入っ - みる会図書館


検索対象: SFマガジン 1984年2月号
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1. SFマガジン 1984年2月号

モヒカン刈りが一一一口う。一 み、腿についた埃を払うようなしぐさをして立ちあがった。腰をく ねっとくねらせる。 「今年の新入社員なんだ。ぼくと同じ経理課に入ってきたんだ」 「あ、カウンターでいいよ。ジュンさん」 杉山はうれしそうに言って水割りを、ずるずると飲んだ。 気づくと、いつのまにか水割りがカウンターに置かれていた。っ 杉山は笑いながらそう言って、ものすごいカでおれの右腕を引い まみもでている。 てカウンターまでつれて行った。おれはまったく歩かなかった。 おれはやけくそになり、ひとロ水割りを飲んだ。やたらに濃い。 強引にカウンターの中央あたりのスツールに座らされた。杉山は 「あらまあ、新入社員。初初しいわあ」 右隣に座る。 モヒカン刈りがおれの左肩にわざとらしく触れた。おれは肩を揺 カウンターの中の電気ショック頭は、ラーメンの丼に残ったスー ・フをずるずるとすすってから、それをかたづけ、布で黒光りする力すって手を払った。 「まあ恐い」 ウンターを拭いた。そのしぐさが、やけになよなよしている。 オホホホと黄色く笑って、モヒカン刈りはスツールから降り、ぐ 近くで見ると、すさまじく濃い化粧だ。 るりとまわってカウンターの中に入った。 「こちらがネネさん」 ねえねえ、と入ってきたモヒカン刈りのプラウスの袖を、電気シ 杉山が電気ショック頭を紹介した。 ョック一、が戸ノしュ / 電気ショックは、よろしくね、と小首を傾げておれに徴笑し、背 「なあにネネ」 を向けて杉山のウイスキーのポトルを捜した。 「あのねあのねジュン。関さんて風間杜夫に似ていると思わない 「ああら、あたしのことは紹介してくださらないのん」 声とともに強烈な香水の臭いがした。 「あら : ・ そう言えばそうねえ。やつだあ。似てるわっ。ほんと ぎくりとおれは左を向いた。 おれの左隣のスツールにモヒカン刈りが座り、体をこちらに向けほんと」 ふたりはキャアキャアはしゃいで・ハチ・ハチ手を叩いた。杉山も、 てうるんだ眼でおれを見ていた。 そう言やそうだなあ、とか言ってケタケタ笑う。 おれは全身がパリバリに硬直していた。 おれは腹が立ち、なさけなくなり、なぜかトイレまで行きたくな 「お、ごめんごめん。そっちはジュンさん。ここはジュンさんとネ ってきた。もうなかばやけくそであった。 ネさんが今年になって始めた店なんだ。関君」 とにかく一杯だけつきあって逃げだそう、と思った : 「は、はあ」 と、ふいに杉山がおれの肩を左腕で抱くようにした。おれの耳も おれはぎこちなく頷いた。 「うわあ。かつわいい。関さんていうのお」 とに口を近づける。 272

2. SFマガジン 1984年2月号

べつにスペース・オペラにかぎった事ではないのだが、とにかく スペース・オペラの出来ていくプロセス インブット インプント その 1 その 2 出発点 熟成 SF 的ひっかか モチーフあさり りの探索 スペース・オペ なにかスペー なにかスペースカードを様々に ラを書きたいな スオペラを書オペラの材料はならべかえてみ 考えるあと考える。 にきたくなるモないものかとアる。なにか閃い かチーフはあるンテナを張る。 たらそのカード くまいかとアン を別にしてみる。 テナを張る。 あ 手当り次第に読 冒険小説や時理科年表、く日閃いたカードが 読むみあさる。 に代小説など手本の科学技術 > 、断片的にでもっ か当り次第に読 く Scientific ながらぬかと考 漁る かみあさる。 American 〉なえてみる。 体験する る どひたすら漁る。 俺の書きたいス どんな事でも構どんな事でも構断片的にでもカ 書く ペース・オペラわぬ、面白いなわぬ、面白いな ードがつながっ のポイントを整と感じたことをと感じたことをたら、べつに 記録する 理する。 すべてカードに , すべてカードに枚のカードを作 図式化する する。 する。 っておく。 五 % が屑だと断言したが、それにはいろいろな意 味がある。いずれひとつずつ詳しくその訳を説明 するが、私にとってなによりも我慢ならないの は、スペース・オペラの主人公の中に、読みおわ ったあとも末長くお友達でいたいようなキャラク ターがほとんど居ないという事実なのである。 〈人魚姫〉だってそんな老乞食が出てきたら君も お友達になりたいなと思うでしよう。 それが、キャプテン・フューチャー、ホーク、 ス カース、ジェイムスン教授、ノースウエスト・ ミス : : : と、まあこのあたりまでか、私としては むしろスペース・オペラとはいささか縁遠い作 品、たとえば、文庫に入ってはいるがあまり 売れなかった〈ドック・サベジ〉一統などによほ ど強い魅力を感じてしまうのだ : ・ もし、君さえよければ是非ともこの〈ドック・ サベジ〉を一、二冊でいいから読んで見て欲し 。もしもこの海千山千の連中がニューヨ 1 クな らぬ宇宙空間を舞台に高速宇宙艇を駆って、悪を 相手に縦横無尽の冒険を繰りひろげたら・ : れこそス。ヘース・オペラの神髓へ迫るものになる だろうという私の言いぶんが素直に理解して貰え るだろう。 どうも、私が書きたいスペース・オペラの手本 になる作品は、既成のスペース・オペラやと はまったく別の世界にたくさんあるらしい いずれ詳しく話すことになるだろうと思うが、た とえば柴田錬三郎の〈われら九人の戦鬼〉には、 私の言うスペース・オペラに必要な要素がすべて 盛り込まれていると言ってよい位である。 その話は先に送ろう。 SENSE 〇 F W 〇 NDERLAND ( つづく ) 3

3. SFマガジン 1984年2月号

れがノイローゼに見えるか ? 」 「どうして。気になることを気になるといって、どうしてわるい 「おかしいと思ったのよ」 うそのように、きげんがよくなって、美穂は彼に抱きっき、新婚「わるいとは云ってないけど」 夫婦のように仲直りのキスをせがむ。 あわてて、きげんをとるよ ) つに妻は云った。 「あなたって、ノイローゼになるようなタイプだとは全然思えなか 少し考え、コーヒーをひとロすすり、ゆっくりと云い出す。子ど ったんだもの」 もにでも、云いきかせる口調。 「おい、そりや、どういう意味だい」 「あのねーーー何となく、このごろのあなたをみていると、ものごと 「別に、悪口じゃないわよーーーそれに、 いくら私が鈍かったって、を、暗く、暗くとろうとーーものごとの、わるい方の面ばっかり、 、つしょにくらしてるあいてが、ノイローゼかどうか、それもわか好きこのんで見ようとしてるような感じがするの。だって、戦争が らないほどじゃないつもりよ。ただーーー」 はじまったらとか、そんなこと、私たちが考えたところで、しよう 「ただ、何だい」 がないわけじゃない ? 私たちがどうにかできるわけじゃなし。だ ったら、そんなことでくよくよするのって、ムダじゃないかと思う 「ちょっと、心配だったのよ。いわれてみると、たしかに思いあた ることもないでもない っていう気がして」 の。 だって、ほら、昔、杞の国の人がーーー」 「おれが、ノイローゼだって ? 」 「天がおちてくるのではないかと心配して、かい」 しかし、杞憂でもなんでもないのだ、突然、修平は吽びたい欲望 「そうは思わなかったけど、たとえばあの戦争の話ーー・それにあの ゲルニカ」 にかられる。杞憂なんかじゃない。だって、天をみろ ! ほら、も 「どこか、変だった ? 」 う、落ちてるじゃないか。見ろ、いまおれたちの上におちるところ 「変だとは思わないけど」 ししいます どうして、あれが見えないんだ ? 逃げろ、何でも、 美穂はさかしげな目で考えこむように彼を見つめた。 ぐここを逃げ出すんだー 「ただーー、・・あまり気持のいい話じゃないじゃない ? ロト彼らに告げていわく、立ちてここより出よ、主この町を減し にまた、あなたがこだわってさ」 給えばなりと。 ようやく、すうっと晴れかけてきた胸が、また奇妙な具合に冷え しかしロトの婿たちは彼をわらいものにしたのだった 1 てゆく。たしかにおれは少しおかしくなってる、と修平は考える。 しかたなく、ロトは、妻とふたりの娘たけをつれてゾアルと呼ぶ だがそれは、美穂のいうような意味じゃない ひたすら、もどか町まで逃げてゆく。 しさのためた。 主、硫黄と火とを主のみ処よりソドムと、ゴモラとの上に降らせ それに、ま、 ミ」 0 4 ワ

4. SFマガジン 1984年2月号

ゃなくて、ぼくの頭がきみをきみとして感じることなんだ。どっちはぼくと会話をしたのではない。オウムのように、・ほくの言葉をま ねただけなのだ。しかも、ぼくの存在や言葉に、特別感心を示して 9 がうまい本物のワインかをね」 「わたしたち、ふたりとも合成ワインの方がおいしいと思ったわ言ったのでもなさそうだ。 ぼくは気をとり直して、上着を拾いに行った。少なくとも、これ でジニーの発声、発語の器質的な障害はないことがわかったのだ。 「その通りだ」 ぼくらは納得のいかない泥の風呂につかっているような気持ちに報告では、このオウム返し症状の現われた後、飛躍的に言葉が発達 なっこ。・ほくらは、クレスタのいれたコーヒーを、うまいともまずした例もある。 ジニーの頭の中には、彼我の境界がひかれていないのだ。だか いとも言わずに飲みほし、ペッドルームへ行った。そして、すがる ら、ぼくの言葉が自分に向けて働きかけられた行為とは理解できな ように求めあった。 ュニケーションの手段であるということをわからせ 言葉はコミ ・ほくらは本物のワインだろうか ? 一体ぼくらはどこにいるのだ ろう ? ることができれば、この子はあっという間に治るだろう。 宇宙空間 そこまでの考えを、再びぼくはうち消した。ここに 底なしの不安感がべッ トの上にあった。 にいる限りーー人間の精神は健康に戻るまい 人間は絶対に宇宙に出てゆけぬと言った者もある。それは正しい 「ジニー、おはよう」 ・ほくはいつものようにドアを開け、上着を脱ぎながら声をかけと、今・ほくは思う。一体何のために、・ほくはここにいるのか ? 最近、変なことに気がついた。 た。もちろん自分に対してのセレモニーのようなもので、ジニー ジニーの部屋から不思議なガラクタが出てくるのだ。隅の棚と壁 返事を期待したのではない。 「ジニー、おはよう」 の間からは、円錘形に羽をつけた金属製のものが転がり出た。取り ・ほくは背中にこの声を浴びて、ハンガーにかけようとしていた上あげてみると、見た目の質感よりもずっと表面はなめらかで、重さ もないに等しいほど軽かった。 着を床に落とした。 これは一体なんだろう ? 」 なんて言った ? 」 ー、なんて言った ? 」 彼女はもちろんぼくのドし冫 、こ応えはしなかったが、少し口元に笑 ふり向くと、ジニーはこちらに背を向けて机の前にすわっている。みを浮かべたような気がした。 と思う。し ・ほくはジニーの前にまわって、机ごしに彼女の顔をのそきこん ぼくは、それを自分の机の抽出しに入れておいた だ。その顔には、表情がなかった。 かし、数日後それを調べてみようと思いたって、抽出しを全部ひっ もしやと思った一瞬の興奮が、みるみるし・ほんでいった。ジニー くり返してみたが、そんなものは見当たらなかった。

5. SFマガジン 1984年2月号

だ。夕飯の一食くらい抜いてどうだというのだ。カラスさん、今そ「さて、電源用スイッチはこれかな」 れがわかったそ。ありがとうー 博士がスイッチを入れると「ギャッ」国枝博士の眼前に刃のつい それから、マグロ男に博士はむきなおった。 た大振子が落ちてきた。拷問用の装置なのだった。 「タ食は抜くそ。地下の研究室で、遺伝子組替をやるのだ。新生命「あー驚いた。この間は水拷問用の地下水が溢れ出て溺れ死ぬとこ 菌を作りだすのだ」 ろだったものな。今度は、まちがえないぞ」 マグロ男はばかんとしていた。 次のスイッチで実験装置の明減が始まり、博士はレ・ハーをカ一杯 引っぱった。それから、作動している装置を離れ、博士は読者の方 拷問室を改造して作った地下室には、三角木馬やら鉄の処女やらへ再びむきなおった。 電動コケシやらの拷問道具がヤマと並べられ、朽ち果て風化した骸「さて、私は今、舞踏病菌の遺伝子組替をやっているところなの 骨群が恨みがましそうな姿勢にクモの巣を纏いっかせていた。 一四から一六世紀にヨーロツ。ハではベストと並行しておびただし その中央に巨大な実験装置が鎮座しているのだ。 国枝博士は、読者の視線を気にしながら、ひとりごちてみせるのく舞踏病が流行したのだ。これは筋肉群の不規則かっ不随意で目的 ・こっこ 0 のない動きに特徴がある。一度、この病に感染すると疲れきって倒 「これは、私が米国を旅行中にラスベガスに立ち寄ったときに、ホれる迄、興奮状態で踊り狂うのだ。これはイタリアではコモリグモ テルにあったスロットマシーンにヒントを得て製作したオート遺伝に咬まれておこるという言い伝えがあったが、最近では集団ヒステ 子組替装置なのだ。細胞をこの中に入れ、レ・ハーを引く、すると、 丿ーの結果であるという説が大部分を占めるようになっている。し QZ<< がガラガラと回転して組替わってしまう。さて、舞踊病菌をかし、私は、現実にコモリグモの体内から舞踏病菌を抽出すること 実験装置の中に流しこむとしようか。ふふふふふ」 に成功したのだ。 国枝博士はにたにた笑いを浮かべたまま、実験装置の前のガラス さて、私は先日、テレビでブレイク・ダンスなるものを見た。ロ 容器の中に試験管を置き、再び蓋を閉じた。博士は二、三歩後じさポット・ダンスとも言っておったが。その踊りに感動して練習して り、マニ・ヒュレーターの操作用ハンドルをとった。 はみたが、どうもうまくいかない。そこで、発想を得たのだ。私が 「おっとっと」 抽出した舞踏病菌を遺伝子組替技術によって、プレイク・ダンス菌 手もと装置に製作費がかかってしまったので、肝心のマニビ = レに変換させることができるのではなかろうかと。そしてこの実験に ーター部分の費用がでず、代りに孫の手をつけてあるので操作に熟及んだわけだ。もしも、この実験でプレイク・ダンス菌を創造でき 5 練を要するのだ。やっとのことで、装置の中に試験管の内容物を注たら、私は即座に、その菌を体内に注射する。そうすれば私は明日 からティスコの帝王になれるのだ。若者 : : : とりわけびちびちした 入することに成功していた。一

6. SFマガジン 1984年2月号

「上等だよ。どこが違うんだ」 た。今時、二元サボ機関でとんでる船なんてまずーー」 クイーン・エリザベス は、夬して品 「 Q おれは、耳をふさいだ。″ジャンビング・・ ( ニ にでも乗ってるつもりか、え ? 積荷をどうするんだ 0 3 の良い船ではない。汚ないロゲンカは毎度のことだ。しかし、今回よ。違約条項が、ちゃんとくつついてるんだ。整備不良でポシャっ は少しばかり、様子が違っていた。 てみろ。免責になるもんか」 さらに一分間ほど、互いの三代前までの先祖と、二代先の子孫に 「保険がーー」 至るまでを罵倒し合った船長と機関士は、ふと冷静さをとり戻し おそるおそる、おれはふたりの話に口を出した。案の定、おれの こ 0 意見は軽く一蹴された。 「本当に、・ とうにもならんのか ? 」 「船舶保険の厄介になる金がありゃあ、空再を直しとくわ。黙って パス船長は、重苦しい声で尋ねた。 ろ」 「本当なんだよ」 「違約金は、・ とのくらいなんだ ? 」 ジョーイは、自分の金髪をひっかき回しながら、疲れた表情で答「いくらだって同じだろうが。払えないことははっきりしてるん えた。 くすり 「触媒槽が酸化して、中の薬剤が焦げちまってる。分流器は動かな 三人は、それそれに打ちひしがれて黙りこんだ。 いし、コントロールチッ。フはフライになってる。コンプレッサーま 一分間ののち、うつろな目でコンソールの赤ラン。フを見つめてい で、何かコンゾレックスでも感じているらしい。時々、思い出した たジョ】イが、・ほっりと一一「ロった。 ように回るだけだ」 「積荷は、何だっけ ? 」 「おふくろの冷蔵庫でも思い出してんだろ。どうする ? 」 知っていながら、訊いているのだ。何かろくでもない考えが浮か 「通常空間に降りて、近くの修理屋に駆け込むしかないね。空気タんだに違いない。 ンクだけじゃあ、一週間ともたない」 「セルメック二十トンだ」 「″グレイシイ″は ? 連絡不能だぞ」 船長は、左のこぶしをこめかみにあて、右手で隔壁をたたいた。 プロディは、一時間先行して、この亜空間のどこかをとんでいるできることなら、自分の巨大な頭を、壁にたたきつけたい風情だ。 僚船のをグレイスフル・く / ニー〃を心配していた。今回の積み荷の 「セルメック・ : ・ : 」 半分は、″グレイシイ〃に載っている。亜空間内では、普通の通信申しあわせたように、ふたりの視線が同時におれの方を向いた。 器は使えない。 「あんた、確か・ーー」 ストープ 「一隻で、何とかやってもらうんだね。だいたい、 こんなポロ船を ジョーイが、ゆっくりと言いかける。 飛ばしたのが間違いよ。五年も前に博物館行きにしとくべきだつ「仕事は・ーー」

7. SFマガジン 1984年2月号

こ舌をしてみて、言葉が こんだかと思うと、残された翼と嗣体がばっと炎に包まれた。焦熱話すのだろう ? どうやら彼らはおたがい冫言 地獄で焼かれる人たちの絶叫が聞こえる。ガンリンと肉のける臭通じないことを悟ったらしい , ー・ー灼けつくようなアンダルシアの太 9 いがする。 陽のもと、アスファルトの上を歩いていく彼らは、身振りや、容易 「なんてこった」ロウソンはつぶやいた。 に理解しあえる音声などによって意志の疎通をはかっていたから 飛行場のフェンスからあわててはなれ、サン・パ・フロ図書館の裏だ。 の草地を走りぬけ、いましがた英語族の護衛のマシンガンの銃口かそれに気づいたロウソンは、右手の指を口にもっていき、歯をガ ら逃れた人たちの一団に追いついた。追いついたところはセビリアチガチと鳴らして、ものを噛むしぐさをしてみせた。 に通じるハイウェイで、ロウソンは仲間のような顔をしていっしょ どうやら通じた。ぶかぶかの麻のシャツにズボンをはいた、やせ に歩いた。彼の 15 0 5 のズボンを怪しむように見るものもあった こ、はだしの男がロウソンをハイウェイのわきのオレンジの果樹園 : 、仲間ではないと言いたてるものはなかったし、喉笛をかききるヘひつばっていった。オレンジはまだ熟してはいなくてすつばかっ そぶりを見せるものもいなかった。 たけれど、ロウソンの一連隊の十二、三人は、果汁を腕にしたたら 道ずれの大半を占める打ちひしがれた、得体のしれない異形のもせながら食べた。ふたたびセビリアへの道をたどりはじめると、 のたちのように、ロウソンもうつむいて、自分の足のテニスシュ ウソンの頭は、飽食のためにほとんどからっ・ほになった。ただ、着 ズが、ぜんまい仕掛けの人形の足のように舗道を踏んでいくのを見いたらどうすればよいのだろうという恐怖だけが、頭の中でカラカ つめながら歩いていた。セビリアに戻ってなにをしようというのラ鳴っていた。この日予定されていた別のフライト、マドリード行 か。飛んでくる弾をうまくかわし、魚のフライを食べる、運がよけきの飛行機が無事目的地に着いたかどうか知る由もなかったが、い れば。セコウムとまた話しあう、あの男が見つかれば。そして他にまはどうでもよいことだった。べとべとするロもとを拭い、呆けた 分別があれば、リンチ・ ( ーグに戻ろうというような気ちがいじみたようにとぼと・ほと歩きつづけた。 望みのない目的ではなく、もっと別の目的に向って生活を営んでい くだろう。だが、どんな目的 ? 生きていくというぎりぎりの動物 的な目的のほかにどんな目的があるのだ ? 「腹がすかないか ? 」とロウソンはたずねた。 彼は避妊用具の店の二階で寝起きした。朝になると、モンゴル族 怪訝そうな好奇の目が返ってきた。 らしいおとなしい顔だちの女が営む・ハン屋へ出かけていく。一日分 ティ墨ネ・アンプレ 「腹がへった」彼はくりかえした。「腹がすいているか ? 」 の割りあての。ハンと、物々交換の品物の歩合のかわりに、ロウソン 英語も ? スペイン語も ? いずれも通じなかった。この不可解は・ ( ン屋の床を掃除し、毎日出る汚れものを洗い、店番もする。し な出来事から逃がれようとした人々、彼らはいったいどんな言葉をつさい、彼のもっとも貴重な才能は、店にものを買いにくる人々と

8. SFマガジン 1984年2月号

气たンたン狸の〇〇はア できめたな ? ″ 図にのったガチャビンは歌まで歌い出した。 呆れ返ったことに、どんな脳味噌をもっていやがるのか、ガチャ 。万事休すだ。 ついに万策尽きた : ・ 。ヒンのぬいぐるみに入りこんだ宇宙人は、こっちがこっそり変更し た予備波の周波数を全部おぼえているのである。 私達は顔を見合せた。 ところがそのときである。 ″国際電話で連絡すれば俺に知られないと安心してたのかもしれな ″おい、テレワークんだしぬけに、ちょっとシリアスになった宇宙 いが、こっちはな、の太平洋通信衛星も全部ワッチしている んだそ。ざまをみやがれ ! こっちのエレクトロニクス技術をなめ人の声が入ってきた。 るなよ : 私はこっそり立ち上って部屋の隅の電話のダイヤルを回した。も ″おい、返事をしろ″ う、これしかない。 「なんだ ? 」 ″ヘイ、こちら富士山″須藤の声が伝わってきた。 いまここへ、お前のところの使節がやってきた″ 「しつ ! 」私は声をひそめた。「仕方がね工、そっちの出番だ」 ついに彼が奴の位置をつきとめた・ : 簾畑た ! ″聞いてました″ ? 」私はわざとおちつき払って言った。 「それで 「いいか、連絡回線の波は出すな。黙って時間キ、ーで本線にの″本当に貴様達はその条件をのむのか : れ ! 勘付かれるな」 ″了解″私は電話機を置いた。 ″貴様達は、俺がリカちゃんのために買ってやった邸の代金を負担 だがそのとたん、ス。ヒーカーから意地悪な声がとび出してきた。するか ? 二〇室のスペイン風西洋館だそ・ : ついてないね工、テレワーク君。有線電話なら大丈「ウー・ いくらだ」こっちのいちばんつらいところを衝いてき 夫とお思いだろうが、富士吉田局と山頂は無線でね工 : こっちの出番まであと五分 : ・ 「くそオッ ! 」古矢が台本を床へたたきっきた。 リカちゃんが自分で注文したんだ″ ″そんなこと知るか、かわいい ″よッよッよツ。 こっちはいいお正月になりそうだよ、テレワーク 「ネ、値段を聞かーー」 くん ! 〃世にも憎らしい口調である。″ついに追いつめたよさ ″野田さん ! 〃簾畑の声が入ってきた。″ OE してやって下さい あ、本番になったら、パンバカ。 ( アン ! 〇△ x 8 のテレワークが大丈夫ですから〃 お送りする放送禁止歌謡曲大会ーーってのはどうだい。明日の新聞大丈夫だと言っても・ : がたのしみだよ。 簾畑は呑気だから、テレワ 1 クの金庫には去年、例の月の石で稼 5 6

9. SFマガジン 1984年2月号

フターですよ。見ました、あれ ? 」 てるわけですかね。しかし、戦争には、すべてのドラマがある。 ーあ、本当に、僕は戦争そのものを賛美する気はまったく、ないん「いや」 ですよ。しかし、戦争がともなっているドラマチックさーーー戦車ー 「僕はビデオを送ってもらいました。アメリカの友人に」 作戦将校ーー・地雷原ーー 「もししかし、あなたのところへ召集令状が来たらーーー」 ー戦闘機ーーーファントム 「大丈夫ですよ。僕、糖尿病なので」 偵察部隊 : : : 」 妙に、恍惚とした表情が加山の肥った顔を輝かせた。修平はロを「 : : : もし、しや、ある晴れた日、突然に、上空から爆撃機が爆弾 あいた。 をふらせたらーー」 「ああーーーカッコ いいなあ ! 」 「あ。そろそろ、時間なもんですから。そうでしたね、高野さん ? 」 切実な嘆息が、加山の口からもれた。 「ああ、そろそろ、 ハをお願いしますよ。今みたいな調子でね」 「どうして、僕は、こんなふやけた時代に生まれてきたんだろう ! 「まかせといて下さい」 そう思うんですよ。三島ーー僕は、三島は私淑してるんですけまたあの笑顔。この大きな男のゆるぎない自信をつきくずすこと ど、あの思想そのものがもうひとっー。・ー国粋主義と結びつけちゃっは、ちょっとやそっとではできないのだそ、と人々に知らせたがっ たところが、ですね。そうでなく、ファッションと自己表現としてているような。だってこんなにも、現実は堅牢であり、どんなもの あの会をやったんならーー。僕もそっくり同じことしたいくらいですでものみこみ、消化してしまうのだから ! よ。あ、もちろん、切腹ってことじゃなく」 「あなたは、どんな小説を書いておられるんですか ? 」 加山は楽しそうに笑った。そして修平は改めて、おれは一種の怪立ちあがりながら、修平はきいた。 物、モンスターを前にしているらしい、と考えたのだった。無邪気「そうですね、スベキレイティヴ・ポリティカル・フィクショノ なモンスター、巨大な幼児 ! といいましようか。つまり、設定を近未来にとって、ま、戦争 「じゃ、でも、もしいま戦争がはじまってたら、嬉しいですね」 小説ですねーーーこんどの奴では、うんと大勢殺しますよ」 皮肉なひびきが入りこまぬよう、気をつけながら修平は云った。 またしても、あの笑顔だった。 「いまが戦時中だったらー 「殺人がお好きのようですね」 「うーん、不可能だから憧れるんですよ。わかんないかな」 あ、さっきのお 「ドラマチックさに欠かせぬ要素ですから。 加山は相かわらず無邪気である。 話、よかったらいつでもいって下さい。お力になりますよ , ーーみん 「いや、もし、いまねーーー」 なも喜ぶし。あの、エキストラの話ですよ」 「もう、かってのような戦争は過去のものですよ。こんどはじまれ「ああーーみなさん、若いんですか」 ば、核戦争でしよ。何もかも、お終いなんだからーーーザ・ディ・ア「平均、十四、五から二十四、五つてとこですね。十一の子もいる 427

10. SFマガジン 1984年2月号

嚼消化にいたるまで、あらゆる種類の役割と思う。 をになうまでに発達していたのだが、最盛それほど、この図 3 の曲線は衝撃的であ 3 なぜ『歯』に着目するのか : 期をすぎると、その役割をつぎつぎに他のる。 身体部分 ( とくに腕と手 ) や体外の道具に 『歯』は動物の身体にできた最初の能動的うばわれ、この数千万年は弱体化の一途を さて、これからいよいよこの議論は佳境 な固い道具である。それは武器から咀嚼具たどってきたのである。 現在の人間の歯は、力学的には、道具とに入るのであるが、もうべージがなくなっ まで、じつに幅広い役割をになってきた。 それだけでもおおいに調査研究する価値火とで十二分に加工されたやわらかな食物てしまった。 図 3 をもとに拡がるハードのワは来 があるのだが、さらにそれがサカナからヒを簡単に咀嚼する役目と、夫婦喧嘩や xx トまでの進化史において「典型的な定向進 x のときに相手に噛みつくていどの役目し月のお楽しみに : かもっていない。 化 ( 変化 ) 特性」をしめしてきていること ( あなたが噛んだ、小指がいたい が重要なのである。 これで『歯』に着目することの重要性が ひろ子ちゃんのせいか石原博士のせいか その定向進化 ( 変化 ) 特性とは は知りませんが、玉川大学工学部の竸争率 実感されたのではないだろうか : 多数から少数へ は急上昇しつつあり、この二年で四倍増は 同形から多種類形状へ 確実です。偏差値とかいうワケのワカらな 単純から複雑へ いものも五〇をどうしたとかこうしたとか さて、歯というものの顕著な定向進化 再生可能から再生不可能へ ( 変化 ) 特性はおわかりいただけたとし言っています。 のようなきわめて明快な特性である。 これは原始の歯が万能の道具としての機て、図 3 をごらんいただきたい。これは現まあそれはいいんですが、受験してくれ 在進行中の『歯数減少』現象の ( 推定をまたファンから「落っこちました」なん 能をしだいに発達させて哺乳類にいたり、 て手紙が来るのは悲しいです。今度こそは それ以後その機能を他の器官がつぎつぎにじえた ) 略図である。 代行するようになってきた進化史的事実そしてそれから図 2 のさいごの ) のそんなことのないよう、受験ファン 説明にちらと目をはしらせ、再度図 3 に視 ( 玉大にかぎらず ) 頑張れい と、強く対応している。 それを論より証拠ということで、図 2 に線をもどしてみていただきたい。 〔図版その他お世話になった文献は最後の ふだんからこの研究室を愛読してく回にまとめて記させていたたきます〕 詳しくしめしている。ごらんいたたきた ださっておられるファンならば、これ だけであとは何も書かなくとも石原博士が 歯は最盛期には闘争や食物捕獲の武器、 食物や生活環境加工の道具 : : : などから阻なにを言いたいかおわかりいただけたもの