「ああ。眠くなった。行こう」 タクトするかもしれないのだけれども : : : でも、ありそうもないね。 そんなこと」 ・コーサラはカルラをうながして立ち上った。 「リトルバラ。おれたちも、あんたも、もうのべにして何万光年何二人の姿が休眠室に消えるのを見送って、リトル・ハラは小さなあ くびをもらした。 十万光年という距離を飛行しているんだけれども、これまで、ただ の一度も、異星人と呼んでも、 かの女にはまだ幾つかの重要な作業が残っていた。 しいような存在にはめぐり逢うことは なかった。おそろしくまれに、 ( クテリアとか、粘菌類まがいの生それにしても : : : 一人の男と一人の女が一緒に生活するというこ 物に出くわした。それだけだった。これだけかけずり回って、出逢との、想像もっかない内容と意味が、それこそ異星人の生態ででも うことがなかったということは、これはもう異星人なんて存在してあるかのように、リトル・ハラには感じられた。 それをのそむ限られた少数の者たちが、無期限の同居生活を許さ いないんだと考えてもいいんじゃないかと思うよ。人はどうでも、 おれはそう思うよ。たとえば、おれの船が通ったコースを、一時間れる。宇宙空間で働く者たちにとって、とくにその期間が長ければ おくれて、異星人の宇宙船が横切って行ったとしても、おれたちに長いほど、それら二人組の、作業に対する適応度は高いといわれ はわからないんだし、そのかれらと再会することなんそ、ほとんどる。以前とは全く反対の結果が、データーとしてあらわれていると 永久に不可能なんだからな。そうだろう ? 繁栄の時期が一万年ずいう。 れてみろよ。絶対に出逢うなんてことはないんだぜ。この宇宙の中セックスなんて、どんなことするんだろう ? リトルバラは、コーサラとカルラのその行為を見せてもらおうか で、一万年なんて、ほんの、あっという間じゃないかー コーサラは刺激性飲料の、植物性アルカロイド特有の匂いを、げと思った。 少なくとも、それを見ることによって、自分の知識と判断に何か っふとともに吐き出した。 リトル・ハラは眉も目も口も思いきりしかめると鼻をつまんだ。 が加わるであろう。 そうしよう。立ち上りかけたとき、警急・フザーが鳴った。 カルラが鼻を鳴らして、胸いつばい、その匂いを嗅ぎ取ろうとし 《距離一三一八九。方位、 8 、 3 、 5 。イン石群アリ。一二〇秒後 「異星人なんて、出逢わなくてさいわいだよ。ほんとうにぶつかっ ニ緊急コース、 O ニ入ル》 たら、あたし、自信ないよ」 長距離警戒レーダーが、単調な抑揚で報告をはじめた。 リトル・ハラは首をすくめた。 リトル・ハラの両手がめまぐるしく動き、多くのシステムにさまざ 「あなたみたいな第一級任用者でもそんなこと考えるの ? 」 まな作業を命じていった。 「もういやだよ。こわいことはごめんだ」 リトル・ハラの頭の中からは、もうコーサラやカルラのことも、か リトルバラは小さく首をふると、髪をかき上げた。 れらの生活のことも、完全に消えてしまっていた。
「どこへ行こうというの ? どうしたの ? 」 るのでしよう ? わたしにも似たような体験があるんだ」 「リトル・ハラ。船から出なさい」 人質の死体が、こんどは二つ、たたよい出た。 「あなた。エリダヌスの第三惑星で、異星人の遺骸を収容したと信号弾は一発しか残っていなかった。 言ったわね。その報告がされていないわ。どうしたというの ? そ リチウム原子のほのおが渦巻くと溶けた船首はがくりと垂れ下っ のことと、このことと、何か関係あるの ? きっとそうだわ」 リトル・ハラは、言葉をつづけながら、いそがしく周囲をうかが フェリーにさし向けられた投光器が地平線に月のように輝ゃいて カルラは航法室にいるようだった。航法室のハッチがほんの少し見ようによっては、氷雪に飾られた美しい月光だった。 開いている。電子ジャイロをそこから連びこんだのだろう。 溶けた金属のしずくが、あとからあとから船腹に沿ってころげ落 「カルラ。あたしの話を聞いて」 ちていった。そのリズムが聞えるような気がした。 リトル・ハラは、一、二歩、ハッチに向って進んだ。 「リトル・ハラ。止れ ! 」 かって肉体たったものが調査され、そ 黒焦げになったカルラの、 ふいに ( ッチが開かれ、人の形をした火焔の塊が船倉の空間に投の結果、本来のかの女自身の脳神経組織のほかに、寄妙な神経組織 げ出された。ふわふわと船殻に吸いつけられていった。 の残りかすが発見されたという。カルラが、どこでそのようなもの 「それ以上近づくと、もう一人、死ぬことになるわ」 を自分の肉体に植えこんだのか、調査に当った者たちにも全く想像 リトル・ハラは足を進めた。 がっかなかった。 もうひとつ、人の形をした真黒なものが、ほう物線を描いて船倉そのことは、永遠に記録の中に封じこめられることにな「た。 の底へ消えていった。 真空の中ではどんな物音も悲鳴も聞えなかった。 リトル・ハラの浅い眠りの中に時おり、あの氷雪におおわれた奇妙 「カルラ。あそこに異星人の遺体などなかったのよ。異星人の宇宙 な惑星があらわれてくることがあった。 船も住んでいた跡も、何もなかったわ。あなたはそう思いこんだだ リトルバラは、カルラになり変っているのたっ その夢の中で、 けなの。カルラ。長い間、宇宙空間ではたらいている私たちは、異 星人でも何でもいいから、生き物に出会いたいと思うことがある 目がさめると、そのたびに、リトル・ハラは声を上げて泣いた。 わ。それはせつなく思うことがあるわ。そんな時に、幻覚を見るこ とがあるの。その幻覚を信じこんでしまうの。カルラ。あなた。そ の異星人の遺骸を、かれらの安住の地へ運んでやりたいと思ってい 明 4
『アナクレオン』は地をはうように、進んではもどり、もどってた。 は進んた。 《コチラ定点観測船リ、ーリカ 5 。エリダスス座 ( ) 卩。第三惑星上 = 8 4 『コーサラ。カルラ。聞えたら返事してください。リューリカ 5 の異星人ノ宇宙船ヲ発見シタ。宇宙船ハ大破シティルガ、船内ノ異星 船体を発見することができません。聞えたら返事をしてくたさい。 人ハナオ生命フ保ッティル。本船内ニ収容シ、治療ヲ加工ツツア リューリカ 5 。リューリカ 5 』 定点観測船《リューリカ 5 》の緊急信号が、リトルバラの耳をお「たいへんだー これは。じようだんじゃないよ」 どろかせたのは、二十時間ほど前のことだった。 リトルラは通信機にしがみついた。 《コチラ定点観測船リ、ーリカ 5 。エリダスス座第三惑星衛星《調査船アナクレオンから定点観測船リ、ーリカ 5 へ。緊急。乱 軌道上ニアリ。同惑星表面 = 宇宙船ラシキモ / フ発見。コレョリ着数表川。全方位ジャミング。平文による通信は不可。応答せよ。 陸。調査フォコナウ》 調査船アナクレオン加から定点観測船リューリカ 5 へ。緊急。乱数 微弱な電波の語る内容に、リトをハラは眉をひそめた。 表 < 。全方位ジャミング。平文による通信は不可。 0 ? 》 リ ; 「レくフ↓よ匕日 . 観測船は航星図の完成していない空域に送られ、自らは電波何の応答もなかった。たが待ってはいられない。 灯台のはたらきをしつつ、星々の位置を正確に観測し、航路管理局示を送った。 の航星図作製作業に全面的に協力しなければならない。勝手に定点《異星人は生死如何にかかわらす冷凍コンテナーに収納せよ。くり を離れることは許されない。位置を離れると、それまでの計測が全 かえす。異星人は生死いかんにかかわらす、冷凍コンテナーに収納 く無駄になってしまう。 せよ。加療の必要なし。 リューリカ 5 の船内は化学処理をほどこ 『リ「一ーリカ 5 』には、コーサラとカルラのほか、三名の乗組員がし、しかるのち爆破せよ。リ、ーリカ 5 の乗組員は本船に収容す る。情況を知らせよ : : ↓ コーサラとカルラは惑星。ヒスセス 3 で、乗組員交代をおこなうた だが、リューリカ 5 からは、それきり何の連絡もなかった。 めに、リトを ( ラの船ではるばる運ばれてきたのだった。他の三名異星人との接触に情緒的な情況は必要なかった。 の乗組員は他の船によってとうにやって来ていた。 いつどんな状態のもとでそれが起るかわからない。それが予想さ そのまま『リューリカ 5 』は地球時間に換算すれば約一年の間 れない以上、事態はつねに一方的に生起する。その場合人類の側に 観測作業を続けるはすだった。 与えられるものはとりかえしのつかない可能性たけだった。 リトルスラが、『リューリカ 5 』に観測位置にもどるように注 ( 様 し、自らがエリダスス座に向って増速しはじめたとき、『リュー エリダスス座。第三惑星は、永劫の死の世界の中に、異星人の リカ 5 』から送られてきた第二報が、 リトをハラをぎようてんさせ存在をつつみかくしていた。
かん高いさけび声がはしけると、騒ぎは一団となって通路へ押し 「あら。私も入っているわ。来たばかりなのに悪いわね。みんな、 出していった。 こんなに待っているのに」 リト化ハラは雑のうや外部通信装置を卩ッカーにほうりこむと、 リトル・ハラは装具をかかえて立ち上った。 ピスト メカ医療部は定時検査を受ける者や、障害検査を受ける者で幾つ待機所を出た。 「 O ・カルラの個室はどこですか ? 」 もの列ができていた。 リ . 、いレ。、一フのロ 門いに、民生部の当直は首をふった。 リトル・ハラは指示された医療室へ入った。 メタライザ 「 o ・カルラは単身居住区です」 長期間の航行から帰った者たちは、代謝調節装置や補助神経脳コ ンビューター、人工心肺などの点検をおこない、修理し、再調整を「どうして ? コーサラはどうしたの ? 」 「 0 ・コーサラは死亡です」 おこなうのが義務づけられていた。 リューリカ 5 は帰ってきたんでしよう ? 」 「どこで ? それらをすべて取りはすされ、横たわっている肉体は、とうてい 民生部では答えようもなかった。 生き物とは思えないただのシリコン・たん白質合成体に過ぎなかっ リトをハラは航路管理局の支局へ向った。 十二時間の空白が、かれらの機能を完全に新しいものにかえてし「リ、ーリカ 5 の生存者は O ・カルラだけでした。・コーサ まう。 ラの遺体は冷蔵されていました。他の乗組員の遺体は船外へ投棄し たそうです。理由は電路故障による船内事故と報告されています」 目覚めた時、リトをハラは自分が百歳も二百歳も若返ったような メタボライザ 気がした。新品の代謝調節装置は、かなり ( イな気分を与えてくれ航路管理局の支局では係の者がわざわざ記録テー。フをリトル・ ( ラ の前へ運んできてそう説明した。 医療部に収容されている間に、 ~ 于宙帽をはじめ、装具のほとんど「異星人の遺体を収容したという報告はなかった ? 」 が新しいものと交換されていた。それもリトルスラの気持ちを軽や「異星人の遺体ですか ? 聞いていませんが : : : 」 かれは首をすくめた。 かにさせた。 「エリダヌスの第三惑星で、異星人の遺体を収容したという連絡 待機所へもどったとき、どこからか、さけび声が聞えた。 を受けとったの。その報告はないの ? 」 何人かの怒声や罵声がからみ合った。 ここではよくあることだった。 「ありません」 「おかしいな。リューリカ 5 の船内は点検したわね」 リトル・ハラにとってはめずらしいできごとだった。 「しました。異状は報告されていません。異星人の遺体などという 立ち上ると、人垣のなこうで人影が激しく動くのが見えた。 ものがあれば気がつくでしようが」 -æ闘がはじまっているようだった。 こ 0 / ーマル・チェック コンパートメント
信用のインターフォンがおさめられていた。 「リトル・ハラ。よく聞えているわ。七八号配電盤に故障があって、 リトル・ハラはボタンを押し、送話器に顔を寄せた。 現在ェア・ロックを開くことができません。カランコ工に帰ってか 「カルラ。元気っ・ リトを ( ラです。返事がないようだけれども何ら修理します。このまま離陸します」 かあったの ? 」 「カルラ。ほかに異状はありませんか ? 」 インターフォンからは何の物音も聞えてこなかった。 「ないわ」 「コーサラ。カルラ。いますか ? 他の乗組員はいませんか ? 応「異星人の宇宙船を発見したという報告だったけれども。船内に収 答してください。異星人に関して、その後の報告を送ってくださ容してあるのですか ? どんな状態ですか ? 」 「異星人の遺体は本船に収容した。遺体数は一個である。以上」 静寂たけが天地を支配していた。 カルラは切口上で報告するとインターフォンの向う側から遠のい 送られてきた報告の内容が内容だから、リューリカ 5 の船体をこ こへ放棄してゆくわけこよ、 「カルラ。応援の必要はありませんか ? 他の乗組員はどうしてい それに乗組員たちの生死も確認しなければならない。 るの ? 」 「船内の誰か。応答してください」 声がもどってきた。 と ? せん、スビーカーにノイズが入った。それが急速に高まる「応援の必要はなし。他の乗組員も異常ありません。負傷している と、ふつつりと切れ、変ってそのあとにカルラの声がとびこんでき者はいるけれども、心配ありません」 「負傷しているというのは、事故ですか ? 」 房・マガジン版派遣軍還る りたった大船団はもぬけの殻。しかも地下都市に勿然と現われた派 早 遣軍兵士は破壊の限りをつくす。なぜ ? 単行本・定価 1400 円 派遣軍還る 好評発売中 ! 405
から出てきたというんだけどね。あたしが調査を命じられて行った んだけれども、探察船の噴射ガスで焼けてしまっているの。なにが なんたかわからないよ。わたしはそうじゃないと思うよ。有機物に は違いないけれどもね。そういう報告を出しておいたんたけれど 「おれは一生の間に、異星人なんて見ることはできないと思ってい も、あとで聞いたら、異星人の死体を発見した、ということになっ るよ」 ティ / ・カン ・コーサラは、ふたたび刺激性飲料の容器に手をのばしていたんだっていうじゃないの。困るわね。そういう勝手な解釈 こ 0 は」 リトル・ハラは点検監視システムから視線を移した。 「さあ、どうかな」 ブラウン管は報告を終え、灯を消した。 リトル・ハラは船外点検監視システムの定時報告に目を向けたま コーサラの手から飲料の容器を取り上げ、ひとくちのどへ流しこ ま、どうでもいいような答えをかえした。 んだ。 ブラウン管の表面に、リトル・ハラの顔が反射像のように映ってい た。その上を、点検個所の記号名と異常なしの文字が、ゆっくり上大げさに眉をしかめ、鑵をコーサラの手にもどした。 から下へ流れてゆく。 「まずい」 「おいおい。よせよ。こいつは補給が絶えているんだ。あと何本も 「でも、幾つか報告があったんじゃない ? 」 ディヴァン 残っていないんだよ」 QO ・カルラが寝椅子の上から身を起した。 コーサラは惜しそうに容器を置きなおした。 「青の魚座の《ヴァルハラ》の一件だろう。古い岩塩層の中から生 物の死骸が出てきたというんだろう ? それから第三アルテアの第「第三アルテアの方はどうなの ? 」 五惑星で探察船が人間のような生物に攻撃されたとかいうの。だい QO ・カルラはディヴァンの上に座って足を投げ出した。 イナピゲーター ぶ問題になったつけな」 「あれは報告した貨物船の宙航士の錯乱たと思う。何の証拠もない コーサラののどぼとけが上下し、飲料の豊潤な香りがひろがつんだもの。わたしはうらまれたけどね。被害妄想による無意識的責 任回避だと報告したんだわ」 「きびしいね。宇宙船乗りは相身たがいじゃないのかい ? 」 「あれ、どっちもあたしが関係していたのよ」 「調査員て、いやな仕事よ」 リトル。ハラが、・フラウン管を流れる記号と文字の羅列を目で追い 「そうなんだろうな。たぶん」 ながら、顔だけを心もちコーサラへ向けた。 「《ヴァルハラ》というのは、青の魚座の恒星『カレリア』の第「異星人て、だめか。やつばり。リトル・ハラ」 三惑星なの。不時着した探察船が降着装置で掘り崩した岩塩層の中「そりやね、こうしていても、何時問後かに異星人の宇宙船とコン 399
独で行動することは無作法なふるまいとされ、子供は結婚して夫婦左手ーー夫のひとりーーーをふり回しながら、市長は叫んだ。 「仕方がなかったんですよ。デモンストレーションの邪魔をしたん 7 となるまで外出を許されない」 だから。正確に言えば、むこうが僕を殺そうとしたんだ。をしめ ろくろ首が、不快そうなうなり声をあげた。 「ーーケン・ファイフ室長による私註・ーーっまり連中は、六人夫婦てくる司直の手を、逆にやつつけるのがどんなに難しかったか、考 で常時ナニをしながら歩いとる訳だ。君の話し相手が、とんでもなえてみて下さい」 この事実を いところで突然オーガズムに達しても驚かないこと レナンは、首と手の死闘を思いえがこうとして気分が悪くなり、 つねに念頭に置かれたい。さもなければ、職務は必要以上に複雑なすぐにそれを頭から追い払った。 ものとなる」 「デモンストレーション ? 」 念頭に置いたって充分複雑だ、とレナンは思った。何てことだー と、ビッパが首をかしげる。 今まで彼がケイトン人の個体だとばかり思っていたものは、実は「そう。公正な異星の方の前で、この惑星の問題をぶちまけようと 首、胴、手、足、全部で六つの性が合体した夫婦だったのだ。しか思ってね。ひとつは、さきほどこちらの方にお目にかけたーー・・」 も、連中は、公けの場では常に合体したままでいる習慣を持ってい 「同性愛の現場だ」 る。これとは逆のタ・フーなら、どこにだってころがっているんたが と、市長がけがらわしそうに吐きすてる。 もっとも、夫婦で出歩くのは平気なくせに、肝心のことにな「ありがとう」 ると秘められた場所で、という地球の習慣のほうが、考えてみれは 首は、市長が言葉を補ってくれたことに感謝の意を表明した。 不自然なのかも知れない。 レナンは今度は、首と首の同性愛の方法について考えてしまっ 「マ 1 クはこれで終わりです」 た。どうやってくつつきあうのか ? 気管でも使うのだろうか ? 地球人とベガン人は、合計十二人のケイトン人を、じろじろとな一種のフェラチオ ? 少なくとも、あれが殺人事件でなかったこと がめた。現在も六人で交接中の市長は、超然として彼らを見込しはわかった。二つの首が、オーガズムに硬直し、紫色になっていた にすぎない。 一つの首なら離婚事件、二つの首なら同性愛、そし 「大体わかった」 て、ペニスを切り落とされた片腕は、正真正明の死体ーーー。よして 悲愴な声で、レナンは言った。 「もう一つはー・ーこ 「それで、この騒ぎはどういう訳だ ? 」 公正な異星人の当惑をよそに、は話を続けた。 「性の解放ですよ、地球のおかた」 「市長、あなたがここにしばりつけられている間に、ほら、デモ以 と、首は穏やかに答えた。 の準備ができたようですよ」 「黙れ、人殺し ! 」
U , で第ー - 、・、ヘトリ ようやく宇宙への第一歩を踏み出した人 一類を、突然思いもかけなかった災いが見舞 った。火星人による地球侵略である。 圧倒的な科学力を有するかれらの前には、 人類必死の防戦もむなしかった。人類が、 いかに宇宙へ飛び出せるはどの科学力を有 するまでになったとは言え、しよせん、丸 木舟で大洋にこぎ出したはどのレベルでし一 ~ かない。それに対し、火星人は惑星間空門 という大洋を自由にわたれるのだ。人類が かなうはすもない。人類は、滅亡の一歩手「 前までおいつめられた。だが、人類にとっ て幸いなことに、地球の細菌に抵抗力をも たぬ火星人は細菌のために全滅。人類はあ ゃうく難を逃れたのだった。 地球上に、死と破壊とをもたらした火星 人の侵略ではあったが、宇宙飛行の面では、 大きな福音を人類にもたらした。 それは、彼らが細菌によって全滅した時、 多数の機械が無傷のまま人類の手に入り、 これを各国の科学者達が総がかりで研究、 解明に努め、ついには火星人の技術を自己 のものとするに市ったのである。 ここに、人類は」足飛びに、惑星間を飛 び回る力を有することとなり、人類の他惑 星への進出は急ピッチで進んだ。 火星人の技術を利用し建造された宇宙船群。
警視は、胸をしめつけてくるいやな予感と戦った。 「第一発見者は私です」 レナンとヒ ・ツ。、は、まず、市庁舎へおもむいた。誘導ビームに乗 5 っ ) それが大変な名誉であるかのように、ビッ。 ( は胸を張った。カス って警察署屋上へマイクロシャトルで降りて来てから、まだ着任の ガ警視は、予感が的中したことに、苦い喜びをお・ほえた。 あいさつもすましていなかったのだ。市庁舎は、警察署と通りをへ 「それならば、捜査せん訳にもいかんな」 だてて向かい側にあった。ケイトンの建物がすべてそうであるよう 「そう思います」 に、赤茶けた四角い岩をきちんとつみ重ねた構造で、大小さまざま カスガ警視は、ビッ。 ( をにらみつけた。確かにビッ。、 ノの天職は、 な窓と、向かって右側に傾斜したギザギザの屋根を持っ平屋であ 派出警察所長助手た。町へ出て三十分足らずで殺人事件にぶつかるる。赤い敷石の通りの両側に並ぶ、同じような建物の中では、 だけでもおそるべき才能なのに、その上第一発見者にまでおさまるぶん大きめだ。もっとも目立った違いはそれくらいだった。正面に とは只者ではない。 こういう助手を使っている署長こそいいつらのケイトン語と連合共通語で大きく″市庁舎″と表示してあったか 皮だ。 ら、それと知れたまでだ。 レナンはまだ、腰を上げたくなかった。外へ出るのは気が進まな「今度派出警察署長に着任いたしましたレナン・カスガです」 。殺人事件の捜査にいたっては、まっぴらごめんだった。少なくすぐ市長室に通されたレナンは、二ヶ国語で、「市長【アレ・ア とも、ここがどういう星で、どんな連中が住んでいるのかぐらい リ・アリル」と書かれたネーム。フレートに声をかけた。ばかでかい は、仕事を始める前に知っておきたかったのだ。せめてすべり出し名版は巨大な金属製の座卓から直立しており、座卓の向こうには ) ハ だけでも順調な仕事をあてがってくれないものか、と彼は思った。 リケードに隠れるように、やせたケイトン人がうずくまっている。 この星について知っていることと言えば、ケイトンという名前だけ「市長のアレ・アリです」 だ。誰かの馬鹿げた手違いで、レナンの手許に届く筈だった前任者立ち上がらずに、ケイトン人は流暢な共通語で言葉をかえし、細 の報告書綴と、ケイトンの調査テータが、星間通信網の茫洋たる大い両腕を頭上でひらひらと動かしてみせた。レナンは一種のあいさ 海に呑みこまれてしまい、代わりに送られて来たのは、無関係な性つらしいその仕種を真似てみるべきだろうかと考えたが、実行はし よ、つこ。 犯罪者七万人の詳細な一件書類全五十二巻たったのた。 十ー・カー もよりのステーションが、次回の圧縮通信を送って来るのは、何「助手のビッパです」 時間も先の話だ。 パがうやうやしく自己紹介を行うと、市長はもう一度、両手 「行くとするか」 を振った。 ビッ。 ( に、というよりも自分自身になかって、カスガ署長は声を「ようこそおいで下さいました」 かけた。 「よろしくお願いします」
「作業上のミスです」 とオリー・フ色に染め分けた。 「カルラ。くわしく聞かせて。異星人はどこにいたの ? 遺体と言 リューリカ 5 は音もなく空中に浮いた。 ったわね。それは古いものなの ? それとも新しいものなの ? 」 上昇してゆくリューリカ 5 の船体は、緑色の巨大な気泡の中に閉 短い沈黙ののちに答えが流れ出た。 じこめられているように見えた。 「それはすべて航路管理局に報告します」 リューリカ 5 が飛び立ったあとの地表もわずかの間、緑色の光を 当事者からは公表できないような事実というものはある。広大な放っていた。 宇宙空間での未知なできごとに関する報告のす・ヘては、太陽系連合 リトル・ハラは地上車をあやつって谷間を進んだ。 の航路管理局が受け取り、整理している。公表するかどうかの最終谷は北と西が大氷河によって閉されていた。南は荒れ果てた氷原 決定はそこでなされる。 だった。東は低い丘陵が連っていた。 まして異星人の死体の発見などということでは、管理局の最終的カルラたちが異星人の遺骸を発見したと思われる場所は、東か南 ・こっこ 0 判断にまたなければならないだろう。 だが、おそらくその発表の内容は二重、三重のヴェ 1 ルにおおわ その場所からはるかに離れた所に船をおろすはずはない。北と西 れ、その実際をうかがうこともできないであろう。 から迫っている大氷河の先端は、高さ数百メートルに達する絶壁と 今、リトル、、 ( ラの心をとらえているのは、リーリカ 5 の遭遇しなっていた。そこをわざわざ越えて本船との間をゆききするはずは た実状たった。 オし北と西は除外してよさそうだった。 南の氷原は、すでに『アナクレオン川』のレーダ 1 で捜索すみた リトル、、 ( ラ自身、妙に夢を見ているような気がしてならなかっ 残る場所は東の丘稜地帯だった。 「リトル・ハラ。リューリカ 5 は発進します。退避してください」 リトル・ハラは地上車を東へ向けた。 リトをハラは地上車へもどった。 二時間ほど進むと、地上車はゆるやかな大傾斜の中腹にいた。そ 数百メートレ ノ離れた氷崖のかげに退いた。 こから見る暗赤色の太陽は、ほとんど頭上をおおいつくしていた。 リューリカ 5 の船体のあちこちに灯がともっこ。 太陽の表面では、無数の暗黒の波紋が浮いては消え、消えては浮 半分たたまれていた降着装置がのびはじめると、船体は塔のよう いていた。 に立ち上った。 赤色の表面には、時おりあかるい閃光が開き、そこを中心に、 船体の後半分があざやかな緑色の光につつまれた。 オレンヂ色の光条が車輪のように開き、回転した。 その光はみるみる谷間全体にみちあふれ、暗赤色の空まで濃緑色 このエリダメス座第三惑星も、それほど遠くない未来に、太陽