俺は悲鳴をあげた。 「通りすがり : 俺は顔が動かないので、目玉だけをぐるぐると回した。男の背景「暴れるな ! 」 男が俺の尻をひつばたいた。 に広がる空は真っ暗だった。星たけがしきりとまたたいている。こ 俺は歯を喰いしばった。 んな夜中に通りすがり : 「とにかく、起き上がらんか : : : 」男は人なっこそうな笑みを浮か「たつぶり塗っとこう。俺の村だけで使われている特製の傷薬だ。 効き目がすごいそ」 「ハイウェイで寝ていては、ロクなことにならんそ。 べて言った。 さらに薬がかけられた。痛みが倍になった。脂汗が噴き出し、そ それも毛布ではなく、・ハイクにくるまっていたんではなーーー」 「からたが動かないんた」俺は言った。「足にケガをしていて出血れが目の中に流れこんだ。踏んだり蹴ったりだ。 ビリビリと布を引き裂く音がした。布は、俺の太ももに巻かれた。 が止まらない。ほっておいたら、全身が麻痺した」 「ムチャクチャをやる : : : 」 「ようし、これで大丈夫だ」 またガラガラという音とともに、男が戻ってきた。 男は俺の視野から消えた。俺は腕を額の下に置き、左の頬をハイ ウェイの路面にあてているので視野がふつうの三分の一しかない。 「さて、上体を起こしてやろう」 三分の二は路面を見ているのだ。 男はまず、俺を仰向けにした。そして俺の背中に両腕をつつこ 男は、俺の足の様子を調べに行ったようだった。何の音たかわかみ、俺を押し上げた。俺も腹筋に力をこめ、それに協力した。 らないが、ガラガラというやけにけたたましい音がした。 勢いよく、上体が起きた。 「右足だな : : : 」 「うまくいった : : : 」 田刀、刀ノ、ノ、 、ノ。、ノと手を打った。 声がして、俺の右足がパイクから引きだされた。 「こいつはひどい」男は驚いたようだった。「腫れあがって熱を持俺は首をめぐらし、男を見た。俺の正面に男の顔があった。見上 っている。このままにしといたら腐っちまうそ」 げたのではない。真ん前た。俺は男がしやがんでいるのかと思っ 「クスリがない」 た。しかし、そうではなかった。 俺は言った。 男は木でできた箱の中にいた。車輪がついている浅い箱た。その 「待ってろ。今、俺が手当てしてやる」 なかに座りこんでいるのだ。男は真っ黒な布に身を包み、左手にち ろちろと炎の燃える火繩、右手に片方を尖がらせた長い棒を持って 男はゴソゴソと何かを探りはじめた。 「少ししみるが、我慢しろよ」 「あんた、いたし : 何か冷たいドロッとしたものが俺の太ももにかけられた。 俺は、男の姿をいぶかしんだ。 「うあっち ! 」 342
た。ゾクでは、ケガをしたやつも病気になったやつも、みな仲間だ 「驚いたかね ? 」男は言った。「俺は病気で足が使えないんだ」 った。ゾク全体で面倒をみたのだ。けっして捨てるようなことはし 「病気 ? 」 「ある朝のことだ。目が醒めて、立とうとしたら立てないんだ。完なかった。死ねなどとは言わなかった。 「ーーで、あんたは黙って、それに従ったのか ? 」 全に麻痺していてね。さっききみも味わっただろう。あれだ。俺の 場合はそれが両足で、原因不明だったんだ」 「従った」男はうなずいた。「村には村の掟がある。逆らっても無 駄だ。一と月前、俺はこの箱車に乗って村をでた。曠野はちょっと 「そいつは、ひどい : きついが、ハイウェイならまあまあのペースで進めた」 俺には、その恐ろしさがしみじみとわかった。 「腰から下が、まるで自分のものじゃないみたいでね。俺は泣き喚「運が良かったんだな : : : 」 おさ 「ところで、あんたは、どうし いたよ。村の長が診てくれたんだが、結局は首を振って手に負えな「運が良かった」男はまた笑った。 てこんなところでひっくり返っていたんだ ? 」 と言った」 「俺も掟にひっかかったのさ : : : 」 「それで、そんな箱をつくったのか : : : 」 俺は箱車を指さした。 俺はこれまでのことをす・ヘて、男に語った。男はニコニコと興味 「棒で漕いで進むんだが、慣れればけっこう速く動ける」 深そうに、俺の話を聞いた。途中で俺の腹が盛大に鳴った。男は俺 男はアハハハと笑った。 にデ・ホンの実をひとっくれた。俺はそいつをかじりながら、しゃべ 「しかし : : : 」俺は説いた。「そんなからだで、なぜ今ごろハイウりつづけた。 ェイをうろついているんだ ? 夜はキマイラの時間だ。五体満足な「 : : : どこへ行こうというあてはないが、俺はどこかに行くつもり だ」俺は言った。「スタチオンはハイウェイ沿いなら必ずあるし、 村人でも夜は家にこもっているそ」 の調子も悪くない。ちょっと傷だらけになったがね」 「俺はもう村人ではない」 「なるほど : : : 」 男は真顔に戻り、かぶりを振った。 「なんだって ? 」 「あんた、俺と一緒に行かないか ? 」俺はふと思ったことを言って 「村を追われたのだ。働けない者は村にはおられない。俺はいくばみた。「タンデムシートが空いてるんだ。箱車よりは楽な旅ができ る・せ」 くかの食糧と小物を与えられ、村からでるように言われた : : : 」 「そんな無茶な ! 」俺は目を剥いた。「それじゃ、死ねと言ってる「そうだな : : : 」男は一瞬考えこみ、そして答えた。「そうしょ のと同じだ ! 」 「そう言ってるのさ : : : 」 「決まったぜ」 ゾクでは考えられない話だった。俺は背筋が寒くなるのをおぼえ俺は男の肩を借りて、よろよろと立ち上がった。男の薬の効き目 う」 343
「そうだ」 だ。ロコフが急発進に備えて身構えた。 ロコフが答えた。 勢いよくスロットルを開け、クラッチをポンとつないだ。 「食糧は好きなだけやる。持っていけ」 飛び出すと同時にアクセルターン。 男は吐き捨てるように言った。 商隊はうろたえるヒマもない。 「ありがたい話だ」 e をびたりと五人目の男の脇につけた。 俺は奪ったショットガンを腰だめに構え、から降りた。 すかさずロコフが鱆の銃口を男の後頭部に押しつける。俺は、 左手を伸ばして男のショットガンをホルスターから抜き取った。・フ「銃は路上に置け ! 」俺は言った。「もう一丁だけもらうが、あと ラウニングのー 5 。・ヘンチレーター付の自動銃だ。上物であは残していく。だから、いったん下に置くんだ」 「嘘たそ ! 」 る。 だしぬけに誰かが叫んだ。俺はびつくりした。嘘だって ? 「動くな ! 」 「こいつらはゾクだ ! 逃げろ ! 」 ロコフが、凛と響く声で怒鳴った。 のエンジンが唸りをあげ、商隊は俺たちの警告もどこへや 「銃を構えるやつがいたら、こいつの頭を吹きとばす。黙って・フレ ら、一斉に動き出した。 ーキかけ、ゆっくりと停止しろ ! 」 なんだ ? 」 「待て ! おい 脅しは効を奏した。商隊はすみやかに停まった。 「停まるんじゃない ! 」銃を突きつけられた男が喚いた。「俺のこ俺はあっけにとられるばかり。これはどういうことだ。 ーダーのも発進した。装弾のないを抱えているロコフ とは無視して、こいつらを射殺しろ ! 」 には何もできない。 冗談じゃない。そんなことされてたまるか。俺はいきりたった。 ロコフもそう思ったらしく、「黙れ」と一喝して、男の頭をで「ちょ、ちょっと : ぶざまに目を白黒させている。 こづいた。俺は男ののフロントブレーキを勝手に握った。もち 「待てったら、待てよ ! 」 ろんも停まった。 「われわれはゾクではない」ロ「フが言った。「ちょ「と食糧に乏俺は ( イウ = イの真ん中に仁王立ちになり、ショ〉トガンを振り 全速力だ。さつばりわけ しい旅の者だ。荷物を根こそぎ奪う気などないのだ。ただ、われわ回した。商隊はあとも見ずに去っていく。 がわからない。 れふたりが一週間ほど餓えないですむだけの食糧が欲しい。それだ 俺はであとを追うことも忘れて、茫然と突っ立っていた。 けだ」 「なんだ、こりや ? 」 「本当にそうなのか ? 」 ロコフが、ポケッと口を開けて、俺の方を振り返った。 銃を突きつけられた男が説いた。 355
の皮膚が裂けたのである。重傷でもなんでもない。かすり傷た。装が、野太く、人を支配する威厳を有した声だった。 弾は大きくそれていた。 男の動きが、すくむように止まった。俺も反射的に・フレーキをか 肩越しに、俺の顔面へと手が伸びてきた。ロコフの手だ。人差指けた。 の先にべっとりと薬が付いている。ロコフは、それを俺の額にっ ざわざわとの列が開いた。 た。痛みは別として、血が目にはいらなくなった。 その間から、ひとりの老人があらわれた。 一方、その間にも・ ( イクは前進をつづけていた。「ースはいささ背の低い、小柄な老人だ「た。粗末な、グレイの上着とズボンを かよれたが、距離はたしかに詰まっていた。ショットガンの男と俺身につけている。 とは、もう目と鼻ほどに ) い 老人は、ショッ。 トカンの男の脇に立った。鋭い眼光に、短く刈っ 「ち、ちくしよう、ちくしよう : た銀色の髪。しかし、表情は温和で、誰にでも親しみを感しさせる 男はまた、ショットガンの狙いを俺につけていた。今度は何があ穏やかさが老人の周囲にはあった。 ろうとも外しはしないだろう。目を閉じて撃っても、命中する。 「銃を下げなさい、 ハンス」 俺は平静だった。しが、かってなかったほどに静かだった。、 っ老人は男に言った。・ ( ンスは素直にそれに従った。 の間にか恐怖が消えていた。俺に向けられた・フラウ = ングー 5 「〈ファイアポール〉のアタマでしたな : : : 」 の銃口が、はっきりと見えた。 老人は、俺に向き直った。 ほどなく、あそこから放たれた散弾が、俺のからだをずたずたに 「アキラといいます」 切り裂く俺にはわかっていた。だが、回避しようとは思わなかっ 俺はを傾けないように気をつけ、シートから降りた。 た。死は目醒めることのない眠りにすぎない。眠りにつくのが、な メインスタンドを立てて、老人に歩み寄る。にまたがった村 ぜ怖いのだ。それよりも、俺は前進しないことを恐れた。俺はたぶ人たちの視線が冷ややかだ。 んこの世界で、何もなさなかった男のひとりだろう。その俺が何か 握手した。陽灼けした老人の腕には、強い力があった。 をなすとすれば、それは今、俺の信念に従って、まっすぐに進むこ とた。この行為は、何も生まない。しかし、この行為のあとには必 っ 0 ず何かが生まれる。俺はそう信じていた。 トリカーこ 冫かかった男の指先に力が加わった。俺は昻然と胸を張「わたしがこの村の長、レダク : ・ : ・」 老人は名乗った。 「わたしに会いたいと言われているそうだが : : : 」 凛と響く声が、俺と男との間に割ってはいった。若い声ではない 「話があります。大切な話だ」 4 田
殺意をこめて、トリガーを引いた。 央の男たった。 銃声。炎。ーーそして、俺の左横にいた旗持ちが吹っ飛んだ。 「会うまでは、帰らない ! 」 白い旗が、朱に染まった。搭乗する XJ400 が転倒した。けた 俺は応じた。会わなければ、帰れないのだ。 「ゾクに用はない ! 」また、さっきの男が言った。「とっとと帰たましい音が、俺の鼓膜を激しく打った。 俺は振り向かなかった。旗持ちの様子は、・ ( ックミラーで見た。 れ。それと、からだ中を穴だらけにされたいか ? 」 旗持ちは上体が血にまみれ、びくりとも動かなかった。 ・ハイクの列が、どっと笑った。 「俺たちは丸腰で来た」俺は言った。「戦う意思は毛頭ない。長に俺は唇を噛み、前進をつづけた。後続の七台も俺にならった。こ れは誰もが覚悟していたことだった。誰が死んでも停まらない。誰 会って、話をしたいだけだ」 が死んでも振り向かない。俺たちは悲しみと怒りを胸の奥におしこ 「話すことなどない。帰れ ! 」 んで、ただひたすらに前へと進む。そのために、俺たちはここへ来 俺は男の言を無視し、左手を挙げてサインを送った。 たのだ。 微速前進の合図である。 ほとんどアイドリングでクラッチをつなぎ、九台のイクはそろ彼我の距離が、三〇メートルを割った。 村人は動揺していた。パイクの列がざわっき、どよめいていた。 そろと動き出した。 「こっちへ来るな ! 」村の男が血相を変え、怒鳴った。「近づけば「来るな ! 」 また、中央の男が叫んた。恐怖に顔がひきつっていた。目が血走 射殺する ! 」 り、唇をわななかせている。 いま「ちくしよう ! 」 俺は、黙って N を走らせた。怖くないといえば嘘になるが、 ショットガンを構え直した。手がぶるぶると震えている。 さら怯えていてもしようがない トリガーを絞った。 「来るな ! 」 銃声が、蒼空に響き渡った。ビクッと俺の神経が震えた。男が天銃声と同時に、硬い棒で痛打される感覚が、俺の額をみまった。 に向けて一発、撃ったのた。警告である。ロで言っても無駄だと悟 キーンと耳が鳴り、一瞬、目がくらんだ。閃光が弾けて飛ぶ。や ったのだろう。だが、ロでなくても、無駄たった。 がて光の乱舞は鎮まり、闇になった。 俺たちは誰も停まらなかった。じりじりと、スイクを進ませた。 俺は固くつぶってしまった両眼を、そうっと開いた。顔の右半分 「そうか : : : 」 が痺れて、熱い。 視野が、真っ赤に染まっていた。 男が、水平に銃を構えた。 よく見ると右側だけたった。右の額を散弾の一発がかすめ、そこ 「退く気はないんだな」 4 ワ
が合ったような気がした。 再び銃声がほとばしった。 三本の矢が、ひとりの男をほぼ同時に貫いた。 ビートの顔が、吹き飛んだ。 俺の前に立っ男は、首、胸、腹に矢を受けた。 俺のショットガンが、ようやく咆えた。 即死である。 の男が、ズタズタになった。 もんどりうって、倒れた。 首から上を失った。ヒートのからたは、階段をどこまでも転げ落ち 俺はあわてて、あとふたりの姿を求めた。階段の右と左にひとり ずつ、だらりと弛緩して転がっている男がいた。あのふたりがそうていく。 だ。片づけたのだ。 俺の周囲が、魂消る悲鳴で満たされた。 俺はほうと息をついだ。安堵の息だった。 俺は動けなかった。どうしても動けなかった。 ようやく階段に達した。早足で昇りはじめた。 「アキラ ! 」 ドコーンという銃声が鳴り響いた。 誰かに名前を呼ばれた。 ハッとして、おもてをあげた。 俺の右手で、ガキのひとりが肩を朱に染めて突っ立っていた。目「アキラ、どうした ? 」 を見開き、信じられないといった表情をしている。その真ん前に、 俺は我に返った。 先ほどまで死体だとばかり思っていた男が、上体をもたげ、を振り向くと、階段の下にに乗ったリリーとロコフがいた。怒 構えている。 鳴っているのはロコフだ。 「アキラ、何をしている ? 中にはいれ、神殿にはいって・ハイクを トリガ 1 に掛かる男の指に力が加わった。 揃えろ ! 」 撃つんだ、あいつをー トが撃たれた ! 」 俺の精神が俺の筋肉を叱咤した。 「ヒトが : : : 」俺は震える声で言った。 「お前にはやること 俺の反応が鈍い。 「今は忘れろ ! 」ロコフは冷たく言い放った。 「ディック ! 」 がある。それをやれ ! 」 「しかし ! 」 叫び声があがった。 「神殿にはいれ ! 」 黒い影が、俺の脇をすり抜けた。 血に染まったガキを突き飛ばした。それが、俺にはまるでスロー 俺はきびすを返した。俺のまわりにガキどもが集まっていた。俺 モーションのように見えた。 を取りまく、不安そうな顔、顔、顔 : 黒い影は。ヒートだった。。ヒートの顔が、こっちを向いた。俺と目「中にはいるそ ! 」 こころ 375
ーて ダッグ これは どうしたのさ あんたいっ ( も ) 一 第 ( ) 「】会ったのさ あの男と , 一おれんだよ , 一金なんかないよ 盗んだのかい , あたしにだまって一 ー」「 / つつあんな男と かあさんを 捨てる気だ どなるなよ、 0 なん おやじが くれたんだ たのむ , 2 引
今度は五人が一斉にせせら笑った。 声を掛けた男だった。 男は右手にを持ち、そのストックで自分の肩をトントンと叩「てめえら、どこのゾクだ ? 」 俺は歯を噛み鳴らし、説いた。 いていた。どことなく見覚えのある男だった。 「言えねえな、そいつは ? 」 俺は思いあたった。 >-Äの横で倒れていたのが、こいったった。 「おめえ : ・ 車座の右からふたり目が、かぶりを振った。こいつは先ほどから と、ひとりの男が口を開いた。車座になった四人のうちの右端の何かをくちゃくちゃと噛んでいる。 男たった。 「女を捜しにやらせるようなゾクだ。どうせ、たいしたとこじゃあ 「おめえ、アタマだな ? 〈ファイアポール〉の : : : 」 るまい」 「たったら、どうした ? 」 俺は嘲笑し、相手をあおって答を引き出そうとした。しかし、そ つはうまくいカオカナ 俺は昻然と説き返した。いささか・フラフだったが、アタマと知ら 「うるせえ ! 」 れている以上、このくらいの態度は見せてやりたい。 「〈ファ答のかわりに立っているやつのパンチが飛んできた。俺は横に吹 「ちょうどいい手みやげつてことよ」男はせせら笑った。 ィアポール〉のやつをついでにひとりかふたりさらってこいと言わっとび、顔面から地面に倒れた。ロの中が砂だらけになった。 れていたが、まさかアタマが飛びこんでくるとは思わなかった。あ「話はこれでおわりだ ! 」 の六人を殺っちまったから、ちょいと困っていたんだが、こいつは やつは咆えるように言った。 かえって良かったってわけだ」 「さっさと寝ちまいな。お前が手にはいったからには、女なんそど 「ふざけたことをぬかしやがって : : : 」俺の頭に、カッと血が昇つうでもいし 。あすの朝にはこっから連れ出してやる。そしたら、お 「どういうわけで、俺の繩張りン中で勝手なマネをさらすんだ前の知りたいことも、ちゃんとわかるさ」 俺はそのままにされ、引き起こしてもらえなかった。地べたに顔 「どういうわけも、こういうわけもねえ」立っているやつが言っをこすりつけて寝ろというのだ。なかなかけっこうな待遇をしてく た。「俺たちは、人探しに来たんだよ。女をひとりな。ただ、それれる。 だけではやばい橋を渡るのもおもしろくねえから、ついでに話の聞 やがて夜は更け、五人が眠りにおちた。不寝番がひとりはいるは けそうなやつをひとり連れて帰ろうっていうんた。それがアタマだずだが、そいつも寝てしまったようだ。地表以外には何も見えない ったってのは、大の金星だな」 ので、本当にそうかはわからない。しかし、もし起きていれば何ら 「俺を連れて、繩張りから出られると思っているのか ? 」 かの気配が伝わってくるはずだ。それがないのは、やはり寝ている からに違いなかった。 「出てみせるさ : : : 」 4 9
アーンの塚があり、そこから三〇メートルほどのところである。 俺の背筋が、ゾクリと冷えた。 近づくにつれ、倒れているのが、・ハイクだけではないことがわか った。その横に黒いつなぎを着た男も、ひとり倒れていた。黒いっ なぎは、やつらの服装と同じだ。 ・ハイクは i-ä 4 0 0 のカスタムだった。俺は確信した。こいつは 一時間以上も走り回ったが、轍は見つからなかった。こちらではやつらのひとりだ。 ないのだろうと思ったが、銃声による合図も、まったくなかった。 用心のため一〇メートルあまりの距離をおいてを停め、組を 腰だめに構えてシートから降りた。 それそれが受け持っセクターは広い。俺はあらためて相当の時間が 四囲に目を配り、足音をひそめて接近する。引を発射してカー かかることを覚悟した。 さらにもう一時間ほど走った。やはり、やつらの通った痕跡は見ビイたちにこのことを知らせようかと思ったが、そいつはあとまわ しにした。まず、この男の生死を確認するのが先だ。 あたらなかった。俺は舌打ちし、唇を噛んだ。そろそろャン・スー が仲間を連れて現場に戻ってくる頃た。陽が西に傾きだしている。 男はびくりとも動かなかった。ヘルメットはかぶっておらず、う 俺はいったん引き返すことにした。なによりもギャスが乏しくなっ伏せだった。額から首筋にかけて、黒い血だまりができている。 っていた。こんなところでギャス欠になっては二進も三進もいかな p-äは、こちらから見て、男の右側にひっくり返っていた。損傷 くなる。 の程度はよくわからないが、フロントウインカーが一個割れ、タン 俺はターンし、六〇キロ前後の速度で、南西へと向かった。 デムシートに積んであった荷物が散らばり、あたり一面に広がって 帰りかけて一〇分も経たないときだった。 いることだけは見てとれた。それと、右の・ハックミラーのステーも 俺の目が、西の地平近くで陽光にきらめく何かを捉えた。石とか曲がっているらしい 水の反射ではない。あれは金属の放っ光だ。 俺はしりじりと進んた。怪しい動きは、どこにも感しられなかっ 俺は反射的にスロットルを開け、シフトアツ。フした。エンジンのた。男にあと二メ 1 トルと近づいたとき、俺はもう大丈夫だと判断 音が、猛々しいものになった。 した。男はここに気絶しているか死んでいるかしていて、仲間は周 囲にいない。 ほ・ほ最高速で、俺はその光をめざした。 七、八〇〇メートル手前で、俺はその金属の光が、転倒した・ ( イ俺はわずかに警戒を緩め、無造作に次の一歩を踏みだした。 クのフェンダーによる照り返したと知った。 それが、いけなかった。 ・ ( イクが一台、曠野の真ん中に転がっているのだ。左手に巨大な俺の視界が、くるりと一回転した。右足に激痛が走った。 掟だ ! 」 俺はギアをローに蹴りこんた。 怒りの唸りを轟かせて、四台の・ハイクは四方に散った。 っ ~ 9
ている ! かれらは皆、助けを必要としているんだよ」 空間にとどまることを要求する。つまり、おれが理性を持っていら アイス・ハートはいまや、やっとのことで自制しているという様子れる所にいたいということだ。このおれをもう一度白痴化効果にさ だった。その背後では、画像には映っていない男たちが叫び声を上らすなんてことは、許さないからな。おれはあんたにそれを禁止す げていた。 るそ、禁止 : : : する : 「さあ、いよいよおつばじまりますよ」と、メントロ・コズムがひ握りこぶしが・ほんやりと姿を現わした。ェアトルーザーのハルト ム・マニスのげんこつだった。荒れ狂っていた男は、意識を失って そひそ声で言った。ローダンがかれに合図をした。 「つまり、われわれの希望を受け入れることを拒むというのですねくすれ落ちた。 ! 」と、アイス・ハ】ト が確かめた。「こっちの意見なんか、そちら マニスがスクリーンに現われた。 にはどうでもいし 、ってわけだ、そうですね ? 」 「しかたなかったんです」と、かれがわびた。「この若い男には、 「そんなことはまったくない。わたしは、何億、何兆もの人間たちそんなことを耐えることができないんですから。ほかの多くの者た のためには八千人の男女は無理でない程度に犠牲を払うべきた、とちにとってもそうです。さて、情況はどんなぐあいなんですか、サ 1 ーっ・・ 考えているだけだ」 本当にわれわれを犠牲にするつもりなんですか ? 」 「軍人の立場で思考する太陽系艦隊総司令官として、また修練をつ「誰もきみたちのことを犠牲になどしないさ。わたしにもそんなっ もりはまったくない と、ローダンが答えた。「さあ、免疫を持っ んだ政治家として、そういうことをおっしやるわけですね」 ローダンは深く息を吸いこんた。かれは内面の平静さを求めて努た者たちがいっしょになって話し合ったことをよく聞いてくれ」 ローダンは会議の内容をもう一度説明し、さらに話を進めた。 力していた。 「地球の情況がどんなふうに展開したのかわかれば、もっといろい 「それは考え違いというものだよ、教授。わたしは責任を自覚した 一個の人間として言っているだけだ。自分の個人的な安全を前面にろなことがわかるようになるだろう。情況が絶望的で救いがたいも のだったら、われわれはアンドロメダに向かわざるをえない。しか 押しだす権利は、きみたちにはないはずだろう」 し、その前にわれわれは太陽系がどうなっているのか、どのくらい 誰かがまるで狂人のように叫び声を上げた。 の時間をわれわれが失ってしまったのか、そしてタケル人たちの侵 ローダンの知らない若い男が心理学者をわきに突きのけて、カメ 略がどういう経過をたどったのかを知らねばならない。きみたちは ラの前に立った。この見知らぬ男の顔は歪んでいた。 「あんたは、自分の政治的目的を達成するだけのために、おれたちもう一度白痴化してしまうだろう、それはそのとおりだ。しかし、 をもう一度白痴化させようってんた。確かに、あんたら免疫を持っその際に痛みを感じたとでもいうのかね ? 誰かがきみに危害を加 ている連中にはそれでいいだろうさ。いくらご機嫌をとったって、 えたかね ? ひょっとしてきみが、腹がへっているとか、あるいは われわれ そんなことはあんたの作戦以外の何物でもないね。おれは、リニアのどがかわいているというようなことでもあるのかねフ 幻 3