日 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1982年1月号
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1. SFマガジン 1982年1月号

「もしかすると、任務交替のチャンスを、おれたち自身でふちこわ 毎日なにかしら、おかしなことが起こった。それは午前中に起こ ることもあり、男二人が計器の読みとりや観測にあたり女二人が家してるのかもしれん」 事にいそしんでいる最中に、大きな顔が現われたりした。また小さ「基地は解任のことなんか、ひとことも言ったことないそ」 「そりやそうだ。人員を配置すべきステーションが五十万もあれ な顔や色のついた炎の場合のように、おかしなことは午後にも起こ り、・フルーノーの機械の管理、保全や、クロービスの基地への送ば、ここみたいに順調にいっているステーションをとりあげるまで 信、リアの菜園手入れ、 リの執筆の時間などを乱した。それでもには、ずいぶんと時間がかかるだろうさ。きみとおれは完璧なコン ビだし、きみにはリアが、おれにはミリがいる。みんな仲良くやっ 夕方は平穏なことが多く、夜はほとんど起きなかった。 通常の時間表記は、宇宙ステーションに半永久的に閉しこめられている。深刻な対立はまったくない。ゆえに、解任の理由はゼロ、 ている人間にとっては、なんの意味もないと、四人とも承知してい というわけだ」 る。このスチールの球体が静止している宇宙空間は、きわめて空漠アルコープにテープルのしたくをしながら、ミリはこの会話を聞 としており、いちばん近い星の光が届くのさえ、数百年かかるの いていた。そして、・フルーノーがリアのかわりにミリをほしがって だ。とはいえ、基地で考案された服務規定により、四人は何カ月も いるのが、でなければリアと二股をかけようとしているのが、な・せ 見ていない地球の規準どおりに一日二十四時間制を採るよう、勧告クロービスにはわからないのだろうと思った。もしかすると、クロ を受けていた。この取り決めは好都合だった。勤務、休憩、睡眠ービスはそれを知っており、・フルーノーをいたぶっているのかもし が、ごく自然の周期におちついた。くる年もくる年も、まったく同れない。そうだとすると、・フルーノ 1 が明かるい性格ではないだけ じ日課のくり返しが、この先いっ終わるとも知れずにつづいていく に、ばかなまねだと言える。あの太いくびと青ざめた丸まっちい顔 しい感じはなさそうで、 だけだ。それはストレスを生む。 では、。フルー / ーは抱かれていてもあまり、 その点を、ブルーノーはクロービスに力説した。午前中に、比較その点でも、クロービスとは正反対だ。クロービスのほうは背丈 こそ大差ないが、その細身の強靱な肉体とやわらかな肌は、抱かれ 的近い恒星を調査分析する、スペクトル分析器の故障を直したあと ブルーノーほど頭が切れないところは のことだ。二人はラウンジの中央観測窓に腰をすえ、正午のカクテていてもいつも気持がいし あるけれど、逆に言えば、・フルーノーが考えることの多くは陰気な ルを飲みながら、女性二人を待っていた。 ミリは飲みものをつぐと、男たちの方に行った。 「ストレスに関しちゃ、おれたちはじゅうぶん持ちこたえたと言えものだ。 ・フルーノー , 刀し 、くつかけんかをでっちあげて服務報告を摠造で る」クロービスはブルーノーに言った。「たぶん、じゅうぶんすぎ それは無理だとクロ るぐらいた」 きないのが残念だといった意味のことをいい、 ミリはクロービスにキス ービスが言下に同意したところだった。 ーノ 1 は太った体をまっすぐに起こした。「どういう意味だ し、傍にすわった。 ・イ・クル 8

2. SFマガジン 1982年1月号

「なんたか、きようのあなたって、すごく大人っぽく見えるわね」彼女を見ていると、彼女の意図を推し量ろうと焦っているいつもの 彼女は、 いま初めて気がついたように、・ほくの姿を改めてまじま ・ほくの行動がまったくの徒労のように思えてくる。 じと見つめた。 「そろそろ、出ようか」 この日、・ほくは兄貴のプレザーを借りて、自分の実際の年齢より 二杯目のコーヒーを飲み終わったとき、・ほくは思い切っていっ た。心なしか、自分の声が大きく、そして徴かに震えているように 何歳か年上に見られるようなお洒落をしてきていた。″計画〃のこ とが頭にあったから、それまで足を踏み入れたことのない場所にい 聞こえた。・ほくを見上げた彼女の眼に、初めてキスを交したときと っても充分に大人としての押し出しが効くようにという配慮たった同じような脅えと期待の入り混ったような気配を認めたと思ったの のだ。 は、・ほくの誤解だったろうか。 「大学生みたいに見えるわよ。なんだかオカシなかんじ」 彼女の肩に手を廻しながら、・ほくたちはレストランを出た。そし 彼女はそういって、クスッと笑った。 てフロントの前を通りすぎるとドアのほうには向かわずに、横手に 彼女が・ほくに注意を向けているということ、そして実際より年上あるエレベ 1 ターの前までいった。 に見えているらしいということが ミくを勢いづけた。 彼女がぼくの顔を、どうしたの、という表情で見上げた。 ちょっとトイレに行ってくる、といってテ】・フルを後にしたぼく エレベーターが降りてくるまでに、まだ何秒か間があった。ぼく はトイレには向かわずに、フロントに近づいていった。さすがに動はポケットにしまっておいたキーをチラと彼女に示した。 悸が早くなってくる。 「部屋、取ってある」 「部屋は空いてるでしようカ冫 、。白まりたいんですが」 彼女は黙ったまま、ぼくの顔を見つめつづけている。そのとき、 これだけの言葉を・ほくはやっとの思いで、フロントの男に告げエレベーターの扉が開いた。 た。そして、いかにもさり気なくというかんじで、「ええと、ツィ 肩に廻した手にそっと力をこめると・ーー予想したような抵抗はな ンでお願いします」と付け加えた。 にもせずに、彼女も一緒にエレベーターの中に入ってきた。 部屋のキーをポケットに隠し持った・ほくは、興奮と不安をなんと 闇の中で彼女を引き寄せ、そのほっそりした体を強く抱きしめた か押し殺そうと努めながらテープルに戻った。 とき、震えが微かに伝わってきた。 コーヒーをもう一杯お代わりする間に、何本もタバコを吸ったた「怖いわ。わたし : : : 」 めに気分が悪くなってきた。彼女はそんなぼくの態度に気がっかな ぼくは唇を重ね、それ以上、言葉を呟くことを封した。 いのか、相変わらず上機嫌にお喋りをつづけている。 彼女がぼくの裸の胸に顔を押し当てたまま眠ったあとも、ぼくは なかなか寝つくことができなかった。 優しい父親のことや、また小学生の妹のこと、そしてクラス・メ イトたちのらちもないイタズラのこと。そんなことを無邪気に話す つい何時間か前の出来事が何度となく闇の中に蘇り、興奮と感激

3. SFマガジン 1982年1月号

そのとき、ロランは、その人影に見憶えがあることに気付いた。 「知らないとは言わせねえそ ! 」 デイロドスが、主人に掴みかかろうとした。男は、悲鳴をあげて酒場の暗がりの中で、顔まではは「きりと見てとれなかったが、逆 にそれがロランに人影の正体を確信させた。ロランが、その男を見 逃げようとしたが、足をもつれさせ、派手な音と共に、後ろにあっ た机ごと土の床の上に転がった。デイロドスは、男の身体を擱み上たのも、暗がりの中でのことたったからだ。それは、エルワースと 言ったか、ムザクと言ったか、・ とちらにしろ、イレンと共に、ロラ げると、咽喉を締めつけた。 ンたちの船「千の生命」にやってきた男たちの一人であった。 「さあ、言ってみろ」 「千の生命」の水夫たちの長であるデリマーも、ほとんど同時に、 「何、何のことです ? 」 デイロドスの腕に力がこもる。酒場の主人は、その腕を振りほど相手の正体に気付き、わめき声をあげる。そこには、かすかな恐怖 こうともがいた。だが、どうあっても、デイロドスの力がゆるまなと、多くの憎悪がこもっていた。たしかに首と胴を切り離され、死 んだ筈の男が、目の前にいる。それは、デリマ】に恐れをもたらし いことを知ると、あきらめたように、わめいた。 た。だが、復讐の思いが、その恐れを呑み込んだ。この傷の償いを 「わ、わかりました。言います、言いますよ」 デイロドスが腕を離す。男は、机の一つにつかまって身体を支えさせねばならぬ。 デリマーは、雄叫びと共に、男に切りかかった。たが、何度と打 「皆さんがやってくる十日ほど前に、そのイレンという娘さんと二ち合わぬ内に、デリマーは、自分の傷の復讐が不可能に近いことを 人の男が、この ( ィアにやってきましてね、コネッテイト、この街思い知らされた。相手の動きは、デリマーのそれの数倍も速いよう に思え、デリマーは相手の切尖を胸に感じた。次の瞬間、デリマ】 の長ですが、彼に山ほどの黄金を渡してーー」 は、自分がもう一つ復讐すべき傷を受けたのを知った。だが、デ そこまで言ったときだった。酒場の暗がりの中から、より一層暗 いものが飛び出し、酒場の主人の背にぶつか「た。男は悲鳴をあげマーが復讐することは不可能だ 0 た。なぜなら、その傷は心臓にま で達し、二度と癒ることはなかったからだ。 て、倒れた。その黒い人影は、身を翻して、逃げ出そうとした。 ロランは、仲間の男たちが、男の剣の前にひれ伏していくのを見 デイロドスが、わめき声をあげて、その人影に飛びかかる。何か 白いものが光ったかと思うと、デイロドスの身体が硬直し、次の瞬つめていた。ロランは、歯を食い縛った。男の剣が、仲間の誰かに 間には、土間の上に崩れ落ちた。それは、ほんの一瞬の出来事だっ触れるたびに、その痛さを自分のもののように味わった。 だが、その苦痛も長い間は続かなかった。キャラの男たちの一人 た。だが、キャラの男たちが腰の剣を引き抜いて、人影の周りを取 の剣が、相手の背を切った。男の動きが目に見えて、遅くなりはし り囲むのに充分な時間を与えてくれた。 め、やがて、キャラの男たちの剣が男の動きを止めた。 人影は、自分の逃げ道が失われたことを知ると、手にした剣を、 構え直した。 「畜生 ! 」

4. SFマガジン 1982年1月号

ロスで見た コレクターの 夢の店 ②安田均のアメリカ (DLL 情報 った″とポャいていたほどだから、最近さて、ワールドコンのことはこれくら は熱狂的なアメリカのファンも活動いにして、残りのアメリカ見て歩きにつ 8 しにくいということだろうか。 いて、かんたんに書いておこう。 まあ人数はそこそこでも、それだけま九月七日、飛行機は無事グランド・キ とまりは良かったらしく、ほ・ほすべてのヤニオンを越え、空港に着陸。昨年 レポートが好意的な評価を下していた。来日した日本びいきのファン ( 作 特に驚いたのは、「ローカス」紙に載っ家、アニメ・ファン、コレクター、その っ・よ、つきそう ) 、デヴィッ たつぎの件り。 他肩書がいーし スヒュ ド・ワイズ氏が迎えにきてくれる。東 ーゴー賞外で ) 何と言っても際 だっていたのは、実に愛相のいい日本の京に来たとき、相棒 ( こと新藤君 ) が ファンが彼らの ()o 賞 ( 翻訳部門 ) を授歓迎団の一員としてまめにつき合ったの あの興奮のワールドコン ( 世界大与したシーンである : : : 」どうです、先で、今度は喜んでを案内しようと言 ってくれているのだ。ワイズ氏は巨漢 会 ) から一月あまり、当時の熱気を伝え月号のわが感想はまちがってないでしょ ( 横幅も広い ) 、じつによくしゃべって る情報紙もそろそろ到着しだしたのう ? 一つ二つ文句をつけているレポートも屈託のない、典型的なアメリカ人タイ。フ で、今月はまず前回の補足説明から始め あったが、その最たるものは「ゲスト だ。もっとも、本当は繊細な作家らしい 点も後で見せてくれるのだが、それは別 まず参加者数だが、 トータルでは三七オ・フ・オナー・ス。ヒーチ」と「スター ェットも の話。そして、彼の妹のジュリ 九二名と、五千人を上回った昨年のポスウォーズ」「帝国の逆襲」上映会が重なっ たこと。これには、まったく同感だ。逆いっしょに来てくれたのだが、この子十 トン、あるいはヒ八年のフェニックスよ り若干小型となり、史上第三位。もっとに評判が良かったのは、やはりあの「ロ七歳で、プロポーション抜群のすごい美 ナルド・レーガンの】八〇年代への人。失礼ながら、とても兄妹とは思えな も、予約申込者を含めるとこれが五六六 指向」というパネルと、現在作成中の カった。 ( 写真にうまくうつってるか 四名とはね上り、二番目になるようだ。 どうして実際にこない人が多かったのか映画「ダーク・クリスタル」の予告篇な ? ) しかし、わが精神はやはり、 ということだが、いちばんの理由はやはのようだ。前者について、聞き逃した理 り諸物価の値上りらしい。「クロニ由を先月号にも書いたが、後の映画につ菌″にがっちり冒されてしまっているら クル」紙でも、レポーターのウィリアムいてはまったく知らなかった。侮まれるしい。そうした心躍る状況も、つぎのワ イズ氏の口から出たひと言にふっ飛ばさ ・ロツッラーが″西海岸からこの大なあ、もう。 れてしまった。「よし、まあ疲れてるだ 会に参加するたけで、千二百ドルもかか

5. SFマガジン 1982年1月号

てしまうのだ。 完璧な管理社会シティーーそこでは人々は様々なギルドに属し、 おお、レダ ぼくは呼んだ。おお、レダ。あんたとアウラみた 体制に適応せぬものもまた紊乱者として存在を許されるという理想 いに愛しあえたら、何ひとっーーーそうだよ、ちつぼけな嫉妬の悪意 社会だった。平凡な少年イヴはある時紊乱者の女レダと会い、やが なんて、何ひとつ、恐れる必要もないのに。 てしばしば彼女の家に出人りするようになって、その家の同居人ア 唯もまくを愛していない。そうだ、・ほ ぼくは誰も愛していない。言 ~ ウラや、知性を持つ大ファンらとも知り合う。しかし、ある日レダ くに。フロポーズをしたラウリでさえだ。だから、ぼくが、ミラの悪 とアウラのレズビアン行為を目撃、しかもそこでスペースマンと出 意に吹きさらされたこの廃墟の中に立って、ぼくを守ってくれるも 会ったことにショックを受け、イヴはレダの家から足が遠のいた。 そんな時、彼の属するグルー。フのリーダー、ラウリから第一。 のは、何ひとっとしてありはしなかった。 ナーの申し込みを受ける。彼らの社会では、少年は成長とともに同 どうして、こんなことに気づいてしまったんたろうー 性の第一バ ートナーと生活し、ついで第二パ ・ほくは思った。気づきたくなどなかった。自分が恐しくひとり・ほ ナ】と選ぶことになっているのだ。しかし、同じグルー。フの少年ミ っちで、無防備で、何ひとっ身を守るものをもっていないなどと、 ラは自分が選ばれなかったことでイヴを脅かす。そして、イヴはラ こんなときに、こんなふうにして、気づかされたくなどなかった。 ウリとともにセクソロジストのギルドを見学に行ったが、そこでラ ・ほくは自分が何をしているのかさえ、よくはわからないまま、の ウリとはぐれ、しかもスペースマンのプライと抱き合うレダと出会 った。衝撃的な事件の連続に、ふらりとユニットを出たイヴは、戻 ろのろとさまざまなものがちらばっているヘやの中央に歩みより、 った時そこが減茶減茶に破壊されているのを発見した。 腰をかがめ、床から何かをひろいあげた。 それは、・ほくが、そんなものを持っていたことさえ、忘れていた 男の子なのに、人形なんか買ってらあ、といって、ミラがぼくを レ ものだった。 ひやかし、ラウリより前の指導員のシビルに、フィメールとメー 小さな、乱暴な侵入者のためにむざんに首をひきちぎられた、布を差別する発言はいけませんと、きびしくたしなめられていたのを 製の女の人の人形。 覚えている。 ほくがまだうんと小さかったころ、ちょっとした室内装飾品やか しかし、ミラに冷やかされるまでもなかった。実は、、ちばん恥 わいい置物をつくる、ハンドクラフトのギルドの見学こ 冫いったときずかしかったのは・ほく自身だった。 に買ったものだ。もしかしたら、それが・ほくの生まれてはじめての ・ほくは、何だか、とても恥ずかしい、どうしても人に知られては 買物だったかもしれない。 ならないことを知られてしまったような気がしたが、しかしその人 というせつばつまった気持は、そ どうしてかはわからないが、その白い服をきた、髪の長い女の人形を手に入れなければならない、 形を、棚にひと目みるなり、・ほくはどうしてもそれをもちかえらなの恥かしさよりもっとつよかった。・ほくはそれを持ちかえり、そし くてはいけない、 という気持になった。 て大切にした。 226

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いものが見えた。霙まじりの雪だった。もうすぐ真夏を迎えるとい夜、下心があって、ここに来たんたと思うわ。あなたは、どう思 う湘南海岸に雪が降っていた。 う」 でも、ロマ泰彦は彼らのテしフルに視線を巡らす勇気が湧かなかった。あの 「いくら、異常気象だって、夏に雪が降るなんて : ンチックね、夏の雪なんて。東京に帰ったら、早速、友達たちに自二人が、十五年後の泰彦を見て気づく心配はそれほどなかった。そ 慢しなくちゃ。昨日、湘南の素敵なアンテーク風のホテルに泊まつれよりも、彼は十八歳の自分の哀れな姿を見ることに耐えられなか ったのだ。脇の下に冷たい汗が溜まっていくのがわかった。 たら、雪が降ってきたのよって : : : 」 泰彦に対する媚を一杯に含んだ久美のお喋りがつづいていた。 彼らのテーブルから聞こえてくる囁き声が、彼を一層落ちつかな あの日、と十五年前の冬の光景を泰彦は思い出していた。このホくさせた。特に、十八歳の自分の声が聞こえてくるとき、恥ずかし テルの駐車場にクルマを入れたとき、ちょうど霙まじりの雪が・ハラさと惨めさで、彼の顔は紅潮した。 つきはじめたんだ。それから、俺は、彼女の肩に手を廻し、そし 少年が席を立った。トイレに行くふりをして、震える足でフロン て、そして : トに部屋を頼みにいったのだ。泰彦はチラと、少年が去ったあと 「いらっしゃいませ」 の、テーブルを盗み見た。 初老のウェイターの良く透る声が聞こえた。泰彦は思わす、入り 彼の記憶のファイルに仕舞いこんだ姿そっくりの理恵子がいた。 ロのほうを振り向いた。若いカツ。フルが、テーブルに案内されてくときおり浮かべる不思議な微笑も、記憶の通りだった。恐らく、泰 るところだった。 彦が年をとったせいだろう。理恵子は十五年前よりも可憐に見え 少女はーー・横田理恵子だった。白い頬が、外の寒気のためか徴か に上気している。そしてーー少年は、間違いなく十五年前の自分、 理恵子と彼の眠が会った。 十八歳の小木曾泰彦だった。 どこかでお会いしましたねーーーそんなかんじに理恵子は小首を傾 二人は、泰彦と久美からすこし離れたテープルに座った。 げ、軽く会釈を送ってきた。どこかで会ったはずなのこ、 泰彦はほとんど錯乱状態に陥った。こんな馬鹿気たことが起こる 誰だったか思い出せないーー彼女がそんなふうに思い悩んでいるの なんて・ーー何度も痴呆のように同じ言葉を心のなかで繰り返すだけ が、手に取るようにわかった。泰彦は曖昧に頭を下げると、慌てて 。こっこ 0 視線を逸らした。 「ねえ。あの二人 : : : 」 「コラ。どこで会った子なのよ、あの子。ふうん、確かにあなた好 久美が好奇心を露わにした様子で、彼の肘を軽く突っいた。 みだってことはわかるけど : : : あなたは気づいてないかもしれない 「きっと、まだ高校生よ。あの様子だと、まだ寝たことないみたけど、あなたのこれまで付き合ってきた女の人ってーーーま、わたし円 い。たって、あの男の子、ガチガチに緊張してるもん。きっと、今は例外としても , ー , 、ちょっと目にはわからないかもしれないけど、 こ 0

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る。これはタンクや断熱材の質量が増え スペースシャトルの初飛行が延び延びにし、フェイズでは特定の概念の実現に向 て、明らかに良くないデザインだ。 なっていた一九八〇年頃、空軍首脳がスペけての明確化の研究 ( ディフィニション・ ダッシュ七九 ( 図⑧ ) は推進剤タンク ースシャトル計画を支持する発言を相次いスタディ ) がだされる。したがって Z<<rn をへイロード・ べイの前後に集めたもので行なったため、日本では Z co << が軍に << もこの時点ではペイロード一 で、前が液体酸素、後ろが液体水素となっ救いを求めたのたとか、軍が宇宙に食指をキログラム、長さ一八・ 三メートル x 直径 ている。円筒形のペイロード・ べイの大き伸しているとか、騒がれたことがあった。四・六メートル、乗員二名 ( 乗客一〇名 ) さは長さ一八 ・三メートル、直径四・六メどっこい空軍はそのずっと以前から、スべなどの、確定した要求を示していた。 ペイロード質量一三、六八〇キロ ースシャトル計画に深くかかわっていたの 一方六月にはグラマン / ポーイング連合 グラムで、これがロックウエルのフイズだ。たた無知なジャーナリズムがそれを知チーム、ロッキ ード、クライスラーの各社 の決定案となった。 らなかったたけだ。 に対して、再度のフェイズ << 研究が指示さ アポロ計画の総指揮者が現役の空軍中将れている。その意図は先の二社の提案して だったことを御存知だろうか。今また Z< いる有翼オービターとプースター窈組合せ はスペースシャトル計画の総指揮者以外の概念、例えば使い捨て推進剤タン に、ー戦闘機の開発で功績のあった空ク、使い捨てプースター、 ()n O 方式な 軍少将を招こうとしている。 どの可能性を追求することにあった。 冶的トラウマ 自動車メーカーのクライスラー社が含ま 一九七〇年三月、の有人宇宙飛れているのは奇妙なようだが、同社はレッ フェイズ研究は一九六九年十月一杯で行室の下にスペースシャトル計画室が設置ドストーン、サターン—などのロケットを 終了し、十一月一日四社はそれそれの提案された。すなわちこの時に、スペースシャ製作した実績があり、この頃までは宇宙産 を Z<n< に示した。またマーティン・マトルという不粋な名がこの計画の公式名に業の一つと呼んでもおかしくはなかった。 リエッタ社も自費で行なった研究の成果を決まってしまったわけた。 提示した。 一九七〇年五月にはロックウエルとマク しかし一九七〇年の終り頃、 Z は 一九七〇年二月には、とアメリダネル・ダグラスの二社が選ばれて、スペ将来の宇宙計画についての重大な方針変史 カ空軍の間に宇宙輸送についての協同委員ースシャトル計画のフ = イズ ( 第一一期 ) を余儀なくされる。先にも述べたように、 会が設立されている。と軍とはも研究契約を受けた。フ = イズがいわば技はスペースシャトルを宇宙ステー ともとツーカーの関係にあるが、空軍のス術的ブレーン・ストーミングとして、さまションと地球を結ぶ輸送機関として位置づ 。〈ースシャトル計画へのかかわりは、公式ざまな技術の可能性を追求する研究 ( フィけていた。ところがアポロ月着陸以後国民 にはこの時に始まったと言えるだろう。 ジビリティ ・スタディ ) であるのに対や議会の宇宙への関心は急速に冷め、ヴェ

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立レヒッウ えた。ュニークな作家、すぐれた小作家、奇 う二枚もセー々一ー編んだんだから ! ) せいか 妙な味の作家ー・ー・それはむしろ出てきやすい もしれないが、「忙しさの三ントロ。ヒー」と し、パッと評価されやすい。しかし大きくな いうアイデアは、すごい。ここをもっと押し りうる作家は少ない。現在輩出している て、落ちなしで仕上げてほしかった。「敵は の新人たちの中で、いわゆるシチュエーショ 海賊」は、実に会話が生き生きしている。 ンとストーリイ・テラーたりうる存在は、こ ード、という感じ 「連び屋サム」より根がハ の神林長平と大原まり子の二人だろう。がん だ ( タケごめん ) もっと、このタイ。フの話を ばってほしいし、ファンたちにも、応援して 読みたい。 林長平は、確実に、すごく大きくなれるはず 「返して」もそうなのだが、「狐と踊れ」が だ。「忙殺」や「返して」を見るとその欠点ほしい。 さいごに、神林長平のどの作品にも感じら 心をひいたのも、神林長平という人が、先天も明白だ。スト 1 リイ・テリングが弱い。構 れる、ある《疾走感覚》の感じーーそれが私 的に「ある異様なシチュニーション」を、実成力に問題がある。会話はすごくいいから、 に魅力的に構築する能力をそなえているせい直すのはかんたんだ。一人称形式のとき、スはとても好きだ、ということを云っておきた それは、ンド・・ハレットとシド・ヴィシ だ。これは先輩作家だって、半分ぐらいはそ トーリイ・テリングの弱さが目立つのは、た ャス、二人のシドを連想させる。悲劇を予感 なえてやしない。一生懸命「作ろう」としてぶん感情移入がつよすぎるか、じゅうぶんに いるのだ。神林長平のは、才能である。それ頭が整理されてないせいだ。アイデアは、シしている《生き急ぎ》の感じ、というか だけに、「返して」のような作品が惜しい。 チ = エーションと結びつくと実に秀逸になそれがとても好きだ。たぶん、「狐と踊れ」 あのシチュエーションを、じっくり読みた り、「ビートルズが好き」のようにムードとで最初に私の心をひいたのは、それだったの だと思う。 ( 『狐と踊れ』 / 著者日神林長平 。おそらく、神林長平は、名のとおり、長 くつつくとからまわりする。 篇タイ。フなのたと思う。その点、大原まり子今回のレビ 1 は、いささか、小説書きの / 三〇〇頁 / \ 三六〇 / 文庫判 / 早川書房 ) とも共通している。ア , ーシュラ・ル・グイン 読み方でごくテクニカルで専門的にすぎるか のような、あるし : 、、ルウアー、、、 ノ , ーグのようもしれないが、私は、神林長平に、すごく期 な本格長篇を書けるタイ。フだ。 待しているのである。あの「狐と踊れ」は、 むろん神林長平は「これから」の作家であすばらしかった。もう一回読んでみて、やは る。作家には、ムード・メイカー、アイデアりそう思う。構成もびっちりしまっている。 ・メイカーストーリイ・テラー シチュニー それに、最近では少女マンガにしか感じなか ション・テラーの四つの型があり、その中の った、ワクワクする感じ、だあツ、と、 どれどれを兼ねるかでべイシックな大きさが うときめきを、あふれるように持っている。 決まってくる。はじめから、最も大きなシチ あのとき、。フラスをつけたことを、ほん ュニ 1 ーシ「一ン・テラーの能力をもっている神とによかった この短篇集を読んでそう思 1 狐 A 踊れ 神林長平 まを第

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Ⅱ日ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ ! ⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅱⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢⅢ聞ⅢⅢ 少女に恋をするが、少女は成長して少年か ら離れていく。やがて現代で少年と少女は 出会い、とてつもなく意外な結末を迎え る。しかし以上の例を見てもわかるよう に、時間旅行は本質的には、ファンタジイ のための魔法の道具にすぎない。 児童読みものは、この 20 年間、大復興期 の過程にあるが、 SF 純粋派にとっては残 この時期の主な S F 作品は大 芯なことに 部分が境界線上 S F であり、むしろファン タジイに属するといってよい。児童ものの 有名作家の多くが、本事典に個々の項目立 てされていないのは、ふたつの理由によ る。児童向け作家まで含めるほどスペース がないこと、そして力点をファンタジイよ り S F に置いたことである。従ってフィリ ッパ・ヒ。アス ( 上述 ) の項目はないし、ウ ィリアム・メインもない。メインは現代児 童文学の主要作家であり、その作品『地に 消える少年鼓手』 E のプ雇のな ( 1966 ) は、 18 世紀の太鼓手の少年が地中から現われ て、現代の懐疑的で科学的性向のある若者 と出会うという、境界 S F の佳品となって 児童文学における文芸復興のきざしは数 多い。冷笑的というか、なしろ皮肉な現実 主義は、昔にくらべると珍らしくなくなっ た。最上の作品では、押しつけがましさは 極端に後退した。完成度は高くなり、より 繊細になり、喚起力は強くなり、より斬新 で変化に富み、苦痛、喪失あるいは性愛と いった問題にすら、積極的に取り組もうと している。これは J ・ R ・ R ・トールキン の後塵を拝する別世界ヒロイック・ファン タジイ作家 ( 01 F の世界 ) についても同 じである。中でも注目すべきはジョイ・チ ャント、とりわけパトリシア・マキリッフ。 で、彼女は 1970 年代に登場した代表的な児 童作家のひとりとして、やがて認められる ようになるであろう。 269 ただし、さまざまな理由から、ジュヴナ イル SF 作家の何人かは、項目立てされて いる。もっとも一般的な理由は、おとな向 けの S F も書いているからであり、あるい はそれそれの時代の代表作家だからであ り、あるいはアラン・ガーナーのように おとな向け SF に影響を与えているからで 児童 SF の主要テーマは魔術であり、重 要な児童向け作品のいくつかは、その項目 の中で詳述してある。ときには魔術は擬似 科学的な説明が与えられることもある。次 元の門がどうとか、そういった説明であ り、アンドレ・ノートンの長大な《ウィッ チ・ワールド》シリーズが、これに該当す る。このシリーズの中には『魔法の世界の 幻術』 Warlock the Ⅳ″ c ん幵 % r ( 1967 ) をはじめ、ノートンの最良の作品 が含まれている。また、言うまでもなくア ンドレ・ノートンは児童向けに多数の本を 書いており、これらはハード S F 寄りであ る。アーシュラ・ K ・ル・グインは、『影 との戦い』 T んⅡを応 4 Ea れん 4 ( 1968 ) に始まる《ゲド戦記》三部作にお いて、 S F とファンタジイを結びつけた。 作品中の魔法が、厳密で、懐疑哲学的とさ えいえる法則によって律せられているた め、一種の代替科学に見えてくる。たとえ ば、その魔法はエネルギー保存の法則に従 うのである。多くの評論家が《ゲド戦記》 を過去 20 年間で最上の児童書と見なしてい るが、またこのカテゴリーには、アラン・ ガーナーの長篇、とりわけ最近の作品をも 含めなくてはなるまい。ガーナーの記 S ん ( 1973 ) は主要人物が十代であるこ とを別にすれば、あらゆる点でおとなの本 であり、愛と死と、知的肉体的無力に対す る闘いとを描いて、おとな向けとされてい るたいていのロマンスよりずっと洗練され ており、レベルも高い。この作品は境界線 III

10. SFマガジン 1982年1月号

グリーンの ? ほんとにいい朝たわ。 たまま、つっ立って、その風を嗅いでい をすますと、・ほくは食事の用意にとりかか クリーンの ? かーてんハ先週ノ た。香水の匂いでも牝の体臭でもない麻理 った。今日は麻理とのデートがあるのだ。 の匂いをその風が運んでくれそうな気がし 水曜ニ、夏向キノ白イかーてんニカエタン 腹ごしらえはきちんとしとかなくちゃね。 たのだ。 ジャナカッタカシラ白イかーてんニ白 そうして、壁に貼ってあるノ 1 マン・ が、そのとき・ほくが嗅ぎとったのは紅茶 イかーてんニ ロックウエルの「婚姻届け」のポスターに あたしは、、、 しし匂いをたてて溶けていくの香りたった。麻理のお気に入りのオレン ウインクする。麻理が、自分の二十世紀美 ジ・ペコ。紅茶は戸棚の中だし、銘柄はダ ハタ 1 のはぜる音にわれにかえった。ばか 術の秘蔵コレクションの中から贈ってくれ ージリンだ。それにここしばらく淹れてな たものだった。 ね。何を考えてるのかしら。カーテンをか 外からか ? ばくは部屋を見渡した。 あたしは慎が贈ってくれた「婚姻届け」 えたのは慎の部屋。どーかしてるわ、まっ のポスタ 1 から目を離して、キッチンに立たく。あたしは、窓から慎の集合住宅プロその時だ、さっきまでなじみ深く見えてい っこ 0 1 ー たこの部屋が、ふいに、やけによそよそし ストを一枚。スクランプルエッ ックを眺めようと椅子から立ちあがってー く見え始めたのは。 グは卵半個分。生ハムとメロンの冷えたの ーやめた。この部屋からは慎の居住区は見 オレンジ・ペコの匂いはすぐに消え、コ えないのだ。 を少し。それから紅茶を一杯ーーもちろ 1 ヒ , ーの匂いがそれにとってかわった。し ん、オレンジ・ペコで。 こ流しこ あたしはといた卵をフライ。ハン冫、 かし依然として違和感は消えない。 あたしはフライ。ハンにパターを落とし、 みかきまぜ始めた。慎と最後に会ったの ハムが焦げないように火を落としてか ケトルを火にかけた。卵を割ってかきまわは、先週の月曜の夜に電磁浮揚路をスペッ ら、・ほくはもう一度、今度はゆっくりと部 た時た。あれ以来、逢瀬どころか話さえし し、紅茶の罐のふたをス。フーンでこじあ け、温めたティーポットに葉を入れる。冷ていない。今日は、もう、たつぶりとっき屋を見渡した。白を基調にした二間。床を 蔵庫からはハムとメロンを。戸棚からは食あってもらわなくちゃ。卵をかきまわす手踏みしめるように歩き、手を壁に這わせ ゑ全くいつもと変わりない。天井の発光 器を。 一息入れて、腰を下ろした。頬が軽快に動く。卵とスターのいい匂いが、 。ハネルの向きも、オーディオの配置も、カ づえをついて、明るい窓の方を見る。開けキッチンいつばいに広がっていく。 ーテンの淡いグリーンも。でも何かが違っ はなした窓から、五月の第一日曜に、そし パ・ーからはコーヒーの匂いが ていることが、あたしにはわかる。かすか てデートの日にふさわしい風が入ってき ただよってくる。ぶ厚いハムの脂が溶けだ た。淡いグリーンのーーーグリーンの ? な違和感。いつものパンに砂が混じってい した。窓から入ってきた風が白いカーテン カーテンがそよぎ、平和に波うつ。 をそよがせている。そしてぼくはといえたときのような感触 ケトルが湯気をふきたしていた。あたし しい朝だわ。あたしはつぶやいた。 ームのびんを取り出し ば、冷蔵庫からクリ 幻 9