マルコ・ポーロ - みる会図書館


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1. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

ローダンは一メートルしかないこのネズ、 ーを左手でぐ 沸きたっ赤色が消え失せた。それとともに、その中でたたよって いた巨大な分子も。もっとも分子とは言っても、そんな風に見えていと引っぱりあげ、かれを自分の胸に押しつけ、妙に落ち着いた調 いたたけのことたが。それらのなんの変哲もなく見える形の一つ一子で説明を始めた。こういった事態が発生した瞬間に、ローダンは いつもそんな風な落ち着きを見せるのだった。 つがじつは宇宙なのだということは、宇宙船の乗組員の一人一人が 「高エネルギー室へやってくれ、本船に設置された転移走査機がい グルエルフィン島宇宙に向かう時からすでに知っていた。 ダッカー飛行ーーーすなわち、テラの概念を使って一一一口えば″五次元まそこで作動を中断させられているんた。急いでくれ、ちび。アト 定数と六次元定数の中性化による物質転送〃 が、突然打ち切らラン、きみはラス・ツ。ハイと一縉にあとから来てくれ」 れたのだった。 グッキーとローダンが中央管制室から姿を消す前に、アルコン人 のアトランは、ペリーが右手にいつでも発射できるようになった銃 《マルコ・ポーロ》はアインシタイン通常空間にもどった。ロー ダンは巨大なパ / ラマ・ギャラリーのスクリーンに背を向けた。そを握っていることに気づいた。 テレポーターのツバイもまた、中央管制室に姿を現わした。それ のためかれは、《マルコ・ポーロ》が期待どおりに銀河系のすぐ手 工モチオ 前にまで来ていなくて、島宇宙と島宇宙の間の荒涼としたわびしい は一瞬のうちのできごとだったが、い つぼうその間に情動航宙士の 地域のまったた中にいるということに気づかなかった。 メントロ・コズムは自分一人で、《マルコ・ポーロ》のもっとも重 ZCO 四五九四島宇宙も、人類の故郷である銀河系も、すぐに肉要な機械設備類の作動を非常スイッチによって止める決心をしてい 眼では見わけられなかった。スクリーンの上で輝いているのは、無た。それは最高の危機的瞬間にのみ許されることだった。 数の光の点と乳白色の星群だけだ。 「大事をとるにこしたことはないさ」と、コズムは説明した。かれ はまったく落ち着きはらっていた。 「もうすでに妨害活動が行なわ 宇宙船の前には、広大で何もない間宇宙空間が黒々と広がってい る。 れているのだとしても、少なくともそれはいま作動している原子力 発電機のところではないたろう」 アトランが跳びあがった。かれはうろたえて、後ろのスクリーン をのそきこんだ。 ローダンはその前からとっくに行動に移っていた。アトランが情 況を把握し、自分の光線銃を腰ポケットから引き抜き、安全装置を ローダンとグッキーは、ウルトラ・エネルギー転移室で物質化し はずした時、ローダンの目の前にはちらちらと輝く光のま・ほろしの た。釣り鐘形につくられたホールは五十センチの厚さの頑丈なユン ようなものが現われた。ほんの一瞬ののちには、グッキーがテレポケロ = ウム日テルコ = ット鋼製の壁によって、その隣に設置された ーテーションを終えて、物質化していた。 六次元エンジンの本体から遮断されていた。 「どこへ行きます ? 」 無線によるダッカー ・パルス伝達機は、壁の受信機の上の六次元

2. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

工モ十オ コズム少佐 《マルコ・ポーロ》の第二情動将校であるメントロ は、いつでも操作に取りかかれるような状態で、第三操作席に坐っ ている。かれの二人の同僚と同じように、かれもゼルト・キャツ。フ をかぶっていた。このヤャツ。フのイン。ハルス走査機はテレ。ハスの命 「きみの転移走査機は、行儀よくしているかね ? 」 工学博士であり、《マルコ・ポー》の機関長であるネムス・カ令を与える思考波を受信し、それを転送し、しかるべき装置を反応 させるのだ。 ヴァルディ中佐が、笑って答えた。 この驚くべき。フロセスは、《同時情動Ⅱ反射トランスミッショ 「しつけのよい子供たちのようであります、サー。すべて、順調で す。もうこれ以上、めんどうなことを覚悟しなければならないとはン》と呼ばれていた。反応が速いことで有名な ( ルターやエアトル 工そチオ ーザーでさえも、思考波の速さで行なわれるこれらの情動航宙士た 思われません。それにそんなことは、ダッカー・ゾーンの内側では ちのスビードには一度も近づくことができなかった。 望ましくありません。以上であります、サー」 アトランは自分の操作席をぐるりと回し、あらためて。ハノラマ・ 丿】・ロ 1 ダンは、テレビ電話のスイッチを切った。カヴァル ギャラリーの大スクリーンを眺めた。 ディの肉づきのいい顔が色あせて消えていく。 0 「たいした男だ」と、アトランが認めた。彼は星間連合機構の提その外には、すべてと無があった。揺れ動き煮えたぎる赤黒い空 そして、その中を漂っているように見える巨大な分子の群れ 督。ローダンと並んで、超弩級戦闘母艦《マルコ・ポーこの副艦 これこそは、多次元空間の目に見える部分であり、今まで数字 長用の肘掛け椅子に腰をおろしている。艦は銀河系へもどる途中だ の上でごく曖昧にしか把握することができなかったものなのた。 アトランが知っていたことといえば、《マルコ・ポーロ》が光の 「できる男だよ ! 」と、ロ 1 ダンが言いなおした。「ほめる言葉を コンティスウム 数十億倍の速さで連続空間の中を突切っているということだけだっ 惜しんではいけないな」 コンティスウム アトランは額にしわをよせた。そして、テラナーの超弩級艦の広た。この連続空間は、おなじみの理解可能なアインシ、タイン空間 とはもはやなんのかかわりもないものなのだ。 広とした中央管制室をじっと見まわした。 移走査機という装置の働きぐあい 五次元と六次元の間のダッカー・ゾーンを通り抜ける際のいわゆ だから、その時作動していた屯一 コモチオ る″架橋″転移の間じゅう、三人の情動航宙士たちは皆、自分の操についてローダンが質問したのも、もっともなことたった。この装 作席についていた。 置はきわめて重要な部品を組み合わせてつくりあげた六次元推進機 工モチオ エラス・コロム 日ハン大佐は、艦を操縦していた。第一情動航宙関であり、これを使えば島宇宙と島宇宙の間の厖大な距離もあっと いう間に飛び越えられるのだ。 将校であるセンコ・アーラットは、艦長の精神レベルで受けいれら この技術の新たな発展にとって重要なのは、《マルコ・ポ れた操縦の経過を監視していた。 5

3. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

からね。この《マルコ・ポーロ》でさえ、ほとんど破壊されそうだゾムと ( ルトム・マニスが指揮にあたっている。イホ・トロトは中 央計算センターにいる。かれは、飛行物体の大群の予想されるコー ったということは、きみもわかっているだろう」 スを計算で確かめようとしているところだ。連中はどうやら、われ 「了解しました、サー。通信終わります」 「特別な指示はありますか、サー ? 」と、メントロ・コズムが問し われの銀河の領土を横切るつもりらしいな。連中がなぜそんなこと をもくろんでいるのか、いずれにせよわたしに聞いたってためたけ あわせてきた。 ローダンは首を振った。かれはいぜんとしてスクリーンを見つめれどね」 ていたのだ。スクリーンには、無数の緑色の光の点が認められた。 《マルコ・ポーロ》はいぜんとして、光速の五十パーセントのスビ その時、あらたに測定の結果が報告された。 ードで太陽標識星ヒュべロンⅡガル南を目指して飛んでいた。 「ふざけていると思われるかもしれませんが、本当なんです、サ ローダンが決断をくだす前に、もう一度測定結果の報告がはいっ 。この飛行物体の大群の内部には、みずから光を放っ太陽がいくてきた。 つかあるのです」 「こちら、コズ、、 スクリーン上に宇宙船を一隻とらえました。至 「気違いざただ ! 」 近距離です、ほんの二十光時ほどしか離れていません。およそわれ 「測定の結果を申し上げたまでです。サー、あそこでは太陽がいつわれと同じス。ヒードで、やはりだいたい同じコースをとっていま しょに飛行しているんです ! 」 す。たた一隻たけ狐立して、飛行物体の大群からは遠く離れていま アトランは一番身近にあった座席に腰をおろした。このアルコンす。ひょっとすると、先に派遣された偵察船でしようか ? 超光速 反射走査機の輪郭図像は奇妙なものです。この飛行物体の形は、地 人の額には、大きなこぶができていた。 「こいつはまたまた、たいしたことになったわい」と、かれが言っ球の海の生物に似ています」 た。「やっとの思いで地獄のようなグルエルフィン島宇宙から逃げ「どんな生物に似ているんだね ? 」 「どうもエイに似ているみたいです、サー 。こたし、こいつは針を だして、どうにかこうにか二人の破壊工作者のもくろみをぶつつぶ したと思ったらーー今度は、銀河系を目の前にして、実際に三十八先にして飛んでいますがね。その大きさの正確なところは、まだっ 万もの異星からの飛行物体がわれわれの目と鼻の先を飛んでいくんきとめることができません。しかし、このエイはいずれにせよ《マ ルコ・ポーロ》よりはかなり小さいようです。およそ巡洋艦ぐらい だから。こいつはすてきだね ? 」 の大ぎさでしよう」 「いまはどんな種類の皮肉にせよ、言っている時ではないな」と、 ローダンはほんの一瞬のうちに決断を下していた。 ローダンがかれにくってかかった。「負傷者たちは、手当てを受け ているのかね ? 」 「全員に告ぐ。われわれは異星の宇宙船のほうに向かって飛んでい 「もちろんだよ。それに関しては、エアトルーザーのトロナル・カる。わたしは少なくとも、おおよそでもわれわれの相手が何者なの 田 6

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らもぎ離し、自分がその席についた。グッキーは、クアサのようにい敵を前に、逃げたしてしまったのだった。 アトランは振りかえった。誰かがかれの肩を軽くたたいたのだ。 おとなしくしていない男たちを麻痺銃で撃った。 ドロ・クアサ少佐が立っていた。かれの目はふ かれの後ろには、ペ 位置探知ポジトロニクスの大走査スクリーンが明るく、はっきり と輝いていた。ェイ型宇宙船の輪郭は、はっきり捉えることができたたび、澄んだ輝きを取りもどしていた。 「サー、失礼ですが、ほかの人に自分の仕事をやられるのは、どう た。照準は合っている。全自動化された装置は、異星の宇宙船のコ トランスフォーム砲の一斉射撃をし ースのどんなかすかな変化でもきちんと追い、計算をし、その結果も好きじゃないんです。サー いったいぜんたい、何が起こったっていうんです ? 」 ましたねー を大砲に指示していたのだ。 アトランは果てしのない疲労を感じた。クアサがかれを席から助 アトランが右舷側の緑のしるしのついたボタンを押した。トラン スフォーム砲を発射したのだ。 け起こした。そして、心配そうにアルコン人の提督を見つめた。 《マルコ・ポーロ》はおそるべき轟音とともに揺り動かされ、砲撃「クアサ、きみはもう忘れたのかね ? きみは馬鹿みたいに砲撃コ しもて ントロール・デスクの前に坐って、ボタンやスイッチが何を意味す の下手のほうに押しやられた。超光速で発射されたトランスフォー ム砲の砲弾が、一瞬のうちに標的の前や、上や、横で物質化し、そるのかもわからなくなっていたんだそ」 こで発火した。 少佐は信しられないように、首を振った。 つまり、あの : それそれ Z 火薬にして四兆トンに相当する威力の砲弾が三十「しかし、サー アトランはがつくりして、ク 二発、一瞬のうちに原子核反応を開始した。ウルトラ・ブルーの炎「もういし 、よ、お若いの、もういい 「もうほかの連中も、理性を取りもどして を上げる太陽が生まれた。それはあまりに急速に拡散したので、アアサに話をやめさせた。 トランは思わず座席の肘掛けにしがみついたほどだ。 いるだろうな。わたしがあの異星の宇宙船を撃墜していなかった 異星の宇宙船は消減していた。これたけの巨大な力には、やはりら、《マルコ・ポーロ》はあいかわらず危険な子供たちでいつばい 耐えられなかったのた。 の幼稚園のままたったろうよ。いや、いまはわたしをそっとしてお ちょうどこの頃には、ローダンも自分の操作を終えていた。機関いてくれ。全部、ローダンから個人的に聞けるだろうから。麻痺し ・ツドに寝かしてやってくれ。かれらもす ているきみの部下たちをへ はふたたび、コズムの情動命令に反応するようになっている。アト ぐに意識をとりもどすだろう。わかるだろう、子供たちが遊びに夢 ランの耳には、エンジンの轟音が聞こえた。一瞬の間、圧力負荷と 中になってはしゃぎすぎた時には、なんらかの手段をこうじなけれ して数の力がかかったが、それから吸収装置が働きはじめた。 コズムは逃走を始めた ! かれはこの謎めいた敵と、その奇妙なばならんのだよ。こういう状況になると、お尻を叩くたけではあん まり役に立たないからね」 武器の威力を回避したのだ。 こうして、太陽系艦隊最強の宇宙船は、まったく正体のわからな 円 7

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ローダンの命令は迅速たった。自分の任務を完全に遂行しおえた に過負荷になっています」 戸ーダンは自分の椅子の肘掛けにすがりついた。数秒の間、かれか、あるいはほとんどやりおえてしまったロポ〉ト部隊が持ち場か は考えあぐねていたが、やがてついに重い内容の質問を口に出しらはずされた。そのすぐ後にそのロポットたちは高速巡洋艦と軽巡 こ 0 の格納庫に到着した。 : 、船から船へとつぎ 力を持っミュータントカ 二人のテレポート有 「太陽系からの・ 0 ・もはいってくるかね ? 地球からは ? われわれは、もうほんの九千五百光年の距離のところにいるのだかつぎに飛び移った。かれらはそのたびごとに二体のロポットを連 ら、テラニアの大送信機からの信号はここに届いていてもいいはずれ、そのロポットが麻痺銃を持って事態の処理にあたった。 しだいに情況は落ち着いていった。それはなまやさしいことでは テラは沈黙してい 、え、・ O ・ ()n は届いていません、サー なかっこ。なにしろ、ほとんど八千人にもの・ほる乗組員たちがいて ます。しかしその一方では、太陽系艦隊の多くの部隊が打電してき しかもかれらは数多くのステーションや大きな艦載船の持ち場 ているもようです。サー、これは恐るべきことですよ。たったいまにそれぞれついていたわけたがーーそのかれらを安全な場所に移し たり、あるいはかれらが途方もない惨事を引き起こすことを防がね も、誰かが自殺すると伝えてきました」 しばらくすると、情況はまた変化していた。アトランが報告してばならなかったからだ。 五時間が経過し、痴呆化した最後の一人が安全な場所に運びこま きた。 「わたしはこの砲撃管制センターにいても無駄みたいたよ。ここにれた。ほとんど二千人にもの・ほる乗組員を麻痺させねばならなかっ た。船内クリニックの収容能力はあまりにも小さい。そこでかれら は普通の武器をもって戦えるような相手など、まったくいないんだ からね。カスカルとミータントたちは、高速巡洋艦や軽巡の乗組は医務ロポットたちによ 0 て、ホールや船室に寝かされた。 そのつぎの仕事は、これらの部屋に安全対策をほどこして、麻痺 員たちに手をやいているよ。わたしは : 落雷のような恐るべき衝撃が、《マルコ・ポーロ》の球型の船体した男たちがふたたび目を覚ましても災害を引き起こすことができ ないようにすることたった。 を揺さぶった。それにひきつづいて、カスカルが報告してきた。か 八時間の後に、《マルコ・ポーロ》の数少ない免疫をもった男た れは重い戦闘服に身をつつみ、銃を手に持っている。 「助けてください。われわれのカではどうしようもありません。戦ちは勝利をおさめた。これは苦い勝利だった。かれらは中央管制室 - 闘機のパイロットの一人が、ライトニングを全速で発進させてしまに集まった。 ミュータントのグッキーや、ラス・ツ・ハイ、フェルマ ったのです。かれはハッチの出人り口をぶち破り、爆発的な減圧を 0 ーク・カ 2 引き起こしてしまいました。パイロットは絶望的です。どうかこちド、メルコシタクヴォリアンは疲れぎっていた。ジョ スカル、アラスカ・サエデラエレ、ロード・ツヴィ・フス、トナル らに援軍を送ってください」

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し、自分はローダンのべッドに寝っころがった。 跳躍を試してみようと決めたのたった。言 唯一人として、宇宙艦首脳 「この男とはじっさい、道理にかなった話などできないね」と言っ部のこの提案に反対する者はなかった。 て、かれはにやにやした。「まあいいさ、テラナーよ、ヴァー ローダンの責任感は、かってないほどに張りつめていた。どんな ガーの修理はいっ終わるのかね ? 」 に危険な企てを自分が引き受けているのか、かれにははっきりとわ かっていたのた。 4 それに加えて、《マルコ・ポーロ》に乗り組んでいるすべての人 間がじっさいに個人として自分の意見を一一一口えるほど、はっきりと情 裁判が行なわれている間に、 《マルコ・ポーロ》の速度は光速の況を把握しているのか、という厄介な問題も生じてきた。少なくと 十分の一にまで落とされた。ローダンが、アインシ = タイン通常空も七千人の乗組員たちはかれの提案に盲目的に調子を合わせ、それ 間の内部での好ましくない膨張効果を避けようとしたからた。 ゆえに「イ〒ス」という票を投したのではないか ローダンには ほんの一時間ほど前に、投票の結果が公示されたところたった。 なんたかそんな風に思えてならなかった。 乗組員は誰でも、命にかかわるような重要な問題の決定に参加する アトランは、自分の友人口ーダンの内側でどんなことが起こって 権利を持っていたのだ。 いるのかうすうす感じていた。かれはふたたび、ローダンの隣の副 問題設定はこういうことだった。この宇宙艦をグルエルフィン島艦長席に腰をおろしていた。 宇宙にもどして、そこで。フラリツツ転移走査機を完全に修理するこ 一分ほど前に《マルコ・ポーロ》は航行を開始したところたっ とを試みるか、それともたたちに故郷の銀河系への帰路につくべき た。通常光速インパルス推進機関の轟きが、会話の妨げになってい る。皆は防護用宇宙服をふたたび身に着けていた。無線通信装置は 投票の結果は、疑う余地のないほどはっきりしたものたった。乗確実に働いていた。よそのセクションからの送信画像が届いた時に 組員たちのうちの誰一人として、 ZtO 四五九四島宇宙をふたたびは、信号音が自動的に ( ルメットのスビーカーに転送されるのたっ 訪ねたいと主張するような者はいなかったのた。その理由も、もっ ともなことたった。 中央機関管理室では、機関長がいつもどおり正確に操縦し、観察 ヴァーリンガーのチームによって修理され、新たに調整しなおさを続けていた。ダッカー空間への突人がすぐ目前に迫っていた。八 れた転移走査機がそもそもちゃんと作動するのならば、それによっ千人の男たちは、自分たちがどんな危険を身に引き受けることにな て越えていくべき距離がどのようなものであっても大差はなかったるのか、知っていた。なんといっても銀河系はまた二千四百万光年 のだ。転移走査機は申し分なく働くか、あるいはまったく役に立たのかなたにあるのた。 コロムⅡ ないかのどちらかだ。そこで皆は、一か八か銀河系までのダッカー ( ン大佐がダッカー空間への突人のための操縦を開始し け 8

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コロムⅡ 経っているのか、知りたいものた。いずれにせよ″時間膨張〃の概 ハン大佐 この中背の男ー・ー - ・・は、彼告たちに対しては 念は広く知られているものたからね、そうたろう ? 少なくとも近無慈悲な検察官のように見えた。コロムⅡ , ンの頭脳を過少評価す 6 似値は出すように心がけてくれたまえ」 ることはできなかった。 ローダンはたち去った。二十二人の男たちがおろおろしたまま、 しかし、それにもかかわらす数理論理学者のビーヒンガー教授は その場に残った。 傑出した知的能力を持っており、コロムい / ンにとっては手ごわい 敵であることがわかった。 っ 0 《マルコ・ポーロ》はあいかわらず、宇宙間の真空空間を滑るよう に自由落下している。専門家たちの見解はすでに提出されていた。 宇宙飛行をするすべてのテラナーにとって、艦内裁判は太陽系議驚くべきことに被告たちは二人とも、自分の罪を正直に認めた。 会によって可決された軍法と同様におよそ千二百年前からおなじみかれらは冷静に、どういう結果になるかはっきりと意識しながら破 のものだった。 壊活動をしたというのだ。そうだとすればかれらは、うまくいって すべての艦長には、艦内裁判を招集し、その裁判長をつとめ、罪も太陽系帝国の流刑惑星での終身強制労働を覚悟しなければならな を犯した乗組員に判決を下す権限が与えられていた。法律によれば 艦内裁判は五人のメイ、 しかしそれでも軍法第二十五、艦隊法 < ーⅢ条が適用された場合 、ノーから構成されることになっていた。被告 には、ロポット部隊による処刑はまぬがれなかった。第一執政官あ は弁護士を一人、自由に立てることができた。原告の役割は、宇宙 船の士官の一人がっとめることになっていた。法律的な知識も必要ての恩赦嘆願書たけが、その刑を軽減して終身強制労働に変えるこ とができた。 破壊工作者リコド・ 太陽系帝国の市民法では死刑はなくなっていたが、それとは反対 工ズムラルとテルゾ・ホスプチャンの裁判の こある宇宙艦内では死刑を適用することが可能たった。 場合、《マルコ・ポーロ》の艦長であるコロムⅡ ( ン大佐が起訴をに戦闘状態冫 リック・ビーヒンガ 代行した。弁護士には数理論理学部門の長、エ しかしそれが許されるのは、犯罪行為がすべての乗組員の生命や、 ー教授が任命された。 人類の生存、そして当該の宇宙艦を明らかに危険に陥れた時たけた。 太陽系帝国の第一執政官、ペリ いまがちょうどそのケースたった ! 専門の科学者たちが提出し た報告書は、ひどいものたった。《マルコ・ポーロ》に乗った八千 さらに四人の艦内裁判官が、判決をドす際に 0 ーダンを助けるこ人の乗組員の情况は、ほとんど絶望的たというのた。 とになっていた。かれらの決権は、 目長 ) リバたと司 ~ ~ 守のもの 超弩級戦艦《マルコ・ポーロ》が帰路についたのは標準暦で三四 である。 三八年七月十六日のことたった。 いま艦内の時計は、三四三八年七 十フィサー ・ローダンは裁判長に任命され

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キャッチされた数多くの・ 0 ・の一部に目を通してみて、ロ ・カゾムといった、精神を安定化された男たちは、内心の絶望をは ーダンが感じたのは、《マルコ・ポーロ》の艦内などまだ驚くべき 8 つきりとおもてに現わしている。細胞活性胞装置を身につけている ローダンや、アトランや、ヴァーリンガーは自分自身を抑えること良好な状態にあるということだった。そのおかげで、かれは気をと りなおした。太陽系艦隊のほかの艦長たちーーそして、特に宇宙商 に精一杯だった。 工モチオ コロムⅡノ、 、ノ、アーラット、コズムという三人の情動航宙士たち船の船長たちーーは、《マルコ・ポーロ》の場合ほど幸運ではな く、精神を安定化された助手が船内にあまりいないという状態だっ は、その間中も宇宙船の操縦にあたっていた。《マルコ・ポ は依然としてほとんど光速に近いスビードで、目標の太陽を目ざしたのだ。それらの船の混乱はものすごいものたった。特にある一つ の・ 0 ・などは、衝撃的なものだった。 て疾駆している。 痴呆化した乗組員たちは、手あっく保護されている。かれらは特それはある宇宙客船の ( イ。 ( ー無線士からのもので、かれはその 別にプログラムされたロポットたちに保護され、食事を与えられて船でたた一人の白痴化効果に対する免疫をもった人間だったのた。 いるのだ。かれらのうちの多くは、八時間にわたって白痴化操作定かれは自分の持ち場の中央管制室に閉じこもってしまい、打電をす っと続けた。しかし、もちろん誰もかれに救いの手をさしのべるこ 数の作用を受けた後に、ある程度の精神的安定を取りもどしてい とはできなかった。 た。かれらが考えに沈みはじめていることが、見てとれた。 かれの最後の通信が届いたのは、およそ二十分ほど前のことであ もともと非常に高い知能指数を持っていたためにひどくは痴呆化 る。それから、かれは自分の船を爆破してしまった。 しなかった者たちは、助力を申しでた。 《マルコ・ポーロ》の免疫を持った数少ない者たちは、い ロポット部隊長からしかるべき報告を受けとった時、ローダンは その男や女たちに一度チャンスを与えようと、瞬時のうちに決断を集まって坐っていた。科学技術的な要因がふたたび、詳しく検討さ れた。例のエイ型宇宙船が何隻も、宇宙船の大群に先だってずっと 下していた。 ロポットたちは、そのような指令を受け取った。そうして、およ前に銀河系に到着し、そこで準備工作をしたのだろう。それはます そ七百人ほどの乗組員たちが特別な自由を与えられることになっ確実と思われた。ただかれらは銀河系の重力定数を操作しおえたた けで、それ以上のことはしていないようだ。 かれらは完全に痴呆化した者たちのめんどうを見た。かれらは罐フィ 1 ルドライン周波数はふたたび、ちょうど八五二メガカルプ にまで下がっていた。これがどうやら、すべての生物を痴呆化させ 詰めを開け、その中味を暖めなおし、かれらの被保護者たちをそこ るのにちょうどいい周波数らしい に連れていき、食事と飲み物をとらせた。 なんのためにこんなことが行なわれたのかは、あいかわらず不明 高度に専門化した医務ロポットたちが、数多くの骨折や、挫傷 だった。アトランはこれを総攻撃の準備のための手段たと考えた。 や、その他の種類のけがの手当てをした。

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生きている部品を付けくわえたのはきみ自身じゃないか。だからきがロ火をぎった。 「こんなことに驚いてはいられない、諸君 ! こ みは、いまの話に出てきたリニア自動操縦装置も同様に・フラズマのんなことはまだ序のロだ。この調子だと、われわれのたてた救助計 部品を使っているということを当然知っているはずだ。そんな装置画などまったく役に立たなくなってしまうだろう。いまいましいこ に頼ったら、きみたちは破滅してしまうそ。頼むから道理をわきまとだが、こんな様子ではいま地球の暦が何年になっているか、誰に えてくれ、ゴスリング ! 」 もわからんだろうな ? 」 ロポット学者はうなだれてしまった。おしころされたむせび泣き たしかに誰にもわからなかった。ヴァ ーリンガーのような天才で のような声が、ス。ヒーカーから流れだした。 「わたしは諦めますよ。残念ながら、またしてもそちらの言うこと「コロム 日ハン、リニア短縮飛行を一分間行なってくれ。太陽系の のほうが正しいようだ」 中に直行するんだ。アトラン、きみは砲撃管制センターにもどって くれたまえ。できるだけ完璧な戦闘準備態勢をとるんだ。防護スク リーンを組み立ててくれ」 わずか三分後に、《マルコ・ポーロ》はアインシ、タイン通常空 0 間に再突入した。 乗組員たちの白痴化が、ふたたび始まった。宇宙船の前方には、 故郷の太陽系が広がっている。 恐る・〈ぎ惨状だった。 そのしばらく後には、位置探知を通じて最初の恐るべぎ発見がな およそ三万隻にもの・ほる太陽系艦隊の宇宙船が操縦されることも された。組織的に周囲にはりめぐらされていたパラトロン・スクリ なく、宇宙空間を漂っているのだ。それらの宇宙船の通信ステーシ ーンがもはや存在していないのだー ョンは沈黙している。痴呆化した乗組員たちははたしてまだ、脱水 それからまた冥王星ーーーっまり、太陽系の第九惑星ーーーも、消え食料を調理できるのだろうか , ーーそう、ローダンは自問した。場合 てなくなっていた。そのかわりに いまいましいことだがーーー巨によっては何百万、何千万もの太陽系艦隊員が飢え死にしているか 大な残骸の山が見つかった。 もしれない。それだけにますます、《マルコ・ポーロ》の帰還が遅 明らかに、冥王星は爆発してしまったのだ。だが、いったいどうすぎたのではないのかという疑惑が強まった。 して ? そして、何よりも重大なのは、それがいっ起こったのかと誰も、猛烈なス。ヒードで太陽系に向かって飛んでいく大型宇宙船 いうことだ 0 を気にとめなかった。以前だったら、ちょっと考えられないことた 《マルコ・ポーロ》の数少ない免疫を持った者たちはうろたえて、 が。予告もなく飛びこんできた船は、遅くとも海王星ステーション 鮮明な ( イバー立体画像や、光学的把握画像を見つめた。ローダンで停止させられるはずだった。

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ール部が近づいてきたのだ。 て、あの時このご仁によって故障させられたのだー アトランは破壊工作者と開いているハッチをつくづくと眺めた。 ホナドリはちょっとは泰然とした態度を取ろうと努力していた。 それからかれも、自分の光線銃をポケットにもどした。 ローダンの苦笑いはかれに、遠征隊長の心の状態を充分に伝えてい かれはローダンの目を見つめた。 「テラナーなんて、誰一人として信用できないわけだな ? しかし ローダンは前のほうを見つめていた。かれはつぎつぎと部屋には どうも不可解なのは、この二人の人間がどうやって末端管理部にも いってきた科学者たちにも気づかなかった。かれにとって問題たっ ぐりこめたのかということだ。どうしてまた、かれらの精神状態が たのは、《マルコ・ポーロ》の数人のセクション責任者たちだけだ チェックされなかったんたろう ? ったのだ。その中には、ジオフリー・ われわれは《マルコ・ポーロ》 アベル・ヴァ ーリンガー教 の発進の前に何十回もテストを行なったじゃないか」 授、カヴァルディエ学博士、数理論理学部門のチーフであるエリソ ローダンは突然脱力感に襲われ、打ちのめされたように感じた。 ク・ビーヒンガー教授などがいた そして、坐る場所を捜した。かなり先のほうの配電テーブルの前 「さて、こういうことだ。ありとあらゆる危険の中をかいくぐり、 いくつかの折りたたみ式椅子が見つかった。 一隻の。フロトタイプ宇宙船で百万光年も離れた島宇宙を目指して飛 「エズムラルとホス。フチャンがその時から宇宙船の帰路をしやますんでいった者たちがいる、と。それも、人類を恐るべき危険から守 ろうとするためだ。ところがそれから、故郷の地球に帰ろうとした る意図を持っていたなんてことが、どうしてわかるね ? 」 アトランは無愛想に目配せをして、ローダンに話をやめさせた。時に、とっ・せん二人の狂人が現われて機械を破壊し、その機械なし かれは上に滑って登っていく危険防止隔壁にはほとんど注意を払わではこの厖大な距離を越えていくことができなくなってしまったわ なかった。開いた隔壁のところからホナドリ大尉がまっ先に跳びこけだ。わたしは夢でも見ているのかな ? 」 んできた。ローダンとアトランの姿に気づいて、かれは自分の銃を ローダンはあたりを見渡した。誰も答えようとはしない。ヴァ 下に向けた。 リンガーは相当に長いこと、転移走査機のハッチの前に立ってい ローダンはかれに口をきかせなかった。 隣では小さなゾラック・シールド 「この破壊工作者をもう一人のといっしょに中央管制室へ連れてい 反応器ががたがたと騒々しい音 りき・ : ってくれ。いや、どうか質問はしないでくれたまえ。質問をされてを立てている。これは転送カ場のエネルギー供給のための機械た。 も、わたしには答えられないだろう。いまの時点でわたしがはっきこれは、コズムがスイッチを切らなかった数少ない原子力機械の一 つだった。 りと言えるのは、われわれが三四三八年の七月二日になぜ銀河系に 向かって飛びたてなかったのか、ということたけたよ。。フラリツツ 《マルコ・ポーロ》は光速航行をしながら、島宇宙と島宇宙の間の 転移走査機はあの惑星ファース ト・ラヴで故障したわけではなくまったく何もない空間を自由落下していった。 6