だ」アレンは四人に向かって話しつづけた。「しっとしていてく「どこでもいい。 とにかく、ここから連れ出して、見張ってろ」 れ。よし ししそタグラス」 「全員注射ずみですが」 三人目の男が近づいてきた。手に皮下注射器を持っている。ダグ「わかっている。だが、見てみろ。もう人間じゃない。話しかけて ラスはミリのなきだしの腕を強くつかみ、注射した。たちまちミリもむだだ。ことばを取りあげられていたんだ。おかげで、このざま の気分は変化した。精神的な不快感は消えないが、なにもかもどう だ。すぐに連れていけ」 でもいい気分になった。 ミリは傍に立っている若い男に、ゆっくり視線を向けた。ジェ ムズだ。 やがて若い男の声が聞こえた。「袖をおろして。こわいことは何 もない、それだけは安心していい」 「ここはどこ ? ・」 ミリは訊いた。 「ついてきなさい」アレンが命じた。 ジェームズはためらった。「なにも言うなと命令されているん ミリたちは、三人のあとからステーションを出て、元はコンクリ だ。そのうち心理学者チームが来て、きみたちを治療してくれる」 「お願い、教えて」 1 トらしいざらざらした床の上を歩き、階段をのぼった。約三十フ ィートほどの距離だ。人工灯のついた通路を通り、太陽の光がさし「、 しいだろう。たいして害にはならないだろうし。きみたち四人を こんでいる部屋に入る。部屋の中には二、三十人の人々がおり、何はじめ、他のグルー。フの人々は、いろんな実験の被験者たったんだ。 人かはグレーのユニフォームを着ていた。ステーショノこ 、こときこの建物は、特別福祉研究ステーションの第四号棟だ。というか、一 のように、ときどき壁が震動するが、遠くの爆発のせいらしい。と前にはそうだった。ステーションを創った政府は、もう存在してい きたま、かすかな叫び声も聞こえた。 ない。わたしの属する革命軍が倒したからだ。われわれはここに入 アレンが大きな声で言った。「よーし、ちょっと体制をととのえるのに銃撃戦をしなければならなかった。戦闘はまだつづいている」 よう。ダグラス、上のほうでは、きみにタンクの中の連中を担当し「それしや、わたしたち、宇宙にいたんじゃないのね」 てもらいたがってる。連中は生まれつきの水生動物だと信じこまさ「ちがう」 れているから、ストレートにきく打撃を与えた方がいい。ホームズ 「なぜ、そうだと信じこまされていたの ? 」 がタンクの水をぬいている。行ってくれ。それから、ジェームズ、 「まだわかっていない」 きみはこの連中を見張っていてくれ。おれは、あの環境をもうちょ 「どうやって、そんなことをしたのかしら」 っと調べてくる。精神科の先生がたが来てくれるといいんだがな。 「新しい形態の、高度の催眠術だろう。定期的にかけ直していたん このままじゃ、五里霧中だ」アレンの声が遠のいた。「軍曹・ーー , そ だと思う。それ。フラス、幻影を投射する各種の装置。それはまだ調 この五人をどこかに連れだしてくれ」 べている最中だ。さあ、いまは質間はこれくらいでたくさん。すわ 「どこに、ですか ? 」 って休みなさい」 0 《 0
〇〇キロメートルで、衝突針路に接近。対策、まにあわず。物体てきた金属物体だわ。あれはなぜ、ステーションに衝突する前に、冫 ( とっぜん三五〇〇万キロメートル地点に出現、一五〇〇キロメー えたのかしら」 ・フルーノーはミリをみつめた。「そうでなきゃならなかったの ル地点で消失″。こいつはどう思う ? 」 「前にもそんなことがあったわ」リアが言った。「今度のは接近時さ。あれが幻影だったのなら」 「そうかしら。なぜステーションに衝突する幻影が出てこないの ? 回がいちばん長くて、いちばん近くまで来たけど」 「理解不可能な現象、あるいは幻影よ」とミリ。 それに、あれが幻影じゃなかったら ? 」 「この次のは衝突するわよ」リアが言った。 「うん、今のところ、そういうしかないな。水曜日はひどく陳腐な 、つで、話にならん。″あきらかに骸骨とお・ほしき物体が、中央観クロービスは笑った。「そいつはいい。衝突したらどうなったか 窓に接近し、手招きした″。ネタ切れもいいところだな。″木曜な ? おまけに幻影じゃなかったら ? 」 。当ステーションの外部にある天体その他あらゆる物体が、すべ 三人は・フルーノーの答えを待った。「ステーションはこわれ、・ほ いっせいに、計器に対して反応を停止。二時間後、いっせいに反くらは宇宙に放り出されるだろう。それがどんな感しかは想像もっ を再開する〃。これも覚えがあるから、目新しいことしゃない。 かない。当然 : : : たがいに二度と会えず、他の人間や物を見ること ~ 影 ? よろしい ″金曜日。当ステーションに、地球の爬虫類にもあるまい。永久に宇宙をただよう、意識なき物体以外のなにもの ( た生物が多数とりつき、たがいに果てしなく闘い、食いあう。シでもなくなるのさ。ひょっとするとーー」 一ルシュル、ンユーツという音が大きく聞こえた % 少なくとも、 「きみの話を聞かなくてすむようになるんだから、わるくはない ~ の音は幻聴にちがいない。外に空気はないし、呼吸しない爬虫類ね」クロービスは、ブルーノーがまごっくのを見て、また機嫌をな んて、聞いたことがないからな。昨日の余興もご同様だ。 " 苦痛おした。「気分転換に現実的な話をさせてくれ。このあと、きみの 基地に報告す 」驚愕の人りまじった人間の悲鳴が、徐々に近づき、遠のく。視覚分析には、どれぐらい時間がかかりそうなんだい ? 」の他への影響はなし″」・フル ーノーは一息入れて、みんなを見まることはたくさんあるし、おれは手を貸せんそ」 ) した。「どうだい、なにか共通点がありそうかい ? 」 「たぶん、一時間。最後のテストをしてからだが」 「ないね」昼食のテープルにつき、サラダを取り分けていたクロー 「なんだってまたテストをするんだ ? 今朝の仕事が終わったとき スが言った。「人間の頭じやでっちあげられんよ。なにもかもば には、きれいに調整はできてたんじゃないか」 ) ばらだ」 「幸運にもね」 「ところが、次のやっ、起きるとすれば今日だが、そいつらがまち「まったく幸運にも、だ。もうひとっ変数が出てきてみろ。ありえ ~ えようのないパターンを示すかもしれない」 ないという答えになるかもしれん」 ミリが口をはさんだ。「注目しなきゃならないのは、あの接近し 「うん」・フル ーノーはあいまいに答えた。そしていきなり立ちあが
が終わってしまった気がした。そのしばらくあと、ラウンジにラウ ・フルーノーは独特の女のようなしぐさで、せまい肩をすくめた。 ミリの、い 2 ドスビーカ 1 ーのアナウンスを聞いたとき、その喪失感は、 「いったい、あのときは、なににとりつかれていたのかな。あのや くたいもない分析器や、のべつまくなしの故障に、ひどく腹を立ての中でいっそう強くなった。 ていたんだろうな。最近はどれも好調だよ」 いつものかちりの他にはなんの前触れもなく、ラウドスビーカー こ、ろいろ考えてたことは ? 」 「それじゃ、前 : し から、聞きなれない声が流れてきた。「アテンション・。フリーズ。 「あれはまったく時間のなだだった」 基地よりステーションへ」 「そんなことないわ」 四人はひどく驚いて顔をあげた。特にクロービスはロ早にブルー 「いや、クロービスに同感だね。考えるなんて、基地に任せときや ノーに質問したほどだ。「内部通話、できるのか ? 」 しいのさ」 「ああ、実験ずみだよ」ブルーノーも急いで答えた。 ミリは失望した。ブルー / ーが考えるのをやめたと聞き、なにか 「諸君に連絡がとれるこの装置での最初の通信が、同時に最後の通 信となるのは、皮肉と言える。最近、宇宙ステーションの管理維持 資金が不足となり、すべてのステ 1 ション管理を中止する決定がく いかなる報告もする必要はな だされた。したがって今後諸君は、 い。むろん、基地で報告を受ける者がいないのを承知なら、続行し てくれてもかまわない。大半のステーションに関しては、幸いにス タッフを回収し、地球に送還できるめどは立っている。しかし、銀 河系のはるかかなたを旅行中の者をふくめて、半分ちかくのステー ションのスタッフに関しては、時間と労力とを多大に要するものと 思われる。残念ながら、諸君のステーションは、そのひとつだ。し たがって、諸君が回収される可能性はない。われわれは、諸君がこ の新しい状況に対し、品位と才覚をもってあたってくれるものと確 信している。 最後に通信を切る前に、もうひとつだけ、連絡しておくことがあ る。これはあまりに歓迎されにくい意外な事実のため、わたしとし ては、諸君にうちあけるのは、非常に不本意なのだ。しかし、わた 亠〈しの同僚たちは、すべての真実を知る方が、諸君の苦境に役立ち、
「それもまた、しかり。だが、そんな低い可能性はあとまわしにし そうだろ ? 」 よう。じゃあ、例として、先週起きたおかしなことについて、考え 2 「パターンをみつけるのに、いい機会だと思うわ」 てみよう。論より証拠の日誌を取ってくる」 この場合の、・フル 1 ノーは、不愉快というよりも正しい 「やめてもらいたいなあ」・フル ーノーが機械室に行ってしまうと、 「いや、ごめんだね」クロービスは勢いよく立ちあがり、飲みもの クロービスが言った。「時間のなだだ」 カ置いてあるテー・フルの方に行った。「やあ、リア」トレイに令た 「時間だけはたつぶりあるわ」 い料理をのせて、背の高い、やせたプロンドの女性が入ってきた。 や 二杯、飲ってくれよ。ゾレ ノーノーとミリが、いやに哲学的になっ 「おれにはなんだってたっぷりあるさ」クロービスはミリの太腿に ちゃってね。・ハターンを探すんだとさ。どう思う ? おれとしてはさわりながら言った。「ちょっといっしょに来てくれよ」 ね、もうじゅうぶんやってる、と思ってるんだ。く / ターン探しは、 「あとで」 基地の仕事だよ」 「リアはプルーノーに頼まれたら、いつもいっしょに行くぜ」 「ぼくらにもできるさ」ブレ / ーノーは言った。「そうだろ、リア 「ええ、そうよ」とリアが言った。「でも、それはあたしのやりか こ 0 ミリは今、そうしたくないの。彼女がその気になるまで、お待 「もちろんよ」リアは深味のある声で答えた。 ミリには、その声ちなさいな」 は、どんなことばや行動よりも、強い意志と個性を表わしているよ「待つのはきらいだ」 うに思える。 「待った方がいい結果になるわよ」 「そりやよかった。クロービス、お望みなら、きみは知らん顔して「持ってきたそ」威勢よく・フレ ノーノーがもどってきた。「さてと : てかまわんよ。まず、・ほくらが見聞きしたことが、幻影である必要 ″月曜日、一瞬のうちに当ステーションは、濃い褐色のべっとり という事実から始めよう。幻影かもしれないが 2 , した物質の中に閉じこめられる。テストの結果、この物質は不浸透 「少なくとも、あれはわたしたちにだけ見えるんじゃなくて、他の性で、しかも無限に厚いことが判明。スタッフによる働きかけに反 人たちにも見えてる幻影だわ。他のステーションでも起きていると 応なし。三時間十一分後、消失″。おもしろいのは、この無限に厚 いう、基地の報告でわかっているようにね」 いというところだな。あれは幻影だったにちがいない。でなけれ 「そのとおりだ、ミリ。とにかく、幻影であるにしろ、そうでないに ば、同時に他のステーションでもなにか起きていただろうから。も しろ、なんらかの知性がなんらかの目的をもって送ってきてるんだ」ちろん、恒星や惑星まで含めて。とすると、全感覚的な、または限 「それはわからないわ」 ミリは反対意見を述べた。「自然現象かも局的な幻影だ。異議は ? 」 しれないし、なんらかの知的活動の副産物であっても、わたしたち 「つづけて」 に送ってきているわけではないのかもしれない」 「″火曜日。当ステーションと同程度の大きさの金属物体が、秒速
ス訳子 ミ一陽の イ子南 一田 / レイー 幻影のステーション 遙かな宇宙に浮かぶ観測ステーシン something
た。短い間のあと、最初の男は、四人から見て右手の、視界外に移 クロービスは興味深そうに、観測窓をのそきこんでいた。「ミ 動した。たいらな地面を歩いているような動きかただった。 、見てごらん」 ステーション内の四人は、ロもきかず、身動きもしなかった。目 遠く、距離の見定めがっかない空間に、長方形の光が現われた。 の前の外壁の一部の重いポルトが音をたてて引き抜かれても、外開 幅にして一度程度、高さはその二倍半程度。その明かるさは、ステ ーション内部の照明の強さに匹敵する。ときどき、ちかちかとまたきのドアのように、その部分がぼっかり取りはずされて、三人の男 が中に入りこんできても。三人のうち二人は、肩からはずした銃を ュ / しュ / かまえていた。 「なんなの ? 」 ミリは何週間か前のことを思い出した。キッチンで、前かがみに 「わからん。急に現われたんだ」床が激しく揺れた。「これで目が さめたんだ。この揺れのせいで。ゃあ、。フルーノー、来たな。あなった姿勢から起きあがったとたんに、たまたまリアが開けつばな ℃やというほど頭を打 しにしておいたカツ。フポードの扉のはじに、、 れ、なんだと思う ? 」 ミリが経験している感覚は、肉体的な痛みが特 ーノーは大きな目をさらに大きくみはったが、なにも言わなちつけたのた。今、 にないという点を除けば、まったくそのときと同じだ。もうひと かった。リアも姿を見せ、窓べりの沈黙したグループに加わった。 つ、もっとかすかな記憶が、心の奥底をよぎった。誰かが、ある精 またもや震動でステーションが揺れた。キッチンの容器がいくっ 神状態と肉体の不快感とのあいだの類似点を説明しようとしてくれ か、床に落ちてこわれた。 たのに、 ミリには理解できなかったことがあった。その記億は急速 ミリが言った。「光の下の方に、階段みたいのがついているのが に薄れていった。 見えるわ。四段、五段、もっとありそう」 ミリが言い終わるか終わらないうちに、四人の前に影が投げかけ最初に来た男が言った。「全員、袖をまくりあげろ」 られた。長方形の光が、なにか得体の知れない表面の上に、影を映数分前、観測窓をのそきこんでいたときより、さらに興味のない 目つきで、クロービスはその男を見た。「あんたは幻影だ」 しているのだ。びつくりするほど巨大に見えるが、それは疑いもな 「ちがう。袖をまくりあげろ。全員だ」 く人間の影だった。一瞬後、影の主が姿を現わした。光を背に、そ 四人が言われたとおりにしているあいだ、男はすぐ傍で見ていた の男は階段を降りてくる。あっというまに、ステーションの観測窓 が、四人ののろのろした動作に、だんだんいらだってきた。年の若い ィートのところに近づき、中をのぞきこんだ。ステー から二、三フ ション内の明かりが、男の上半身を照らしている。グレイのユニフ銃をかまえていた男が言った。「アレン、彼らにきびしくあたるな オーム・ジャケットに、メタル・ヘルメット の、体格のいい男だ。肩よ。どんな経験をしてきたのか、われわれにはわからないんだから」 「おれは危険な賭けはしない」アレンは言った。「木の上に住んで 9 から、銃とお・ほしきものを吊っている。男が四人を見ているあいだ いたあの連中に出会ってからはな。さあ、これはきみらのためなん に、同じ装備の男が二人、階段を降りてステーションに近づいてき
できる。それにしては、全員、飢えているようには見えんが」 ひとつは、理解だ。それ以外は正視するのは苦痛たった。ミリ自身 「おそらく始めたばかりだったんだろう」 が感じていることが映し出されている。ミリは目の前が暗くなり、 「すぐに食事させよう。おい、ジェームズ、これには参るそ。〈反部屋から走り出た。来た道をもどり、階段を駆け降り、ざらざらの 応。変化ほとんどなし。動作鈍し。感性および感情表現語彙の急速床を突っ切って、ステーションにもどった。 低下。 ミリⅦの手による小説と、前任者たちの作品との比較。予後 ジェームズはステーション内部の勝手がわからなかったため、な " さらに情緒低下日精神分裂症的無関心実験失敗〉。ま、ここのかなかミリをみつけ出せなかった。ようやくみつけたとき、ミリは ところだけが慰めだ。しかし、これが恐怖心の除去と、どんな関係小説の原稿を両腕でしつかりと胸に抱きしめ、ペッドに横たわって があるんだろう ? 」 いた。両足を引きあげてちちめ、頭を低く垂れて、知るはずもない 不意に話し声がやんた。 ミリは彼らの視線の先をたどった。ドア誕生以前の姿勢をとっている。 が開き、ダグラスと呼ばれていた男の指揮で、何人かの人々が入っ数日後、依然として同じ姿勢のままのミリ の傍に、誰かがどっか てくるのが見えた。みんな、毛布にくるまれた人間らしいものをか りと腰をおろした。 かえたり、かついだりしている。 ミリ。もどって 「ミリ、・ほくが誰だかわかるね。目を開けなさい、 「タンクの連中にちがいない」アレンだか、ジ = ームズだかの声だ。おいで」 ミリは毛布のつつみが、べンチや床の上にそっと置かれるのをみ変わらぬやさしい声で、何百回も同じことをくり返すと、ミリが つめていた。しかし、毛布にすつばりつつまれている人々のうちのうっすらと目を開けた。 ひとりは、まるつきり無関心のようすだった。 奥ゆきのある、細長い部屋の中だ。傍に、青白い肌の、太った男 「注射はうったんだろう ? 」 がいる。その男は、宇宙と思考に関係のある、なにかを思い出させ 「ショックた : : : 残念ながら」ダグラスの声にはかすかな震えがある。ミリはぎゅっと目をつぶった。 「ミリ、・ほくを覚えているのは、わかっているよ。もう一度、目を った。「どうにも手のほどこしようがない。 もしかしたら、おれた 開けて」 ちは踏みこむべきじゃ ミリは前かがみになり、毛布のはしをめくった。ステーションの 男が話しかけているあいだ、ミリは目を閉じたままでいた。 中で経験したより、もっとおかしなものが見えた。 「目を開けて。体をまっすぐに伸ばすんだ」 「このひと、どうしたの ? 」 動かない。 ミリはジェームズに訊いた。 「体を伸ばして、 ミリ。愛しているよ」 「どうしたかって ? ショックで死ぬこともあるさ」 「わたしになにかでぎる ? 」 リの足が、ゆっくりと、少しずつ伸びていき、顔があがってき ミリはジェームズの顔が複雑な表情でゆがむのに気づいた。そのた : っ 4 3
するけれども、ミリは本物の作家にちがいない。そうでなければ、 「ぼくは基地の言うことを、全部が全部信じちゃいない」 「でも、基地を信じなかったら、誰を信じられるっていうの ? 」 知っている人々とは似ても似つかないこんな登場人物を創り出した ・フル】ノーはミリの問いなど、上の空だ。「きみのところに来る 、経験したこともない状況を設定したり、できるはずがない。た っしょにいさせてくれ。話 だ自信がないのは、、い理描写が大げさすぎないか、あるいは、くどしかなかった。リアじゃだめなんだ。い したいことがたくさんある」 くどと長すぎないか、という点だ。そう『びどくみじめそう』は、 「むだよ、プルーノー。わたしはクロービスのもの。あなただって ミリとその個所を『前より少し悲しそう』に変え 少し重苦しい まい。これで、心理描写に抑制のきいたタッチが加わった。 わかってるーー」 あと数行で、この場面を書き終えられる。 「そんな意味じゃない」プルー / ーはいらだった口調で言った。「考 えるために、きみが必要なんだ。ただし、そのもうひとつの点も関 「いっか、カクテル・タイムに会えるだろう」ポルスキは言っ係がないわけじゃない。ぎみがクロービスのものだとかいう、女が こ 0 男の所有物になっている点だ。きみがそれに気づいているとは思わ ない。・ほくだって、やっとそれがわかってきたところだからね」 プルーノーのあとのことばは、 ミリにはちんぶんかんぶんだっ」 ミリはまゆをしかめ そう書き終えたとき、ドアのブザーが鳴り、 て顔をあげた。せまいくさび形の部屋・ーーうしろの壁は、ステーシた。「考える ? なにを考えるの ? 」 1 ノーはくちびるをかみ、一瞬、目を閉じた。「聞いてく ョンの外壁の一部だが、窓はない を横切り、ドアのロックを開 けた。。フルーノーが立っていた。・フルーノーは大急ぎで来たか、重れ。最初におかしいと思ったのは、分析器だ。ほぼ一日おきに故障 カウンタ スキャナー してる。コンビューターも、計数器も、反発機も、走査機も、なに い物を持ちあげでもしたかのように、息をはずませている。・フル】 もかも、いつもいかれてる。電源装置もご同様だ。それなのに、浄 ミリは不夬気に見た。プル】ノ ノーの厚い皮膚に浮いた汗の玉を、 1 はミリを押しのけて部屋に入り、あえぎながら、ミ , リ のべッドに化装置、液体還元装置、野菜・果物栽培装置、ヒーター、中央動力 腰をおろした。 源は、なんともない。なぜなんともないんだ ? 」 「どうしたの ? 」 ミリはむっとして訊いた。昼食時に特別の約束を「そうね、機械が比較的シン。フルだからよ。果物栽培装置なんて、 故障しようがないでしょ ? 化学液のタンクと水のタンクが付いて ート・タイムなのだ。 したのでもないかぎり、午後は。フライベ いるだけなんだもの。そんなことはリアにお訊きなさい」 「どうしたんだか、自分でもわからない。きっと病気なんだ」 「わかった。それじゃ次の問題。おかしな出来事の件だ。幻影だと 「病気 ? そんなはずないわ。病気になるのは、地球で暮らしてい る人たちだけよ。ステーションにいる人間は、病気になんかならなすると、な・せいつも、ステーションの外でばかり起きるのかね ? い。基地がそう言ったじゃないの。病気というものはーーー」 なぜ、ステーション内部では、なにも起きないんだ ? 」 リべラ 3 2
「もしかすると、任務交替のチャンスを、おれたち自身でふちこわ 毎日なにかしら、おかしなことが起こった。それは午前中に起こ ることもあり、男二人が計器の読みとりや観測にあたり女二人が家してるのかもしれん」 事にいそしんでいる最中に、大きな顔が現われたりした。また小さ「基地は解任のことなんか、ひとことも言ったことないそ」 「そりやそうだ。人員を配置すべきステーションが五十万もあれ な顔や色のついた炎の場合のように、おかしなことは午後にも起こ り、・フルーノーの機械の管理、保全や、クロービスの基地への送ば、ここみたいに順調にいっているステーションをとりあげるまで 信、リアの菜園手入れ、 リの執筆の時間などを乱した。それでもには、ずいぶんと時間がかかるだろうさ。きみとおれは完璧なコン ビだし、きみにはリアが、おれにはミリがいる。みんな仲良くやっ 夕方は平穏なことが多く、夜はほとんど起きなかった。 通常の時間表記は、宇宙ステーションに半永久的に閉しこめられている。深刻な対立はまったくない。ゆえに、解任の理由はゼロ、 ている人間にとっては、なんの意味もないと、四人とも承知してい というわけだ」 る。このスチールの球体が静止している宇宙空間は、きわめて空漠アルコープにテープルのしたくをしながら、ミリはこの会話を聞 としており、いちばん近い星の光が届くのさえ、数百年かかるの いていた。そして、・フルーノーがリアのかわりにミリをほしがって だ。とはいえ、基地で考案された服務規定により、四人は何カ月も いるのが、でなければリアと二股をかけようとしているのが、な・せ 見ていない地球の規準どおりに一日二十四時間制を採るよう、勧告クロービスにはわからないのだろうと思った。もしかすると、クロ を受けていた。この取り決めは好都合だった。勤務、休憩、睡眠ービスはそれを知っており、・フルーノーをいたぶっているのかもし が、ごく自然の周期におちついた。くる年もくる年も、まったく同れない。そうだとすると、・フルーノ 1 が明かるい性格ではないだけ じ日課のくり返しが、この先いっ終わるとも知れずにつづいていく に、ばかなまねだと言える。あの太いくびと青ざめた丸まっちい顔 しい感じはなさそうで、 だけだ。それはストレスを生む。 では、。フルー / ーは抱かれていてもあまり、 その点を、ブルーノーはクロービスに力説した。午前中に、比較その点でも、クロービスとは正反対だ。クロービスのほうは背丈 こそ大差ないが、その細身の強靱な肉体とやわらかな肌は、抱かれ 的近い恒星を調査分析する、スペクトル分析器の故障を直したあと ブルーノーほど頭が切れないところは のことだ。二人はラウンジの中央観測窓に腰をすえ、正午のカクテていてもいつも気持がいし あるけれど、逆に言えば、・フルーノーが考えることの多くは陰気な ルを飲みながら、女性二人を待っていた。 ミリは飲みものをつぐと、男たちの方に行った。 「ストレスに関しちゃ、おれたちはじゅうぶん持ちこたえたと言えものだ。 ・フルーノー , 刀し 、くつかけんかをでっちあげて服務報告を摠造で る」クロービスはブルーノーに言った。「たぶん、じゅうぶんすぎ それは無理だとクロ るぐらいた」 きないのが残念だといった意味のことをいい、 ミリはクロービスにキス ービスが言下に同意したところだった。 ーノ 1 は太った体をまっすぐに起こした。「どういう意味だ し、傍にすわった。 ・イ・クル 8
奇現象に見舞われる四人の男女 幻影のステーション 九時にべッドで船出して 薄幸の町で 次第に全貌を現わす謎の惑星 我、ら、か宀女自の日々〈連載第十一回〉 夏の雪 カラッポがいつばいの世界 ウラシマ 愛のいたみは時の流れを越えて : 現実卩 浦島太郎が人とは限らなければロ】 宇宙の新鋭がみせる新境地ー とぎすまされたイメージの結晶 超管理社会の矛盾に直面する少年の魂 レタ〈連載第六回〉 1982 年 1 月号 目次 ではない世界の奇妙な物語 キングズリ ・エイミス 7 山田順子訳 森下一仁 大原まり子 鏡明 亀和田武 鈴木いづみ 火浦功 栗本薫 224