言う - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1982年9月号
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1. SFマガジン 1982年9月号

てくる。 った」 , は情なさそうに首をふった。この事でいつまでも不平を言われ「ええ」と、メランサ。「嘘はつかなかったと思うね。だけど、真 5 るのはわかっている。彼女は決して忘れ去ってはくれまい。しか実を・せんぶ話しもしなかった」 ・し、少なくともこれで戻って謝れば、何かの足しにはなるだろう。 ロイドはうなずいた。「母は死んだ。しかし、彼女のーー幽霊は 内側扉が開くと、一瞬だが恐怖感が舞い戻った。本物の戦慄の瞬まだ生きていて、わたしの〈ナイトフライヤー〉を動かしている」 間。つまり、〈ナイトフライヤー〉の通路で、ラウンジから現われ彼は陰気な笑いをフッともらした。「いや、彼女の〈ナイトフライ た何ものかが自分を待ちうけているかもしれないという考えが閃い ャ】〉と言ったほうがむしろ理にかなっているだろうな。わたしの たのである。彼はしいてその考えを追いやった。 支配なんて最高のときでも弱いものだから〉 中へ踏み込むと、彼女が待っていた。 「ロイド」ド・フラニンの声には、穏やかながら叱責するような調子 相手の妙に静かな表情には怒りも軽蔑も見られなかったが、 , は 彼があった。「わたしの〈ヴォルクリン〉は幽霊話なんかじゃない そのまえに進み出て、とにかく許しを乞おうとした。「自分でもわそ」 からないんだよ、な・せー・ーー」 「とにかく、わたしも幽霊なんて信じないからね」メランサ・ヤ けだるい優雅な動きで、背中に回されていた彼女の片手が前に出ルも渋い顔で言う。 てきた。ナイフを握っている。彼はそのとき、ようやくにして彼女「じゃあ、好きなように呼んだらいい」ロイドは言った。「わたし の服を焼きこがした穴があるのに気がついた。胸のどまん中に の言葉がいちばんびったりしているんだが。とにかく、事実は変え られない。母、もしくは母の一部が現に〈ナイトフライヤー〉にい 「あんたの母親 ? 」メランサ・ヤールは信じられないというようにて、それがきみたちの仲間を殺してきたように、いま皆殺しを狙っ 言った。彼らは船の外の虚空になすすべもなくうかんでいる。 てるんだ」 「いまわれわれのしゃべっている内容も全部聞かれていると思う」 「ロイド、そんな話は筋が通らん。わたしはーーー」 ロイドは続けた。「しかし、こうなっては、もう大差はない。きみ「キャロリー、 船長にもっと説明してもらおう」メランサが口をは の友人が非常に愚かな、脅迫的なことをしたにちがいない。 これでさんだ。 もう、母はきみたち全員を殺そうと決意してしまった」 「わかった」ロイドは続けた。「いいかね、〈ナイトフライヤー〉 「母って、そりやどういう意味だ ? 」ド・フラニンはわけがわからぬはすごく すごく進んでるんだ。全自動で、自己修復機能があ ようだ。「ロイド、確かきみはお母さんがもう生きていないと言っ り、大きい。その必要があった。母は乗組員を不要にしたがったん たじゃないか。きみが生まれるまえに死んだと」 だから。この船は、言ったと思うが、ニューホルムで建造された。 「そうだ、キャロリ ー」ロイドは答えた。「わたしは嘘はつかなかわたしはあの星に行ったことはないが、ニーホルムの技術がずば

2. SFマガジン 1982年9月号

それにどんなちがいがある ? やつはおれたちを殺そうとしているついてるんだから。いや、それ以上かもしれない。たた、それがち がう面に出ているだけよ。あの強迫観念が彼の防衛機構になってる んだ」 「いいかい」メランサはおだやかに言った。「あの善良な船長がこんだ」 このスイッチを本当に切ってるかどうかわれわれには知りようがな「じゃあ、わたしたちの防衛機構は ? 」 いんだよ。その気になれば、いまこの瞬間もこちらを見たり聞いた「そう、たぶん我慢たろうね。死んだ連中は、皆ロイドの秘密を暴 りできるんだ。もちろん、そうじゃないと思うけどね。彼はわたしこうとしてああなった。われわれはそうしなかった。おかげでこう にそうしないと言ったし、わたしは船長を信じているから。だけしてすわって、その死因を話しあっていられる」 ど、口約東でしかないのは事実さ。で、どうやらあんたはロイドを「あなた、その点が疑わしいと思わないの ? 」 信じちゃいないようだ。もしそうなら、彼の約東もほとんど信じて「かなり匂うね。もっとも、その疑問を確かめてみる方法ならある ないだろう。と言うことは、あんたの観点からすれば、いま口にしよ。誰か一人が、わが船長の話が真実かどうかを、もう一度探りた たようなことを言うのは賢明じゃないと思うな」彼女は茶目っ気たそうとすればいいんだ。その人間が死ねばはっきりする」ここで急 つぶりにニコッとした。 に彼女は立ち上った。「でも、悪いけど、その当人になるのはごめ んこうむるよ。あんたが自分でそうしたいと焦るのなら、邪魔だて 異星生物学者は黙りこんだ。 「すると、コン。ヒ = ータがなくなったということか」メランサがまはしないけど。その結果には関心があるから。それまで、わたしは たしゃべりだすまえに、キャロリー・ド・フラニンが低い声で言っ船倉から荷物を移して、ちょっと寝てくる」 こ 0 「生意気なあばずれめ」メランサが去ったあと、ふつうの会話のよ うな調子で男性言語学者が言った。 「残念ながらね」大女はうなずいた。 「やつはおれたちのことを聞いてるかな ? 」異星生物学者がそっと 彼はふらふらと立ち上った。「小さなユニットなら船室にある。 腕時計型だ。たぶん、それで間にあうだろう。ロイドから計数値をささやく。 「大事な話は全部きいてるわよ」女性言語学者が立ち上って言っ 〈ヴォ もらって、それでわれわれの出た地点を知らねばならない。 ルクリン〉がーー」彼は通路を足をひきすりながら、自分の船室へた。全員が腰を上げた。「さあ、わたしたちの荷物も動かして、彼 女を」ー・。ー親指を超心理学者のほうに向けて , ーーー「ペッドに運びま と消えた。 トナーがうなずいた。 「わたしたちが皆死んだら、どれくらいとり乱すでしようね、あのしよう」彼女のパー 人」女性言語学者が苦々しくつづけた。「そうなったら、〈ヴォル 「じゃ、何もしないつもりなのか ? 」と、異星生物学者。「計画だ クリン〉を探す手助けは誰もしてくれないのよ」 よ。自衛の」 「いいじゃないの」と、メランサ。「彼もわれわれと同じように傷言語学者はこわい顏で彼をにらみつけ、連れを引っぱって別の方

3. SFマガジン 1982年9月号

ンサ・ヤールがさっと手をのばして、彼のロにしつかりとふたをし「さあね」と、メランサ。「だけど、第三船倉みたいに、他の三つ も、いつ中身を外にぶちまけるかしれたもんじゃない。わたしは船 「どうしてそうなったかわかる、船長 ? 」 室へ自分の睡眠網を移すよ。第二船倉で暮してた人もそうしたらっ 「まあね」ロイドはしぶしぶ答えた。 異星生物学者が納得したようなので、メランサは彼が息をつけるて勧めるけど」 女性言語学者が言った。「いいアイデアね。詰めれば入るし。気 ように手を放してやった。「教えてよ」彼女はうながした。 「きちがいざたに聞えるだろうが、メランサ、きみの仲間は船倉のもちのいいものじゃないけど、もう船倉じゃ羽根をのばして眠った 荷役ロックを開けたんだ。もちろん、彼らもわざとやったわけじゃりできないでしよう」 ないだろう。どうやら二人は、システム結合で〈ナイトフライヤ 「それと、第四にある貯蔵庫から宇宙服をとりだして、手もとに置 いた方がいいんじゃないか」彼女のパートナーが示唆した。 ー〉のデータ記億とデータ管理装置に侵入をはかったらしい」 「なるほど。おそるべき悲劇だね」 「お望みならね」メランサは言った。「全部のロックが同時にパッ 「そのとおりだ」ロイドは同意する。「おそらくきみの想像以上に と開く可能性だってあるんだから。こちらが予防手段を講じたから おそるべきことだよ。わたしは船の損害状況をこれから査定しない と言って、ロイドに非難する権利はないと思う」彼女はこう言っ といけないが」 て、すご味のある笑みを一瞬うかべた。「今日からは、道理にあわ 「船長、ひきとめはしないよ、まだやらなきゃならない仕事があるない行動をしても認められるってことよ」 「おまえさんのくだらんジョークをきいてる暇はないんだ、メラン なら」メランサは続けた。「こちらは皆ショックを受けている。 ま話しあうのは無理だろうね。だから、船の状態を調べておいてほサ」異星生物学者が声を荒げて言った。「三人が死んだし、四人目 しいな。朝にまた話しあいの続きをやろうじゃない。い、 はひょっとしたら狂っちまったか、このまま昏睡を続けるかもしれ 「わかった」と、ロイド。 ないんだ。残るおれたちも危険にさらされているしーーー」 メランサは連絡器のプレートに親指で触れた。これで公式には、 「まだ何が起ってるのかわかったわけじゃないんだよ」彼女は指摘 通話装置は切られたことになる。ロイドは彼らの話を聞けないわけした。 「ロイド・エリスがおれたちを殺そうとしているんだ ! 」相手は大 キャロリー・ドプラニンが、髪の白くなった大きな頭をふった。 声で叫ぶと、要点を強調するように片方の拳を開いた掌にパシッと 言語学者二人はびったり寄りそってすわり、手を重ねている。超心打ちつけた。「やつは誰とも、いや、何とも見当がっかん。それ 理学者は眠ったままだ。異星生物学者だけがメランサの視線を受けに、やつのしたあの話も本当かどうかわからん。どうだっていいが とめた。「やつを信じるのか ? 」突然、叩きつけるように彼はロをな。たぶんやつはフランガ人の精神体か、〈ヴォルクリン〉の復讐 きいた。 の天使か、それともイエス・キリストの再来なんだろう。だけど、 」 0 9

4. SFマガジン 1982年9月号

次の日、高地・起伏・砂漠局 ( 地形局 ) が異議をもちこんでき会計検査局にはそれが気にいらなかった。「いったい何に使うの かね ? 」と次の日、会計検査局の小役人が文句をつけてきた。「あ た。「こんなことは言いにくいんだが、ちょっと困ったことになっ てね」と地形局の天吏が言った。「おたくで計画中の山脈だが、頻んな惑星ではまったく役に立たんしゃないか。経費の無駄づかい以 っそのこと、きれいに取払ってしまうわけに 発地震に対して定めたこちらの建築法規と照らしあわせると、おた外の何物でもない。い くのは基準に達していないんだよ。あれでは危険の烙印を押さざるはいかんのか ? 」 をえなくなると思うんだがね」 「一理あるな」 O がその件の相談で、技術部に顔をだすと、部 「山も抜きにするが、それでどうだ ? 」 tOQ はふてくされて言っ長はそう言った。「計画に惑星をいれたのは、今までそうしてきた からというだけの理由からだ。うむ : 二 : 惑星なんかたたきだしてし 「そうしてくれるなら、うちに関する限り、まったく言うことなしまってもいいんじゃないか。惑星も抜きだ」 だね。だけど、それだけじゃ、労災管理局が何と言うかわからん しかし、エネルギー配給局は恒星だけの宇宙という考えに満足で ぞ。なにしろ地割れがそこら中に走り、いたるところ土砂くずれだ はなかった。「数兆年もつだけの予算をつぎこむわけだが、それで し : : : 動物にはちょっと危険すぎるな」 も予算は有限でね」と配給局の天吏は電話で言ってきた。「知って 「しかし、動物はもう全部はずすことにしてあるんだ」と (502 は のとおり、われわれは今エネルギー保存政策を奨励している。ただ 事情を話した。「全然いないんだが」 エネルギーを虚空にまきちらすためだけに何兆もの恒星を燃やし いや、まったく大変な非能率か 「なるほど、なるほど」地形局の天吏は愛想よく応じた。「それはて、それでおしまいというのは : 冫 : し力ないよ」 わかるが、ごたいそうな規則にひっかかってるのも事実でね。知っつ浪費だな。まさかこういう計画を承認するわけこよ、 てのとおり、労災管理局の連中のうるさいことといったらないから「しかし、いつもこうやってきたんだ」と COQ は抗議した。「惑 な。まあ、これはここだけの、あくまで友人としての忠告だがね。 星が吸収するエネルギーといったって、大河の一滴にもたらなかっ じゃ、忙しいところ失礼した」 たじゃないか。たいした違いじゃない」 COQ は議論をいどむ気にもなれなかった。 「量的にはお説のとおりだが、わたしが言ってるのは原則の問題だ よ」と天吏は言った。「初期にはエネルギーの浪費は莫大だった 設計技術部の返答は惑星を完全な無活動状態におくというものだ った。山もなく、溶融コアもなく、移動するプレートもなくーーしが、原則の上では、すくなくとも筋がとおっていた。今回のは筋も たがって、いかなる種類の地殻変動もない。惑星は固い岩石ででき何もあったものじゃない。そこが大違いだよ。とても承認の ( ンコ た、ただののつべらぼうの球体にすぎず、どんなに空想の翼を広げなんかつけないな。失敬」 ても、生命ーー。・その有無はともかくとしてーーーに危険を加えそうな 翌日、設計技術部はエネルギー保存の妙手をもってきた。星間物 7 ものはまったくない、 ということになる。 質を十分な密度に集中させて恒星を形成し、核融合反応をはしめさ

5. SFマガジン 1982年9月号

こう云わせるのずさる。目の中に、おびえの色がある。 だって笑っていた。嫌だった、いとわしかった でないとぼくは卑劣だけど覚えた手をまたっ 3 はあなただわ、イヴ。あなたの目、それがひとからそれをひき出「云って下さい 2 かいますよ。脅迫をねーーー云ってくれなくては、・ほくは亡命します し、そして , ーーー」 「それはーーそれはあんまりだ、»-ä・あんまりひどい云い方よ。《上》へ」 だ。あなたがいうのは、・ほくのせいで、ミラも、レダもーーーディマ 「何をーーー」 ーのしたことさえーーー」 ・はなおも抵抗するかと思った。しかし、案に相違して、ほ 「挫折におわったいくつものこころみ」 んのわずか黙っていたあと、すぐに彼女はちょっと微笑んだ。 ・は耳もかさずにしゃべりつづけた。目がギラギラと輝き、一 おおーー・ほくはその目を忘れないだろう。 まるで彼女はーー・・そうーー誰かを思い出させる。でも、それは : いま、塔から身を投げるものの目。それはレダの目と同じだっ 「それでもわたしたち、《呪われた子ら》はーーわたしたちは自分こ。 ナミラの目とも。 のことをそう呼んでいた、わたしとディマーとは こころみたの 「わたしがざんげをすましてないというのですか ? 」 だわ。ファン。失敗とむなしさ、レダのケース、何もかもーー袋小 彼女は小さくつぶやき、手をよじった。 路。そこへ突然あなたがあらわれるーー・希望か破減かーーそれでも「でもわたしは , ーーでもわたしは知ってた。いっかこうなると知っ もうわたしたちはゆくしかない、その一本道へゆくしかない、他のていた。はしめて会ったときからーー , どうしてかわからない。 道はすべて行きどまりだった、そしてーー」 ふしぎねーーーあんなに恐れていたのにいまはこんなにほっとして いる。そうよ ・ほくの声の中にあった何かが、彼女のロをつぐませ レダは、わたしの娘です。それがあなたのききたかったことでし そして、はっと息をのませた。 よう、イヴ」 「イヴ 「ファン」 ・ほくはゆっくりと云った。 ~ 「レダのケース。やつばり , ーーー何かあるんですね。秘密ーーーかくし 秘められた内密の事情」 「イヴ。何を云ってるのーーー」 「云って下さい」 ぼくは、首をかしげた。 ・ほくはゆっくりと彼女の方へ身をおこした。 , - : 彼女まあわててあと「何のことですーーーう・」 八止ロ白

6. SFマガジン 1982年9月号

るような形にもっていくか、ということだ。「一つたけ方法があ現行の計画はとても承認できるようなものではありません。こちら る。動物がたちゅけないというのなら、福祉の恩恵に浴せるように としては火山の運転許可は出しかねます」 手をうてばいいじゃないか。年金局に電話して、話がつけば解決だ 「なんだと。規制値は生物保護のためのものしゃないか ! 」 t0Q は声をはりあげた。「この計画からは生物ははすしたんだ 一切 「うむ : : : それはそうだ : : : 話がつけばだが」あまり期待しないロナ ・こ。生物がまったくいなければ、規制の必要なんかないじゃない ぶりである。 か」 数分後、 ch02 は年金局の局長に電話を入れ、窮状を説明してい 「無生物惑星に関する特別免除規定はありません」環境保護天吏は た。どうだろう、全動物に福祉を保証することを了承してくれま、 、とりつく島もなく言った。あんまりではないか。 「頭のネジがどこかゆるんでるんじゃないのか ! 」 0 は受話器 「無茶だ ! 」一言のもとにはねつけられた。 に向かってどなった。「特別免除規定だと ! 保護するものもない 「無茶たと。それしや、どうしろというんだ。この鬼、ーー・いや、天のに、なんだって規制値をふりまわさなくちゃいけないんだっ・ 使野郎」と c50Q はいきりたって叫んだ。「ああだのこうだの七面こまでトンマなんだ ? うちの計画にそんな規制値が関係ないこと ぐら、 倒くさい基準がたくさんあるのに、どうやったら全部満たせるとい どんな馬鹿たってわかりそうなものだ。頭がどうかして うんだ ? どの基準も誰かしらが引っかかるようにできているしやる」 ないか」 「わたくしは職務を遂行しているだけで、個人的に侮辱をうけるい 「知ったことか」年金局の局長はぶつきらぼうに言った。「失敬」われはありませんわ」答えが返ってきた。「基準は明々白々です。 翌早朝、難局打開のために会議が再度開かれた。あらゆる手だて早急に善処するように。失礼」電話は切れた。 を吟味した末に、すべての争点を解決できそうな方法が一つだけ残はこの = 、ースを設計技術部に伝え、研究部と討議させ った。つまり、生物抜きの宇宙を造ることである。この計画からは た。火山活動なしでは十分なガス放出がおこなえず、大気や海洋の 生命体はいっさいがっさい取除かなければならない、 というわけ形成が困難だろう。 OX 、大気も海洋も抜きだ。しかし、火山には だ。会議は重苦しい投げやりな空気のうちに終った。 地殻に蓄積する構造応力と熱とを放出する役目もある。火山活動な しでどうやって散らせるだろう ? 一つだけ手がある。地震をふや その午後のうちに環境保護天吏から電話があった。は彼女して無理を埋めあわせるんだ、と設計技術部長が言った。 ch0Q は 設計技術部長に指示を与え、火山を廃棄のうえ地殻を地震多発性の の耳をつんざくようなキンキン声に神経をかきむしられた。「植物 のまったく無い状態では、火山活動によって放出される二酸化炭ものに変史させた。これでやっと一段落と誰もが思った。 素、窒素酸化物、硫化物の濃度は規制値を上回ってしまいますね。 け 8

7. SFマガジン 1982年9月号

料の排ガスのホルマリンで頓死するんだ。ばかばかしくもくだらな〈それでは〉ときみは皮肉な調子でいう、〈あなたは言葉使い師と い話さ。やっている本人がしらけきってる。そのしらけた感情も記はいえないでしよう〉 録されて、感受者も納得するしかけだ。あれはしらけ気分になるに 「そうでもない。一冊の本を書くとなれば、言葉を操ることができ はいい作品だった」 なければならない。わたしは言葉がかれら自身が自由にもう一つの 〈なるほど。たしかにくだらないですね。くだらないことを大真面現実を組み上げられるように見張っている。そこにはわたしの思い 目でやれるのはうらやましいな〉 が入りこむだろうさ。しかし完成したものは、わたしとは切り離さ 「真面目しゃないと言ったろう。食わんがためのしらけムードで創れたものだ。それはわたしが生んだものだが、わたし自身では決し ったんだ」 てない。子供のようなものだ。親が成人した子のすべての責任を負 〈フム。心ではなしてくれないので誤解が生じてるな : : : 言葉はやう義務はないように、わたしは自分の生んだ小説が自分の思想をあ はり真実を伝えない〉 らわしたものだなどというつもりもなければ、その必要もない」 「しかし別の真実を伝える。思ってもみないもう一つの世界さ。き 〈あなたは言葉で言っているではありませんか。ならばそれはあな みが誤解したような世界だ。くだらないことを大真面目でやってい たの考えではないわけだ。これでははなしにならない〉 るわたしが、きみの心に入ったように。言葉は生き物だ。それはき「はなしにはなるさ。いま言った言葉はわたしの心をかなり正確に みのエネルギーを食って、きみの心のなかに侵入し、そこに巣を作伝えている。気持やアイデアやある出来事を伝えるために言葉を使 っていすわる。エネルギーを与えられればきみの心で増殖をはじめうのは初歩的なことで、簡単だ。とりたてて高度な技術はいらな る」 つまり、言葉を道具として使うことは。そのとき言葉は生きて 〈その言葉はあなたの生んだものでしよう。あなたの思考もしくは はいない。そう、たしかに道具なんだ。わたしは言葉をそんなふう 思想傾向の表現た。言葉を擬人化するのはまちがってる。それはた ー。使いたくない。書くときにはね」 たの道具なんだ〉 「あなたはなにを書くんです ? 」ときみは声に出して言った。「道 「そういう面もある。しかし社会が言葉を禁したのは、言葉が単な 具でない言葉があるとは思えないな」 る道具ではないと気づいたからなんだ。わたしは擬人化しているわ「わたしは、自分がおもしろいと感じたりめすらしいと思ったりす けじゃない。明らかに生き物なんだ。わたしの言葉はわたしが生んる、その感情そのものを書く気にはなれない。自分が悲しくなった だものだ。しかしそれがきみの心に入ってしまうとき、そこにはわからというただそれだけのことで主人公に涙を流させるなんて、思 たしの思想などひとかけらもない。すくなくとも、わたしが語るとっただけでもそっとする。そんなものなら書く意味などない。言葉 きは、自分自身を言葉で伝えようとは思っていない。言葉はわたしを使う必要なんかない。それを表現したいときは、感応ス。フールを とは関係ない , 使う。感応記録機はまさにそのために発明されたんだ。言葉は道具 9

8. SFマガジン 1982年9月号

「わたしは正気さ」言葉使い師はうれしそうに言った。「正気でな 〈そうだ。職業は〉 〈市清掃局員です。夜はアクターのアル・ハイトをしていました。背ければ本は書けない。言葉を操ることなんかできない」 景屋です。黄色 2 ハラを描くのがとくいでした〉 弁護士は言葉使い師をさえぎって、くどくどと弁護をはじめる。 「言葉使い師なる被告が、この兎と跳ねろという本を書いたのは認 〈フム。で、第一被告との関係は〉 〈知りません。あの言葉使い師は、あの夜スタジオにしのびこんでめます。しかし内容は無害だ。たんなる言葉の羅列にすぎない」 「それは、侮辱だそ」と言葉使い師。 きたのです。それまで見たこともなければ会ったこともありませ 「おまえは黙ってろ」不機嫌に弁護士はどなり、「失礼。あー、こ 〈それは虚偽であります〉と検察官がいう。〈第二被告はあきらかの被告がつらねる言葉は、無意味です。なんの仕事もしません。た に第一被告と過去に接触しています。兎と跳ねろなる第一被告の著とえば、高級コンビュータ言語で書かれた。フログラムのようになん 書を読んでいるのです〉 らかの具体的な結果をもたらすものではありません。無意味です。 これがその本ですといって、検察官は出廷した全員に兎と跳ねろ一たす一は二というこたえは出ません。狂っているからです。 をくばる。裁判長はその本をとりあげて、言葉使い師を見て言っ え、被告の頭がではなく、この作品が、です」 こ 0 「それはあたりまえなんだ」言葉使い師は言った。「言葉はコンビ 「これは第一被告が書いたものかね」 ュ 1 タ・。フログラム一一一口語とはちがう。コンビュータ言明は、はっき 「そうだ」 りとした目的を実現させるために書かれる。わたしが使う言葉はそ うではない。小説を書くというのはソフトウェアを組むというより 言葉使い師は平気な顔でこたえた。 「では検察の起訴内容を認めるのだね」 ハードを創ることなんだ。一つの現実を組み立てるんだ。その 「認める。しかしだれもわたしを罰することはできないだろう」 とんな世界になるか 世界では一たす一は必ずしも二にはならない。・ 「法廷を侮辱すると罪になるので慎重にこたえるように」と裁判は、言葉自体が持っているソフトで決まる。言葉には自己。フログラ 官。 、、ング性というようなものがあって、わたしは大きな方向を示して 弁護士が立ちあがって、言葉使い師をにらみ、「第一被告はとりやる以上のことはしない。あとは言葉が勝手に独自の世界を創って ゆくんだ」 みだしているのです。かれは正気ではありません」 : えー、だからして」弁護士は困惑するが、理解できない心を 〈異議あり〉と検察官。〈被告らの精神は正常であると鑑定されて「・ : 知られないように、「被告は無罪です。罰するなら、その作品を罰 おります〉 〈くそ、おれはなにを言ってるのだろう、こんな話は 「異議を認める。弁護側も被告らの精神鑑定をしており、その結果すべきで きいたことがない。法律にそんな条文などあるものか〉 正常であるとの結果を提出している」 6 4

9. SFマガジン 1982年9月号

を識別することはむずかしく、すべてが混り合い、焼け焦げ、凍り が保護する。知らなければ知らないほど、守りやすいんた」透明な ついていた。 「メランサ、これは大仕事だ」 フェース。フレートごしの彼の表情は、厳しいものだった。 「まず、話しあいね」彼女は答えると、橇をもっと近くに寄せ、彼メランサは相手のさかさまになった眼をのそきこんだ。「船長、 に手をのばした。しかし、二台の宇宙橇は幅があるため、二人の距あんたの船がわれわれを殺そうとしている。まあ、それがわたしの 離はまだかなりあいたままだ。メランサは後退し、ぐるっと橇を回推測さ。あんたじゃない。船だ。たたそれだけじや意味が通じな 転させた。これでロイドは彼女の位置からはさかさまにぶら下り、 〈ナイトフライヤー〉を指揮しているのはあんただから。どう 一方ロイドの位置からだと彼女が逆になる。彼女は橇をこの真上 / して船が独立して行動するんだい ? な・せ ? その原因は ? あの 真下の位置関係にしたまま、もういちど相手に近づいていった。二超能力的な殺人はどうやって行なわれたのかな ? あれは船の行動 人の手袋をした手が触れ、こすり、離れる。メランサは高さを調節じゃありえない。 しかし、他の何かだとも思えない。ねえ、教えて した。ヘルメット同士が接触する。 おくれよ、船長」 「こんなーー」ロイドが不審げにしゃべりかけた。 彼はまばたきした。眼のかげに苦悶があった。「わたしはキャロ 「通信を切って」彼女は命じる。「音はヘルメットごしに通じるか リーとチャーター契約を結ぶべきじゃなかったんだ。きみたちの仲 ら」 間にテレ。ハスを加えたりしてはダメだった。危険が大きすぎる。し 彼はまばたきすると、舌を使って通信網を操作し、スイッチを切 かし、わたしは〈ヴォルクリン〉を見たかった」そして、なおも続 っこ 0 けた。「メランサ、きみはもう知りすぎている。これ以上しゃべる わけこよ 「さあ、これでしゃべれるね」 冫 : いかない。船は機能不全に陥っているーー・これだけ頭に入 それ以上追求するときみは安全ではなくなる。た 「こんなやり方は好きじゃない、メランサ」ロイドは言った。「あれておけばいい。 だ、わたしが船のコントロールを握っている限り、きみと仲間たち まりにも見えすいている。危険だ」 はそう危険しゃない。信じてほしい 「他に方法はないよ。ロイド、わたしにはわかってる」 「ああ、きみが感づいているのは知っていた。三手先だろう、メラ 「信頼というのは、二方向の結びつきだよ」メランサは言い切っ ンサ。あのチェスの指し方を思いだせば。だけど、知らないふりをた。 していた方が安全なんだ」 ロイドは片手をあげると彼女を押しやった。それから舌で通信を 「船長、その点はわかってるよ。他のことについてはそれほど確信再開してつげた。「おしゃべりはもういい」歯切れよく彼は話し はないけど。その辺を話したいな」 た。「修理をしなくちゃならん。さあ、きみがどれくらい改良され てるか見たいもんだな」 「ためだ、質問はしないでくれ。わたしの言うとおりすればいい。 きみたちは危険な状態にある。きみたち全員がだ。しかし、わたし切り離されたヘルメットの中で、メランサ・ヤールはそっと悪態 6

10. SFマガジン 1982年9月号

るたろう。アニー ・メイ・グジャーの場合はどうたったのたろう。 練されているが、かすかに田舎の名残りがある。 「はい。もしもしつ。もしもしつ」 好運か。強奪か。神の介在か。骨身を惜します働いたのか。裁判ご 「お若い方、あなたはジョリン誰とかさんと話をしたといったわっこか。 ね。もしやジョリン・スミスのことかしら : ・・ : 」 セルヴェッジがサン・ルームに案内してくれた。富豪の依頼人に ー・メイ・ラド会うフィリツ。フ・マーロウの気分だった。室内を埋める家具は、世 「もしもしつ。そうですつ。ラドウインさん。アニ 記の変わり目から一九五〇年代の間に造られたものーー不変の家具 ウインさんの旧姓はグジャーですね。ジョリンさんは今、オーステ糸 だ。豪華に見えることはないが、見す・ほらしくなることもなく、ど インに住んでます、テキサス州の。昔住んでいたのがミシシッビ のウォーター・ヴァレーだそうで、ぼくはオースティンから参りまの椅子もすわり心地がいし して、そのーーー」 会う前にぼくは、恐ろしい女性を予想していたような気がする。 「お若い方」とその声、「これは憎らしい姉のアルマの企みじゃな袖覆いにグリーンの目庇をつけ、ロールトツ。フ・デスクにおおいか ぶさるようにして向かっているのだ。デスクの上に山積みになった いのね」 「誰ですって : : : 。違いますとも。ジョリンという女の人に会った書類は、受領か却下かひとつで、何千人の生死を分ける、とか。 実際にお会いしたのは、グリーンのパンツスーツを着た魅力的な 「お話ししたいわね」と声が答え、それから無雑作に「この方にこ御婦人だった。六十代だったけれど、髪はまだ、麦わら色か小麦 色。ダイしているようにも思えない。瞳はプルーで、ぼくが小学一 こまでの道をお教えしなさい、セルヴェッジ」 。筋ばった体つきで、″脂肪″などという 年生の時の先生そっくり カチャツ。 言葉はヴォキャ・フラリーの中にないかのようだった。 ・ほくはサービス・ステーションのトイレでできるだけロの中をき ・・、ルさん」と握手してくれ、「コーヒー 「おはよう、リント / ー れいにし、ナップサックにあった古い詰まりかけの使い捨てジレッ 。お飲みになった方がよさそうよ」 トで鬚をそろうとした。成果は顎の線をとぎれとぎれにしたことだ 「ええ、ありがとう」 け。洗いざらしのジーンズと、あと一枚しか持ってこなかったシャ 「おかけになって」ガラスのテー・フルのそばの白い枝編み細工の椅 ツに着がえ、髪に櫛を入れた。 子を示した。テー・フルには盆とコーヒ 1 ポット、カツ。フ類、ティ 1 それでもやつばり見られたざまではなかった。 ッグ、クロワッサン、ナプキン、それに皿があった。 お宅はエルヴィス・。フレスリー の邸宅を思わせるものだった。実・ほくがコーヒーをカツ。フに半分、一息に飲んでみせると、相手は 際、近所のどこかにそのものがあるはすだ。、 、、シシッビの小丘の掘こう言った。「会いにいらした御用は、よほど大切なことね」 っ立て小屋からここまで四十年。こうなるまでにいろいろな道があ「行儀悪くてすみません」と・ほく、「そうは見えないかもしれませ 5 6