つぶやくようにカービイは答えた。声に、抑揚がなかった。 俺たちは轍を追った。 轍は薄かったが、跡切れることはなかった。まっすぐやつらのい 「周囲を捜せ ! 」 た場所に向かうのではなく、迂回して接近している。慎重で周到な右手を振りあげて上体をよじり、俺は怒鳴った。 やり方であり、セオリーにかなっていた。 「どこかにライダ 1 たちがいるはすだ ! 」 弾けるように、四人は散った。俺はまた、積み上げられた。ハイク 薄い轍は、ほどなくやつらの深い轍と合流した。轍は北東に向か をじっと見つめた。 って伸びていた。 追跡をつづけた。 三分と経たないうちに、ヤン・スーが戻ってきた。 「こっちに : トリツ。フ・メーターが三〇を刻み、三三を越えたあたりだった。 遠目の利くカービイが声をあげ、昻奮ぎみに前方を指さした。 ャン・スーはうろたえていた。俺はをホルスターから取り出 俺にはよくわからない。地平近くに何か黒っ。ほいものが、かすかし、一発撃ってカービイたちを集めた。 に見える。 ャン・スーの先導で、四、五〇〇メートル移動した。 スロットルを全開にした。 六五二 O O 六二馬力のエンジンは、他のイクを容易に振り切っ 着くなり、思わず唸った。目を覆い、顔をそむけたくなった。制 動をかけ、をななめにして停めた。 あと数百メートルに迫ったところで、その黒っ。ほいものの正体が だしぬけに、俺の横についたマイクが吐いた。俺もむかっくよう わかった。 な嘔吐をお・ほえた。 半ばスクラツ。フと化した六台の・ ( イクだった。・ ( イクは折り重な眼前、三メートルあまりの地表である。 り、まるで何かの塚のように盛りあがっていた。 手や足が生えていた。そう。まるで雜草のように何本も生えてい 俺は破壊された・ハイクの前でを停めた。 た。手は肘のあたりから、足は膝のすぐ下から、宙に向かって突き 声もない。 フレームには銃弾の跡が残り、シートはズタズタに裂出している。どちらも傷だらけで、乾いた血が茶色くこびりついて けている。むろんタイヤも・ハーストしている。ライダーの姿は、ど こにもない。 そして、そこからさらに一メートルほど離れたところに、頭がひ カービイたちが追いついた。 とつ、半分ほど埋もれて横顔を見せていた。カッと目を見開き、わ 「この・ハイクは : ずかに聞いたロからは黒い舌がだらりと垂れ下がっている。あまり 硬い声で、俺はいた。 にも凄惨で、あまりにもむごたらしい光景た。 「残しといた連中のものです : : : 」 俺はサイドスタンドを立て、そろそろと N から降りた。
アーンの塚があり、そこから三〇メートルほどのところである。 俺の背筋が、ゾクリと冷えた。 近づくにつれ、倒れているのが、・ハイクだけではないことがわか った。その横に黒いつなぎを着た男も、ひとり倒れていた。黒いっ なぎは、やつらの服装と同じだ。 ・ハイクは i-ä 4 0 0 のカスタムだった。俺は確信した。こいつは 一時間以上も走り回ったが、轍は見つからなかった。こちらではやつらのひとりだ。 ないのだろうと思ったが、銃声による合図も、まったくなかった。 用心のため一〇メートルあまりの距離をおいてを停め、組を 腰だめに構えてシートから降りた。 それそれが受け持っセクターは広い。俺はあらためて相当の時間が 四囲に目を配り、足音をひそめて接近する。引を発射してカー かかることを覚悟した。 さらにもう一時間ほど走った。やはり、やつらの通った痕跡は見ビイたちにこのことを知らせようかと思ったが、そいつはあとまわ しにした。まず、この男の生死を確認するのが先だ。 あたらなかった。俺は舌打ちし、唇を噛んだ。そろそろャン・スー が仲間を連れて現場に戻ってくる頃た。陽が西に傾きだしている。 男はびくりとも動かなかった。ヘルメットはかぶっておらず、う 俺はいったん引き返すことにした。なによりもギャスが乏しくなっ伏せだった。額から首筋にかけて、黒い血だまりができている。 っていた。こんなところでギャス欠になっては二進も三進もいかな p-äは、こちらから見て、男の右側にひっくり返っていた。損傷 くなる。 の程度はよくわからないが、フロントウインカーが一個割れ、タン 俺はターンし、六〇キロ前後の速度で、南西へと向かった。 デムシートに積んであった荷物が散らばり、あたり一面に広がって 帰りかけて一〇分も経たないときだった。 いることだけは見てとれた。それと、右の・ハックミラーのステーも 俺の目が、西の地平近くで陽光にきらめく何かを捉えた。石とか曲がっているらしい 水の反射ではない。あれは金属の放っ光だ。 俺はしりじりと進んた。怪しい動きは、どこにも感しられなかっ 俺は反射的にスロットルを開け、シフトアツ。フした。エンジンのた。男にあと二メ 1 トルと近づいたとき、俺はもう大丈夫だと判断 音が、猛々しいものになった。 した。男はここに気絶しているか死んでいるかしていて、仲間は周 囲にいない。 ほ・ほ最高速で、俺はその光をめざした。 七、八〇〇メートル手前で、俺はその金属の光が、転倒した・ ( イ俺はわずかに警戒を緩め、無造作に次の一歩を踏みだした。 クのフェンダーによる照り返したと知った。 それが、いけなかった。 ・ ( イクが一台、曠野の真ん中に転がっているのだ。左手に巨大な俺の視界が、くるりと一回転した。右足に激痛が走った。 掟だ ! 」 俺はギアをローに蹴りこんた。 怒りの唸りを轟かせて、四台の・ハイクは四方に散った。 っ ~ 9
か知りたいと思う。戦闘用意 ! 砲撃管制センターは、念のために よそもの この余所者に狙いをつけていてくれ」 「万一の場合にはどの武器を使ったらよいでしようか、サー ? 」 と、第一砲撃指揮将校のペドロ・クアサが聞きかえしてくる。 超弩級戦闘母艦《マルコ・ポーこは秤動ゾーンからとっぜん」 いいかね、万一の場合にはだねーー持ってい 「万一の場合には ーそういったことはこの過程にはっきものだったが , 、ーー通常空間の るものはなんでも使うんだ。ミスタ・コズム、今後はきみが船の操中に飛びだした。 縦にあたってくれ。コロム日 ( ンとアーラットは疲れきっているか惑星級の高速巡洋艦と軽巡洋艦は、出撃準備を終えている。ロー ら。きみにその自信があるかね ? 場合によっては電光石火のすばダンはしかし、いまだに決めかねていた。未知の船に乗ってきた者 やさで逃げなければならないからね」 たちと最初のコンタクトをとってかれらのことをもっとよく知る前 コズムはうなずいた。あらたな測定の結果が伝えられた。 こういった大型艦載船を発射させていいものかどうか。 「飛行物体の大群はエネルギ 1 幕で自分をとりまいています。位置テラの帝国艦隊旗艦《マルコ・ポーロ》は、未知のエイ型宇宙船 測定は困難になるでしよう。すべてのものがヴェールにかくされからほんの三十万キロしかはなれていないところのアインシュタイ て、幻のように動きまわっているんですから」 ン空間に現われたのだった。位置測定の結果がたたちに報告され 「で、先ほどのただ一隻だけ孤立した船は ? 」 「まだ、はっきりとわかります。じっと同じ針路をとっていますか「立体画像は鮮明です。いまなら、測定は可能。未確認飛行物体の 外形は、じっさいにエイに似ています。針と呼ばれる突起部分は、 ら」 「そこから推論できるのは、もう第五の ( イバ 1 衝撃波には見舞わ比較的薄くて動かすことのできる触手のような格好をしたもののよ れなくてもすむだろう、ということですよ」と、ヴァ 1 リンガー教うです。長さは七十から八十メートルくらい。船体は三角形です。 授が言ってきた。「飛行物体の大群は、自分の守りを固めた、と。翼の長さはおよそ百五十メートルほどになります。非常に平べった もしもさらにほかの部隊が来るのを連中が待っているのならば、防く、厚さは三十メートルしかありません。翼長の機体の高さに対す 護フィールドを組み立てることはきっともうちょっと遅らせるでしる比は、およそ一対五になります。攻撃の意図は認められません。 以上」 ようからね」 「筋が通っているね。ミスタ・コズム、きみはエイ型宇宙船と同じ「こちら、砲撃管センター」と、ペドロ・クアサ少佐が連絡をと コースをとってくれ。それから、くれぐれも気をつけてくれよ。四つてきた。「船の操縦部をお願いします。これ以上、近よらないで ください ! もしも砲撃をしっさいにしなければならなくなった場 8 十万もの異星からの宇宙飛行物体にとり囲まれるなんて、あんまり 合、われわれと目標の間の距離が三十万キロというのではすでに危 ぞっとしないからね」
ていなかった。 俺は立ち上がり、ロコフの姿を捜した。 ロコフは五メートルほど離れたところに埋まっていた。腰から下 が地面の中だ。胸に耳を押しつけると、かすかな搏動が聞こえた。 生きている。俺は安堵のため息をついた。肩を揺すったり、頬を叩 いたりしてみた。だが、意識は戻らない。掘りだそうとしたが、急 速に水分を失いつつある大地には、とても歯が立たなかった。 俺はロコフのことを一時諦め、の様子をみることにした。 もまた、大部分が埋没していた。二メートルほどの小さな崖 の直下である。この崖を滑り落ちたらしい。落ちたときは泥沼だっ 気を失わなかったのは、左肩の激痛のせいだった。鎖骨である。 たので、フレームに異常はないようだが、ほかがだめだった。まず 折れているのは明らかだった。 しか だこいつは分解掃除するしかない。 俺は右腕で顔を浮かし、雨があがるのをじっと待った。ロコフの何といってもエンジンこ。 ことが心配だったが、・ とうしようもない。すべては雨がやんでからし、それよりも一七〇キロを越える車体をどうやって掘り出すかが だ。からだが冷え、歯の根が合わず、ガチガチと鳴った。このまま問題だった。 顔を泥沼におしつけて死んでしまったら、どんなに楽だろうと思っ俺は途方にくれた。ロコフの意識は依然として不明のままだ。左 の鎖骨は炎症をおこしている。どこかへ助けを求めようにも足はな しかし、俺はなんとか耐えた。こんなところでみじめに泥にまみ 俺はヘタへタと坐りこんだ。全身の力が萎え、痴呆状態におちい れて死ぬのは、やはり嫌だった。 無限とも思える長い時間が過ぎて、雨はあがった。 空一面を覆っていた黒雲が、かき消すように、瞬時にして失せ何をするでもなく、何を考えるでもなく、ポケッと地面を見つめ ていた。からだの水分が干上がり、唇もひび割れはじめていたが、 そんなことにも気づかなかった。 青空が戻り、強い陽光がきらめいた。 「あんた、誰だ ? 」 泥水がひいていく。陽炎が揺れて、背中がカッと暑い ふいに背後から声をかけられた。が、しばらくは、それがわから 俺はもそもぞと起き上がった。全身が乾いた泥で真っ白だった。 よ、つこ。 髪の毛も白い帽子をかぶったように固まっている。 「どうしたんだ、いったい ? 」 太陽の位置を見た。雨が降りだしたときから一時間ほどしか経っ らしい。それ以上は雨にまぎれて何も見えない。 大声で呼んでみた。雨音に負けているのが自分でもわかった。 「ロコフ ! 」 もう一度、呼んでみた。返事はない。 雨はやみそうになかった。 4 こ 0 362
露した。 「うねうね ? 」 「群れを乱すんだ。足ぐらい踏んでやれ。胴を踏まなきや大丈夫ところが スコルプは、その加速に互角に対応した。 ロコフのつぶてを免がれた二匹が、の左側を並んで走ったの 「言うは易くだね」 ーし / て だ。いや、それどころか一〇メートルほどでを追い抜、こ。 俺は必死でを操った。よくやった方だと思う。あまり夢中に して、の進路にかぶさる。 なったので、いつの間にか右足のハンディを忘れたほどだった。 クカあった。前輪が、ふわ フロントに、ガッンという鈍いショッ・、 「ようし : : : 」 りと持ち上がった。スコル。フに乗りあげたのだ。前輪がスリツ。フ ロコフが囁いた。スコルプは本性をだしつつあったが、先手を打 ってめちゃくちゃに走りまわったに惑わされ、密集をくずされし、スランスが崩れた。 ヒリオンライダーがいるから、重むは てモタモタしている。 俺は重心を後ろに移した。。 「俺が合図したら、北東に向かってダッシ = しろ。それで逃げられ移動させやすい。シフトダウンしてスロットルも一杯に開けた。 ()5 (--«は高々とウィリーした。 たら大成功だ」 「オーケイ」 そのままウィリーターン。進路を右に変えた。 俺は身構えた。スロットルは、いつでも開けられる。ギアは二速前輪着地と同時に再ダッシ : しかし、もう一匹のスコルゾが、 に落とした。 素早くの右側に回りこんでいた。の前後輪が、そのスコル 「こいつをくらえ ! 」 ・フのハサミを轢いた。ハサミがつぶれ、ぬるぬるした液体が路面に ロコフが叫んだ。と、同時に四方八方で火が燃えた。ギャスをし流れた。 みこませた布を使ったつぶてらしい のタイヤが空転する。スロットルを戻し、安定をはかったが するずると車体 つぶてはの後方に扇形に・ハラまかれた。威力のあるものでは 二サイクルのエンジン・・フレーキでは効果はない。・ ないが、火を恐れるキマイラにとってはかなりの脅威だ。偶然、背が倒れていく。右足で支えようとしたが、俺の右足では二人乗りの 中で燃えあがられたスコル。フは怯えてのたうちまわっている。 は無理だった。かえってぶりかえした激痛に悲鳴をあげた。 「走れ ! 」 それでも、を路上にそっと置くようにやさしく倒した。うま く後輪が浮いたのでエンジンは動いている。俺ははずみで二メート ロコフが、俺の背中を軽く叩いた 俺はスロットルを一息に開けた。ギアを掻き上げ、ロービームをルほど放りだされた。だが、ころばない。なんとか踏みこたえた。 「アキラ、うしろ ! 」 ハイビームに切り換える。 二サイクル三気筒三七一 o O のエンジンが、妻まじい瞬発力を披ロコフが怒鳴った。あわてて振り向くと、五メートルと離れてい 346
タニアの目が暗がりでネコのように光った。マリウスには、三人 汚れて騒々しくわめきたてている。しかし死はもう何ひとついつわ りもとりつくろいもないし、そしてそれは静謐と安息そのものたのうしろにひかえていた侍女たちのあいだで、恐怖と恐慌の大波が たつのを感じとることができた。 しかし、タニアは笑って、銀杯の中の異様に赤くどろりとした飲 「それならば何故、人は生きたがる」 み物を口にはこんだ。 グインは呟くように云った。 「時などが私にとって何たというの」 「愚かで盲目だからよ」 彼女は云った。 「死の王たるアル・ロ 1 トですら、死をどうやらおそれているよう に見うけたがな」 「私にもたしかに死すべき身体で、愚かしく死をおそれ、老いをお 「アル・ロートなど ! 」 それておののき暮していた時があった。しかし、アル日ケ 1 ートルの タニアは軽蔑しきったように、 愛をうけ、その手で死とひとつにされてからというもの、私は死そ 『死の生命』、死によりて生きる 「あれは死を支配してもいなければ、知ってすらいないわ。眠りはのものとなり、死の愛娘となり、 小さな死よ。そして死は大いなる眠り。ゾルーディアを支配するもものとなった。真に死を知り、死を支配しているのはこの私なの のは、死と眠りをつかさどるあの神ただひとりだわ」 「死は安息で、静謐そのものだ、とお前は云ったがー 「では、やはり、お前がアルⅡケートルの寵姫タニア、アルⅡケー グインは指摘した。 トルの神技によりミイラとされて、自らの死に気づくことなくうご 「必ずしもそうでもなさそうだな。お前が何千年の眠りからむりやきまわっていたというタニアなのだな。お前は生きてはいないとい りに呼びさましたあのアル日ケートルを見るとな」 うわけだ」 「あれは、必要なことだった」 「そう思っているひともいるけれど」 タニアはまたあのぶきみなアルカイックな徴笑をみせた。 こともなげにタニアは云った。 「それにアルⅡケートルにはそのくらい、私にしてくれてもよい義「では一体生命とは何なの ? 動きまわり、息をし、話し、食べ、 理はあるのよ。アルⅡケートルが自らの手で彼自身をミイラにして飲むことなの ? 私はそのどれもできるし、しているわよ。それで からも、私は何度となく彼に抱かれ、あの骨になったあごに接吻しも私を死人というなら、私と生きた者とは一体どこが違うというの てやった、私だけがね」 「アル日ケートルといえば伝説のミイラづくりの名人王で、何百「生きているとは , ーー」 グインがことばをえらびながら云うより早く、マリウスが云っ 0 年、何千年も昔の人間のはずだ。お前はそれほど昔から生きていた のか、タニア」
一気に距離を詰めて矢を放て。三人でひとりを狙うのだ。敵はライしかし、それはやがて、無感覚となった。 その無感覚となったときだった。 アットガンで武装している。強力な武器た。こちらにもショットガ ンがあり、アキラが所持しているが、あとのことを考えれば、なる大地を伝って、強い振動が俺のからだを突き上げた。 たけ使いたくはない。だから、必ず弓で見張りを倒せ。くれぐれも爆発だ。 俺は布の端をほんのすこし持ち上げた。 仕損じるな」 目の前、ほんの数メートルのところに巨大なコンクリート塊 「わかった : : : 」 神殿があった。神殿は高くそびえ立ち、俺を圧倒している。壁には が返事をした。 ガキどもを代表して、ビート めこまれた黄金の翼のエン・フレムが、あまりにも鮮やかだ。エン・フ ロコフがそれに応えて、右手を軽く振った。ガキどもが左右に、 パッと散った。ひとり、大柄な少女だけが残った。リリーだ。リリレムの下には扉が大きな口を開け、その前からは地上へと向かって 幅広い堂々たる階段がゆるやかにつづいている。そして、階段の上 ーはパイクがうまかった。 「ロコフを頼む」俺はリリーに言 0 た。「襲撃完了の合図があ「たでは、三人のゾクがあわてふためき、うろたえていた。かれらはと っぜんの爆発になすすべもなく、ただ恐怖にかられて右へ左へと走 ら、 c.5E-* で神殿の正面まで運んでくれ。ちょいと厄介な積荷たが、 り回っているだけなのだ。 壊れやすいから落とすのだけはやめてくれよ」 それは、俺をひたすら威圧する神殿とは、どこまでもかけ離れた リリーは声を殺して笑い、承知した。 光景だった。 俺はビートの率いる正面襲撃隊のところへ行った。 醜い、と俺は思った。全身に嫌悪感が走った。嫌悪感は、すぐに 「やるそ : : : 」 俺はうつ伏せになり、シ = ットガンを胸元に抱いて布をかぶ「怒りとな「た。 俺は布を撥ねのけた。 た。あとの連中も、俺にならった。 立ち上がり、全力疾走に移った。 俺は前進を開始した。両肘、両膝を使って前に進む。ショットガ 数メートルというのは、俺の錯覚だった。 ンは胸元に抱えこんだままだ。音をたてないようにするのがむつか 神殿の恐ろしい量感に、感覚が惑わされたのだ。 しい。左肩がやはり、激しく痛んだ。俺は心の中で掛け声をかけ、 ガキどもが、鈍足の俺を追い抜いていった。 リズムを刻んだ。とにかく進む。ひたすら進む。今はそれだけだ。 ゾクの三人が、俺たちを発見した。 安全を考えて神殿との距離はかなり大きくとった。五分では必死で 進んでも行きすぎるようなことはない。むしろ必死で進まなけれあわただしくライアットガンを構えた。 しかし、もう遅かった。 ば、襲いかかる瞬間に敵ははるかかなたというハメになる。 ガキどもの指先から、弦につがえられた矢が唸りをあげて飛び出 肘と膝がすりむけた。最初のうちは、それがヒリヒリと痛んだ。 374
鱆を振りおろした。 けない相手ではなかった。 ストックの角が、ディーの頭頂に喰いこんだ。 俺は・せんぜん気がっかなかったが、ディ 1 を追いかけだしてから ディ 1 の前肢が、ガクリと折れた。 一時間以上が過ぎた。 さしものディーも、ときおり疲れをみせるようになった。直線で転倒し、俺の視界からディ 1 が消えた。 のスビード自体は落ちていないが、曲がるときに心なしか足がもっ俺は制動をかけ、ターンした。急いでディ 1 の倒れた地点にと れるのであるのである。俺とディーの距離は一〇〇メートルあまりって返す。 ディーは腹を上に向けて四肢を震わせていた。頭と耳と口から血 に縮まった。こうなれば、もうこちらのものである。 をかけた。ターンが多かったので一二〇キロ程度にを流している。黒い大きな瞳が、俺を見た。 俺はスパート 抑えていた速度を一気に一五〇キロ台にまで上げたのだ。ディーは俺はから降りて顏をそむけ、とどめのの一撃をディーに 加えた。 前ほどジグザグに走ろうとしなくなっていた。 の下に帰るとロコフが火をおこして待っていた。 ディ 1 の姿がみるみる大きくなった。の猛加速の見せどころ ・イ 1 に追いつく「あんたがディ 1 を逃がすはずがないと思ってね : : : 」 だ。直線一本やりとなれば一〇〇キロそこそこのテ ロコフは一一 = ロった。 のはたやすい 俺には返す言葉がなかった。 たちまちとディ 1 は並んだ。俺はディ 1 の右側に回りこみ、 ディ 1 の肉を腹いつばい食べた。苦しくなるほど詰めこんだが、 肩からをはずして銃身を左手で掴んだ。右手だけで跳ねまわる フロントを御すのは困難なことだったが、今の俺にはディーさえ捕肉はたつぶりと余った。ロコフはそれを火の上であぶって、即席の 燻製にした。皮はスコル。フにもぎとられた布のかわりにロコフの服 まえられるのだったら、そのまま逆立ちだってできた。 となった。 俺は鱆を振り上げ、ディーの頭を思いきり打ちおろした。 ディーの肉は、その後四日間、俺たちの腹を満たしてくれた。 空振りだった。 当然のことながら、俺たちは五日目に空腹をかかえるはめになっ 俺は左へつんのめり、から振り落とされそうになった。ニー グリツ。フでからだを支え、懸命にシートにすがりついた。その間に この五日間にしたこ ハイウェイは単調で、相かわらず何もない。 ディーはから二〇メートルほど離れた。 とといえば、ディーの肉を食べて、寝て、雨やどりして、ギャスを 「ちくしよう ! 」 補給しただけだ。 俺は盛大に悪態をつき、ディ 1 を追った。 「この辺には村のひとつもないようだな」 再び並んだ。 耳もとでロコフが言った。 今度は前にも増して慎重に狙いをつけた。 35 ー
それは《死の娘》タニアだった。 その真中に奇妙な、祭壇のようなものがもうけられているように 彼女が両手のとがったツメをひらめかせて指をうごかして招く 見えた。よく見るとそうではなく、それは、ただ地面から白っ。ほい ひらたい岩がっき出して、ちょうど壇のようになっているのであと、彼女の前に立ったミイラはびくりとふるえ、ざわめくように、 る。 あたかもさだめに無益な抗いをこころみてでもいるかのようにのろ その岩の祭壇の両端のところに、まるで燭台のようにとが「た岩くさしたしぐさで、ぎくしやくと足を踏み出し、彼女に近づく が二つづつつき出ており、燭台そのままに、その上には四つのろう彼女が両手のひらを下へむけて数回ふりおろすようなしぐさをす ると、ミイラはぎくしやくと平伏した。 そくが灯され グインは、タニアが一種の催眠状態とでもいうべき状態にあるの そのあかりで、その一画だけが明るく照らし出されているのだっ に気づいた。彼女の目はとざされたままたった。その不吉な死のよ そのあかりで、高い岩の天井からも、壁面からも、無数の、寄妙うに白い胸が波打ち、やがてその口から、ゆ「くりと、前にきいた な何となくいやらしいおそましいかたちのつるつるした鐘乳石が、彼女のそれではない、限りなく年とった老婆ててもあるかのような そっとする絨毛の群れのようにつりさがり、のび出ているのが見えしやがれ声が重々しくほとばしり出た。 「アルⅡケートル、闇に葬られし者、永遠の眠りをさまたげられし た。そこは、鐘乳洞であったのである。 者よ、我に呼ばれて来し者よ、過去の民よ」 そしてーーーその祭壇、天然の祀り台の上に ひとりの人影が立っていた。 ミイラの口から、おそろしく困難そうな、カサカサにひからびた 両手をさしのべ、何ものかを招くようにその手をゆっくりと波打 舌をうごかしてのようないらえがあったのは、少しのちたった。 たせている。 その目はとざされ、そのくちびるは不吉なまじないのことばを声「我 : : : は : : : 汝に呼ばれ : : : て : : : 来し者では・ 「アルいケートル、我に従うべく黄泉よりもどりし賢者よ」 なくとなえつづけ、そのむき出しの胸はゆるやかにもりあがり きこえなかったかのように、タニアは繰りかえした。 クムふうにまきつけられていた長い銀髪はとかれて、足もとへま で、ふわふわとなびきながらまといついているほかは、一糸まとわ「我は汝に問うべきことがあるのた。アルⅡケートルよ」 「われ : : : は : : : 汝に : : : 従うべく : ぬ裸である。 ミイラは強情にくりかえした。 その肌は、周囲のぶきみな鐘乳石のように、蛙の腹のように、つ 「わ : : : れは : : : 再びの : : : 眠りを求め・ : : ・る : : : 」 やのない死のような白さをたたえ、その姿体は均斉がとれて美しか 「我の引いに答えよ、アル日ケートル。さすれば永遠の、黄泉の眠 5 、ようのないおそましさ、腐臭にも似た、 ったけれども、どこかいし アルⅡケートレ、 我の問いはイリスの石 りは再び汝のものた。 淫らで耐えがたい邪悪さをただよわせ
「それはよかった。そちらは、調子の狂った操縦用ポジトロニクス います。群れ全体の向かっている方向には、宇宙空港があります。 ヘクターはどうやら、。 ( ラトロン防護スクリーンが気にいらないみが破壊された後、たたちに四千の戦闘用ロポットの操縦を引き継け るように準備していてくれ。うまくできるだろうか ? たいです。いすれにせよ、もしもヘクターが宇宙空港を迂回し、ロ 「やってみます、サー」 ヂットたちをひきつれてテラニア・シティの中に侵入してきたら、 「よろしい。ロポットはそのまま残しておきたいからね。″インペ シティにいる何百万もの人間が死んでしまいますよ」 リウムⅡアルファ″との連絡、これで終了。コズム、離陸してく 十分後に、ローダンは巡洋艦の中央管制部にやってきた。アトラ ンは黙々と、砲撃管制センターを引き継いた。コズムはすでにゼルれ。アカデミーを吹きとばしたりしないように、注意してくれよー 一隻の巡洋艦たけでも、ものすごい圧力波を引き起こすからね」 ト・キャツ。フをかぶり、自分の席についていた。 三台の高エネルギー出力機のプラック・シールド反応器がうなり 「緊急発進」と、ローダンが指示を出した。「位置測定班、ロ求ッ トたちが集結している場所を見つけたしてくれ。アトラン、船の戦をあげた。その動力用 = ネルギ 1 は、まず第一に重力中和機に導か れた。そして、《 0 ー 1 》が重さを失った。 闘準備は完全にととのっているかね ? 」 宇宙艦の環状胴体部の六台のインパルス・エンジンから出るほん 「だいじようぶだよ、まかせておいてくれ ! 」 のわすかな推進力でも、直径百メートルある宇宙艦を持ち上げるに 「トランスフォーム砲は使わないでくれ。操縦装置の″ヘクター 蘿。を射ち落とすようにするんた。イン。 ( ルス砲を配置しておいては充分だ「た。「ズムは二十キロの高度まで宇宙艦を上昇させ、い ポット師団の位置測定の結果を聞いてから、飛行を始めた。 くれたまえ。コズム、砲撃を開始する前に、目的地を目指して音速 の十倍で飛んでくれ。そして、〈クター装置の上のできるだけすれ雷のようなとどろきが、大地を揺るがした。《ー 1 》は、 すれのところを飛び越えるんだ。ひょ「とすると、圧力波のために一瞬のうちに姿を消していた。ホモ・スペリオルの五十人議長団 が、宇宙艦を見送った。 ″ヘクター蘿〃が墜落するかもしれないから。通信センターへ。 ″インペリウムⅡアルファ″に間、 し合わせてくれ。ロポットの師団「軽蔑に値するな ! 」と、ホルトガン・ロガが言った。「まあ、い 利ロな男た。きみはじっさい、か ずれにせよ、あの第一執政官は、 が進入している地域の人口密度は、どのくらいだね ? ローダンのこれらの指示は、それそれ確実に伝えられた。数秒のれを地球にもどらせるべきではなかったかもしれないな、ホスプチ のちには、 ″インペリウムⅡアルファ″の中央管制部が報告してきャン ! われわれは細心の注意をはらって、作戦を遂行しなければ ならんたろう」 「人口はまったくありません、サー。戦闘用ロ求ットたちは西の山 地にある出動待機倉庫からやってきているのですが、そちらの方面 には付近に宇宙空港があるため、空地が広がっているだけです」 ″ヘクター″は、行進するロポット師団の上空五百メートルのと 24 ー