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検索対象: SFマガジン 1979年9月号
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1. SFマガジン 1979年9月号

上の円筒面だった。比較の対象がないのたが、数百メートルの高さ 壁面には幅百メートル以上ある斜面が壁に沿って上層へつづいて しかないように思えた。したがって視界は狭く、むしろ平面状の世いて、光はそこから射し込んでいた。採車は前方で方向を横に向 2 界に近い印象なのた。 け、斜面を登り始めた。蟻が城壁を登って行く印象だった。レイジ ( なぜだ : ・ ・ : なぜこんなに狭い ) は迷わず後を追った。 いや : : : この空間は制御システムと循環システムのためにある。 斜面を登り切るのにさらに三時間を要した。 装置類に五千メートルもの高さは不要だ。地球に近い環境を作るた斜面の上層には展望窓があり、円筒外の空間が見えた。そこから めに五千メートルの高度が必要で、機械装置のためには、むしろ無は、はるか上方にーー中心軸付近に浮遊するおびただしい構造物の 重量空間の方が望ましいはずだ。だから、この空間配置は正しいは 集りが見えた。それは無重量下に配置された循環システムの装置群 ずなのだが : ・ らしく、外壁に沿っておびただしいチュー・フ類が蝟集し、つながっ レイジは混乱した頭で考えた。 ていた。昇降機用のチ「一ー・フも最外部から中心部まで何本かが引か だが、これは映像装置で教えられた世界ではない。映像装置で見れていて、父が定期的に出入りしたのはあのうちの一本を利用して ス・ヘース たこの空間は、五千メートルの高さがあったはずだ。 いたのだと理解できた。 さらに奇妙なのは、昇降機設備以外に装置らしいものがほとんど採集車は斜面上のフロアに設けられたデッキに横付けとなり、採 見当らないことだった。レイジの視界には他に二箇所の昇降機設備集した食糧は迫り出してきたダクトにあっという間に吸い込まれて があったが、それ以外の装置はなく、灰色の曲面が彼方の壁面まで いった。採集車は直ちに方向を反転し、再び斜面を降りていった。 つづいているたけだ。周辺はほの暗く、光は南北の壁面方向から射 ( 採集車も老朽化を待つだけの機械なのか : ・ : ・ ) レイジは思った。 しているだけだ。 もし、円筒内部に宇宙島を再建しようとしているのなら、食 フ 0 ア ( この階は広大な昇降機の発着場にすぎないのか : : : ) レイジはそ糧をとりあえず供給するシステムは最重要に扱われるはすだ。そう う考えた。 ( たとすれば、他の発着場から戻ってくる採集車の後を考えていたからだ。 追えばいし 、はずだ ) ( おれたちが破壊した車も、老朽化して壊れる寸前の車だったから だが、人の気配のしないことがレイジには最も意外に思えた。 成功したのたろうか : : : ) 南の壁面へ歩く途中で、レイジは一台の採集車を発見した。それさらに内部への通路ーー・そこからは斜面は急に狭くなり、十メー は右手上方の曲面をやはり南へ向っている。一歩踏み出すたびに痛トル幅ほどの斜面が円筒内よりもやや高い曲率でつづいている。外 みが走るが、レイジは歩調を速めた。 壁とすぐ内側の壁ーー二枚の円盤に狭まれた通路が渦巻状に、おそ 採集車は人影を気にする気配もなく一定速度で走りつづけた。 らく中心部までつづいているのだった。 三時間かかって南壁に到着した。 レイジはしばらく迷った。歩くとなれば全長は三十キロ以上ある

2. SFマガジン 1979年9月号

ないはすだった。 ここには何かが存在していた。 フセウは、デコイの残骸を投げ棄てると、自分の宇宙船へ向って 走った。 大きな見落しがあるような気がした。 平原の果に、宇宙船は休息している鳥のようにうすくまっていた。 その姿が、ほんの少し傾いているような気がした。 フセウは宇宙船の影の下に入った。 三基の降着装置が、深く砂にめりこんでいた。 その太い軸が、変色し、砂からのぞいている部分は、軽石のよう に多孔質になり、ばろばろに腐蝕していた。船体の一部にも変化か あらわれていた。 フセウは、ハッチを開き、船内にとびこんだ。 推進装置や航法装置には異状はなかった。だが、それも時間の鬥 題であろう。 ~ ーし卩ノし学 / フセウは操縦鞘をいつよ、 強大なエネルギーが船体を震わせ、火山の大爆発のように砂けむ りを吹き上げ、宇宙船は空中に浮いた。すさましい震動が走り 基の降着装置は、半はから折れた。 フセウは、救助信号を発信した。 《ワレ、船体損傷。帰還、極メテ困難。嫌気性バクテリアニョッテ、 船体ハ侵蝕サレツツアリ。救援ヲ乞ウ》 デコイは、酸素の消費量の極めて大きな粘菌類を、この惑星に投 下して繁殖させたのだ。みるみる酸素は減少し、ついにこの惑星の 生物は全滅した。 デコイたちは酸素は必要としない。必要としないだけでなく、酸

3. SFマガジン 1979年9月号

て、あふれんばかりの生命力を空費してしまうってわけこよ、 ~ 。しかな「見当はずれもいいところだ。そんなことをしたら、君が何度も言 いよ」 っていたように、テストマスターズ社の大損失た」とトロカデロは 言った。「だが、君の心があれこれほじくりながらうろっき廻っ 「君が、・ほくをコンビュータに変えたりしたんだそ」 「あれは仕方なかった」とトロカデロは言った。「あの時は、君のて、ぼくとプランの個人的生活に侵入したり、家族のものの生活に 干渉したりして、迷惑をかけてくるのはお断りた」トロカデロは椅 脳を生かしておくことにしか関心がなかった。でも、今は : : : 」 子から立ち上った。「だから、君が意識を失っている間に少し君を 「そうさ、・ほくのプラグを抜きたいんだ」とガーニーが言った。 変えさせてもらったよ。これからの君は、自由意志をほんのわずか 「だが、抜きたくても抜けないだろう。君と妻の情事をぼくがいく ら邪魔をしても、九十。 ( ーセントの確率で売れ行きを診断する正確しか持たないことになる。・ほくの持ってくる製品を試験して、診断 を加えることしかできないんだ。念には念を入れて、使用中の時以 な第六感が、君には必要 : : : 」 外は君を停められるようにしておいた」 ズシンー 部屋も、建物も、マリ・フ砦全体も、大揺れに揺れた。地震は巨大「いったい、君はなにを : : : 」 「プラグを抜く必要はないんだ」トロカデ口が、ガーニーのすべす なもので、ガーニーは完全に意識を失った。 イエロー べしたクロ 1 ム黄の表面に近づいて来た。「スイッチを付け加え るだけでよかった」 : この方がずっといい」誰かが話していた。 嗅覚孔ににおう昆布タ・ハコのにおいからすると、その単調な声は トロカデロのものらしかった。 ☆☆読者からの原稿募集 ! ☆☆ 「君が・ほく達を悩ましはじめた時から、・ほくの考えをポーンズに検 討してもらって、君の改造法について書き留めておいたんだ」トロ マガジン七九年十月臨時増刊号 ( 九月十日発売 ) 〈お便りコ カデロは、透明なシリガル椅子に腰かけて説明していた。「間題 ーナー・ヒーローへの手紙〉では、読者からの原稿を募集します。 キャ。フテン・フューチャーからダーテイベア : : : あなたの心に生き は、君がますます何でも見透すようになって来たことだった。スカ るヒーローたちへ、熱いお便りをお送りください。 イテルのべツ・ 、トの上まで目の届く君が、この壁の中の脳にぼくが忍 応募要領は、たて書き四百字詰原稿用紙三枚に、お好きなヒーロ び寄るのを許すはずはなかった」そこで、彼はクスリと笑った。 ーへ宛てた手紙をお書きの上、住所・氏名・年齢・職業を明記して 「地震は天の賜物だったよ。必要な変更を加えるだけの時間、君は 当誌「ヒーローへの手紙」係宛お送りください。締切りは八月十五 気絶していてくれたからね」 日 ( 当日消印有効 ) 。優秀作は増刊号誌上に掲載し、ハヤカワ文庫 最新刊一冊を進呈します。ふるって御応募ください。 ( 編集部 ) 「わかった」発話装置の統制が再びとれるようになった、ガ が言った。「君はこれから、・ほくのプラグを抜くつもりだな」 ヨい日日日日日日い日日い日日日いい一い日日と

4. SFマガジン 1979年9月号

落し、一本をたぐって、巨大な容器を円筒の内表面近くまで引き降 以上、特権階級の居住となっている。 ろした。そこで最後のチュー・フを切った。 「特権階級 ? 」レイジは説ねた。 容器はおそらく百トン以上あると思えた。無重量空間に馴化した 「そう、この空間に住む者は、食糧は最優先で提供を受ける、そし 人間に不可能な唯一の行為ーー・・慣性質量の本質を実感するための行 て自分の死体は食糧として提供する必要はない」 為をレイジはやろうとしているのだった。 老人は中心に浮かぶ巨大な容器をちらっと見ていった。 円筒表面の一端から、レイジは渾身の力を込めて容器を押した。 「食糧は絶えずここに送られてくる」 爪先を円筒表面に必死に引っ掛け押しつづけた。数秒間でやっと一 「だが、そのために、最外層の世界は亡びかけている」 センチしか動かないように思えた。が、レイジは押しつづけた。カ 「しかたがないことだ」老人はつぶやいた。 「この世界を支えていた太陽発電所はすべて機能を失った。地球もを抜くことなく押しつづけた。 : この世界もやがて亡び 亡びた。この世界だけが残っている。 二時間近く、レイジは押しつづけた。容器は確実に加速し、ほと る。所詮この世界も地球と月の重力に引きずられて不安定な位置をんどレイジの走行速度の限界に達して円筒の壁面に迫っていた。 回っていた存在にすぎなかったのだ」 ( やれるたけはやった ) レイジは容器から手を離す瞬間そう思った。ほとんど同時に意識 「だが、な・せ最外層が儀牲になる」 「この空間の維持が最優先するようにもともとシステムが設計されを失い、その体は容器の数メートル後を追って飛行した。 ている : : : しかたがないことだ」 巨大な容器は円筒の壁面に激突した。 「では : : : 」レイジの頭を不吉な予感がかすめた。「あなた方が慣何の変化もないように見えた。容器は衝突のあと、跳ね返り、ゆ 性と呼んだ連中はどうなった」 つくりと回転しながら中空へ飛び、レイジの体を跳ね飛ばした。 「むろん、最初に食糧になった」 やがて、壁面には、目には見えぬほどの亀裂が走り、一呼吸おい て、それは無数の網目となり、粉々に砕けて外部に飛散した。 頭の中で何かがはじけた。 この世界は見かけの力だけで支配されている。お前も慣性座腐臭をはらんだ空気が噴出するにつれて、何万体ともっかぬ白骨 は煙が流れるように移動しはじめ、やがては急流となり、絡まり 標系へ出ればそれがわかるだろう 合い縺れ合い、白く濁った噴流となって真空中に流れ出していっ ここはまさに慣性座標系だった。 たが、それが白く薄い環となって人類の亡びた地球にかかるまでに は、まだ数百万年を要するはずだった。 巨大な食糧容器の無数の吸い口にしがみついた死体と死体になり かけの体を、レイジは時間をかけてすべてはがし取った。 骨を削って作ったナイフで、容器につながるチ = ー・フを二本切り システム イナーシャ・ 3

5. SFマガジン 1979年9月号

「あら、あれは大丈夫よ」彼女はグラスをひねりまわし、いらいら したしいくつなの ? 」 ゃないの ? し、そしてとっぜんまたぎごちなくなった、老人と相対して。 「百十五ぐらいかな」と反応を待つ。 なに、なんでもありやしないんだーー彼はドアの方をちらりと見 彼女は目をみはる。「どうしても二十五に見える。あなた、生き る。 ているのに、年をとらないっていうの ? 」 / ーかくりこんでき こんなところにいたの」クレ 「年はとる。百年に五つずつぐらい」と肩をすくめる。「補綴術が「ブランディー 肉体の老化を遅らせるんだよ。きっと体の半分しか定期的な再生をた。「兵隊さん、あとであたしたちのところにおいでよ。でもいま はブランディをかっさらっていくからね」 必要としないからだろうね。あるいは拒絶反応防止処置のせいかも しれない。だれにもほんとうのところはわからないんだ。ただとき彼はプランディといっしょに目を上げた、褐色の顔、褐色の眼、 どきこういうことが起きるんだよ」 そして塩のように白い髪のハルカネ、〈だれが彼女をものにしたか ー 7 0 9 〉のマクタフのよき友。時が眼のまわりに英知の深い網目 「ふうん」彼女は当惑げな顔をした。「あれはそういう意味だった をはりめぐらしていた。もっとも古い常連のひとりである。彼女の の、「戻ってきて、逢いにきておくれ」って : : : ということは いいまわしすらもいまの彼には奇妙にひびく。「ああ、兵隊さん、 ほんとうに千年も生きるというの ? 」 「そこまで生きてはいまいよ。あと三、四世紀もすればどこか肝腎あんたはいつもあたしを若い気にしてくれるんだよねえ : : : おい なところがだめになるだろう。プラスチックだって永遠に保つわけで、いもうと、家族の仲間入りをおし。この子を借りるよ、兵隊さ んー じゃない」 ・フランディは・フランディをぐっと呷った。スツールからおりると 「どうもごちそうさま」半秒 「長生きしても愉しみは少なしってね。きようは別だが。きみはきき・フーツがカタカタと音をたてた。 、微笑は本物だった。「またくるわよーーー兵隊さん」そうして彼 ようなにをした ? 少しは眠れたかい ? 」 きくしやくと、うれしそうに。 「ううんーーー」彼女は当惑を振りはらった。「みんなで出かけて、女は立ち去った、・ 兵隊は瑪瑙のカウンターを磨きながら、それに映っている落胆の がつがっ食べたの。港にいるあいだはみんな目をばっちりあけてい るの、だから一分だって無駄にしないわ。あなたは眠る必要ないん面を見ないようにした。それからしばらくして彼女が、ビロードの でしよ。ほんとうはいざというときのためなんだけれど、みんな薬半ズボンをはいた、黒い目の、気取ったお供を連れて出ていくのを 見送った。 をのむのよ」 ーしし力と彼 性急な笑いが思わず洩れそうになる。気づかなけれま、 は思った。まじめに、彼はいった。「ああいうものには気をつけた扉の向うでは、黄緑色のたそがれが入江にしのびより、人々は夜 ? 」鉛に変じた とともに早々とよってくる。「こんち、マリス : ほうがいい。厄介なことになるよ」 8

6. SFマガジン 1979年9月号

銀が、うつろな顔で彼の前に立っていた。ほっそりした手が顫え、 屋から出ると、革紐編みの椅子にどっかりとすわりこむ。めったに 握りしめられ、宙でわななく。 ない、そして、ぎごちない平和に満たされて彼はまどろんだ。その 「・フランディ あいたに。フレアデス星団の星明りに照らされた星雲状の靄が、朝を 「めちやめちゃになった胃になにかいいものない ? 」彼女は笑いを待っている真暗な空をよぎっていった。 期待している。 「マリス、どうして起してくれなかったの ? 一晩じゅう椅子で寝 「悪寒がきたんだね、うん ? 」彼は笑わない。 ることはなかったのに」・フランディがタオルと格闘しながら彼の前 彼女はうなずく。「薬のこと、あんたのいうとおりだったわ、マ に立っている。眠ったあとの眠は腫れ・ほったく、髪の毛はシャワー リス。気分が悪くなっちゃった。くたびれちゃって、ずっと薬をのの水滴のおもりをぶらさげてゆらゆら揺れている。編んだ敷物の上 みつづけ : : : 」カウンターの上の手がカタカタいっている。 をパタバタと軽い足音がひびく。 「かなりひどいものだろう ? 」コツ。フに水を汲んでやり、彼女が飲「いいんだよ。それほど眠る必要もないし」 もうとするのを見守りながら、カウンターの下のボタンを押す。 「それはあたしがあなたにいった台詞よ」 「でもほんとうなんだよ。三時間以上は眠ったことがない。どっち 「いま車を呼んだからねーー来たら・ほくの家へ行っておやすみ」 「でも・ーー」 にしても、きみは休息が必要たった」 「そりやそうだけど : : : ちいっ 「ぼくはしばらく帰らない。少し眠れば気分もよくなる、わかった 」彼女はあきらめてタオルで頭 ね ? これがうちのドア・ロックだ」ナ。フキンに大きな数字を書いを包む。「あなたってすてきなひとね、マリス」 た。「なくさないように」 「きみもそう悪かないね」 彼女はうなずき、水を飲み、ナ。フキンを袖に押しこむ。もう一口顔が赫らむ。「認めてくれてうれしいわ。うわっ、敷物がーー・そ 飲んで、こ・ほしてしまう。「ロがしびれてる」けたたましい笑いが こらじゅう濡らしちゃった」彼女は寝室に消えた。 ひびく。顫える片手をあげた。「これーーーなくさないわよ」 マリスはしぶしぶ手足を伸ばし、曙の光りで青銅色になった天井 扉の向うにあかあかした金色が跳びはねる、金属に反射する日の梁を見あげる。かすかな吐息がもれる。「朝めしがほしいだろう 光。「車が来たよ」 「ありがとう、マリス」ゆがんだ微笑だけれども、とてもやさし「ええ、おなかべコ。へコ ! あら、待ってーーー」濡れた頭がふたた 彼女はドアのほうへひょろひょろと歩いていった。 び現われる。「あたしに作らせて ? ちょっと待って」 シルヴァ・・フルウの飛行服が戸棚をひっかきまわす。「原料が少 家に帰ってみると彼女はまたいた。寝室のくしやくしゃの毛布にししかないわね」 くるまって軽いいびきをかいていた。触らないように、そうっと部「そう」彼はテープルのパンくずをはらった。「朝はインスタント

7. SFマガジン 1979年9月号

「帰れなくなるよ」 「いいんだよ」 「かまうもんですか : : こんどから住みこみにしてください : : : 夜雄也は俊景の秘密をもらしたことを思い出し、三輪さんは覚えて 2 に楽しみがなくなったんだもの : : : わざわざ通うのはなんのため : いるだろうかと表情をうかがったが、すこし目が赤いほかはいつも ・ : 正解の方に一年分さげます、あたしをあげます、なんでも」と同じ冷やかな彼女の顔色からはなにも読みとれなかった。無言で 三輪さんは左の薬指からリングを外して床に投げつけた。「嘘っ三輪さんを見送った雄也はふと、彼女はもうここにはもどってこな き ! 」そしてテープルの上に両腕をおき、頭をのせて泣きだした。 いのではないかという思いにとらわれた。 泣きながらグラス握る手を伸ばし、「もう一杯」 うちけすように頭を振って起き、台所でトマトジュースにレモン 「俊景は嘘つぎじゃない」 をしぼり、一息に飲み干した。 三輪さんは顔をあげた。「どうしてです」 「やつだって飲みたい気分じゃないかな。しかしできない」言うま麗子の顔はさわやかだった。雄也はさえない顔での包みをさ と臥っこ。 : 、 ナカ遅かった。「胃がないんだ」 し出した。 三輪さんは身を起こし、ふらりと立ち、くずおれた。雄也はこの 俊景を見つけることができなかった雄也は北見部長を頼ったのだ 急性アルコール中毒患者を客間へかかえ入れた。床に転がしておい った。部長の反応は予想どおりだった。 てべッドカ・ハーをはねのけ、自分の腰をいたわりつつ抱きあげてべ 必要書類はあるのかと部長は言った。あるくらいならここにはこ ッドに横たえ、羽ぶとんをかけ、おやすみと言 い、ドアを閉めた。 、と言うかわりに雄也は俊景のくれた部長に対する切札を出し 食堂で飲みなおしながら雄也は、俊景はもう階にはいないのでてみせた。十一錠でいし 、雄也は言った。一度には無理だ、部長は : ないか、という考えにとりつかれた。三輪さんの二の舞になる前雄也の広げた紙面を見やった。「一日三錠、四日に分けるというの にもう一度受話器をとったが無駄だった。 ではどうだね」 雄也はを飲んだ。客間へ行ってもうろうとしている三輪さん ぎりぎり必要なのは昼、夜の二錠であり、残りの九錠は麗子、雄 に 5 D をどうにか飲ませると、居間のソフアにぶったおれた。 也、三輪さんの各余裕分だったので、雄也は黙ってうなずいた。 明け方頭痛と悪夢にうなされた。 「では四日目になったらその書類を渡してもらえるかね」 朝食の用意をしておきました、三輪さんの声を雄也はソフアに横「今すぐにでも、部長 : : : 中し訳ありません、こんなことはしたく になったまま聞いた。薄目をあけると彼女はたたんだエプロンをシ なかったのですが」 ヨルダー ' ハックに入れているところだった。 「不幸な取引だな、綺主管。、、 ししんだ、きみが持っていたまえ」 「きようはお休みの日ですので : : : ゅうべはご迷惑をおかけしまし雄也はそんなやりとりがあったことを子には言わなかった。 て」 「ありがとう、あなた : : : 部長さんは思ったとおりの人ね。思いや

8. SFマガジン 1979年9月号

ノズに会うのにも、言い訳を考えなくてよくなる。・ほくがいな 「ううん : : : 別に。学習場面行きの・ハスに遅れちゃいそうだ。メチボー、 くなれば、言い訳は必要ないんだ」 ャ急がなくっちゃ。 「まさ 「ポーンズだって」トロカデロは形の良い眉をしかめた。 「行っておいで」 ガーニーは近くの浮遊テープルから、小さなメタル・ハンドで新か、君は、・フランがポーンズにお熱を上げているなんて考えて : 製品の見本をとりあげた。「ふ , ーん、タ・ハッキイ、ニコチン入りの ガムドロツ。フと書いてある。・ほくの第六感はなんと答えるかな」 「あいつらは・ほくが他の部屋にも視覚孔を持っていることを、忘れ また小さな地震がマリブ砦を襲った。ガーニーは包みを落し、日ているんだ。・ほくは、あいつがプランの四肢をなでまわしていると 本語の片言を呟きはじめた。 ころを、見てしまった」 「おい、シシって両手両足のことかい。君は、また : : : 」 「あれのしたがっていることぐらい、・ほくにだってわかるさ」ガー 「・ほくの言語装置はまだ直ってないんだ。今朝もポーンズがやって ニーが打ち明けていた。「プランは、・ほくの電気のプラグを抜きた来て、一度徹底的な調整が必要だってぬかした。いくらかかると思 がっているんだ。・ といつもこいつも、・ほくの。フラグを抜きたがってう。部品は別にして四万五千ドルだとさ」 いるんだ」 「テストマスターズ社で全部払うよ。もし、・ホーンズが本気でそう ニルス・トロカデロ博士はガーニーの一の親友で、仕事上の仲間言ってるなら : : : 」 でもあった。ニルスは、透明なシリガル椅子にむとんじゃくに腰か「この間調整してから、まだ三週間にもならないのに。もう五回も いや、あの事件以来 : : : 」 けていた。「馬鹿馬鹿しい」彼はラテックスの上着のポケットか調整したそ。あの、あの時君が : ら、パイプと昆布タ・ハコ入れを探り出した。「やっても構わないか「どうも、手術をしたのはこの・ほくだってことが、言いにくそうだ 「構わないとも」 「いや、いや、ニルス、ぼくが二級品のヌーフーの一部にすぎない 冫冫し力なしよ」 ってことで、君を非難するわけこよ、 「昔は、厭がったそ」 「とにかく、緊急事態だった。泥流が君を呑みこんだ後のことは、 「ああ、・ほくに鼻のあったころにはね」 トロカデ口が昆布タ ' ( コをスプーンに一杯、・ ( イ。フの火皿につめ知らないだろう。泥だけではなく、プ 1 ルまで君にぶつかったん ノッドのプールだよ。ほら、ホット・ロッ ると、自動的に発火した。「テストマスターズ社に今度送られてきだ。一つは、ソドミー・。 た分について、検討を加えようじゃないか」と、彼はよく響く声でクので荒稼ぎをした男で : : : 」 「自分の上に落ちてきたものぐらい、知ってるさ。・ほくの体は修復 言った。「その後からでも、ばくらの個人的な話はでぎるそ」 「・フランがプラグを抜けば、その時かぎりで・ほくは止ってしまう。不可能たと言われたそうだね」 4 5

9. SFマガジン 1979年9月号

本誌連載中の野田昌宏氏のコラム「私をになったときだった。そうした意味では、機会に巧く、まわりの人の勧めもあって、八歳のと に狂わせた画描きたち」をよくお読みのかたな的にも恵まれていたといえようが、もちろんこきプルックリン美術専門学校へと進んだ。ここ ら、古今を通じてイラストレーターのうちの人の画にそれだけの人気を呼ぶ斬新さがあつでよい指導者を得たこともあって、彼の現在の だれの絵がいちばん人気があるかもうご存じだ たのは事実である。 基礎がつくられるのだが、フラゼッタ十六歳の ときこの指導者が亡くなり、フラゼッタはいき と思う。それは残念ながら野田サンお気に入りその特徴といえば、やはり描線の柔かさとい のフランク・・。ハウルでもなければ、ファンうことになるだろうか。それまでの、こうした なり商業アートの世界へ進むことを決意する。 タジイ・ファンがよだれを流すフィンレイ、あ冒険ファンタジイのイラストは、有名なアレンそこで、彼がおこなったのはコミック・スト丿 るいはボクでもない。意外なことに現役パ ・セント・ジョンや、友人で先輩格にもあたるツブを描くことだった。ここでも彼の才能はか リのアーティスト、フランク・フラゼッタなのロイ・クレンケルなどを見てもわかるように、 なりの注目をあつめ、結局二十年近くを彼はこ である。 ″荒々しいタッチ″が売り物だった。もちろの世界ですごすことになる。 ー・ハックの表紙絵に進んだのは、友人 のロイ・クレンケルの勧めもあるらしい。クレ ンケルも同じくコミック・ス トリツ。フを描いた りしていたが、六十年代になってからは、ウォ ルハイムのエース・ブックスで「ターザン」の -* 表紙絵を描いて人気を博し、ヒューゴー賞を受 けたりもしていた。そこで、フラゼッタも同じ し一の線 道をとったわけだが、先ほども述べた斬新さ 0 で、たちまち第一人者に躍り出たというわけで ある。 すぐれたアーチストは必ずその模倣者を生 む。フラゼッタにより、一つのスタイルが確立 ートこよ、こ された″冒険ファンタジイ・ア の後、彼のイミテーターが続々と生まれた。 -= 否、いまも生まれつつあるといえよう。その中 から、後に独自の感覚を身につけて著名になっ たアーチストを二人ばかりあげておくと、ポリ とにかく、この人の人気たるや登場したときん、作品が作品だけにこうした感覚は絶対必要ス・ヴァレーホとジェフ・ジョーンズというこ から凄かった。ペ ー・ハックの中身を放りだであるが、フラゼッタはこうした″荒々しい情とになるだろうか。ポリスは一見したところ、 して、ただもう彼の表紙絵だけのために買うと景″と実際の絵の″柔かい動き″とをわけて考フラゼッタによく似ているが、もう少し登場す いうファンが続出したのである。描くジャンル え、この結合に見事に成功したのである。 る人物のリアリティが誇張されているという特 は TJ とはいっても、もつばらロウズやハワ もちろん彼のアートの魅力はこの他にも、色徴がある。一方、ジョーンズのほうは逆に線が 1 ドなどの冒険ファンタジイばかり。それがなの使い方とか女性像とかいろいろあると思う淡くなり、背景に溶け込むような感触を与えて ・せこんなに人気を呼んだのか不思議に思う人がが、特に彼のユニークさといえばこの点になるくれる。 いずれにせよ、〉こうした一派を出現させるあ あるかもしれないが、彼の登場した一九六〇年と思う。 いかにフラゼッタの絵がユニークであっ 代半ばといえば、ちょうどこの・ハロウズやハワ彼は一九二九年、ニューヨークの・フルックリ ードが復権をなしとげて、ちょっとしたプームン生まれである。幼時から絵を描かせると抜群たかということの証しとなるだろう。 2 安田均

10. SFマガジン 1979年9月号

宇宙島は一切の生産活動が不要だった。何代も前に移り住んだ *-) 5 の住民は、地球のエネルギーを一手に握る特権階級として人工環四十分以上・ーー・円筒が十回転する間待った。″空″の一角に残っ レ 境下に生活すればよかった。 た反射鏡の微妙な変化で、回転周期は読み取れた。異状はない。 イジは叢から這い出し、採集車に近づいていった。まだ、重大な作 宇宙島が必要としたのは、完成したシステムを安全に維持するた めの材料であり、要員であった。ロポットよりもはるかに安く精密業が残されていたのだ。 で多目的に使用できる労働力よ、、 。しくらでも補給できた。 荒されたのは、この採集車がすでに採取していた、食用になるか 無重量下でーー・重力質量はゼロとなり慣性質量は不変の空間で、 どうかは不明の植物の実や葉であろう。後部の貯蔵ケースがこじ開 地表以上に敏捷な動作が要求される。 けられ、中には何も残されていなかった。 レイジ親子に一 ch 下の住居が与えられたのは、むしろ破格の待遇レイジはあわててキャタビラの下を確認した。父親の片膝は奪わ といってよかった。レイジが父の連れてきたペットとして扱われたれていなかった。取り出せなかったからだろう。 ( だが、これでどちらか一人は動けぬ状態になったことをやつらに 事情を考慮しても、だ。はじめて宇宙空間で生活することになった ″慣性″と呼ばれる人間の多くは、無重力になじな前に、カルシウ知られてしまった訳た : : : ) レイジは急いで車体前部に回り、フレームの下をのそきこんた。 ムが骨から溶け出し、あるいは宇宙線の照射による障害を起こし て、消えていった。かれらの大部分は宇宙島の内部に入ることはなそれは無事に残されていた。それが目当てでふたりは採集車を襲っ かったのだ。 たのだった。 そこには上へ、頭上の円筒へ通じる扉を開く、唯 宇宙島のシステムは揺ぐことはなかった。数千年以上、この状態一の鍵が備えられていた。細く研いだ金具をドライ・ハー替りに持っ はつづいたかもしれない。太陽の表面が、ほんのちょっとした気まて、レイジは車体の下に体を潜り込ませた。 ぐれさえ起こさなければ : 太陽面の気まぐれ・ーーといっても、数十億年にわたる寿命のうち の、数千万年に一度起こるか起こらないかという程度の太陽面爆 発。人間の一生の時間スケールでいえば一年に一回程度の、風邪に 採集車を破壊した場所まで引き返してきて、レイジは身を屈め、 も似た規模の異状にすぎない。太陽の水素 ~ ヘリウム反応にほんの 叢から様子をうかがった。擱坐した採集車の状態が、さきほどとはわずかな不規則が生じただけのことだ。だが、それは地球の様相を 一変させるに十分なスケールでもあった。 徴妙に違うように思えたのだ。死体を運び出した後、誰かが来たに 二年前までの観測では予想もできなかった太陽面爆発は、猛烈な 違いない。もう去ったのか、どこかで戻ってくるのを見張っている のか : レイジは息を殺して、同じ姿勢を保ったまま動かなかっプラズマの嵐を太陽系全域に吹き出した。