声 - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1983年12月号
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1. SFマガジン 1983年12月号

ように相手の手首をしつかりとっかんで、督促した。 おれはうなずく。 「それと、ネガも頼むぜ。もう一つのは、あんたが持っていてもい 「まったく、本ものそっくりにとれてるわ。あのひと、本当にすて 遠くから写した方だ」 きなのよ。この写真のとおりだわ。ねえ、お願い、これ、あたしに 「あっちは野らんよ」 くださる ? 」 と、相手は不機嫌な口調で言い、立ち去るおれをうらめしげな顔「あんたに上げようと思って持って来たんだ」と、言葉少なに、お で見送った。 れ。 この唇の上 ロージーはいきなりおれに抱きっき、キスした 写真をフレームに入れたおれは、それをマントルビースの上に置へ、まともにだぞ。もちろん、あんまり気分のいいもんしゃなかっ た。なにしろおれはおセンチなことが大嫌いだからな。それにあと ぎ、数歩さがって改めて眺めてみた。確かに、びつくりするような でロ髭をふかなきゃならんかった。でも、あの場合どうしてもこう 出来栄えだ。さすがにアザゼルはいい仕事をしやがった。 ロージーはこれを見てどんな反応を示すだろう。さっそく、おれせざるをえなかった彼女の心情は、理解できるぜ。 その後、一週間ほどロージーには会わなかった。 は彼女に電話して、ちょっと寄っていいか、と訊ねた。先方は買い 物に出るところだとわかったが、それでも一時間以内に来てくれれ そんな或る日の午後、肉屋の外でロージーに出会った。それで儀 : と一 = ロう。 礼上、どうしても彼女の買い物包みを持って彼女の自宅までついて もちろん行ける。おれは即座に行動を起こし、贈り物用に包装さ行かねばならぬ目になった。当然のことながら、おれはまたキス せた例の写真を、無言でロージーに手渡した。 をされるんじゃないかと期待したし、その場合、この可愛いい小娘 がどうしてもそうしたいと言い張るなら、拒むのは酷だろうな : 「まあ、嬉しい ! 」 そう言ってージーは、そそくさとひもを切り、包み紙を破いと心を決めておった。しかし彼女は何となく落ちこんだようすであ る。 「あの写真はどうしたかね ? 」 「なあにこれ ? なにかのお祝いかしら、それとも : : : 」 まさかまだ色あせちまうはずはないし : : : と、いぶかりながら、」 言葉が途切れたのは中味が出て来たからだ。眼を丸くし、呼吸を はずませている。やっとのこと、彼女はささやくような声を出しおれは訊ねた。 こ 0 とたんにロージーは。、ツ と顔を輝かせた。「もちろん、あのまま よ ! あたしのレコード・。フレイヤーの上に置いてあるわ。ダイニ 「あら、まあ ! 」 それから、おれを見上げた。 ング・ルームのテープルの椅子に坐っていてもよく見える角度に向 7 けてね。あのひとの眼がちょっと斜めにあたしの方を見てるの。と 「これ、この前の日曜日にとった写真 ? 」

2. SFマガジン 1983年12月号

ダンケル・ Q ・デクスットは、いい終ってもまだ立っていた。 は変らなかった。しかし金がかかり世間的体裁もっくろわなければ ならぬ最上級校へは進むわけに行かず : : : 転進して、連邦の学校を他の人々は、呆れた顔で、デクスットを眺めている。 と。 志し、司政官への道をとられた。そうではないのですか ? 」 室内の人々は、がやがやいいだした。眉をひそめてダンケル・ が、彼の横に来て、低く告げたのだ。 ・デクスットをみつめている者もいる。 「司政官の内面に踏み込んだ質問です。お答えになる義務はない、 と、 01 がいっております」 「そんな質問のしかたは、許されないんじゃありませんか ? 」 いいんだ」 声をあげたのは、先程のコートレオであった。 ダンケル・・デクスットは、そちらへは一顧だにしようとは彼は、にいった。 しなかった。デクスットは彼に視線を当てたまま、畳みかけるよう返事を拒否することは、なるほど可能であろう。他の取材者たち にして、説いたのだ。 も、司政官がこんなに無礼な問いに答える必要はないと考えている 「そうしたあなたが、このタトラデンの司政官にな。せ任命されたのかも知れない。ひょっとしたら、司政官がどなりつけるのを期待し ことです。連ているかもわからなかった。 か、私にはわかりません。でも、それはどうでもいい 邦には連邦の都合があるのでしよう。あなた自身が自分の意向で担だが。 当世界を決めることは出来ないのは、私にもわかっております。私彼は相手の態度や口調に、どこか妙なものを感し取っていたの 」 0 がおたずねしたいのは、こうしてタトラデンの司政官になったあな ダンケル・・デクスットという男は、その Q というミドル いうことです。自分を痛めつけ たが、何をなさるおつもりか、と、 た人への仕返しですか ? 復讐ですか ? 自分が不合理な扱いを受ネームからも、タトラデンではかなりあたらしい植民者の家である ことがわかる。一般的にいえば、恵まれない階層に属している場合 けたタトラデン社会の改革ですか ? あなたは司政官です。司政官 が多い。そんな立場の人間であるから、こんな風に世の中や人の心 の威光は昔ほどではないとしてもーーー」 と、考えるのは可能た。 「失礼でしよう ! やめたらどうですか ! 」 を解釈し、攻撃的になるのだ コートレオが、また叫んだ。 しかし、彼は知っていた。 「昔ほどでないとしても、それなりの力は持っているはずだ」 タトラデン情報サービスという会社は、大きなネットワークを持 ダンケル・・デクスットは、強引につづける。「すくなくとっ名家系ーーたしかチブガイ家系の会社だった。彼がタトラデン にいた時分はそうだったのである。そのタトラデン情報サービス も私のような、ずっとあとからタトラデンに来た人間、しがない一 が、名家系の企業がどんどん強大になっているという現在、以前よ 9 植民者から見れば、強大な存在です。その力を、何に使うおつもり りもおちぶれているはすがない。もっと大きく強力になっていると ですか ? そのことをお伺いしたい」

3. SFマガジン 1983年12月号

私鉄の駅から少しはなれたところに、小さなバーがあった。三十い出せないんです。とにかく、そうなっていたんですな。その時、 五歳ぐらいのマスター兼・ハーテンが、ひとりでやっていた。カウン声をかけられました。女の人からです。考えなおして、しつかりす ター席だけなので、それ以上の人手はいらない。近所の人、都心かるのよ、って。飛び下り自殺でもしそうに見えたんですかね」 らの帰りに寄る人とさまざまだが、ほとんど常連の客。 「たぶんね」 「そのとたんですよ。殺気だっていた気分が、さっと消えたので ある日、夜の九時半ごろ。 す。危険物を持ち歩いているのにも気づいた。わたしは、にが笑い 中年すぎの背広の男が、何杯かグラスを重ねてから言った。 「な・せか、今夜はいい酔い心地だ。やっかいな仕事が一段落したせをしていました。目が合った彼女はにつこりとし、なんともいえぬ いかもしれない。ついでに、このごろの心のもやもやを話してしま好ましい印象を残して歩き去っていきました」 いたくなった。お聞きになっても、いやな気分になるようなことは右どなりの客は、うなずいて言った。 「めでたしですな。しかし、ことはそれで終りではないんでしょ ないと思うんですがね : : : 」 「どうそ、どうそ」 マスターにすすめられ、男は話した。 「そうなんです。その面影が忘れられない。また会いたい。さがさ 「すっと昔、若かったころ、ある女性に恋をしたことがありましてなければ。大変な作業とはわかっていながら、やらずにはいられな な。半年ほど楽しくつき合っていたんですけど、突然、女がわたしかった」 に言ったんです。お会いするのは、もうやめましようって。なぜか「でしような」 と聞いても、要領をえない。ただ、そうくりかえすだけなんです」 「なんとか時間を作り、そのデ・ハートを中心に、あちこちと歩き回 「恋の終りって、そういうものですよ。しかし、がっかりなさった りましたよ。四方に注意をしながらね。意気ごみもすごかった。わ でしような」 れながら、よくあきらめなかった。若かったせいもあったでしよう 「もちろんですよ。しばらくは、頭が・ほんやりです。そのうち、不ね。そして、半年ほどして : : : 」 愉快、不満、立腹、やけのやんばちと、心の乱れが激しくなった。 「うまくいったんですね、なにもかも。わかりますよ。その女性に 自分も世の中も、めちやめちゃにしてしまいたいと、思いつめた。 ついて、顔つきはどうのと、特徴めいたことの説明をおっしやらな そして気がつくと、ダイナマイトと刃物を入れたバッグを下げ、デかった。つまり、いまの奥さんというわけでしよう」 トの屋上に立っていました」 右どなりの客が推察した。 そこまで聞いて、右どなりの席の男の客が口をはさんだ。 「そうなんです。結婚し、わたしは地味だが堅実な企業につとめ、 「なにをはじめようと、そこに行ったのですか」 子供もでき、この年になりました。で、このあいだ、なにげなく奕 「どんなつもりでか、どうしてか、そこまでの経過は、ぜんぜん思に言ったんです。おかげで、人生をあやまらずにすんだよと。いま う」 8

4. SFマガジン 1983年12月号

のでした。やがてわたしは成長とともに、い わたしは、ロポットが、大好きである。 ろいろなロポットを、知りました。あまりに 突然、お茶の水博士のラ・フレターのような これは、ティントイロポッ も有名なロ・ヒー 出だしとなりましたが、とにかく口ポットと トのベストセラーとして、そのデザインの良 いうのは、すばらしい友人なのです。 さを証明しているよーです。今でも、ロビー そもそも、わたしの世界への案内者 るのデザインを越えるロポットは、ないのでは は、宇宙。ハイロットや空飛ぶ円盤ではなく、 ないかと思えるほどのカンベキなフォルムを ロポットであったのです。 わたしが小学生だったころ、マンガの世界 ~ ( 「一持っていたと確信します。 では、鉄人号や鉄腕アトムが、大活躍して 一ア " , また最近は、・フームのおかげで、スタ ーウォーズをはじめとするムービーにわんさ いた、いわば、第一次ロポットヒーロー時代と かロポットを出演させていて、たいへんたの だったのです。そのなかでも、鉄人号の印 しい時代となりました。また、をはなれ 象は、強烈なものがありました。 西洋の甲胄を思わせる全金属性のボディ、 ロ , て現実世界に眠を向けてみますと、やはり口 ポット大活躍の時代であるよーです。 自分の意志を持たず、操縦者しだいで悪にもを 路わたしはもともとタイ〈ンな、ナマケモノ ・′れ , 画 ( 一善にもな 0 てしまうと」う設定、そ 0 一」と を、象徴するような、視点の定まらない眼、道のケー 0 ーが、ありまして、自分が楽をした 、レ」い - っタクラミか。ら、も、ロポットのファン 。′ . 。み■その他すべての要素が、当時のわたしたちに …《 ) ′ ~. は、カッコよくみえたものでした。 夜なのです。さて、このとんでもないタクラミ △マ的観点から、わたしの身のまわりをみまわし もう一人 ? のヒーロー鉄腕アトムは、ス 展開やキャラクター設定は、さす てみますと、いました、いました。ロポット が、手塚氏の手によるものだけあってたいへ : 、いたのです。わたしが走るより速く走る んしつかりしたものでした。しかし、あの水 ロポットです。わたしの愛車は、さしずめ、 トランスポーターロポットではないかと思っ 泳・ハンツをホーフッさせるコスチュームが、 どーも子供心にもはずかしく感じたものでし たりして。しかし最近の車は、声が出たり、 おまけに電子頭脳まで、ソービされてたりし 気 ~ ( ( 一 ~ ・ ( ・ ~ = 〕。 / それに皮フが、たぶん人間のそれと同じよツ、て、まさにポ , トの一種となりつつあるよ うに、やわらかい感触のそれではないかと、 さて、今夜も、クラフトワークでも聞きな かってにキモチワルがったりしたのです。 がら、道路をロポットとデートすることにし そーゅーわけで、カタイ外皮を持っ鉄人の ほうが、わたしの個人的コノミに合っていた ます。 こ 0

5. SFマガジン 1983年12月号

ラヴランド 「何かの調査 ? 」 人間はどうしてじっとしていられないのだろう ? 「人探しだよ。もっともそいつは調査みたいなことをやっとるかもは目を閉じて考えた。人間はどうして生まれたところと同じところ 6 しれんがね」 で死ねないのだろう ? 人は生まれおちた瞬間に移動を始める。移 動するために生まれると言ってもよいだろう。しかし、もしこのち 「モヘンジョ・ダロみたいな遺跡のようなものですか ? 」 「そうかもしれんし、また別のところかもしれん。パキスタン国内つ。ほけな生き物の目的が移動することだとしたら、またなんと効率 の悪いことをやっているのか。人の一生を微速度撮影で撮ったら、 冫はいないかもしれず、アフガニスタン、イラン、イラク、あるい はトルコまで足を伸ばさねばならないかもしれんよ」 うろうろし、立ちどまり、逆行したりして、さぞかし滑稽なことだ ラヴランドは娘の顔を見、彼女が目を丸くするのを見て楽しんろう。そして、ひとりの人間の業績などというものは、所詮この減 だ。彼女が二の句がっげないでいると、ラヴランドのうしろの席の茶苦茶な移動の軌跡にすぎないのだ。 男が、うーんと寝苦しそうな声をあげた。 ラヴランドは、上着の内ポケットから一通の封筒を取り出した。 「どうもありがとう。まあ、他人が思うほど大変なこととは思っちそれは、もともとは白かったのだろうが、茶色く変色し、角がすり ゃいないんた」 切れていた。彼は、その中から一枚の便箋をつまみ出し、一字一句 そう言って彼は紙コツ。フをスチュワーデスに返した。 暗記している文面をもう一度眺めた。この手紙は、彼がここ五年の 「でも、寝ておかなくちゃな。カラチでは宿などとっているひまは間に受け取った唯一の私信だった。そのたった一枚の便箋には、褐 ないたろうしな」 色のインクで数行のなぐり書きがあった。書き出しの文章は、こん なぐあいだった。 ラヴランドは、渡された毛布を胸のあたりまで引っぱりあげて、 彼女にウインクした。 ロバが死んだ。砂漠でロ・ハの死骸と話していたら、手紙が書 「そうですね。どんなお仕事か存じませんが、ご成功をお祈りしてきたくなった。 いますわ」 スチ、ワーデスは、幼なさの残る笑顔を彼に向け、クルー席の方ラヴランドが目を開けると、車は道の端に大きく片寄ってはいた へ帰っていった。 ものの、周囲の景色はまるで変わってはいなかった。彼はかまわす もう何度目の旅だろう ? に車をそのまま道の外のラフにつつこませ、ガタガタとサスペンシ ョンに悲鳴をあげさせる振動を楽しんでから、またなんの変化もな 自分自身で旅の目的を決めなくなってずいぶんになる。いつもあ い道に戻った。 るひとりの人間を追いかけるのが目的た。 成功 ? 祈られても困るというものた。この旅は死に場所を かれこれ五〇時間も走ったろうか。ラヴランドは、道がいつのま 探す旅みたいなものだからな。 にかゆるやかな登りになっているのに気づいた。そうしてみると、

6. SFマガジン 1983年12月号

「普通はそのとおりだ。でこの写真だけは : : : 」 わ。でも、あたし、いったいどうしたらいいの ? 」 おれはあきらめた。アザゼルのやることの欠点はよくわかってい 6 実はこの前に会ったときから、おれは何となくこんなことが起こ マジック るんじゃないかと予感しており、いずれ真相をーーあのいまいましる。何のタネも使わずにこの写真の手品をやることはできないの だ。だが、それの科学的な根拠やらタネの保存法則をロージーに説 いアザゼルのことをーーー彼女に打ち明けねばなるまいと覚悟してい 明するとなると、お手上げだ。 「この 「こんなふうに考えてもらえないかな」と、おれは言った。 おれは咳ばらいをして言った。 写真が存在するかぎり、ケビンは腹立ちつぼく、気むずかし屋にな 「ロージー、あの写真のことなんだがね : : : 」 り、幸せな気分になれない : 「ええ、わかってるわよ」 そうロージーは言い、急いで写真を手に取ると、ひしと胸元で抱「でも、これは絶対に手離さないわよ」とロージーは言い、決然と きしめた。 して写真を元の位置に戻した。「それになぜあなたが、こんな素晴 「これのおかげで、あたし、どうにかやっていられるの。これこしいものに対して、そんな気違いじみたことを言うのか、あたしに そ、本もののケビンですもの。だから、あたしはいつもあのひとをは理解できないわ , ・・ーさあ、コーヒーでもいれましよ」 つもよ たとえ何が起ころう 自分のものにしていられるの : : : い ロージーはあたふたとキッチンへ入って行ってしまった。ひどく とも : : : 」 心を傷つけられたらしい 彼女はしくしくと泣き出した。 おれは唯一の可能な手を打った。とどのつまり、この写真をとっ たのはおれである。アザゼルの力を借りてこの写真に秘密の性質を おれとしては何と言ってよいのかわからず途方に暮れた。しかし まったく逃げようがない。 与えた責任者は、このおれなのだ。おれは、フレーム入りの写真を ー。問題はこの手早く持ち上げ、慎重に裏板を : : : そして写真本体をはずした。そ 「いや、あんたにはまだわかっていないよ、ロージ この写真の顔の力も陽気な表情も、れから写真を真ん中からまっ二つに裂き、つづいて四つに : 写真なんだ。まちがいない。 無理に別のところから持って来てくつつけたものなんだ。そのために : : : 十六に裂いて、それをポケットに押しこんだ。 にどうしてもケビン自身からそれを削ぎ落として持ってこなければ おれが作業を終えたとたんに電話が鳴り、ロージーがばたばたと ならなかった。わかるかい ? 」 リビング・ルームにかけこんで行き、応答した。おれは裏板をは め、フレームを元の位置に戻した。今は何もない真っ白のままた。 ロージーは泣くのをやめた。 ロージーが興奮と歓喜の悲鳴を上げた。 「あなた、いったい何をおっしやってるの ? 写真なんて、焦点を 「まあ、ケビン」と、おれの耳に彼女の声が聞こえている。「本当 結んだ光だとか、フィルムだとか、要するにその類のものしゃない によかったわ。あたし、本当に嬉しいわ ! でもなぜあたしに話し

7. SFマガジン 1983年12月号

その子の上にかぶさったまま、あたいはそいつの泥靴と革鞭でとのよ。早く来てくれないと、お尻がはれ上ってしまう。 と・ : : ・プウ、。フウ、。フウ : : 。遠くから音が近付いてくる : ことんやられた。その他に、横っちよから竿かなンかでチョコチョ コひッばたく奴がいるんで地面に伏せたままこっそりのそいたら、」来た ! とあたいは思った。 。フウ、プウ、。フウ、。フウ、 馬車の御者までが尻馬にのりやがって : 「あやまれ ! あやまらんか ! 旦那様に向かって何という失礼な その音がみるみる近付いてくると共に、だしぬけに紳士はあたい づら ことを ! 」忠義面してそいつはわめき立てる。「この ! 性悪のー をひッばたくのを止めた。 そ 1 っとあたいは眼をあげた。 乞食娘が ! 」 そのとたん、ロがひとりでにしゃべッちゃうのよね。「黙れ、こ大きな、鳩くらいもあるきれいな玉虫。 の馬の糞が ! あやまってたまるもんか ! 」 真冬の街なかに玉虫もないもンだけど、とにかくその玉虫は、街 灯の光をキラキラ反射させながら飛んでくると、一気に紳士へ近づ そんな具合だから、向うはますます頭にくるわけよ : でも、こりや、うかうかすると蹴殺されると思った。 いて、すッとン狂な音を立てながら紳士の顔へまとわりついた。 プウ、。フウ、。フウ : それで胸のスイッチを押した。 「こちら、。ヒンク・チンチラ・ワン、五郎八、助けて ! ウッ ! 」 。フたれてま紳士は、手にした鞭でその大きな玉虫を追ッ払おうとするけど、 強烈な奴がお尻に来た。「教会の前でーーあいた ! 玉虫はそのたんびにひらりと舞い上ってはまたおりてくる。 。フウ、プウ、。フウ : サーポがよく利いてるのよね。ダンビン すぐ、耳の中に五郎八の声がとびこんできた。″またドジを踏み やがって、この野良猫娘が ! おとなしくしてろってあれだけ言わグ特性が抜群なのよ。あれは。 「ウぬ ! 」 れてながら : ・ じらされて頭にきた紳士はムキになって玉虫をはたきおとそうと 大きく出やがって : 田舎ッペー するんだけど、そのたンびに信じられないようなス。ヒードでさーっ でも、こっちはメゲかけている : 「おとなしくしてたんだけど : : : あいた ! ・ : そんな : ・ : とにかくと逃げるのよ 。フウ。フウ、プウ。フウ、 ・ : 助けて : : : あいた ! あいたツた ! : ・ : ・助けて ! 」 いま行く ! ″通話は切れた。 しかし、そいつもやつばし只者じゃないわ。 うるさく飛び回るその玉虫がリモコンのメカ虫なのにすぐ気がっ 紳士の鞭がもうひとつ、あたいのお尻をひッばたいた。 いて、あたりにさっと眼を走らせた。 チルチルの上にかぶさったままだから、どうにもよけようがない って感じよ。鋭い眼をね。 走らせた 2 引

8. SFマガジン 1983年12月号

えない。ド ・ハーストウの言うとおり楽しもう」 ーでたくしあげて、彼らは墓を埋めはじめた。 「たれもお祈りをしないの ? 」ショッ クを受けた叫びが、一人の女「彼らはどこからゲイラを運んできたんだと思う ? 」 だれかが彼女 からあがった。「だれもお祈りをしないの ? 」 「ゲイラだって ? どこでその名前を知ったんだ ? をそう呼んだのかい ? 」 一瞬気まずい間があいた。 わたしは鳥肌が肩から肘へかけおりるのを感じた。「ううん」っ 「もう牧師が祈ったんだ。こんな女にやそれで充分さ」男たちの一 人が言った。 い先程の出来事を思い返しながら言った。「だれもどんな名前も言 女は半分埋まった墓によろめき寄って膝をついた。女の言葉を聞わなかったわ、でもーーーでも、彼女の名前はゲイラなのーーーだった いたのは、もしかするとわたしだけだったかもしれない。″彼女はのーーゲイラなのよ ! 」 わたしたちは顔を見合わせ、わたしはまたまくしたてた。 精一杯愛したのですーーー多分のお許しをお与えください〃 「フェニックスからかもね。昔はあそこはどちらかというと歓楽地 ・マグを包みこむようにして掌を温だったから」 。ヒーターとわたしはコーヒー 「それともトウームストーンかな ? 」。ヒーターがほのめかした。 めながら坐っていた。わたしたちは家へ帰る途中で小さなハイハー 「あそこのほうがずっとさかんだったんだ」 ・ショップにはいった。外では車軸を流すような雨がふりそそ いで、表面の黒い道を水浸しにし、どこか裏のほうでしつこく金属「トウームストーンに鉄道はあった ? 」わたしはカツ。フを持ちあげ をたたいている。それぞれの考えにせわしなく頭を働かせながら、 ながら訊いた。「現在ですらあそこに駅を見た記憶がないのよ。一 わたしたちは雨が砂の路肩にすじをつけるのを眺めていた。この時番近いのはべンソンだったんじゃない」 期にしては確かに普通でない雨だった。 「鉄道で運んだのじゃないってこともある。船かもしれない。そ 「さて : : : 」わたしの声に。ヒーターはコーヒーから視線をあげた。 ら、大きな馬車数台だったんだろう」 「もうすっかり話したわ」と先をつづけ、「あなたの御意見は ? 」 「鉄道よ」わたしは冷めたコーヒーの味に顔をしかめた。ビーター 「興味深いね。こんなにおもしろい異常を持った尋常ならぬ奥さん が笑った。 「たって、ぬるくなったコーヒーって好きじゃないの がいる男はそういないよ」 よ」 「そのことしゃないんだ」。ヒーターは言った。「彼女の名前がゲイ 「ちがうの、わたしが言うのは」ーーーわたしは人さし指の上で注意 どうしてラで、鉄道で帰ってきたことは信じて疑わないくせに、トウームス 深く小さなス。フーンの・ハランスをとったーーー「なにが トーンに駅があったかどうかも憶えていないからさ。われわれは先 「説明をつけようとするのはよそうや」ビーターは言った。「第週あそこを通ってきたんだよ ! 」 「ピーター」わたしは新しいコーヒーからたちのぼる湯気を通して 一、ぼくに説明できないのはわかっているし、きみもできるとは思

9. SFマガジン 1983年12月号

すの ? 」 「まあ、本当にすみません」わたしは自分のショッビング・カート の把手を握りしめた。「わたしーーわたしったら何かを突然思いだ話の内容をのみこむまでにちょっと間があいた。それからドクタ ・ハーストウはゆっくり言った。「わたしの先祖がここへきたの して、自分がどこにいるか忘れてしまって」わたしは支配人の心配 は世紀の変わりめの前ですよ」 こほほえんだ。「大丈夫、ありがとう、ごめんなさいね、 そうな顔冫 ご迷惑かけて」 「先祖の方たちはどうやっ下ーー何をしてらしたんでしよう ? 生 「いいんですよ」支配人はわたしの徴笑にいくぶんためらいがちに活をするためにという意味ですけれど ? と言うのは、わたしまた 見ているんです、ちょうど今。一軒の店の上に大きな看板が出てい 応じた。「本当に ストウ・アンド・ サンズ雑貨店〉っ 「ええ、大丈夫ーわたしはあわてて言った。「どうもご親切に」きるんです、〈ジャズ・・ びきびとそこを離れると、わたしは・ ( ーゲン中の。ヒザ・ミックスをて。だからもしジャズがジ = イムズのことなら、つまり、先生のー ー」わたしは汗ばんだ額をティシ = ーで拭いて、その汚れに顔をし さがしにかかた ・ハーストウが息づかいしか聞こえなかった沈黙 実を拾いあげる小さな棒と、クロームのびかびかしたカートをひかめた。ドクター きくらべながら、そびえたっ食品の森のあいだの通路を足早に行っを破った。 たりきたりしていると、心のなかで歌声がこだました 「それはわたしの曽祖父だ。その名に該当する先祖といったら彼で ・ハーストウの声がせ すよ。その店がまだ見えますか ? 」ドクター ″ふん、ふん きこんだ。 今が食べごろ あとが食べごろ 「ええ」わたしは電話の送話口に神経を集中して言った。「なかへ ありがたや ! ありがたや ! はいってその雑貨店のすみずみまで見たいと思っているんですけ ど、そこまではできそうにありませんわーーーまだ。わたしが知りた 数日後、わたしはサービスステーション・コーナーにある金魚鉢かったのは、お店がいつのものかってことなんですー ーストウのオフィス 少ししてから彼はたずねた。「歩道の上に店からポーチがはりだ みたいな電話ポックスの一つで、ドクター していますか ? 」 の電話が鳴る低い音に耳を傾けていた。ようやく秘書のミス・キー スがきびきびと応対して、そのあとまばたきもしないうちにドクタ わたしは電話のダイヤルを入念に眺めた。「ええ、皮をはいだマ ーストウが電話に出た。 ツのポーチの支柱が」ーーーわたしはロをなめたーーー「屋根を支えて 「今、ダウンタウンにいるんです」名前を名のってから、わたしは います」 ーストウ 4 せつかちに言った。「先生がお忙しいのはわかっていますわ、でも「それじゃそれは一八九七年以降のものだ」ドクター 先生のーーーご家族はどのくらい前からトウ 1 ソンにいらっしゃいまは言った。「それは一族お気に入りの″昔話〃の一つだったんです

10. SFマガジン 1983年12月号

ドクター ・・ ( ーストウがティシーを渡してくれた。それがぐしもしませんわ。ときたま奇妙なものがちらついたら、そのときは注 よぐしょになると、また一枚。そして三枚めはこのいまいましい遠意を払います。でも、それはみんな意識的にやっていることなんで すーー今までのところ。注意するということを、ですけれど」 近両用眼鏡を拭くために。 「眼鏡をはすすと、目に見えるものに違いが生じますか ? 」彼は訊「それから目をそらしているかぎりは注意を払っているというわけ ーストウはにやにやした。「実際問題として、あ だ」ドクタ 、え」わたしは鼻をすすりあげた。「かけたほうがよく見えるるものはまっすぐ見るより、周辺視力で見たほうがはっきり見える だけです」目の前の斑点に関するいジョークを思いだして、震えんですよ。しかしあなたのサポテンはどう説明したらいいのかな あ。錯覚のように思えるが , ーー」 声で笑った。 「ふーむ、ミセス・ジェシミン、あなたが見ているものの説明とな「あの : ・ : ・」わたしは手のなかでティシ = ーをよじった。「一つ考 ええー えていることがありますの。わたしたちの家ーーー新興住宅地にある るような異常は、目には認められませんな。どうもこの ー幻覚は、直視力のなかにではなく、周辺視力のなかにあるらしんですがーーのある場所が、割合最近までは一面の砂漠だったとい うことなんです。わたし , ーー・あのーーー思いましたの、もしかすると 「視界のはしつこのほうということですの ? 」 昔のその場所を見ているんしゃないかって。つまり、そこがまだ砂 「そうです。あなたはたまたま周辺視力が大変いいんですよ。はる漠だったころの姿をーわたしはほほえもうとしたが、ドクタ ーストウは気づかなかった。 かにすぐれています、大低のーーー」 「わたしぐらいの齢の人よりは、でしょ ! 」わたしは自嘲ぎみにあ「うーむ」彼はうわの空でまた資格免許状を見ていた。「だとすれ 。よトウーソン とをひきとった。「こんな厄介な眼鏡 ! 」 米アリゾナ州 ) では、あなたの見るほとんどどこでもサ 「しかし二焦点眼鏡は必ずしも老齢のきざしというわけではーーー」 ポテンが出現することになる。しかし、どのくらい前を見ているん 「わかってます、わかってますわ。ただもう若くはないってことでです ? このオフィスの建物は築後十五年ですよ」 すわね」 「わかーーーわかりませんわ」わたしはロごもった。「そこまでは考 それそれの頭はどこかよそで目まぐるしく働いていながら、自然えなかったんです」 ドクター とわたしたちの話はいつもの二焦点眼鏡談議に落着いた。 ーストウはわたしをじっと見ると、珍しくにつこり 「この事態が車を運転するとき、邪魔になりますか ? 」ドクター した。「ふむ、あなたにはどこも悪いところはないようですよ。も ・ハーストウがたすねた。 しわたしがあなたみたいなおもしろい体験をしていたら、黙って楽 しなでしような。ちょっとした研究に手をつけるか、でなくとも、 わたしはびつくりした。免許をとりあげられたらどうしようー え」わたしはせきこんで言った。「たいがいのときは気づき少なくともいくつかの統計の収集にかかりますよ。どのくらい昔を