感じ - みる会図書館


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1. SFマガジン 1982年1月号

いる人間がいないような気がした。目の下のシティはすごく小さセーション学もふっとんで、すけずけと話しているあいての心の中 へふみこんでゆき、必要とあれば傷つけあってもよいという、心安 、無意味だった。」 2 さ。ミラも、同しように感じ、同じ奇妙な居心地のよさを味わって しる、ということは、まくは断一「ロできると思った。 ・ほくはささやいた。 ミラ。ここにはぼくとおまえしかいないんだからいっちま 「ねえ、 ほとんど同時に、 うけど ぼくは、ラウリには、きみがここまでかけるほどの値う 「イヴ。おまえは、ばかだな」 ちがあるとは思わないよ」 ミラが云った。 「そんなことはわかってる」 「どうしてーー」 ミラの目はきらきら光り、顔は風に 怒ったようにミラが云った。 「何だってこんなところへ あたって上気していた。 また、二人の声がかさなった。ぼくは苦笑したくなって、ミラ 「ミラ。きみは、激しい人間た。だから、人を思うことも、自分へ に、先にしゃべれとカイハセーションの合図をしたが、こつけいな の。フライドも、なみはすれて激しいんだ。でも、だからといって、 ことに、またしても、ミラも同時にその合図を送っていた。 その値打ちのないあいてに、その激しさをなけるなんて下らないよ 思わずぼくとミラは目をみあわせて苦笑した。これではまるで、 ・ほくは考え 殺しあおうとしている敵どうしなんてものじゃない 「へえ」 こ。ぶ ( くはロをきった。 少し、おもしろそうにミラは云った。その手のナイフがキラキラ 「ミラ。そんなにラウリが好きなら、ラウリの決定を尊重すべきだ と輝いた。 ったんじゃないか」 「おまえが、そんなことをいうなんて、思ってなかったよ、イヴ。 こんどは、 ミラはロをひらかなかった。それで ? というよう おまえはいつだってうじうじして、何ひとつ、云いたいことも に、ナイフをもったまま、肩をすくめてみせた。 云えないやつだと思ってたもんな。おまえ、少し、かわったんじゃ 「ラウリは、怒ってるよ」 ュ / し、刀っ・・ ラウリのせいなのか ? え ? 」 「知るもんか。あんなやっ」 「ぼくは、そうとは思わないけど」 「だってきみは、彼が好きなんだろう ? 」 「だろうな」 ミラは何も云わなかった。 ミラのするどい顔に、あざけるような、皮肉つぼい笑みがうかん ぼくは、奇妙な感じを味わった。それは、アウラと、・ほくがレダ を好きだ、ということについて、談話室でざっくばらんに話してい 「おれは、ラウリのことなんか、そんなふうに田いっちゃいないよ」 たときと同じ感じーーー解放感に近いものだった。礼儀作法もカン・ハ

2. SFマガジン 1982年1月号

はネコみたいに他人の視線をきらう。あんまり長く見つめつづみたいなものが備わっていた。″性善″といいかえてもいし が男にまるで興味がないタイ。フの女だということを知るのは、 けられると、不安が恐怖に変わり、突如、反撃に転ずる。 もう少しあとのことである。 敦彦は初めてと会った日のことを想い出していた。 はやましさや罪や罰といったものとはまるで無縁の世界の住人 渋谷にあるパラハウスという詩集の専門店で、二人は運命的に出 なのだ。 会ったのだ。 は自分の心のままに生きているし、その生き方を肯定してい そう、季節はちょうど秋、思えばと出会ってからたった一年し かたっていない。 る。は最高に自分自身を愛している。ナルシシズムというのと少 しちがう。ナルシストのもつあの鼻もちならぬ鈍感さはにない。 そのころ敦彦は、てひどい失恋のために無気力な日々を送ってい た。他のどんな裏切り行為よりも深く鋭く、それは心をえぐりとつむしろひょわなまでに神経質なところがあって、痛々しい感じさえ ていったのだ。 受けるときがある。 は敦彦によく似ている。 ろくに食事をとらなかったので、みるみるやせていった。 だが、ぜん・せんちがう。 敦彦はほとんど女性嫌悪から、へやを出ないようになった。渋谷 そして敦彦は、しようこりもなく恋におちたのだった。 へ出たのも、実に三カ月ぶりのことだった。 はそれを知りながら、なにげない顔をして敦彦とっき合ってい は小柄な少年のように詩集を手にとって読んでいた。 いまどぎ髪の長い少年などめずらしくない。 は敦彦に対して、好意以上のものを決して見せなかった。好意 敦彦はジーンズ姿のを完全に少年だと思いこんで、しげしげと 以上のものを感じなかったからだろう。 ながめていた。 少年として見ると、は気の毒なほどきやしやで、か弱げで、不それでも五日に一ペんくらいは、愛車のマジーにさっそうと乗っ て、敦彦の下宿に現われる。もう一年も同じことばかりくり返して 可思議な色気があった。 いる。の生理日もだいたいいつごろか知っている。 ところがその少年は、いきなり敦彦をまっすぐにらみつけると、 「なによ」 きんきら声でこう言ったのだ。 は今度は無感動に言った。 「なによ、あなた ! 」 は小悪魔的なところはあったが、決して性悪ではなかった。そ「想い出してた」と答えると、 の高潔さ、けがれのない純粋さは、敦彦の心身を浄化してゆくよう「なあに、オジサンみたいにさ」とののしった。 敦彦は悲しくて憮然とした。 にさえ思われた。 オジサンときくと、とひどく仲のよい初老の教授のことを思い 潔癖さとはおよそ縁がないが、にはもっと高次元な″正しさ″ 4

3. SFマガジン 1982年1月号

立レヒッウ えた。ュニークな作家、すぐれた小作家、奇 う二枚もセー々一ー編んだんだから ! ) せいか 妙な味の作家ー・ー・それはむしろ出てきやすい もしれないが、「忙しさの三ントロ。ヒー」と し、パッと評価されやすい。しかし大きくな いうアイデアは、すごい。ここをもっと押し りうる作家は少ない。現在輩出している て、落ちなしで仕上げてほしかった。「敵は の新人たちの中で、いわゆるシチュエーショ 海賊」は、実に会話が生き生きしている。 ンとストーリイ・テラーたりうる存在は、こ ード、という感じ 「連び屋サム」より根がハ の神林長平と大原まり子の二人だろう。がん だ ( タケごめん ) もっと、このタイ。フの話を ばってほしいし、ファンたちにも、応援して 読みたい。 林長平は、確実に、すごく大きくなれるはず 「返して」もそうなのだが、「狐と踊れ」が だ。「忙殺」や「返して」を見るとその欠点ほしい。 さいごに、神林長平のどの作品にも感じら 心をひいたのも、神林長平という人が、先天も明白だ。スト 1 リイ・テリングが弱い。構 れる、ある《疾走感覚》の感じーーそれが私 的に「ある異様なシチュニーション」を、実成力に問題がある。会話はすごくいいから、 に魅力的に構築する能力をそなえているせい直すのはかんたんだ。一人称形式のとき、スはとても好きだ、ということを云っておきた それは、ンド・・ハレットとシド・ヴィシ だ。これは先輩作家だって、半分ぐらいはそ トーリイ・テリングの弱さが目立つのは、た ャス、二人のシドを連想させる。悲劇を予感 なえてやしない。一生懸命「作ろう」としてぶん感情移入がつよすぎるか、じゅうぶんに いるのだ。神林長平のは、才能である。それ頭が整理されてないせいだ。アイデアは、シしている《生き急ぎ》の感じ、というか だけに、「返して」のような作品が惜しい。 チ = エーションと結びつくと実に秀逸になそれがとても好きだ。たぶん、「狐と踊れ」 あのシチュエーションを、じっくり読みた り、「ビートルズが好き」のようにムードとで最初に私の心をひいたのは、それだったの だと思う。 ( 『狐と踊れ』 / 著者日神林長平 。おそらく、神林長平は、名のとおり、長 くつつくとからまわりする。 篇タイ。フなのたと思う。その点、大原まり子今回のレビ 1 は、いささか、小説書きの / 三〇〇頁 / \ 三六〇 / 文庫判 / 早川書房 ) とも共通している。ア , ーシュラ・ル・グイン 読み方でごくテクニカルで専門的にすぎるか のような、あるし : 、、ルウアー、、、 ノ , ーグのようもしれないが、私は、神林長平に、すごく期 な本格長篇を書けるタイ。フだ。 待しているのである。あの「狐と踊れ」は、 むろん神林長平は「これから」の作家であすばらしかった。もう一回読んでみて、やは る。作家には、ムード・メイカー、アイデアりそう思う。構成もびっちりしまっている。 ・メイカーストーリイ・テラー シチュニー それに、最近では少女マンガにしか感じなか ション・テラーの四つの型があり、その中の った、ワクワクする感じ、だあツ、と、 どれどれを兼ねるかでべイシックな大きさが うときめきを、あふれるように持っている。 決まってくる。はじめから、最も大きなシチ あのとき、。フラスをつけたことを、ほん ュニ 1 ーシ「一ン・テラーの能力をもっている神とによかった この短篇集を読んでそう思 1 狐 A 踊れ 神林長平 まを第

4. SFマガジン 1982年1月号

、恐竜がいるわ」 「庭に : 長い沈黙がわが家を訪れた。 「あなた : : : 」 太平洋を見おろす丘の上に並んだ建売住宅の、一番はずれにある 夢遊病者の足どりで居間に入ってきた妻の房子が、どこかから空私たちの家の玄関から、長い沈黙は黙って人ってきた。海辺の地方 気の洩れているような声で言った。「あなた」が「はなた」に聞こ都市で小さな洋品店を経営し、結婚して七年目、子供はまだない私 える。なさけない声音だった。若干、肌寒さを感じる九月も末の、 たち夫婦の、白いフェンスと丹精こめた。ハラが自慢の、こじんまり とある朝早くのことである。 したマイホームに、長い沈黙はきっかり三分間だけ居坐り、やが 私は前にも一度、房子がこんな声を出すのを聞いたことがある。 て、そそくさと出ていった。来た時と同じように玄関から。一言も ダイエットを始めて十日くらいたった頃に、確かこういう声になっ喋らずに。 た筈だ。もう三年ばかり前の事で、それ以後は一度も聞いたことが 私たちもまた、一言も喋らすに互いを見つめ合っていた。いや、 ないし、彼女もウエストを六十以下に保とうなどとは、決して企て これは正確な表現じゃない。確かに私は房子の、いささか間の抜け なくなった ( 賢明にも ! ) 。 た化粧っ気のない顔を見つめていた。しかし、彼女の視線は私を通 私は朝刊から片目だけあげて、房子を見た。 りこし、私の後頭部から三十センチばかり後ろの空間で、焦点を結 房子はフラフラと近寄ってきて、私のかたわらにストンと腰を落んでいたのだ。 とした。まるで、糸の切れたあやつり人形のような感じだ。畳にペ こういうとき、亭主たるもの一体どうすればよいのだろう。 0 たりと尻をつけ、仰角二十七度の空中に、うつろな視線を投げか「そいつはよか 0 たね」と片手で頭をなでてやりながら、もう一方 けている。そして、半開きになった唇をほとんど動かさずに、私にの手で一一九番をダイヤルするべきなのか、あるいは、「そデか 言った。 い」と平気で受け流し、「それより早くメシにしてくれないか」と、 「あなた・ : : ・」 あくまで日常の営みを堅持するべきなのか。それとも、どっちかが 老衰で死ぬまで、そうやって見つめ合っているのが正解なのか、は 私はロの中で生返事をした。 たまた、金づちで手前の頭をひつばたいた方がよかったのか : ・ さすらい 今思えば、、 しっそのこと、その場からすぐに、行方定めぬ放浪の 「庭に : 旅にでも出た方が、まだしも気が利いていたなとわかるが、その時 房子は、ひどく間のびのした声で、いやいや言葉を押し出すようの私の頭の中には、たった一つの言葉しか浮かんでこなかったの 7 にして言った。 だ。私は何度もつばをのみ、かすれた声で訊き返した。 それなのに、な・せ ?

5. SFマガジン 1982年1月号

が自動的な習慣になってしまうにちがいないといって、全員一致で 「たぶん、起きてるのよ」 「いや、そいつはごめんだ。そんなのはいやだね。ステーション内これに賛成したね。覚えてるかい ? 」 「ええ、もちろん」 部では、なにもかもが本物であってほしい。きみは実在しているの 「よし、じゃ、質問ふたつ。きみはその説をいかにももっともだ か ? ・ほくはそうだと信じなきゃならない」 ミリはすっかりめんくらっ と、うなずけるかい ? たった数カ月のあいだに、・ほくら四人全員 「もちろん、わたしは実在してるわ」 が、そんなふうに完全に条件づけられると思う ? 」 「そんなふうに言われると、とてもそうは思えない」 「とすると、ちがってくるんじゃないかな。きみをはじめ、ステー 「だけど、・ほくらはあのとき、全員一致で賛成した、そうだろフ ション内のすべてのものは本当に実在しているはずだ、というの は、とてもだいじなことなんだ。だけど、 いいかい、一連のおかし誰ひとりためらいもせずに」 ミリはおちつかない気分になり、壁にもたれかかった。今の・フル な出来事を引き起こしているものは、それがなんであれ、相当にカ のあるものにちがいない。・ほくらの感覚とか、いろいろな機械類ーノーは、前とはまた少しちがう感じで楽しくない。たとえ今、プ を、徹底的にもてあそべるのだから。しかも、この薄っぺらなスチルーノーの頭の回転が最高潮なのだとしても、ミリは話をやめてほ ールの殻の内部のものには、なにひとつおかしなまねを仕掛けられしいと思った。 ずにいる。さあ、答えてくれ。なぜなんだ ? 」 「。フルーノー 、もうひとつの質問って、なんなの ? 」自分の声らし 「そうね、きっと限界なのよ。喜ぶべきことだわ」 「ああ、ぎみも同じことを感じているんじゃないかな」 「うん。よし、わかった、では次の問題。ずっと前に・ほくがラウン ジで、一晩しゅうずっと起きていようとしたのを、覚えているかい 「さつばりわからないわ」 「すぐわかるよ。ふたつめの質問をしてみよう。さっき話した音楽 「あれはばかげてたわ。夜中に起きてちゃいけないのよ。服務規定の夜は、もうずいぶん前のことだ。・ほくらがこのステーションに着 いた早々の頃だったけど、きみはちゃんと覚えている。・ほくも覚え にちゃんとあったじゃないの」 「ああ、あったよな」プルーノーは薄く笑った。「・ほくがそのあとている。それなのに、そのほんの二、三カ月前、地球での生活に区 で話したことは覚えているね。目がさめると、・ほくはいつものよう切りをつけ、ここに来る準備をしていた頃のことを思い出そうとし に自分のべッドで寝ていた。どういうことなのか、さつばりわからても、あいまいに・ほやけてしまう。なにひとつ、はっきりと思い出 ない。あのときは、音楽が聞こえてきて目がさめたんだーー覚えてせないんだ」 るだろう、あのものすごい音楽 ? ところで、これからが問題なん 「あまりにも遠くなってしまったことだもの」 だけど、・ほくらは朝食の甯で、宇宙生活に慣れると、定時に眠るの 「そうかもしれない。だが、旅行中のことは鮮明に覚えている。そ 4 つみ

6. SFマガジン 1982年1月号

0 読者のつくるべージ 0 リータス・スト = リイ 亜ものというのは、ンヨート・ショート 福岡県の天佑神助さん「記億」は最近流行 の不減のテーマであるようです。それだけに、 のクローンをうまく処理しています。記憶喪一 なまはんかなアイデアでは通用しません。今失の男が病院のペッドに寝かされている。そ 月の人選作、瀬戸市の小池直人さんの「お望こに三人の男たちが次々と質問をする。なぜ みは : : ? 」は、これまでの悪魔もののパタ か男は、その質問に答えることができ、栽人 ーンをまったく逆転させている点が新鮮でし事件の自白 ( 2 ・ ) をしてしまうが : : : 男たち た。これだけのアイデアであれば、こまかい は主人公をそのままにして立ち去る。実は主 ことは言う必要もないという感じで、まこと人公は殺人事件の現場にあった犯人の髪から にショート・ショートらしい作品です。 クローン再生された人間だった、というも これと対照的なのが平塚市の竹之内円さんの。クローンは、アイデアの処理についてま の作品「さよならの風景」です。人類最後のだまだ未開発の部分が多く、これから有望な ジャンルといえるでしよう。 日に、さまざまな人々が言った言葉をオムニ ハス風にまとめた作品で、誰でも思いっきそ浦和市の一田和樹さんの「ある遭難」は、 うなエビソードが多いのが欠点ですが、「人スケールは小さいのですが愉快な作品でし 類最後の日たと。何を云うか。わしはもう寝た。遭難宇宙船の生物学者が無重力空間に適 るそ」と、破減を知っていながらそう老人が応するよう自分の体を改造し、骨がなく、息 言うエ・ヒソードは秀逸でした。それにしてを吹いて移動できるようあちこちに口をつ も、今月号には高井信氏の悪魔もの、森下一け、しかも救助信号がわりに電波を出し、。ヒ 仁氏のオムニバス作品と掲載されていますンクに輝くようになる。ところが救助した宇 が、別にだからといって選んだわけではあり宙船の船員は「ゴムまりとネオンサインのあ ません。なんとなく、奇妙な感じです。 いのこ」をつかまえたというし、重力のある 北海道小樽市の大熊凍さんの作品「透明人船内にはいると、「ふぐのせんべい」になっ 間になるということは」は、主人公が目をさてしまう、というお話。 ( 今 ) ますと、自分の体が透明になっていることに ・読者の選ぶ 気がつく。やがて空腹を感じ始めるがア。ハー 第ニ回 トの一人住いで食べ物がない。電話もないの ベスト・オフ・リーダース・ストーリイ で、仕方なく近くの公衆電話へ出前を取りに 官製葉書に八一年八月号から八一一年一月号 行くが、服を着ていたのでは目立ってしままでの本欄掲載作のうち、ベストと思う作品 う。そこで裸になって外へ出るが、そこで出のタイトル一点と住所・氏名・年齢・職業を 会った女子学生は悲鳴を上げるは、警官はと明記の上、「ベスト・オ・フ・リーダーズ・スト んでくるは : : : つまり、本人だけにしか見え ーリイ」係宛お送り下さい。 ( 宛先は奥付参照 ) ない透明人間だった、というもので、なかな締切は十二月二十日。最高得点を得られた方 かオチもおもしろく決まっていました。た には、本誌に掲載する短篇をお願いします。 だ、話のまとまりが悪く、前半がもたついてまた投票いただいた方には、抽選のうえ五名 しまうのが欠点になっています の方に文庫最新刊一冊を進呈します。

7. SFマガジン 1982年1月号

「おれはかまわないよ」 じゃあ : 敦彦は、親指と人差し指で額をきつく押さえた。冷たい汗がヌル リとすべった。 電話が。フチンと切れる。 「そうか」 耳が痛いほど静かなので、ついラジオを入れると、また宗教番組 敦彦はのどの奥で低く言った。 をやっている。なんとか教会の、なんとか神父のおはなし。 マフラーを巻きながらミャタに乗り、そのまま階段をガタンガタ ほんの半年前までは、電車がとおるたびに、この安普請の下宿屋 ンおりていった。 全体が揺れていたのに。 高層ビル群が卒塔姿のように林立していた。」 死を恐れるなかれ 主イエス・キリストは、あなたがたに二度目の生命を必ずお与え 家へたどりつく頃には、もう陽が落ちていた。途中で行きだおれになります の死骸を二つ見かけた。来るときには確かなかったはずだ。あの警もうすっかり陽は落ちていた。 官はいなかった。 天にましますわれらの父よ つもがさご そういえば今日は下宿屋のパ・ハアと会っていない。い われらをあわれみたまえ そと動く気配がするのだが。 願わくばわれらを救いたまえ せわしない感じで電話が鳴っていた。 われらをあわれみたまえ あわてて駆けの・ほって受話器をとると、マスターの声が、それと神父は鳴咽していた。 わかるほど震えていた。 まさか自身の目でハルマゲドンを目撃するとは、想像もっかなか 哲が、哲が死んだよ。 ったことだろう。 敦彦はトントンと暗い階段をおりていった。 けさ早く : : : あっという間だ、パアッと熱がでてから、ほんの 下宿人は一人だけしか残っていない。 数時間しか・ : ひょっとしたら・ハ・ハアは、ふとんの中で死んでいるのかもしれな 敦彦は身ぶるいした。 こわいよ、おれ : ・・ : 顔が蒼くなって : ジーンズのポケットには、さっき警官にもらった手書きの身分証 マスターはあれ以来、哲と二人っきりでくらしていたはずだ。 明書が入っている。なんだか、とても価値があるもののような気が : マスター ウチへくる ? 」 するーーーのくれたマフラーと同じくらい。 あした あ、ああ、明日いっていいカ ? 5

8. SFマガジン 1982年1月号

せはじめていた。長居は無用た。ロランとクセスは、仲間たちのあ 同じ動きを見せた。 路上の陽光の中に引きずり出された男の顔が、見る見る内に形をとを追った。 変え、崩れはじめたのだ。それは、あっという間に、わけのわから港に近付いたときだった。かすかなわめき声と、剣の触れ合う音 ぬ肉色の塊に変っていってしまった。キャラの者たちは、その服をが、風に乗ってクセスとロランの耳に入ってきた。前を行く男たち まとった肉塊を黙って見つめていた。ロランは、すでに数えきれぬが立ち止まった。ロランとクセスは、駆けた。 「どうしたんだ ? 」 ほどの土地に足を踏み入れていた。クセス以外の男たちは、そのロ クセスが言う。 ラン以上に多くの土地を知っていた。 だが、その中の誰一人として、このような奇怪なものを見たこと「戦いの音だ ! 」 ま、つこ 0 男たちの一人が答える。 「船の方だわ ! 」 「何だ、これは ? 」 ロランが言った。男たちは、うなすいた。背中の死体を路上にお かすれた声で、クセスが言った。誰も、それに答えることのでき ろす。いっせいに、走り出した。いつもなら、道を歩いている筈の る者はいなかった。 ハイアの者たちは、どこにも見当らなかった。ロランたちは、無人 「わからない。見たことも、聞いたこともない」 ロランがつぶやいた。そして、ロランは、今、自分が感じているの街を駆けた。そのことの異常さには、誰も気付かなかった。無理 もない。生命よりも大事にすべき自分たちの船に何かが起きている 悪感と同じものを、あの夜、イレンを見たときに感じたことを思い かもしれないのだ。周囲のことにまで、気が回る筈はない。 出した。 棧橋の上に駆け込んだロランたちは、船の中が静まり返っている これまで自分たちがイレンと思ってきた者が、実は、この奇怪な 肉の塊と同じものなのではないか、突拍子もない考えが、ロランのように見えるのを知って、足を止めた。先程まで聞こえていた戦闘 の音も止んでいる。 心の中に生まれた。すぐにでも、それを確めなければならない。 互いに顔を見合わせて、ロランたちは、ゆっくりと足を進めた。 ランはそう考えたが、すぐさま、それを確める方法などないことに 思い当った。相手を殺してみるまで、それが本物かどうか、わから突然、男の悲鳴が船の中から聞こえた。キャラの水夫たちは、再 び、走り出した。そして船の脇までたどりついたとき、彼らの目の ないのだ。 誰が言い出すともなく、キャラの「千の生命」の水夫たちは、仲前に、何かが投げおろされ、重い音を立てて木の棧橋の上ではずん だ。それは男の死体だった。首が切り離されている。だが、血にま 間の死体をかついだまま、船に戻りはじめた。最後に残ったのは、 クセスとロランたったが、もはや、路上の肉塊をそれ以上、調べるみれた服で、ロランたちは、それが誰の身体であるかを知った。テ イロスた。 勇気もなかった。周囲の家の影から、ハイアの者たちが顔をのそか

9. SFマガジン 1982年1月号

「なにが : : : 庭にいたって ? 」 を占めている、赤茶けたレンガ色の壁だった。自分が見ているもの こう言ったからといって、私が本当にその答を知りたがってい が恐竜の後肢だと気づくまでに、かなりの時間がかかった。 吐 5 た、などと誤解してもらっては困る。ひょっとしたら、私の聞きまき気がするほど巨大な三本爪の鳥の足。かかとからは、象でも軽々 ちがいだったのではないか、「恐竜」ではなく「キューリ」と言っとひき裂けそうな ( 事実、ひき裂ける ) 鋭い蹴爪が、凶々しい感じ たのではないか ( それなら理屈は通る ) という、絶望的とも思えるでつき出している。 一縷の望みが言わせた言葉なのだ。 むろん、私の切ない願いは異様にたくましい下半身からのびた、これまた異様に太い尻尾。 無惨に打ちくだかれた。 その先端は、・ へしゃんこになったフェンスをこえて、表の道路にま で達していた。首が痛くなるほど見あげた高みに、二本爪の小さな 妻ははっきりと一一「ロった。 前肢。さらにその上空、二階の屋根から首ひとつつき抜けた拠に、 「恐竜よ、茶色の : テイラノサウル すごくでつかいやっ : : : 。見まちがいっこ小型自動車ほどもある大顎がのつかっている。 ないわ」 スにまちがいなかった。後期白亜紀に栄えた、竜盤目のけもの竜。 相変らず遠くを見る目付きのまま、房子はうなずいた。 体長は十メートルから十五メートルにも達し、体重は約十トン。史 上最大最強の肉食獣だ。 私は何か言おうとして口を開きかけ、また閉じた。確かに、言う べき言葉はいくらでもあったろう。妻の額に手を置くくらいのこと 私はテイラノサウルスの威容を、青いしまのパジャマ姿で見あげ は、・してやってもよかったかもしれない。 しかし、どっちもでていた。自分が妻の房子と全く同じ表情をしていることが、よくわ きなかった。私にできたのは、自分の目で″庭の恐竜石とやらを確かった。空はぬけるように青く、今日もいい天気らしかった。・ かめに行くことだけだった。 そろそろ冬物のセールに備えて、店の模様替えをしなくちゃいけな 私はそっと立ちあがり、体を前後にゆすりながら遠くの恐竜を見い頃だな。私は考えた。体の半分に朝日を浴び、徴動だにせず佇立 つめ続けている、妻の姿から目を離さないように気をつけて、ゆっしているテイラノサウルス。その後方で、うす紅色のコスモスが今 くりと後ずさりして居間を出た。息をつめ、足音を殺して客間を横をさかりと咲き乱れ、風にゆれていた。私はふとつぶやいた。 切り、一枚だけ引いてある廊下の雨戸から外をのそいた。 「テイラノサウルスにはコスモスがよく似合う」 そこに恐竜がいた 不思議と恐怖感はなかった。 「あたしの言った通りでしよ」 2 いつの間にかそばに来ていた房子が、私に並びかけながら言っ 最初に目にとびこんできたのは、たいして広くもない庭いつばい うん」

10. SFマガジン 1982年1月号

「それさ。おれが、ラウリがおまえに申しこんだときいてから、ず 彼は云った。 「あんな、つまらん模範市民のために、おれがのぼせが来て、矯正 ーっと、考えつづけていたのは」 そんなふうに センター行きになるなんて、思われたくないね。 ・ほくは、下の方で、何かサイレンのようなものをきいて、あわて やつの自尊心を満足させてやるのは、まっぴらだよ」 て見おろした。 「ミラーーーそれじゃ、なぜ : : : 」 ミラも見おろし、そしてくすっと笑った。 「さあな」 「来やがった。センタ】だ。大げさに、何台も車をつれてきやがっ 、ツ、ここからみると、まるでカプトムシだな。おかしい ミラは、ナイフをもってない方の手をあげて、つめを嘴んだ。 あれが、ここからだと、カ・フトムシにみ 「おれにもどうしてかよくわからない。ただ、わかるのは、おれと思わないか、イヴィ えるってのを、見てるのは、おまえとおれの二人だけしかいないん が、じっとしてられなくなった、ということだけさ」 「しっとしてーーーい られない ? 」 1 ま ~ 、よ、 ミラの感じたことがわかったと思った。一 「ああ。ーー・考えてみたんだけどな」 それは、何かしら、そくそくと身内にしみわたる感覚だった。誰 ミラは云った。 かと同じものを見、同じように感じているーー・ほくもミラもあの地 「たぶん、おれが、このままじやセンター行きだろうが何だろう が、かまやしない、という気分になったのは、別にラウリが好きで上からへだてられて。この広い、何百万の人を持っシティの中で、 ・ほくとミラ、たったふたりだけがこうしてここにいて。 好きでたまらなくて、それなのに。ハー トナーにしてもらえなかっ た、そのせいじゃないと思うんだ。だってーーそうだろう。おまえ やにわにミラは下へなかってどなった。風が、その声を吹きちぎ もいうとおり、ラウリはそんなにとりたてておもしろみのあるパ トナーじゃないと思うよ。親切で、 いい人だし、そのつもりで勉強った。 「きこえるか。 ししか、だれも、上ってくるな。だれもだ。上 すりや、模範市民にだってなれるだろうけどな ! 専攻はフイロソ ギルドにや信頼され、休みの日には、スクオッシュの選手つて来ようとしてみろ : : : このちびすけをつきおとして、おれもと びおりてやるからな。いいか、わかったか ! 」 権に出る、というタイ。フだろ , 第一、どうしてもそんなにラウリの・ ( トナーになりたきや、第下で、カプトムシと、そのまわりを走りまわるもっと小さい虫の ような人びとのうごきが、にわかにあわただしさを増した。その中 ートナーは、あい ートナーまで待っこともできるし : : : 第二。、 に、ラウリもいるだろうかと、・ほくは思った。 てがよけりや、複数でもいいんだしさ。いや、 . , イヴ。別に、そのこ とじゃない と思うよ、おれは」 かわいそうなラウリ、かわいそうな人々 ! かれらには、どうす 「ゃあ、なぜ・ . ・ : : 」 ることもできやしないのだ。ここにいるのは・ほくとミラ、二人だけ 240