年 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1979年9月号
228件見つかりました。

1. SFマガジン 1979年9月号

4 ク キングコングい 933 ) 一九三三年はアメリカで「キングコング」 "Ki ・キ一を ng Kong" が公開された年だ。この作品は七六 年にリメイクされているわけだが、やはりオリジ ナルの方が格段に面白い。だいたいリメイク版は コングとヒロインがべタベタしすぎるのだ。そう いう話なら別の設定でもいいわけで、「コング」 はやはりス。ヘクタルでなくちゃ面白くない。 他のアメリカ作品をいつものとおりアルファベ ット順 . に見ていこ。う。 「夜明け前」 "Before Dawn" は、「キングコ ング」の脚本家エドガー・ウォーレスの原作で、 超能力を持った少女が、幽霊家敷の謎を解くとい うもの。マシスンの「ヘルハウス」に似たような

2. SFマガジン 1979年9月号

Air" は、重力コントロール装置のついた飛行機「狼大」 "wolf Dog" は、強力な破壊光線をめ の年の一月ヒトラーがドイツ首相に就任してい ファントムをめぐる全十二話の連続活劇で、これ る。 ぐる話で、前年に死んた名大リン・ティン・ティ を盗もうとするギャング団と発明家の闘い。 ンの子供が主演している。 もう一カ国フランスから。 「コングの息子」 "Son of Kong" は、「キング これでやっとこの年のアメリカは終り。次はイ 「ジュディックス」 "Judex" は、一六年の連続 コング」の大ヒットで映画会社の O が即席でギリス。 活劇のリメイクで、覆面の正義の味方がまたまた 作らせた続篇。大した作品ではないが、コングの 「デイケンズ・ファンタジイ」 "A Dickensian 活躍。前回間違えたが、この話では悪人も正義の 息子が主人公達を手の平に載せ、その手を指し上 Fantasy" は、「クリスマス・キャロル」の映画味方も共に覆面をしているらしい げたまま水中に没して行くラストはホロリとさせ化だが、全ての登場人物をロウレンス・ 一九三四年、この年ヒトラーが総統になったド られる。 という一人の俳優が演じているのがミソ。 ィッから二本のファンタジイが登場する。 「スフィンクス」ミー・ he Sphinx" は、唖の双児「さすらいのユダヤ人」 "The 「 anderingJew" 「金」 G 。一は、悪人が海底に巨大な練金術 の兄弟が、実は殺人者だったというもの。四二年は刑場に向かうキリストを殴打した罪により時代工場を作り、世界経済を恐慌に落し人れる。しか に再映画化されている。 を越えて流浪することになったユダヤ人が、最後し主人公の活躍で工場は破壊される、というも 「吸血コウモリ」 "The Vampi 「 e Bat" は、「キの審判の日に死を得るまでの物語を四つの時代をの。日本では「コスモポリス」という、「メトロ ングコング」のフェイ・レイの主演で吸血鬼によ舞台に描いた作品。 ポリス」の亜流みたいな邦題で公開されたそう る連続殺人の話。オープニング・シーンの木から 「運命の眼」 "Eyes of Fate" は、製本屋が明日 だ。フランス新版もある。 ぶら下がっているコウモリの群れがすごいそうの新聞を手に入れ、くじに当選するが、同時に自 「世界の主人」 "Der Herren der 、 el 二は、 だ。実は五年前にアメリカに行ってきたときに、 分の死亡記事を読む。 ロポット工場の話で、ロポットを平和的に労働力 深夜放送のテレビで見たはずなのだが、疲れて途 ドイツからはこの年二本。 として使おうとする側と、戦争の道具にして世界 中で眠ってしまったりで、まるで印象に残ってい 「トンネル」 "Der TunneI" は、大西洋の下をを征服しようとする側との闘いが描かれている。 ない。フェイの名前を見てホウと思って見始めた ~ 、み、って、ヨーロッパ、らアメリカまでトンネル この映画は「世界の王者」の邦題で日本公開され のだったが。フ = イはあいかわらず叫んでいたのを作る話。同時にフランス語版も作られている。 かなあ。 「透明人間町を行く」 "Ein Unrichtbase g-eht 次にイギリスを見よう。 「囁く影」 "The 「 hispering Shadow" は、 durch die Stadt" は、別名が "Die Welt ist 「邪悪な探索」 "The UnhoIy Quest" は、元 自分の影を思う所に映し出せる装置を使って悪事 Mein!" ともいし 、透明人間物であると同時に、 罪人の召使いがゆすりに来た男を殺してしまう。 を働く男の話。全十二話の連続活劇。 ナチの台頭を暗一小した作品ともいわれている。こ その殺された男が、ミイラ化した十字軍の騎十を 1 キンクコンク 4

3. SFマガジン 1979年9月号

「そうだね。きみをーー永久に・ほくのものにしておくわけこま、 「もう八十六だよ。冒険生活には年をとりすぎている。あたしマク ないね。でも、 しいよ」とニッコリして、「どうなったっていい 2 タフになるつもり、幸運なことにその機会に恵まれた」 2 「じゃあ : : : ええーーーあたし、残りたいんです ! そのお仕事、およ。二十五年間がなんだ、二百年に比べればね ? 」 受けします」 「三年に思えるけれど」 マリスは思わず顔を上げ、彼女の顔が喜びと安堵で輝くのを見「二十五年に思える。でも耐えられるーー」 た。「・フランディ 「マリス、あたし、行かないわ ! 」 8 「うん ! 」彼は笑って、二人の話に加わった。 「兵隊さん」彼は顔を上げた、黒い眼が黒い眼と会った、うわべ以それから二十四年、彼は耐えた、新しい声や笑い声が薄暗い・フル 上のものを見るハルカネの眼。「これがあんたに会える最後だ。あウの部屋へ流れこんでくるたびに ( ッとしたようにカウンターから たし、隠退する。これまでずうっととてもよくしてもらったね、あ顔をあげて。 たしを若いという気分にさせてくれて。みんなにとても親切にして「兵隊さん ! 兵隊さん、あんた、まだーー」 くれて : : : さあ、さようならをいう前に、あんたにお返しをしょ「会えなくてさびしかったわあーーーこ う」彼の手をとり、カウンターにのせられたプランディの、指輪を「ーー二週間まるまるーーー」 いくつも光らせている手の上にしつかりと重ねた。「あんたにこの 「ーーー白ぶどう酒を・せんぶもってきてーーー」 子を返すよ。・フランディーーーあたしたちのところにすぐおいで、お 〈 O ー 4 2 8 〉のクルーが彼をとりかこみ、彼女たちの指が彼 祝いするから」静かに立ちあがって、人ごみの中に入っていった。 が本物であることをたしかめようとする。彼女たちの唇が、一方は 二人の手はカウンターの上でよじられ、かたく握りあわされた。感じられ、一方は感じられない頬をかすめ、長い、乱れた髪が瑪瑙 ・フランディは眼を閉じた。「神さま、こんなに嬉しいことってのカウンターの上でさざ波をたてる。彼は四人をいっぺんに抱きか かえる。「アレリア ! ヴラナ ! エルサ、おや髪の毛をどうした 「ぼくもだ」 のーーーそれからリンーシャン ! おーや、相変らすきれいだね。キ 「詩だけが : : : 」 ャスー」メモリ・・ハンクはビカピカと磨きたてたこの顔を決して忘 「いっかきみがいったことを覚えているかい、 ″百回見たって、ちれなかった、たとえ三十七年へだてていても。彼女たちの眼は、彼 っとも見たことにならない″ の歓迎にあってキラキラ輝き、手は瑪瑙のカウンターにかわいい指 ばっと輝く微笑。「それは真実だわ : : : ああ、マリス、これが最紋を残した。 後の晩だわ、あのひとたちとお祝しなくちゃ」 「ーーまだ石のカウンターがあるのね。嬉しいなあ、これだけは売

4. SFマガジン 1979年9月号

1 ⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ聞ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ川ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅧに よいよ五十四年度から実用化のための五カ年計 画に着手した。計画によると、五年間に約五億 0 一一千万円かけ、電波を受信するための高性能受 信装置、データー処理装置などを開発し、観測 、〉を行い、技術を実用化する。 アメリカでも、この技術に注目し、米本土と ハワイの間の距離を測ることなどを計画してい る。そうした折り、ことし初めから開かれた日 米間で今後の宇宙開発の進め方を協議する共同 研究計画検討専門家会議で、このが共 池見照二 同研究テーマの一つとして取り上げられ、さる カット / 島津義晴 六月八日にまとまった同会議の結論で「日米共 同研究」の促進が強調された。 宇宙のはるかかなたから飛んでくる星の電波る。 その共同研究計画によると、日本側は郵政省 を活用して地震を予知しようという風変わりな現在、建設省国土地理院が行っている三角測電波研究所、米国側は航空宇宙局 (Z<T<) 計画が進行中だ。地震予知といえば、いまのと量では、距離が三十キロから四十キロ離れてい が研究の担当機関となり、一九八三年 ( 昭和五 ころ微小地震の観測、地殻変動の観測など地球る一等三角測量で測量誤差が十センチある。約十八年 ) をメドに共同観測を行うよう準備を進 そのものの観測にたよっているが、宇宙から降十年前にアメリカの人工衛星「エコー」などをめる。日本側は、ちょうど五年計画の最終年度 ってくる電波を使うというュニークな発想たけ利用して千葉県の鹿野山、鹿児島県の鹿屋、 が一九八三年に当たるので、極めて好都合だ。 に関係者の話題となっている。地震予知にとど海道の十津川の三カ所の距離を測ったことがあ 日本側では、システムに必要な各種 まらず、大陸移動説、海洋底拡大説 ( プレートったがゞ = 誤差はなんと一メートルから四メート 機器を開発したうえ、郵政省電波研究所鹿島支 テクトニクス ) を実証することにも役立つものルにのぼった。 所の直径二十六メートルのパラボラアンテナを と成果が期待されている。 それに比べ、では千キロから数千キ使って実験を行う計画だ。 この方法は「超長基線電波干渉計システム」 ロもの超長距離の測定基線の長さを測って誤差一方、側も、マサチューセッツ州の と呼ばれる。英語では VeryLongBaseLine が十センチというのだから、画期的な高精度測ヘイスタック研究所、テキサス州のハ lnterferometry で、略してである。地技術である。 電波天文台、スウェーデンのチャルマース研究 電波を発射する「電波星」から出るマイクロ この技術の原理は、実は十年ほど前にアメリ所などのほか、ハワイ、アラスカなどの観測点 ウェ 1 ・フを地球上二カ所のパラボラアンテナでカとカナダで開発されたものだ。その後、電波を用いて実験的な観測を実施。一九八三年に日 同時に受信、そのデーターを「相関処理装置」星の微細構造の研究などに使われていたのだ米間で共同観測を行うまで、日米双方は、それ と呼ばれる特殊な機械にかけて、二カ所の観測が、最近、測地学的に活用して地震予知などにそれ得られた成果や情報を交換して役立てる。 点の間の距離を正確にはじき出す。 役立てることが注目された。 一九八三年の共同観測では、日本と北米大 はるか遠くの電波星からやってくる電波であわが国では、郵政省電波研究所が実用化に乗陸、それにスウェーデンのあるヨーロッパの三 るため、観測点が千キロから数千キロも離れてり出している。一昨年、茨城県鹿島の電波研究カ所にまたがり、地球規模の大規模観測が展開 いても、電波は両観測点に平行する形で飛び込所鹿島支所と神奈川県横須賀市の電電公社横須されることになる。しかし、その後は、もっと んできて、両観測点間の距離が正確に測定でき賀通信研究所との間で予備的な実験を行ったの観測点を増やし、地球の軸の動き、地球の自転 る。数千キロ離れていながら、両測定点の間のが、研究のスタートだ。この予備実験による地穀の動きなど、観測の項目も増やすこ 距離の誤差はわずか十センチ程度に抑えられで実用化への明るい見通しが得られたため、 とを目指している。 サイエンス・トピック 星の電波で地震予知

5. SFマガジン 1979年9月号

S F スキャナー に住んでいた男たちは殺され、女たちは暴行を魔術師 ( ンフリイは小人だった。彼は親切にるファンに「な・せ作家になったのですか ? 特 受けた。やがて、住人たちは、その魔力を結集知恵の悪魔を呼びだして、ビンクの魔法能力ににに ? 」と訊かれ、「わたしから、と しシールドという壁をつくって、このザンスをついて訊いてくれる。ところが、呼びだされた書くものをとれば、何も残らない。ただそれだ マンデーン界から切り離したのである。時はた悪魔はビンクにはものすごい魔法の力が秘めらけだ」と答えているが、これには通り一ペんの ち、マンデーン界はザンスを忘れた。ザンスはれているが、それに触れるのは一切かんべんし回答をこえて、かなりの迫力が感じられる。 安泰だったか ? 否、今度は内部から、あらゆてくれと言って消えてしまう。好奇心にとりつ以後、さまざまなアル・ ( イトをしながら、カ る存在の形を変えてしまえる悪の魔術師トレンかれたビンクは、 ( ンフリイの隙をうかがっレッジを卒業。卒論がの長篇だったという トが現われ、ザンスの支配を狙「たのだ。しかて、今度は魔法の鏡に同じ質問をしてみるのだから驚く。卒業後も、トラック運転手、保険 し、結局彼は追放され、ようやくザンスに平和が、なんと鏡はその答えに耐えきれなくて、粉員、ソーシャル・ワーカー、テク = カル・ライ が戻った。だが、嵐の王の権勢の衰えた昨今、々に割れてしまったのだー ターなどを経ながらの創作をつづけた。し 再びザンスには不穏な雰囲気が漂っているとい と、このあたりで作者。ヒアズ・アンソニイに かし、作品が初めて雑誌に売れたのは一九六二 うのだった。 ついても少し触れておこう。むこうの作家年、作者二十八歳のときと遅く、しかも長篇は ケンタウロスとわかれたビンクは今度は大きにはいろいろと職を経た人や、変った体験の持さらに五年後の六七年に初めて出された。だ な地溝にぶつかる。結局、これを越えようとしち主が多いが、このアンソ = イもかなりの辛酸が、いったん堰がきれると最初にも述べたよう て彼は二度も思いがけぬ災難に出会うこととなをなめてきたタイ。フといえる。生年は一九三四に奔流のように大長篇群が流れだし、一気に一 った。最切は、地溝沿いに進み、適度なところ年、生地は英国のオクスフォード。 両方が一致流作家の仲間入りを果たしたのだったーーと、 から底へと降りてまた昇るという方法。これはする作家にジョン・プラナー、生年が一致する書けばまさにサクセス・ス トーリイを地でいく 道案内に美しい娘ワインを得て成功するように作家こよ、 冫。 / ーラン・エリスンがいる。彼の回想のだが、残念ながら話はまだ続くのである。 思えたのだが、彼女の頭が良くなかったために によれば、四歳までは幸せな生活を送っていたそうした境遇もあり、作者のアンソニイが自 地底に住む屯に見つかってしまったのだ。たまらしい。ところが五歳のときク = ーカー教徒だ分の作品にはかなり神経質になるタイプなのは たま困っている亡霊と取引きをして助けられ、った父がスペインの内乱に参加、スペインに渡容易に想像がつく。だから、六七年以降、作品 ようやくほうほうの体で逃げ返ることができった。ところが、まもなく独裁者フランコが政が急速に認められだしたとき、自作の処遇につ た。二度目はずっと海辺まで進み、そこから向権を握り、アンソ = イの父親は投獄され、一年いてささいなことから、いわば発掘者であるべ う岸へと渡る方法。こちらは、幻覚を自由に駆後には国外追放の憂き目に会う。そして第二次ティ・ ・ハランタインと大衝突を起してしまった 使できるという女魔術師アイリスと出会い こ大戦により一家は難民同様にアメリカへと渡っのである。ランタイン・ブックスといえば、 れはこれでやっかいなことになったのだが、ビたのだ。この時アンソ = イ七歳。身寄りがないアメリカの出版界では代表的存在であり、 ンクはなんとか脱出に成功する。 うえに、言葉もよくわからず ( スペイン語の方両者を何とか仲裁しようと ( アメリカ やっと向う側に辿りついた彼は、ここで瀕死が達者だった ) 、背丈も極端に低かったため、 作家協会 ) なども間に立ったらしい。とこ の傷を負っていた兵士クロンビーを″生命の少年時代はただひたすら屈辱の日々だったといろが、アンソニイはこれも不服として、 水″で救い、途中ディーという名の彼と同じ目う。こうした少年が十三歳のとき、を発見 << を脱退してしまったのである。こうなると 的で旅をしている女と出会ったりしながら、つしたらどうなるかおよそ想像がつく。彼はひた″厄介者″との風評が立つのはどうしようもな いに魔術師の城へと辿りつく。 すらにのめり込んだ。後になって、彼はあ 一九七〇年から七一一年までの間、大方の出 6

6. SFマガジン 1979年9月号

うがなかった。どぎゃんなるとだろうか。あれだけの熱エネルギー人、負傷者一〇万三七三三人行方不明四万三四七六人。マグニチュ ば秩序だててしもうたけん。そして今度は時間軸を下ってぶり返し 1 ド 7 、エネルギ 1 にしてエルグ : : : 」 のくる。今から十七万五千時間後に、 「おい。待てよ。そして老人の計算ではぶり返しが、十七万五千時 それだけ言うと、老人は白眼を剥いて失神してしまった。 間後に、来るって言ってたな。何年後になるんだ」 「ちょっと待て、計算してみるよ」 二、三日経ったあと、電話がかかってきた。猪部からだった。何俺は受話器を持つ手が震えだしたのに気づいていた。 「いいよ。計算しなくとも。それがわかったところでどうしようと かやましいことでも、やった後みたいに声をひそめていた。 いうんだ」 「このあいだ、すまんな」 俺の質問に猪部はとまどったようすだった。暫くして受話器のむ 「いや、それでどうしたの」 「機敷埜さんは命はとりとめたけれど、記憶喪失なんだって。鮫野こうで事の重大さに気づいたようで : それから猪部はややかん高い声で言った。 さん、警察でサンザ絞・ほられたらしい」 「おれ、しいらない」 「で、放映は」 俺もあわてて言った。 「番組はお流れね」 「じゃ、ふうてん効果も、科学的に実証できる可能性もなくなっち「おれも、しいらない」受話器を置いたのは二人とも多分、同時だ ったに違いない。 やったわけだな」 ノストラダムスの大予言のことを思いだしたのは、電卓で老人の 「そういうこと」 言った数字を換算してみたときだった。千九百九十九年、七の月と 「で、今日は、また何かあったの ? 」 いうアルマゲドンの予言を。 「ん、いや、この間、失神寸前に機敷埜老人が呟いてたろう。北緯 三十五度二分、東経百三十九度 = 一分、イナス五十万時間プラスマ今から十七万五千時間後にふうてん効果、発現。 イナス二千時間にふうてん効果の影響が発現するって言ったじゃな 。気になってて、今日の昼休みに調べてみたんだ。場所は相模湾 の北西部になるんたよな。で、マイナス五十万時間で、大正十二年 の夏ごろになるんだよ」 「それで」 「偶然と思うか。その年に関東大震災があってるんだ。プラス二千 時間の範囲になるんた。九月一日だからいいか、死者九万九三三一 3

7. SFマガジン 1979年9月号

宇宙島は一切の生産活動が不要だった。何代も前に移り住んだ *-) 5 の住民は、地球のエネルギーを一手に握る特権階級として人工環四十分以上・ーー・円筒が十回転する間待った。″空″の一角に残っ レ 境下に生活すればよかった。 た反射鏡の微妙な変化で、回転周期は読み取れた。異状はない。 イジは叢から這い出し、採集車に近づいていった。まだ、重大な作 宇宙島が必要としたのは、完成したシステムを安全に維持するた めの材料であり、要員であった。ロポットよりもはるかに安く精密業が残されていたのだ。 で多目的に使用できる労働力よ、、 。しくらでも補給できた。 荒されたのは、この採集車がすでに採取していた、食用になるか 無重量下でーー・重力質量はゼロとなり慣性質量は不変の空間で、 どうかは不明の植物の実や葉であろう。後部の貯蔵ケースがこじ開 地表以上に敏捷な動作が要求される。 けられ、中には何も残されていなかった。 レイジ親子に一 ch 下の住居が与えられたのは、むしろ破格の待遇レイジはあわててキャタビラの下を確認した。父親の片膝は奪わ といってよかった。レイジが父の連れてきたペットとして扱われたれていなかった。取り出せなかったからだろう。 ( だが、これでどちらか一人は動けぬ状態になったことをやつらに 事情を考慮しても、だ。はじめて宇宙空間で生活することになった ″慣性″と呼ばれる人間の多くは、無重力になじな前に、カルシウ知られてしまった訳た : : : ) レイジは急いで車体前部に回り、フレームの下をのそきこんた。 ムが骨から溶け出し、あるいは宇宙線の照射による障害を起こし て、消えていった。かれらの大部分は宇宙島の内部に入ることはなそれは無事に残されていた。それが目当てでふたりは採集車を襲っ かったのだ。 たのだった。 そこには上へ、頭上の円筒へ通じる扉を開く、唯 宇宙島のシステムは揺ぐことはなかった。数千年以上、この状態一の鍵が備えられていた。細く研いだ金具をドライ・ハー替りに持っ はつづいたかもしれない。太陽の表面が、ほんのちょっとした気まて、レイジは車体の下に体を潜り込ませた。 ぐれさえ起こさなければ : 太陽面の気まぐれ・ーーといっても、数十億年にわたる寿命のうち の、数千万年に一度起こるか起こらないかという程度の太陽面爆 発。人間の一生の時間スケールでいえば一年に一回程度の、風邪に 採集車を破壊した場所まで引き返してきて、レイジは身を屈め、 も似た規模の異状にすぎない。太陽の水素 ~ ヘリウム反応にほんの 叢から様子をうかがった。擱坐した採集車の状態が、さきほどとはわずかな不規則が生じただけのことだ。だが、それは地球の様相を 一変させるに十分なスケールでもあった。 徴妙に違うように思えたのだ。死体を運び出した後、誰かが来たに 二年前までの観測では予想もできなかった太陽面爆発は、猛烈な 違いない。もう去ったのか、どこかで戻ってくるのを見張っている のか : レイジは息を殺して、同じ姿勢を保ったまま動かなかっプラズマの嵐を太陽系全域に吹き出した。

8. SFマガジン 1979年9月号

ない。「早かったねー・ーー二週間ばかり ? 」 「詩を見せたのかい ? 」とさりげなく 「そうなの。あなたをびつくりさせようと思って、夜まで待てなか「残念ながら、ノウなのよ。彼は自分の詩のことを話してくれた 2 ったの。それで驚かしちゃったかしら ? 」と眼をくるくる動かす。の。だからあたし、思った、なんでこんなむだなことをしているの 「あなたがドアのところへくる足音が聞こえたの ! 」 彼女は古色蒼然とした縞の寝椅子にうずくまって、彼がサンダル 「本はいつもらえるのかな ? 」 をはくあいだ、窓の外を横眼で眺めている。「あなたは広々したと「わからない」落胆が口をゆがめる。「きっと一冊も手に入らない ころに慣れているのね。家もあなたの谷を埋めつくしてはいないわかもしれない。二十五年後には絶版になっているんじゃないかし ね ? 」声になっかしさがしのびこむ。 ら。″芸術は長く、時ははかなく″ : ロングフェロウのころは逆 「またね。そんなことになったら、ここにはいたくない : ・ : 今度のだったのね。でもあなたのために何篇かコビイしてきたの。それか 旅はどうだった ? 」 らまた本も少しもってきたわ。読んでほしいのがあるの、内側で数 「きれいたったわ、今度も : ・ : ・なんともたとえようのないもの : 年前に、ナカにかわって出てきたんだけれど。こっちのほうが劣る 百回見ることはできても、ぜんぶを見ることにはならない ように思うけれど、所詮あたしたちは : : なにを笑っているの ? 」 「弁髪のあのそばかす坊やはどうなった ? 」 あなたの水品の目を通して 「なんですって ? 」鼻に皺をよせる。 マクタフ、わたしは見る、 「きみはいくつになった ? 」 真夜中の星が裏返しになり : ・ 「二十四。おおーー」彼女はおかしそうな顔をした。 「閨秀詩人の君よ、こんばんごいっしょに食事をしませんか ? 」 ああ、想像して ! あたしの詩ーーー・旅のあいだに一連の詩を完成「おお、たべもの、おおもちろん ! 」彼女は跳びあがり、彼がニヤ したの : : : それで、トレオンで出版されることになったの。とても ニヤしているのを見て、はっと静止する。「ごいっしよさせていた 好評なのよ」 だくわ。うまいもの屋はいかが ? 」 彼は得心するようにうなずいた。「あの連中もいい趣味をもって 「きみが出立した直後に店をしめた」 いるね。きっと変ったんだろうな」 「まあ : : : 音楽が騒々しかったつけ。じゃあ、あの魚介料理のお店 は、魚の名前がついていた つまりこの十年のあいだに、すごー く、芸術的な風潮が生まれてきたのよ。あそこのお供はたしかに別彼はかぶりを振った。「持ち主が死んだ。二十五年になる」 ものだわ : : : 」思いだしてかぶりを振る。「出版社のことを話して 「ああ、なにひとっ昔のものにお目にかかれないのね」と吐息をも くれたのは、そのお供のひとりなの」 らす。「じゃああたしがお料理作ったらどうーーーあたしはまだいる 「″進みゆくルネッサンス″

9. SFマガジン 1979年9月号

工自。こ 0 冂ハークレー広場」 "Berkeley Square" は、現 代人が百五十年前の十八世紀の世界に行ってしま 、そこで女と恋をする。やがて男はもとの現代 に戻されるが、そこで女のリーインカーネーショ コンと逢うというもの。ヘンリー・ジ = ームズの未完① の小説 "The Sence of Past" をもとにした舞 台劇の映画化で、五一年に "l'll Never Forget 間 You ごというタイトルで再映画化されている。 てニューヨークを襲う大洪水、というパニック映 画の元祖みたいな作品。この映画のニューヨーク 大洪水のシーンは "S. 0. S. Tidal Wave" ( 三 九 ) など数々の作品に流用されているそうだ。そ れだけ迫力があったのだろう。 「ホワイトハウスを支配するカプリエル」 "Ga ・ briel Over the White House" は、アメリカ 大統領が、幻影を見て、自ら独裁者になろうと試 みる。 「透明人間」 "The lnvisible Man" は、フィリ ップ・ワイリーが脚本を書いた名作。資料による と原作は・・ウエルズと、ワイリーの "The Murderer lnvisible" の一一作となっている。 「生きている偉大な者」 "lt's Great ( 0 Be Ali- ve" は二四年の "Last Man on Earth" のリメ のイク。スペイン語版も同時に作られた。前回スペ イン版を書いたが、南米向けのス。ヘイン語版。 ル子「闘うべき男達」 "Men Must Fight" は一九七 本。まさかべトナムではないだろう。 「大空のファントム」 "The Phantom of the を第第 0 ー「 。〈ン第み

10. SFマガジン 1979年9月号

「さあね」彼はプランディを見つめた。「そのときの事情次第た。 「そうね , と唇をかむ。「でも行くまでにいっしょに過せるんだ ともあれ、こんどの旅の話をしておくれ ? 」鎖でつった壁ぎわの腰し、時間もたつぶりあるし。それにね いいものを持ってきたの 掛けにどっかりとすわる。「・ほくには目新しいものでもきみは前かよ、あたしのことを覚えていてもらうために」部屋を横切って彼に ら知っているんだ。家ひとっとっても」そして彼女の眼にはるかか近づく なたの壮観が浮かぶのを待った。 それは、渦巻き模様の銀細工に冷たく燃えながらぶらさがってい だがその眼はしばたたいて伏せられ、霧の色を宿したままだ。 る星だった。火を知る名工の手になるものだろうか。彼女はそれを 「ええーーーよいニュースと悪いニ、ースがあるの」 自分の顔にあてがって、心から嬉しそうに笑った。 「どんな ? 」不意に体が冷たくなる。 「トレオンで見つけたのよ : : : あそこはルネッサンスの真最中。こ 「よいニュースはーーー」徴笑があたためてくれるーー「こんどはひの光輪が気にいったの、きっとあなたならーーこ と月近くいられるの。時間がたっぷりあるわーー・あなたがその気な銀細工をはさんで前かがみになると、彼女の髪が銀色に光るのが ら、いろいろする時間が」 見えた。口に一度だけ接吻し、彼女のおののきを感じながら身をひ 「どうしてそんなことができた ? 」彼は起きあがった。 いた。鎖をとって、首に吊した。「きみこ、 冫しいものがあるよ」 立ちあがって、ワイン色のうすい本をもってくると彼女の手にの 「これはもっといいニ = ース。たまたま別の船に乗り組むことにな ったのよ、長方形から出て、いままで夢に見ていたもの、新しい世せた。 界が見られるのーー」 「あたしの詩 ! 」 「そして悪いニ、ースというのは、うんと長いあいだいなくなると彼はうなずいた、喉もとの星を指でまさぐりながら。「二冊だけ いうんたね」 やっととっておいたんだよーーー容易じゃなかったが。だっていまし 「そう」 やすごい評判で、宇宙士たちは、この本を持ち歩いていて、見せて 「何年 ? 」 はくれるが、ぜったい手ばなそうとしないんだからね。きみの知ら よ、まう・ほうの世界でも有名なんだろうね」 「貿易の道をひらくための長い旅なの。うまくいけば、三十五年後オしを にはこの星の近くに戻れるわ : : : 三十五年というと・ーーここでは二「ああ、噂ひとっ聞いていないわ : : : 」彼女は不意に笑いだす。 百年以上かな。まずければ、こっちのほうには戻れないかもしれな 「あたしの名声は、あたしを出しぬいてしまうのね。でもこんどの 旅でーー」彼女は眼をそらす。「そうだ。もうあっちへは行かない 「そうか」彼はまばたきもせずに床を見つめた、両手を膝のあいだんだわ」 で握りしめて。「そりや たいへんなチャンスだねえ・ : : ことに 「でも新しいものをいろいろ見て、新しい詩を書くんだろう」声が きみの詩にとっては。羨しいよ。だがさびしいなあ」 こわばるのをときほぐそうと努める。 幻 6