宇宙船 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1979年9月号
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1. SFマガジン 1979年9月号

ないはすだった。 ここには何かが存在していた。 フセウは、デコイの残骸を投げ棄てると、自分の宇宙船へ向って 走った。 大きな見落しがあるような気がした。 平原の果に、宇宙船は休息している鳥のようにうすくまっていた。 その姿が、ほんの少し傾いているような気がした。 フセウは宇宙船の影の下に入った。 三基の降着装置が、深く砂にめりこんでいた。 その太い軸が、変色し、砂からのぞいている部分は、軽石のよう に多孔質になり、ばろばろに腐蝕していた。船体の一部にも変化か あらわれていた。 フセウは、ハッチを開き、船内にとびこんだ。 推進装置や航法装置には異状はなかった。だが、それも時間の鬥 題であろう。 ~ ーし卩ノし学 / フセウは操縦鞘をいつよ、 強大なエネルギーが船体を震わせ、火山の大爆発のように砂けむ りを吹き上げ、宇宙船は空中に浮いた。すさましい震動が走り 基の降着装置は、半はから折れた。 フセウは、救助信号を発信した。 《ワレ、船体損傷。帰還、極メテ困難。嫌気性バクテリアニョッテ、 船体ハ侵蝕サレツツアリ。救援ヲ乞ウ》 デコイは、酸素の消費量の極めて大きな粘菌類を、この惑星に投 下して繁殖させたのだ。みるみる酸素は減少し、ついにこの惑星の 生物は全滅した。 デコイたちは酸素は必要としない。必要としないだけでなく、酸

2. SFマガジン 1979年9月号

えー、ひさびさの担当、加藤である ( うー は、ひとつの町くらいは全減する。 げていた。条件⑧については、全体はメカメカ 、いつものことながら、文章を書くのは苦労 ③推進機関はロケットからワープまで各で一部にその雰囲気があればよい。それより する ) 。 種。時には新しいものをつくって取り付けも、いくつかのプロックが組み合わさったよう ることもある。 ぬえもメン・ハーが増えたおかげで昔のよう なーーということで、できあがったのが図①、 に、ひとりで何もかもやる必要がなくなってき ④指向性をもった引力のある床板。 どうも大きさが足りない。そこでついに宮武に た。私がメカのデザインをすることは最近ほと ⑤地上に直接おりることはない。 も発注、これが図②。まだまだ、こんな感じで んどない。今はもつばらイラストだけを描⑥どうやら、ほ・ほ人間に近い生物が使ってと図③。 いている。ただひとつの例外は、半村良「虚空 いたーー椅子その他が体格にあう。 同じころ私が描いたマガジン七七年九月 王の秘宝」。これを今回はとりあげる。まずは、 ⑦意思を持ったコン。ヒュータ ( 生物的 ) 搭号の浮遊都市を、いたく気に入ってくださった 第一章から 載、船体に金属は使われていない。 小松さんが、この都市の模型をつくらせ宝塚の ご存知のように現在、連載中の「虚空王の秘 ⑧デザインの基礎に密教美術の雰囲気があ展示物に使用、落成式に参加した竹川が密教関 る。 宝」には巨大な宇宙船が登場する。長さ一〇キ 係の資料を二日ほどかけて、さがしまわってき ロ、幅五キロ、厚さ三キロ、平面だけなら東京 の練馬区 ( 私が住んでおります ) に形も大きさ このリストは半村さんの話を後でまとめやっと完成図④、といきたいところだが、何 も似ている。さて、このとてつもない宇宙船がたものである。 せ巨大宇宙船、いつもと逆に絵のスペースが、 どうやって、できあがったのか。宇宙船のデザひたすら巨大な宇宙船であることは、これ以なくなってしまった。残念ながら、次回まわ インその実際、第一回のはじまりである。 前に聞かされていた。半文居から帰ると、さっし。 連載開始の半年ほど前、半村さんから次のよそく何枚かラフスケッチを描いて、竹川 ( 現高そこでちょっと、これからの予定を。 うな条件をかなえる宇宙船のデザインをたのま千穂 ) に見せると、どうも違うと言う ( 竹川も第二章やはり「虚空王」に出てくる搭載艇 いっしょに半文居に行ったのだ ) どうやら私はや宇宙服。 れた。 条件⑧にとらわれすぎていたらしい 第三章何が宇宙船を巨大に見せるか。クリ ①搭乗する地球人の数、約四〇〇人、サー もともとメカのセンスは映画や写真から借りス・フォスの絵などを例にあげながら書いてい ・ヒスロポット ( ヒュ ーマノイド ) 八〇〇体てきたものだ。異星の文明は大の苦手である。 こうかと思う。でもやはり「来月のことなど、 ( 地球人一人につき二体 ) の計一二〇〇人もっとも超未来や未来都市などダメなものは、わかるものか」アハア ( ②はるかな昔から地下に埋まっていて、そいくらでもあるのだが : ・ こまり果てている の一部が地表に露出している。出発の時にと、すでに竹川がひとつのイメージをつくり上 今回の担当者文・絵共 / 加藤直之 連載⑩スタシオぬえの 夛ーシッフ・ラフラリイ け 2

3. SFマガジン 1979年9月号

なせ、この惑星の占領に成功しながら、デコイ ) ちが減亡してい っていた。そのような奇妙な社会が、銀河系の中には、フセウの知 ったのか、その原因をさぐり出す必要があっこ。 っているだけで、三つの惑星にあった。 ヘリオ四重星のロポットたちについては、フセウも知ってはいた。太陽は天項にあり、砂漠は銀灰色の海のよ、にかがやいていた。 二万年以上も前に、なかまの宇宙船が、その惑星系に立ち寄ったこだが、風は水のようにつめたく、たえす北の方角から吹き渡ってき とがあった。ロポットたちは極めて戦闘的であり、不意の客たちはた。 フセウは、太陽に向って同化葉を開き、体内に溜っていた余分な 大きな損害を払って、早々に退散しなけれはならなかった。それ以 後、連合空間力学会議は、その星域を危険地帯に指定し、不時着場酸素を吐き出した。疲労が抜けてゆくような気がし三 から除外した。 フセウは、荒い呼吸のように酸素を吐き出しなが、デコイの残 ロポットなどによる非生物社会は、理解し難い面が多く、交渉を骸の横たわる荒野をのぞんだ。 いちだんとはげしい風が吹き過ぎていった 持っことは容易ではなからた。 丘ともいえないなだらかな丘のすそに、小さな可巻が起った。 砂が帯の柱となって空中に突き立ち、しばなゆらめいていたが、 味・フセウは自分の宇宙船から出て、デコイたちの宇宙船へ向っ「

4. SFマガジン 1979年9月号

立レヒ三ウ は、結局、尻切れトンボで終るか、話好みにびったりですな、これは。 が、ずれはじめることになっている。 「地球帝国」を読んで、クラークも、つ 7 実を言えば、あの「エ ーリアン」とい いに駄目になったかと、一種、ポーゼン う映画も、この手の話の一つであるにちとしたわけだが、こちらの「宇宙のラン がいないと思っていたのだ。異星人の宇デヴー」は、一九七四年のネビュラ賞、 ヒューゴー賞をはじめとして、幾つもの 鏡明宙船に、人類が入り込んで、探索する。 うう、そくそくするではありませぬか。賞を取っている。賞をもらったからと、 人類以外の存在が造り上げた構築物しかもその宇宙船のデザイナーが、ギー安心するわけではないが、もしかした が、発見される。人類は、その探険にとガンとくる。これは、やたらに興奮した。ら、と、思うのも、当然だ。これは読み りかかるのだが、それがいったい何なので、まあ、話というのが、見事にずれてたくなるね、どうあっても。 か、まったく理解できない。 いってしまい、実際には異星人の宇宙船導入部は、まず文句がない。このラー アルジス・パドリスの「無頼の月」に など、単なる味付けでしかなかったわけマと名付けられた宇宙船の内部に、人間 出会って以来、この手のには、抵抗で、こちらとしては、キタネエーと、怒が入り、僅かな照明で、その光景をかす できない。単純に飛びつくことにしていることになる。「エ ーリアン」という映かに見るあたりまでは、やたらに、わく る。簡単に言ってしまえば、人間を超え画には、もうしわけないが、印象は良くわくさせられる。まったく活動を停止し たものに対するあこがれのようなものない。ないものねだりであることは、わていると思われたラ 1 マが、突如として が、こちらの心の底にあるってことになかっているけれども。いや、オドカシ映機能を回復するあたりに至ると、忘れか るのたろうが、理解を絶するという感覚画としては、良く出来ておりますよ。 けていたセンス・オプ・ワンダーの機能 たけでも、十分に魅力的と思える。 ーリアン」 ・ O ・クラークの「宇宙のランデヴも、共に回復してくる。「エ まったく理解できないものを、そのまー」のコンセプトを、耳にしたときは、 のイモ奴、と、こうなる。 ま文字にすることはできない。書きようやつばり大喜びした。時は二十二世紀、 おそらく、クラークは、科学技術に対 がないだろうし、また、読みようもない長さ五十キロ、直径二十キロの巨大な円するあこがれを、いまだに持ち続けてい だろう。けれども、 いかに理解できない筒形の宇宙船が、太陽系を訪れる。それる数少ない作家の一人である。それが、 か、それを理解することはできる。スタを数人の人間が調査する。クラークのこラーマという卓越した科学技術の産物を ニスワフ・レムは、幾つかの作品で、そとであるから、それを舞台にして物語を媒介にして、解放される。現在と、ラー の限界に近いところまで行ったように思語るのではなく、まさにその異星人の宇マの間の時間的なギャップが、この場合 う。けれども、この手ののほとんど宙船そのものが、主役になる。こちらのには、重要な筈た。「地球帝国」には、 アーサー・ O ・クラーク 「宇宙のランデヴー」

5. SFマガジン 1979年9月号

素は彼ら自身の体を銹びさせる。 デコイの計画は成功した。彼らは、新しい天地を得て、大挙して 移住してきたのだ。 結果がどうなったかは、すでにあきらかだった。 フセウの宇宙船も、今、それと同じ目に会【「「あ「た。デ 0 イ一、 ( 一鶯 ~ 一 は、嫌気性バクテリアなどは知らなかったのだ。数多い種類の中に は、金属や岩石の中にひそんで、それらを食うものも少なくない デコイは、そのバクテリアたちに、願ってもない機会を与えたのだ デ 0 イたちは、生物相互の〈ランスと〔うものを知らない。彼ら「 ( 。き = 第 40 、 自身が生物でないからだろう。 フセウは急速に高度をとった。この惑星の地平線が、完全な半円 になりはしめた。 濃藍色の空に無数の星がかがやきはじめ、惑星は灰褐色の巨大な ポールのように、フセウの背後にあった。 一一度と訪れるものもないであろうこの惑星の地平線から、金星が 死滅した惑星 のぞいていた。きらめくかがやきが、はんの短い間、 の地平線に、金の鎖を飾った。 死の静寂が、永劫につづくのだろう。そこには。 フセウの宇宙船は、流れ星のように、星の海の中を、どこまでも、 すべっていった。 やがて、太陽系は、背後に遠く、 遠く、消えていった。 、、塗いら

6. SFマガジン 1979年9月号

C / C C 沢 / 7706 をモットーに、三度の食事にはさらに、家庭の タマッシュルー 味をもちこむように配慮されている。 ムと魚貝のスープ、 たとえば、鳥肉入りのめん類に、エンドウ豆 肉ダンゴ、ポテト・ とプロッコリーの煮つけなども入っていると ハイ、トマト・シチ ュ 、刀 サクランボと 食べ方は、スカイラブやアポロ 9 号以来の方 木の実のケーキ、イ 法どおり。シチューやステーキの場合、専用の チゴ・ジュース。 オープンで温めて封を切り、ス。フーンやフォー クで食べる。 となっている。 鳥肉めん類などは、水鉄砲のような特殊な装 ところで、これからも 置でお湯をそそぎこみ、元にもどしてフォーク 分かるように、宇宙船内 で取りだして食べるのだ。 では、一切、酒類が禁止 ただ食品は一つずつ、ステンレス製のトレイ されている。 に、マジックファスナーで固定され、食事の道 これは、乗組員がすべ 具は、トレイについている・ハネの下に、はさみ て、宇宙船の飛行にたず こむようになっている。 さわっている飛行士であ とにかく食物は、湿っていさえすれば、たと ることにも、その原因が え無重量状態でも、スプーンから、ふわふわ離 あろう。飛行士が酔っぱ れることは、まずないのである。 らってしまっては、宇宙 船がどこへ飛んでいって こうして一九六一年以来、一一十年近い研究と しまうか分からない。 武実験によって、宇宙食は初期のチー・フ式一点 しかし、今年から来年 ばりから、今日のような多様で、ほとんどふつ にかけて宇宙飛行テスト トうの食事に変ったのだ。 の始まるスペースシャト 宇宙食では、一見、退歩とも思える事態の成 ルの登場で、宇宙での禁 行が、実は偉大な進歩だったということであ 酒もとけるようになって くるかもしれない。 しかし、宇宙で酔ってみたいからと、がぶ飲る。 大勢の人がスペースシャトルで宇宙観光をすみするのだけはやめた方がよい。吐いたものが るようになれば、飛行の責任をおわない、一般飛びちると、フワフワと散乱して、近所迷惑だ 人には、乾杯用のシャン。ヘンや、食前酒としてし、なにより汚物が鼻やロから肺や気管に入っ シェリーやワインの入った容器がくばられるよて、大変なことになる可能性が多いからだ。 うになるだろう。 ス。ヘースシャトルでは、ふだん着の宇宙生活 ー 7 日下実男氏へのお便りをお待ちしていま す。宛先は当誌編集部「サイエンス・ク リティック」係まで。 ( 奥付参照 ) 3

7. SFマガジン 1979年9月号

〈英国推理作家協会賞 ( ()< 賞 ) 受賞作〉 ズ〈プレイボーイ誌年間最優秀小説賞受賞作〉 レ = スクールボーイ閣下 ヴ ジョン・ル・カレ / 村上博基訳》一〈。。 ソ連の二重スパイによって壊 滅的な打撃を蒙った英国情報 は、香港、そして戦火の東 ワ 南アジアに〃ロ、ンアの金脈 / カ を追う。最高峰をきわめたと 評される、大型スパイ小説ー Schoolboy ' ヒ、ーマン・フみ グレアム・グリーン / 宇恭 二重スパイとしてソ連に報 を流しながら、不安な日々を 送る英国諜報員の孤独と焦燥 : 善悪の鋭い対立を描きっ づける巨匠が、五年の沈黙の 後にその健在を示す最新作ー 01€lE1n0L10H 3 工 I 海外 SF ノヴェルズ 0 ・好評発売中 く好評発売中 > アーサー・ C ・クラーク / 南山宏訳 日・ A ・ハインライン 愛に時間を 宇宙のランデヴー Y 2500 A ・ C ・クラーク 地球帝国 Y に 00 くヒューゴー / ネビュラ両賞受賞 > 太陽系内に リングワールド Y 図 00 突如現われた謎の惑星。だが意外にも、それは 未知の惑星からの巨大な宇宙船だった ! 物 000 アルジャーノンにを D ・キイス Y 980 M ・ K ・ジョーゼフ 虚無の孔 ■近刊 850 」・ホールドマン 終りなき戦い ジョン・ヴァーリイ / 浅倉久志訳 Y m00 へびつかい座ホットライン遙かな世界果しなき海 D ・スーヴィン編 Y に 00 時間外世界 銀河の彼ちへびつかい座から送られてくる謎の Y に 00 通信。その通信に含まれた情報によリ、地球は 飛躍的に発展したか・ ・・傑作本格 S F 予物 3 00 他七点

8. SFマガジン 1979年9月号

どこまで話したんだったつけ ? : ・ : ・ 宇宙服 ああそうか。そこでわたしがつのってきた。道に迷うのがこわかったからではない は、そのありきたりな建物のそばの広場に着陸した。建物の間の細の靴は、一歩ごとに化学的な跡を残し、特殊な方位追跡装置で帰り い通路からヴィッイニヤ人が数人出てきて、物珍しそうにロケット 道は記録できるからだ。すでに間違いないと思っていた発見がどう をじろじろ眺めまわした。てつきりわたしを迎えに来た代表たちだやら錯覚だったらしいとわかって、完全に絶望的になっていたの と思ったが、なんのことはない、連中はロケットをぐるっと一巡し だ。謎を解明するどころか、さらにもうひとつの謎に直面し、われ たらさっさとめいめいの仕事に戻ってしまった。この惑星のほかのわれの無力さが増しただけだった。 地域で出合った何千というヴィッイニヤ人と同じ連中だったのだ。 帰り道には、ヴィッイニヤ人がやっていることをもっと注意深く どこでも、やつらは立ちどまって、・ほくの宇宙服を眺めまわしてか観察してみることにした。連中がやっている作業は、原則的には非 ら、ぼくの存在など眼中にないかのごとく自分たちの仕事にとりか常に単調で、見たところ意味がなさそうだった。それはどう見ても かったものだ。 けっしてなにか日常品とか芸術作品を作っているとは思えなかっ こ。プラスチックの塊の外観をごくわずか変化させて、遊んでいる こいつらは、ぼくが通信機で〈対話をした〉この星の思考する住ナ 民ではないにちがいないと思った。だが、どこかこの近くでかれらみたいにしか見えなかった。どこへ行っても〈完成品〉にお目にか かったことはない。途中で仕事を中断して、急いで部屋から立ち去 に逢えるにちがいないという確信がまだあった。一人のヴィッイニ ヤ人のあとにくつついて、狭い穴からいちばん近くにある建物の中る者もいたが、それは替りの者がやってきた直後に限られていた。 ついにふたたび出口のところまで来た。そのまま手ぶらで宇宙船 へ入った。かすかに光を反射しているみどり色の壁にかこまれた暗 い廊下が、かなりきつい勾配で下へ続いており、広々とはしているに戻れば、全面降伏にもなりかねなかった。そこでもう一度たとえ が天井の低いホールで行きどまりになっていた。そこで、数十人の表面だけでもいいから別の場所を数カ所見てまわることにした。目 ヴィッイニヤ人が、プラスチックで、なにか奇妙な手作りの塑像み的によって場所にちがいないだろうか、それを確かめるために。だ たいなものを作っていた。ここでは、わたしにたいしてさらに無関が、どこをのそいても、まったく同じものーー・・寄妙な塊を作ってい 心だった。しかも、わたしが連中の注意をその仕事からそらそうとるヴィッイニヤ人にしか出合わなかった。 へとへとに疲れはて、この迷路をさまよい歩くのをやめないと気 すると、抵抗したくらいだ。 そのホールから四方八方に廊下が伸びており、通常それは大きさが狂ってしまうそと思った。あるホールで床にべったりと坐りこん に大小のちがいはあるにしろ、同じようなホールに通じていた。わで一息ついた。そばにいるやつの素早い〈手〉の動きを見ているう ちに、自分の仕事に没頭し、己の背後の世界が見えないこの〈蟻ど たしはさらにどんどん下へおりていき、同じような仕事をやってい るヴィッィ一ニヤ人に行く先々で出合った。 も〉にたいする憎悪がむらむらと起ってきた。 二時間ほど歩きまわってから引き返すことにした。しだいに不安そして、そのときだった : : : 最初は自分でもはっきりわからなか 5

9. SFマガジン 1979年9月号

船に乗せると災いを招く″ばかばかしい迷信よ。港に停泊するあい んだから。作りたいわ」 あの晩、それから他の晩も、彼はカウンターのうしろで彼女がおだあなたを乗船させたって災いをもたらすことにはならないわ」 供を連れ、あるいは笑いさざめく一連隊と出かけていくのを見送っ彼は不信の面持た。 た。一度彼に手を振ったことがある。割れないはずのグラスのふち「あなたに、あたしたちの生活を見てもらいたいのよ、マリス、あ なたの生活をあたしが見たように。それならなにも悪いことはない が手の中でびしっと割れた。彼は腹をたて、とほうにくれながら、 「だれにもわかりやしない。 わ。それに」ーーと肩をすくめて それをカウンターの下に投げこんだ。 いまだあれもいないから」 だが二週間のうち三晩だけ早目に帰ってきた。今度は、あてつけ いたずらつぼい笑みに合わせるべく彼は骨を折った。「きみがそ がましく説きはしなかった。彼女はうれしそうに、嘘をつくことも の気なら・ほくも」 なし、彼の寝椅子で眠って、午後を共にした。 二人が乗りこむとフライヤーは音もなく入江を飛びたった。ニュ フライヤー 。ハイリアスが尾根の向うからせりあがる。おそい太陽が、隠れ 海辺のひんやりした翡翠色の砂地伝いに快速艇に戻った。マリス が海岸の方を見ると、泡だっ指先が寄せては引き、また寄せているている窓から黄金を発射させる。 「変らないでいてほしいけれどーーーあら、また新しいのが。高層ビ のだった。「あすは出発だねえ ? 」 ルだわ ! 」 ・フランディはうなずく。「うん」 彼は入江の向うをちらりと眺めた。「建ったばかりだよ。新しい 彼は吐息をもらす。 パイリアスが生まれようとしているんたよーーオロ鉱山に 「マリス、もしーー」 感謝すべしだね。一世紀近くもほとんど変らなかったんだ。これか 「なに ? 」 ら先が、ちょっと怖いような気がする」 「ああーーなんでもないの」と・フーツの砂をはらいおとす。 彼は、海が寄せ、かえし、そして寄せるのを眺めている 「三年先 : : : というより二十五年先が ? 」と彼女はいった。「ここ ここがあたしたちのエア・ロック」 中を、という意味だけれど」よ、マリス 「船を見たいと思ったことはない ? 彼女はフライヤーのドアを開ける、体が妙にこわばっている。 フライヤーは〈ー 709 〉の半透明な巨大な船体の下に着 水した。 彼はあとに続く。「うん」 マリスは上を見あげ、うしろを振りかえる。「思ったよりはるか 「あたしの船ー・ー〈だれが彼女をものにしたか〉を見たい ? 」 に大きい」 「規則を破ることにならないか ? 」 「 " 目ざめる男子は宇宙船に足を踏みいれるべからず″これが連盟「二万トンはあるから、船体だけで」プランディはさがっている梯 R : しい ? 」と振りかえ の規則 : : : でもこれは千年前の迷信にもとづくものだわーーー″男を子をつかむ。「これを昇っていかなくちゃ :

10. SFマガジン 1979年9月号

だった。ヴィッイニヤ人たちが、音声言語に類したものを持ってい るかどうかもわからなかったのだから、文学や音楽のことをあれこ れ憶測することが出来なかったのもたしかだ。送られてきた映像を 分析すれば、若干は造形的な調和を解明できるだろうと言うものも いた。だが、それらしきものを見つけだすことはできなかった。も っとも大都市集中型の大工業コンビナートを考慮に入れなければの 話だが。しかしそれにしたって、別に意味があるとは言えなかっ た。なにしろ、蜂の巣箱の内部構造に見られる調和だったのだか ら ヴィッイニヤの文明は、まったく芸術を創造しなかったのだ、言 い替えるならば、芸術は必ずしも知的文化の産物ではないのだか ら、と主張する者もいた。社会発展の考えられるかぎりの方法につ いて、実に様々な意見が出たし、国家の組織構造が退化し、もとも と文明を発展させる手段だった技術の進歩が、目的そのものに変っ てしまったのだという考えを持つものもいた。だがそこまで言って しまっては実も蓋もない。 現実は、予想ととてつもなくかけはなれていることがわかった : ・ : だから、送られてきた映像の精度に疑問を感じていると、言って いるのではない。だが、探険隊がヴィッイニヤへやってきても、電 波望遠鏡で交信していた過程で生じた基本的な問題はなにひとっ解 決できなかった。逆に、このはるか遠い文明についてのわれわれの 理解を確認するどころか、そんなものをふっとばしてしまうような 事実に直面することになったのだ。 太陽系に向かって信号を送りだしている発信源は、ヴィッイニヤ の北極に据付けられた巨大な構造物だった。つまり、すでに宇宙船 が制動に入った最初の段階で、それの助けを借りて惑星の住民と連 躍している。 の世界で名を知られるようになったのは一九五三年からアン ジェイ・トレプカと共著で書き始めた宇宙冒険によってだが、 この三部作を五九年に完成させたあと六〇年代以降は、冒険と はきつばり手を切り、もつばら科学的アイデアを題材にした短中篇 を単独で発表するようになった。 本篇は、レムが『ソラリスの陽のもとに』で描いた惑星の海その もうひとっ ものが一個の知性体であるという可能性に対し、〈第三の可能性〉 としての知性体、つまり個々には知性を持たない生物を成員とする 〈生物的社会〉を扱っている。アイデアそれ自体は必ずしも目新し くないが、物語の設定と展開は、かれ独自の手法で成功している。 アイデアだけで勝負する作品、ことに短篇では、複雑な物語の展開 が性格描写にまでは手がまわりかねることが多い。だがポルニは、 むしろそれを逆手に使って、状況を極端に単純化し、アイデアを講 義する語り手とその聞き手だけを登場させ、しかも聞き手は読者そ のものの代理人と思えるほど無性格な人物を設定している。だが、 物語の導入部の巧みさと語り手の話の展開のしかたで読者を作品に 惹きつける腕は相当なものだ。たとえば、中篇『手紙』では、物語 は船が難破し、男と女しか乗っていない筏が漂流しているところか ら始まる。死にかかっている男が、相手の女に自分の生命の秘密、 つまり宇宙からのイン・ヘーダーが遣言を語ることで話は展開してい くが、救助の望みが現われたり消えたりするつど、話が中断し、男 の心の動揺が見事に表現されている。同じく中篇『反世界』も語り 手と聞き手が登場し、こちらは語り手の新聞記者の日記が道具立に 使われている。本篇では聞き手はまさに、主人公が吹き込む録音を 聞かされる読者自身である。 代表作には、アンジェイ・トレプカとの共作で、プロキシマ・ケ ンタウリへ向かう宇宙を舞台にした冒険三部作『破減させられ た未来』 ( 五 = l) 、『プロキシマ』 ( 五六 ) 、『宇宙の兄弟達』 ( 五九 ) のほか、インペ 1 ダーに宇宙へ拉致され、未来の地球へ戻ってきた 中世の異端審問官を主人公にした『地獄の第八層』や、脳の記憶を なんらかの物質に移し替えて死を克服する『不死の境界』などの長 篇がある。他に中篇のなかに先に触れた二作以外にも『幸福工場』、 『トッカータ』なども注目すべき作品だろう。 ー 47