ち私を理解するためのキイ・ワードを、さがしあてたのである。 は珍しくないし、それをじっさいに体験しなかったわけでもない。 しかし、頭の中で念じたことばが、そのままあいての心に通じる、 それはちょうど、超空間画像通信器が、求めていた周波数をさぐ 3 2 というそれらのテレ。ハシーなどは、これにくらべれば、超空間画像りあて、漠然と・ほやけていた画像が、みるみるくつきりと、明暗も はっきりとした色鮮かなものになってゆくように 通信器の前の、無線通信のようなものでしかなかった。私のなか で、突然、私、という自我の獄舎にとじこめられた終身刑はおわり もう、何ひとつ、手さぐりや、類推でもって、意志を伝えあう必 をつげ、「他の存在」という奇蹟がまるまるそのままあざやかな絵要はなかった。この孤独の星にとりのこされた、たった二人の男女 、ユー族のさいごの生きのこりであるところのシャラーンと、 のように、私自身のうっし身のようにひらかれ、私もまたその存在 私 はるか銀河系の涯ての、ソルス系第五惑星の娘ロイスとは、 の前にそのすべての思い、すべての感受をさらけ出し 突然、奔流のような記憶のよみがえりが私をおそった。私は知 6 身体はまた何百キロもの距離をへだてたままで、いま、出会ったの 、こである。 ていた。私はこの存在を、ーーその思考やその感受のすみずみにしナ きらめくような、というにはあまりにも深く、魂の最もふかい奥 るまでーーー知っていた。なぜならーー・夜ごとに、はるかな距離をこ 底に食い入ってしまうほどの、シャラーンの喜びと、そしてよりそ えてその思念を私におくりこみ、私を南へむけて歩かせたのは いたいほど私をゆさぶつ 夜ごと、私の夢に忍びこみ、長く悲哀にみちた減亡とその後の長ってくる気持ちとが、私の中に食い入り、 い長い、気のとおくなるような待機と絶望をすべてかくすことなく 語りきかせたのは 私の中の、仕様もない、古い終身囚の名残りーーあまりにも長 、長いこと、孤独と不完全な意志疎通と、そして無理解へのあき その目に映じたすべての地獄、そしてそのあとに訪れた想像を絶 する孤独と苦悩、それをすら耐えぬかせた唯一の希望にもならぬ希らめ、という獄舎のなかに身を丸めてちちこまっていると、ふいに 望ーーー時には呪詛の方により近い ときはなたれて、まったくの自由の身になったのた、と宣せられて 「生きよう」という意志を、 私に子守唄のようにおくりこみ、知らせ、訴えたのは も、そうそう急には手足のしびれや、それよりも始末のわるい猜疑 彼だったのだから。 心と卑屈なあきらめとを、超克することができぬものなのた 私は目をとじ、何者かに祈ろうとした。あまりにも、めまいのすが、彼のその惜しみなく伝えてくる光のシャワーのような思いのた るようなこの奔流はすさまじく泡立ち、きらめき、よろめかずにはけを、最も不完全な、ことばという記号に翻訳してうけとめた。 いられなかった。 トテモ、 ( ョウコソ 会エテ、 トテモ、嬉シイ ) そのときーーーふいに、私の頭の中に、奇妙なはっきりとした絵が それを、私の中の、女らしいものが、もういっぺん、翻訳し直し うかんた。 明らかに、彼は、ようやく、さがしもとめていたものを、すなわ ( 愛シティルーーー愛している : : : )
十か所の《城塞》が消失したと判断した。大連邦府は、強力な探察《城塞》はすべての記録を《記憶の箱》に収め、《忘却の谷間》に 部隊を地球上各地に派遣した。だが、それらの探察部隊は、ひとっ埋めた。 として帰還しなかった。 イル・ダリアの年一二四年。大連邦府は再び探察部隊を地上へ送キャリコの年二九九年。《城塞》は冬眠に人ることを決意した。 《城塞》はすべての記録を《記憶の箱》に取め、《忘却の谷間》 った。この時、リトをハラ公民協議会と連絡を取ることができた。 リトル・ハラ公民協議会は繁栄していた。以後、大連邦府は、リトル ・ハラ公民協議会と定期的に連絡を取り合うことになった。 キャリコの年二九九年。 キャリコの年三十三年。フズリナ第五惑星から通信があった。フ ズリナ第五惑星には貝細工の年二十一年。探検隊が到着していた。 キャリコの年。 フズリナ第五惑星には三つの開発都市が建設されている。 キャリコの年五十二年。大連邦は、十二隻からなる船団をフズリ 6 ナ第五惑星へ送った。これに関する情報はついに得られなかった。 キャリコの年七十年。大連邦はあきらかに宇宙の未知の生物の発 信したと思われる通信を傍受した。大連邦はこの年、再度、十七隻気がついた時、すべての箱は半ば砂に埋れ、億万年の不動を保つ て、ひっそりとならんでいた。 からなる船団を、フズリナ第五惑星へ向って送り出した。 どのぐらい前から動くのをやめていたのか。それとも、ほんとう キャリコの年一〇九年。大連邦は、人類は地球の表面から完全に 撤退すると発表した。事実は、大連邦が《城塞》計画に着手して以は全く動かなかったのか。 来、そうなっていたのだが、これは単なる事態の追認に過ぎなかっ老ドラムは、自分がひどい錯覚を抱いていたのではないかと思っ た。これ以後、実質的に地表は異星人にあけわたされたことになった。 ツーーリ・ス、ー すべての箱は、最初見た時とは、別物のように光沢を失い、表面 た。だが、この状態においても、なお異星人との接触は成されてい には無数の腐蝕の跡さえとどめていた。 ず、 リトルバラ公民協議会は、大連邦のこの宣言に批判的であっ 老ドラムは、風に飛ぶ砂の中で立ちつくした。 砂煙はたえ間なく、薄雲のように箱の上にたなびき、ほんの少し キャリコの年二三六年。《ワルハラ》は、異星人の海に、あきら ツーリスト かに異星人の侵入の形跡があると判断。全防衛部隊に攻撃を命じずつ、砂を積らせていった。 ツーリスト この、何とも知れぬ箱のむれは、砂漠を吹き渡る風とともに地上 た。その数年後、異星人の海は、戦略的に乾燥化された。 に姿をあらわし、砂の風とともにふたたび砂の海の底へ埋められて キャリコの年二九九年。《城塞》は冬眠に入ることを決意した。 こ 0 8 っ 4
それは言葉ではなかった。それは波動というべきであり、電磁波ヒゲ根がたがいに接触し、からみあって、この群生地そのものが群 というべきであり、網の目のようにはりめぐらされた〈シダ〉の根体のように、全体として巨大なひとつの群脳を形成しているのだつ が、地中に埋もれている水晶層をふるわせるうなりだったのだ いや、その雑音の少なさ、情報量の多さを考えれば、それははっきその群脳がいま震え、困惑し、そして強い。ハニックに襲われてい りと電磁波通信と呼ぶべきものだったかもしれない。 彼はどうして死んだのか ? 彼はどうして死んだのか ? その問いかけがひらめいた瞬間、すべての〈シダ〉は身をもた ひげ根からひげ根へと走ったその問いかけは、しかし答えを得ら げ、しびれるような驚きとともに恐竜の死骸を見た。 れないまま、むなしく地中へ消えていくことになった。困難な問題 そう、レトリックでも、比喩でもなく、たしかに〈シダ〉は恐竜に直面した人間が髪の毛をかきむしるように、 〈シダ〉の地上部分 の死骸を見たのだ。その〈シダ〉は長波長可視光線から短波長可視は激しく左右に波を描いていた。 光線にいたるまで、すべてを光合成の対象にし、しかも光合成の過 わからない : 程を感覚として捉えることができるのだった。 もちろん、〈シダ〉に動物のような視覚があるというわけではな しかし、暗闇のコウモリが超音波で見るというのと同じ意味に それはほとんど悲鳴にちかかった。植物界の頂点に位置し、白亜 おいて、その〈シダ〉は間違いなく光合成反応で外界を見ているの紀唯一の知的生命体であるはずの〈シダ〉が、どうしてその恐竜が だった。もしかしたらそれは、やや緻密さに欠ける動物たちの視覚死にいたったのかわからないのだった。 よりも、はるかに優れた視覚といえるかもしれなかった。 〈シダ〉は草食恐竜の死にたいし、無関心ではいられなかった。 それを〈シダ〉という名で呼ぶのは、いささか正確ではない。 〈シダ〉は食物連鎖の概念を正確に理解していたからだ。この自然 たしかに地上部分はシダ種に酷似しているがーーまた、それがシ界においては、生きとし生けるものはすべてどこかでつながってい ダの進化種であることは間違いないがーーそれはシダ類、ソテッ、 て、なにものも無関係では生存しえない、ということを熟知してい マツなどの針葉樹林に代表される ( 花の咲かない植物 ) の帝王、こ たのである。 の時代の植物の優勢種だったのである。 だからこそ〈シダ〉は恐竜、哺乳類を問わず、その生息状況、だ 地上部分の葉や茎が感覚受容器管、そして地中にはりめぐらされ いたいの個体数にいたるまで、可能なかぎり正確に把握しておく必 たヒゲ根が言語器管であり、また脳でもあった。おびただしい数の要を感じていたのだった。 こ 0
9 ているにすぎない。 変化して、式①と②のようになるのであ ところがアインシュタインは、八②のよ 相対論においては、光のスビード が地球る。 うに、時間から空間をひくと新しい時間に からみても恒星船からみてもまったく同一 ただここで注意しなければならないのは なるーー、という奇想天外な数式を、なんの という実験的事実をよりどころにし式②のほうで、相対論においては時間まで釈明もなく、カエルの面にションべンのよ ているので、③と④の式の形がちょっぴり もが変化するのだ。しかも時間に空間①をうな平気な顔で ( 失礼 ) 発表したのであ る。 加えるような形で変化するのだー そしてそれが、″四次元の世界〃の発見 もうひとっ注意すべきことは、この 十 でもあったのである。 ふたつの式は、のと ' 敷とだをいれ ( ここで述べているのは特殊相対論といっ かえても ( つまり地球を中心に考えて の て、たがいに等速度運動をしている系の間 式示いも恒星船を中心に考えても ) 同じにな 程表さ の変換を扱う簡単な方の相対論である。 方ル下るということ、および、すべての量が スえのトて測定方法を明示されているということ速度や重力がはいってくると、それは一般 ・ 7- こクめ 相対論となり、もうすこし複雑になり、・フ 円はべ眺 ( これを操作的定義が明確であるとい う ) ーーーである。 ラックホールなんかが出てくるようにな = おえ る。それから図 2 や式には空間の座標とし ( な - ル性 ( 考アインシ「一タインは、このローレン て工しか出てこないが、や ~ ~ は ' 4 やと ン相た種ッ変換の式を、 ①どの系でも物理法則は変わらない 等しいので、書かなかっただけである。っ * 。さの おの 式立ト まり、速度の方向である①だけが ' 工とち という相対性の原理 程樹ス 方てラ②光速はどちらの系からみても変わがい、他はちがわないのである ) らないという光速不変の原理 電と * の提 , だけから、おそろしく簡単な方法で 大魚を逸したローレンツ = たみちびいたのである。 ウをル こんな簡単な式を、なぜ他の科学者 ク性ンたちがそれまでみちびけないでいた ローレンツ変換の式①と②は、すべての ッテ 特殊相対論的効果の基本であり、先月号ま マ相はか、まったくふしぎであるが、″時間 4 性「が変わる。とい 0 たおそるべき事実をでに述べた、星界の集東、星虹、すれちが 図 めることが、アインシュタイン以外 い物体の変形など、すべてこの式から ( 簡 の人にはどうしてもできなかったの単な操作で ) 出てくるのである。 今月号は、四次元の世界の最大の応用と 9
私は、さっきから、しきりに、何かを連想し、その何かが何であていた、とでも云ったらいいのかーーー何か、それは私の甘すつばい 、ハッとしてマリ 感傷と、敬虔な思慕を誘ってやまない。 ったのかと頭の隅で迷いつづけていた。が、ふと これもふしぎたった。この星に、何かある、と私が予測していた ン・スノ 1 の街並のあいだに足をとめた。 にせよ、それはこんなっかみどころのない、そのくせひそやかに心 刑 ) 必すやってくる死を宜告され、それまでのによりそってくるものではないはずだった。 何のことはない。 私は、ようやく外れにさしかかった、廃都のながめ 日々を好きにふるまい、自ら生命を断つなり生きのびようとあがくすべては ュー族にある筈なの とっきはなされて放り出された・ーーそれは、まぎをふりかえりながら独語した、すべては、ミ なりするがいし れもない、永劫の孤独と隔離の中におきざりにされた、私自身や、 かれらが何を考え、どんなふうにふるまう民で、そして何を感し 同様な >< 刑の流刑者のすがたではないか。 どうして、そうしたのか : : : それさえ ながら減びていったのか いわば、ーは、星ぐるみで刑をうけたようなものだった。 x 刑ーー死刑よりもいっそ残酷た、といわれるこの刑を、しかもわかれば、私は、すべてを、理解することができるはすだ。 一種族として宣告されて、どうして、かれらは、こんなに静かに、 私は人類学の学生で、さまざまな宇宙人類学史上の謎や、永遠の さりげなく、立ち去ってゆくような減び方を選ぶことができたのだ難問とされているケースをも学んでいたけれども、これほどに、あ ろう。 るも ? ーーあることがら、ある種族そのものーーを理解したい、と それほど、かれらは精神的にすぐれたものを秘めた種族だったの望んだことはなかったし、これほどに、もしできることならば、そ ーーー全身で、全霊で、全存在でーーーと望 か ? 私の好奇心は、いやが上にも、ついに見ぬミ = 1 族に対してれらそのものに、触れたい つのってゆく一方だった。 んだこともなかった。 しかも、答えの与えられることはない。 マザ 1 ・コン。ヒュ 1 タが、決して理解することも、感じることも 生まれおちて、その刹那か 何だか、この静寂の中にいると、その答えを得ようとして、かぎないであろう、この熱いおもい まわり、調べ、つつきまわることそのものがひどく冒濱の行為のよら、自分自身、というささやかな小さな牢舎の流刑囚となり、不完 うだ。それにしてもこの都市には、それがこんなさいごの減びの相全なことばという通信手段でしか自分の同族とさえ意志を伝えあう をさらけ出していてさえ、何かしら、私の心にかなうーーーすでにどことのできぬ生命体というものが、その、まさしくそのささやかな こかでよく見知っている、というような、そんななっかしささえも自我ゆえにこそ抱くことのできる、全惑星、全宇宙へまでひろがっ てゆく熱く、やむにやまれぬ想い が感じられる。 《アナタヲ理解シタイ》 物心つく前後にほんの短いあいだだけ住んで、長いことたってか 《私ヲ理解シテ欲シイ》 らようやく再び訪れた家が、すでにすっと住む人もない廃屋になっ 227
燃える都市の上空で、ひとりの女が・フルースを歎きうたう。どん女は炎に身を投じる。彼女はたちどころに完全に燃え尽きる。 アトロポスの顔は影の帷につつまれたまま。 なに彼女が絶叫するか、どんなに彼女がうめき悼むか。涙が育てた 炎が、空を指でかきまわす。 それは古い、古い歌ーー 満たしておくれよ、山のように 満たしておくれよ、海のように 熱の中で身をよしりながら、彼女はなんの支えもないところに立 つ。火が彼女の肉体をなめる。 あたしのすべてを 見事に引き張られ、氷の輝きをもって、操作ワイヤが放射状にひ ろがる。彼女の肉体と明減する闇とのあいだにびんと張った絆、す べてのワイヤは彼女の背後の、とらえどころのない目立たない人影 ギリシ " 神話の運命の三女 ) はじ につながっている。無表情にアトロポス ( 神 っと女を見おろす。 顔をひきつらせながら、彼女は百万の火の核心を覗きこんで絶叫 あたしのすべてを アトロポスが恐ろしい、冷たく輝く〈ノルンの大鋏〉 (Äヒ欧 三女神の一人 ) の刃を持ちあげ、ほんのわずか躊躇しただけでワイヤを 切断すると、手足をいつばいに拡げ羅針盤の四つの方位に向けて、 《ポスター》 アルバ 六〇トラック・ステイム、ロ・フ・カル 六月二十三、二十四日 夜一回、開演幻【 8 入場券幻、 $ ートロンの お求めはアルバ 各営業所か会場入口にて ムーグ・インデイゴ コンサート ジャイン・スノー と ートロン提供 9 3
らた 4 あわせてなく、飢えの苦しみを草食恐竜たちにたいする憎悪に転化 し、真っ黒な悪意のなかで生きていた。 だが、しよせん彼らは少数派であり、そのあまりにも鈍い身のこ われわれはどこへ行くのかっ・ つもかっかつの状態で生きていかなければならな なしのために、い かった。草食恐竜と ( 花の咲かない植物 ) との食物連鎖を破壊する 問いかけているのではない。それは住むべき場所をうしなった 〈シダ〉の、途方にくれたつぶやきであり、なにより進化の道を閉ほどのパワーはなくほんとうの意味での脅威にはなりえなか 0 た のだ。 ざされた絶望のうめき声であるはずだった。 進化・・・・・・それは〈シダ〉にと「て、自分がどれだけのものを他に ( 花の咲かない植物 ) のいわばリードオフ・ン的存在である〈シ 分け与えることができるかという謂であ 0 た。〈シダ〉がその知性ダ〉は、いつの日か彼ら肉食恐竜たちも自己犠牲の食物連鎖のなか によ 0 て強引に推進し、築きあけてきた食物連鎖は、それにつらなに組み入れることを考えていた。自分を与えることを知らず、たた るすべてのものが自分の一部を分け与えることで成り立つ、いわば奪うことにのみ熱中しているために、逆に多くのものをうしな 0 て いることに気がっかない肉食恐竜たちを、なんとかその苦しみから 自己犠牲に裏打ちされたものだったのだ。 思いかえしてみれば、はるか昔、ジ = ラ紀のころ、巨大恐竜プロ救いだしてやりたいと願 0 ていたのだ。 もちろん〈シダ〉の知るはずもないことであったが、彼らの自己 ントサウルスがその長い顎をのばし、〈シダ〉の遠い先祖であるシ ダの若葉をむさ・ほり食べていたときから、この自己犠牲、無抵抗主犠牲・食物連鎖は七千万年のちインド亜大陸の一角で、ひとりの聖 者が到達し、覚りを得た哲学と大きく共通するものがあった。い 義を芯とする進化が用意されていたのかもしれない。 肉食恐竜はべつにして、草食恐竜と ( 花の咲かない植物 ) とのあや、その根本理念においては、ま 0 たく同じとい 0 ていい。すべて いだには、なにひとっとして殺伐な関係は生じなか 0 た。 ( 花の咲命あるものは等価であること、自己を無にし、慈しみの精神をつね かない植物 ) はみずからを草食恐竜に与え、草食恐竜もまた死んでに忘れないこと : : : じつに〈シダ〉は食物連鎖という冷酷きわまり ない現実から、のちの世界宗教のそれにも匹敵する優れて抽象的な いくとき、その体をすべて ( 花の咲かない植物 ) のために投げう この自己犠牲の食物連鎖は完哲学体系を生みだしつつあったのだった。 ち、土壌を肥やすことにつとめた しかし、〈シダ〉がその自己犠牲・食物連鎖の輪をひろげようと 璧に作用し、草食恐竜たちのあるかなしかの乏しい脳には、 ( 花の 咲かない植物 ) にたいする感謝の念さえほのかに生まれていたのだしても、どうしても受けつけない壁のようなものが存在した。それ が ( 花の咲く植物 ) ーー被子植物であり、どこかでその被子植物と っこ 0 そう、肉食恐竜たちはたしかにトラ・フルの種であり、厄介者であ密接につなが 0 ているように思われる哺乳類たちであ 0 た。 0 た。彼らは貪欲であり、自己犠牲の精神などこれ「ぼ 0 ちも持ち被子植物は貪欲そのものといえた。 ( 花の咲く植物 ) が育つに 9 6
ろその方がじっさいには生きのびるチャンスが多いと考えているの 「ここでいい」 再びさえぎって、私は目のまえのポードにひろがる全天体図の一だろうが、星域は、現実には決して航宙船舶が航路とすることの ない場所だけを選んで指定されているのだよ。中央管制局の管制下 箇所に、いい加減に指をふれた。裁判官がスイッチを操作して、 にあるこれらの星に、流星であれ難破船であれ特殊指定コード以外 ネルからパンチカードをひきちぎり、冷淡な声音で読んだ。 の物体が接近すれば、たたちに。 ( トロールが急行する。脱出ののそ 「イラス星系ー」 私は無感動な目を彼にむけた。それは私には、何の意味もなさなみは決してないのだ」 私は答えなかった。云われるまでもなく、望みなど抱いていはし い、ただのことばでしかなかった。 政府のやり口ぐらい、わかりすぎるほどわかっているのだ。 それとも、悪い、というべきかな。イラス星ない。 「君は運がいし いや、十中八、九、イラス星系の減亡にだって銀 系ーーよいところだよ。もうずっと銀河系のはすれに近いところもしかしたら 河系統一開発センターの手が入っているにちがいない。センターが 自在に惑星の経済、文化をあやつり、武器をひそかに輸出し、政府 裁判官の吐気をもよおすような猫撫で声が再びはじまる。ああ、 私は頭の中で叫んだ。もう何でもいいから終わりに高官の思うとおりの方向へすべての星系を動かしていることなど、 知らぬものは一人もいないのだ。もしも、このさき、あまりにも高 してほしい。白い独房、裁きの茶番劇、田舎芝居はもう沢山だ。 はイラスの唯一の等級惑星だ。それはかって、ちゃんと度に発達していって、銀河系政府にとって目ざわりになりそうな星 ブラス段階の文明を誇る種族がいた。しかし、かれらーーー自らをミ系があれば、それはただちに戦争や破壊工作の種子をまかれて、そ はいまから約三百宇宙標準年ほど前にほの発達をさまたげられるし、それでもなお無視できぬほどの可能性 ュ 1 族と称していたが ろびた。原因は同族間の反目と不和による惑星戦争だ。その際一方を秘めた種族は、イラス星系のように減・ほされはててしまう。神々 の側で使われた、細菌兵器ーーーの住民をすべて不妊にする新の座はセンターと共にあるーーそれがかれらのやり口なのだ。 私が何も答えなかったのは、それゆえ、同志の救出を期待したか 型ウイルスのために、生き残ったわずかな住民も、その後二百年ほ どのあいだに全員死にたえ、ーは減亡して、 >< 等級指定星域とらではなかった。その反対に、私はもう、生きのびることに何の興 なった。住むものはいないが、美しい星だそうたよ。君の墓として味ももっていなかったからだ。私のすべてはサンと共に死んでい た。私はただ、一刻も早くケリをつけてくれるもの , ーーそれがどの は、うってつけだろう」 彼は、さいごに「判決済ーのボタンにそのデータをセットしようようなものであれーーただそれだけを求めていた。 裁判官は私の顔を見、そして、それを悟ったようだった。彼はう としながら、機械的につけ加えた。 「それにしても、本当に、気をかえてーキャン。フへ志願する気す笑いをひっこめ、青黒いどろんとした顔つきにもどると、あっさ はないのかね ? 君は、 >< 級刑も << 級キャンプと同じことで、むしりと大きな青ボタンを押した。私の死刑執行が、そうして決定され
レヒ三ウ ()n は、これまで、ほとんど無数の生伝説中の獣たちについての著作があるけの結果であるのかもしれないが、やはり 物を造り出し、名前を造り出してきた。 れども、それらは、純粋の観察記であっ ここは、もっとさりげなく、淡々と描か 9 れている方が、この作品が目ざしている けれども、それらの生物たちについて語たり、明らかにファンタシイであったり ろうとした作品は、思いのほか、少なする。少なくとも、山田正紀が、ここで方向に合致しているのではなかったか と、思うのだ。 ことに、異星人というパターンを除展開しようとしているものとは、方向が いてしまうと、極端に少なくなってしま異なっている。 この作品の最後で、作者自身が示して 山田正紀が、「超・博物誌」で行ない くれたちょっとした種明しも、その方が たとえば、・・ヴァン・ヴォート つつあるのは、的な・ハック・グラウ生きると思える。 の「宇宙船ビーグル号の冒険」という作ンドの中で、いかにして虫そのものにつ もちろん、そうした若干の不満は、こ の作品に込められた山田正紀の意図と、 品がある。それは、様々な宇宙生物に遭いて語ることが、できるか、虚像につい 遇する連作といった形を取っているのだて、その細部まで空想できるか、こうい この作品の価値を割り引くほどのもので 実際、山田正紀が、ここでやろ が、それらの宇宙生物は、そのユニーク うことだろう。その描写にあたって、山はよ、。 さにも関らず、観察や研究の対象として田正紀は「竜の眠る浜辺」の系統に属すうとしたことに対して、・ほくは、大きな ではなく、ス の素材として機能る語り口を選んでいる。必すしも、すべ拍手を送りたいと思う。そして、この次 してしまう。もっとも、そうは言っててが科学的な妥当性の範囲で語ることのなるステップに対する期待も。 ( 『超・ も、それがヴォートの作品の欠点というできない虫たちなのたから、それは適切博物誌』 / 著者Ⅱ山田正紀 / 四六判上製 ことではない。目的とするものが、ちがな選択た。 / 234 頁 / 1200 円 / 徳間書店 ) うからだ。 不満を述べるなら、この作品にもう一 けれども、この作品が下敷にしているつの流れを加えている老境にさしかかっ 筒井康隆選 であろうダーウインのビーグル号によるた主人公の回想が、時として、わずらわ 航海記からすれば、かけはなれたものにしく感じられること、そして、語られる な「てしま 0 ているのは事実た。当時の虫たちが、すべて史上初めて精密に観察『実験小説名作選』 アメリカが、そうした観察記や、博されたかのような印象 ( もちろん、それ 伊藤昭 物誌といった形では成立しにくいことかは事実であるにちがいないのだが ) をこ ら、そうなったのかもしれないし、もっとさらに与えてしまうのは、誇張されす これは、センセーショナルなアンソロ と言うならば、その形を取る必然性がなぎているのではないかと感じさせること かったということたろう。 だ。全体のさりげなさが、そうした部分ジ 1 である。筒井はここで、が現代 たとえば、光瀬龍に昆虫記があり、河でマイナスされてしまう。 文学の主流たり得るかを検証したかった のではないか。言わばこの本は、それ自 野典生に博物誌があり、ポルへスに神話あるいは、それこそが、主人公の老い
砂は二人の足元を河のように流れ、《記惞の箱》をおおいかくし けたかったからだと思うわ」 ていった。もう、二度と地上に現れ出ることはないのであろう。 老ドラムはひとり、深くうなずいた。 「昔のなかまたちの顔を見たかね」 「見たのかね ? 《城塞》の歴史を」 「見ました。人類は、なぜあんな重い歴史を背負わなければならな老ドラムはやさしくたずねた。 「見たわ。私もいました。その中に。行程区主任。あなたは、保安 かったんでしよう ? 」 老ドラムは黙したまま肩に積った砂を払い落した。それは、積っ部長の ( マを知っていますか ? 遠い昔のハマを」 「知っていたような気がする。もう記憶のひだの中に遠く薄れてし た歳月を払い落すかのようだった。 「大連邦は歴史の結末を、そこへやって来る誰かに頼みたかったのまっているが」 「リリエトも。それから、あの人も」 でしよう」 エト。最高評議会の幹部だった男だ。わしとは、昔、ライ 「第一委員。その誰かとは、あなた自身なのだ。誰でもよいという「リ丿 ルだったものだ。何事につけても。彼は歴史の変化の中に消え、わ わけではなく、あなたでなければならないのだよ」 しはこうして残った。まてよ。第一委員。あの人というのは ? 」 「そうでしようか」 「そうだ。わしも第一委員と前後して望楼を出た。わしの見たもの「私、あの人が何という名だったのか、覚えていないんです」 は、さえぎるものもない砂の海だ。戦いの跡、敗北の跡、減亡の痕「みんな昔のことさ」 「あの人とは、ずいぶん長いこと、一緒に暮していたのですよ」 跡だけが私の見たもののすべてだ。わしに《城塞》の歴史は無縁な 日頃、わしはそう思「人はみな昔を忘れてゆくのだ。覚えていたら、かえってたまらな のだ。人類の興亡もわしとは何の関係もない。 いだろう」 っているからなのだろう。《城塞》から歴史をゆだねられるには、 わしは失格者なのだ。第一委員。だからこそ、わしには何も見え 「あの人は、私を見なかったわ」 ず、あなたにはすべてが目の当りに見えたのだ」 フサの声音には哀切の響があった。 「《記億の箱》は私の為に用意されたものだったのですね」 「過去のその人物にとって、あなたは必要の無い人だったのだろ 「そのとおりだ」 「私は何をしなければいけないのですか ? 」 「違うわ。その反対だったはすです。でも、あの人は私を棄てて、 「《城塞》の意味を背負うことだ」 行ってしまったのですよ。遠い所へ。私の手の届かない遠い所へ」 「その人があなたを棄てたのではなく、あなたがその人を棄てたの 「《城塞》の意味、とは何ですか ? 」 「わかっているはずだ」 ではないかね」 老ドラムのほほに暗い苦渋の色が翳った。 「違うわ。でも、そうかもしれない。たぶん、そうなのでしよう」 0 3