人間 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1981年3月号
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1. SFマガジン 1981年3月号

修行僧のギャアーという悲。大慌てでゆが、あちこちに存在するのかもしれない。 に、人間程、複雜な思考回路は持ちあわせて いないらしく、あいつが、何を考えているかれる人垣の中で、結界の渦が断ち切られ、怒はじめのうちは、暗闇の中で跳ね回 0 てい るだけの様だったが、やがてもっと魅力ある りを含んで舞い上がった。 は、手に取るように解った。 物をみつけだしたといった気配が伝わってき 何だ、何だ、何なのだ。 た。私にとっては、古いだけが取柄といった その時、伝わってきたのは「好き」という人垣が、ひとつひとつの人間に戻り、 いを発している。物の山が、あいつをひきつけて離さない。そ 感情だった。それも今までにないほど、恐ろ思念をとばしあって、 こで念波はとぎれ、あいつの姿さえ、大きな しく激しいものだったので、仕事のしすぎで急に、私の思念を捕えたのは、あいつだっ 結界の中へのみこまれてしまった。 疲れきっていた私の思念波は、一瞬ではあっ しかし、ポルターガイストに考古趣味があ おいでよ、おいでったら、 たが、かなりの乱調を生した。五秒か、その 大きく飛びまわりながら、楽しげに誘いかるとは。あいつの存在自体、元来、青年期の 位の時間だったのたろう。我に返って思念を 熱狂的な信仰の念カから生した一一次的産物な こらしてみたが、あいつの場は空白になってけてくる。 のかもしれないが。 あいつだ、あいつだ、 いて、何も伝わってこなかった。 だが、正倉院の定期公開が、今回に限って 誘いかけてもってこない私がつまらなか どういうことだろう。人垣をとおし静寂が 染み透ってくる。床を激しく踏み鳴らし、修ったらしく、ひとしきり誘いかけると、又、中止されたのが、あいつの為でないことを、 行僧が悟りへの道を走る。悲しいまでの堂堂結界のとぎれた渦に跳びのり、激しい音をた祈っている。奈良へ行って確かめるたけの勇 巡り。仏の前に体を投げ出す若い僧の体温がて舞い上った。人々の思念が、その隅にあい気はないが。 読経の間の空虚をふるわせている。これほどっをとらえたらしい気配が伝わってくる。人 見せ物にされながら、どこか自我を解き放つ人が、人垣となり、修行僧たちを核にして、 応募規定 思念の網を拡げはじめている。無意識の網が た透明が染みわたった。 9 応募資格一切制限なし。ただし、作 結界を乱した者へ、少しずっその輪を狭めて ・ハタンターン・ハタバタダーン 品は商業誌に未発表の創作に限りま 動いていく。信仰の怒りなのか。何が人間に 思念をこらすと、人垣は遠のいていった。 す。 住枚教四百字詰原稿用紙八枚。必ずタ 二重の柵で囲まれた結界の中で、古来の信仰そんな力を与えたのか。網の一部が崩れて、 テ書きのこと。鉛筆書きは不可。 が大きな渦を巻きはじめていた。お水取りの私の方へ向ってきた。じわり、じわり、押し 呂原稿に住所・電話番号・氏名・年齢・ 包む力で迫ってくる。 神事には、昔から妖しの事が多かったとい 職業を明記し、封筒に「リーダーズ しまったと思う間もない。私は夢中で本堂 う。どこまでが仏で、どこまでが神か、そし ストーリイ応募」と朱筆の上、郵 をとびだした。石段を駆け抜ける眼の端の闇 て、どこからが妖魔なのか。 送のこと ( 宛先は奥付参照 ) 。べン に、良弁椿が揺れた」・ - ・ーーような気がした。 ネームの場合も本名を併記してくだ さい。なお、応募原稿は一切返却し ・ハタンと別の音が入った。木の音には違い ません。 逃げおおせたらしい。東大寺を遠くはなれ なかったが、明らかに結界を乱している。一 新賞品金一封 瞬、白けわたった静寂が伝わってきた。激してからも、あいつは、思念をとばしてきた。 掲載作品の版権および隣接権は早川書 い音が続く。子供の悪戯の様な、飛びまわり昔馴染への挨拶のつもりなのか。ああいった 房に帰属いたします。 古い信仰の場には、案外、あいつの好む結界 かけまわる音がする。 3

2. SFマガジン 1981年3月号

彼は道の真中に突っ立って、大声をだし、あちこち指 「いってらっしゃい。気をつけてね」 差す。 人々は皆、気味悪そうに彼をよけて通る。 彼はげつそりやつれていた。 このところ毎夜のように顔の夢を見、一晩中うなされきちんとネクタイをしめた、スーツ姿の男が、そうや て、ろくに眠っていないのだ。夢の中に、もやもやとしっているのだから異様た。 目の前を歩いて行く女性のワン。ヒースの背中を見、顔 た物が現われ、それが次第に人間の顔になる。そして、 その顔は、よく見ると、なんとなく妻の美子の顔に似てだ顔だと言って、ふらふらついて行ったりする。女性は いなくもなかった。そういえば、壁の汚点などに見える真青になって逃げて行くしまっ。 「あれれまてよ : : : 」 それも、美子の顔に似ていなくもない。 よく考えてみると、美子と結婚してから、ずっと、そ彼は前方をぼんやり見つめ、目を丸くした。ロの端 が、ひくひくとひきつる。 ういう夢を見つづけていたような気もした。 「うわあ顔た。巨大な顔だ。ここから見える街並全体 彼は外に出、道をとぼと・ほと歩き始める。 が、ひとつの巨大な顔じゃよ、 オしか ! あの家と、あの家 歩き始めたとたん、立ち止まってしまった。 が目で、電柱のあたりが鼻で : 。しかも、なんだか美 「けつ。道路の上も顔だらけじゃないか ! 」 子の顔に似てる」 , 道路の表面にいくつも顔が見えた。 空を見あげて悲鳴をあげた。 道行く人々が怪訝そうに彼を見る。 「ぎやつ。そ、空全体が顔に見えるう ! 」 「ややつ。あの木は : : : 」 家の庭に生えている木を見つめた。その茂った葉の中空一面、厚い雲が、どんよりと被っていた。 にも顔が見えるのたった。 彼は頭を抱えて走りだした。 「あっ。あの塀にも : : : 」 「助けてくれえ ! 顔がたくさん見えるんだよう ! 顔 「電柱の表面も : : : 」 だらけだよう ! 」 「わっ。ここにもだ ! 」 家に駆け戻り、茶の間に直行する。そして畳の上にう 彼は一メートルほど跳びのいた。 ずくまった。 すぐ足もとの水たまりの中にも顔が見えた。 美子が、あわてて寄ってくる。 そして道行く人々の服の模様の中にさえも : ・ あら「あなた、しつかりして ! 」 ゆる物の中に、人間の顔を見とめた。 「顔たあ顔たあ」 228

3. SFマガジン 1981年3月号

0 読者のつくるべー ) ン 0 豊田有恒 まだ全部の原稿を読みきっていないうち寺の洞窟とつながっているという伝説があても一人前でしかないと、コンピ、ータを騙 に、選評の前説を書きたす。先月で滞貨解消る。この人のほうが、選者よりずっと描写力す話なのだから、もっとドタ ' ハタになったろ と思って、ひと安心していたら、五、六十篇がある。 「確率」 が届いた。十篇ばかり読んで、根気がっき次点「大熊猫を救え ! 」澤村元 ( 東京都 ) 栗原宏美 ( 呉市 ) た。選評に残す作品にめぐりあわないと、読 アイデアもいいし、オチもし 、、。よほリ J 「入 コンビュータが人口増加を押さえるため みつづける気力が出ない。初期の頃は、応募選にしようかと思った。初めての応募だそう に、その管制下にある機器の事故率を、上げ 作は、五、六十篇だったから、すべて選者がだから、フロックということもありうる。次るという話。 一口いいアイデアなのだが、筋の運 読んだ。ひょっとしたら、編集部が下読みの一篇を期待することにした。 びに難がある。 を、さ・ほったのかもしれない。一瞬うたがっ次点「洞窟の怪」 山口博文 ( 福岡市 ) 「わが妻は天使なりき」 ケービングの専門家が、洞窟の生物異変に たが、封筒には下読み段階でのとか、と 脇田由紀枝 ( 東京都 ) か、 < ( 今回はまだない ) とかいう評価が、気づく。実は、高レベル放射性廃棄物の洞窟丑の刻参りの能力のある妻は、その能力を 書きこんである。 O は、選者の目には触れな処理が極秘裡に行なわれ、自分も白血病にな使わないで済むように、天使のようにふるま 。してみると、ちゃんと下読みは行なわれり という筋書は、四十枚くらいの短篇の っている。夫の危機をまえにしてー・ーとうと たらしい。応募作が増えているのだろう。 ものではあるまいか。 う、その能力を ! という物語だから、まん 滞貨解消などと安心していると、月末には次点の二作とも、かなり高い水準である。 なかでネタを割るしかない。短篇なら、おか ドサッという原稿の山が届く。ともかく読絵空事でも、それなりに、もっともらしく書しくないのだが。 む。さて、選評にとりかかろう。 くというのは、の基本みたいなものだろ「休日」他 藤亜練一一 ( 東京都 ) 入選「二月堂異聞」結城あづみ ( 東京都 ) う。 休日は、警察が休みになるから、殺人の仕 巧く書けている。ま、読んでもらいたい。 「半人前の利点」 白倉誠一 ( 東京都 ) 放題ーーこのアイデアで選者が書けば、これ 実は、選者も二月堂をテーマに書こうと思っ これは、方程式シリーズの・ハリエーションより絶対に面白くなる。人減らしが省エネに ていた。二月堂の井戸が、若狭の小浜の空引のようなものだろう。半人前の人間が二人い結びつくから、休日の殺人は不問ということ 0

4. SFマガジン 1981年3月号

るほどたった。 ・ほくは考えるのだが、動物には、個体個体のそれそれの性格や性 正直を云えば、・ほくだ「て、どうしてもこの小さなやっと別れる向とまた別に、その種そのものの性向、特性というものが存在する 気など起こらなかったのだ。まったく、どうして、こいつはこんな と思う。そして、 << という人間が、とは愛しあい、 o とは憎みあ にどのしぐさも、どの表情もかわいらしいのたろう。鼻をすりよせうように、人間は大とは仲よしであり、猫を崇拝し、蛇をきらい て、耳のうしろをかいてくれとねたるしぐさも、妙にさかしげな、 ゴキブリと憎みあう、というような、種族が種族に抱く感情はたし 何もかもわかっているという顔つきでアリシアの膝の上におさまっ かに存在するのた。 て、・ほくたちを見まわしているようすも、どこからどこまでが、ぬ ラン・フラー ・マウスにひかれるのはたぶん人間にとって本能的な いぐるみが生きて動き出したようであり、愛され、かわいがられるものなのた、とぼくはアリシアと = リスンと議論しあ「た。人間の ためにだけ生まれてきたようだった。 心の中には、結局、かわいがりたいという欲求、愛したい、という 「おい、黒助。おまえ、・ほくたちと一緒に来るか ? 」 本能が痛切に存在しているのだ。人間は女を愛し、子どもをかわい ほんの少し、いけないことだろうか、という不安をしいておしこ がり、大や猫やウサギや小鳥を愛する。人間が孤独のために死ぬの ろしながら、・ほくはきよとんと黒ビーズの目を見は「ているそいつは、愛されないときよりむしろ愛を注ぐ対象がいないときた。最も に云いかけてみた。 愛される側である子どもでさえ、人形をかきいだき、それにぶつふ ( ししもんな 「そしてまたすぐ帰って来れ・よ、 おまえ、おまえの種っとやさしいことばをささやきかける。それは愛されたいという欲 族ではじめて空をとんた、スー パーマウスになりたくないか ? 」 求のうらがえしなのかもしれないが、しかしまた、たぶんその欲求 なんとでもいうがしし 結局、ほんとうに・この小さな愛らしこそ、われわれを宇宙へむかって出てゆかせるのだ。ひたすら愛し 、平和な生き物と、別れるのをいやがったのは : : この小さな人てやることのできるものを求めてーーー愛とはかたちをかえた権力 恋しいものに、そんな試練を強いる権利は・ほくたちにはないのたと欲、支配欲である、と誰かが云っていなかったか ? 知りながら、あえてかれに一緒に来てほしいと望んだのは、・ほくた われわれが、『ラン・フラー』をはなれたのは、臨時の調査のつも ランブラ ちの方たったのだ。かれらは ・マウスたちはいった りがはからすも長びいた、一ヶ月半あまりのちのことたった。《ビ って、緑の草とやさしい光と風、そして仲間さえいれば、この上なザンチウム 8 》には、乗組員が一人ふえていたーー・黒耳の、、 マウスカイド く充足して、幸せで、満足げに見えた。かれらの種族の最も根本的 、、、。中引の姿がなくなると同時に、かれはブラッキーか な性向は、与えられたものに満足すること、たった。われわれ不幸ら、 / キー・マウスに昇格したのである。われわれは夢中で彼を な貪欲な人間たちとは反対にー、ーたぶんかれらのかわいらしさにも かわいがった。まるで、仲間から強引にひきはなしてしまったこと まして、そのことそのものが、これほどわれわれをひきつけ、かれへのひそかな罪悪感を、埋めあわせしようとでもいうように、目が らとはなれがたくしたのかもしれない。 さめればミッキー、何をたべても、何をしても、、、 : に 2

5. SFマガジン 1981年3月号

再生による 長命技術が 最も発達している この中央一区 青耳太陽系でも ニ千年をこえて 存続するものはまだ いないのた : 三万年も 生き続ける 人間は プール博士は 音も音楽も 残ってないと言った 銀の三角の 星も 民族も 減びたと 2 ェロキュスの みたものは まほろしか ではなぜ ラグトーリンは 銀の三角を さかしている・ : ? ひとみの長い 人間を : : : ? それとも 何なのだ : ・ つ て いこの音楽を 分析して 似た民族音楽 流行音楽のある 辺境の星系を ・ : 過去 : ・ そうたな 三十年にさかのほって すべて調べてくれ

6. SFマガジン 1981年3月号

しかし、彼の場合は、それが極度にひどいのである。 にしてくださいよ。何十回同じことを言ったか判らない 普通の人が、どんなによく見ても、たたの汚点としか見 あきれたという風に顔を振り、台所に戻って行ってしえない物でも、彼は顔に見えてしまうのである。 まった。 そして、それは必す人間の顔であって、他の物にはけ っして見えないのであった。 「ちょっと待ってくれよ。ちえつ」 「おかしいなあ : : : 。気になるなあ : : : 」 再び、まじまじと壁を見つめる。 「そうかなあ : : : 。汚点かなあ。やつばり俺には人間の彼はまだしつこく呟いていた。 だが、ついにあきらめ、ふてくされたように畳の上 顔に見えるんだけどなあ」 に、ごろりと仰向けに寝ころがった。 首をひねり、ぶつぶつ呟く。 彼が、そういう状態になって、もう一週間ほどたつの天井をぼんやり見つめているうち、また眉根を寄せて 真剣な表情をし始める。 顔ノイローゼとでも言ったらよいだろうか。 壁などの上に浮いている、どうということもない汚 ごくりと唾を呑みこんだ。 点、複雑な模様、不定形な物などをじっとながめている「ま、また顔だ。天井が顔だらけだ ! 」 と、その中に、しだいに人間の顔が見えてきてしまうの天井の木目が彼にはそう見えるらしい。 である。 とび起き、なにげなく窓のカーテンを見る。 そのカーテンは茶色の生地に複雑な幾何学的模様がプ むろん誰でもそういうことはある。 リントされたものだった。 たとえばロールシャツ、 ノ・テストなどは、わざとイン 「ここにもだ。人間の顔が、うじゃうじゃある。あれ クの汚点を見せて被験者に、なにが見えるのかと問うの であるし、画家のマックス・エルンストはそれを芸術まれ」 でに高めた人だ。 畳を見て跳びあがった。 エルンストは床などの木目をじっと観察して、その中「ひやあ。畳の上にも顔が見える ! 」 に動物や風景などを見いだすなり、紙を置いてうっしと彼のノイローゼは、だんだんひどくなってきたよう だ。むろん原因なそ、さつばり判らない。 ったのである。それが「博物誌」だ。 レオナルド・ダビンチだって壁の汚点を見つめて、そ の中に風景などを見ていたらしい 翌朝、彼は会社へ行くため家を出た。 227

7. SFマガジン 1981年3月号

ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢは 結び , その協定を侵そうとする人間に対し て共同で戦いをいどむ。 戦時の風潮をもっともよく伝えているの は , マレイ・ラインスターの「最初の接 触」 "First Contact" ( 1945 ) だろう。二隻 の宇宙船が宇宙空間で出会う。双方のクル ーは , いかなる情報も漏らすまいと決め , 相手に政治的・軍事的優位を与えることを 恐れて , いっさいの行動を停止する。この 硬直状態は , 船を交換し , 対等に譲歩する ことで解決される。ラインスターが同じ年 に発表した短篇「倫理方程式」、 'The Eth- ical Equations" ( 1945 ) も , 異星人とのコ ンタクトにおいて , 最初の行動の“正し さ”は判定しがたいという立場に立ってい るが , その場合でも友好関係の確立が最優 先される。しかし , この時期のもっとも有 名な作品の一つ フレドリック・プラウ ンの「闘技場」 "Arena" ( 1944 ) ーーーでは , ヒトと異星人との出会いは相変わらず , い ずれが相手を倒すかという知力の闘いであ る。 ( おもしろいことに , T V シリーズ 『宇宙大作戦 ( スター トレック ) 』にお ける「闘技場」のドラマ化では , 物語の結 末は時代の流れに合わせて改変されてい 戦後の SF フ・一ムの中で , 異星人テーマ はいくつかの新しい方向に発展する。より 説得力のある非人間的異星人を創出する試 みは , 特にハル・クレメントの仕事の中に認 められるが , この時期にもっとも顕著なの は , 価値観や思想傾向を評価または批判す るために , 人間と異星人を対置させる小説 たろう。人間のうぬぼれをふんぶんとさせ る作品 ( たとえば , アーサー・ C ・クラークの 「太陽系最後の日」 "Rescue PartY"C1946) こでは人類を救出に来た異星人が , 人類は助力を必要としていないことを知 る ) もあるが , 大部分は批判的である。ク リフォード・ D 257 シマックの「橋頭堡」 “ You ' 11 Never Go Home Again"(1951), ェリック・フランク・ラッセルの「ウェイ タビッツ」 "The Waitabits ” ( 1955 ) で ミリタリズムが攻撃対象となる。シ は , オドア・スタージョンの「失われた世界」 "The World 、 Mell Lost ” ( 1953 ) では , 性的偏見に疑問が投げかけられる。ジョン ・ウインダムの「頭の悪い火星人」 "Dumb Martian ” ( 1953 ) と , リイ・フ・ラケットの “ A11 the Colours of the Rainbow ” ( 1957 ) では , 人種差別主義が攻撃される。ポール ・アンダースンの「救いの手」 "The Help ・ ing Hand ” ( 195 の , ロノく一ト・シルヴァ ーグのてお ro Ea ん ( 1958 ) , 。イバーの / 〃ル Fu ええッ ( 1962 ) では , 植民地政策 ( ーー今宇宙植民 ) が吟味されている。シマックの "lmmi- grant" ( 1954 ) とアンダースンの "The Martyr ” ( 196 のでは , 人間の虚栄心にち くちくと棘があてられる。ェドガ グボーンの『観察者の鏡』 A Mirror for 0 房膨” ( 1954 ) と , デーモン・ナイト の「黄金律」 "Rule Golden ” ( 1954 ) で は , 異星人とのコンタクトという暗喩を通 して , 人間の置かれた状況がきびしい吟味 の対象となる。 編集タフ。ーは力を失い , フィリップ・ホ セ・ファーマーが性的・心理学的テーマに 取り組んで , 大胆な思弁を行なった。代表 作には『恋人たち』 The 五。膨 ( 1952 , 1961 ) , "Open to Me, My Sister ” ( 196 の , 「母」 "Mother ” ( 1953 ) , そして "Rastig- nac the Devil" ( 1954 ) がある。しかし , 50 年代と 60 年代の S F において , 異星生物 ものがもっともめざましい進展を見せたの は , 擬似神学的テーマに関わる領域だろ 異世界の住民は , すでに遠いむかしから 宗教と結びついていた。もっとも異彩を放 つ例は , スウェーデンポリの 18 世紀の著乍 XV

8. SFマガジン 1981年3月号

川ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ日ⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅡⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅡⅢは 争』 The Ⅳだ〆 / んⅣ。み ( 1898 ) は 異星人を地球の侵略者一一のちにこれは S F の常套アイデアとなる として描くと ともに , 異質の生物を見るもおぞましい怪 物と見なすパターンの先鞭をきった。 20 世 紀初頭の科学的ロマンスの時代にも , 異世 界の訪問者たちは引ぎも切らず , その地の さほど異質ではない住民 ( すなわち , 擬似 人間 ) と会いつづけたが , そうした世界の 大半はまた恐ろしい怪物どもの棲息地とも なっていた。 ウェルズはさらに『月世界最初の人間』 7 ' 厖 r 立気〃切励 6 M00 れ ( 1901 ) で 異星人社会の古典的な描写を行ない , この 作をもって異星生物とはきつばりと縁を切 った。 S F が独立したカテゴリーとしてバ ルプ雑誌界に現われたとぎ , それが継承し た異星人は , ウニルズの開発になる悪役の 属性こそ備えていたが , その役回りの背後 にある論理的思考は見過されていた。異星 の怪物とその来襲は , たんにメロドラマ的 な効果をあげるためだけにおびただしく用 いられたのである。 こうした小説のクライ マックスは , ふつう大量殺戮だった。この 分野での多産な作家には , ェドモンド・ ミルトンとエド・アール・レップがいる。 宇宙への進出の過程で , 人類は穏健な異星 人と出会うこともあったが , 彼らは通例 , 怪物的な種族に迫害される立場にあり , 人 類の介入を必要としていた。また味方の異 星人が , 哺乳類や鳥類の特徴をさまざまに 取り揃えた風貌であるのに対し , 敵にまわ る異星人は , 爬虫類 , 節足動物 , 軟体動物 ( 特にタコ ) などに例外なく似る傾向があ しかし , これは無理からぬ生物学 った 的差別思想とはいえる。動物ではない異星 人 ( 知覚を有する植物や“純粋エネルギ ”生物 ) となると , 道徳的にはさらに柔 軟になる。極端な場合には , 異星人の味方 と敵が , 善と悪の象徴を演じる例さえあっ 259 た。 E ・ E ・ " ドック”・スミスの 0 、レソ ズマン〃シリーズにおける ) アリシア人と ェッドール人がそれである。 数は少ないながら , ダーウイン的視点を 双方に応用し , 人間を異星からの侵略者と して描く S F 作家もいた。ェドモンド・ ミルトンの "Conquest Of Two Worlds ” ( 1932 ) , P ・スカイラー・ミラーの "For- gotten Man 0 「 Space" ( 1933 ) は , 初期 のきわだった例である。 異世界の異様さを印象づけたいという単 純な意図から , 作家たちは知覚を持たない 生物ーーおもに植物ーーーの創出こそ怠らな かったが , 知的生物に関して唯一目立った 新展開が起こるのは , スタンリイ・ワイン ポームの「火星のオデッセイ」 "A Martian Odyssey ” ( 1934 ) を待たなければならな い。異星生物をかなり複雑に , しかももっ ともらしく描いて , この作品は読者に強烈 な印象を与え , 今もって古典の地位を保っ ている。レイモンド・ Z ・ギャランは「火 星人 774 号」 "Old FaithfuI ” ( 1934 ) で , 大衆化したダーウイン説とハックスリー的 非情さにまっこうから挑戦する。人間と火 星人が , 極端な生物学的差異を乗りこえ , たがいの知的同族性を確認するのだ。この 物語は , 相互理解の力強い希求であり , 協 調の価値に力点がおかれている ( 大衆化の 波にまぎれて見失われがちではあるが , ち ようどダーウインが『人間の由来』 The の“〆 Man ( 1871 ) の中で , 集団の 永続性を説いたように ) 。この精神は , ラ ミルン・ファーリーの「液体生物」 ノレフ・ "Liquid Life ” ( 1936 ) にもこだましてい る。それは次のような感動的な文章で終わ る。「というのは , 一介の濾過性ビールスに 対しても , ( 彼は ) おのれの名誉をかけた 誓いをまも。たからである」は輝 ) しかし異星人の脅威は , その後長年にわ たって S F の中で力をふるうことになる。 XIII

9. SFマガジン 1981年3月号

最初の接触は平穏な、ほとんど事件ともいえないようなものたつある。 イスラム 0 カテドラレカトリック。 = ダヤ教 ) 。 ) シナゴーグ ( の教会 た。世界中の政府の建物の近くへの突然の着陸、その土地の言語で ノの大聖堂 モスク ( 教の寺院 キリスト 0 守 の短期間の話しあい、つづいて幾らかの恩恵と引換えに特定の場所ユダヤ教およびモルモン教の礼拝。チャーチ ( ) とれもみ 教の教会 になにがしかの建物をたてることを異星人に認めるという協定 なまぎれもなく教会堂だった。 めざましい出来事など何ひとつなかった。異星人がもたらした科学 たが信徒が集団的に招かれるといったようなことはまったくな 技術面での進展は、万人の暮らしをよりよいものにするのに役立ち けれどもそうした場所へ行けば誰でも、ちょうどその時そこに はしたものの、そうした進歩はすでに人類の技術者たちがあと十居合わせたどの異星人にも歓迎されて、全面的にその人自身の関心 年、乃至は二十年もすれば達成できるはずのものだった。そしてそ事にかかわるような心楽しい議論にひきいれられるのだった。農民 れらすべてのうちで最大の贈り物というのが、実情が判明してみるは農業について語らい、技術者は工学について、主婦は母親である とがっかりさせられたことにはーー宇宙旅行だったのである。異星ことについて、夢想家は夢について、旅する人は旅について、天文 人たちは超光速の航法を持ってはいなかった。代わりに持っていた学者は星について語りあった。来て話をした人々は、気分よく去っ ものはといえば、超光速航行など絶対に不可能なのだという決定的ていった。現実にある存在が自分たちの生に重要性を加えてくれた な証拠だったのである。彼らは、星々のあいだを蝸牛の歩みでのろのだーー何兆キロメートルもの距離を、信じ難いような退屈の中を のろと渉っていくのに耐えられるだけの、限りない忍耐づよさを、 ( 彼らがいうには、宇宙空間を五〇〇年もかけて ! ) たたたた自分 そして信じられないような長命をそなえていたわけなのだが、人間 たちに会うためにやってきてくれたのだ、と感じながら。 はというと、そんな宇宙飛行の最も短いものでさえも、はじまった そして次第しだいに生活も落着いて、平穏な日々の繰返しにしす といえるようになるよりも前に、死んでしまうことになるのたっ まっていった。なるほど、科学者たちは発見を続けていたし、技術 者たちがそうした発見に従って建造しつづけていて、そのようにし そしてほんのしばらく経った頃には、異星人たちの存在はごくあて変化があるにはあった。けれどもすぐ目前に大きな科学上の革命 が控えているわけではないとわかっている今は、男も女も概ね腰を たりまえのこととみなされるようになっていた。彼らは、もうこれ 以上も 0 てくるような贈り物はないと断言して、ひたすら、建物をおちつけて、幸福であるという本業に取組んだのた「た。 それは、人々が思っていたほど厄介なことではなかった。 造築してそこを訪れるという条約上の権利を遂行するばかりだっ こ 0 ウイラード・クレーンは老人ではあるが、不服はなかった。細君 そうした建物はどれも互いにまったく異なっていたが、ひとった は亡くなっていたけれども、そうして孤りに戻った人生上の短い空 9 け共通する点があったーーーその地方の人々の規準からみて、新たな 異邦人の建物は明らかに教会堂と認定されるようなものた「たので白期間を恨めしが「たりしていたわけではなく、一人暮らしは彼に ファースト・コノダクト

10. SFマガジン 1981年3月号

ローダが、飛行艇の中に入ってきた。 ときには、ゲイルは、モーネの・身体を清め、服を着替えさせてい た。やや大きめたったが、それまでモーネの着ていた服を着せてお「どんな具合 ? 」 冫ーいかなかった。寝顔をのそき込んだステンが、ロ笛を「メリンは、ちょっと、まずいわね。へダスの件は、アシ、ロンが くわけこま、 これから話すようよ」 鳴らした。 「この子は、美人になるぜ ! 」 ゲイルが一息に答える。アシュロンは、立ち上がった。五人の仲 たしかに汚れを拭きさったモーネの顔は、ステンが感心するたけ間と、一人の眠っている仲間と、一人の眠っている少女を見回し、 話しはじめた。 のことは、あった。アシュロンとキリイは、顔を見合わせた。 。いなかった。そこで得た情 「へダスは、「四つの塔の都市によ、 ロールは、モーネのまわりを囲んだ仲間たちの中には入っていか ず、眠っているメリンの横にすわり込んだ。メリンの事故の直接の報によれば、ヘダスという人間は、何人かいたらしい。その中の二 原因は、彼にあるのだから、当然のことかもしれない。だが、メリ人については、消息がわかった。一人は、ガイ、つまりあの都市を ンの金色の髪をなでるロールの様子には、それ以上の関心をメリン攻撃した奴らだが、それに殺され、もう一人は、あの都市が攻撃さ れる前に脱出している。我々の探しているヘダスが、そのどちらか に示しているようだった。 それに気付いたアシ = ロンは、かすかに眉をひそめる。ゲイルであるのか、あるいはそれ以外の人間なのか、そいつはわからな が、アシュロンに一一一口った。 だが、我々は、その脱出したというへダスのあとを追うよりない 「ロールったら、あなたたちを待っている間中、ずっとああたった と思うのた」 のよ 「そのとおりたな」 「自分の義務を果たしている間は、何も言えまい」 ステンが、まっさきに、アシュロンの言ったことに賛成の意をあ 「まあね。でも、気をつけていた方が、いい」 マイダスの人間にとって、恋愛感情は、時には避けねばならぬもらわした。他の者たちも、それしか道がないことを悟った。途方に のだった。少なくとも、互いの個人としての役割を侵害しない程度暮れているよりも、何かするべきことがあった方が、いいとうも にとどめなければならない。だが、しばしば、互いに相手を独占しのた。 「で、そのヘダスは、どこに行ったんだ ? 」 あい、その結果、互いの行動を縛り合う例が出ることがあったし、 ロールが尋ねる。アシュロンは、ロールの正常な反応に、内心、 自分たちの存在を他の何よりも重要視するケースもあった。アシュ ロンたちは、そのようなことにならぬように充分な教育を受けてきほっとした。 た筈なのだが、こうした特殊な状況の中では、そうした教育も効果「ヴィトグ、「七つの通りの街だ。先程の街から、西へ一カ月ほ ど行ったところにあるという」 を減じるのかもしれない。 242