の捧げ物として、今日でもまだたくさん見ることができる。シャト ル業にたちまち革命が起きた。これらの新しい機種は事実上、無音 で、ほとんど無限の操縦性がある。だから、人口密集地のごく近く で使用することができるのだ。 それで、町から遠く離れた、旧式の騒々しい宇宙港は不要にな り、廃止され、セントリー・ダウンのような、静かで、落ち着い た、安全な : : : そして、魂の脱けた : : : 何千もの小さな発着場に取 ク・ノースウエストも閉鎖さ って代わられたのである。。 ( シフィッ れたが、必ずしも完全に放棄されてしまったわけではない。なぜな ら、ヘザリントン・オーガニゼーションなどの大手の多くが、保有 していた液体燃料シャトル船を隠退させて、破壊されるのを防ぐた めに基幹保守要員だけを残して , ーーどういう訳かーーーそこに放置し たからである。 そして今ついに、これらの旧式船はすべて売却され、間もなく解 体屋のレーザーによってその命を断たれることになったのだ。 ノク・ノースウエストはフェリ ーのターミナルから二百 マイルほど山麓に入ったところにあった。行きに二時間、帰りに二 時間のドライ・フだ。私は時計をちらりと見た。そこまでドライプし ・ダウ て、一、二時間ぶらぶら見て歩いても、それからセントリー ンにいって、コ。フラへドラ第四惑星から届いた種付け用のスライズ を受け取り、最終のフェリーに乗って帰るだけの時間はある。 パシフィック・ノースウエストをもう一度見るのも悪くないだろ 2 マイクル・ U ・コーニイ 」、 ~ c ミ G. C ミミ マイクル・・コ ーニイは一九三二年生まれのイギリス作家。一 九七七年度のイギリス賞受賞作『プロントメク ! 』をはじめ、 『ハローサマー、グッド・ハイ』など数冊がすでにサンリオ文庫で邦 訳されていて、熱烈なファンも多い。三十すぎから小説を書き出し たが、創作はパ ートタイム。西インドでホテルのマネ 1 ジャーをや ったり、カナダの・フリティッシュ ・コロンビア州で森林局につとめ たりしながら、戸外スポーツをたのしむという、ちょっと型破りな 作家である。 この作品は、本誌の七九年十一月号〈海外未紹介作家コーナー〉 に掲載された『煌虫、ホーリーと愛』とおなじく、未来の地殼変動 挙・べ - 一ンスラ で浮上した陸地《半島》を舞台とした C ハラードの《ヴァー オン・サンズ》物を思わせる ) 連作短篇の一つで、 & 誌の七 ーニイの特色の一つである性格描写の 六年一月号に発表された。コ うまさが発揮された、甘くほろ苦い青春小説である。 ( 浅倉久志 ) れは当然だと思う。チャールズワースと、私の幼年時代と、 ック・ノースウエストは、私の記憶の中に永遠に固定されている 目に見えない三位一体として、どうやら結びついているらしい。チ ャールズワースとあのロケットたちと、そして彼のあの女の子 アンネットだ。チャールズワースの初恋の 名前は何だっけ ? 波のように起伏している麓の岡の間を、北に向かってドライ・フし人、そしてたぶん最後の恋人でもあったろう。 ていきながら、チャールズワースのことを私が考えたとしても、そ今チャールズワースはどうしているだろう、と私は思った。高校
いるチャールズワースが、猫もどきにぐいと引っ張られた。 に気にくわない女だ。十五歳の私にとって、クラシックな姿はどう 見ても魅力的とはいえなか 0 た。むしろ、ば 0 ちやりした頬、豊満「でも、もちろん、ウインストン・スミスが出会った誇張された問 題は、オーウエルの生きていた時代の恐怖から生じたものなのよ」 な唇、輝く目、大きい乳首の方が好ましかった。 たぶん彼女のいう通りだろう。しかし、だからどうだというのだ そして、大人になった今でも、私の好みは少しも変わっていな 。ということは、私は十五歳でもう十分に成熟していたというこ ? ロケットが深紅の尻尾を下にしておまえの真上に降りてくる夏 の午後に、だからどうだというのだ ? とになるのかもしれない。 「ああ、やつばりそうだ」チャールズワースは空を見上げて、つぶ チャールズワースは真面目くさった鼠みたいな顔を注意深くアン ネットのほうに向けて、学年の指定図書であるオーウエルの『一九ゃいた。 そして、高い、鋭い、美しいものが、襲いかかる鷹のように強い 八四年』について、さも夢中になっているような態度で喋っていた が、その一方で、貧弱な手首に細い筋を浮き出させて、気難しい猫鉤爪を下げて、大地を震わす強力な轟音を上げて、銀色にきらきら もどきを必死にコントロールしていたので、あまりさまにならなか光りながら降りてくるのが、今では煙と炎を透かしてはっきりと見 えた。 いつもの単純で素晴らしい空私はそれを愛情をもって見つめた。チャールズワースも見つめた。 そのわざとらしい情景も、ついに、 あんたに話しているのよ ! 」 からの轟音によって妨げられた。見上げると小さな雲が見えた。そ「ロージャー して、目の隅に、チャールズワースもそれを見つめているのが見彼女にはもっと話す事があるのは疑いなかった。しかし、今では え、一瞬、昔の時代が戻ってきたように思われた。あの年齢では、 轟音は強烈で、アンネットさえも顔をしかめて上を向いて、見つめ 人生はとても充実しているので、先月の出来事にも郷愁を感じるのていた。その銀色の巨人は次第に長さを増し、速度を緩めながら排 である。 気ビットに向かって降下してきた。そのカー・フした胴体がはっきり しかし、アンネットはまだ断固として喋っていた。 と見えてきた。斜めのマークがあり、その下に『へザリントン・オ ーガニゼーション』の文字があった。 チャールズワースは状況判断を誤り、鋭い目付きと、聴覚の状態 そして、その下に黒くはっきりと、四の数字。 についての詰問を受け取った。 耳をろうせんばかりの轟音の中に、チャールズワースの歓喜の叫 今や小さい黒い点が見え、この明るい夏の日中にもかかわらず、 び声が聞こえたので、私は振り返って彼を見た。彼の表情を言葉で 小さな火花さえも見ることができた。 アンネットはペちゃくちゃ喋り続け、チャールズワースは懸命に表現することはできないが、私はあれを決して忘れないだろう。あ の暑い七月の午後に、私は寒気を感じたと思う。黒いくつきりした 興味を掻き立てて、返事をした。 徴風が煙を彗星の尻尾のように空に吹き流した。引き綱を握って数字に、チャールズワースと同じ感情を持つ者はほかにいないだろ っこ 0
て、アンネットが初めて冷静さを失って、泣き叫んでいるのが聞こて、肉欲に身を焦がしながら、眠れぬ夜を過していたのだ。 えてきた。 もちろん、すべて無駄だった。彼は、猫もどきと一列に並んで彼 「ハギーラを逃がしたら、わたしパパとママに殺されちゃうわ ! 」女の後をついて歩くことと、あまりにも自尊心の強いその動物が示 それが彼女の心配らしかった。だが、チャールズワースは別の考さない、献身の情を示すことを許されただけでーー彼女から何の報 いも受けなかった。その夏、チャールズワースはみずから完全な馬 え方をした。「おい、サーガ ! 」彼は叫んだ。「やつはまだ遠くに 鹿になって過した。 いっているはずはない ! 」 彼は時々、照れ臭そうににやにや笑いながら見物所に姿を見せ 「だから、どうだってんだ ? 」私はぶつぶついった。 た。たぶん、そういう時は、アンネットが美容院に出掛けてしまっ 「おい」彼はアンネットを横目でちらりと見て、繰り返した。「思 い遣りの心を持てよ。一度ぐらい人助けをしても罰は当たらないそた日だろうと思う。彼は私の腕をぼんと叩いて「おい」と言い 私と同様にーー。何事もなかったように振舞おうとした。しかし、時 間が経つにつれてそわそわし出し、荒地の向うの街の方に目をやる 今、あの日の午後を振り返ると、あれがチャールズワースと私に とって一つの区切りになったことがわかる。私たちのどちらも、あのであった。アンネットがやってくればよいと期待しているのだ。 しかし、彼女はめったにそこにやってこなかった。至近距離の着陸 れから後は以前と同じ人間ではなくなったし、関係も同じではなく の轟音は、彼女の敏感な神経にはあまりにも強烈過ぎた。 なった。私たちは知恵を得て、童心を失ったのだ。チャールズワー こうして何週間か経つうちに、彼の態度はまた別の方向に変わっ スは恋の意味を知り、私は裏切りの意味を知った。それで、我々は 単純な喜びを失い、彼と私と宇宙船の関係はよりややこしいものにていった。最初は、少女を征服したと想像して、それを自慢してい たーー挑発的な夜の打明け話がそれだーーしかし、二週間ほど経っ なった。われわれは信頼を失ったと思う。 うちに、さすがの彼も征服者はアンネットの方だと気づいた。そし 、。 ( シフて、過ちを見つけられた子供のような、苦しそうな、おどおどした 次の週、輝かしい長い夏体みを前にした日々の放課後に 表情を浮かべるようになった。 ィック・ノースウエストの街に、チャールズワース、アンネット、 チャールズワースが落ちこんでいくのに反比例して、アンネット それに猫もどきの三人組の姿がよく見られるようになった。彼等が ・ラルージュは吸血鬼のように元気になっていった。学校が終わっ 一緒にいるのを見て大人たちは面白がり、センチメンタルな笑いを て、いよいよ夏休みに入ると、彼女はいっそう大人らしいスタイル 浮かべて、つつき合い、指さし合った。彼等はその姿が無邪気で、 可愛らしいと思ったのである。しかし、実際は、無邪気なのは大人のドレスを着ることを許され、それを最大限に利用した。 ( イ ルをはき、パッドの入った。フラジャーをつけ、あるかなきかのスカ 6 の方だった。そしてまたーーチャールズワースが告白したので 私は知っているのだが、彼は想像の中に揺れるアンネットの幻を見 ートをはき、宝石付きの首輪をはめた猫もどきを連れて、かっ歩し
ないか」 住民は彼等を馴らして狩猟に使う。しかし、地球では彼等はペット 私も彼と同意見だった。これは後の人生で、あらゆる男性クラ・フであり、実際のところは、話の種になる家具と同様の存在だった。 で出会った見解だった。これは決して個人的な好みや一般的な男性しばらくの間は、流行のステータス・シンポルだった。愛好者は品 優位論の反映ではない。ただ、あるタイ。フの人間は、その人が関心評会さえも組織し、その身体的特徴に重点を置いて、どれがチャン も興味も持っていない活動から排除されなければならない、という ビオンになるか予想したものだったーーしかし、最近ではそれもす だけのことだ。その排除される人間が異性だということは、単なるつかり廃れてしまった。多少の発明工夫の才能があれば、この地球 暗合に過ぎない。 上にすでに存在している生物から、もっとずっと面白いペットが作 私たちがその問題を話し合っていると、暗いトンネルの口から巨り出されるからであるーーー例えば、ちかごろ人気のある陸鮫な 大な黒い猫もどきが跳び出してきて、チャールズワースに跳び掛かどがそうだ。 った。私はさらに二段上に登った。そこまではこの身軽な獣も届か「・ ( ギーラ ! 」アンネット・ラルージ、はトンネルの階段の最後の よ、つこ 0 / 、力ノ 数段を登って、落ち着いて日向に歩み出た。そして、ペットが自分 「頼む、こいつが離れるように、呼んでくれ ! 」チャールズワースのそばに戻ってくると、何となくチャールズワースの存在を無視し は痩せた顔を恐怖で歪めて、叫んだ。猫もどきは彼の肩に前肢を掛た。彼女はトンネルの入口のそばの草の上に、片方に友達の兎のよ けて、まるで大事な話があるとでもいうように、真剣に彼の目を覗うな顔をしたリタを侍らせ、片方にまだ甘えている猫もどきを侍ら きこんでいた。 せて、注意深く腰を下ろした。彼女が何事かささやくと、リタはく 実際、猫もどきにはテレバシーがあるといわれていた。もっとすくす笑った。それから二人の少女は澄まして、視線を遠くに向 も、それは彼等の種族の間だけだということだった。その母星の原け、いちばん手前のロケットを眺めた。一方、チャールズワースと 私の間にぎごちない沈黙が続いた。 私は梯子を降りて彼のそばに立った。すると、仲間のそばに たことで、いくらか勇気が出た。後ろで冷たい声が聞こえた。 「役に立つ事をしなくてはならない時に、ずいぶん時間を無駄にす る人がいるのねえ、リタ」 リタの返事は聞き取れなかったが、それに続いて、くすくす笑う 声が聞こえた。 「子供つばいのね」アンネットが続けた。「宇宙船の番号を集め て、手帳に書きこむなんて。うちの弟もやってるわよ。八歳の坊や ランド・シャーク 5 9
た。私でさえも、彼女がとても奇麗だと認めないわけにはいかなかい奇妙な具合に腐っていくものだ。あらゆる変化は悪い方への変化 ったーーーしかし、チャールズワースの密かな告白を聞いて、決してらしい。もっとしばしばここにやってくるべきだった。そして、チ 0 羨ましいとは感じなかった。私は彼女の力を恐れ、彼女のチャール ャールズワースを訪ね、彼もここに連れてくるべきだった。そうす ズワースへの仕打ちを恐れ、自分が巻き込まれなかったことを喜んれば、二人の間で、物事をなだめすかして生き返らせることもでき ただろうに。 リタ・コギンズの兎のような顔がときたまカフェ ・パーで見受け私は振り返って、着陸場をまた見て、一番近くにある船で記憶を られた。きまって彼女は一人で、憂欝そうにコーラの底を見つめて試した。それは埃と風雪によってひどく錆びていたが、反重力船が いた。彼女は単なる取り巻きであって , ーーチャールズワースのようシャトルの魂を奪う以前の、液体燃料時代の快速船特有の経済的な な、アンネットの本物の性的被征服者、それも彼女の最初の獲物で流麗な面影を保っていた。レタリングは剥げて薄れていたが、まだ はないのでーーー取り残されてしまったのだ。 読み取ることができたし、船名の上のマークはすぐに見分けがつい 。、ンフィッ ク・ノースウエストはその夏、青春の感情の大渦巻きた。図案化した斜めの宇宙船と、それに平行した稲妻。その下の文 字は『へザリントン・オーガニゼーション』と読める。 さらに、その下に数字があり、かろうじて読み取れる。それは四 号だった。 そのトンネルは記憶よりも小さかったが、まだそこにあった。し 思い出が本当に蘇ったのは、この時だった。 かし、階段を降り始めた途端に立ち往生してしまった。階段の三段 目から、傾斜している天井にむかって、黒い水が満々と溜っていた 七月末のある日。目抜き通りで、めずらしく一人でいるチャール のだ。下の壁の落書がまだ残っているかどうか見たかったのだが、 見届けられなくて、かえって良かったかもしれない。再び外に出ズワースを見かけた。私は彼をちらりと見て、そのまま通り過ぎさ て、私は草の生えた盛り土を眺めた。そこは今は草ばうぼうになっせた。その頃、彼はまるで他人みたいで、宇宙空港にも何週間も姿 ていて、高いワイアフェンスは錆びて壊れ、ところどころ完全に無を見せていなかった。しかし、この時はなんとなく彼の様子が気に くなっていた。〈スタッグの塔〉はまだ残っていたが、その傾いなったので、私は振り向いて、小声で挨拶した。 た、針金のように細い梯子の桟を登ってみようという気にはならな「サーガ」彼は私の袖をつかんで、叫んだ。久し振りにかれの顔が っこ 0 ・カー 生き生きした。「おまえ、を聞いたか ? 」 私はその場所に漠然と不満を感じた。何となく思い出は残ってい 「彼女を妊娠させたな」これは最もありそうもない事だと承知の上 たが、生き生きと蘇らなかった。記憶は消減と生成の中に失われてで、私は皮肉にいった。 いた。風景というものは、たびたび再訪しないと、いわく いいがた彼はこれを無視した。「おまえ、今日の午後、見物所にくるか
巨大な銀の脚が接地し、たわんだ。炎と煙がナイフのように地面 う。私は彼が引き綱を放してしまったのに気づいた。それと同時に なぜなら、その時彼女は金に突き刺さり、ピットの底に当たり、跳ね返って、膨張するパンの アンネットがそれに気づいたらしい ように濃くもうもうと渦巻いた。音が小さくなり、遠くの方に噴水 切声を上げたから。 黒い獣は頭を後ろに傾け、降りてくる宇宙船にきっと視線を据えのように煙が立ち昇った。 私は思い切ってアンネットとチャールズワースを見た。 て、流れるような大きいストライドでコンクリートの上を走ってい 彼等が何を考えているかわからなかった。アンネットが何をいっ ているかわからなかった。な・せなら、それはあまりにも早ロで、痛 「止めて、ロージャー ! 彼を止めて ! 死んでしまうわ ! 」 そして、頭が空白にな 0 た瞬間、チャールズワースは言われるま烈で、しかも脅えた口調だ 0 たから。それに、私の耳はがーんとな って、ほとんど役に立たなかったから。 まに飛び出した。ロケットの尾部の恐ろしい噴射管がかれに悪意を 私は急いでトンネルに歩み寄り、階段を降りた。そして、暗い退 もって吠えかかった。やがて彼は立ち止まって、振り返り、目まい のするような目で、アンネットと私を見較べた。彼の背後では猫も避壕の中を通り抜け、丈の高い枯れ草が風にそよいでいるワイアフ エンスの外へ出た。そこは別世界だった。私は振り返らなかったけ どきがなおも走り続けていた。 いって ! なれど、アンネットとチャールズワースは私が去 0 たその場所に立ち アンネットの声が轟音を切り裂いた。「いって ! 尽して、二人とも生涯忘れることのできない情景を心に刻みつけて ・せ立ち止まるのよ ? 」 宇宙船はいかにも頭の真上に降りてくるように見えるが、実際いると、わかった。 この出来事の皮肉を私の心が理解したのは、町のメインストリー は、着陸地点は滑らかなコンクリートのずっと向うの遙か離れたと トに着いてからだった。チャールズワースの究極の勝利の瞬間は、 ころにある。この驚くべき距離は、トラックか乗船・ハスが宇宙船の 同程度に究極の、敗北に変わってしまったのだった。 そばに近寄っていくと、わかるのだ。 こうして、じゃれている猫ほどの大きさに縮んだ猫もどきは、な おも空を見上げながら、その心に、我々が聞くことのできないもの そして今、天色の空から粉雪が舞い落ち、遠い山脈は霞んでい 雌から雄への抗い難い呼び声、降りてくる船の中のテレバシー を貫いて健気に伸びているがさがさ る。腐食していくコンクリート を持った同類からの呼び声ーー・・を聞いて興奮して、なおも走り続けした雑草の茂みを、私は・ほんやりと足で蹴り、そろそろ帰ろうかと 思った。ここにきた目的は果たされた。そして、もうここには何の これらの宇宙船に私は最後の敬意を払ってしまった。さ 排気ビットの縁は、その獣の目にはまったく入らなかった。そい用もない。 つはなおも熱心に空を見上げて走っていくうちに、ついにピットにあ、荒廃と腐敗があまりにも深い印象を私の心に与えて、もっと楽し 7 い思い出を拭い去らないうちに、ここを立ち退かなければならない。 転落して、姿を消した。
惑星地球を訪れた船全部、一隻残らず、見てしまったことになるん だぜ。すごいなあ。俺はこの日を生涯待ち焦がれていたんだ ! 」彼 「おや、もう止めたと思ったぜ」 の若い顔が、私をじっと見つめた。彼はいままでになく痩せ細り、一 「まさか。とんでもない。忙しかっただけだ」 熱つ。ほく、にきびだらけになっていた。この世のアンネット・ラル 「無駄なことしてたんだろう」 1 ジュが一人の男の健康にどんな作用を及ぼすか、これでわかろう 「じつは彼女のおやじさんが教えてくれたんだ」彼は訳のわからな というものだ。 いことをいった。「・ハギーラに相手を持たせる潮時なんだってさ。 「チャールズワース」私は感情を顔に表わすまいと努力しながらい あの獣をずっと一匹でおくのは気の毒だっていうんだよ。しかし、 った。「じゃ、今後は生き甲斐がなくなるわけだな」 本当はな、サーガ、あの人は金もうけをしたいんだ。猫もどきは一 財産だ。殖やすつもりなんだよ」 彼は妙な目付きで私を見た。「おまえなんかにわかるものか。教 「じゃ、今日の午後、雌が届くんだな ? 」私にも関連がわかり始めえてやる、サーガ。宇宙船なんて、俺は大嫌いなんだぜ。あんな物 こ 0 を見て、ばかげた手帳にチェックして、無駄に過した時間が惜しい 「察しがいいそ、サーガ。血の巡りが速い。しかし、それ以外のこわ。あんなことは子供のやることだって、アンネットがいうが、ま ったくその通りだ。おまえがあそこで俺を見るのはこれが最後た とは知っちゃいめえ」 「なんだ、いったい ? 」彼の態度は私を苛々させた。久し振りに彼ぜ。これだけ見て、終わりにするんだ : : : 」 と話してみて、突然、彼の話し方がいつも私を苛々させていたこと彼は突然、声をひそめて、ささやいた。私の背筋を不健康な痺れ 月冫いた。たぶん今なら理解で に気づいた。チャールズワースにはどこか不安定なところがあつが走った。私は理解できないものの蔔こ た。そもそも、正気の男たったら、宇宙船よりもアンネット・ラルきるだろうが、十五歳という年齢では、人がシャトル・シップのよ うに大きく、力強く、男性的なものを、どうして愛し尊敬せずにい ジュのほうが好きになる、なんてことはないはずだ。 られるのか、理解できなかった。チャールズワースがなぜ、こんな 「その猫もどきは第四号でやってくるんだ ! 着陸予定表を見てい たら、彼女は〈ザリントンのエンデヴァー号でやってくることがわに遠回しなやり方で物事に打ち勝とうとするのか、かれはリストの かった。そして、地球への飛び降りには、快速艇第四号を使うんだ完成を勝利と考えているようだが、それはなぜなのか、私には理解 できなかった。 すごいだろう ! 」彼は私も同じように喜ぶのを待った。 「それは、おまえの見たがっていた船たったな ? おまえのリスト「見物所で会おうぜ」私は不満ながら、いった。あんなに幼い頃だ ったが、チャールズワースは私の生活の一部になっており、あんな に残っている最後の一つだろ ? 」 かれの目は昔の情熱をたたえた。「リストの最後のやつだよ、サに欠点だらけの奴でも、彼がいなければ宇宙空港は同じでなくなる 9 だろうと思った。このようにして、他にも大勢の少年が興味を失っ 1 ガ。第四号を見たら、全部見たことになるんた。一つ残らずだ。
た。さらに進んでいくと、他の船から少し離れて、ヴァルカン号のを取ると宇宙船を卒業するのかもしれない、信じられないことだ 細長い姿が立っていた。私は見上げて、その噴射管の強力な神秘のが、宇宙船の離陸の光景を見ても心を動かされなくなる日がやって 中を覗きこみ、さらに進んでいって、もう一度振り返って、私の子くるのかもしれない、と考えたことを覚えている。もしそうだとす 供心を興奮させて止まなかったその滑らかな古典的な姿を鑑賞しると、趣味はほどほどにして、仕事に精を出し、立身出世をし、女 たちと交わり、退屈のあらゆる鈍重な色合いを帯びた成人の列に、 疑いもなく、当時、私たちは青春の衝動を昇華していたのだっ彼も本当に加わ「てしま「たのだろうと、私は結論したのであっ た。しかし、無知のために、自分たちは宇宙船を見物していると思 とすると、あの六月の午後に、私の心を女という観念が横切った っていたのである。 といえるかもしれない。 第四号が着陸した時に感じるであろう歓喜の絶頂について、徴に しかし、私たちの衝動はかならずしも完全に昇華されたわけでは なかった。六月のある日、チャ 1 ルズワースと私だけが、いわゆる入り細を穿って予想しているチャールズワースの熱心な声が単調に 見物所にいたことがあった。星間貿易船クルーセイダー号からのフ続いていた。私は〈スタッグの塔〉の梯子の五段目に立って、星間 = リーが、猛烈な炎と轟音と、そして排気のなんともいえない甘い貿易船クルーセイダー二号の完璧な輪郭を眺めていた。ところが、 悪臭とともに、たった今着陸したところだった。チャールズワースワイアフ = ンスの外の疎らな草地の方にふと目を転じると、忌々し いことに、跳ねまわる黒い大きい動物を一匹連れた二人の少女がこ はそのフェリーを無視した。それはもう以前に何度も見た船だっ た。彼はヘザリントンの快速艇第四号のことを私に話していた。そちらにやってくるのが見えた。それだけ離れていても、九学年の女 れはギャラクティック社の所有船で、まだかれの小さな本に印しが王アンネット・ラルージ = と、そのお付きのリタ・コギンズだとわ ついていない唯一の船だった。その船は一度も見ていないので、私かった。彼等は私を見つけると、くさむらの間を縫って、ワイヤフ エンスの下のトンネルの方に向かってきた。 は特に興味を覚えなかった。しかし、チャールズワースはヘザリン 「ラルージュがくるそ」私はチャールズワースをさえぎった。「う トンの第四号の着陸する日がくるのを、一日千秋の思いで待ってい さぎもだ」 そこにいるのは私たちだけだった。そして、私は宇宙船を見て呼「何しに ? 」 吸するだけで楽しかった。しかし、チャールズワースは不満だつ「俺にわかるわけないじゃないか ? 」 た。おそらく、彼の情熱が引き入れようとしている袋小路のこと「まずいな。隠れよう、サーガ」 を、彼も薄々感づき始めていたのだろうと思う いや、彼もある「俺、見られちゃったそ」 年齢に達したということなのかもしれない。その日、私は、人は年「ちくしよう。ここは女のくる所じゃない。まずいよ : : : 邪魔じゃ こ 0 こ 0 こ 0 7 9
の宇宙船に対する態度は基本的な点で異なっていた。 うんざりしたように顔をしかめて、びしやりと本を閉じ、不機嫌に 「おい、サーガ」ある日、〈アツ。フ・アンド・ダウン・アンダー〉石を蹴るか、または大きな音を立ててゲップをするのであった。チ という奇妙な名前の管理会社の第十一号シャトルであるレヴァイアヤールズワースの情熱は袋小路の情熱たった。本の中のチェック・ マークが海草のように増えていくにつれて、彼の喜ぶ瞬間が少なく サン号の着地の猛烈な轟音に尻込みしながら、彼はいった。「いっ たい何処がそんなに良いんだい ? あんな風呂桶みたいなやつを、なっていった。そして私は彼の肩越しに覗いて見て、あと二三か月 以内に彼はその趣味を棄てるか、または自殺するだろうと、見積る おまえ、まるで初めて見るように眺めているそ」 ことができた。 「今日、オールド・レッグが降りるのを見るのは、これが初めてだ 地下の退避壕の周囲には、それ自体の歴史が自然に形成されてい ぞ」私は用心していった。定期船には、私たちは勝手なあだ名をつ った。週末にそこに集まるマニアはチャールズワースと私だけでは けていた。十一号の着地を眺めるのも、宇宙の最果ての居留地から やってきた快速艇の着地を眺めるのも、同じように面白いというこなかった。そして、しばらくすると、懐かしそうに昔語りをするこ とができるようになった。去年の七月のファースト・ステッ。フのヴ とを、チャールズワースにどう説明してよいかわからなかった。 イカ一長ーリ・ . 1 ・ 号の危なっかしい着陸の話とか、この習慣に見切りをつ これが私たちの相違だった。 けて仲間から脱けていったスタッグの武勇談とか、私たちは思い出 チャールズワースは収集家だった。彼は小さな本ーーそれをまる 話を懐かしそうに話し合った。 で、自分で発行したように考えていたーーを肌身離さず持ち歩いて スタッグの台頭の期間は短かかったが、思い出に残るものがあっ いた。それには地球上のどこかの宇宙空港に着陸する可能性のあ る、ありとあらゆる船がリストになっていた。それは大手の運航会たーー・彼は・ほくらに〈スタッグの塔〉を遺贈した。これは退避壕の 社のすべてと、そして、小さい運航会社の大部分が協力して編集しそばの鉄の構造物で、関係のない人には、ただの不粋な貯水塔に見 えるかもしれないが、私たちにとっては〈スタッグの塔〉なのであ たもので、関係者だけの内部資料だった。しかし、チャールズワー ったし、また今後もずっとそう呼ばれることだろう。 スはその海賊版を手に入れて、船を見る度にそれを参照するのだっ 上のタンクに通じてい た。そして、その船がいままでに一度も見たことがないものだと、 鉄の梯子が塔の基部から約四十フィート た。午後遅くなって、めずらしい宇宙船が少なくなり始めると、ぼ 彼は緑色のインキでていねいに印しをつけて、天にも昇らんばかり に喜ぶのであった。私はそういう彼を眺めるのが面白かった。かれくらは先を争ってその鉄の梯子に駆け上がったものだ。そして、だ は発進していく船のジェット噴射をーーー私と同様にーーうっとりとれが一番上から跳び降りることができるか競争したものだった。た 眺めはするが、それが何の船か分かるやいなや、関心は本のページしかその最高記録は、チタニウムの神経を持ったチャールズワース の方に移ってしまうのであった。そして、いつも、鼠のような顔をのもので、十五フィート台だったと思う。だれも、それ以上の高さ 緊張させて、リストを穴の明くほど見つめ、それから、たいてい、 から跳び降りるどころか、そこまで登ろうとさえ思わなかった。そ
ら俺が悲鳴を上げて先生のところに泣きついたならーーーその場合るのもかまわずに、眺めていた。猫もどきは彼女の手を無理やり振 に、俺は臆病者ということになるんだ」 り払って、尻尾を巻いて陰部を隠すようにしながら、トンネルに逃 8 「自分のしたことに言訳をする人が、必ずいるのよ」彼女はリタにげこんだ。脈打っ排気が超音波で堅いコンクリートを叩き、今や大 った。リタは小賢しくうなずいた。驚いたことに、そして、腹立地が震えていた。 たしいことに、チャールズワースが面白そうにくすくす笑う声が聞巨大な脚がしぶしぶ我々の方に伸びてきて、排気。ヒットの丸い空 こえた。まるで、女どもの言葉が図星だとでもいうように。 間をまたごうとした。そして、私はいつものように、オービター 号が脚を置き損ねた時のことを思い出した。あの時、あの船は二本 私の一人相撲は、降りてきた宇宙船の遠い轟音に遮られた。まだ の上にしつかりと置いたのに、もう一本の脚を 目に見えない宇宙船が、自分自身の排気の中を降下してくるにつれの脚をコンクリート ふらさげてしま て、小さな白雲が生じ、それが漂うのを私は見つめた。私は今でもビットの上の空間にぎごちなく、しかも神経質に、・ ったのだった。そして、私はエンジンの加速の音を聞いて、ジャイ なお、あれらの着地の時のスリルをなまなましく思い出すことがで きる。推測の思索的な喜びの伴った、ガを見る活動的な喜び。あれロスコー。フの狂ったような唸りを想像した。・ ( イロットは失敗に気 は何処からやってきたのだろう ? あれは何の船で、どの会社のもづき、必死にパランスをとり、そしてもう一度やり直すために、苦 のだろう ? そして、チャールズワースの場合には、あれを前に見労して上昇しーー私たち若い食屍鬼のがっかりしたことに、今度は 成功したのだった・ : : これらの出来事が幼年時代の記憶の土台のゾ たことがあったろうか ? という疑問が続く。 ロックになっている。 噴出する炎が、真直ぐに・ほくらに向かって損みかかってくるよう しかし、今のこの場合の接地は、そのような興奮はまったく与え に思われた。そして、轟音と飛び散る砂粒が地獄のようにあたりに てくれなかった。チャールズワースは、それが古いレヴァイアサン 渦巻いた。それは三本脚の、投げ矢型の、大きな船だった。という ことはかなり古い船だということである。噴炎がだんだん近づいて号だとわかり、その排気がじかにビットに吹き込まれ、。ヒットと発 くるにつれて、これはたぶん局地シャトルの一隻だろうと思った。着場のはずれの通風孔とをつなぐ排気トンネルの消音装置に導かれ それからちらりとアンネットを見て、私の心は不浄な喜びに高鳴って轟音が消え、遠くに煙たけが立ち昇るようになると、たちまち興 た。彼女は我々の上に真直ぐ降りてくるマシンを目のあたりにし味を失った。 て、恐怖で目を見開き、ロをあけて声にならない悲鳴を上げていた 少年の日の私は、それらの排気トンネルの中から抜け出せなくな のだ。そして、猫もどきにしがみついていた。猫もどきは耳を後ろって、接近してくる宇宙船の轟音を聞くという悪夢を繰り返し見た ものだった : ・ に伏せ、上唇を巻き上げて恐怖の唸り声を立てていた。 レヴァイアサン号は脚の上でぐらぐら揺れ、やがて静止した。チ チャールズワースと私はゴーグルを掛けて、吹き飛ばされた砂 塵、小石、紙屑が頭の上で渦巻き、女の子たちがスカートを押さえ ャールズワ 1 スと私はゴーグルをはずした。聴力が回復するにつれ