者の生んだ物語空間のなかに入ってゆくこと 6 ではなくて、もっとストレートに、新井素子 のインナー・スペ 1 スに参入していくことな のである。だから、新井素子ファンというの は、 ( 一人称小説であることは別にしても ) 新井素子の語りに耳を傾け、対話する読者と いえるのではないだろうか。 高橋良平 ″もう、それは小学生くらいから。第二次性 レ 徴すらさだかでない頃から、女の子、夢をみ : みるのだ。いつの日か出会う、自分の王子様に ″「先に誤解をといておきましよう。 この人っいて。 ( 擬似恋愛ーー・スタ 1 に本気で恋を んな、この人は怪しい人じゃないー してしまう、小説の登場人物に本気で恋をし が新井素子さんだ」 猫に日本語、通じるのかいな。けれど。ポてしまう、そんな恋愛って、女の子の大きな ス猫がこう言うと、猫達は一斉に、何か感動特徴ではないか。相手の本当の性格、存在を したみたいで : : : おおつ、この方が素子さん無視し、勝手に自分の理想にあてはめてしま って感じで、まじまじとあたしをみつめだしえる・ハイタリティ、王子様コンゾレックスと でもいうべきものを頭におかないと、理解で た。″ ( 上巻一一三頁 ) 読んでいて、最初に思わず吹きだしてしまきない ) 様々な恋の・ハリエーションを、女の子は、 った箇所である。なんとも、ユ 1 モラス。 説を読んでる感じでもないし、アニメーショ次々にみいだす。たとえば、少女まんがの中 こうしたことではないのだろうか。擬似恋愛 ンでもない。早い話、童話的なのだ。新井素に。たとえば、小説の中に。 作者は作品と、 ( キャラクターも含め 子の小説、といってしまってはミもフタもなそして。何度も、いわばシ、、こレーション ″男た ) 擬似恋愛をし、小説を組み立て、読者 いが、作者の感性がこれほどまで隅々までゆを、頭の中でおこなう。このレベル の子と出会う″というレベルでは、おそらも、作品を通して作者と ( 実在の作者、新井 きわたった小説も、珍しい。新井素子の作品 すべての女の子は、女の子であるという素子本人に限りなく近いもの ) 擬似恋愛をし 全体にいえるのだが、限りなく話し言葉に近く、 だけで、小説家になり得るだろうに ( 上巻ているのではないだろうか。こんなに幸福 い文体で、文章を読みすすむということは、 な、蜜月はない。これは作者の文体から生ま どこかお話を聞いていゑといった感じに似三〇四 ~ 五頁 ) これは、このレベル、だけのことではない れる効果である。小説が作りだした物語空間 ている。つまり、この小説の結構を別にして とはまた別の、作者ー作品ー読者の特異な関 だろう。作者にとって、小説を書くことも、 も、新井素子の小説を読むということは、作 新井素子著 『 : : : 絶句』上・下 下陬 : ・ 0 ' 絶句
「たひとつの方法しかない。パット・フラ終結するし、人類自身が終わることもあ生態系の破壊を語ることにしたのですか。 文明の破壊や、なにかの機構や構造が負荷 ンクは『ああ、・ハビロン』でそれをなしとげる。 ルイス日本でシリアスな核戦争ものが書をかけられてだめになってしまうという話 た。モルデカイ・ロシュワルトは『レベル・ かれない理由は、日本の主流文学が扱ってを書くことにしたのですか。 セブン』でそれをした。ほかにも何人かい いるからかもしれません。井伏鱒二の『黒プラナーそのとおりだ。そのころはそう る。しかし、それは進化し、変化し、進取の とは悟っていなかったがね。四部作を構成 雨』がそのひとつです。他にも有名で、 精神に富み、おもしろい社会を退屈で、淀んい だ、絶望的な社会に変えることだから、そんよくできた作品があります。もちろん、ノする四つの小説を書いてから、それに気づ ーに立っ』は人口 『ザンジパ ンフィクションも同様ですが。 いたのだ。 な作品を一篇以上書けるとは思えんのだ。 別の理由で、別の。フロセスで核戦争が勃プラナーそれはありうることだと思う。増加を扱っている。『歪んだ軌道』 The 発するというを書くことはできるだろ原爆の影響を受けたのが、その世代にとど Jagged 0 導 ~ ・、は偏執狂の増加を扱い 『羊は見あげる』は化学汚染を、『衝撃波を う。しかし、結果は同じだ。そんな世界はまらず、いまなお人生を歪められた人がい 原始的なレベルにまで退化してしまう。人るのは、恐るべき現実だ。長崎と広島で被乗り切れ』は情報の増加を、言うなれば、 人は飢え、死んでいく。物語はそれで終わ爆者の方々に会ったが、そのとき感じたこ人々が情報の氾濫に溺れ、もはや未来が見 とのひとつは、多くの人にとって、原爆はとおせなくなるところまでコンビ = 1 タ化 がすすんだ社会を描いたものだ。 ルイスあなたは核戦争ものをお書きになまるで昨日の出来事のように生々しいとい う事実だった。そのことが一生、心に刻みルイスそのようなシリアスなエクストラ っていますか ? プラナー しいや。なぜって、一九五〇年つけられるとは、まったく恐ろしい出来事ポレーションをするための武器としての を発見なさったのは、どうしてですか ? だったのだろうね。 代にいい核戦争ものがたくさん書かれてい にるからさ。私が個人的に気に入 0 ているの唯一比較できるのは、ナチの死の収容所プラナー私に言わせれば、それがいちば ( ンス・ヘルムト・カーストの『逃げから生きて帰れた = ダヤ人の友人の話だけんいいだからさ。それが読者の想像力 場なし』だね。ヨー。 ' 。 ( の最終戦争を扱だ。彼らもまた昨日の出来事のように、じを引きのばすものだと思「たからだ。 ルイス詳しく話していただけますか ? Z ったものだ。 つにリアルに記憶している。 もちろん、収容所のほうは何カ月も何年プラナーそうだね、あらゆる小説の目指 核戦争の物語で、この部分はまだ生々し く、力強く描かれていないな、と思うとこもつづいて形成された記憶だ。原爆のようすところは、楽しませることだ。しかし、 楽しませるにも、いろいろな種類がある。 ろを見つけてはいないのだ。いつも同じとに一瞬にして作られた記憶ではない。 寛ぎを与える楽しさーーそんな作品は日々 ルイスで、あなたは、やはり恐ろしい CO ころに帰着する。少なくとも我々の文明は け 9
に訊いたのだが、例外なく十代二十代のこす。そうした作品が文学に利すると言う人国に対し、爆弾ではなく、食料や医薬品、 はごく僅かです。啓蒙的すぎるのです。 工作機器で攻撃します。 ろにを読み、その結果、字宙で働き、 宇宙科学や宇宙研究に関係したいと思ったプラナーその答は登場人物にあると思うプラナーアメリカ大統領がそれほど賢く ね。ある人にとって表現する必要のある考 ないという意味では、納得しがたい話だ というんだね。 好悪にかかわらず、われわれは社会に対えは、登場人物がしつかりと抱いている考な。 ルイスこれはあなたが『ザンジ・ハ して影響力をもっているんだ。その影響力えであるべきだ。それに成功した作品な っ』や『羊は見あげる』で描いたアメリカ を純粋に逃避主義者を楽しませるために使ら、もはや作者が語る必要はない。語るの は彼が創造した登場人物だ。そこが一線をとは違っています。合衆国に否定的な描写 うのは無責任だと思う。結局、我々ひとり があり、あなたを反アメリカ主義者とした ひとりが未来のかたちについて発言権をも画すところだろうね。 人もいました。 ルイスあなたの作品で、うまくいってい っている。我々の発言は他のひとたちより ずっと大声に聞こえるんだ。 ないとわたしに思われるものを取りあげさプラナーきみの言っている『わたしの財 現代でユ ート。ヒア小説を書くのが難しく せてください。他のあなたの作品と対比す布を盗んだのは誰だ』はベトナム戦争があ なけれ・ま、 ーししが、と思うんだがね。しかることができるでしようから。それは『わたあなっていなかったら、という筋書なの し、反ュートビアは毎日の新聞でいやとい ど。これはイギリス政府がアイルランドに しの財布を盗んだのは誰だ』ま S 、ミ ) うほど見せられている。 ン、ミ・です。この物語では、合衆国大対しておこなっていることに対して感じた ルイス違うタイ。フの政治的を書いて統領が国内の大反対をおしきって、非有交私のフラストレーションから生まれた。我 いるノーマン・スビンラッド 我は北アイルランド問題で、血を流すこと が来日したとき、政治を啓蒙 になると予見したーー・他の多くの国が貧苦 にあえぎ、怒りにみちた人々の要求にこた にする小説が文学にとっていし ものかどうかという問題を話 えようとせず、軍隊を鎮圧になかわせるの しあったことがあります と同じことになると思った。 Z その考え方が小説を歪めはじ この作品がベトナム体験を背景にして読 めるという意味でね。たとえ Ⅱまれることを予定しているという事実を仮 ば、戦前の日本には。フロレタ 定してみよう。振り返ってみると、この作 W リア文学の伝統がありまし 品は現在よりも、最初に活字になったとき田 た。有名な例は『蟹工船』で のほうが効果的な物語だったとわかるのし 、 3 、を 0 を : 0 第を % 第ミ、第 : をま第 N 第 ・・ま 3 い、を朝第第ミ三 : を談第第み
「では、これ以外にも同じものが ? 」 「ちがうというのか ? 」 「ああ、全部で十五枚ある。そのいずれも同じ。 ( ターンを内して「いや、断定するにはデータが足りない」 シェンは思った。そして、ハデスが嘘をつくという可能 いるようだ。何しろ、この複雑さだ。幾つかの。ハターンが完全に合嘘だ , 性に、これまでまったく思い当らなかった自分に、ぞっとした。ハ 致していることを調べるだけで、やっとだった」 デスは、嘘をつくことができる。当然のことだ。だが、なぜ今、嘘 「他の遺物から、同じものが出てきたことは ? 」 「ない。というよりも、このような状態に切り取ることができるもをついたのか。 いいだろう、ハデス。君の解答を聞かせてもらえな のはないのだ。ハデス、君は知っているだろうが、大迷路の中で発「さてと、もう いかね ? 」 見されたもので、同じものは一つとしてないのだ」 マックレガーが、ようやく、じれったそうに言った。よくも今ま 「それで、これが取れた遺物は、何なのか、わかったのですか ? 」 「いや、まったくわからない。ただ切り取ることができるだけの意で我慢が続いたものだ。普段のマックレガーを知っているシ = ンは 思う。 味しかなかった」 「迷路が脳であるかどうかということについては、まだ何とも言え ハデスは、うなずくと、シェンの方に顔を向けた。 しか、あなたませんが、あの。 ( ターンについては、言えることがある」 「シェン、あなたに尋ねたいことが一つだけある。 ハデスは、マックレガーとシェンの顔を見回す。 の口調からすると、あなたは迷路が意識ある存在のように考えてい 「いいですか、あのパターンの変化がランダムなものではなく、連 るように思えるのだが、そうなのか ? 」 シ = ンは、身を固くした。下手な答え方をすると、自分が隠そう続しているものだということにしましよう。そうなると、なぜ、一 つ一つが見たところ、連続していないのかということが問題にな としていることまで話さねばならなくなる。メイズが意識を持ち、 る。だが、それはさほど難かしい問題ではない。物事がちがうよう 何らかのメッセージを自分たちに伝えようとしているのだという、 あのとき感じたことまで語らざるを得なくなるかもしれない。だに見える場合、理由は二つしかない。本当に、対象物がちがってい が、黙っていても、結果は同じになるだろう。自分が隠し事をしてるのか、それを見る我々の方がちがっているか、そのどちらかだ。 いるということが、マックレガーに露見するのは、どうあってもう だが、私たちは、すでにあれが連続したものだという方を選ぶこ まくない。 とにしている。とすれば、ちがっているのは我々の感覚だ」 「よくわからんな。あれが連続しているというのは、あくまでも仮 「ああ、私にはそのように思えた」 シ = ンは、次に返ってくる ( デスの言葉を予期して身構えた。だ定の話だ。実際にちがっているという可能性がなくなったわけじゃ ない」 が、ハデスの言葉は、まったく別の方向に向かった。 「黙って聞いて下さい。そんなにひまではないのだ、私は」 「それであなたは、あれから脳を連想したわけだ」 2 8
は思った。奴は、とんでもない食わせ者だ。 「妙なことを考えるなよ。おまえには聞きたいことが山ほどある。 殺したくは、ないからな」 ジョン・マックレガーは言った。全地球の通信用のサテライトの ハデスは、かすかな胸の痛みを感じていた。あのシェンという中 権利をすべておさえていると言われるほどの男とは思えない柔和な国人は、彼のことを憎むだろう。だが、 ( デスにはわかっていたの だ。マックレガーは、シェンを少々痛めつけるだろうが、殺しはし 顔をしていた。けれども、シェンは、彼がどれほど冷酷な男である ないだろう。まだあいまいな形しかわからなかったが、あの二人 かは、充分に知っていた。自分の目的のために、娘を死に追いやっ は、再び力を合わせることになるのだ。あの二人は、共に同じ目的 ても平然としていられる男なのだ。 マックレガーは、身を引き、ボディガードたちが身振りで、シェ を持っている。あの迷路というやつだ。シェンには、マックレガー の力と金が必要だし、マックレガーもまた、あの迷路から生きて戻 ンに後ろを向くように命令する。 とうして私がここに来るとわかったんでってきたシェンの能力を必要としている。そして、シェンが隠そう 「それにしても、ジョン、・ としている秘密を必要としている。 ハデスは、シェンの逃げ込む先をマックレガーに教えたとき、同 後ろを向きながら、シェンは尋ねた。 「何のために、奴に金を払っていると思っていたのだ ? ハデスの時に、シェンがマックレガーの望んでいる迷路の秘密の一端を知っ 奴に」 ていることをにおわしておいたのだ。そしてシェンは、それをマッ ハデス ? 背中に麻酔銃の針が突き刺さる痛みを感じ、そこか クレガーに伝えるだろう。だが、今、ハデスの手元にあるジェイス ら、ゆっくりと全身に麻痺が広がっていくのを感じながら、シェン ンの写真のことについては、黙っているにちがいない。 Ⅱ・・ウエルズの生涯ーー 」時の旅人ー ノーマン & ジーン・マッケンジー / 村松仙太郎訳 『タイム・マシン』『字宙戦争』などの古典的傑作を 生み、世紀末から第一一次大戦にいたる激動の時代を生きた ″巨人〃をヴィヴィッドに描く ! ①定価上下各五四〇円 ハヤカワ文庫 NF 早川書房 5 7
ス機能はあまりなかったが、続刊の話を聞ルンドヴァルをして「ゴールデンのファン五月、「ロン・ヒアの月刊誌「 = コ」の一 0 ジンがフランス語で出ている限り、世界の三ー一〇五ページに再録されている、と かないのは実に惜しい ) などなど、優れた : レノドヴァルの「魔術的な非現実」 仕事はたくさんある。ここでそれら全てをで最も重要な国際語はフランス語だ」カノ、 と言わしめたほどの本格的なもの。資料的は、彼の著書「ーその意味のすべて」 冫。しかないので、最後に、 紹介するわけこよ、 ( ニ、ーヨーク、エース・フックス、一九七 ヨーロツ。 ( 資料学の頂点といった感の価値も絶大だ。 ある、ベルギー ( こちらはフランス語地域しかし、彼は雑誌の発行だけでは満足せ一 ) の七四ー一一五ページを占める一章で の方で、同じベルギーでもオランダ語地域ず、七七年、この資料センターを設立すあり、七六年三月、スペインの誌「ス / ・デイメンシオン」の七五号 ( 五〇ー とはほとんど縁がない ) の「国際資料る。センターといっても自宅の一部をあてエ・、 といった , ヾ ているようだが、集めた本や雑誌、新聞、七九ページ ) に訳載された センター」に触れておこう。 論文、レポートの類は十万点にのぼり、直あいだ。まあ、そんなことがわかったから この資料センターを主宰しているのは、 といって、今、日本のファンとしてど ・フリ、ツセルの王立アルべール一世図書館接訪問すれば自由に閲覧できるようになっ ている。場合によってはゴールデンの側かれほどの利用価値があるか、といえば宝の の館員でもある・ヘルナール・ゴールデン。 ゴールデンは一九五三年、ブリッセルにら出向いてくれることもあり、また外国か持ち腐れという感じがしないでもないが、 生まれているが、二十歳ころまで西ドイツらは、国際返信切手券を同封すれば、欲し実用とはなれたところでも、ビ・フリオグラ フィとかインデックスというものは、宀大に に住んでおり、十代からラテンアメリカ文い資料のゼロックスコ。ヒーやマイクロフィ 学に傾倒していたこともあ 0 て、母国語のルムを送ってくれる。ここの資料を利用したのしいものである。ちょうど世界地図の よ、つに。 ドイツ、スペイン、イて修士、博士論文を書き上げた人もかなり フランス語のほか、 そして、つい・ほくはこんな空想をしてし いるらしい ギリスをはじめヨーロッパ諸語に通じ、周 コスモ・ホリダン さらにゴールデンは、様々なテーマのビまうのだ。全世界で今日までに発表された 囲からは″世界市民″などといわれてい る。 ・フリオグラフィを出している。これがまた一切の作品、評論、関係記事 ( 全外国 ドカハ たいへんな代物で、たとえば「幻想小説研語版を含めて ) を網羅した、 ( ー 彼の名が有名になったのは、ヨーロッパ 各国やラテンアメリカ諸国の作品や評究論文目録」の場合、記載論文は四八六各巻千ペ】ジ、全三十巻の「世界カタ ログ」などというものが、国際的協力で実 論を満載したファンジン ( 本人は″アンソロ篇、合計六四ページほどの小冊子だが、カ ー範囲は、南北アメリカ、西欧諸国全現したら、どんなにワクワクするだろう その他」 ジイ〃と称しているが ) 「イド : : : か、と。これはもう、の範ちゅうだろ lde••・ et autre0 七四年の発刊以来すでに体。二、三の例をあげれば、アレホ・カル うけど。 ペンティエルのエッセイ「幻想文学」は、 四十号を突破しているが ( 写真は一三号の ベネズエラの新聞「エル・ナシオナル」の 自国ベルギー特集 ) 、その内容は、ス 五一年一一月一三日付に掲載され、八〇年 ウェーデン最大の作家、編集者サム・ 幻 9
ろう。今は、なんとも嫌でたまらない。 男のほうが先にきて、手を差しのべた。「グルャスです、お見知 りおきを。これはワイフのティョンド」肩ごしにあごで呼びよせて 徴笑した。手は差し出したままだった。 「わが船にようこそ」とハウタマキはいった。そして両手をがっち り背のうしろで組んだ。このとんちきが〈男〉のつきあいの流儀を 知らないとしても、こちらから教えてやる気はなかった。 「失礼。忘れていましたよ。握手は、というか、他人に触れたり ブライアン・オールディスと共編の《ベスト》シリーズがサ は、なさらないんでしたね」笑顔のままグルャスは脇へのいて、妻 ンリオ文庫から翻訳されはじめたが、この年間傑作選が刊行 ・、船に入れるよう場所をあけた。 されていたころ、つまり、一九六〇年代終わりから七〇年代初めに かけてのハリイ・ハリスンは、作家としても、編者としても、論客 「はじめまして、船長」とティョンドはいった。それから、眼がみ としても活躍の絶頂期で、英米界の・ハックポーンの一人という ひらき、顔が赤くなった。相手が完全にメードだということにはじ 感があった。しばらく新作の紹介がとだえていたところへ、三部作 めて気がついたのだ。 の第一巻『ホーム・ワールド』 ( 創元推理文庫 ) が出たのはうれし 「部屋に案内しよう」と いいながら、ハウタマキは向きを変えて歩 。異世界ファンタジイ全盛の今日、彼のようなの本道を行く 作家には、昔にまさる健筆をふるってもらいたいものだ。 み去った。二人がついてくるのはわかっていた。女 ! これまで、 ここに紹介する短篇は、『殺意の惑星』や『死の世界』の一一巻目 さまざまな惑星で女を見たし、女と話もした。けれど、よもや自分 1 ト・コンタクト・テーマ を書いていたころの初期作品で、ファス の船に女が乗る日がこようとは : ・ : 。なんと醜いのだろう、ぶよぶ の熱っ・ほいカ作。 ( 浅倉久志 ) よの身体をして ! よその世界では誰もが衣服をつけるのも、不思 議はない。厚ぼったい余分の脂肪をかくす必要があるわけだ。 っていいくらいよ ! 」 「なぜなのーーーあのひと、靴もはいてなかったわ ! 」とティョンド 「甲の不躾は乙の躾さ」 は、を閉じると、債然として言った。グルャスは笑った。 「それを三べん早ロでいうのは無理ね」 「いっから、裸に悩まされるようになったんだい ? ヒーでの休「それでも、本当なんだよ。つきつめた話、彼はおそらく、ぼくら を礼儀知らずな奴らだと思っているよ。きみが彼について思ってる 暇中には、気にしているようには見えなかったけどな。それに、 らしいのとまるで同じ程度にね」 〈男〉の慣習については知ってただろう」 「あれはまた別の話よ。みんなが、同じような服装ーーーというか、 「わたしは、思ってるんじゃないわ・ーー知ってるのよ ! 」と、彼女 ぶしつけ 裸装かしらーーをしてたんだもの。だけどこれは、これは不躾とい よそういいながら、爪先立ちで身を伸びあがらせると、米粒のよう ハリイ・ハリスン こミミ・ so こめつぶ 4 3
読みました ! 「 : : : 絶句』です。 けなくなり、捕物帖路線に切り換えるはめにな 投稿歓迎 る時代の始発点でもあったのです。当然、外国それにしてもずいぶん長い間待ちました。 6 宛先は本誌てれぽーと係 ( 奧付参照 ) からのの普及なんて考えられなくなっていの四月号に、新井素子『 : : : 絶句』七月刊 くわけです。 って出ていた時から数えると、なんと十カ月 ! 掲載分には文庫最新刊一冊進呈 いつまでたっても出ないので、忘れかけていた 海野十三が迫害を受けたのかどうかは僕には 全くわかりませんが、皮肉な話です。仮に普及先月、十一月号に「千羽鶴プレゼント」があっ て、そこに「十月刊行の予定です」って書いて 十二月号の「石原博士の研究室」を読されていたとすれば : : : 。 たもんだから、本屋さんへ行くたびに、捜し回 み、日本のの先駆者である海野十三の時代 背景を調べてみました。自分を含な世代にとっ海野十三が原爆の発明を予言していたとい とにかく、待ちに待って手に入れて ( でも上 う、昭和十四年頃、同じく理化学研究所の仁科 て戦前の事がもっとも暗いのではないでしよう と僕の下で千八百円は痛かった ) 一気に読みました。 か。受験対象に入っていませんからね・ : 博士が爆弾の可能性を認めていた。 まず、海野十三が大学を卒業し就職した大正手持ちの資料にあるのだが、どのような形で発それで思ったんですが、 十一年から。氏はこの頃からの活動を始め表したのかがはきりとしない。ただよくわか " 新井素子「て人は、あらゆる物が、好きで好 ていたようですが、実はこの大正十一年にあのるのは海野十三が最前線の科学者と同等の情報きでたまらない人。なんだって事です。地球が 相対性理論のアインシタインが来日しておを持っていたという事で、仁科博士は陸軍委託好きで、そこに生きてる動物が好きで、植物が 。そして、そ り、新次元の科学に日本中が沸き上っていた頃の原子力利用研究をしていた人 ( つまり博士の好きで、そして人間が好きで : ・ だったようです。純粋物理学の領域であり、か研究発表は軍事機密に価していた ) なのですかの事を人に話したくてたまらずに、小説を書い つ一般人にはとても理解できるはずのない理論ら恐るべき先駆者ですよ。海野十三という人てるんじゃないのかな。 昔の作品 ( 『グリーン・レクイエム』など ) は。しかも一般大衆向けの通俗書に書いていた の全集が、何故か爆発的に売れた年だったよう では、自分が″大好き少女″だと言うのを前面 です。この状況はアインシュタイン自身も納得のですから : に出すのが少々恥ずかしそうだったんだけど、 がいかない程の異常な盛り上がりだったらし く、『中学世界』なる中学生向けの雑誌まで相そして、亡くなられた一九四九年 ( 昭和二十『 : : : 絶句』では、開き直ってしまって、「好 対性理論の解説を載せるありさまで ( いくら旧四年 ) は、『東京裁判』などで知られる軍事裁きなものは好きなんだから、しようがないじゃ ない」って感じなんですね。天邪鬼な私として 制中学だったとはいえ今に相当する高校生の雑判が全て終了した年でもありました。 裁判に限らす、不完全ながらも世の中が方向は「本当にこの世界って、そんなにいいものか 誌に最先端の純粋物理学が特集されるものだろ うか。形而上学を高三コースで特集するようなを換えようとしていた矢先の事だったのです。しら」なんて思うんですが。 こんな話は中高年層のファンなら周知の とにかく″新井素子の今の作品″って感し 話だ ) であったようです。 日常の生活に何一つ関連をもつわけでもない事なので、どうかと思いましたが、たまには で、面白く読めました。ただ、ちょっと長すぎ 理論にな・せこれほど日本は盛り上ったのだろう「てれぼーと」にこんな話があってもよいのでるような気もしますが : はないかと思い筆を取りました。 それに、吾妻ひでおさんの表紙が良かった ! か。私見ですが、日本人にの志向性があっ たからではないでしようか。海野十三にとって最期にもう一つ、若い人向けに。 吾妻さんはあちこちで、新井さんの顔を書い 読者がの潜在能力をもつ、きわめて有望な大正十一一年。あの関東大震災の記録映画を観てらして、新井さんⅡ吾妻さん描く所の″もと た事ありますよね。あの頃に海野十三氏はちゃん″ってイメージが定着しすぎの感もある 事件だったと思います。 ところが、氏が『新青年』にデビューした昭を始めていたのです。 んですが、『 : : : 絶句』は、主人公が″新井素 ( に東京都江戸川区東小松川四ー二九ー一七子″だし、小説のイメージにビッタリ ! って 和三年は憲兵隊に思想係が置かれた年でもあっ 伊藤敬寿 ) 感じです。 たのです。当時、編集長だった横溝正史自身、 それにしても、新井さんを『奇想天外』のコ 後に敵国の文化の一つであるとして探偵物が書
ミチコは相手の話にうなずきながら、ロ は二人ともいい加減うんざりさせられたで つかっかと部屋を横切って、みんながてつ 許に浮かべた作り笑いが消えてしまわない ーないか。それが今年は幹事なんか引き受きり締切だと思っていたドアから隣の部屋 ように、水割りをひとくち流し込んだ。相けたりして。しかもこの出席者の顔ぶれと に入っていった。パチンと電灯のスイッチ 手もそれにならったが、ミチコとは違っきたら。八人しか集まらないのも無理はなを人れる音がして、暗い戸口が明るくなっ て、喋りすぎて乾いた喉をしめすためであかろう。見栄を重ね着して歩いているよう っこ 0 な連中ばかりだ。 女たちは、一瞬、おたがいに顔を見合わ 夜更けのレンタルームで、着飾った八人 ミチコだってこんな会はごめんだった。 せてキョトンとしていたが、すぐにグラス の女たちはソファーから身を乗り出し、蜘だが、オケイの頼みを断わり切れないのは と灰皿をおのおの手にして、喧しくさえず 蛛の糸のように漂うタ・ ( コの煙を手振りで学生時代からの常だったし、夫と一緒のと り交わしながら、彼女の後に従った。 かき乱しながら、服を褒めあい、若いわねきに申し込まれては尚更だった。オケイの 部屋自体は前のものと同じ作りだが、様 えとお世辞を交換し、子供の自慢をし、指父親はさる大病院の院長で、医療器機のセ子はずいぶん違っていた。ソファーは並べ 環の大きさに驚きあい、互に較べるものが ールスマンであるミチコの夫の大事なお得かえられて、みな同じ方向を向いている。 なくなると、今夜は欠席しているかっての 意先なのだ。 その先には大きな壁掛け用のテレビがあ 級友たちのことまで引き合いに出して、宴 私みたいな引き立て役は必要ないのに、 る。脇に寄せられたテー・フルの上には、コ は今や最高潮であった。 とミチコは悲しく思った。金がなくたっ ン・ヒューターの端末機。 どの話題もミチコには苦痛だった。とりて、子供がいなくたって、オケイは誰より 「まあ、なに、なんなの」誰かが叫んだ。 わけ子供の話はこたえた。彼女には子供が も美しかった。それで十分ではないか。 「いやらしい映画でも見るのかしら」キャ いないのだ。 だしぬけにオケイが振り向いたので、目 ッという歓声。 彼女はグラスに口をつけたまま、目付のがあってしまった。ミチコはばつが悪くて 「まさか警察のじゃないでしようね。 わるい小さな目だけを動かして、うらめし ドギマギしたが、オケイはニッコリ微笑む交通安全とか、暴力追放とか」 げにオケイの方を盗み見た。鼻筋の通った と、いきなり立ち上がった。 オケイの夫は刑事である。彼女自身は大 冷たいぐらいに美しい横顔を見せて、オケ 「さて、みなさん」よく通る彼女の声にみ学で犯罪心理学を研究している。 イは無表情にタ・ハコをくゆらしている。 んなの注意が集まった。「本日のハイライ 「まさか。さあさあ、座って」 いったいどういうつもりなのだろう。ミ トとまいりましようか」 グラスの氷をチリンチリンいわせなが チコには合点がいかなかった。このいまい 質問と拍手と歓声が蠅の群れのようにワ ら、一同は席についた。何が始まるにせ ましい同窓会の出席者のなかで子供がいな ッと湧き上がった。彼女はそれを手で制し よ、とにかくあの果てしない見栄の張り合 いのは彼女とオケイの二人だけだった。金て、「次の間にまいりましよう」 いから解放されて、ミチコはホッとしてい 0 持ちと結婚していないのも。おかげで去年 彼女はテー・フルからグラスを取り上げ、 た。かすかに胸の高鳴りさえ感じた。 こ 0
・ス。 ( イラル章を授与されている。てのひらの縁は板のようにかたら下って事を処す」そう言うと、彼はくるりと議場に背をむけた。 く、快心の空手チョッ・フは十六ポンドのハンマー打撃にも匹敵する「女が聞いている声の正体もおいおいわかろう」とつぶやくように オライアダン。「そんなにまでジャンス・ダルクになりたいのな のだ。彼はかっと顔があっくなるのを覚えたが、だまっていた。 とうとう、オライアダンが言った。「どうだ、その子をつれてこら、よかろう、ならしてやるまでだ」そうして足音もあらあらしく 十ライアダンは議場を出ていった。 られると思うか、坊や」 ダーシイはだまってうなずいた。口を開けば、何を言ってしまう はじめて〈声〉を聞いたとき、ジャンス・マリイ・ヴァルクーリ かわからなかったので。 オライアダンの視線が二列にならんだ顔をみわたした。「本案をは十二歳だった。 〈声〉は二人で、しばらくすると自分たちの正体を教えてくれた。 採用しようと、わしは思う。異議のある者」 頭という頭が、し 、っせいに滑稽なユニゾンでうちふられた。それやさしい方の声が聖ラシェル・ド・フ、えらそうな感じのが慈善家 からへつらうような「ありません、閣下」のコーラス。オライアダのジョゼフ・エレモシナリイ。ジョゼフ・エレモシナリイは精神現 ンがぶつぶつ言いながら立ちあがる。「全員起立 ! 」進行役が叫ん象教会の創立者で、すでに百と二十年前に故人となっている。ラシ エル・ド・フの方は精神現象教会の聖女第一号で、こちらは七十六 だ。全員が起立した。 あかっき オライアダンがスミス日カルゴスに言った。「つぎの暁帯通過年前に亡くなっていた。 はじめのうちこそ〈声〉は実体を持たなかったが、顔らしきもの までに、彼を森に送りこむように」それからダーシイにむかって、 「十日やろう。十日のうちに収容の要請がなければ、わしが手ずかが見えてくるまでに、そう時間はかからなかった。ラシェルにしろ をでガ ガウん 庫のラま 風フ出 ワ カ ガ飛 ャ 一ノ わを さ空 SF245 ジョナサンと 宇宙くじら ロバート・ LL ・ヤング / 伊藤典夫編・訳 = 定価三六〇円 2 引