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検索対象: SFマガジン 1982年9月号
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1. SFマガジン 1982年9月号

この 細いグラスに入れられたビールを賢二は少しずつ飲む。 いがいに美人な色の白い女の方は下を向き、男の話を黙って聞い 店に来てビールを飲なようになってから三カ月たつ。賢二が恵子のている。 部屋にころがり込んでからだ。荷物などまったくなかった。 男と視線が合ったので賢二は前を向いた。 部屋にころがり込むまで恵子とは一年間会っていなかった。それ詩を書かなくなって、どれくらいたつだろう。と賢二は思った。 に彼女とは別に恋人同志だったわけでもない。恵子は賢二が一年前曲も作っていない。だいたい今時、ギター一本の四畳半フォークな までつきあっていた恋人の直美の親友だったのだ。直美とっきあうんて、まるで流行らないのだ。ライプ・ ( ウスさえだしてもらえな うちに、やがて恵子とも知り合いになり、最後は三人で旅行をする シングル・レコード が何枚かでて有頂天になっていた時期が前 ような仲にまでなった。 世の記憶ほども遠く思える。 だから三カ月前部屋にころがり込んではしめて恵子と寝た。彼女 ス。ヒーカーから夏の浜辺のように明るいニュ 、ユージックが流 は賢二が最初だった。 れだした。 ふと後ろの席にいる男女の会話が賢二の耳に聞こえてきた。 賢二はグラスに残っていた苦いビールを飲み干し、席を立った。 「ーー・文学とペダントリイはちがうんですよーーー」 男が言っていた。賢二はしばし耳を傾ける。 3 「ーーーあんなやつの軽薄な作品はのせるべきじゃないんです。だか ら編集者に会ったとき僕は言ってやったんです。だってーーー」 賢二は白い部屋にいた。 賢二は振りかえって男を見た。痩せた男は身振り手振りをまじ床の上で膝を抱え、眼前の空間を眼を細めしっと見つめていた。 え、唾をとばさんばかりに女に向かって話していた。 眼には見えないのだが、なにかが眼の前で起りつつあった。部屋 化物大ウサギと半裸の美女 をともない " 暝想者 , を探しもとめる男の行く文 ワ 手には : : : 書き下ろし カ 表題作を含む俊英の第ャ 一作品集・定価三八 0 円 ピカリざ ロック世代の SF 感性 岬兄悟 瞑想者の肖像 , 7 9

2. SFマガジン 1982年9月号

「遺跡調査船白号」 っ 「マンデリン」 ロケットは逆噴射を目いつばいけりこんぼちょ・ほだったし、その前のとこは核を使 「はい、はい、わかってますよ、もう何年こ で、機体をふるわせて、ゴーという大きな声たみたいでなんも残ってなかったし、ここん とこ、あれもないみたいだから、このまま長の船にいると思うんです」 をたてながら、オレンジ色の炎をはいてい 期休暇にありつけるかと思ったけど」 「百万年 ? 」 ラノに・オノ 「でもしようがないよ、仕事だもの」 「いいえ二百万年」 着陸。 「つまらん、ジョークだ」 「おい、酸素の方は大丈夫た、他に有害な成「今度はだれかな」 「全く、でもこいつは昔ののパロディー 分もないようだ」 「この前の時は副長だったな、ずいぶん長か だって」クリスはコーヒーの豆をひきながら 「生命反応がまるでないようです」 「やれやれ、上から見ただけでもかなりの数ったなあ、あん時は、でも今度のやつはもっそう言った。 だぞ、あれを全部か ? もう少しレンヂを広と規模がでかいから副長の時以上たな」 「でも、どうして・・・ : こ げてみろ」 「タダ、一番近い遺跡はどこだ」 「もう最大にしてあります」 「ええっと、西へ五分」そう言うか言わない うちにアマゾンがハンドルを切る。 「でも、どうして、こんなことするんでしょ 「船長、あれでなきやだめ見たいですね」 うね、いまさらこんなふるい星のふるい遺跡 一瞬、船内が静まりかえる。 一番、うしろのシートでは、車にゆられな 「ともかく、降りてみよう、みんな標準装備 がらタダがデータの集計をしていた。 なんか調べたって : : : 」 だけはしていけよ、まだ安全だと決まった訳「まあ、そうだけど、要はヒマなんだろう。 「おおよそのとこがでました。遺跡は全部で じゃない。エドとクリスは船に残ってくれ、 人口問題も食料問題もエネルギー問題も、な二千七十四基、大きさはかなり大小があり、 アランは地上車の用意を」 んもかもかたづいちゃったし、近くの星にはで百四十基、が多くて千三百十四基、 O ものの十分もしないうちに彼らは出かけ いろいろ手をつけたし、いまだかって文明をで二十七基、酸小さいやつが五百九十三 持った異星人と出くわしたことがない、たし 基、保存率の方は上からでは、ちょっとわか 「なあ、クリス、この星はずいぶんありそうてい文明をもつ前のサルか、滅びたあとの遺らなくて、完全に保存しているとして、約二 だな」 跡しか残ってない、ともかく刺激がほしいん十年くらい、調査にいるでしよう」 「ともかく遺跡しだいって訳か」 「うん」 じゃないのか」 「そういうことになります。中には保存率が 「又、あれをやるのかな、前の星では少なか 「そんなもんですかね」 「そんなもんさ」 一 % 以下なんて星もありましたから」 ったのでみんなでやって三週間ですんたし、 「 O 、ついたよ」 一一その前のやつはまだ文明どころか生命がちょ 「コーヒーでも入れましようか」 ①入選作 0 安西時紀

3. SFマガジン 1982年9月号

コートニーは、出した金のモトは取るだろう。・ほくは記事を書な何かしら持ち寄って来ましたし」とアルマは言っていた。 き、方々に電話をかけ、出版と時期を合わせたトーク・ショウ・ツ それはまるで、貨車一両分の食料を料理して、冷ましているかの アーを計画することになる。そのあと、ちょっと休憩だ。また普通ようだ。 ( ムがある。牛の腰肉がいくつもある。鶏は桶いつばい。 の人間にもどるーー学位を取り、動物を求めてジャングルに分け入ウズラは山をなして。兎。アオイマメは二斗樽単位。サツマイモ。 る生活だ。動物というのは、どのみちあと二十年もたてば絶減してジャガイモ。一エーカー分のトウモロコシ。ナス。豆。カ・フラの いるやつ。 葉。・ハターは五ポンドの塊。トウモロコシバンやビスケット。糖蜜 のガロン罐。肉汁ソ】スがいく鍋も。 そして大きな鳥が五羽ーーー七面鳥の倍も大きく、脚のてつべんに 「それが記念写真よ」とアルマは教えてくれ、「昔は、何かこうい は感謝祭のように飾りをつけ、足の太さときたら、シュウォーツェ う大きな催しがあると、必ず撮ったものだわ。参加した人がみん な、ズラッと並んでカメラにポーズをとるの。ただ、全員がはいりネガーの腕ほどもある。丸焼きでさかさまに皿に載っているが、皿 きらなくてね。二枚に分けたの。これは私たちがはいっているぶそのものがカクテル・テー・フルほどもある。 集まった人たちは、確かに腹ペコのようだ。 ん」 家が人々に圧倒されて小さく見える。ありとあらゆる体格と体形「私たち、何日も食べましたのよ」とアルマは言った。 と着衣と年齢がある。子供と犬が最前列。次が女性で一番奥が男ど 僕はもう《サイエンティフィック・アメリカン》に載せる記事の も。例外は鬚をはやした古老たちで、これは子供たちにまじって前 の方ですわっているーー男どもは、眼こそカメラに向けているものタイトルを決めている。こうなるはずだ。『ドードーはやはり死ん の、頭の中ではまだネイサン・べッドフォード・フォレストがかつでいた』 て煙立っ野原で語ったことが鳴り響いている。この写真はまったく の別時代のものだ。グジャー父さんと夫人の写真を前に見たことが あれば、ここでも見分けられる。アルマは自分を指さして教えてく れた。 ただし、ぼくがこの写真を拝借してきた理由は前景にある。 / コ ひき台にドアや板を打ちつけてテー・フルにしてあり、これが写真の 横幅一杯に広がっている。その上を食料が覆っている。想像もっか ない量の食料だ。 「私たち、三日も前から料理を始めました。隣近所も御同様。みん 3 7

4. SFマガジン 1982年9月号

ラスコぬきでは存続できない。わたしたちは長い時をへて、それほ りに舟と許可を出し、そして二人を隔離するロフトを与えたわ。そ のとき、彼女には、レダは実験のために他の市民とちがう因子をもどまでに人工的な種となってしまった。市民の男たちは、もう、 っ存在である、とは話してあるわ。むろん、真相は告げなかったけ精子を作り出すことができないのよ」 れどーー。アウラは、そのことで、いっそうレダをあわれだと思った「ぼくはセクソロジーについてはほとんど知識がありませんが」 ぼくは彼女の話の腰を折って、云わずにはいられなかった。 ようだった。レダ自身について云えば、もちろん、何も知らないま 「それじゃ、いま、フラスコの提供者は一体誰なんです ? 」 まだし、想像もっかなかったでしようねーー彼女のキャラクターか 「兆単位で、何世紀前からのストックがあるわ」 らいって、居心地がわるいとは感じていたにせよ、なぜ自分が他の *-ä・ << はおかしくもなさそうに笑った。 人のように適応できないか、まではとても思考能力がなかったと思 ーソナリティをみせていた。わた「だから、本当の意味では、わたしたちはもうずっと前から、現代 うわ。彼女は、きわめて特異なパ したちはそれを、父方の因子のためと考えた。それも結局、このケの人間ではなくなっている、ということよ。たまたまいまの時代に しか 1 スの特殊化をすすめることになり この実験の成果を、母体の目ざめたたけの、ずっと昔の人間。おかしなことだわね。 変化というわたしの側のデータからでなく、子どもの側から見たらしむろん、たとえたくわえが何十兆キロであろうとも、まったく補 充がなければ長いあいだに、ついにはそれが底をつくことも自明の 失敗である、という見かたをつよめさせることとなった」 理だわ。自らのカで繁殖できぬ以上ーーーだから、それも、わたした 「どうせもう、ここまできいてしまったのですからーーこ ちの実験の重大なポイントたったわけ。わたしたちは、さまざまな ・ほくは云った。 意味で追いつめられかけていたのよ。そして、これは、心理学的に 「彼女の父親というのは、誰だったんです ? ディマー・イトウ ? 」 たとえ何ひとっ知 はどうもうまく説明のつかぬことなのだけど 「おお、とんでもない」 らされていなくても、種というものは、自らがゆたかに生み出しつ ・は小さく身をふるわせた。冖 彼女はかっては知らないが、い つある種か、それとも人為的に保護されつつある、失われつつある まはディマーを憎んでいるのかもしれないと、ぼくはふと思った。 「それはーー」 種なのかを、無意識下で知ってしまうようなの。表面、いかに活気 にあふれているようにみえても、停滞、沈滞ーー倦怠、その徴候は i-Ä・ << はためらい、そして少し笑った。一 「おかしいわね。もう、何ひとっかくすことはなかったはずなのにそこここに見られ、そして、ふしぎなことにーーきわめて精密なス ね。それは、シティの人間じゃないの。ふしぎなものね , ーー同しょケジールによって管理されているにもかかわらず。ーーここ半世紀 うにホルモンの処理をして機能の修復につとめても、女は、すぐに来、どのシティでも、全般的に人口はゆるやかな減少のカープを描 5 また、何世紀も前の機能を回復し、排卵し受胎することが可能にな いて下降している。まるでーーそうーーー昨日から今日へ、今日から るのだけど、男の方は、だめなのよ もはやわたしたちの種はフ明日へとひきつぎ、ひきつがれてゆくことのできぬことに無常とむ

5. SFマガジン 1982年9月号

びかせはじめた。乾燥して、かすれた音色だった。「三人の王子の そのとき、テントのたれ幕が、するするとまきあがった。人々が 行進」だった。 わっと殺到した。 ひなびた軍楽の旋律が、アゴラじゅうにひびきわたった。 ・ほくは意を決して、リガルデ・モアのすぐあとにつづいた。彼女 ・ほくはなっかしさに胸がうずいた。四年前にきいたメロディと同のとりまきが、ちょっとうさんくさそうな顔をした。 大きなテントのなかは、し じだった。たぶん八年前も十二年前も同じだったのだろう。ガード 、くつかの・フロックに分けられており、 くールにテント ウス・ショウは、・ほくが生まれる ~ 間から、フルフト マジックや。ハントマイム、サーカス、見せ物、曲芸、そして笑劇や をはっていた。 神話劇などがくりひろげられるのだ。 ぼくらは好きなものを選んで、金を払ってなかへはいる。 ・ほくは、まとまりのない群集のなかに、知った顔をさがした。 リガルデ・モアはひざのところでちょん切ったジーンズをつけて 兄や姉に手をひかれた子供たち、もう少し年長の悪童ども、吠え ている犬、少年たち、青年たち。ざわっき、走りまわり、とりとめ いた。色の白い、カモシカみたいな二本の足が、暗いテントのなか もなくしゃべりながら、ガードウスのテントのたれ幕がひらくのの通り道を踏みしめていたのを、・ほくは一生忘れることができない を、今か今かと待っている顔、顔、顔。 だろう。その瞬間、・ほくは、彼女に抱きついて、キスをしたいと思 ったのだーーっまり、女王さまとして崇拝するのではなく、ほんと そのなかから、やがて・ほくは知っている顔を見つけだしたーー声 の恋におちたというわけだ。 をかけるのが、ちょっとためらわれた。胸がキュンと熱くなった。 リガルデ それは蒼白い、つめたい表情をしたひとりの少女 リガルデ・モアはさんざ歩きまわったあげく、神話劇の戸をくぐ モアだった。 った。ポーイフレンドのひとりが従者よろしく金を出そうとした 彼女はぼくよりひとっ年下だったが、・ ほくよりうんと年上に見えが、彼女はそれを払いのけた。なぜか・ほくはほっとしーーー二分の一 たものだ。 クレジットを払った。 リガルデ・モアは男どもにかこまれて、気のない返事をしてい かなり大きな舞台がしつらえてあった。木のイスが二百ばかり並 こ。・ほくは嫉妬で熱くなった。ばくは悲しいような思いで、じっとべられていた。 少女を見つめたーーー こっちを見てくれ、リガルデ・モアー ・ほくはなんとかリガルデ・モアの隣りにすわろうとしたが、やっ 少女は ( ッとしてぼくのほうを見た。表情はあいかわらず冷ややばりだめだった。しかたなく、・ほくは彼女のまうしろの席にすわっ かだが、少なくとも、ばくの存在には気づいたらしい た。道化から買ったとうもろこしを食べた。 ぼくは気おくれしながらも近づいていった。 「おまえ、だれなんだよ ? あんまり近よるんじゃないぜ」 リガルデ・モアは、ツンと上向きの魅力的な鼻をばくの方にむけとりまきのひとりがぼくの肩をつついて脅した。 て、犬っころでも見る目つきで見た。ぼくらの視線があった。 リガルデ・モアの長い金髪がぼくのひざ小僧を撫でた。彼女はふ 7

6. SFマガジン 1982年9月号

力がないではない。 本誌七月号でとりあげられていたフェニックスアロ 別のオランダ人画家で ( 雨後のたけのこのように輩出したものら イ。この世界で最初に製品化された形状記憶合金のお しいが ) ペーテル・ヴィソースという人物も自分の画の中にド 1 ド 力すもちやは、しかしまだまだ開発途上とい 0 ていいだろ 1 を入れこんだ。時には奇妙で刺激的な場面もありーー・飼い主の音 、まう。逆にいえば、まだまだ無限の可能性を秘めている 楽レ ' スンの最中にぶらついていたり、 = デン風の情景の中にアダ遊しのだ。その無限の可能性に君もチャレンジしないか ? ムとイヴとともに据えられていたり。 、つ集たとえば、アル・ ( ムにはられた金属板をはがしてお 一番正確な描写という点で保証付きは、海に生きるヨーロ〉パ人ど募湯をかけると、アーラ不思議、 = , ・フができあがる、 アという具合に。 の宗教的政治的混乱から遠く、世界を半分隔てたところに出現すで デ応募されたアイデアのうち、優秀作にはタカラより る。インドの細密画でドードーを描いたものが、今はロシアの博物イイフ = = ックスア 0 イの一組セ , トがプレゼントされま 館に収められている。このドードーは、ゴアやインド亜大陸の沿岸 アの応募される方は、官製 ( ガキに住所・氏名・年齢・ をめざしたオランダ人やポルトガル人がもたらしたものかもしれな ス者職業を明記の上、略図とアイデアの説明を書いて送 0 。あるいは、何世紀も前にアラ・フ人が持ちこんだということも考 軏てください。宛先は「ガジン編集部・タカラ・ ク えられる。アラ・フ人は三角帆の舟でインド洋を往復しており、ヨー フェニックス・アロイ・アイデア募集係」です。締切 ッ ロッパ人が第一次十字軍遠征に乗り出すより前に、マスカリーン諸 は九月末日到着分まで。発表は本誌十一一月号になりま す。ファンの柔軟な思考から生まれる、すばらし 島を発見していたかもしれない。 工 いアイデアをー フ 鳥に魅せられたぼくの人生の初期のある時 ( 銃で殺すのをや めた後だけれども、学問にはげみ始めるより前 ) 、ぼくは腰をすえ ーたちがみんなそれそれどこにいたのか、考えてみたこと がある。 一五九九年のファン・ネックの二羽は、一羽がオランダ、一羽は オーストリア。一六〇〇年、ソラムス伯爵の庭園にもまた一羽がい た。ある記述によれば″イタリアに一羽、ドイツに一羽、イングラ ンドに数羽、オランダに八羽か九羽″だ。ヴィリアム・・フーンテク ・ファン・ホールンは″一六四〇年に一羽、一六八五年に一羽が、 ョロッパに運ばれた〃のを知っていて、後者は″またオランダ人 くアイデア例〉 平らにつぶしたカッフ・にお 湯をかけるとカップになる フェニックスアロイ 3 6

7. SFマガジン 1982年9月号

乱れの中から、『マルメロ 2 』の映像がまぼろしのように明減しつ船体はそこから先は失われていた。濃密な大気は渦巻き、強力な投 光器の光でさえ、目の前で散乱し、そこで形の定まらない光の斑紋 っ形をあらわしてきた。 長さ五〇〇メートルにおよぶ長大な船体は惑星の重力の方向に斜を描き出していた。 リトル・ハラは一歩一歩ラッタルを上った。船橋はようやく形をと めに、頼りなげに浮いていた。その輪郭が不自然な曲線を描いてい どめていた。 るのは、あるいは船体がひずんでいるのかもしれない。もしそうだ リトルバラは船橋内へ影のようにすべりこんだ。 とすれば、すでに船内は大きな破壊を受けているかもしれない。 目が馴れてくると、コンソールの前に、一人の男が立っているの 《接近シテクル小型宇宙船。ソレ以上近ヅクナ。船内ニ犠牲ガ生ジ えが見てきた。 テモ、当方ノ責任デハナイ。警告スル。ソレ以上近ヅクナ》 通信装置の前に陣取って、呼びかけと応答を待っているようだっ 警告が入ってくる。 リトルバラはそのまま飛び続けた。 ス・ヘース・スーツ 『マルメロ 2 』には、強力な武器はないはすだった。それでもコン 小柄な男だった。旧式な宇宙服と宇宙帽で身を固めているが、 ビュ 1 ターにミサイル防禦だけは命じた。 妙に素人じみておどおどしていてスペース・ジャックなどを計画す 二時間後、フェリーポートは、鯨の巨体の周囲を舞う海鳥のようる人間とは思えなかった。 『マルメロ 2 』の船腹すれすれに旋回した。 リト化ハラは、ふいに投光器をつきつけた。 円い光の輪の中で男がふり向いた。 深海のように濃く重い大気は、フェリーポートの微妙な操船をさ またげた。 その顔が恐怖でひきつった。 男が小さくさけんだ。 リトル・ハラは重力錨を『マルメロ 2 』の船腹におろすと、フェリ ーポートを繋止した。 リト化ハラの熱線銃が男を捕えた。 居住区と思われる個所に非常用投棄用ハッチがあった。 またさけんだ。 外部から作動している閉鎖機を熱線銃で焼き切った。 「リトル・ハラじゃないカ ! 」 暗黒の船内には何者の気配もなかった。 その瞬間、男の体はほのおの塊となった。 貨物エリアのとびらが開いたままになっていた。ガス検知機が危 リトル・ハラには、その男の記憶は全くなかった。 険を告げて、この船体が漂流を開始した時点ですでに船内空気は全 リト化ハラは、任務が終ったことを報告するため、通信装置に歩 く外部のものと同じになっていたことを報告していた。 み寄った。 リトルバラは投光器の光をたよりに進んだ。 アンモニアとメタンのあらしの中で、船体はゆっくり、ゆれ動い 3 ていた。 船橋へ上るラッタルの中程で、リトをハラは思わず息を呑んだ。

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ー特別企画・連載⑩ー THE ENCYCLOPEDIA OF SCIENCE FICTION SF 工ンサイクロべディア ピーター・ニコルズ系扁 浅倉久志・伊藤典夫監修 伊藤典夫訳 Copyright ◎ RoxbY Press Limited 1979 1 . 邦訳のある作品には邦題を添え、未訳作 品は原題 ( または英訳題名 ) のみ記した。 2 . 原題のうちイタリック体で表わされてい るのは単行本、引用符 ( “” ) でかこんで あるものは短篇。 3 . 邦題も 2 にならい、単行本は『』で、 短篇は「」でかこんだ。 4 . シリーズ名は、未訳のものも含めて日本 語で表記し、《》でかこんだ。 5 . 作家名の中には、あえて慣例に従わず、 原音に近い表記をとったものがある。 ( 例 : ヴァン・ヴォート ) 6 . 本文中のゴチック書体は、本事典中に項 目の立てられている見出し語。またポール ド書体の年号は、初版発行年。 7 . 映画および TV ドラマについては、日本 で公開された作品には邦題を『』でかこ んで添え、原題をイタリック体で示した。 未公開作品は原題のみを示した。ポールド 2 刀 前号よ分続 ー・ニコノレス・ P N : ヒ。ータ J C : ジョン・クルート B S : プライアン・スティフ・ルフォード 筆者 8 . コミックは《》でかこんだ。 書体の年号は、本国での製作年。 9 . 略語および記号 A S F : アスタウンディング・サイエン ス・フィクション誌、および ( 後 年の ) アナログ誌。 F& S F : ファンタジイ・アンド・サイ 工ンス・フィクション言 TWS : スリリング・ワンダー・ストー リースル NW : ーユーワールズ誌 : アンンロジー : 版による題名の異同 圍 : 加筆 國 : 改訂版 : 短篇集、またはひとりの作家による 長篇のオムニバス版 : 複数の短篇を加筆改訂し、長篇のか たちに統合したもの 前 : 戦前にしか邦訳のない書名 : 抄訳 * : 訳註 : 参照 D P : ディヴィッド・プリングル MJ E : マルカム・ J ・エドワーズ 学』 A 襯五 co ん g. ) ( 1927 ) がこの方面 で、チャ - ールズ・エルトンの『動物の生態 を研究する学問である。比較的新しい分野 生態学とは、生物の環境との関わりあい コロう -- E COLOGY 工コロジー

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弟子はそれから一昼夜 気がついたときは夜明け前 傷の手当てを続けます どこをどうして来たものか 思いおこせば宿屋の騒ぎ 二日目の朝日がさすころに 身構え様子をうかがえど 森の中には焚き火の煙 静まり返った森の中 香草を集め火の中にくべ もう大丈夫と安堵して 煙をあおって結界を張る 訂身の手当てにふところの 大きな魔法の準備を終えるど 秘蔵の薬思い出し 弟子は大きくため息ついて 取りだそうとする手元から こばれ出たのはべリルのお守り 琴弾き 9 埃を払ってやり やがて静かに口を開く ひざの上から向こうのしげみ 呪文の音のひとつひとつに 杉の根方へころがった 主意を払いゆっくりと 森の下生え一暗い中 さぐるように耳をかたむけ 弟イは手さぐり大あわて ミ」言葉をつなぐ そのとき右手の指先に 弟子の呪文は三十三度 さわったものが二つある 手を変え品を変えくり返す ま、あたぬかいものと固いもの 日は ~ 問くのばりそして落ち ひとつは当のべリルのお守り、一第 ト「←星は輝き月がめぐる もう一つには人の指 やはり未熟な使い手では 試験課題に再度対面 効き目のかけらも現われぬ 弟子はしんからくたびルる 焚き火も消えた森の中 弟はひとりで考える 坐りこんだ目の前に 度目の朝か第来るころに 眠りつづける人の顔 いっしか言葉は天に向け お師匠さまにむけられる あなたに昔教わった その通りとは、、 しカかよいカ なんとかやるだけやってみた 試練から逃げた噫病者 魔法使いにはなれなくても 最後の願い一生の頼み ・何の罪もない琴弾きを どうして放っておけるものか 罪がないわけじゃないし ただの琴弾きでもない 背後の声にふりむけば そこには今まで一度だって まっ毛の一本も動かしたことのない とら 眠りの国の囚われ人が 微笑みながら立っていた あなたの呪文は 効かないようで , よく効くね 広々くすぐったい思いを毛て あなたの社師匠の お許しを待ったよ

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それでも、してきたこと、やってきた道が、その三叉路からすでに に、生命あるしかばねをよりよく保存するために、自らを修正し改 誤りだったといわれるとしたら。 良しつづけ : : : 一体、何のために ? ・ほくは、思いに沈みながら、銀色のフラスコの列をじっと見つめ もしも、生まれ、次の代へ、子孫をひきつぎ、時代のひとつを共 た。とるに足らない そう、 ;-ä・ << は云う。それは、いわば、《明有し、そして代がわりで去ってゆくこと、それをしも《生きる》と 日》へつながっていない、・ ふつん、ぶつんと断ち切られて、互いに いうのならば、われわれは厳密な意味で生きていると云えただろう 何のかかわりもない、ただ単にたまたまとなりあっているだけの存か ? 在として、おしあいへしあいしている泡か、虫けらだ。・ほくにも、 ・ほくはその思いをことばに出した。 いまはわかるーーーあれほど狂乱し、怯えてレダをさがしまわり、レ 「ぼくは考えてみたこともなかった」 ダの家をやいた人びと。それは、むしろ当然のことというべきだっ ・ほ ) はめた。 た。互いに興味と共感をわかちあっていないというばかりではな 「ぼくはわからなくなりました、・・ほくたちは、真の意味 い。かれらは、何ひとつ、明日につづいてゆくものを持ってはいなで、生きていると云えるのでしようか ? ・ほくたちは、生殖能力を いのだった。 失った何世紀か前に、実はすでに減びてしまっており いま生き かれらはただ生をーーーーマザー ・・フレインに与えられ、統計的に管ているぼくたちとは、ただの幽霊か幻影のようなものにすぎないの 理される生を与えられ、そして自分の分をつかいはたしておわる、 ではないのでしようか ? ぼくたちがいっ受胎し地上に誕生するか それだけの存在なのだ。 だからこそ、かれらは狂った : : かれは・フレインがいつ、どのフラスコを冷凍からとくか、という決定に らにもう、守るべきものといってはそのかれら自身の生命しかなかすぎず、そのもとになるぼくたちの存在そのものが、何世紀をへだ ったからこそ、それを、唯一守るに足るものを守るために、かれらてたかげろうでしかないとしたら。・ほくたちの減びはいまようやく はがむしやらに、それに脅威を与えるレダにおどりかかってきたのおとずれようとしているわけではなく、タイム・ラグによっていま だ。ちょうどそれは、ぼくが、レダを守らねばならぬと思い そ・ほくたちに目にみえるようになりながらも、実はもうずっと昔にお のためなら、このシティ全体をほろ・ほすともと思いつめたように。 わってしまったものなのでしようか ? 」 かれらにと 0 ては、かれら自身の生だけが、シティより、地球全体「わたしも、それを、何回も考えたことがあるわ」 より、重いものだったのだから。たとえ、生きていたところで何に静かに・は云い、中に何世紀か前の子どもの亡霊が永遠の眠 なるのか、今日死ぬか、二十年先に死ぬかだけのことではないか、 りをむさ・ほりながら漂いうかんでいる、フラスコのひとつにそっと といわれても。 手をさしのべた。 そして、シティ・システムとコントロール・コミッティー、 そし「そして、そのたびに、わたしは何ともいえない気分だった。だっ てマザー ・・フレインは、より一層よく、立派な完璧な柩となるためてーーもし、あなたのいうとおりだとすれば、わたしたちがいまさ 252