二人 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1980年11月臨時増刊号
422件見つかりました。

1. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

マリウスはいまわしげに、 に、さらにもう一日が過ぎ去っていたのだ。 「誰が化物だか知れたことか , ー・案外、それはあの化物女そのもの建物のあちこちが、・ほう「と青白く冷やかに光「て、灯のかわり 8 じゃないのかね。あのいやらしい笑い顔をみたときは、そんな感しになっていた。それはあの生けるミイラ、アルⅡケートルと同じ、 がして、全身総毛立ったね」 リンの光と見えた。その光にほの白くクラゲのようにうかびあがっ た神殿の中を、白いうすものをひらひらさせた、青白い口をきかぬ 「そんなところかもしれんが : : : 」 タニアの侍女たちが、すべての希望も生そのものも失って久しいと グインはとりあわず、 「しかし、とにかく、そうとすれば迂闊にはこちらも手の内を見せでもいうようすで、のろのろと漂いまわっていた。 られん。タニアが何を知ってお 。り、何を知らないのか、そしてイリ 誰ひとり音をたてるものはなく、神殿全体が異様な沈黙に包まれ スの石とは何で、それをつかってタニアが何を企んでいるのか、そている。それはいっそこの神殿そのものを、あの忌わしい迷路の単 れをできるかぎり探り出して に地上にあらわれている部分にすぎないかのような感じをおこさせ リる。 そこまで云いかけて、グインはハッとしたように押し黙り、マ ウスからとびはなれた。 彼女も湯あみし タニアは、奥まった一室で二人を待っていた。 / マリウスはきよろきよろした。ノ冫 : 彼こよ、別に何の気配も感じられて、衣服を改めたとみえ、髪はふしぎな複雜なかたちに結いあげら なかったからだが、次の瞬間、重いとばりを押しひらいて、タニアれ、白い長い、胸にルーン文字を銀糸でぬいとった経かたびらにし しゅうのある帯をしめて、首から銀のメダルをさげている。あのア の侍女二人が音もなくあらわれたので、もっとぎよっとした。 ルⅡケートルのミイラがさげていたものによく似ていた。 「タニア様がお二人をお食事に招いておいでになります」 奇妙なのろのろした云い方で一人が云う。死んだ魚の目をしてや それは庭に面した室たった。広い室のまん中に大きな大理石のテ がる、とまたさきほどの無感動を装いながらマリウスは考えた。気ーブルがあり、そこにさまざまな食物が盛られていた。赤、 し火酒を のせいか、彼女たちの吐く息までが死んた魚のように生ぐさく、顔注ぐ銀杯もある。そのまわりに毛皮をかけたディヴァンが並べてあ をそむけたくなるほどなのだ。 って、給仕にかしづく侍女たちが待ちうけているところは、冥府宮 「ご招待に応じよう」 のそれとかわらない。 グインが重々しく答え、ぬかるなよ、と云いたげな目をマリウス タニアは物憂げに長椅子から身を起こして、二人を迎え、銀抔を に向けた。 さし出した。二人がそれをとると、すぐには卓につくように云わ す、二人を庭へいざなった。 タニアの侍女が二人に着替えをさせ、案内した。いつのまにか、 すっかり日が暮れていた。アル・ロートの宮廷で大宴会に招かれて「これが、ゾルーディアの死の娘の神殿なのよ」 から牢に入れられ、それを脱出し、闇の迷路をさまよい歩くあいだ 自らもツメを長くのばした細い指に銀杯をつかみながら云う。

2. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

ら、だめだ ! 」 偽ネアンデルタール人のロード・ツヴィ・フスがげらげらと笑いた アトランは立ち去った。かれはもはや一言も言葉を発しなかっした。 ロワ・ダントンは額にしわを寄せ、メントロ・コズムはおかしな ローダンはすぐ精神の均衡をとりもどした。かれの戸がクールに比喩を言ってみたいという欲求が自分のうちでむくむくと頭をもた げるのを感じた。アトランは古代のテラの言葉で悪態をついた。 「ちょっと待ってくれないか , と、かれは背後からアトランに呼び 「てっとりばやくいこうじゃないか」と、ローダンがきりだした。 かけた。アルコン人の提督が立ち止まった。 「諸君は情況を知っているんだから」 ローダンは腕棆型司令装置のスイッチを人れた。戦闘ロポットの 二人のホモ・スペリオルはうなだれた。 調子つばずれな声が聞こえてきた。 「太陽系最高裁判所にきみたちを引き渡すことは、もはやできなく 「拘留されているリコド・エズムラルとテルゾ・ホス。フチャンの二なってしまった。裁判所はもはや存在していないからだ。しかし、 人を、たたちに中央管制室に連れてきてくれ」 それでも自分の権限によって、わたしはきみたちの特赦をとりなす 「承知いたしました。中央管制室に連れていきます」 ことができる。もちろん、これはきみたちがそういった嘆願書を提 アトランはのんびりとした歩調でもどってきた。かれは刺し貫く出したら、という前提のもとでと言っているんたがね」 ようなまなざしで、自分の友人を見つめた。 テルゾ・ホスプチャンが口を開いてそれに答えようとしたが、そ 「小さな親切の " ローダン計画。というわけかな ? さすが、かみれからかれはふたたび口を閉し、くちびるをきつく結んでしまっ そり男と言われるだけのことはあるよ。だが、わたしにはおおよそた。 すべての見当はついている。きみはあのご立派な連中を二人とも釈「きみたちは、しっさいにちゃんとわかっているようたね。よろし 放するつもりだな ? 」 きみたちにたいするわたしの頼みはこうだ。《マルコ・ポー 二人の破壊工作者たちが連れてこられた。 ロ》から立ち去ってくれ。きみたちには、グライダーを一機、自山 太陽系帝国第一執政官はかれらに軽く会釈をし、それからほかのに使わせてあげよう。きみたちは仲間を捜したして、地球の食料経・ 乗組員たちのほうを向いた。 済を支えるロポット工場が破壊されることをなぜわれわれが黙って 「乗組員の諸君、わたしはホモ・スペリオルの価値の有無をめぐる許せないのか、かれらに説明してくれたまえ。そして、きみたちの 激論の間に、あえてインターカムの回線をこの二人の拘留者の船室政治的指導者とわたしの間で会談ができるようにとりはからってく につなげさせてもら「た。だから、この二人はテラの情勢についてれないか。二十四時間の三倍の時間をあけよう。会談の場所は、モ よく知っているはすた。そして、とくにアトランの″人道的″な計 リン日ゴル河の南岸にある精神科学アカデミーた。わかったかね 画についてもね」 230

3. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

他の二人が、ぼんやりしていて気づかないでいてくれればよい いまのところは、かれらがそれのもつおそるべき意味に と思う グインはそれゆえ、岐路に来たときには、瞬時もためろうことな く一方をえらび、他の二人が迷ったりするひまを与えなかった。彼まで思い到っているとは思われない。 には、彼がもし少しでも迷いわすらう風をみせれば、たちまちに他かれらのふみしめる足の下で、地面は、少しづつ、少しづつ、し の、より精神力の弱い二人のはりつめた神経がかき乱されて、恐慌かし確実に、下り坂になっていくようなのた。 状態をきたすであろうことがイヤというほどわかっていたのであ ( この地ド道のどこかの中に、黄泉へとおりる、オフイウスが辿っ る。すべては彼の双肩にかかっていた。彼には、じっくりと考えてていったたて穴もあるといううわさたがね ) イシ、トヴァーンの声が耳によみがえる。 ふるまうゆとりさえ、ゆるされていなかった。 それゆえ、グインは何も云わず、つのりゆく不安や焦燥を決して まさかとは思えたが、しかし、ここはどんな怪異がおこなわれて 二人に悟らせることなく、大股にどんどん先へ、先へと進みつづけ いるのかその全貌は誰ひとりさだかに知るものもない、死の都ゾル ていた。彼には、二人には云えぬひそかな、さしせまった不安と疑 1 ディアなのだ。あるいは、本当に、黄泉の王ドールをまつり、死 惑とがあった どのぐらいのあいだ、もうこの迷路の中を歩きつをその主要産業とするこのゾルーディアにこそ、黄泉の国と、地上 とを結ぶあやしいぬけ道がある、としてもおかしくはないかもしれ づけているものかはわからない。しかし、彼の手の中で、少なくと も三、四ザンかもっと保つはずと思われる、太い長い獣脂ろうそく は、いつの間にかすっかり小さくなって、いまや彼のそれの下の方 ( たが : : : ) の銀紙で巻いた持ち手をにぎる拳にさえ、炎のあっさがそろそろ感 ともかく、少しゆけば、道はまた上りになるかもしれぬ、と強い じられるようになりはじめている。 て自らに云いきかせ、グインは道をたどりつづけた。しかし、その かくしにはまだ二、三本の同じろうそくがあったが、それをつかあてにならぬものにかけた彼の希望をあざ笑うように、むしろ、道 はどんどん下り坂になってゆくいつ。ほうだった。 い果たして闇の中に立往生するようになるずっと前に、二人は ことにミナはすべての体力をつかい果たし、気力がっきて、もう歩その傾斜はごくゆるかったし、すっと何ひとっ景観のひらけて来 けなくなるだろう。誰かがそらごとにでももう駄目だと口にする瞬ない闇の道をたどりつづけることは、どうやら行く者の心に不可解 よ麻痺と、そして一種の半覚醒状態というべきけだるい忘我をもた 間を、グインは切実におそれていたーー誰かがそれを口にした瞬間オ ことにミナがこの が、なかば機械的に前の者の手をつかんで歩きつづけ、足を動かしらす。グインは、その麻痺のおかげで二人が つづけているあいだは何とか保たれている、心の張りが、ふつりと下り坂に気づいてくれぬよう祈った。 さしも多弁なマリウスもすっかり黙りこんでしまっている。闇は 7 音たてて切れ、収拾のつかなくなる瞬間だろう。 ほとんど物質的な重みと、くつきりとしたなまなましい存在感を獲 それにもう一つあるーーグインはひそかにあやぶんでいた。

4. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

「そんなふうにあたしを毛嫌いするけれど、これでもひとたびあたとい、着替えだ。湯あみだ、といつまでもいなくなるようすがない しの抱擁と接吻をうけたらもう決してそれなしではいられなくなるので、ついにたまりかねて、グインが二人たけにしておいてくれる 9 のよ , このアル日ケートルにも、何千回、何万回、年老いすぎてよう、命じたのである。 忘れかけていた欲望に火をつけ埓をあけさせてやったものだかわか「どう思う、このーーこ りやしない。いまではこんな姿になって、何もかもネズミに食いっ マリウスは漠然とそこらへむかって手をふってみせた。 くされてしまったけれどねーーそれはともかく、タニアの神殿に行 二人が招じ入れられたタニアの神殿と称する建物は、広く、がら きたいのでしよう。もう、それは、このすぐ上なのよ。ただ、階段んとした、何がなしおそましい雰囲気の漂う家たった。どのぐらい を上るだけ」 のスペ 1 スをもっているのか、無数の円柱がどのへやにも立ち並 ミイラには目もくれず、ろうそくを吹き消し、一本だけを手にしび、そして、どこも何かしら妙に墓場か、棺を安置しておく部屋め て先に立つ。 いたよどんだ暗さをもっている。 建物は屋根から床まで、どこからどこまで白大理石でできてい グインはちらりとマリウスをうかがい、若者がすっかり呆けて、 狂ってしまったようなうつろな顔で、いまのタニアのことばさえ耳た。町の北寄りに、山の近くにある上に、天井を高く、灯を少なく に入ってはいないようなのを見た。彼は紐を切り、剣をおさめるしてあるので、建物の中は冷んやりとしてその上に暗い。家具調度 などはきわめて少なく、二人の招じられた部屋にも、たた隅の方に と、マリウスの腕をとって《死の娘》について暗い階段へ入った。 こうして二人はタニアの神殿の客となったのである。 白い毛皮を何枚もなげかけた長椅子が二つおいてあるだけだった。 それはやはり、人が日頃住みならしている家のあたたかみというよ りは、神殿やおそましい聖域の息もできぬような感じにみちてい 空気には例の鼻をつく没薬の匂いがしつこく漂っていた。グイン はほっとしたように、 「ようやく、ロをきいてくれたな、マリウス。お前が狂ってしまっ たのではないか、と心配しはじめていたところだったそ」 「ねえーー・グイン」 「ばかばかしい。オフイウスはわざわざ、死人の王に会うべく黄泉 ようやく、グインとマリウスが、二人きりになることができたのに行ったんだ。詩人というものは、決して狂ったりしないもんた は、広い一室におちついてしばらくたってからだった。 とはいうものの」 ずっと、タニアの命令だ、といってたえす何人もの侍女がっきま マリウスは声をおとして、 第四話死者の怒り よ。

5. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

ある。 「こいつも、かわいくない」 ほどなくボビーが戻ってきた。 俺は喘ぎ喘ぎ進んだ。ガキどもは無情にも、たちまち見えなくな っこ 0 「見張りは、間違いなく七人た」ボビーは言った。「正面に三人、 。なんだかひどくだらけている。暑さ が左右に二人、裏手に二人 : 苦闘は実に五時間もつづいた。途中で、みるにみかねて。ヒート 戻ってきた。 のせいかもしれない」 「だらけているのは暑さのせいじゃ 「なに : : : しに : : : きた ? 」 「それは違うな」俺は言った。 ない。かって襲撃を受けたことがないから、だらけているのだ。 俺はゼイゼイと説いた。 昔、俺が見張りを務めたときもそうだった。神殿が襲われることは 「手伝おう。うしろから押す」 ゾクにとって、もっとも神聖な場所たからだ。だから 「ほっ・ 減多にない。 : てくれ : : : 」 「そうよ、 つい、さぼってしまう」 ーしかない」ビートは言った。「作戦が遅れる」 「どうしたらいい ? 」 。ヒートは e を押しはじめた。 ヒトか説いた。 「ちくしよう : : : 」俺は小声でつぶやいた。 「こいつだけは、かわ 「すべては打ち合わせどおりだ」答えたのは、ロコフだった。「二 やっとの思いで、ガキどもと合流した。・ カキどもは待ちくたびれ班に分かれ、配置につく。ふたりが陽動隊、残りが襲撃隊だ。襲撃 、トーン . リ . 1 ー ていた。。、 隊はさらに正面に一〇人、左右に三人ずつ、裏手に六人と分かれ の下で、のんびりと風に吹かれている。 「神殿はどっちだ ? 」 る。武器はもちろん弓だ。必中を期すために、できる限り相手に接 目もくらむ疲労に耐えながら、俺は声を絞りだして、 = ックに近しろ。用意した布を頭からかぶり、地面をそろそろと這っていく のだ。発見されることはない。そう信じて行け。布が大地に溶けこ んでほとんど目立たないことは試してみたお前たちが一番よく知っ 「あっちに二キロ : ているはすだ」 ニックは東の方を、ひょいと指さした。 「あっちだな : : : 」俺は言った。「誰か、斥候にだせ : : : 」 「もう、ポビーが行った」 ガキどもは無言で大きくうなすいた。ロコフはひと息つき、それ ニックは、いやになるほど淡々と言った。 から先をつづけた。 「そうか、もうポビーが行ったか : : : 」 「行動開始からおおよそ五分後、陽動隊が神殿の正面で爆発をおこ 3 俺はヘタへタと坐りこんた。 す。音だけの他愛ない爆弾た。しかし、見張りはその音で何らかの また、小声でつふやいた。 反応を示すたろう。その反応こそが決行の合図た。布を撥ねのけ、

6. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

なってしまっていたのた。 ェクターの損傷が、その時たまたまダッカー・ポジトロニクスによ ローダンが閉廷を宣言した。疲れ果てて、かれは自分の船室にお って組まれていた新しい。フログラミングを妨害してしまったのでし よう。たしかにそんなことはこれまでありえなかったのですが、そもむいた。そこではアトランがすでにかれを待ちかまえていた。 れどころかホス。フチャン君はごていねいにさらに。フースター機関ま このアルコン人は、自分の友人にコーヒーを一杯差したしたし でこわすことができたのです。調整ミスとはいっても、要するにそ「さあ、気分はどうたね ? の言葉の意味からしても損傷をうけたということではありません。 「水の中から引っぱりあげられた猫みたいな気分だよ」 われわれは新たな調整とちょっとした修理を五時間くらいのうちに 「なるほどー : ところで、そもそもきみは、コロムⅡハンが二十 終えてしまうでしよう」 五条にもとづいて死刑を要求していることはわかっているのかね ホス。フチャンがへなへなとくすれ落ちた。かれは子供のように泣 ? 」 していた。アイスパート が考えこんだような様子でかれを見つめ 「もちろんだ。おかげで胃が痛くなったほどたよ」 ローダンが判決を一「ロい渡した。 た。ひき続き、ペリ 「いやはや、なんとも」と、 O の提督が冷やかした。「きみの 「太陽系帝国立法議会の名において、またそれによって代表されるような立場にある執政官ならば、自分の貴重な命のみならす、八千 人類の名においてーー - ーさらにこの人類は超弩級戦艦《マルコ・ポー 人もの忠実な奴隸たちの命をもおびやかした二人の破壊工作者くら 以下の裁決が ロ》の艦内裁判によって代表されているわけだが てれに執政官ならばい い死刑にして満足を感しるはすたがなあ ! 「 下される。 まごろはもう、自分が地球に帰ってからどうやったら二百万人のホ 艦内法廷は被告両人の行動方式や言辞にかんがみ、艦隊法およびモ・スペリオルの代表者たちをただちに撲減できるか、考えこんで す いるたろうね。心理キャンペーンを準備しなければならないー 軍法による最終的判決を下すことを断念せざるをえない。 工ズムラル大尉およびテルゾ・ホスプチャン大尉の両名はテラの戦べての通常人の胸の内に、新人類に対する底知れぬ憎しみをたきっ 艦内において犯罪行為を行なった人物とみなされるだけでなく、人けるといいたろう。そもそも、そんなことはたいした間題ではない 類の存続を危くさせた破壊工作者とみなされねばならない。そのた だろうからね。いったいなぜきみは、そういうことをしようとは考 め艦内法廷は、この二人の将校を拘留し、地球に帰った後に最終的えないんたね ? 」 ローダ . ンはコーヒ ・カッゾを脇に置いた。かれの目は疲労の色 判決を得るために太陽系最高裁判所に身柄を引きわたすものとす を示していた。もはや輝きはなかった。 る」 ホモ・スペリオルの二人の代表者は、もう完全にへなへなとくず「いますぐに話題を変えるか、さもなければ三秒のうちにこのわた れ落ちてしまった。かれらは医務ロポットによってたたちに、艦内しの個室から消えてくれ、 クリニックにかつぎこまれた。二人の男たちは、神経が虚脱状態に アトランは自分の光線銃ベルトをはすして無頓着に隅に投げた

7. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

「我々の軍勢は、四二〇〇だ : : : 」俺は言った。 「これは、〈アイ「そこまで、調べてあったか : : : 」 アンホース〉の本隊とほぼ同数だが、先遣隊も含めれば、三分の二 パンスが感心した。俺は繩張り内の雨の周期をすべて諳んじてい にすぎない。そこで、軍勢を約二〇〇人すっ二一の隊に分け、敵をる。もっともこれはゾクの者ならみなそうだ。 こまめに攻めたてる」 「雨は二時間でやむ。その間戦闘は中止だ。大地はぬかるみ、火は 消える。そのぬかるみで、・ハイクの行動が制限される瞬間をつい 「村人の二〇隊のうち、五隊一〇〇 0 人は、先遣隊の足を止める。 て、西の丘の本陣が動く。〈ファイアポール〉の二〇〇人だ。・ハ これはあらかじめ仕掛けを設けておけるので、比較的たやすい。波クはすべてを使用する」 状攻撃をかけて、これ以上は進ませないのだ。そして、夕刻に本隊「しかし、ぬかるんでいるのは、ほんの一〇分くらいだそ。その後 いったん休戦で、翌未明、再び五隊は前衛をつく。当は、あっという間に大地が乾く」 然、本隊は合流をはかる。そこへ、残る一五隊が、東の丘と東南の 「その一〇分に、俺はすべてを賭けるつもりだ」俺は言った。「火 丘の谷間から一気になたれこむ。火炎爆弾と、ギャスをふんだんに攻めでどれだけの損傷を敵に与えているかにもよるが、もし、敵の 使う火攻めを主体とする」 勢力が二〇〇〇人を欠いていたとしたら、俺たちは敵の中をかいく 「火攻めは、爆弾が切れたときに盛り返されやすいと思うが・ ぐって敵の本陣に達し、〈アイアンホース〉のアタマを倒すことが できる。アタマさえ倒せば、この戦い、俺たちの勝ちだ」 ・ハンスが一 = ロった。 「倒せなければ : ・ 「その攻撃は、二時間もたしてくれればいい」 カシ、、 ールが震える声で訓いた。 「言うまでもない」俺は全員の顔をゆっくりと見回した。「ーー我 「二時間だ : : : 」 我は玉砕する」 俺は指を二本突き出した。 「二時間とはどうして ? 」 「それは、ゼオが良く御存知だ : : : 」 「わしが : ゼオは首を傾げた。 : 、 力すぐに目を輝かせた。 「雨か ? 」 「そうだ」俺はうなずいた。「この日、″美神のヘソ″ 早朝、雨が降る」 一帯には、 久し振りに静かな夜だった。 戦いの準備は完了し、あす、俺たちは血と硝煙の中に身を投し る。すでにニックの率いる一番隊と村人たちで編成したいくつかの 隊が、″美神のヘソ〃へと向かっている。夜明け前には、俺たちも ここを発つ。 そして、多分もう、ここに帰ってくることはない 423

8. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

おり、かれらのサンダルのかかとは、少しでも無造作に足をおろせ つくりと注意しながら階段を上った。 8 ゞ人、 かっーん、と冴えた音をあたりにひびきわたらせたからであ階段を上ると、そこはもう壁も石がむきだしではなく、きれいに 7 る。グインはしかし、まるで豹そのもののように、何の物音もたて錦職りの布が張られ、床も織物がしきつめられていた。しかし、そ ずに先頭に立っていた。ミナはマリウスのうしろにかくれるようにの廊下のそこかしこにみえる扉はびったりとしめきられ、人の中に し、ちょっとでも足音がひびくと、びくりとしてマリウスにしがみ いる気配も、また宮殿につきものの、人が動きまわる活気もない。 「ここは冥府宮の地下二階だな。いったしイ冫 可こっかわれているん だろう」 さいわい、あたりには、人の気配もなく、かれらは身をつつんだ 黒いマントを闇にとけこませるように灯をよけながら、長い廊下 いぶかしさに耐えかねてマリウスが云うと、その声は、ささやき を、 いくつかの岩の扉をぬけて、つきあたりまできた。階段が、無声であったのに、がらんとした廊下へいんいんとひびいて、三人は 造作に。ほかりと開いた人口から、上へ上っているのがみえた。上のあわてて黙りこんだ。 冫いっそう暗かった。 方よ、 グインは鼻にしわをよせて少し考えたが、手近にあるコクタンの 「ーー待て」 ドアへ身をよせ、しばらく中の気配をうかがうと、思いきってそろ そっと階段へ足をかけようとしたグインの首のうしろの毛が逆立そろとひきあげ、のそきこんだ。 った。彼はすばやく二人を制して、壁に身をかくさせ、そろそろと が、たちまち、もとどおりにしめるなり、二人を促す。 マントに身をかくしながら階段の上を見上げた。 「どうした。誰かいたのかい」 彼の異様にするどい嗅覚と聴覚をおどろかせた主は、階段の上り マリウスが好奇心をおさえかねてきくと、グインは首をふった。 ロのところを横切って、おりてくるか、という彼の緊張をよそにす「見ないほうがいい ことにミナは」 うっと消えていった。それは灰色のトーガに身をつつんだ小姓で、 手に小さなカンテラをもち、それから出るささやかな青い光が、鬼「中は、 ミイラ置き場た。十体ばかりのミイラが、中で、蜘蛛の巣 火のようにゆらゆらと彼を先導していた。グインはその小姓が通り にまみれて舞踏会をやっているように並べられていた」 すぎる一瞬、灰色のトーガからのびた細い頸の上の、土気色の死人「うえツ」 のような顔、魚のようにどろりとにごって何の表情もない眼、をみ マリウスはひどいしかめつらをした。しかしもともと、猫よりも 好奇心のつよい男である。そうときいて、グインのあけたのとは別 ( 生きた屍のようなやつらた ) のドアを、そっとひいてみた。 そしてあわててしめた。 グインはロの中でつぶやく。それから、もう、行ってしまって、 あとにつづく気配もない、とみると、静かにうしろへ合図して、ゆ「グインの云うとおりだ。この部屋では、 ミイラが二体、ポッカ遊

9. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

を連中をおびきよせようったってだめですね。わが親友のコズムは た。かれの指揮する宇宙船の艦内では規律が不可欠であり、その規 あんたなんか相手にしませんよ」 律をきっちりと維持することが艦長としてのかれの任務たったとい 5 、つのに。 その時、咳払いの音が聞こえた。それからコズムの声が、ゼルト ・キャツ。フのせいでゆがんで聞こえた。 ローダンとアトランの視線が交差した。二人はにやりと笑った。 「失礼たがね、ネズ パーくん、・ほくはこの立派な人の申しかれらは言葉などなしても、互いを理解しあったのた。 出について、ひとっ徹底的に考えてみようと決心したばかりのとこ ろなんたよ。テラの戦艦の脱水食樶のことを思えば、頭のいい人間 ならば誰たってごく自然にこういう見解に達するだろうさ、なにし ヴェルソ・ホナドリ大尉。《一ノ ~ レコ・ポーロ》につめているこの ろ : ハトロール将校は、ダッカー飛行にともなう危険な瞬間のこと 「ロをつつしめ」というグッキーのかん高い声が聞こえた。「それも、冗談のロ喧嘩のことも心配していなかった。ほかの乗組員たち 以上一言もしゃべるな、さもないとおれはこんりんざい、おまえのと同様にかれの耳にも口喧嘩の様子はよく聞こえていたのだが、か 友達なんかじゃないからな」 れはほんの一瞬たりとて自分の仕事をおろそかにしようとは思わな アトランは、自分の戦闘服の喉もとの留め金をがちゃがちゃと揺かった。 り動かした。 かれの。 ハトロール部隊には警備隊の十人の男たちと五人の戦闘用 「いまいましいにド ) , しったいいつになったらテラナーは、身にロポットが属しており、携帯用の特別な装置を使ってかれはいつで つけていても息がつまらないような宇宙服をつくるようになるのか もロボットたちの動きを。フログラムすることができた。 ね。申し出の件に関しては、承知したよ、ミスタ・コズム」 コントロール部隊は ZCO 四五九四島宇宙での不穏な出来事の間 ローダンは、こういった意見の交換にはこれ以上気を配ってはい に集結させられていた。ほんの二、三週間前、タケルの。へド転移人 なかった。危険な飛行の間に《マルコ・ポ】ロ》の八千人の乗組員 がこっそりと忍びこみ、宇宙船の特に指導的立場にいる者たちの精 たちにできることといったら単なる気晴らしでしかない ローダ神をのっとろうとしたのだ。転移人に精神をのっとられた人間の位 ンにはそれがあまりにもよくわかっていたのだ。 置を示すことができる装置をロポットたちと二人の専門家が一緒に アトランとコズムとグッキーのとった態度は、まったくみごとな なって運んできたのも、そのためたった。地球ではその間に、はる ものだった。もちろんかれらは三人とも同様に、こういった飛行に かにすぐれた装置が開発されていたのたが。 つきものの心理的に危険な瞬間のことをよく知っていたのだ。 ホナドリは自分の部隊とともに、二十二階の第二中甲板にいた。 ローダンは、かれらのちょっとした言葉のやりとりを聞きながしここには貴重な消費物資のための小さな船艙が並んでいる。 ていた。コロム 日ハンもやはり、それをさえぎろうとはしなかっ 迷路のように人りくんた通路、リフト、倉庫、そしてそれらに隣

10. SFマガジン 1980年11月臨時増刊号

は、悲哀にみちて高く低くびびきわたり、他のところからもおこっ ろが、ゾルーディアでは、これこそ最も筋のとおった、聞きなれた 話なのだった。二人の門番は手形をみせろとさえ云わず、さっとまた声があわさってひびきあい、何ともいえぬ憂鬱な気分へ、きくも 3 さかりを上けた。むしろ、グインに、ある種の敬意さえ払ったようのをひきこんでゆく。 「俺は、この町は好かん」 すが感じられた。 グインはあっさり断定した。マリウスは笑った。 「あなたがやすらかに黄泉へたどりつけますように」 「まあそう云うものじゃないさ。それに、ここはーーー入るのはこう 一人が奇妙な印をやせこけた手で切って云い、もう一人がつけ加 いう具合いにやさしいけど、出るのがえらく難しいところでね。ま えた。 あ、その相談をするより先に、まずすることがある。あのマントを 「あなたがよき墓とよきミイラ職人に出会えるように」 買い、二人ともそれをつけるんだ。それがゾルーディアでのしきた 「死におもむくものより祝福を」 りだときいたことがある。それから宿をとり、飯をくいながら、先 勿体ぶって、マリウスが答えた。それがどうやら、ゾルーディア のことを考えよう」 ではあたりまえの挨拶であるらしい 「お前は、まるで、帝王教育をうけた王族のように、何にでもくわ 「死を売る都」に入った。 二人は、なんなく、 しいな」 「妙な匂いがするな」 グインが云った。マリウスは目を細めて連れをみたが、別に皮肉 一歩大門に足をふみ入れるなり、グインが鼻をひくひくさせなが ら云った。たしかに、どんよりと灰色におおわれた市街には、寄妙を云っているようすもないと見てとって、通りを検分にかかる。 たしかに、マリウスのいうとおり、ここではグインの異相さえも で重々しい、不快なくせに妙に快くないこともない、甘たるいよう な、きなくさいような、つんとくるような異臭がたちこめていた。人びとに何の注意もひかぬのだった。灰色の街路を、人びとは、き わめて静かに歩きまわっている。その大半は、門番のと同じ黒い長 「没薬と煙と、業病と死の匂いだよ」 こともなげにマリウスは云った。 いマントにすつ。ほりと身をつつみ、目だけ出している。しかし、そ 「あの声は何だ」 ドクロの 1 も の胸にしるされている模様はひとつづっ徴妙にちがい、 グインがいう。街路のどこでか、オーオ 1 オ 1 オーと、けもののあれば、ドールの凶々しい姿をぬいとったものも、また奇妙な象形 文字で「死」を意味するマ 1 クもあった。 なきわめくような、異様な声がひっきりなしにひびいている。 「葬式があって、泣き女が泣いているのさ」 たまにマントを着ずに歩きまわっている連中は、短い胴衣と半ズ ポンをつけているが、全体に、人々の動作には活気が感じられず、 マリウスが説明した。 まるで夢の中の人のようにのろのろとしている。それも無理はなか 「ここでは一日中きこえているよ」 グインは首をふり、肩をすくめた。耳を傾けていると、その声った。建物にも、空にも、空を舞っているシビトガラスにも、何か