ んには、先回のアマゾン旅行の折、その独善主義ですっかり手こずルカや、。ヒラルクまたはペイチ = と呼ばれる巨大な魚のことなど、 けんぶん らされた。超一流の学術的頭脳の持ち主だが、その他の面ではまる当たりさわりのない見聞を語って座を取り持った。 つきり子ども同然なのだ。その傾向は、し 、っそう強くなっているよ ・・マローン : : : すなわちこのぼくはといえば、ほとんど恍 うである。 惚として彼の話に耳を傾けていた。この一年間、・ほくはロマネスク ぎよう 「ご心配なさらんように、ご両所」 な話に憧がれていた。卿の話は、ぼくの心をたっぷりとその甘い美 ジョン・ロクストンよ、。、 , イプをくわえたまま微笑した。 酒で充たしたのである。 「決してあなたがたの期待を裏切らないことを、お約東しておきま 今、・ほくらは、さきほど選んた椅子に再び陣取り、柔らかい す。今夜を、すばらしい夜として永遠に記憶されることになるでしモロッコ革に体を埋めて、すばらしい香りの立ちのにる・フランデー