カール - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1981年3月号
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1. SFマガジン 1981年3月号

りしかいない。 「ううん、病気じゃないの。ただーーおお、どう云っていいかわか 翌年、 = リスンは、金星の原子炉事故で、死んだ。す「かり気落らないわ。カール、あなたでなくちやためなの。おお・・ : : わたし、 ちしたアリシアは、調査機関をぬけて、地上勤務に戻れるよう申請どうしたら : ・ : ・」 し、本来の、宇宙生物学会での研究生活に人った。・ほくは新しいク 「すぐ、行く」 ルーと組んで、あいかわらすの風来坊だった。 ・ほくは超音速機をチャーターして、オーストラリアにある、宇宙 「あなたが思「てるほど、ひどいことはないのよ、カール。もとも生物学会の第三研究所へかけつけた。いろいろ討議の結果、ここが とわたしは、地道な研究にむいてるのがわかってたし、それに いちばんラン・フラーに気候や地理が似かよっている、というのでき 少なくともミ、 キーと、いつもそばにいられるしね」 められた場所だ。 アリシアは、見舞に訪れた・ほくにぼつりともらした。 アリシアは、誰も近づけぬよう別室をしつらえて待っていた。ひ 「ミッキーがいてくれるので、とても大きななぐさめになるの。ださびさに会うミッキーはいよいよ元気そうで、ころころして、・ほく んたん、どうしようもないくらい、あの子がかわいくなるわ」 を思わずほほえませたが、それよりもアリシアの惑乱ぶりが。ほくを あまり、地上の生あるものに愛をかたむけるのはおろかなことおどろかせた。 た。まして、ランプラー 「カール。 ・マウスが何年生きるものか知らないが、 カール、わたし : ・ : ・」 あのからだの大きさからするに、人間よりは短命たろう。 「一体どうしたっていうーー」 が死んだらどんなにアリシアが悲しい思いをするかーー・人間の友人「わたしが云うより、直接、かれにぎいた方が早いわ。 や親兄弟の死とはまたちがう。十年も共に暮した老犬や、大猫の死 カールなら、かまわないでしよ。彼にも、わたしに云ったとお を思いうかべて、・ほくは暗澹としたが、ひとり・ほっちになったばか り、云ってちょうだい」 りのアリシアには、どうしても云うことができなかった。 「アリシア、きみ : : : 」 だがーーーわれわれと『ラン・フラー』とのかかわりあいは、まだす何をふざけてるんだ、と云おうとしたとき べておわったわけでさえなかった。そうしてアリシアがミッキーの ( ようこそ、カール。会いたかった ) 近くで暮らしはじめて、三ヶ月ばかりた「たとき、休暇で帰るのを人なっこい、深みのある思考が、・ほくの頭い「ばいにひびきわた 待ちかねて、アリシアからぼくに連絡があったのである。 「いますぐ、研究所にきて、カール」 それが、目の前で、手を胸にちょこんとそろえて、かわいらしい かれが、どうかしたのか ? 病気でも・ : : ・」 目でぼくを見つめている、ミッキー・マウスのテレ。 ( シー ・こ、ン」の ぼくはアリシアのただならぬ顔には「と胸をつかれながらききかみこめるまで、しばらくのあいだぼくはき = とんとしていた。 えした。 おまえ : に 6

2. SFマガジン 1981年3月号

しいんだ、カール。アリシ ( やっと、きみたちと、コンタクトをとれた ) ( つれてきて、ということ ? それは、 ・ほくは呆然としてアリシアをふりかえった。アリシアはカなくうアにはもうわかってもらった 私が、来たいと望んだんたよ。私 なづいてみせた。 は、君たちの文明のパターンを見きわめたかった。何か、われわれ 「そうよ。そうなのよ。かれは、きわめて高い知性をもっているのの文明が、もっていない見地や、境地があれば、それをとり入れた よーーーきいて ! 」 かった。しかし、これまででもうじゅうぶんわかったよ。君たちの ( すっと、はじめから、コンタクトをとろうとしつづけたのだが、文明はーーそれは、そうした方向性を選んだ君たちの意志なのだか きみたちは例外なく心が外部に対して閉じていて : : : アリシアのよら、何と批判するいわれもないが、つまるところ、いささか、われ うに、私を心から愛してくれてもね。それにきみたちの種族の精神われのものとは違いすぎているようでね ) 構造は、きわめて特異なゆがみをもっていて : : : 個体の段階で閉じ奇妙な、心惑わせる、幻想的な体験ー てしまうのだね。それに、私としても、私のいうことをみなきい 頭にひびきわたる、深くてゆたかなテレ。ハシーは、成熟した、お て、・なお私の困るような事態をもたらしはしない人間としか、コン だやかでゆとりのある知性と、やさしく繊細な感性をあわせもつ、 タクトをとりたくなかったのでね ) 哲学者の魂を思わせた。目をひらくと、そこにいるのは、かわいい ミッキー、おまえたちは、ラン・フラー マウスは・ しかつめらしい表情でぼくとアリシアを等分に見つめている、まじ めくさった小さなねずみなのだ。 ( さよう。やれやれ、やっとこれで話ができるーー、われわれは、き ( きみはそう云うが、カール、これはわれわれにもはしめての経験 みたちのいうところの、高度な精神文明を育てた生物だ。しかし、 だったよー これまでさまざまな種族と、さまざまなコンタクトを きみたちのように、物質文明と並行する形は、 いっさいなかったかしてきたが、いきなり、さよう いきなり、『かわいい』という ら、きみたちから見ると、ごく原始的な動物にみえるだろうね ) 情動をあびせかけられたのは。というか : : : 他の種族には、あまり 「おお、 ッキー。なんてこった」 見たことのない情動だった。保護欲、優位の確信、専有欲、一方的 としか、・ほくには云えなかった。 な愛情ー・ーこれはきわめて興味ぶかいものだった。そこで私は君た 「なぜ、そうとひとこと : ・・ : 」 ちについて来ようと思った ) ( 云ったところで、きみたちは、信じなかったにちがいない。前に 「どうして、もっと早く なぜ、いまになって : : : 人がわるいな も云ったろう われわれは何度も、きみたちとコンタクトしようあ、ミッキー : ・ほくは、だね。きみをいつも、小さなネズ公、と とした。しかし、きみたちは、それを、人なっこい、といった、漠かチビちゃんといったけど、別にそれは、ばかにして云ったのじゃ 然とした情動としてしかうけとれなかったのでね ) なく : : : 」 「ミッキー。それじゃ、・ほくたちは、そのーー君を : : : 」 ( わかってる、カール。珍しい精神パターンといったのは、それな ー 5 7

3. SFマガジン 1981年3月号

「なるほど、これは、眉つばだ」 の大酋長の血が流れてるんだ」 ばくはつぶやいた。 ・ほくはにやりと笑った。 「星図にない星なんてものに、そうひょこひょこ出て来られちゃ 「それは無慮三千年近く前の話だがね。それにぼくの祖母のいとこ の子は、太陽系きっての有名なコメディアンだったんだぜ。おまけあーー」 「よかったわ」 感情のない声でアリシアが云った。 「カールのよた話を信じちゃだめよ、兄さん」 「ワー。フ地点から、三百光年くらいはなれたところで。知らすにあ アリシアが笑いながら云った。 「彼は自分にも冗談がいえることを、自分で証明してみたいだけなまり近くに座標をとっていたら、その星の重力に影響されて、大事 んだから」 故になるところだったわ」 「それならエア・ロックででもやってもらいたいね」 「たしかに宇宙ってやつは、とうてい隅から隅まで知りつくしたと エリスンは片目をつぶってみせた。 は云えないが、しかし、このへんでも、ともかく星図はできている 「しかしこの際は、たとえシッティング・ブルのそれであれ、ユー んだからね」 エリスンがぶつぶつ云った。 モアのセンスは大歓迎だ。おかしなことを説明するには、なまじな 学説より、駄じゃれの方がうがっているからな」 「星が子どもを生みやすまいし、そうひょこひょこ、新星が発見さ れては困っちまうよ」 エリスンは、どうだといわぬばかりに。ハネルの一点を指さした。 彼の大きな指さきのおさえている場所から、少しはなれたところ「そう、頭から新星と決めることはない。何か、遭難した宇宙船っ に、赤く点減している、小さな光点があった。じっと見ているとゆてことも考えられるし、それに るやかに上へむかって移動しつつあることのわかるその点が、すな「そう云いながら、自分でも、ちっともそんなこたあ、あんたは信 わちわれわれの乗った調査船《ビザンチウム 8 》である。 じちゃいないんだよ、カール」 「それが ? 」 おかしそうにエリスンが云い、かちりとパネルの部分拡大スイツ チを押した。 「星図をみてくれよ」 。、、レ、つ。よいこうかひあが ぼくは星図の、。ハネルと照応する箇所をさがした。そして、小さ切りとられたひとマスが、大きく ( イノ、 く首をかしげた。 る。もう、《ビザンチウム 8 》のありかを示す赤い光点は、パネル からはみ出している。 「いや、宇宙船だの、放棄されたドックだのという可能性はうすい 「な。どうも、眉つばだ、と云っただろう」 ようだな」 ニリスンは得意顔だ。 9

4. SFマガジン 1981年3月号

後部席にきゅうくっそうに坐っていたロポットのアールは、′ 『なにがなんだか : : : 』 いカバンからさっきのミニミニをとりだした。集めた道具は アールはしやがみこんでぶつぶつ言った。 特製の。ヒンセットであり、包んた包み紙は″べテルギウス人″が落シオダは首をひねっていたが、しばらくしてにづこりした。 としたものだった。ビンセットは会社の技術陣が反重力物質でつく「どういうことだったんだ ? 」 ったものだし、包み紙もどうやらシンジケートのマッドサイエンテ ヒノがシオダをのそきこんだ。シオダは説明した。 イストが反重力物質でつくったものらしかった。 「ミニミニというのは飲むと恍惚となったり、タイムトラベ アールはその包み紙を金属の手ににぎり、シオダに向けて気合い ルしたりワー。フしたりする粉末だが、外からかけても効果があるん もろとも。ハッと投げた。 だ。いまの場合は、ミニミニのかかったアールの身体の前面 の腹部の時間が、かからなかった背中部分の時間とちがってしまっ たために、背中の歯車と腹部の歯車とがうまく噛み合わなくなり、 ああいう珍妙な動きがはじまってしまったのだ。しかしやがて身体 シオダも気合いをかけて盾をひらいた。小さな黒い粉が盾にかか った。粉は盾の面の直前で反射し、アールの方へとはねかえった。全体にミニミニがゆきわたったので、時間差もなくなり、動 ( は光を吸収するから決して見えないのだが、周囲の物質ときはもとにもどったーーと解釈される」 干渉したり横を通る光を曲げたりするので、なんとなしにそこにあ『どうりで ! それにしてもひどいことでしたよ』 ゴ ; 、・まくやヒ 「・ほくの推理が正しい証拠には、アールの時計の時カ るということは分かるのである ) ノの時計とはすこしだけちがってしまっている」 『や、しまった ! 』 「なーる ! 」 アールはあわてて身をふせたが、おそかった。身体の前部に粉が ヒノは打った頭をさすりながら感嘆の声をあげた。 ふりかかってしまった。 『物妻い惑星ですねえ ! 』 『ア、ウ、ウ、ガキガキガキ : : : 』 アールは身ぶるいしながら自分の腕時計を眺めた。 アールは珍妙な動作で踊りをはじめた。 シオダは言った。 「お、おい、大丈夫かツ」 ヒノがあわてて立ちあがり、後部席へとびこんでアールの巨体を「これで課長の餞別も効用のあることがわかった。ではそろそろ出 おさえようとした。しかしアールの動きはそんなことではとまらな発することにしようか : : : 」 かった。ヒノはたちまちはねとばされてしまった。 「合点だ ! 」 ヒノはあっけにとられて頭をさすった。シオダも一瞬目をうたが ヒノは頭をさすりながらアクセルをふみこんだ。 った。しかしアールの動きはまもなくおさまった。 万能ジープは力強くジャングルの中を進みはしめた。 9

5. SFマガジン 1981年3月号

日カール・アンダース、エリスン・ケイン、アリ を実験動物としてとじこめてしまうことに反対し、研究には協力す シア・ケイン ) により発見される。四一三三年、第一次調査団るからという条件で、ひきとりたいと申し出たが、もはや、かれの が派遣され、四一三八年、第二次調査団が結成されたが、・ とち身柄は政府にうつっていた。 らの場合も、調査団は該当星域にこの惑星を発見することがで「それに、あなたがたはパイロットで、定期的に地球を留守にされ きなかった。ランプラー ・マウスの存在と共に、この惑星の出るわけだしーーーなに、心配いりませんよ」 現と消失はいまにいたるまで惑星開拓史の最も巨大な謎のひと研究所員は、いかにもかわいいというように目をほそめてミッキ ・マウス / 「惑星の っとされている。 ( 関連資料 / ラン・フラー 】を眺めながら云ったものだ。 自由軌道についての一考察」アルビン・マイ著 ) 「こんないい子を、モルモットの一匹なんて思うもんですかーーーわ れわれのペットにして、かわいがります。大事にしますよーーもう われわれは、二度とふたたび、ラン・フラーを発見することができすっかり、われわれにもなついているし」 なかったのである。 われわれがどうも面白くない気分だったのは、すっかり養子縁組 もしミッキーがいなかったら、《ビザンチウム 8 》のクルーは、精神をして情のうつった子どもを、実の親たと主張するものにさらわれ たような気落ちのためだったかもしれない。 異常よばわりをまぬかれなかったかもしれない。何といっても、ビ 、ツキーに、とてもひどいことをしてしまったの デオや、コン。ヒュータにたくわえられたデータは、そのつもりにな「わたしたち れば偽造できなくもないものだ。功を焦っての巧妙な芝居と思われかしらね、カール」 てしまったらーー・しかし、生きて元気にうごきまわり、全宇宙の他「だが、 ッキーがかわいがられて幸せなら、それでよしとしなく のどんな生物ともはっきりちがう特徴をそなえた・ほくらの友人のおちゃね」 かげで、・ほくたちは責めをうけるかわりに、宇宙の巨大な謎のひと がつくりとしながら、帰途、われわれは云いあった。。フレーリー つにかかわりあったという名誉を与えられ、歴史に名をとどめるこ ・ドッグの谷は、はるか星々の彼方にその姿を永遠に消してしまっ とになったのだ。 ていた。それでも、われわれは、地球に帰るたびにミッキーに会い にゆけるのだ かれは、覚えていてくれるだろう。それだけが、 しかし、それは、同時に、ぼくたち《ビザンチウム 8 》のクルーとミ ッキーとの別れをも意味した。いまやミッキーは、まぼろしのランわれわれのささやかななぐさめだった。 ブラー ・マウスの、貴重きわまりないただ一世のサン。フルだった。 いろいろな通俗宇宙史や、もっと本格的な本にも、書いてあるの あちこちの学会から、彼をゆすりうけたい、という中し入れが殺到 し、結局共同研究のために、生物学会の研究施設の一画が提供されはここまでだ。 ることでけりがついた。むろん、ぼくもアリシアもエリスンもかれそのさきを知っているのは、・ほくとアリシアーーーただ、そのふた ー 55

6. SFマガジン 1981年3月号

項目 1 ~ 川。 く、カール・アンダースのドイツ系の鉄の冷静が。フラスされる。 それが彼に与えられた、居場所の全部だった。ひとつひとつの記 ー人間関係生態学の学説によって、決定されたチームである。 号が彼のさまざまなデータを要約している。 「まさしく晴朗な宇宙空間てやつだな」 いとしい小さなミッキー。かちかちと音をたてて、データを走査自分の席の前のパネルに目を走らせて。ほくは云い、ベルトの接 している、コン。ヒュータのパネルを見つめながら、・ほくはようや着面をするりとはずした。エリスンだけがまだ立ちあがらずに、彼 く、きわめて複雑な、そしてきわめてにがい、悲しい涙が、・ほく自の席の前の。 ( ネルに光点になってあらわれている現在地点の周辺 と、膝の上にひろげた星図とを見くらべて、しきりに首をひねって 身の内からもりあがり、ぼくを押し流そうとするのを感じていた。 「どうしたんだい。異常ありなら、早めに云ってくれ」 「おや」 うしろの席で、星図を眺めていたエリスンが、何かにおどろいた「異常はなにもなさそうなんたが」 自信なげに赤毛の大男は云い、ベルトをはすしたが、まだ立ち ように声をあげた。 あがろうとはしなかった。 「どうした」 「ただ、そのーーどうも、眉つばだな」 ・ほくは首だけもちあげて声をかけた。 「どうしたってんだ。何かに化かされたような顔をして」 「船幽霊でも出たか。それとも、宇宙のサーガッソへでも迷いこん 「化かされたのかもしれんな。宇宙のサイレン ( 魔女 ) に」 「いやねえ」 「ばかあ云え」 カ兄の肩ごしに手をついて、エ エリスンは怒ったように云った。だが、その声の中に、何か奇妙アリシアがくすくすと笑った。 : 、 ・。、ネルを見くらべて、彼女 リスンの指さしている星図とレーダー な当惑めいたひびきがまざりこんでいるのが、。ほくと三人めのクル の眉がわずかにくもった。 アリシアの注意をひいた。 「あら」 「ワープ完了。全機関異常なし」 アリシアが云い、ベルトをはずして立ちあがった。エリスンと「どれどれ。艇長おん自ら見てあげよう」 「いつも思うことだけどね、カール。お前さんは、そのぎこちない アリシアは実の兄妹だ。燃えたつような赤毛と、長身がよく似てい るが、なかみは、冷静でものに動じないアリシアに対して、その髪ューモア ( のつもりなんだろうね ) のセンスを、いったいどこから の色そのままに熱しやすいエリスンと、二人は水と火のように違っもらって来たんだ ? そんな軽口を叩くドイツ人は、おれは知らん ており、互いに補いあっていた。たぶん、アリシアの冷静さも、ひぞ」 と皮むけば兄と同じに燃えやすいのだろう。そこでチーフたる ' ほ「母かたに、シッティング・ブルとかいうアメリカ・インディアン リレーショナル・エコロジー 9

7. SFマガジン 1981年3月号

ようとしたとき、いちばん難関だったのは ( ンドリングの問題だっ 0 た。なにしろ極度に小さくて、原子の間をぬってどんどん逃げてし 9 まうような物体だからだ。しかも近づくと時間がかわってしまう。 ジー。フの進む方角は、ほ・ほ自動的に定まっていた。なぜかというじつに扱いにくいのだ。そこで技術者たちは、マイクロ・ブラック と、地形が与えられると、その地形の中でどの部分がも「とも知的ホールを自在に扱うための道具を研究し、まず・フラ , クホールをつ 生命の住む確率が大きいか という計算は、自動的になされるよ かめるビンセットを発明した・ーー」シオダの話はしだいに学術的ム うに、このジー。フの内蔵コン。ヒ、ータはプログラムされているから ードになってきた。「 その原理は反重力物質にあった。反重力 である。 物質というのは、正の つまりふつうのーーー物質との間に引力で ヒノは、ジー。フが走りだすとすぐにロ笛を吹きはじめた。《惑星はなくて斥力が作用する物質のことた。したが「て、この反重力物 開発「ンサルタント社》の社歌『我が赴くは未知の星』の勇ましい質をブラ , クホールに近づけると、・フラ〉クホールは斥けられる。 メロディである。しかしわれわれにとって幸いなのは、後部にいる吸引とは逆の効果があらわれるのた」 アールが唱和しないことたった。 「すると、その反重力物質というのはホワイトホールの原料みたい さすがのアールも、いまおこった身体の前と後で時間がちがうと なものなのかな ? 」 いう奇現象に毒気をぬかれてしまったらしい ヒノが質問した。シオダはかぶりをふった。 紫色の大気をつらぬいて、ヒノのロ笛がしばらくなりひびいた。 「いや、ホワイトホールは静的にみればブラックホールと同じもの そのうちに、アールの気持ちも平常にもどってきたらしい だ。一般にはふつうの物質でできている。やはり引力がはたらくん 錆々声のウタがこぼれだした。 だ。ただ、初期条件的に物質をあの世から吐きたしているというた 『うしろからあ、まえからあ : : : 』 けのことさ」 ヒノはあわてて口笛を中止し、わざと深刻な顔つきをして、隣の 「ふうん、むずかしいもんだなあ」 シオダにたすねた。アールのウタのつづきだけは聞きたくなかった 『反物質とはちがうんですか ? 』 からである。 今度はアールが質問した。ウタを忘れたアールもなかなかに学術 的である。 「フラックホール防御盾って、よくつくったもんだなあ。わが社の 研究陣の力を見なおしたぜ。いったいどういう原理なんだ ? 」 「いや、それもちがう」シオダはまたかぶりをふった。「反物質と シオダはゆ「たりと応じた。さいわいアールのウタは中断されいうのは、正物質とぶつかると全部 = ネルギーにかわ 0 てしまうよ た。アールも盾には興味があーるらしい うな物質のことであって、やはり斥力が作用するわけではない。反 「もともと「イク 0 ・ブラ〉クホールが発見されて、それを研究し重力物質とは、ふつうのホワイトホールだの反物質などとはちが 0

8. SFマガジン 1981年3月号

の惑星が、地球型の大気組成をも「ていたりすると、ついつい感情われは、その = レベーターにの 0 て、ゆ「くりと地上におりた。 移入してしまいがちになる。 ニレベーターの壁は強化プラスチックで、すきとおっている。わ だがそれを、自らにかたくいましめてみても、まるで、鼻さきれわれははじめて、『ラン・フラ 1 』の大地と同じ高さから、この星 かぐわしい、日なたの草の匂いがただよい、風にいっせいに葉の景色をみた うらがかえり、寝ころんたときのひんやりとした感触までもからだ緑の草原ー。ーのどかな : : : 上から見たときと異り、あちこちに、 にありありと思い出されるような、この小さな星の魅力は圧倒的だ丈の低い灌木の茂みがある。 「あれは何かしら」 着地の足場さがし、着陸は、ほとんど・がやってくれる。彼アリシアがいぶかしげに云い、宇宙服の手をあげて指さした。 は満点の着陸をした。外へ出るまえに、とりあえずさいごの種々の 「トーテム・ポールのようなものかな」 検査をし、いったん宇宙服をつけたまま出ることにし、さいごに、 さっと、三人のあいだを緊張が走りぬける。ト 1 テム・ポールが ・フラスターを腰のホルダ 1 ・に入れると、アリシアが肩をすくめてぼ ある : : : それはつまり、この星に知的生物がいる、ということた。 くを見たが、何も云わなかった。 「出てみよう。気をつけて」 「とにかく、恒星が見あたらないなど、いろいろと、いぶかしい点われわれは背中あわせになり、・フラスターをかまえ、そして・ほく のないでもない星だ。じゅうぶんに警戒して、なるべくはじめは母は慎重に、 = レベーターのドアの開閉ボタンを押した。 船からはなれぬようにしよう」 「思ったよりも草の丈が低いね、カール」 ・ほくは兄妹に云いわたした。・の記録装置が、たえず四囲の 「ああ。白い花をつけてるのがある」 ようすを記憶し、写真にとりつづけるようセットし、・ほくの宇宙服 アリシアがかがみこんで、ベルトにつけた胴乱に、草をひと株 の衿のところに、すっと母船のメモリーに報告を送りつづけるた と、土を採集しておさめる。 め、マイクをセットした。これで、準備万端ととのった。 「静かだな」 「地上車をおろすか ? カール」 「集音マイクをマキシマムにしてみよう」 「いやーーーとりあえす、あたりを確かめてからがいいだろう」 ・ほくはマイクのヴォリュームをあげた。 いつも、未知の星に足をおろす瞬間というものは、われわれのよ いきなり、心の底まで吹きぬけるような、風の音が耳にとびこん うな、ヴ = テランの調査員にと「ても、ワクワクと、恐怖と期待のでくる。さやさや、さわさわ、さやさや。丈のひくい草を吹いてゆ 入りましった興奮に胸とどろかせる一瞬だ。 く音。草はわれわれの、膝の上まであった。 《ビザンチウム 8 》の = ア・ロックは、するすると筒形の = レベータ遠くを流れる水の音。かすかな小鳥のさえずりらしいものーー・鳥 ーをおろしてゆき、まもなくそれは地面にとどいて止まった。われ 力しるのか ?

9. SFマガジン 1981年3月号

長大な模作である。既刊 15 作はすべてディ ヴィ・プレスコットをヒーローとするが , それらは 4 つの流れに大別される。デライ ア連作は , Transit 加 & 0 ゆあ ( 1972 ) , The & け研 & 0 ゆあ ( 1973 ) , Ⅳのア / の・ & 0 ゆ i ・ 0 ( 1973 ) , S て v のツ訪ゆゞ矼 & 0 ゆあ ( 1973 ) および滝・れ化研 & 。ゆ i ・ 0 ( 1974 ) から成る。ハヴィルファー連作は , ねル ん 0 ″れ 0 工厩 ar ぉ ( 1974 ) , 尾れ住 A 厩 4 だお ( 1974 ) , 窺 0 / 厩の・お ( 1975 ) , おなイぉ襯 e れ〃 r ぉ ( 1975 ) , 膨〃 g r 0 アれ r ぉ ( 1975 ) , ス da 可、スの・お ( 1976 ) から成る。クローゼア連作には The 7 ' ぉ 0 / K れ ( 1976 ) , 火の肥 gad お可 Kregen ( 1976 ) , K だ俿ツ 0 / K 尾 g にれ ( 1977 ) があり , ヴァリア連作は Secret & 。ゆあ ( 1 7 ) より始まっている。〔 J C 〕 オールディス , プライアン・ W ALDISS, BRIAN WCILSON) ( 1925 イギリスの作家 , アンソロジスト , 批評 家。私立学校で教育を受けたが , オールデ イスはこれを嫌った。英国通信隊に入り , ビルマで兵役についたのち , 1948 年除隊 , オクスフォードの書店に勤めた。作家歴 は , フ。ックセラー誌に , 書店の日常を描い たスケッチ風の作品を連載したことに始ま る。これらは The 召 g ん 04 D お ( 1955 ) にまとめられている。 オールディスの最初の S F 短篇は , サ イエンス・ファンタジイ誌に発表された "Criminal Record"(1954)0 あとには「外 がわ」 "Outside ” ( 1955 ) , 「不減」 "Not for an Age" ( 1955 , オブザー ー誌 S F コンテスト受賞作の一つ ) , "There is a Tide" ( 1956 ) , 「跫音」 "Psyclops" ( 1956 ) など注目すべき作品が続いた。これらは すべてオールディスの最初の S F 短篇集 カ 4 “ , 〃尾のム t ん 4 れ ( 〔集〕 1957 ) に収められている。アメリカ版短篇集。 T / 襯ビビ To 襯 0rr02 ( 1959 ) は , S カ % T / 襯 4 れ d 4 れ I にある 14 篇の中か ら 6 篇を再録し , あらたに 6 篇を追加した もの。これら初期作品は独創的であり抒情 トーンは暗い。オールディスはそ 的だが , の後数年間にわたって , 精力的に短篇を書 きつづけた。「世界も涙」“ A11 the World's Tears" ( 1957 ) , 「哀れ小さき戦士 ! 」 "Poor Little Warrior" ( 1958 ) , 「だれが人間にと プライアン・ W ・オールディス ってかわれる ? 」 "But Wh0 Can Replace a Man ? ” ( 1958 ) , 「讃美歌百番」。 01d Hundredth ” ( 1 の , 「一種の技能」 "A Kind of Artistry" ( 1962 ) などは , この 時期のもっとも印象深い作品群に属する。 これらを収めた本には , 7 ' ん CanoPy 7 切 ( つながりは曖昧だが一種の連作 〔集〕 1959 , 〔異〕 G 記。・おわ・ Grains Sand 米 = 『銀河は砂粒のごとく』た だし英国版から 4 篇を外し , 1 篇を加え , 264 VIII

10. SFマガジン 1981年3月号

圦を身につけ、まるで日本猿のような小さくて油断のない動作の男アールはすぐにさとって、腕に付属している・フラックホール検出 器の感度をあげた。ラン。フが腕でまたたいた。 「白衣と黒衣の怪人 ! 」 反応が出たのだ。 ヒノ・か、つめい宀」。 ヒノがかわいた声を出した。 「シンジケートの下っ端だろうがね : : : 」 「すると、あの包みがミニミニリ」 シオダはボマットの感度を上げた。 『もうがまんができません。わたくし、突撃します ! 』 ″ペテルギウス人〃の声がとぎれとぎれにきこえてきた。 アールは、あわてて制止しようとするシオダの手をふりきって、 跳躍した。跳躍した勢いを利用してマシンガンをけとばした。マシ パラドさん、おたすけ : : ↓ ンガンをなくして白衣と黒衣はあわてた。 〈ギュッ、ツクスさん、ありがたや : : : 〉 白衣がしゃべっていた。 「親分、でかいのが ! 」 「あいもかわらす間のぬけたきさまらだな。まあ、やりそこなった「逃げろ、あのロポットにはかないそうもない ! 」 りはしかたがない。おれたちのマシンガンをかわした腕はそうとう 白衣と黒衣は言葉をかわすと、煙のようなス。ヒードで、ジャング なものだったからな。とにかくおれたちのことをきさまらに喋られルの中に姿を消した。 しはかなわん。かといってお荷物になってかついで帰るわけにもい アールは拍子ぬけのしたていで、″ペテルギウス人″の前に仁王 立ちとなった。 かん」 それを見て、ヒノとシオダも駆けよった。 〈命だけは、ビュ , ー 「おい、その包みはなんだ、見せろ ! 」 大中小がそろって大眼玉から涙を噴出させた。 ヒノは″・ヘテルギウス人″のひとりを両腕でおさえつけてどなっ 「殺すとはいっとらん、おいックス」 「へい」 ″ペテルギウス人″はナワはといてもらっているものの、恐怖で腰 白衣が黒衣に命令した。 がぬけて動けないでいるのだ。 「こいつらのナワを解き、例の粉を渡してやれ」 〈ビュッ、ギュッ、ジュッ、その、その・・ : : 〉 黒衣はなれた手つきで三人の″・ヘテルギウス人″のナワを解くそのとき、ヒノとシオダの眼前がふつ 「どうしたんだ ? 」 なにやら小さな包みをふところからとり出して渡した。 それを眺めて、シオダがアールをうながした。 「わかりました』 ヒノもシオダも首をひねった。 と暗くなった。 ′ 0 8