払われる。だが、万一、それまでにケアニー氏が不慮の死をとげた こへちょっぴり血をふりかけた。 「そのます目には用心してちょうだいよ、クリス」・フライディーが場合は、その金はマルドウ 1 ン夫妻に返却される。 ハニー」・フライディーはいった。「条項を読 「ただの形式なのよ、 注意した。「そこはーーーエヘンーーーちょっとガタついてるから」 クリスはそのあと、第三の袋に残った血を、これから勝負をするみたくなければ、読まなくってもいいの。あなたはサインすればい いだけ」 チェカ 1 盤の上にふりまいた。 「あ、ごめんよ、マイダス」と彼は言いわけした。「さっきの義兄「わかった、わかった」クリスは笑いながら、補足書にサインし た。「すべて公明にして正大だ」 弟の血が腕から流れてきちゃって」 「なんて奇妙だろう、おまえがそんな文句を使うとは」マイダスが 「気にすんな、気にすんな」マイダス・マルドウーンはごきげんだ いった。「もちろん、おまえは知るまいが、それはいまおまえが仮 った。「それでこの儀式にいっそう拘東カができるってもんさ」 ットーなん の持ち主になったこのケアーノグ・フィッチオル城のモ 二人はゲームをはじめ、クリスが勝った。つぎも、そのつぎも、 だぜ」 クリスは勝ちつづけた。したいに賭け高は上がり、クリスは勝ちす 「プライディ ー、結婚してからすこし痩せたんしゃない ? 」クリス すんた。なおもゲームはつづき、ついにクリスはケア 1 ーノグ・フィ はたずねた。 ッチオル城をマイダス・マルドウーンからかちとったたけでなく、 城にともなう限嗣相続物件の二百万アイルランド・ポンドと、″不「どういたしまして。結婚してから二ストーンもふえたのよ。とい 減の義兄弟の血盟に結ばれた、もう一つのもっと親密な限嗣相続物うことは十二キロ。潜在意識であなたにサービスしたんじゃないか 件″をもかちとった。その夜のマイダスの損失のすべては、城とそしら。ほら、よくあなたがいってたしゃない。わたしのことを完璧 の付随財産の中に含められた。 だけど、もうすこしふつくらしてたらもっと完璧だって。そこでい ・フライ一アイ ・マルドウーンは、必要な書類一式をちゃんと用意まはこのありさま」 してあった。クリスは城の権利証書と二百万ポンドの譲渡証書を受 「だけど、なんたか痩せて見えるよ、プライディー」クリスはいっ けとった。それとひきかえに、彼は権利証書と譲渡証書のそれそれこ。 にくつついている相続補足書にサインした。権利証書についた補足 まろやかさの白昼夢。というよりは、たいまつの明りの中の目覚 条項によると、あと二年と一日が経過しなければ、クリスは城の所めた夜の夢。豊満さのもっ美。なぜクリスはそんなことを考えるの ・こつ、つ , 刀 ? ・ 有者になれない。万一、それまでに彼が不慮の死をとげた場合は、 城の所有権はふたたびマルドウ 1 ーン夫妻に還元される。二百万ポン真夜中に、正門の扉にとりつけられたトランペットが、だれかの ドの譲渡証書についた補足条項によると、その金は二年と一日のあテーマ曲のように、世にも陽気な調子で吹き鳴らされた。 いたコークの法律事務所に保管されたのち、クリス・ケアニーに支「友だちが迎えにきてくれたんたよ」クリスはいった。「今晩はコ
をあんたがちゃんと払いおわってるのに」・フライディーはそうしゃ だ。絶対になにも」 「前から大好きだったのよ、臨時の経費をその場でポ 「おい、よせよ、クリス」いとこのコリンは低い声でいった。彼はべっていた。 「いまさら万事をだいなしにしないでくれ。 ンと払っちゃうあなたの癖が。それに、航空券とホテルの予約も 完全にしらふだった。 そうさ、おれはあの男をベテンにかけて、義兄弟にしちまったが、 ( 先払いしといてくれてありがとう ) そっくりそのまま、マイダス やつのほうじゃ、おれをうまくべテンにかけたと思ってる。おれはとわたしのハネムーンに使えるわ」 やつをベテンにかけて、城の所有権と、城の限嗣相続物件の一つで 「きみとマイダス・マルドウーン ? 」クリスはききかえした。 ある二百万アイルランド・ポンドを受け取る羽目にさせた。だが、 「ええ、もちろんよ」。フライディーはべらべらしゃべった。「マイ やつはぜんぜん疑ってもいないんだぜ、クリス。ああ、こんなみごダスは、義兄弟のコリンから、お城と二百万アイルランド・ポンド とな芝居を打てた自分に、おれはつくづく惚れなおしたよ。人の裏をかちとったの ( 米ドルに換算すると、五百万ドルよ、お城はおま をかくのが、おれのなによりの楽しみでね」 けで ) 。だから、わたしがけさ結婚するのは、もちろん、あなたじ とこがマイダス・マルドウーンの裏をかいた ゃなくマイダス。考えてみると、これは一種の因果応報ね。きよう 「いったいぜんたい、・ コリン ? これはおそろしいまちがいとしか思えな というんだい、 は、もともとわたしがマイダスと結婚する予定の日だった。あなた いが」 と結婚することになる前はね。そしていま、わたしはまた彼と結婚 「おれはあんたが大好きだよ、クリス、こんな計略がわからないふすることになったわけ。すてきじゃない ? 物事は、いつもわたし りしてくれるところが」コリンは得意げにゲラゲラ笑った。 にとてもぐあいよく運んでくれるみたい ! 」 どうか成功に水をささないでくれ」 や、すてきだ、すばらしい こうして、このそれほど謎ではない取引もつつがなく完了した。 マイダス・マルドウーンとプライディー・ケイスリーンは、その朝 こうして、謎の取引はつつがなく完了した。 ・ケアニーは、一種うつ 結婚式を挙げた。そして、クリストファー ・フライディー・ケイスリーンは、あくる朝とても早くにクリスのろな気持でとり残された。 家へやってきて、彼をたたきおこした。クリスは、前の晩にしこた ま飲んだインペリアル・アイリッシュ・プランデー ( いとこのコリ ・フライディー・ケイスリーンが、アイルランドのケアーノグ・フ ンからの贈り物 ) で、まだごきげんな酔いが残っていたが、なにか ィッチオル城からクリス・ケアニーに電話してきたのは、それから 悪いニュースだということはわかった。しかし、ほんのつかのま、 ちょうど一年後のことだった。 ブライディーのおしゃべりの意味が、。ヒンとこなかった。 クリス。早ければ早いほどい、 「・せひ遊びにきてちょうだい、 「マイダスとわたしが、わざわざ新しく費用を払うことはないのよここの生活があんまり幸せなもんだから、その幸福をだれかと分か ね、クリス。もうすでに豪華な結婚式が準備してあって、その費用ちあいたいの。あなたはわたしたち二人の最大の親友たから、これ
イディーは美しいが、美しさがすべてではない。 ークで泊る。ひょっとしたら、明日また遊びにくるかもしれない この世の中には、豊満さというものもある。真夜中に、弁護士の 2 「そりやすてきだ ! 」マイダスはさけんだ。「おまえとまた会えアシスタントといっしょの車に乗り、彼女から豊満なキスを受けた とき、クリスはそうさとった。この世の中には大らかさと、それに て、ほんとにすてきだったよ、クリス」 クリスが帰っていったあと、マイダスはいっそう大声でさけん陽気さというものもある。そういえば、アイルランドなまりの笑い 声というものもある。 そう、・フライディ 1 は入しいが、シャロンは ( シャロン・マック 「すてきだ、すばらしい ! 義兄弟の儀式と限嗣相続の儀式をつう じて、おれはクリスのやつにおそましい死病を乗り移らせた。これソーリーというのが、弁護士のアシスタントの名前だった ) ・フライ でおれは病気から逃れ、やつは二年のうちにその病気で死ぬ。そしディーを二つ合わせても、まだお釣りがくる。それに、よいものは て、城も、金も、おれたちにもどってくる。万々歳だ、手ちがいの いくらあっても多すぎはしない。 起きるはすがない」 真夜中すぎの夜食で、串からはすしたあつあつの雄鶏と、スパニ 「手ちがいの起きるはすがないわ、すくなくともわたしにとってッシ・シェリーを前に、二人は夫婦の約東を交わした。 は」プライディーは心の中でひとりごとをさけんだ。 「たとえ、あ「二年と一日が経って、二人であのお城へ引っ越したときには、た の計略がうまく運ばなくても、わたしにとってはうまく運んでくれった一つだけ模様替えするつもりよ」堂々たる体格のシャロンはい る。たとえあの病気がどういうわけかクリスに乗り移らなくても、 った。「チェッカーポード大広間の床にあるあのぶっそうなます目 たとえマイダスがクリスの代わりに死んでも、わたしはいつでもクを修理して、これからだれにもあの出口は使わせないようにする リスと結婚できる。彼は永遠にわたしを愛しているし、ほかのだれの。もう、海の怪物にも話をつけたわ。彼は七年ごとに死体を一つ にもわたしの代わりはっとまらないわ。ひょっとしたら、この計略くれれば充分だっていうんだけど、これからはもうなんにもなし、 がうまく運ばないほうが、わたしには好都合かもしれない。そした といってやったの。そしたら、ケリー郡のディングル湾を見おろす ら、マイダスとクリスの全財産がわたしのものになるんだから。すお城と、新しく契約してみようかなって。海の噂によると、あのお てきしゃない ? 物事はいつもわたしにとてもぐあいよく連んでく城からはよく死体が落っこちてくるらしいから。 れるみたい ! 」 お城の幽霊たちには、あたしたちが引越してきても、そのまま残 っていいといってあるわ。むこうはこの取りきめに大足。お城に しかし、だれにも彼女の代わりはっとまらないという、ブライデ豊満な女主人が住むときは、かならす陽気でたのしい時代がくるん ーの考えはまちがっていた。もし、それがだれであるかを知ったですって」 ら、きっと・フライディーはカンカンに怒ることたろう。そう、・フラ
な方法でインサイダーになりきることによって、彼はそれをなしと だれもが若く、そして季節は春だった。 げたのだった。 若いマイダス・マルドウーンは複雑な性格だといわれていたが、 これはちがう。彼は悪党としては実に一本気な男だった。彼は権力 クリスはスポ】ツマンではなかった。人をひきつける磁力もなか がほしく、地位がほしく、巨万の富がほしかった。彼は羨望の的にった ( 彼にいわせると、磁力のあるのは卑金属だけなのだ ) 。そし て、チェッカーのチャンビオンでもなかった。彼の得意なのはチェ なりたかった。人から憎まれると同時に敬われたかった。人を這い つくばらせたかった。人を恐怖におののかせたかった。たしかに、 スだった。喧嘩も、賭け事も好きではなかった。彼がたくさんの賭 どれもが単純明快な目的である。そしてマイダスには、それらを隠けに勝ったのは事実で、その中には大きな賭けもあり、マイダス・ そうという了見はこれつ。ほっちもなかった。 マルドウーンとの賭けもあった。しかし、いつの場合も、クリスは マイダスはいつもばくちを打った マイダスという奇妙な名は、父親のクロイソス・マルドウーンが ばくちを打ったわけではない。 つけたものである。この父親は取込み詐欺師で、おれはいまに大きが、クリスは確実な内部情報に乗っかっていた。マイダス・マルド オ冫かにつけてライ・ハルナ な石の城に住み、そこで死ぬんだと、つねに豪語していた。父親ゥーンとクリストファー・ケアニーは、よこ は、その言葉どおり、オクラホマ . 州マックアレスターの郊外にあった。 二人がライ・ハルになっている事柄の一つに、。フライディー・ケイ る、一種の大きな石の城の中で死んだ。マイダスは父親似で、賭け 事が好きだった。それに喧嘩も好きだった。スポーツマンで、人をスリーンがあった。・フライディーは、とても美しくて、よこしま びきつける磁力があり、チェッカーのゲームのチャン。ヒオンだつで、頭の切れる娘だった。そして、この勝負に関するかぎり、マイ ダス・マルドウーンはライバルをつねに大差でリードしているよう に見えた。 マイダスに比べると、その無二の親友のクリストファー・ケアニ 1 は、複雑で内向的な性格だった。彼はたびたび立ちどまって物事二十二歳になったとき、クリス・ケアニーは、彼の会計士のライ を考えたが、現代ではそんなことをしていると、生きた餌食にされナス・ケイスリーンから、自分がいましがた百万長者になったこと てしまう。しかし、生きた餌食にされても、クリスは決してこたえを知らされた。 ないほうだった。それは彼にとって、ある状況、もしくはある会社「このいい知らせを受けとるのに、きみほどふさわしい男はいな の内部へはいりこむ一つの方法なのだ。彼は発明家で、。フロモータい」ライナスはいった。「また、いま・フライディーから聞かされた ーで、投資家だった。富に対してはわずかばかりの欲望しかなかつもう一つのいい知らせを受けとるのに、きみほどふさわしい男はい たが、その若さですでに着々と財産を築きはじめていた。いろいろない。わたしは大喜びできみをうちの家族に迎えるよ」 この知らせにクリスはいささかめんくらったが、さすがに二十一一 8 * マイダス ( ミダス ) もクロイソスも、大金持の別称。 * * オクラホマ刑務所のこと。 歳で百万長者になるだけあって、そんなにいつまでもめんくらって こ 0
は当然の選択ってわけ。きようの何時かにそっちを発てば、あした惜しまない、元気いつばいのはりぎり娘たった。 「いまのあんたはアイルランドにいるってこと、忘れないように の何時かにはこっちに着くわ」 「旅行代理店が喜んで使いそうな文句たな。こんどはどういう魂胆ね」アイルランドなまりで笑う、陽気でコロコロ太ったアシスタン トよ、つこ。 ″ドレイオクトんでムンムン 「なにしろこの土地は、 なんだい、千の魂胆のお姐ちゃん ? 」 「どんな魂胆もないわ、クリス。・フライディーは生まれ変わったのしてんだから」 「うん、 ドレイオクトかーーー魔法、とりわけ人びとの声のことだ よ。わたしは親切で、優しくて、非利己的で、愛他的で、もう一つ の言葉はなんだったかな、忘れた。とにかく、あなたの賭博本能はね」クリスはうなずいた。 どこへいったの ? だまされたと思って、遊びにきてごらんなさ「その上、あんたのいるのはコーク郡たし。ここではね、お城と岩 ″ドレイオクト・ドルカ″である 山にはとくにいえることだけど、 「ぼくは決してばくちは打たないんだ、・ フライディー。確実なこと可能性が強いのよね」 にだけ賭ける」 「うん、わかる。黒魔術、つまり、有害な魔術のことか。で、その 「わたしたちがあなたに会いたいのは、確実なことよ、クリス。・せ黒魔術、つまり、有害な魔術を封じるのに、きみはなにがいいとど ひきてちょうだい」 う、アシスタント君 ? 」 クリスはその日の何時かに発ち、彼の乗った旅客機は、翌日の何「にわとりの血。あんたがここを出ていく前に、裏庭の雄鶏から、 時かにアイルランドの上空へさしかかった。上空から、彼はほとんすこし絞ってきたげる。それともひとつ、ご参考までに。例の死病 ど白に近いほど淡い色の亜麻畑と、ほとんど黒に近いほど濃い色のを、ここじゃ″おぞましい病い″と呼んでるんたけど、あれはお城 ホッ。フ畑をながめた。城が目に入るのといっしょに ( すでに旅客機といっしょに、新しいお城の持ち主へ限嗣相続されていくのよね。 ほかの限嗣相続物件とおんなじこと。相続の儀式がとどこおりなく は降下をはじめていた ) なにかが彼の心の琴線を、フラットぎみに 調律されたハ 1 。フのようにかき鳴らした。ひょっとすると、その奇すんだら、新しい持ち主が死病に罹って、以前の持ち主はケロリと 妙にフラットな感情を呼びおこしたものは、城の真下の荒磯に積み治るわけ。新しい持ち主は、二年のうちにその病気でおっ死ぬの。 重なった白いものの山だったかもしれない。そして、城から三十キほんとにそれが起こることが、医学的にも確認されたんですって ロたらすの先で、彼はコーク国際空港に降り立った。 クリスは、まずコークの弁護士の事務所を訪れた。むこうはいと「このぼくも、医学の大の礼賛者なんだよ。そのおそましい病いの とこのコリ そういえば、い このコリンの弁護士だが、い。 まよクリス・ケアニーの弁護士でもあ限嗣相続を防ぐ特効薬はあるのかいフ ンは、最近どうしてるんだろう ? 」 ったーーー・すくなくとも、アイルランドでの事業に関するかぎりは。 あいにく弁護士は留守だったが、アシスタ . ントはニ、ースと助言を「にわとりの血が、ほかのいろんなものに対してもそうだけど、こ
はいなかった。だから、父親のライナス・ケイスリーンがクリスの 小さなオフィスから出ていってきっかり一分後に、・フライディーが 入ってきたときには、クリスは彼女を見つめて、たったひとこと、 こうたすねたものである。「いっ ? 」 ・ < ・ラフアティ 「あなたには、二つわたしの好きなところがあるわ、ハニー」ゾラ イ一アイーよ、つこ。 ーしナ「一つは、なんでもさとりが早いこと。もう一 つは、いまさっき百万長者になったこと。わたしはあなたの会計監 今年で七〇歳を迎えるラフアティたが、カクシャクたるもので、 査で、父の手伝いをしてたから知ってるの。そうね、いまからひと 昨年九月には新作長篇『オーレリア』を発表した。金色人の世界か 月さき、六月の一日に結婚しましよう。マイダス・マルドウーンが ら手製の宇宙船で飛び立った少女オーレリアが、ほう・ほうの未開惑 これを知ったら、もちろんあなたを痛めつけるわよ。あなたを殺す 星を訪れる。それらの世界でしばらく支配者になるのが学校の宿題 かもしれない。だって、その日は彼がわたしと結婚するはずの日 で、彼女は故郷の世界では劣等生だが、よそへ行けば超能力をもっ で、彼はまだそう思いこんでるんですものね」 大天才なのだ。やがて彼女は地球にたどりつき、メシアと崇められ る : : : という筋。マルクス兄弟が改訳した新約聖書を思わせゑと 「マイダスは、・ほくを痛めつけも殺しもしないが、そうあっさりき 評されている。 みをあきらめもしないだろうよ。彼はこのレースを投げずに、最後 ここに紹介するのは、そのラフアティがひさしぶりに & 誌 のゴールまでくつついてくる。しかも 、パックストレッチでは、な ( 八一一年一〇月のオールスター特集号 ) に寄せた新作短篇。アイル にか奥の手を出すだろう。しかし、彼がこれからの一カ月で百万ド ランドの古城を舞台にした ( ラフアティはアイルランド系アメリカ ルを手に入れるのはむりだ。きみをつかまえる餌として、百万ドル 人 ) 童話調の、そしてやはりホラ吹き爺さんの名に恥じない、奇妙 以上のものがあるとは、ぼくには思えない」 で楽しいファンタジイである。 ( 訳者 ) 「わたしにも」とプライディー・ケイスリーンはいっこ。 ・フライディー自身も磁力に満ちみちていた。そのための卑金属、 なく魅惑的な娘だった。彼女はマイダス・マルドウ】ンのように単 鉄とはがねは、彼女の中にたつぶりあった。彼女はアマルガムの心純明快な目的をもち、そして物事の内側に入りこむ点では、すくな 臓も持っていた。その一割は純金、もう一割は水銀、あとの八割は くともクリス・ケアニーに匹敵する才能があった。彼女は陽気で、 真鍮なのた。 あらゆることに興味をもっていた。これまでにクリスがマイダスを ・フライディーは、州立北部中央農工大学でビュ】ティ ー・コンテうらやましく思ったのは、ただ一つ、彼女に関してだけなのだ。い ストの女王に選ばれたぐらいで ( もし、 1 ヴァードに入学して いま、彼女と結婚できると知って、クリスはごきげんだった。 たら、彼女はやはりそこでも女王に選ばれていただろう ) とほうも
0 0 があるのだった。二人の腕前は伯仲していた が、目の肥えた人間が見たら、両者ともちょっ びり手加減していることに気づいたろう。 やがて、結婚式前夜のクリスの独身お別れパ ーティ 1 で、マイダスとコリンはいっしょに痛 飲した。どちらもぐでんぐでんだったが、やは り、もし目の肥えた人間が見たら、両者ともい くらか手加減していることに気づいたろう。二 人は腕をナイフで切っておたがいの血を混・せ、 永遠の義兄弟の契りを結んだ。そんな種類のお 祭り騒ぎだった。そのあと、どちらも盤面を見 ることさえおぼっかないようすなのに、二人は とほうもない金を賭けて、チェッカーの勝負を はじめた。いナし っこ、本気なのかどうかさえ疑わ れるほどの、賭け金の大きさだった。 とうとう、大失敗がたどるべき道をたどりお わったとき、マイダス・マルドウーンはコリン から二百万アイルランド・ポンドのほかに、ア イルランドの城までをかちとっていた。そし て、コリンはたまたま権利証書と譲渡証書をポ ケットに持っていたので、それをひろげて、す べてをマイダスに譲ろうとサインをしかけた。 あわててクリスは、コリンをかたわらにひきょ せた。 「コリン、これ以上ばかなまねをすることは、 ・ほくが許さないよ。なにもサインしちやため
「なにを考えてるの、あなた ? 」あるうららかな日に、プライディ ハニー、わたしがあなたの身元調査をやって、そ か、ですって ? ーは婚約者のクリスにたずねた。 んなことを見逃すと思う ? この用意周到な人間が ? 二百万アイ ルランド・ポンドの財産と、おまけにアイルランドのお城が一つ。 「ああ、ありとあらゆる太古の恐怖だよ」クリスは答えた。「すべ ての恐怖の中でもいちばん根源的な海の怪物のこと、ほかの犠牲者そうよ、なんとか彼にきてもらわなくっちゃ ! 」 その移り気な小さいおつむの中で、まさかきみは にうっさなければ治らない、おそましい死病のこと、水死したとき「フライディー、 の海草をくつつけたままもどってくる幽霊のこと。それと、なによ一度も会ったことのない男に鞍替えをたくらんでるんじゃあるまい りも、墜落の恐怖。といっても、ついさっき、・ほくが日なた・ほっこな。きみならやりかねない」 の白昼夢の中で落っこちたのは、ほんの三百メートルそこそこだっ 「もちろん、やりかねないわ。でも、すくなくともいまのところは たがね。しかし、墜落の恐怖はあらゆる恐怖の中でもいちばん強烈案に固執するつもりだし、あなたがその案なのよ。あなたはコ リンのいとこ。彼は死病に罹ってて、あと二年たらずのいのちしか なものなんだ。知ってるかい、あの輝かしいルシファー、翼をもっ た天使でさえ、目の前に開けた深淵にすっかり怖気づいて、翼を使ない。あの若さで、なんと悲しいことでしよう ! あなたは彼のこ うことも忘れ、稲妻のように落ちていったんだってさ」 の世でたった一人の親族なのに、彼はまだ遺言書を作ってないの。 「クリス、クリス、ひょっとしたら、わたしと結婚するのが怖いんこれは改善すべきだわ。ぜひとも結婚式にきてもらって、わたした ちへの遺言書を作ってもらわなくちゃ」 じゃない ? 」 「結婚の恐怖も、たしかに太古の恐怖の一つだけど、それはマイナ「彼がまた遺言書を作ってないのを、どうして知ってる ? 」 ーな部類なんだよ。しかし、ふしぎなことに、午後の白昼夢の中で「簡単。コークでコリンの弁護士の事務所に勤めている、おしゃべ は、ぼくはきみと結婚しなかった」 りな女の子から聞きだしたのよ。国際電話でつかめる情報はいつば 、あるわ。彼のお城の名、ケアーノグ・フィッチオルが、チェス盤 「じゃ、そんな白昼夢はうっちゃってしまいなさい。傷ものなのし よ。忘れたほうがいいわ。ところで、あなたのいとこのコリン・ケの意味だってことも教わったわ。アイルランドなまりで笑うあのお しゃべり女の話だと、お城が見おろすチェス・スクエア谷は、淡い アニーは、結婚式にきてくれるのかしら ? なにも聞いてない ? わたし、電話したのよ。そしたら、くるかもしれないって。やつば色の亜麻畑と濃い色のホッ。フ畑が市松模様に並んでて、チェス盤み り、もう一度電話して、確認をとることにするわ。だけど、大西洋たいに見えるんですって。そして、七年ごとに畑替えがあって、 を隔てた国際電話でも、あっというまに仲よしになれたわよ ! 」 ままで亜麻の育っていたところにはホップ、ホッ。フの育っていたと 「ぼくにコリン・ケアニーという名のいとこがいることを、どうしころには亜麻を作るんですって。あのおしゃべり女とわたしとは、 て知ってるんだ ? 」 大の親友になっちゃったわ。彼女に体重はどのぐらいと聞いたら、 「あなたの五倍も金持のいとこがいることを、どうして知ってる十五スト 1 ンというじゃない。十五ストーンをポンドに換算する
0 0 わよ。でも、その前に血を集めなくっちゃ」 裏庭に出ると、弁護士のアシスタントは、雄 鶏から小袋いつばいの血をとった。雄鶏は血を 抜かれるあいだじっと立っていたが、おわると 一声高らかに鳴、こ。 弁護士のアシスタントは、二袋めの血をとっ た。雄鶏は血を抜かれるあいだじっと立ってい たが、おわると一声弱々しく鳴いこ。 弁護士のアシスタントは、三袋めの血をとっ た。雄鶏は血を抜かれるあいだじっと立ってい たが、おわると一声悲しくか・ほそく鳴いたあ と、コテンと死んでしまった。 「今晩のお夜食の材料ができたわ」弁護士のア シスタントがしナ 、つこ。「血を抜いた雄鶏の串焼 きって大好き。母が毛をむしって、臓物を出し 「「 4 ' ・ . 【て、ちゃんとローストにしといてくれるわ。 まからお城まで車で送っていったげる。ここか ら三十キロかそこらだし。ううん、ちっとも手 一週間にそれぐらいの距離はしょ 数じゃない。 っちゅうドライ・フしてるもの」 弁護士のアシスタントは、クリスを城まで送 り届けて、夕食時間にまにあわせてくれた。 「きみはいくつなんだい、アシスタント君 ? 」 クリス・ケアニーはたすねた。 「この春で二十二。あたしのほかは、世界中の だれもが二十三」彼女は答えた。「ね、理想的
夕食のコースは、すばらしい天国のご馳走のおさらいのようだっ でしょ ? 真夜中ごろに迎えにくるわ。お城でのあんたの取引も、 ラムトラキュンント・トラウト それまでにはすっかり完了してるはずだから」 たーーしやも、後肢で立った雄羊、凶暴な鱒 ( どの鱒も皿の上 そういって彼女は笑った。アイルランドなまりで。 から血走った目でおたがいをにらみあっていたが、それはたいまっ の明りのせいかもしれなかった ) 、突き刺された雄牛、若い子馬。 クリストファ ・ケアニーは、ケアーノグ・フィッチオル城、まなんというご馳走が、その夕食のテ】・フルには並んでいたことかー たの名、チ = スポード城の正門の扉にとりつけられた金ビカのトラ七品の料理には七種類のプランデーがっき、どの席のナプキンの上 ンペットを吹き鳴らし、同時に、城の内部に待ちうける悪運封じのにも七つの小さいかぎたばこの山があった。 特効薬として、その扉に小袋いつばいの雄鶏の血をふりかけた。 七種類のプランデーで、だれもがいささか酔っぱらい、すくなか すぐに扉がマイダス・マルドウーンの手で大きく開かれ、ゾライらす多弁になった。やがて、その瞬間がやってきた。マイダス・マ ルドウーンが、クリストファーといっしょに腕をナイフで切って血 ディーとマイダスは待ちかねていたように彼を迎え入れた。そう、 下へもおかぬ歓迎ぶりだった。二人は彼を案内して、そのすばらしを混ぜ合わせ、義兄弟の誓いをかわそうと言いだしたのだ。 クリスはたいまつの明りしかないことに感謝しながら、第二の小 い城の中をすっかり見せ、クリスはたいまつの明りで見えるものを 一つ残らず目に入れた。・フライディーは、彼を三人の城つきの幽霊袋いつ。はいの血で、血まみれのまやかしをやってのけた。その結 に紹介までした。なかなか優雅で上品な幽霊たちで、マイダスや・フ果、いうまでもなく、マイダス・マルドウーンは二時間半前にあの ライディーよりも、なんとなくゆったり落ちついていた。マルドウ 世へ行ったおんどりの義兄弟になった。さもなければ、おそましい 1 ン夫妻はちょっぴり神経質なようすに見えた。 病いは、譲渡と相続の儀式の一部として、マイダスの血から流れ出 やがてほどなく三人は着席して、チェッカーポ 1 ド大広間でのすし、クリスの血に流れこんでいたことたろう。 そこでタ食の皿はとり片づけられ、チェッカー盤と新しい・フラン ばらしいタ食がはじまった。″チェッカーポード″という一一一口葉に デーが運びこまれた。そしてマイダスが、チェッカーの勝負をしな は、黒と白の強烈なコントラストという感じがあるが、この大広間 はそうではなかった。巨大なます目は ( それそれが初代城主の寸法いかと持ちかけた。賭け金はほどほどの高さ、それにアメリカ選手 に合わせてあり、彼は背の高い男だった ) 高尚な色合いに彩られて権のほか、ちょうど一年前にマイダスがコリン・ケアニーからかち ノバ、おまけに海峡植民地とマダガ 、た。白はよく見ると金色がかった象牙色であり、黒はよく見るとったアイルランドと全ヨーロ「 スカルとパタゴニアの選手権を賭けようという。クリスは承知した と、藤紫と青紫のまじった濃い紺青だった。そして、大広間のたい まつの明りで ( アイルランドの城で電気がきているのは、。ハスルー が、その前に ( たいまつの明りしかないことを、またもや感謝しな ムたけである。それ以外の場所では、電気器具は下品なじゃまものがら ) 巨大な市松模様の床のあるます目に近づき ( 弁護士のアシス と見なされる ) その効果は魅惑たつぶりだった。 タントから、それがどのます目かは教わっていた ) 第三の袋からそ