るような形にもっていくか、ということだ。「一つたけ方法があ現行の計画はとても承認できるようなものではありません。こちら る。動物がたちゅけないというのなら、福祉の恩恵に浴せるように としては火山の運転許可は出しかねます」 手をうてばいいじゃないか。年金局に電話して、話がつけば解決だ 「なんだと。規制値は生物保護のためのものしゃないか ! 」 t0Q は声をはりあげた。「この計画からは生物ははすしたんだ 一切 「うむ : : : それはそうだ : : : 話がつけばだが」あまり期待しないロナ ・こ。生物がまったくいなければ、規制の必要なんかないじゃない ぶりである。 か」 数分後、 ch02 は年金局の局長に電話を入れ、窮状を説明してい 「無生物惑星に関する特別免除規定はありません」環境保護天吏は た。どうだろう、全動物に福祉を保証することを了承してくれま、 、とりつく島もなく言った。あんまりではないか。 「頭のネジがどこかゆるんでるんじゃないのか ! 」 0 は受話器 「無茶だ ! 」一言のもとにはねつけられた。 に向かってどなった。「特別免除規定だと ! 保護するものもない 「無茶たと。それしや、どうしろというんだ。この鬼、ーー・いや、天のに、なんだって規制値をふりまわさなくちゃいけないんだっ・ 使野郎」と c50Q はいきりたって叫んだ。「ああだのこうだの七面こまでトンマなんだ ? うちの計画にそんな規制値が関係ないこと ぐら、 倒くさい基準がたくさんあるのに、どうやったら全部満たせるとい どんな馬鹿たってわかりそうなものだ。頭がどうかして うんだ ? どの基準も誰かしらが引っかかるようにできているしやる」 ないか」 「わたくしは職務を遂行しているだけで、個人的に侮辱をうけるい 「知ったことか」年金局の局長はぶつきらぼうに言った。「失敬」われはありませんわ」答えが返ってきた。「基準は明々白々です。 翌早朝、難局打開のために会議が再度開かれた。あらゆる手だて早急に善処するように。失礼」電話は切れた。 を吟味した末に、すべての争点を解決できそうな方法が一つだけ残はこの = 、ースを設計技術部に伝え、研究部と討議させ った。つまり、生物抜きの宇宙を造ることである。この計画からは た。火山活動なしでは十分なガス放出がおこなえず、大気や海洋の 生命体はいっさいがっさい取除かなければならない、 というわけ形成が困難だろう。 OX 、大気も海洋も抜きだ。しかし、火山には だ。会議は重苦しい投げやりな空気のうちに終った。 地殻に蓄積する構造応力と熱とを放出する役目もある。火山活動な しでどうやって散らせるだろう ? 一つだけ手がある。地震をふや その午後のうちに環境保護天吏から電話があった。は彼女して無理を埋めあわせるんだ、と設計技術部長が言った。 ch0Q は 設計技術部長に指示を与え、火山を廃棄のうえ地殻を地震多発性の の耳をつんざくようなキンキン声に神経をかきむしられた。「植物 のまったく無い状態では、火山活動によって放出される二酸化炭ものに変史させた。これでやっと一段落と誰もが思った。 素、窒素酸化物、硫化物の濃度は規制値を上回ってしまいますね。 け 8
なしさをーー種そのものがーーー感じた、とでもいうかのように。ど からこそ、わたしたちの研究は決して研究のための研究というので はなく、むしろ生きのびるための、不可欠のそれだった、といって、 いいのだけれども : : : 」 「それで、結局、レダの父というのは、誰たったんです ? 」 吐息のように・ほくの胸を、これからたぶんずっと消えることはな ・ほくは、いつまでたっても肝心のことを云おうとせぬ・にい いかもしれぬかなしみが吹きぬけてすぎてゆくのをぼくは感じたい ささか業を煮やして、また話の腰を折った。 ( レダ ) 「そうーー」 愛しき者よーー・ほくはなんと、おまえのことがわかってなかった ・ << は目をとした。一 のだろう。なんと、おろかしくもすべてをわかったように思いなが しばらく黙っていたが、思いきったように早ロで云った。 ら、その実何ひとつ、彼女の心を理解してやってもいなかったこと 「レダの父親はスペースマンでした」 だろう。 「・フライ ? 」 レダ。ぼくは心の中で、どこかとおいところ、それとも・ほくのす 反射的にぼくの口から反問がとび出した。が、 ぐ近くに漂っているかもしれぬ彼女にむかってささやきかける。レ 、え、まさか。三十年から昔のことよ 。いかにスペースマンでダ、ごめんよ。おまえは長いあいだ、ずっとずっと辛かったのだ もーー・ずっと前に、よく代表団に加わって、地球を訪れていた人ね。 よ。もうかなりの年齢でーーー死んでいるかもしれない。だから どんなに、 レダの孤独。彼女は、どんなに孤独だったことか わかるでしよう。だから、わたしが、あなたの《上》への亡命プラ何をもってしても、満されることを知らなかったことか。 ンをきいて、どんなに動揺したか。はじめは、あなたがレダの出生 くりかえす乱交、アウラと、・ほくと、スペ】スマンたちと、それ を知っていて、それでそういう考えをもったのだと思って、 O ・ O はしかしレダのいちばん満してほしい空虚だけは決して満すことが はてんやわんやだった。レダの内にひそむ、父親の血が彼女を ない。だからこそ、彼女はいつも、どんな乱行にふけっていても、 彼女を《上》へと呼んでいるのか、と思って。でもそうではなく、 妙に、あどけなく、無垢で、清らかでさえある感じがしたのにちが あなたじしんが、何も知らずに考えついたことだと知って、わたし たちは、どんなおどろきと衝撃とにうたれたことか。同時に、まっ彼女は何ひとっ他の市民たちと似ていなかったし、共感を得るこ たく他の市民とかわりない育ちと因子をもつあなたが、そういうアともーー互いに なかった。あたりまえだーー彼女とかれらと イディアをもち得たということこ、 冫かえっていっそう愕然とさせらは、猫と大とがちがうように、鳥と虫とがちがうように、それほど れたことか。 ちがう種族だったのだから。 ワ」 246
であり、しかも不完全な道具たとみなされたからだ。言葉など使わでしように。なぜテレ。 ( シーを使わないのです〉 ずに一瞬のうちに自分の考えを伝達できないものかと考えた人間が 「わたしは言葉使い師。わたしから言葉をとったらなにも残らな 感応スプールを生み出したのさ。言葉は生き物だということを知ら ない人間だよ。きっとせつかちな、心に余裕のない、遊び心を持っ 〈言葉が生きているという証拠はあるのですか〉 ていない人間だったんたな。彼らは自分が見たり聞いたり感じたり「よくできた小説を読めばわかるさ。言葉はきみの脳のなかに独自 する出来事、起こるかもしれない事件などを言葉抜きでス。フールにの回路を造る。その変化は目に見えない抽象的なものではない。ウ 閉じこめた。それはそれで一つの立派な世界だろうさ。ただこの方イルスやガン細胞によるものと同じような、生化学的、物理的な侵 式にはひとつの欠点がある」 襲た」 「なんです」きみには感応ス。フールに欠点があるとは思えない。 〈いや、わからないそーーーそれは思弁的なたとえでしよう。脳を見 「欠点とは」 ることはできない。変化が物理的なものかどうか、生きた脳を切れ 〈感応スプールは、その人間の思惑を超えることができない〉言葉というのですか〉 使い師がテレバシーでいった。〈計算どおりのものしかできないん〈切る必要はない。わ れわれはテレバスだ。超音波断層スキャナな だ。誤解の入りこむ余地がほとんどない。事実上、ゼロだ。感応スどより正確に変化をとらえる〉 プールは事件報道用として発達したのさ。ノンフィクションの分野〈しかし、断じて言葉は虫などではありませんよ。脳に変化が起こ だよ。能率のわるい道具としての言葉を超えた性能を持っているかるとすればそれは言葉虫によるものではなくて、自己感情、自己意 らだ〉 識、自分のせいだ。虫などいるものか〉 〈あなたが書く世界が感応ス。フールよりすぐれているとは信しられ「いる。虫は質量をもたない。しかし効果をおよぼす」 ませんがね〉 「虫が入ると、脳のなかでその効果による化学物質ができるとでも 「ある出来事を表現しようとすればね、たしかにそのとおりだろう いうんですか」 さ。わたしはそんなものは書かない。書く気もしない。読む気もし「ああ、そう言えば、そのとおりだね。情動もある種の化学物質で ないたろう。アイデアだけのものなら、あらすじだけでたくさんひき起こされるものたから。しかし言葉は単にきみを感動させる媒 だ。めすらしい物理現象なら、数式を見たほうが早い。長ったらし体などではなく、なんども言うように、それ自体が意識を持った生 い文章など無用た。言葉使い師たちはそれ以上のことを表すのに腐き物なんた。読むときはさほどわからない。それは化石のようなも 心する。それは言葉を道具以上のものにしようとすることだ」 のだから。書くときた。言葉が独自の意志で動きはじめるのは」 〈抽象的なはなしはもうたくさんだ。あなたのしゃべっていること〈そういえばーーそれは本ですね、あなたが書いたと言ったけど〉 きみは言葉使い師がかかえている本の頁に、言葉の虫がうごめい は意味がない。イメージを伝えて下さい。一瞬のうちに理解できる 4
一言 ~ 某使い師 夜明けのない朝 銀河ネットワークで歌を歌ったクジ一フ かくて光あり レダを失ったイヴの知る真実 ! レタ〈連載第十四回〉 年ヒューゴし / ネビュラ賞特集 ヒューゴー賞ノヴェラ部門受賞作 ネビュラ賞ノヴェレット部門受賞作 ナイトフ一フィャー〈後篇〉 みつともないニワトリ 恐怖のセンチメンタル・ラヴ・ロマンス ローカル惑星の村にクジラが現れた とかく苦労のたえない宇宙の製造 一つ目国では一つ目が、そして : 連作調査船報告・ 4 傷みの星 1982 年 9 月号 目次 解説安田均 ジョージ・・・マーティン 8 安田均訳 っ編 / ワード・ウォルドロツ。フ 黒丸尚訳 5 神林長平 ・兄 2 大原まり子 ジェイムズ・・ホーガン 加藤弘一訳 栗本薫 光瀬龍 224 7 2 4
う無知が安全である地点をすぎてしまった。明らかに事態はもっと れは、母の一部となって残り、恥と苦痛の原因ともなった。五年間 の組織的な治療によって、彼女は気が狂いかけていた。人々を憎ん先まで進んでいる。多くの死者が出たし、きみたちはそれら全部を 見てきた。母はきみたちが生きてアヴァロンへ還ることを許さない だとしても不思議はない」 だろう」 「彼女の才能は何 ? テレバシー ? 「いや。もっとも、未発達な能力としてはあったかもしれない。あ「なるほど」と、メランサ。「そうだろうね。だけど、彼女はあん らゆる超能力には、よく発達した一つの能力に付随して、いくつか たをどうするのかな。あんた自身の立場も疑わしいもんだよ、船 の潜在能力が秘められているという説を読んだ覚えがある。ただ、一 母は人の心は読めなかった。共感能力はいくぶんあったけれども、」 「そいつが問題の中心だ」ロイドは認めた。「きみはまた三手先を 例の治療がそれを妙な方向へねじ曲げてしまい、自分のもっ感情に 読んでるな、メランサ。もっとも、今度はそれで充分かどうか疑問 びどく苦しめられていた。しかし、彼女の第一の能力はーー・連中が だが。このゲームでは、敵は四手先を読んでいる。そして、ぎみの 五年もかかってこなごなに破壊したのは、テレキだ」 ポーンの大半はすでに捕えられた。王手が目前しゃないかとも思え メランサ・ヤールは舌うちした。「彼女が重力を嫌ったのも当然るがね」 ね。無重力下でのテレキネシスはーー」 「もし、わたしが敵のキングに逃亡を説得できなかった場合は、だ 「そう」ロイドはこうしめくくった。「〈ナイトフライヤー〉に重ろう ? 」 力を発生させるのは、わたしにとっては拷問だが、母の能力を制限彼女はロイドが弱々しくほほえみかけるのを見た。「わたしがき することにもなるんだ」 みたちの味方になったと知れば、母はきっとわたしも殺すだろう」 ー・ド・フラニンは要点をなかなかっかめないらしい こうした説明のあとしばらく続く沈黙の中で、それそれは駆動室キャロリ の暗いシリンダー内をのぞいていた。キャロリ ー・ドブラニンがぎ「だがーーー他にどんな方法が , ーー」 まこの瞬間 ごちなく橇を動かした。「あの二人は戻ってこないな」っいに、そ「この橇にはレーザーがある。きみたちのにはない。い う一「ロった。 にも、わたしはきみたち二人を殺して、〈ナイトフライヤー〉に歓 「おそらく死んでいると思う」ロイドは冷静に言いきった。 迎されつつ、むかえ入れられるということもあるんだよ」 「じゃあ、われわれはどうしたらいいんだ、ロイド君 ? 何か工夫橇と橇とをへだてた三メートルの距離から、メランサの視線がロ しないと。いつまでもここにいるわけこよ、 冫。し力ない」 イドとぶつかった。彼女の両手は、推カコントロールに軽く置かれ 「最初の問題は何ができるかということだ」ロイド・エリスは答えている。「船長、やってみたら。でもね、改良形態を殺すのはむす た。「わたしは、おわかりと思うが、ざっくばらんにしゃべってしかしいよ」 まった。きみたちに知っておいてほしかったからた。われわれはも「きみを殺したりはしない、メランサ」ロイドはまじめな声でつげ ー 57
「きみ、何を言ってるんだ ? 」キャロリーは当惑して言った。「全が ? 動きかたがまだわからない ? 」 然意味をなしてない。わたしにはわからん」 「わからん」ド・フラニンは言った。しかし、否定しつつも、理解の 「そうね」超心理学者の声は、急に優しくなった。「わからないで兆しが顔に現われはじめ、彼は眼を相手からそらして、ふくれ上が しようね。あなたは、わたしのようには感じられないんだもの。もる巨大な〈ヴォルクリン〉に焦点を定めた。光が動き、ペールを波 うこんなにはっきりしてるのに。これが第一級テレ。ハスの感じかた うたせつつ、それは向ってくる。何光年も、何光世紀も、永遠をも なんだわ。、 しつもね。エスパロンをいつばい摂った第一級の」 超えて。 「何を感じるんだって ? 何を ? 」 彼女にふりむいたとき、ド・フラニンはたった一語を口にしただけ 「彼らじゃないのよ、キャロリ ー」彼女はっげた。「それよ。生き だった。「テレキネシスか」 ているわ、キャロリ ー。だけど、まったく知性はないの、確かよ」 沈黙が世界をおおう。彼女はうなずいた。 「知性がない ? 」ド・フラニンはきき返した。「いや、きみはまちが っている。正しく読みとっていない。そりや、きみがそう言うなら メランサ・ヤールはようやくのことで注射器をもち上げ、それを 一つの生きものだということは認めよう。一つの驚くべき巨大な宇動脈に押しあてた。大きなシ、ツと言う音がして、薬が彼女の体内 宙旅行者だということはね。だけど、知性がないというのは。きみに流れこんだ。あおむけになり、力を蓄えながら、メランサは考え はそれ、その知性をテレ・ハシーの発信源として感じたんだろう ? どうしてそれが重要なんだろ をまとめようとした。エス・ハロン きみだけでなく、クレイ超感覚人全体や他の異星人もだ。きっと彼 う。それによってテレ。 ( スは自らの能力の犠牲になり、カと同時に らの思考が異質すぎて、読みとれなかったんだ」 傷つきやすさも三倍になって死んだ。超能力。すべての行きつく先 「かもしれないわ、超心理学者は認めた。「だけど、わたしが読みは超能力だ。 とったのは、そんなおそろしく異質なものとは全然ちがうわ。ただ ェアロックの内側扉が開かれた。首なしの死体が入ってくる。 の動物よ。あれの思考は、遅くて、暗くて、変ってる。ほとんど思 そいつはぎくしやくと、不自然な足のひきずり方をしていた。足 考なんてない、かすかなものよ。確かに脳は巨大にちがいないけ が床からもち上げられることはない。歩きながら、かかってくる重 ど、それが意識といえるものに達しているなんて考えられない」 みで体がたわみ、半ば押しつぶられている。それぞれの一歩はぎご 「何を言いたいんだ ? 」 ちなく唐突だった。何か異様な力が文字どおり両足をかわるがわる 「推進システムのことよ、ド・フラニン。感じられないの、あの波動前にひきよせているようだ。こわばった両手を脇腹にくつつけたま を ? あれはいまにもわたしの頭の天辺をつき破ってきそうなのまの、ゆっくりとした動き。しかし、動いているのは事実だ。 よ。あなたのいまいましい〈ヴォルクリン〉がどうやって銀河を渡メランサは残された体力をふりし・ほり、そいっから逃れようと這 6 ってきたか想像がっかない ? 彼らが重力の井戸を避けてきた理由 いだした。視線はその歩みからそらさない。
『自分の歌よ』 『はは : : : それじゃ、お好きた動物は ? 』 『そうね、もちろんクジラ : そのとき、・ほくらは、スタジオのドアを吹っとばして中へなだれ こんだ。 リガルデ・モアは・ほくらを見て、わざとらしく驚いてみせた。『ま結末。すべての物語には結末がある。 あ、お友だちがきてくれたみたいー うれしいわ、見てちょうだい クジラは生まれて初めて、自分の仲間に出会うことになった よ、かれを ! 』 しかもそれは女性で、とてもチャ ーミングだったらしい。彼女はク 銀河ネットワークを中断するわけこよ、 冫。しかなかった。なにしろ、 ジラが歌うのをきいていたのだ。そして幸いにもすぐ近くを翔んで 千億のテレビに映像を送っているのだ。 いた。どうやらクジラが歌ったのは愛の歌だったらしい。とにかく クジラの姿がアツ。フになってうつった。 クジラは、銀河ネットワークのつんだ巨額の契約金に見むきもせ 司会の男はうつらないところで、リガルデ・モアの耳をひつばつず、宇宙空間をすばらしい低音でポンポンふるわせながら、彼女を た。まったく、なんてガキなんだ ! 彼はそうわめいた舌の根がかもとめて泳いでいってしまった。 わかぬうちに、さわやかにいった。 リガルデ・モアはひとしきり騒がれて、一時は多忙で死ぬんじゃ 『すばらしいお友だちですねえ、紹介してくださいよ、リガルデ ないかと思ったくらいだ。とにかく、彼女は中央でもスターにな 銀河ネットワークのドル箱になった。 リガルデ・モアはにつこりした。 そしてぼくは十年後、彼女の首に母の形見の金鎖をかけたーーー例 『ええ、もちろん。かれ、クジラなの。とっても歌がうまいの。わの、山のじいさんの陶器の破片のくつついたやつだ。彼女は大声で たしのかわりにかれが歌うわ、きいてね』 泣いた。 再びカメラがクジラを大うっしにした。 ・ほくはその十年の間に、高貴な淫婦にふりまわされたり、金がな そのとたん司会の男はリガルデ・モアをひつばたいた。ぼくはヤくて物乞いしたり、いろんなことを経験した。リガルデ・モアにし ツの足にかみついた。リガルデ・モアもャツの顔をひっかいた ても同じことだったんだろう。 クジラは歌を歌った。 こうして、・ほくらは結婚したんだ。 波のような、心臓のような、歌だった。 たまにクジラのことを思い出すときもある。 低く、豊かで、その震動はスタジオ全体を静かに揺さぶった きっとクジラはぼくらのことを″恋愛事件の項目に保管してく そして銀河ネットワークの千億のテレビを通じて全銀河を・ーー静かれたんじゃないかなって思う。 に、静かに震わせていった。 銀河ネットワークにつながるすべての電話回線が。ハンクした。深 9 い感動が、千億のテレビを通して全銀河にひろがっていった。
コートニーは、出した金のモトは取るだろう。・ほくは記事を書な何かしら持ち寄って来ましたし」とアルマは言っていた。 き、方々に電話をかけ、出版と時期を合わせたトーク・ショウ・ツ それはまるで、貨車一両分の食料を料理して、冷ましているかの アーを計画することになる。そのあと、ちょっと休憩だ。また普通ようだ。 ( ムがある。牛の腰肉がいくつもある。鶏は桶いつばい。 の人間にもどるーー学位を取り、動物を求めてジャングルに分け入ウズラは山をなして。兎。アオイマメは二斗樽単位。サツマイモ。 る生活だ。動物というのは、どのみちあと二十年もたてば絶減してジャガイモ。一エーカー分のトウモロコシ。ナス。豆。カ・フラの いるやつ。 葉。・ハターは五ポンドの塊。トウモロコシバンやビスケット。糖蜜 のガロン罐。肉汁ソ】スがいく鍋も。 そして大きな鳥が五羽ーーー七面鳥の倍も大きく、脚のてつべんに 「それが記念写真よ」とアルマは教えてくれ、「昔は、何かこうい は感謝祭のように飾りをつけ、足の太さときたら、シュウォーツェ う大きな催しがあると、必ず撮ったものだわ。参加した人がみん な、ズラッと並んでカメラにポーズをとるの。ただ、全員がはいりネガーの腕ほどもある。丸焼きでさかさまに皿に載っているが、皿 きらなくてね。二枚に分けたの。これは私たちがはいっているぶそのものがカクテル・テー・フルほどもある。 集まった人たちは、確かに腹ペコのようだ。 ん」 家が人々に圧倒されて小さく見える。ありとあらゆる体格と体形「私たち、何日も食べましたのよ」とアルマは言った。 と着衣と年齢がある。子供と犬が最前列。次が女性で一番奥が男ど 僕はもう《サイエンティフィック・アメリカン》に載せる記事の も。例外は鬚をはやした古老たちで、これは子供たちにまじって前 の方ですわっているーー男どもは、眼こそカメラに向けているものタイトルを決めている。こうなるはずだ。『ドードーはやはり死ん の、頭の中ではまだネイサン・べッドフォード・フォレストがかつでいた』 て煙立っ野原で語ったことが鳴り響いている。この写真はまったく の別時代のものだ。グジャー父さんと夫人の写真を前に見たことが あれば、ここでも見分けられる。アルマは自分を指さして教えてく れた。 ただし、ぼくがこの写真を拝借してきた理由は前景にある。 / コ ひき台にドアや板を打ちつけてテー・フルにしてあり、これが写真の 横幅一杯に広がっている。その上を食料が覆っている。想像もっか ない量の食料だ。 「私たち、三日も前から料理を始めました。隣近所も御同様。みん 3 7
めく。悪者の黒い装東の男がなよなよしたヒロインをこわきにかか そう、きみのことならなんでも知っている。 きみはいま、薄暗い路地を入っていき、一つの店の前で立ち止まえて、剣を抜く。主人公も剣の鞘をはらう。悪漢が切りつけてく る。感応ス。フールの店だ。なにかおもしろい感応世界を封じこめたる。ヒーローは腕を切られる。するときみは実際に腕に鋭い痛みを 感じて、そこをおさえる。 ス。フールはないかと店をのそきこむ。 〈どうです ? 〉 店の親父が入ってきたきみをちらりと見て、テレバシーでいう。 〈いいだろう。それをもらうよ〉 〈いい感応ス。フールがそろっていますよ。新刊ではあまりめ・ほしい 親父は笑顔で棚からそのスプールを出して、きみに手渡す。きみ やつはありませんが、古スプールのなかにはかなりの豪華版もあり は予想したよりも高い代金をはらって店を出る。 ましてね。めったに手に入らないものばかりです〉 小さなスプールを手でもてあそびながらきみは夜道を歩く。きみ 〈高価なんたろう〉ときみはいう。 はスプール・。フロジ = クターを持っていない。それは高価だったか 〈安くはありません〉精神会話ではごまかしがきかない。〈安くは ない。しかしそれだけの価値はある〉 ら。そこできみは。フロジ = クターをそなえつけてある喫茶店に人 きみは興味をそそられる。きみは恋人にふられたところだったる。暗いポックスに腰をおろして、。フロジ = クターを組みこんだテ ッドホン型の感応器を頭 ーブルの再成穴にス。フールを放りこみ、ヘ し、酒は薬にはならなかった。きみが傷ついたのは恋人がこういっ たからだった。″あなたのテレコイタスのテクニックはなってない につける。 わ。感応ス。フールでもたくさんみてもっと勉強したらどうなのみき再成された世界は店の親父が伝えてきたものよりすっとよくでき みは恋人の心を苦く思い出す。自分の心を親父に読まれないようにていた。当然だろう、かれはプロの感応アクターではない。。フロの ・フロックして、きみはいう。 アクターたちは精神を集中して登場人物になりきり、心の動きをス 。フールに焼きつける。人物だけではない。背景を幻出させる専門の 〈どんなスプールがある ? 〉 アクターもいる。協同で創りあげられたリアルな世界だ。監督や編 〈どんなス。フールをお望みで ? 〉 きみはロマンチックな思いを心に浮べかけて、やめる。かわり集者の腕も見逃がしてはならない。きみはその世界に入る。すると そこはもはや幻ではなく現実になる。きみは悪漢をカでねじふせ、 に、血わき肉おどる高揚した気分を親父に伝える。 〈フム、ではヒロイックファンタジーなどどうです〉 ヒロインを奪いかえし、歓喜と祝福の渦のなかでヒロインにくちづ 店の親父はおすすめ品のス。フールの一場面をきみに精神伝達すける。彼女の唇はやわらかく、決してきみを侮蔑したりはしない。 現実の恋人、恋人たったあの女とは大ちがいだ。きみは酔う。しか 草原だ。空は赤く、きみのわるいオレンジ色の月が低くかかってし劇には必ずおわりがあり、きみはそれから逃がれることはできな いる。風が草草をおおきな目に見えない熊手でかかれたようにざわ る。
ドイツ SF 情報 んど知られていなかったアメリカの道を歩き始めるのである。ドイツでの に詳しい事情もお届けしていきた 作品群の流入によって、第二次大戦以降史が研究され始めた現在、一九六〇年 ドイツのそれが、どのような新しい展開以前にも、この種の文学が多く読まれて さてここで、筆者の紹介を少ししてお いたという事実があきらかになってい こう。ヴェルナー・ツィリッヒ (Werner をしていったかを述べることにほかなら る。しかし、一般読者もしくは文学界に Zillig) は、本文中にもしばしば登場す ないのである。 とって、 ()n は、まだまだ三文文学の一 るドイツの大御所へルベルト・・ フランケの編集する「 T) V-k アンソロジ 部にしかすぎず、注目に値するものでは ー」に次々と短篇を発表して注目され、 なかったのである。 八〇年には待望の個人作品集も出版され この一九六〇年という年は、ドイツ 戦後のドイツは、二つのまったく たドイツ界期待の若手である。 独立した企画によってその幕をあけるこの発展にとって、たいへん重要な年で 本業は大学の先生。エルラーゲン、チ とになる。一つは、戦後まもなく二、三ある。この年、。 : ンヘンのゴールドマ ュービンゲン、ミュンスターの各大学 ー・ンリー ズの ドカハ ン社が、ハ の出版社が、戦前のユートビア・科学小 で、ドイツ文学、歴史、社会学を専攻 説の流れをくんで出版活動を開始したこ出版を開始した。このシリーズには、ま し、昨年″博士″号も授与された三十三 とであり、いま一つは、重要なアメリカだ″サイエンス・フィクション″という 歳の新進気鋭のドイツ言語学者である。 の翻訳がいよいよ開始されたことで名称は使われておらず、″ゴールドマン 現在は、北ドイツ・ミ = ンスター大学の あゑ一九五二年から、数多くの本がシ社の未来小説″というタイトルがつけら 助教授として教鞭をとっている。 れていた。第一回配本として、アシモフ リーズ化され、出版された。たとえば、 最後に、ポルトガルでバカンスの真最 ジョン・・キャンベルの『驚異の惑の『宇宙気流』が、そしてアルフレッド 中にもかかわらず、今回の翻訳に多くの ・ベスター、アーサー・ O ・クラーク、 星』、、ミ lnci ミ e P ぶミや、アイザ 助言を寄せてくれた友人、島田信吾君に ック・アシモフの『われは ( 訳者 ) 心から感謝したい。 い集号 ロポット』なども、このシ て編 1 れケ第 ーズに収録された。しか ( 行シンポール・アンダースンといった作家たち し、アシモフの『われはロ一 ・・当〔一・発エジ ポット』は、出版された三 回イガの長篇やアンソロジ 1 が、つぎつぎと出 4 のマ版された。また、この一九六〇年には、 〇〇〇部のうち、わずかに 年社 : らネ tn 同じくミ、ンヘンのハイネ社が、一般の 九〇〇部が売れたにすぎな かィネ ーパック出版の一環として、 TJ かった。こうしては、 、「、ー年ハイ 3 8 0 ー・ の出版を開始している。これは、一九六 三文小説としてあっかわ ( ズとして出 三年からは、独立したシリー れ、貸本屋あいての読物の 0 、