臭にかわりつつあることを俺に教えてくれた。 ・ホビーもいなかった。 「間もなく夜になる」ロコフは言った。「夜になれば、キマイラが 「使える武器はあったか ? 」 この光景を過去のものにしてくれる。あしたの午後には雨が降り、 ロコフがニックに訊いた。 血も、灰も、どこかへと押し流される。残るものは何もない。俺た 「ショットガンが二、三〇挺あります」 ちは新たな棲み家を築き、新たな生活を生きていく。そして時はゆ ニックが白い歯を見せて、言った。 つくりと、しかも確実に移ろいつづけ、俺たちもまた、いっかは消 「装弾を確認して、そいつを一挺ずつ持ち、の神殿と の神殿を回ってこい。交代要員のような顔をして不意える : : : 」 「忘れられるだろうか、きようという日を : : : 」 をつくんだ。わかったな ? 「忘れられるさ。いっかはな : : : 」 「わかった : : : 」 「俺にはとてもそうは思えない」 ロコフの指示に従い、ニックは出発の準備にとりかかった 俺はロコフを見た。ロコフも、俺を見ていた。髭に埋まったロコ ドッリーが生えていた。 湖のほとりに、何本かの・ハー フの表情を読むことはできなかったが、コフの目は恐ろしいまで リリーは、その一本の木蔭に、ロコフをおろした。 に静かだった。 俺もついていき、ロコフの横に膝を抱えて座った。 「このあとどうするかを、まだ決めていなかったな : : : 」 一二人のガキどもが、を連ねて神殿に向かった。 ふっと、目をそらし、ロコフは言った。 「これで、良かったのだろうか : 俺はロコフに訊いた。キャン。フは依然くすぶっていて、前ほどで 俺は小さくうなすいた。 はないが黒煙もおさまってはいない 「ゾクをやろう」ロコフはつづけた。「俺たちのゾクをつくるん ・ : 」ロコフは言った。「すんだんたぜ」 「良くも悪くもない : 「何だか、何もかもいやになった : : : 」 「村はいいのか ? 」 「どうしてだ ? 」 「村はいい」ロコフは俺に向き直った。「ゾクをやる。アタマはあ 「どうしてだろうな : : : 」 「今から、すべてがはじまる : : : 」ロコフはキャン。フに向かって顎んただ : : : 」 「忘れられないよ、きようのことは : : : 」 をしやくった。「これはそのための最初のステッ。フだ」 俺はまた同じことを繰り返した。 「俺たちは、地獄からはじめるのか ? 」 「忘れられる。せ、間違いなく : : : 」 「ものごとは何でも地獄からはじまるのさ : : : 」 俺は小刻みに頭を振った。風が流れてきた。そいつは、死臭が腐ロコフもやはり繰り返した。 3 田
俺はミーナに腕を差し出した。彼女は左の手を俺の腕に預けた。 ロコフの、俺たちを呼ばう声が聞こえた。 俺たちは、ゆっくりとテントの前の斜面を下った。斜面には白く 細長い布が敷いてあった。俺たちが進むにつれて、太鼓が重々しい リズムを刻んだ。 斜面の下、湖に面した広場にはロコフとリリー が待っている。そ して、かれらのうしろにはずらりと並んだ〈ファイアポール〉の仲 間がいた。ただし、その人数はロコフのときよりも少ない。ョ ナがキャン・フに来てから六日後、俺とミーナの結びの儀式が とりおこなわれた。 であることを考慮して、五〇人ばかりのライダーが、巡回にでてい 式はロコフが、アタマの代わりを務めた。 るのだ。宴も少し寂しいものになるが、これはやむを得ない。 六日も間があいたのは、今度の一件の後始末と、式の準備があっ俺たちは、ロコフの前に立った。太鼓の音が熄んだ。 ロコフが俺たちに一礼した。俺たちはロコフに礼を返した。 たからだ。俺が止めるのも聞かずにロコフはリリーにミーナの着る ロコフが大きく口を開け、俺たちに″意思の確認″をしようとし 豪華な衣装をつくらせ、手造りの楽器を揃えた。楽器といっても、 笛が何本かと巨大な丸太をくり抜いた太鼓である。それに祝砲用とた。 して、音ばかりでかい爆弾をいくつかこしらえた。 その表情が、そのまま強張った。口が閉じない。声もでない。視 その日の正午、俺とミーナは腕を組み、ロコフの呼ぶ声に応じ線は俺たちを通り越して、その背後に向けられている。 て、テントを出た。 ーナの衣装は若草色の薄い布地でつくられて俺たちは首をめぐらした。 ロコフの視線を追った。 おり、彼女のほっそりとしたからだを、ふわりとやわらかく覆って テントとテントの間から、こちらへと駟けてくる一台の、、ハイクが ナは美しかった。長い黒髪がふたつに束ねられ、顔には淡く見えた。かなりの速度をたしている。巡回にでていたライダーのひ 化粧がほどこされている。着つけをおえて俺のテントにやってきたとりだ。 砂塵を蹴立てて、俺たちのところへ突っこんできた。 彼女を見て、俺は息を呑んだ。いろいろと差し障りがあるのでロに だしてこそ言わなかったが、ミー ナはゾクの女の誰よりも美しかっ俺から三メートルほどの位置で停止した。 「なにごとだ、いったい ? 」 「ミーナ : : : 」と、俺は彼攵に言った。「素らしいよ : : : 」 俺が説くより早く、ロコフがいた。 ーナは恥しそうに笑みを浮かべ、俺の顔を見た。 「南の方から、こちらに来るパイクの群れがいます」 第四章
ロコフが説いた。 俺はうしろ髪をひかれながらも、ロコフに従った。 「最高の状態にしてやるのさ」俺は汗を拭いながら答えた。「ガー テー・フルにつくと、リリー が、まるで魔法のように飲みものをだ 3 レンが俺のにしてくれたようにな : : : 」 した。・ テポンの実のジュースだった。 整備には、まるまる一晩かかった。 俺たちは、ちびりちびりとジュースを飲んた。 翌日の正午。 「あいつ、生き伸びることができるだろうか ? 」 ホークⅡを駆って、ひとりの若者がいずこかへと旅立っていっ ふっと、ロコフがつぶやいた。 た。まぎれもない。それは、かっての俺の姿そのままだった。 「ジェフなら大丈夫さ : : : 」 俺にはようやく、そのときのガーレンの気持ちがわかった。でき俺は言った。 るものなら、声をあげて泣きたかった。 「どうしてわかる ? 」 「あいつは俺とは違う。度胸もパイク・テクニックも充分にある」 3 「あんたは生き伸びたんだぜ」 「それは、あんたと出会うことができたからた」俺はロコフを指さ 「行っちまったな : : : 」 した。「そんな僥倖が誰にもあるとは思えない。しかし、やつなら ロコフが、俺のとなりにやってきた。もちろん リリーも一緒ど。 ロコフがいなくとも、生き抜いていけるさ。それだけの男なんた」 ほかの幹部は、それそれのテントに戻っていった。あとは坊やと少「ずいぶん高く買ったもんたな : : : 」 女しかいない。ライダーがひとり残らず出払ってしまうと、キャン「俺は、あいつの目を見た。 ギラギラと光っていて、自信と希 。フはガランとしている。 望と野心とが、うんざりするほどその中につまっていた」 「ほう : : : 」 「いつまでも見ていたところでしかたがない : 俺が何も言わすにバイクの群れが消えていった地平線を見つめて「俺はむかし、そんな目を見たことがあった。ついさっきまで、そ いるので、ロコフは思いっきり俺の背中をどやしつけた。 れが誰の目たったか思い出せなかった。だが、見たことがあるのは 「いてえな : : : 」 たしかだった」 俺は顔をしかめ、振り返った。 「それで、思い出せたのか ? 」 「あっちのテー・フルに行こう」 「思い出した」俺はうなずいた。「なんのことはない。それはガー ロコフは顎をしやくった。ロコフとリリー の結びの義式以来、キレンの目だった」 ャンプの広場にはテー・フルと椅子が何脚か置かれたままになってい 「〈アイアンホース〉のアタマか : : : 」 る。そのひとつに、ロコフは俺を誘った。 「きのうきようとで、いやになるくらい〈アイアンホース〉のこと
「違うな : : : 」俺は言った。「荷車や側車をつけている。ゾクはあ 「登って良かったな」 んなものをつけたりはしない」 ロコフが言った。まったくそのとおりだった。 「すると : : : 」 「しかし、何もない」 「商隊だ ! 」 ロコフは付け加えた。それも、そのとおりだった。 「南東に別の ( イウ = イがある」俺は言った。「あっちを走ってみ俺は叫んだ。間違いない。あれは村から村へ物資を連ぶ商隊だ。 ようか ? ・」 俺はロコフを抱えて、に戻った。 「あのハイウェイはすっと南で、俺たちが走ってきたハイウェイと「どうする気た ? 」 「商隊かどうかたしかめるのさ」 交差するそ」 「商隊だったら ? 」 「北東に向かうんだ」 「北東に ? 」 「襲う」 「武器もなしにか ? 」 「どうせあてはないし、この辺で気分を変えたい」 「ふむ : : : 」 「何とかなるさ : : : 」 俺は全体重をかけて、キックレバーを蹴りこんだ。 ロコフは考えこんだ。 俺は風と陽光をあびて、見るとはなしに、そのハイウェイを見て 何かがハイウェイの上を移動していた。 。ハイクの群れは、やはり商隊だった。 俺は声をあげた。ハイウェイの上を移動だって ? 俺たちは丘を南にくだり、商隊の正面へと回りこんで様子を窺っ た。積荷の多い商隊は、速度が遅い。先回りするには、何の苦労も いらなかった。 ロコフは気がついたようだった。 「ハイクだ : : : 」 「がほとんどだ」俺はロコフに言った。「一二三 O O で、出力 . い。ハイクなのは一一馬力しかない」 . しハイウェイに里 それはバイクの群れだった。黒、 ノイクは二〇台以「俺の村ではのを使っていた」 で、よく見えなかったのだ。気がついてみれば、く 「似たようなものだ。あの連中は、神殿がたまたまだ 上もいた。しかも、南西に向かっている。 ったんだ」 「ゾクか ? 」 冂 ( イク談議はあとにしよう」ロコフは言った。「あんたの作戦を ロコフがいた。 353
「ホントかなあ : : : 」 眠っているのかな、と思ったが、そうでもなさそうだった。 俺は目を閉じた。風が変わった。湖のさわやかな香りが、俺の鼻俺はそっとロコフの背後に立ち、声をかけた。 を甘くくすぐった。 「何を見てるんだ ? ロコフ : 俺は誤っていた。正しいのは、ロコフだった。 「何も見てないよ。アキラ : 俺は、きようという日を忘れた。 びつくりさせるつもりだったが、ロコフは驚かなかった。静かに そう答えてから、ロコフはゆっくりとうしろを振り返った。照れた ような笑いを浮かべていた。相かわらず、若々しい笑みだ。髭を落 としたロコフは、誰もが目をみはるほどの童顔だった。俺よりもと おは上だったが、・ とうしてもふたっくらい下にしか見えなかった。 「ずいぶん早いんだな」 俺はロコフの横に並び、言った。 「どういうわけか目が冴えてね : いじゃよ、 さわやかな朝だった。 「理由は似たようなものだ : : : 」 なんだかいやに早く目が醒めてしまった俺は、さっさと寝袋から 俺は笑った。 這い出し、テントをあとにして湖へとそそろ歩いた。 「もっと寝ていたかったのに、目が醒めた」 太陽はまだ地平線から顔をだしたばかりで、風がそこはかとなく 冷たい。 「たかが男と女が一緒になるだけのことに、おかしな儀式をやろう と思いつくからいかんのだ」 湖には、淡い朝霧がかかっていた。俺は歩きながら赤いつなぎの ボタンを、喉もとまで全部はめた。風は思いきり胸に吸いこむだけ ロコフは右手を軽く振り、顔を大仰にしかめた。目もとに、かす かな笑いが残っている。 湖には、先客がいた。朝霧の切れ目から、幹部のつなぎの黒い色「儀式は必要だ」俺は真顔に戻った。「儀式があってこそ、けじめ が見えた。 ができる。・ ( イクを賜わるときもそうだ。別に感謝の言葉を述べな 俺は、先客に近づいていった。 くても、ボタンを押すだけで・ハイクは祭壇の上にあらわれる。しか 先客は、ロ 0 フだ「た。ロ「フは車椅子に腰をおろし、し「と湖し、坊やからライダーに昇格したやつのためには仰々しい儀式が必 のかなたを見つめていた。そこには朝霧が渦巻いているだけだとい要とされるんだ」 うのに、ロコフは微動だにしない。 「するとさしずめ俺が坊やで、リリー : カ・ハイクだな」 第三章 しかし、あんたもけっこう早 382
「どういう意味た ? 」 「ふむ : : : 」 俺には、ロコフが何を言いたいのか、さつばりわからなかった。 「しかし、それももう限度だ : : : 」 「つまりだ : : : 」ロコフは言った。「生きていくにはふたつの道し ヒトの右どなりに座るガキが口をはさんた。ニックという一三 か選べないのた。ここから逃げだしてどこかに村をつくるか、もし 歳の少年である。 ーティ〉とかいうゾクをふつつ くはふみとどまって例の〈マッド。ハ とういうことだ ? ・」 「限度ってのは、・ ぶすかだ」 「限度は限度さ : : : 」ニックは甲高い声で言った。「もうやってい 「ここに村はつくれないのか ? 」 けないってことだよ」 ーティ〉をつふしてからということにな 「その選択は、〈マッ 「食糧がないんだ。ゾクがくるから畑はつくれないし、狩りをしよる」ロコフはかふりを振った。「ゾクになるか、村人になるかの選 うにも獲物はすくない。い っそ、キマイラを食おうかと思ったくら択たな : : : 」 「ここから逃げだすのは、不可能た」。ヒートが言った。「〈マ、 いだ」 ーティ〉の行動半径は広い。パイクのない俺たちでは、どこへ行 キマイラは食えない。肉にまで毒がある。 ってもやつらに襲われる」 「限度はわかった」俺はうなすいた。「で、どうしようというんだ 「パイクがあっても、途中でやられるそ」 ロコフは冷ややかだった。 「俺はあんたに礼を要求すると言った」っづぎを。ヒートがひきとっ た。「その礼というのが、これだ。どうしたらいいか、考えてく「あんたは、最初つから〈マッドバーティ〉と一戦やれと言ってる 俺たちにはもう何も思いっかないんだ」 んたな」 「そうか : : : 」俺は今一度うなずいた。「そういうことだったの俺は気がついた。 「そういうことだ : : : 」 「何か打つ手はあるかい ? 」 ロコフはニャリと笑った。 すがるように。ヒートは俺を見た。気を張って生きているが、やは「俺も、連中にはいっか一矢を報いたいと思っていた」ビートが言 った。「でも、それも無理な話だ。あいつらには一〇〇人の勢力と り一五のガキだ。頼れる者を求めている。しかし、俺では : ハイクとライアットガンがある。俺たちにはその五分の一の仲間と 俺はちらりと俺の左に腰をおろすロコフに視線をやった。ロコフ 手製の弓しかない。戦いになんかなりやしないんだ , は敏感にそれを察知し、俺に視線を返した。 「問題は、何ができるかを見きわめるということた」ロコフはロを「やってみなければ、わからんさ」 開いた。「そうすれば、おのずから解答はひきだせる」 ロコフは、いやに自信ありげだった。 367
いてしまうほどの危うい大冒険だった。これが俺のことでなかった ハイウェイにでてから捜索隊に出会うまでは、二〇分とかからな っこ 0 ら、どんなにかおもしろかったことだろう。 カュノ ロコフは、ふんふんと鼻を鳴らして聞いていた。俺の熱弁に敬意 キャン。フは、騒然としていた。アタマが行方不明になったのであ る。これは当然のことだった。 を表してか、途中では一言も口をさしはさまなかった。 着くなり、ロコフから一発喰らった。軽いパンチだったが、これ聞き終えて、はじめて口を開いた。 ↓よ ~ 衂、こ 0 「なるほど : : : 」 「この大・ハ力者 ! 」ロコフは怒鳴った。「あれほど行くなと言った そして大きくうなずいた。 ひと ものを ! 」 「すべては、この女に聞けということたな : : : 」 「しかし、行っただけの収穫はあったぜ」 ナを指した。 「そういうことになる」 俺はミーナを紹介した。とっぜんのことにロコフは目を丸くして ーナを見た。 俺はミーナを振り返った。 ーナは怯えていた。唇を真一文字に結び、うつむいて小さくな 「これが、俺の女だ」 っていた。 全員の前で、そう宣言した。 ロコフが、持ち前の人なっこさと 「事の次第を話してもらいたい、 俺たちは湖で水浴し、テントにはいった。 やさしさで言った。「な・せあなたを追っていたゾクが、われわれの テントには、ロコフとリリーだけを呼んた。 仲間をひとり連れて帰ろうとしたのか、いったいかれらの狙いはど テントの中の空気は、重かった。 こにあるのか、そういったことを、俺たちは知りたいのだ」 「厄介事だな : : : 」 「まさか、やつらは〈アイアンホース〉の幹部じゃなかったんだろ ロコフが、ず - ばりと一一 = ロった。 うな ? 」 「どうも、そうらしい ロコフの質問だけではじれったくなり、俺はもっとも説きたいと テー・フルにミーナと並んで着き、俺はロコフに答えた。 思っていたことを無理に割りこませた。 「とにかく、きのうの経過を聞こう」 ナは消え人りそうな、かすかな声で答えた。 「かれらは : : : 」 「かれらは〈アイアンホース〉の幹部です : : : 」 俺は話した。六人の死体を発見したところまではカービイが報告 俺の全身の血が、どこかに失せた。俺の中で、何かが音をたてて していたので、その先を詳しく語った。どうしてやつらに捕まり、 どうやってそこから逃げだし、どんないきさつでミーナに出会った崩れ落ちた。 かを時間を追って話して聞かせた。それはしゃべっている自分が驚「もう、〈アイアンホース〉は以前の〈アイアンホース〉ではない 403
のダッシュと、毒針の届くのがほとんど同時だった。 布の裂ける嫌な音がした。 ch がハイウェイを直角につつきり、曠野へと飛び出した。 「くそったれ ! 」 ロコフが罵声を吐いた。 「やられたのか ? 」 シフトアツ。フを繰り返しながら、俺は説いた。 俺たちは、もう五日間もハイウェイを南下していた。 「一張羅を半分もってかれた」 憮然とした声でロコフは言った。 あの日、夜明けと同時に俺たちは南北に走るハイウェイを見つけ 俺は振り返って、ロコフを見た。そのとたんに吹きだした。 た。よく見ると、左手にもおおむね東西に向かって伸びているハイ ロコフのからだを覆っていた黒い布が、見事にその左半分を失っウ = イがあった。俺たちはわざわざ ( イウ = イに沿ってオフロード ていた。ロコフは半身はたかなのだ。 を走ってきたのだ。 「寒くて、かなわん」 俺たちは砂・ほこりで真っ白になった互いの顔を笑いながら、南へ ロコフは残った布で必死にからだを覆い隠そうと努力していた。 行くことを決めた。理由はない。しいていえば、あの何ともシャク しかし、その努力は当分、報われそうになかった。 な東西のハイウェイと交差するのが嫌だったのだ。 は白い砂塵を巻き上げながら、曠野を疾駆する。スコル。フは ハイウェイにはいったものの、はギャス欠寸前だった。コッ もう一匹も追ってこない。完全に逃げきったようだ。夜明けまでに クはとうにリザープになっていて、それももう空になるかならない はまだ間があるが、走ってさえいればあんな目にあうことはない。 かというところまできていた。俺は速度を四〇キロに抑え、ひたす 「おい : : 」ロコフが説いた。「いったいどっちへ向かう気なんたらギャスの温存をはかった。もしギャスが切れたら、俺はロコフを 乗せたをスタチオンまで押していかねばならない。そいつはご 俺は空を見上げて星座をたしかめ、それから答えた。 めんだ。考えただけで右足の傷がうずいた。 「東た」 幸いにも、ギャスが切れる前に、俺はスタチオンを見つけた。俺 とロコフはスタチオンの一〇〇メートル手前で歓声をあげ、肩を叩 そう。それは太陽の昇る方角たった。 いて運の強さを喜びあった。 スタチオンの造りは、どこでも同じだ。四角いコンクリートで固 められた敷地に、円筒形のポックスが立っている。ポックスにはメ 第二章 343
「スコルプだ」俺は言った。「間違いな、。、 ノサミを持っている」 「よし ! 」ややあって、ロコフが言った。「準備はできた。を スコル。フは一対のハサミを持った赤毛のキマイラだった。からだ くれ」 は平たくて固い殻に覆われ、何節かに分かれている。長い尾があ俺はをロコフに預けた。 り、その先端には毒針がついていた。体長は五十センチから八十セ「装弾ははいってないぞ」 ンチ。群れはほとんどの場合、二〇匹以内である。 「わかっている」 「スコル。フか : : : 」ロコフがつぶやいた。「嫌なやつだ。リザルな「俺は何をすればいし ら容易に逃けられるのだが : : : 」 「バイクを走らせてくれ」 「全開でダッシ、しようか ? 操縦には自信がある」 「スコル。フはどうする ? のりあげたらスリツ。フして転倒だろ」 「スコル。フにのりあげたらスリツ。フするそ」 「ゆっくりで、 しい。かわしながら走るんた」 「この足ではふんばりが利かないかな」 「毒針がくる」 「不用意に足をだすと、毒針が飛んでくる」 「俺に任せろ」 「ちくしよう : : : 」 「わかった : : : 」 「ギャスはたっぷりあるか ? 」 俺はライトをロービームに切り換え、クラッチをそおっとつない 「ギャス ? タンクに半分くらいだな。多くはない」 「このコップに、すこし入れてくれ」 (.-5€-* はするすると動きはじめた。 ロコフが肩ごしにヒモのついたコツ。フを渡した。俺はタンクキャ 「スコルプは一〇匹くらいだな : : : 」 ツ。フを開け、それでギャスをすくった。 ロコフが俺の耳もとで囁いた。思ったよりも小さい群れだ。しか 「うまくはいらない」 し、スコル。フは動きがはやい。今は警戒して様子を窺っているが、 俺は三分の一くらいしかギャスのはいっていないコップを、ロコ本性をだしたら一〇匹が一〇〇匹にもなる。油断はできない。 フに返した。 三速に入れた。速度は三〇キロそこそこ。真っ暗なので、いきな 「充分だ」 りライトにスコルプの姿が浮かびあがる。よけるのは至難の技た。 ロコフは俺の背後で何ごとかをゴソゴソはじめた。 唸りをあげて一匹の尾がはねあがった。 「何してるんだ ? 」 「今にわかるー それをロコフがのストックではたき落とした。 ロコフは、もったいをつけるように言った。その間にもスコルプ 「もっとうねうねと走れ ! 」 は俺たちにじりじりと迫ってきている。 ロコフが一 = ロった。 たま 345
のです : : : 」 ナはつづけた。「半年前、〈アイアンホース〉のにはいれと : : : 」 内部で、反乱が起きました。村の襲撃に失敗を繰り返したガーレン 「同盟・ : : ・」 が仲間の信頼を失い、暗殺されたのです : : : 」 俺とロコフは顔を見合わせた。やはり、あの尊は本当だったの しかし、それが〈アイ 「ガーレンが : ・ : ・」 いくつかのゾクが脅されたという : 俺は茫然となった。偉大なガーレン、最大の指導者ガーレン。 アンホース〉によってだったとは。俺たちは声もなかった。 ーかれが死んだ ! 「〈アイアンホース〉は村とゾクとを席捲しつつあります」ほんの 「殺ったのは誰だ ? 」 少し、 ナの声が大きくなった。「理由は、はっきりとは知りま 俺は身を乗りだして説いた。 せんが、アキラのゾクの者を連れ去ろうとしたのも、将来に備えて 「かれを殺し、〈アイアンホース〉の新しい指導者になったのは・ の下見のつもりなのかもしれません。この辺のゾクのことは、よく わかっていないのです。だから、ゾクの規模とか、組織力のことと 「なったのは ? 」 かを聞きだそうと思ったのでしよう」 テッドです : : : 」 「たしかに : 「テッド : ロコフは納得した。 俺は呻いた。テッドが : : : 。俺を陥れたあの背信者が、ガーレン 「考えられる話だ」 「なんてことだ : : : 」 を殺し、〈アイアンホース〉のアタマになった ? 「〈アイアンホース〉のアタマになったテッドは、新しいやり方を俺は頭を抱えた。 実行に移しました」 ナは淡々と語った。「それは、すべてのゾ「あなた : : : 」 クとすべての村の征服です」 丿丿ーが小声で囁き、ロコフの肩を軽く叩いた 「まさか : : : 」 「ミーナさんは疲れてますわ、休ませてあげるべきです : : : 」 俺とロコフは同時にミーナの顔を見た。 ミーナの顔色は蒼白たっ 次にショックを受けたのは。ロコフだった。 「まさか、そんな : ・ できるわけがない . 「あとは、あしたにしよう 拳を握り、テー・フルを打った。 即座に、ロコフは一一一口った。 「最初にテッドは三つの村に戦争を仕掛け、その全部を焼き払いま した。ゾクも同じです。ふたつのゾクを選び、急襲しました。これ「ああ : : : 」 も皆殺しでした。そして近隣の村とゾクに降伏と同盟を呼びかけた俺は衝撃に打ちひしがれたままうなずき、ロコフに手を振った。 ロコフよリリー のです。ーーーああなりたくなかったら、〈アイアンホース〉の傘下 の押す車精子で、テントから出ていった。 9