イグルー - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1982年9月号
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1. SFマガジン 1982年9月号

その行き場のない気持ちが、激しくオーロラにぶつけられてきた。 「あの人が、私を裏切るなんて。そんな」 「ほら ! 来ましたぜ」 「このままではぎせい者が出るばかりだ。これ以上ここにとどまっ ていることは無用だろう。引き揚けるのだ」 乗組員たちは手にした武器を握りしめたまま、凝然と立ちつくし フェの顔から笑いが消え、そのあとを急速に死の翳がおおってい 近づいて来るのはスリヤだった。そのうしろに見知らぬ女が従っ ていた。 オーロラはドアへ向って走った。 「みんな、イグルーへ入ってくれ。話がある」 「よせ ! 出るんじゃない」 スリヤはあごをしやくった。 「あぶない。 とまれ ! 」 オーロラは走り寄った。 強いカでオーロラの腕がっかまれた。それをふりきって走った。 「どうしたの ? スリヤ。何かあったの ? 」 イグルーを囲んで、基地の保安隊員が物かげにひそんでいた。 あちこちで銃火がひらめいていた。 思わず腕にとりすがった。 「オーロラ。発砲停止を伝えてくれ」 なぜこのような事態になったのか、オーロラは想像もっかなかっ スリヤはイグルーと周囲の、自分の部下たちに鋭い視線を回らせ 『シーラス 7 』の乗組員たちが、迫って来る人影に向って、熱線銃た。 「誰なの ? その人」 やライフルを放っていた。 オーロラはそっとたすねた。 「スリヤはどこ ? 」 走らせた視線が、見知らぬ女の視線とぶつかった。 「基地の幹部の連中と話し合いをしています」 彫の深い陰翳に富んだ顔立ちで、ことに眼がその美貌の中心をな 彼らは吐き棄てるように答えた。 「話し合い ? こんな状態になってしまって、何をまだ話し合うとしていた。 オーロラは思わす胸が波立つのを感じた。 いうの ? 」 スリヤはそんなオーロラを完全に黙殺した。 「さあね。直接聞いてみたらいいでしよう」 彼らのロのききようははなはだそんざいになっていた。 オーロラをそこに残したまま、大股にイグルーへ入っていった。 キャ・フテン 連合の派遣代表であり、船長でもあるスリヤとオーロラの関係も女が影のようにそのあとに続いて行った。 十分に知っている彼らは、スリヤに対するのにひとしい礼儀をオー オーロラはとっぜん、灼けるような屈辱を感じた。 ロラに対しても払ってきたのたった。しかし今は、彼らの顔にも一言 もみ合うようにしてイグルーへ入ろうとする乗組員たちを強いカ で押しのけて、オーロラは入口をくぐった。 葉にもあふれているのは、彼らの、首長に対する不信と怒りだった。 4 2

2. SFマガジン 1982年9月号

しれませんがー と化した宇宙船の残骸が、なお黒煙を吐いていた。 「じゃ、少しの間、おまかせするわ , オーロラたちが乗ってきたクルーザーだった。 「はい。主任医務官」 どこかで激しい銃声が聞える。爆発音がとどろき、イグルーが地 手術台の周囲を取り囲む医務員たちに背を向け、オーロラは部屋震のようにゆれた。 のすみのパイ。フ椅子にくずれるように腰をおろした。 イグルーの窓ガラスが割れて地に落ちた。 「いつまでもこんな所に入っていて大丈夫でしようか ? 」 医務員たちの間から、ドー リーに乗った医療用コンビューター の、人間の上半身のような姿がのそいていた。 級通信技能者の腕章をつけた若い女が、不安と恐怖に顔をゆが オーロラの目に、それがひどくいまわしいものの象徴のように映めてたすねた。 っこ 0 「大丈夫ですよ。ここは安全ですから」 「五十年、 オーロラは女の肩に手を置いた。 いいえ、もっと前、六十年になるかしら」 ふいにドアが開き、男がころげこんできた。床に倒れ伏した男の 忘れていたはすの記憶の洪水の中で、オーロラはあえいだ。 防寒コートのフードから背にかけて真黒に焼け焦げていた。 男は崖をよじ登るような形でようやく上体を起した。 標高一四八二〇メートルのカウシ = ペシ山の五合目から上をお「操機長 ! しつかりしろ」 管理班のイタカが抱き起した。 おう万年雪が、一日一日山裾へ降ってくる。あと数日で、それはこ 操機長のフェがその腕に取りすがった。 のカディンカ基地にも達し、平原を何メートルもの厚さで被ってし まうたろう。 「管理班長。もう駄目た。撤退してくれ」 「どうなったんだ ? 」 激しい風が大と地をどよもして吹き過ぎていった。 「協議会の連中が和解を拒否した。会議場で射ち合いがはしまっ オーロラたちのたてこもっているイグルーは、半地下式の要塞の た。アサイもシクもやられた」 ようにがんじようなものたったが、風がたたきつけてくるたびに、 イグルーにたてこもっていた人々は、操機長を取り囲んた。 どこから吹きこんでくるのか、徴細な風華がきらきらと輝いて舞い 狂っこ。 「和解を拒否したとなると、私たちはどうなるんですか ? 」 イタカがほほをゆがめた。 東も南も西も、さえぎるものもない広野がつづいているのたが、 連日止むことのない吹雪で地平線は火色のま・ほろしのかなたに閉さ 「撤退するんだ」 れていた。 「でも、船が」 西の窓から見ると、二キロメートルほど離れた所に、く十・鉄の山「彼らが貸してくれるたろう」 2 2

3. SFマガジン 1982年9月号

「船長 ! おれたちを裏切ったな」 スリヤの一言葉は火のように熱を持った。 「ほんとうたったんだ」 「いいか。宇宙開発は政治的もくろみで推進されるものではない。 「お・ほえていろよ ! 」 宇宙開発を推し進めているカこそ、辺境にあって実際にその任に当絶呷が急速に移動して行った。 っている人々の情熟と信念だ。それを撓めるような規則や政治的約「査問委員会の諸君は私と行動を供にしてくれるだろうな」 東事は断じて許されるべきではない : スリヤは、自分の配下の委員たちに、硬い視線を向けた。 委員たちは、乗組員たちと異って連合の職員だった。立場の上か キャップ 「船長。おれはただの宇宙船乗りだし、難かしいことは解らない らも、また心情としても容易にスリヤに従うことはできないであろ し、面倒臭い。要するに、こんな所は好きじゃないんた。おれは帰 らせてもらうぜ」 彼らの顔には濃い苦痛の色が浮かんでいた。 「船長。このカディンカに協力するのよ、 冫しし力、船長がいろいろと 沈黙の何秒かが過ぎ、彼らはがつくりと肩を落した。 「よし。ついて来い」 考えをめぐらせているうちに、このイグルーの回りでは何人もなか まが死んでいったんたぜ。何をどう思ったのかしらねえが、あんま スリヤは彼らをうながすと、イグルーから出てゆこうとした。 りそうやすやすと立場をかえないでもらいてえな」 「待って ! スリヤ」 宇宙船の乗組員として、査問委員会のメイ ( ーを運んできたた既 オーロラはさけんだ。さけんだつもりだったが、声にはならなか の連中は、どんな理由であれ、これ以上こんな所へとどまるのはご ったかもしれない。 めんだという気持ちだった。 だが、スリヤは足を止め、ふり向いた。 だが、スリヤは自分の決意を具体化するために皆が思ってもいな 「スリヤ。帰るのよ。査問委員会が開会不可能ならばそれは仕方が かった方法を取った。 ないわ。何も私たちが、このカディンカに協力することはないわ」 そこにいっからつめかけていたのか、ふいに入口のドアが押し開その時、はじめて、スリヤに寄りそっている若い女が口を開い かれた。 保安部員がなたれこんできた。 「この人、だれ ? 」 抵抗するひまもなく、乗組員たちは腕を取られ、銃ロで小突か湖のような眼が、ひたとオーロラに向けられた。 れ、イグルーから引き出された。 「私 ? 私はスリヤとコンパートメント共用申請者です」 「おまえたちに協力してもらわなければならない。無駄な抵抗なそ オーロラのぶつけるような言葉に、女は不審そうに眉を寄せた ) するな」 ト共用申請者の権利と、連合への忠誠心とどちらが優先 6 2

4. SFマガジン 1982年9月号

いるのたった。 イタカの声には怒りと放棄のひびきが重くこめられていた。 オーロラは操機長のフェの手を握った。 カディンカ基地が、彼らの宇宙船の持っ強力な工作能力を使っ 「ね、あの人は ? て、他の惑星開発基地の為に核融合発電ュニットや、金属精錬工場 などを提供しているといううわさが連合の耳に届いた時、連合は全 フェはゆっくりと視線を動かした。 く未解決の同種の問題のリストに、新しいトラ・フルの発生を記入し 「スリヤか : : : 」 フェの顔に急速に暗い色がひろがった。冖 彼の生命の終焉がすぐそたことを痛切に自覚したのだった。 こまで来ていた。それをほんのわずかでも遅らせているのは、彼自放置することは、すなわち連合に崩壊の危機をもたらすであろう 身の抱く火のような恨みだった。 ことを十分に理解している連合は、直ちに査問委員会を第四アルテ 「彼はおれたちを売った」 アに送ったのたった。 「信しられない」 連合の査問委員会は、極めて大きな権限とそれの生する重い責任 を持っていた。 オーロラの声は絶え人りそうに震えた。 間近な銃声がまたイグルーを震わせた。 だが、カディンカ基地における査問委員会はあたかも浮囚の如く であった。 太陽系を遠く離れた人類が、もはやそこへは二度と帰らないであ査問会など、たた一回も開かれたことがなかったし、また今後開 ろうことを意識したとたんに、宇宙開発の目的も、彼らの基地の意かれる可能性などあるとも思えなかった。 査問委員会の代表であり、宇宙船『シーラス 7 』の船長でもある 味も全く別なものになってしまう。 まして、地球や火星や太陽系などに関する知識を資料ファイルのスリヤは、何とかしてカディンカ側を査問の席に座らせようと努力 中たけでしか求めることができす、また、それさえ必要としない人したが、しよせん、それはむなしい作業だった。 カディンカ基地は拡張につぐ拡張を続けていたし、絶対的に不足 人にとって、太陽系連合の哲学的理念などは、超古代の碑の祈 している金属鉱物資源を入手するために努力を重ねていた。 文よりもまた理解に苦しむようなものだった。 宇宙開発こそは、とどまることのない拡散であり、焦点である地連合的秩序などここでは観念の生み出したものでしかなかった。 球へ収斂してゆくものは情緒のほかには火星の砂の一握りもなかっ たのであった。 「あの人が、私たちを裏切るなんて。そんな : : : 」 それは連合の、地球の、人間たちが言うところの辺境においては 周囲の人々が、石のようにオーロラを見つめたし 全く日常的なことであり、この時代の、それゆえに最も顕著な時代フェ、 / 弱々しく笑った。 的特色といえる心理的不安定と多様性、粗野と破壊性とを形造って 「スリヤも人たったというわけさ」 いしぶみ 3 2

5. SFマガジン 1982年9月号

今回、このインタビュウ・シリーズで一 ″日経メカニカル″誌、壁にはィーグ章の感じが ) 違うんですよね。だからワー ル機の三面図。理工系の本が多いのは、し ド・。フロセッサでそういうのをシュミレー 番の遠出をする。新潟在住の神林長平さん かにも機械工学科卒という感じがする。 を尋ねるため。上野からの車中、参考にと トして見て、行間はこんなふうになってい 部屋が狭いので、と近くの和風レストラ 編集部から借りた神林さんの処女長篇『あ るのがわかる、というような使い方をする のなら、ワ 1 プロもいいと思うけれど、書 なたの魂に安らぎあれ』 ( 早川書房より十ンでインタビュウをはじめる。 く時はやつばり、鉛筆で感触を楽しみなが 月刊行予定 ) の初校ゲラを読む。新潟駅に 小説を書く時に、コン。ヒュータを使っ らでないと、不安ですね」 着くまでに一気に読了。傑作。内容は本が てるんですか ? 出るまで、お楽しみにー 高専というのは、どんなところです 神林長平。昭和二十八年七月十日、新潟「使ってませんよ。遊びです。やつばり、 フロツ。ヒ ー・ディスクが入らないと : ・ 3 ・印 市生まれ。長岡工業高等専門学校機械工学 「そう言われても、もう忘れちゃったな 科卒。デ・ヒュー作は、第五回「ハヤカワ・ 税がいつばい入ったら買おう。 ( 笑 ) 四百あ。 ( 笑 ) 五年制で、専門は四年生くらい コンテスト」の佳作になった「狐と踊字詰の原稿用紙と活字で組んだ時と、 ( 文からです。卒業研究は、 ZO 、ニューメデ はやり れ」 ( 本誌七九年九月号掲載 ) で、著書 イカル・コントロール、今流行のね。シス テム・。フログラムを作ろう、というのをや に同作を表題にした作品集『狐と踊れ』 ( ハヤカワ文庫 ) がある。 ったんだけども、それが時間がないし、能 駅まで迎えにきてくれていた神林さん 力がないのも判って ( 笑 ) 勉強する気力も 衰え、とても我々では手に負えない。それ と、車でます沖に佐渡ヶ島が見える五十 嵐浜の砂丘に行く。編集部の ( 池 ) さん でも沖電気のコンビュータを使ったんです がカメラの腕をふるい記念撮影 ( ? ) 。 よ。沖スポットというプログラム言語があ その砂丘から歩いて数分のところに神林 りまして、紙テー。フに。ハンチして出てくる さんの家がある。二階の部室に入ると、 やつで、コードが 0 <t Z で出力さ すぐに目に入ったのが、 0 8 0 01 の れるのと同じだったんです。沖スポットに ・ハソコン。本箱の前に積み上げてある は、あんまり高度な計算能力はないんです 連載インタビュウ」神林長平 西べ才ツに写 :