「人間は自分一人たけがなかまからはずれて死んでゆくというその直径三十メートルほど、高さが十数メートルのそれは、おびただ ことに耐えられないのだ」 しい数の、指ほどの太さの金属管で編まれた巨大な籠だった。 「まだやりたいことがある」 その中で三百人もの人間がひしめき合っていた。それを取り巻い 「と、言っても、それが生き続けたいと願うほんとうの理由にはなている人間の数は、十倍にもなろう。 らないはずだ」 「さあ。心の動きを止めるのです。心の中から、すべての考えを追 放するのです。心を無にして、静かに、静かに、そこに在るので 「とにかく生きていたいのだ」 「とにかく生きていたいのだな」 「そうだ。生きていたい」 クレーンの支柱にとりつけられたス。ヒーカーから、やわらかな女 「それでよい。生きていたい。生き続けていたいと思う気持ちに理の声が降ってくる。女の声はもの憂く、聞く者の心にくい入った。 由などいらない。虫のように生きる。それだけでよい」 もう長い間閉鎖されたままの造船所は廃虚のように静まり返り、 「導師よ。人間はなぜ生きているのだろう ? 生命の目的は何なの女の声だけが林立するクレーンの間を流れた。 「いいですか。目を閉じて心を無にしてください。あなたがたの頭 だろう」 「三十億年の昔。地球上に生命が発生したのは偶然だ。科学的には上をおおうこの天蓋は、宇宙に充満する造物主の精気をとらえ、あ 必然であったとしても、銀河系全体、宇宙全体から考えた場合、選なたがたの上に放射するのです。それを受け取って自分の心や体に 択は偶然と同じ意味を持つ。ある一定の方向に向って進行した不可活力を与える賦活材とするためには、心は空でなければなりませ 逆的化学変化が地球上に生命を発生させた。そのこと自体に何の意ん」 味もない。生命は尊いと説く者がいるが、驚くべき論理だ。生命は ふいに奇妙な音響が、頭上から降ってきた。 おのれの所有の根源だ。だからおのれの生命に関する限り、他者の それはうなりともっかず、きしみともっかない異様な震動音だっ 存在は徹底的に否定される。それだけのことだ。そのおのれの生命た。 を永遠に持ち続けたい。持ち続けよう。それが唯一の意志だ」 その音は、あきらかにス。ヒーカーからではなく、頭上の天蓋から 聴衆は声もなく、男の言葉の意味を反趨していた。 わき出していた。 生きたい。生きていたい。その願いが、人々の胸に、暗い情念と人々の体はこまかく震えはじめた。その音に吸引され、励起され なって煙を噴き上げていた。 るように、眼球が震え、顎骨が震え、全身が震えた。 「宇宙に充満する造物主の意志は、人類に未来を約東しているので 造船所のガントリー・ クレーンの下に、奇妙な物が据えられていす。人類は減びません。あなたがたの一人一人が減びないからで す。もっともっとたくさんのともたちを連れてきてくたさい。みな 2 っム
は、スターホルム人に″負の情報″ ( 地元の用語ではユーモア、フ した。この小さな演技者の姿は消えて、その代りに見えるものは、 アンタジイ、神話 ) という不可解な概念の存在を教えたのだった。 古代の煉瓦積みの間をあちこちへ躍りまわる炎と蒸気の柱たけだっ た。他の子供たちは、大してうまくもないこの芸当を、わざと無視スターホルム人は、この初体験の事象に取組みながら、時々絶望 的な気分で「我々には人類は最後まで理解できないだろう」と思う していた。 しかし、スターホルム人にとっては、これは興味深いパラドックのだった。彼は時として、自分があまりの挫折感に不随意の変身を この人々は、自分たちがいま開始して、大きな危険をひきおこすのではないかと怖れたものだっ スを提起するものだった。いったい、 持っている力で寒気を撃退することもできるというのに ( 現に彼らた。だが、今では、見るべき前進がおこっていた。自分が初めて冗 の従兄弟たちが火星でやっていることだ ) 、なぜ内側の惑星へ撤退談をとばし、子供たちが一人残らず笑ったときの満足感は、今でも してしまったのか ? この疑問に対して、未だに得心のゆく答は受よく覚えていた。 けとっていなかった。 .. ~ 彼ま、自分がいちばん意志疎通しやすいアリ 子供たちを相手にするというのは、これまたアリストートルから ストートルの謎めいた返事を、また考えてみた。 教わ 0 た手がかりだ「た。「 " 子供は大人の父。 ( 」い百まで 「何事にも時期があるんですよ」と、この惑星頭脳は返事したものう古い格言があるんですよ。″父″という生物学的概念は、我々双 である。「自然と闘うべき時期もあれば、それに従うべき時期もあ方にとって同じように異質のものですが、この単語はこの文脈の中 ります。真の知恵とは、正しい選択をすることにあるんです。長いで二重の意味を持っているのですーーこ 冬が終れば、人間は、蘇った地球に戻ってきますよ」 というわけで、彼は、子供たちがやがては変身してゆく大人につ というわけで、過去何世紀かの間に、地球の全人口は赤道に林立 いての理解を与えてくれることを願いながら、ここにこうしている する塔から流れだし、金星の若い大洋や、水星の温帯地方の肥沃なのだった。彼らは時によって真実を語った。だが、彼らが悪戯つば 平原へと、太陽の方角へ拡がっていったのだった。あと五百年してい気分になって ( これも理解しにくい概念だった ) 、負の情報を提 太陽が回復したときには、異郷生活者たちはまた戻ってくるたろ供するときでも、今のスターホルム人にはその徴候が読みとれるよ う。水星は極地を残して放棄されよう。だが金星は、恒久的な第一一うになっていた。 の故郷になることだろう。太陽の冷却は、人類にこの地獄の惑星を それでも、子供も大人も、アリストートルでさえも、真実を知ら 手なづけようとする動機と機会を与えたのである。 ないという場合があった。全くのファンタジイと厳密な歴史的事実 こうした事柄は、重要なこととはいえ、スターホルム人としてはとの間には、中間のあらゆる段階を含む連続的なスペクトルがある これに間接的な関心しかなかった。彼の興味は、人類の文化や社会らしかった。一方の端には、コロン・フスとか、レオナルドとか、ア レーニンとか、ニュートンとか、ワシントン 5 のもっと捉えがたい側面に向いていた。どんな種属も独得のものでインシュタインとか、 あり、独自の意外性、独自の個性を持っている。この種属の場合とかいった、しばしば声や映像そのものが保存されている人物がい
「その人は旅立って行ったのだろう。あなたは一緒に行かなかつ「第一委員」 「フサと呼んでください。ここには最高幹部会もなければ《城塞》 た。あなたは権力が欲しかったのだろう」 もないわ」 「違うわ。でも、そうかもしれない。たぶん、そうだったのでしょ 「フサ。われわれが異星人なのかどうか、きめた所で何の意味もな いだろう。ここは誰にとって故郷の星なのだね ? 人類にとって フサはうなだれてつぶやいた。 いや。生にとってか、死にとってか。 ナしか。これ以上、この砂の海はわか ? 異星人にとってかフ 「第一委員。さあ、帰ろうじゃよ、 フサ。《城塞》は何かを葬る所と言ったな。それは比喩であれば、 しらに何も語ってはくれぬ。もどろう」 おのれ自身を葬る所だし、事実であれば人類を葬る所た。いすれに 「《城塞》へですか ? 」 「ほかに帰る所があるのかね ? あるとすれば、第一委員、それはせよ、それは瞬間の中の永劫の投影だ。あなたが異星人であるのか ないのか。異星人であるとすれば、どの点がそうなのだ ? 傲慢な あの人物の所しかないはずだ」 のは生命に対してではあるまい。永遠と長さをきそおうとするから 「でも、そこへは行かれないのでしよう」 「今は《城塞》へ帰ることだ。第一委員。あの、冷たく、暗い、永なのだろう。人類にせよ、異星人にせよ、永遠を手に入れるにはど 劫だけが横行している世界へだ」 うしたらよいのた ? 昔、考えたことがあった。限りある生命など というものは、無いに等しい。人類は永遠なるものを、つねに自分 「行程区主任」 「老ドラムと呼んでくれ。ここには行程区もなければ、《城塞》もたちの生命の短かさとの対比の上でとらえてきた。それ以外に、ど んな尺度があるというのだ。《城塞》は違う。《城塞》は、言葉ど ない」 「老ドラム。あの世界の意味、《城塞》の意味が少しずつ解ってきおり、永遠をわがものとした。事実としての永遠などと、まことに ました。あれは、何かを埋葬した世界なのですね。何をでしよう奇妙なものではないか。そうだろう。フサ。観念としての永遠は許 せる。事実としての永遠を、どう理解するのた ? 永遠や無限に対 決する為に、みずからが永遠の生命を生きるという愚かしさは、こ 「一人一人の意味するものが違うだろうな」 れこそ、無明の闇であろうよ」 「あれは、もしかしたら、異星人を葬った墓ではないかしら ? 」 ツーー・ス . フサの紫色の頭髪にも、肩にも、腕にも、徴細な砂は音もなく降 「異星人をね」 つづいた。 「老ドラム。あれほど長い年月をかけて異星人を探し求め、接触しり ようと努力してきたのに、なぜできなかったのか、今、わかった風が鳴り、切れ切れの挽歌を運んでいった。 わ。異星人なんて、どこを探してもいないはずです。私たちが異星 人だったんだわ。そうでしよう ? そうに違いないわ」 ツーーリス・「 ツーリスト ( 以下次号 ) 3
ニュートンの方程式はべクトルでは書け幾何学座としてあらわしたものである。 と″四次元的〃な雰囲気がつよいが、それ てもテンソルでは書けないので、三次元の だからそれは、相対論の基本式を表示し はまた新たな連載としてとりくむことにし 0 ているという意味では″実在〃の世界であたいと考えている。たた、たとえ一般相対 座標回転には共変でも四次元に対してはⅡ 、修正しなければならない。 変ではなく るし、幾何学的表示という意味では″架論の世界といえども、″徴小な領域内″で しかしマックスウエルの電磁方程式は、 はローレンツ変換が成立することを述べて 空〃の世界である。 べクトルでもテンソルでも ( 図 4 のよう それはちょうど、人口の動態をあらわすおきたい ) に ) 表現できるので、修正しなくとも三次 ″棒グラフ″が、現実の人口を表現しては * この論文の冒頭でミンコフスャー いるが、人口そのものではないというのに は、『これより後、空閭それ自身、 元的にも四次元の相対論的にも正しいこと ・、イッパッで言えるのである。 似ているーーーーと一一一凵えるたろう。 また時間それ自身は単なる影の中に べクトルやテンソルの話は、つけたしで 消え失せてしまい、ただこの両者の 以上の相対論と四次元世界の説明は、電 ある種の結合のみが独立した存在を あるから、何のことやらさつばりわからな磁方程式たの共変性だのをもちだしている くともかまわない。 保つことになるたろう』 点で、これまでの一般なけ科学解説書には わかるほうがふしぎである。 なかった種類のものである。 と述べた。この一句はたいへん ただ、べクトルであらわされた物理法則 有名で、後世の多くの解説書に引用 アレルギー症状をおこされた読者も多か は三次元的に正しく ( すなわち空間上の方ったかもしれない。 された。文中にある″独立した存 向性がなく ) 、テンソルというものであら しかし、私の現在までの経験にもとづく 在石の一種である″不変量″は四次 わされた物理法則は四次元的に正しい ( っ 元世界の理解において″共変〃にお かぎり、四次元世界の本当の意味を、座標 とらぬ重要性をもち、エネルギ 1 ーの まり相対論を満足する ) ーーというお念仏回転とか共変とかマックスウエルの電磁方 みたいな話ぐらいは、頭のすみにおいてお 程式とかいう数学的イメージをぬきにし 問題などにもつながるのであるが、 しいかもしれない て、他の言葉たけで説明するのは本質的に これ以上読者を悩ますのは気がひけ るので、割愛した。 物理学者がべクトルやテンソルを使うの不可能であると考えている。 は、なにも粋がってそうしているわけでは だから、読者をごまかすことなく、良心 なく、それが物理的に重要な時空上の意味 的に相対論と四次元世界を説明しようとす さて、いよいよ銀河旅行たリ・ をもっているからなのである。 ると、どうしてもこのような用語を出すこ とになってしまうのである。 いすれにせよ、四次元の世界というの 意をくまれ、お許しいたたければ幸いで 長いことお待たせしてしまった。 は、相互に運動する ( 地球と恒星船のようある。 ごめんなさい な ) 二つの系からの観測値を結びつける やっとのこらさで、銀河旅行におナる ( 重力や加速度を伴う現象を扱う一般相対 ″ローレンツ変換〃を、取り扱いに便利な 論は、ここに述べた特殊相対論よりももっ ″時間の遅れ〃について図解するところま
だが、そこではわが『光作一己」 ター・ニコルズの『百科事典』の第二 、一 1 糸ソタログ』のとのできない性質のものたからた。 の定義にしたがうとしよう。 第四〇番にリストされている″グル , ームプ ふつうの一般むけの解説書では、数式を 9 するとこのは、『ハ ード宇宙伝奇 / 一ノ″が舞台となっており、そっかわすに必死になって相対論の意味を説 』とか『ハ ド宇宙秘話』とかいうの舞台設定はきわめて 〃である。 明しようとしているが、それで核心の部分 言葉によってくくれるのではあるまいか ? ホールドマンという人のは、あたか が説明できている解説書というのを、私は またべつの観点からは『ハ ード用語』 も、過去の多くのによって踏みかため く幸にして読んたことがない。 に分類されるであろう。 られた固い地面を再度掘りおこしているよ この連載では、このことを考えて、前三 うなものたといえるだろう。 このを推奨する人たちは、そういう 回は結果だけをイラストによって報告する 宇宙秘話的な楽しみかたを心得ておられる つまり、踏みかためた土間を掘っている という形をとった。 のたろうし、またシリアスな立脚点から批 ようなものだ。掘る土間ってほんとに堅い つまり、相対論の意味については、数式 判される方も、そういう娯楽本位の ( ード からなあ : ・ を必要とするので、説明することをあきら の読みかたもあることは、認められる ( あまりにひとりよがりな文章がつづいた め、恒星船から何がどう見えるか であろう。 ので、忍耐づよい読者もさすがに元気を失 うその結果のみをしめすことにしたのであ る。 ( ただしそれたけに、ホーガンのその後のわれたことであろう。はやく次の節にうつ 作品には、逆に期待をもちたいと思う ) ることにしたい。節と節の間には、この連 ところが今月は、表題からもおわかりい 載の場合、節タイトルを挾んで二本の線が たたけるように、銀河旅行における四次元 じつをいうと、クライン・ユ ベルシュ ウラシ ひいてある。これが間じきりになっている の問題、とくに " 時間の遅れ タイン氏の諸作について論じるつもりたっ ので、急に話題が変わってもたいしようぶ マ効果ーーーの説明であるためハタと困っ たのである。 なのた。シキリって便利たなあーーとシキ てしまったのだ。 先月号でそれを書くつもりが、ページ数 リに感心したりして : : : ) 星空や図形の変形ならば、図示すること の都合であとにまわすことにした。で、今 ができるカ 、、、、″時間″というやつは、絵に 回書くつもりで、その枕として海外のハ 中学ていどの数式なので 描くことがじつになずかしい。しかもシュ ドをとりあげようとしたところが、そ ールにではなくリアルに描かなければなら がまんしてくたさい の上にさらに枕がいくつも重なってしま ( それでもアレルギーの出る方は「さて、 どうにもならなくなった。 いくら宮武さんでも、これはちょっとむ よいよ銀河旅行だリ」の節までとんで下さい ) 今月もまた見送ることにしよう。 りたろう。 蛇足ながら、あちらの、 / ード TJ 作家と 今月は数式でせまる。 結局、時間の問題を図にするには、グラ ・ホールドマンという人も クラフというのは なぜかというと、もともと相対論の物理フしか方法がない。で、・ おもしろい。『マインドブリッジ』を読ん的意味というのは、数式ぬきに理解するこ要するに数値であらわした数式なのであ
返事は、それまでのくりかえしだった。 ーラインが一一一口う。 ・ほそ・ほそとした声でラハ オイラーが汎関数と停留関数を述べ、ワイエルシ、トラスが″十 「どうもよくわからんが、チュオンⅡリンはいつのまにゲ・ゴルヒ 分んであることを強調した。 と手をくんだのだろう ? 」 ーラインは大きくうなすいて質問をつづけた。 フェイバーは会議卓のほうをうかがいながら声をひそめて、 「 ( ール室長の後継者を自認するチ、オンⅡリンが、ゲ・ゴルヒを「よくわかりました。たた、その″変分法。とやらを実行するに 協力者にすることの利を悟って、甘い言葉をささやいているらしは、道具が必要でしよう。何をお使いになるのですかな ? 」 い。たぶん地球到着後の何かだろう。あるいは第二の遠征でのポス表情を変えなかった ( ール室長がはじめて眉をしかめた。 ワイエルシュトラスはにやりとして、後方にひかえていた部下を トか、いや、すでに何かゴルヒの歓心を買うものを提供したのかも 手まねきした。 しれん : : : 」 その部下は、なにやら箱からとり出すと、それを会議卓の上に置 「で、チュオンⅡリンとしては何がなんでもアンドロイド部を成功 させたいわけだな : : : 」 眼のさめるような白銀色の小型ロポットだった。ワイエルシュト 「ゲ・ゴルヒも同じことだ」 ラスは言った。 「しかし、″変分法″でいったい何ができるのだ ? 」 「嫌味だけは言っておく必要がある。議事録にのこるから反対はし「 " 変分ロポット。です。役に立ちますよ」 事務部長のフェイバーが、おれにも発言させろーーというように ないていどに : ーラインの横腹をつつくと、立ちあがった。 ーラインはうな こう言って眼を細めてみせるフェイバー イ ( し、カ、カ 「数学ロポットは使い手が重要だときいています。そのよ、 ずきかえした。 なのですか ? 」 「わたしが一応質問する形をとっておこう : : : 」 ワイエルシュトラスは気負った顔つきで、部下に合図した。 ワイ = ルシ、トラスの " 十分条件。説明の長広舌がおわるのを待チ、オン日リンとゲ・ゴルヒがにやにやした。 ドアが開いて隣の小部屋からひとりの男があらわれたとき、出席 って、ラハーラインが発言した。 「記録保存の意味でご質問しますが、 " 変分法。とはどのようなも者たちはどよめき、それからしんとな 0 た。 ガポールらは顏をひきつらせていた。 のなのですか ? ー 失笑する部長たちもいたが、オイラーとワイ = ルシ、トラスは生あらわれたのは、前回の事件で殉職したはずの構成理論部の切れ 真面目な顔つきで答えた。事務部門の部長を敵にまわすことの恐ろ者フアドル・ザビエル課長だったのた。 「復活したのか」 しさをよく知っているのだ。 249
〇読者のつくるべー ) ン 0 , リ目タース・ストリイ 選・評 豊田有恒 まっさきに、お詫びしなければいけないのヒ、、 上へのような月は、決めるのに苦労する。そ参考作「見果てぬ夢」愛原政人 ( 三鷹市 ) は、先月号、原稿ができなかったこと。まっ こで、参考作として掲載する。 これはまた巧く書けているのだが、それだ たく、編集部と読者に、なんといって、お詫参考作「惚薬」 波多野伸幸 ( 広島市 ) けの感じで、刺戟がない。どこが悪いのかよく びしたらいいか判らない。取材先の下北半島 t-n & 作家になりたいと言うだけあって、 判らない。 このままで充分、通用するのだが、 で書きあげる予定でいたところ、風邪でダウまとまりは悪くない。そっなく書けていると なんとなく底が浅いような気もしてしまう。 ン。なんのために、下北くんだりまで行った評するべきだろう。これまでの作品の努力もこの水準の作品が、何本も書けるようなら、 のだろう ? こんなことなら、自宅のある下。フラスした意味で、掲載することにする。すごいものなのだが。かといって、苦手のニ ( 世田谷区下北沢 ) にいればよかった。 社のショート・ショート集にも、応募してみューウェー・フ調ではない。選者の好みの傾向。 今月の選評は、お詫びと愚痴と弁解から始るといし 。星さんが、どう評価するか判らな「任務完了」 谷口由美 ( 長野県 ) まってしまった。 いが、なるべく売込みの間ロは、広げておく スターシッ。フ・テーマというのも珍らし 清書を呼びかけたところ、きれいな原稿がほうがいい。他に、 co & 振興のため、ひと い。彼が生まれ育った場所が、宇宙船の中だ 増えた。それはそれで、ありがたいのだが、 つのプランがあるのだが、今は言えない。そったという設定を、途中まで伏せているあた 清書は自分の書いた原稿の再吟味のためであのうち発表する。 りも苦しい。それとは別にオチはあるのだ る。そのうえで不満がでたら、線で消して脇参考作「。フラス研究」 力いかにも説 , 得力不足。巧く書けていない へ書きなおしてもかまわない。小熊健之くん 広瀬あづみ ( 川崎市 ) からだ。少女漫画の原作と考えれば、悪 のように、貼りかえたりしなくてもよい。も インパクトは、こっちのほうが強烈だっくないアイデアなのだが。 っとも読みずらい秋葉すぐる君の字にも、もた。が、最初の夫婦の会話など、稚拙そのも「つまはじき」 宮村静男 ( 東京都 ) う慣れた。問題は、内容なのである。 ので、入選にはできそうもなかった。宿母地ロオチの & とは珍し、 しノ、刀・トタ 今月は、なんとしても判定がくだせない。 ( ホスト・ マザー ) というテーマは珍しい ハタ・タッチに書くには、文章が硬い。三十 最近は、レベルアツ。フしてきたので、入選作もっと巧ければ、はるかに恐い話に仕上がっ二歳という年齢なら、もっと軽妙にいけるの を出すようにしているのだが、ドングリの背ていたはずなのだが残念だ。 ではないだろうか ? この文体は、短篇むき ロ 8
砂は二人の足元を河のように流れ、《記惞の箱》をおおいかくし けたかったからだと思うわ」 ていった。もう、二度と地上に現れ出ることはないのであろう。 老ドラムはひとり、深くうなずいた。 「昔のなかまたちの顔を見たかね」 「見たのかね ? 《城塞》の歴史を」 「見ました。人類は、なぜあんな重い歴史を背負わなければならな老ドラムはやさしくたずねた。 「見たわ。私もいました。その中に。行程区主任。あなたは、保安 かったんでしよう ? 」 老ドラムは黙したまま肩に積った砂を払い落した。それは、積っ部長の ( マを知っていますか ? 遠い昔のハマを」 「知っていたような気がする。もう記憶のひだの中に遠く薄れてし た歳月を払い落すかのようだった。 「大連邦は歴史の結末を、そこへやって来る誰かに頼みたかったのまっているが」 「リリエトも。それから、あの人も」 でしよう」 エト。最高評議会の幹部だった男だ。わしとは、昔、ライ 「第一委員。その誰かとは、あなた自身なのだ。誰でもよいという「リ丿 ルだったものだ。何事につけても。彼は歴史の変化の中に消え、わ わけではなく、あなたでなければならないのだよ」 しはこうして残った。まてよ。第一委員。あの人というのは ? 」 「そうでしようか」 「そうだ。わしも第一委員と前後して望楼を出た。わしの見たもの「私、あの人が何という名だったのか、覚えていないんです」 は、さえぎるものもない砂の海だ。戦いの跡、敗北の跡、減亡の痕「みんな昔のことさ」 「あの人とは、ずいぶん長いこと、一緒に暮していたのですよ」 跡だけが私の見たもののすべてだ。わしに《城塞》の歴史は無縁な 日頃、わしはそう思「人はみな昔を忘れてゆくのだ。覚えていたら、かえってたまらな のだ。人類の興亡もわしとは何の関係もない。 いだろう」 っているからなのだろう。《城塞》から歴史をゆだねられるには、 わしは失格者なのだ。第一委員。だからこそ、わしには何も見え 「あの人は、私を見なかったわ」 ず、あなたにはすべてが目の当りに見えたのだ」 フサの声音には哀切の響があった。 「《記億の箱》は私の為に用意されたものだったのですね」 「過去のその人物にとって、あなたは必要の無い人だったのだろ 「そのとおりだ」 「私は何をしなければいけないのですか ? 」 「違うわ。その反対だったはすです。でも、あの人は私を棄てて、 「《城塞》の意味を背負うことだ」 行ってしまったのですよ。遠い所へ。私の手の届かない遠い所へ」 「その人があなたを棄てたのではなく、あなたがその人を棄てたの 「《城塞》の意味、とは何ですか ? 」 「わかっているはずだ」 ではないかね」 老ドラムのほほに暗い苦渋の色が翳った。 「違うわ。でも、そうかもしれない。たぶん、そうなのでしよう」 0 3
「推進システムを作動させてみたのだろうか : 「・・ウィーラーの考古物理学を想起しての疑念なのだが : : : 」 「試みはあったらしい。しかし、いずれにせよ・フラックホールのポ べイトマンの額から汗がひき、両頬がけいれんした。 テンシャルにうちかつような推力が、この船にあるはずはない。ま そのとき、談話室のドアをノックする音がきこえた。しやがんた さにこれは″悪魔″のしわざだよ」 まま天井をみつめていた助手のガモフが、あわててドアをあけた。 「いや、この・フラックホールとホワイトホールのペアは、人工のも あらわれたのは、べイトマンと同じく司令室スタッフのひとりで ネグシャリスト のだ。原始宇宙の知性の創造物だ。″悪魔″のような非正則性の存ある、情報総合学者のニールス・ヘンリック・アーベルだった。 在が巣くうはずはない」 アー・ヘルはせきこんだ声で言った。 「現代数学は″悪魔。をモデル化できる。きみの専門の考古数学と「きいたかね、きみたち。 ″トンネル″の内壁面から奇妙な物体が ちがってね : : : 」 とびだし、われわれの船に接近しているそうだ。質量エネルギー べイトマンは挑発をうけたと感じたらしく、ロをとがらせた。しテンソルはたいしたことはないようだが、油断はできん」 かしコイズミは、表情をくずさず、あいかわらずの低い声で言っ アーベルは色白でエネルギッシ = な秀才タイプだが、やはり今度 の事件ではそうとうにあわてているらしい。ふだんみせる流れるよ 「時間的な制約はないのだろうか、その″トンネル″には ? 」 うな演説調のしゃべりかたではない。 「本来なら、二地球日、すなわち四八時間で脱出することができる「不吉な現象た。いそがねばならん。仮説どころではない・ はずだ。しかしこのぶんでは : : : 」 アー・ヘルに影響されたらしいペイトマンが混乱した言葉を吐い 「いや、そういう意味ではない。長くとどまることによって『オロ モルフ号』の存在が危くなることはないのか という意味た」 「ぼくの得た情報では、こういうことだ」 「きみは、何か不安を感じているのだな ? 」 アーベルはポードにパターンを描き、あわたたしく説明をはじめ べイトマンはコイズミを見つめた。コイズミにとってはもっとも 対話のしやすいこのライスルは、コイズミの語調からそれを察知し その説明をききながらコイズミは、談話室端末から自分の専用の たのた。 情報処理装置の稼動を開始させた。 コイズミはとぎれとぎれの話しかたで言った。 おろおろしていたガモフも、背中に電流でも流されたように、眼 「停船しているあいだに、 ″ピンチ効果″が生じて、 ″トンネル を見ひらいて動きだした。 にくびれができ , ーーっまり直径が部分的にちちんでーー、・わが『オロ いよいよ、ジロウ・コイズミがその考古数学者としての潜在力を モルフ号』が圧壊されるのではないか と」 発揮しはじめたのた。 - 」 0 242
のあったことを物語っています」 映しだすスクリーンだった。 「うむーー」 ペイトマンはそこで、ホワイトホールから自由上昇する『オロモ 「で、そのつぎの信号ビームの集東ですが、これは、われわれに勝 ルフ号』の群が、可付番無限の列となって蝟集するのを見た。 ( ール室長のデスクのチャイムが鳴り、ダランベルト総司令官の利をもたらすものと信じます」 声がきこえた。 べイトマンはハール室長のそでにすがらんばかりにし、声をはり 「しばらく待っているように」 上げた。 ハール室長はこう言いおいてへやを出た。 「信号ビームのひとつひとつには、『オロモルフ号』のすべてとい どうやら、幹部作戦会議が招集されたようだった。 っていい情報がふくまれています。そして、そのビームの数が可付 ペイトマンにとっては、長い、死んだ時間だった。 やがてもど「てきた ( ール室長は、べイト「ンを無視して、スク番無限個である以上、そのビームが集東した地点での集東された " 状態の数。は、連続無物個存在するはずです。可付番無限の無限 リーンをみつめた。 アレフワン ・ヘキ やがて、スクリーンが輝いた。可付番無限の点列をなす『オロモを基礎とした巾集合として、連続無限の無限ができるからです ! 」 いっせいに、信号ビームが発信されたので ルフ号』のすべてから、 ハール室長の顔に、かすかに、笑みがうかんだ。 ある。 べイトマンはさらに勢いこんだ。 おどろくべき量の情報を含んだビームは、地球の近傍で集東し 十ロモル 「ご承知のとおり、有限の点列または可付番無限の点列では、正則 性は成立しません。いや、メロモルフィックですら、ありませ へやの外で、駈ぎがはじまった。 ; 、、ール室長に面会を求めてきているらしん。複素関数論的な徴分は拒絶され、ルべック積分ならともかく 色を失った部長たちカノ も丿ーマン積分では役に立たないからです。しかし、連続無限と なれば、話はちがいます。それは、考古数学的な意味で、解析可能 ハール室長はゆっくりと立ち上がりながら言った。 なのです。徴分可能なのです。微分が実在の意味をもつのです。す 「いまの現象について、なにか解釈ができるかね ? 」 なわち、オロモルフなのです ! 」 べイトマンは勢いこんだ。 「可付番無限の『オロモルフ号』が出現したのは、むろん、ホワイ「きみのいうとおりになっているよ、べイトマンくん」 ハール室長はスクリ】ンを指さした。 トホールを利用したワープ航法の不完全性によるものでしよう。ケ べイトマンはおどろいて、視線をハール室長の顔からスクリーン ースの中のふたりの姿が消えたという話をききましたが、そのこと は、停滞からの脱出のさいに、ふたたび多重な異次元との挾重接触へとうっした。 266