。負けるわけにはいかないのよー 〈イシス。あなたは : : : 根っからの理論士ね〉 警備員の頭部は縦に長くなった。制帽が頭から落ちることなく、 〈あなたの他に〉再びカミス人のイシスの姿で、〈ダゴム司令とス頭部とともに潰されてゆく。頭蓋骨内の圧力が高まり、限界に達し ローンを呼んであるの。彼らを捜さなくちゃ。わたしたち理論士にたとたん、眠球がとび出し、その眼窩から、鼻孔から、ロから、脳 はこの状況がだいたい理解できるわ。だけど治安士スローンはそう漿が噴出した。透明なその液体にすぐに赤い血が混り、それから灰 じゃない。早く助けてあげないと危ないと思う〉 色の脳が眼窩からどろりと押し出された。空中に飛散した血と体液 「わたしは淳を捜す」と星香が言った。「彼がだれを愛していようは様々な大きさの回転楕円となって廊下の空間に白い照明を受けて と、わたしは彼を愛している」 ねっとりと光り、壁に達するとそれを赤く染め、ゆるゆると壁を下 へとったう。 男はさらに首を曲げた姿勢で、背と腹面から身体ごと圧し潰され る。巨大な圧力で狭められてゆくガラスの間に閉じ込められたかの 磨琉は銀行コン。ヒ、ータ室の外に立ち、周囲を見回した。身体をようだった。ゆがんだロの、舌がわずかに見えているその孔から胃 擬動させて。その動きは人形ア = メーションのようにぎこちなかつの内容物が吐き出された。それは肺から絞り出される空気で泡立 たが、磨琉が周りを観察するにはそれで充分だった。 ち、その肺の排気は男がまだ生きているかのように声帯を震わせ 〈原始的な警備システムだ。リンポスの情報理論はカミス・アスタて、猫の鳴らす喉のような音を立てた。 ート理論に遠くおよばない。もっとも、そのようにしたのだ。カミ それでもまだ磨琉は男を床に倒そうとはしなかった。さらに男を ス人が 。リンポス人はわれわれを神と呼ぶ。思い知らせてやろう。潰す。肋骨が薄氷のように徴塵に砕かれ、その一部が男の制服を突 おれが神であることを〉 き破って露出した。制服を貫通したその骨は血を衣服で拭われて、 ~ 磨琉は凍りついたように動かない銀行警備員を見つめた。その若人間の肉体にはつり合わない白磁のような清潔さで照明を反射し い男はコンビ = ータ室をのそき込んだ、磨琉に殴り倒される直前のた。 姿勢で、磨琉の悪意と優越感と理論検証の意識の直撃を受けた。 磨琉はさらに第三眼をいつばいに開、こ。 ギシッ、と音が立った。警備員の身体が動いた。男の顔が磨琉の 男の身体はそのとたん、最後まで保っていた抵抗力を、そのすべ ほうにねじ曲げられた。 てを奪われて、一枚の板の形に圧縮された。爆縮した肉体は乾い そして男の顔が潰れはじめた。両側頭部を見えない万力で締めら た。体外に噴き出した体液が霧状に、もわりと男の身を包み、薄れ れるように、男の頭が変形する。骨の砕ける音がした。磨琉は薄笑ていった。 いを浮かべて理論波力を放射する。第三眼がルビーのように紅く輝それから琉は、その硬く固まった男の乾燥体を微粉末にまで砕 2
いているのを確かめる。時間かせぎのために男のほうを向き、低い アタッシェケースを手にして磨琉は若い警備に徴笑した。 声で平然と、仕事中だと言った。 「もう仕事はすんだよ」と磨琉は言う。「もうすんだ。どこもおか 5 「仕事 ? 聞いてませんが」 しなところはない。出て、一緒にお茶でも飲まないか」 若い警備員は首を傾げた。なぜ、と磨琉は思った。警備員に見つ「待て : : : 確かめてみる。ここを動くな」 かったのだろう。見落としていた警報装置があったのか。こんな状「まず、 : ここを出たほうがいい と思うがな。中央処理装置をぶ 況は自分の計画理論にはない。なにか自分には予想もしなかった要っこわしたら、あんたの責任になる。馘首どころではすまないだろ 因がまぎれこんだにちがいない。それはなんだ ? う。一生かかっても払いきれないほどの損害賠償を負うことになる 警備員は、中央処理装置の裏ケース扉がはずされて、そこに見慣よ」磨琉は笑みを浮かべたまま、「それとも保険を掛けてあるか れない機械が接続されているのに気づいた。腰の警棒を抜き、男は 塵ひとつない床を、怪しい機械を調べるために近づいた。 「一緒に来い」 「触るな」磨琉は叫んだ。「おれの理論検証の邪魔をするな」 「言葉遣いに気をつけたほうがいいと思うよ。わたしは何もやまし 警備員は足をとめた。そしてようやく、自分を呼びとめた男が、 いことはしていない」 正式にこのコンビ、ータ室に入ることを許可された者ではないらし磨琉は警備員に腕をとられてコン。ヒ = ータ室を出た。 いことに気づいた。彼は無意識のうちに抜いていた警棒をかまえ 「ああ、いけない」 こ 0 立ち止まって、磨琉はアタッシ = ケースをぶらぶらと振り子のよ 「だれだ。ここでなにをしている」 うに振った。 「身分証を見せるよ」 「忘れ物をしてしまった」 「身分証 ? 入室許可証はあるか」 「忘れ物 ? 」 「きみはどうなんだ ? 」 「ほら、あそこだよ」 「ぼくはーーこ まだ閉じられていない扉の向こうを磨琉は、警備員にとられてい 実行終了のインジケータが偽データ出力機のディスプレイに出る自分の右腕を男の腕と一緒に上げて指さした。警備員はそちらに た。磨琉は男をおしのけて、接続をはずした。用意してきたケープ注意を向けた。磨琉は十分に大きな振幅を得ていた左腕の重いアタ ルやその他の小道具を大きめのアタッシェケースに納める。堂堂と ッシェケースの方向を修整し、身体をひねりながら、それを警備員 した仕事ぶりだった。 の側頭部めがけて、振った。 「入室許可証はあるさ」と磨琉は言った。「中央処理装置の点検を 一瞬後、男はアタッシェケースによって殴り倒される。はずたっ やっていたんだ。連絡がいっているはずなんだが」 - 」 0
ゾーによって、きみを追っている。男は彼女を護衛する役だ。あの 「きみには、いずれあの女に殺されるという確信がある」コルマ】 でぶ女はーーー私にはよくわからん。ひどく奇妙なところがある。あが言った。「しかし、私にはその理由がわからん。たとえ殺人を想 5 の笑い方はまるで白痴だ。どんな役割を果しているのか、見当がっ定するにしても、下手人としてはあの男を考えるのが論理的だ。彼 かん。しかし、きみはあの女をひどく怖がっているようだな」 のほうが体格がいいし、いかにも強そうだからな。それに、きみは ・フリイルが身慄いした。「その通りだ。じかにあの女を見れば、 あの男が銃を持っているのを見たことがある」 ・フリイルがうなずいた。「それはそうだ。しかし、あの男ではな あんたにだってわかるさ。ばかでかい女だ。でかくて白くて、蛆虫 みたいにぶくぶくしてる。そして、いつも笑ってるんだ、畜生、 。やるのはあの女だ。そうに決まっている。だから、あの女は年 つも俺に笑いかけてくる。どこからひょっこり出てくるか、わから中にやにやしているんだ」 ん。あのニ = ーホルムのときには、私がドアをあけると、あれがな「ところで、きみには銃を購入して、これまでにかれらを殺してし かに坐っていてこっちの顔を見るとにやっと笑いやがったーーーあれまうことも可能だったと思うが」 コキブリを見 はまるでーーーまるで食いかけの麦粥の深皿のなかに、・ ・フリイルが彼を凝視した。「そーーーそんなことは考えたこともな つけたみたいな気分だった。ええい、糞 ! 」 「ふむ、事実だな。しかし、考えたことがないというのは妙だ。そ うは思わないか ? 」 「それはまあ。しかし、ともかく、私には考えられなかった。私は 粗暴な人間じゃない」 「きみは非常に粗暴な人間さ」コルマーが言った。「しかし、考え られないという点は認めよう。きみにはなにか自分でも気づいてい ない理由があって、かれらに対して暴力を用いる意志がない」 ・フリイルがなんとなく落ち着かぬ素振りを見せた。「私を助けて もらえるかね ? やつらが私を発見するまえに ? 」 「たぶん、カにはなれると思う。しかし、きみはもう発見されてし まったよ。金髪女がいまこの店に入ってきた。テー・フルへ案内され て行く途中だ」 ・フリイルが息をのみ、坐ったまま振りかえ ? た。白木の板敷きに なったレストランの向う端で、店の主人がきれいな驅つきの金髪の 2 .3 : を・物・き , きを
淳は原稿用紙に注意をはらう。その上に書かれた文字は見えた。 - 小屋があって、茶色の小型犬があくびをしているように大きく口を 鏡面反転した黒い文字を淳は読んだ。 開けて淳を見上げていた。あくびではなかった。吠えているところ 4 《おれの顔を選び取らなくてはならない。アシリス、おれはまず自 だと淳は思った。そのとたん、・ハウ、という犬の声が空気を震わせ 分の身体から創らなくてはならない。なんという世界だ。これはま た。淳は一メートルほど落下した。周囲に、窓ガラスの破片が無数 さしく自分を主人公にして小説を書く作業そのものだ》 にきらめいていた。窓は割れていた。 淳は見た。視線を動かしたわけではなかったが、淳は鏡に映る男『これは理不尽だ。おれは窓を突き破って墜ちる、そんな結果を生 の顔を見た。そこに立っているのは、白いトーガをまとう、そしてむ原因となるようなことはしていない いや、したのだろうな。 額に第三眼をもつ、繊細な心がそのまま形となったような細い顎、そう、おれはこのままだと墜ちる』 色のない白い顔の、男だ 0 た。淳に似ていた。だが淳には額の第一一一淳は再び鏡の前に立 0 ていた。白いセーターに黒い上着の淳が映 眼はなかった。 っている。額に紅のルビーがついていた。 強烈な圧力を感じた、畏怖だった、淳は、鏡の前から突きとばさ『これが、おれだ。あの男はやはり幻なのかっ・ いま窓の外に飛ば れ、気づいたとき、二階建アパート の淳の部屋の外、窓から出たとされたことも、錯覚なのか ? 』 ころで、その空中に、ガス爆発でとばされた人間の一瞬をとらえた鏡には窓が映っていた。窓は割れていた。外へ吹きとんだガラス 写真像のように、静止していた。鏡の前から動いてそこに達したの片が日の光を反射していた。 ではなかった。 『これは : : : 現実だ : : : おれが窓の外の宙にいたのは事実なんだ』 『動きは感じなかった。おれはあそこからここへ移っただけだ。し鏡の上に黒い文字があらわれる。 かしあの顔。第三眼をもっ男は、どこかで会 0 たことがあるような《ここには動きはないのだ。おれは空間を動いたわけではないらし 気がする』 。その事象を選択した結果、その場所に出現したのだろう。とん 異様な顔。しかし淳は自分にも第三眼があ 0 たのではないか、たでもない場所や状況に投げ出される可能性があるわけだ。アシリ だ気がっかなかっただけではないのかと思う。違和感が薄れてゆス、事象選択を誤ってはならない。 この世界には時間はないらし おれには理解できないが、おそらくこれは超・ハール効果た。。ハ 『幻を見たのかもしれない。識閾下に眠っていたおれ自身の顔が浮 1 ルだ。悪党・ハールが近くにいる》 かびあが 0 たのか。少なくとも、しかし、あれは他人ではない。お淳は満井澄郎が言 0 ていた悪党を思い出した。琉という男を。 れ自身だ』 おそらくあいつのことだと淳は思った。刑事の澄郎が追いかけてい 淳は宙に静止していた。身体をくの字に曲げた姿勢で。ア。 ( ートる悪党だった。 と隣の家の境に。隣家の庭が見えている。植木があり、芝の庭に大《やつは悪党だ。しかしこの世界はおれにとって、悪ではない。お すみお
' 84.2.1 ~ 3.31 全国 4000 書店で開催 ! 町者男た路グ人人一ス ル又ル又ク チら降航ー のの一了 にツら死キ 舞出 繿性望の ン図ャ度よ 房 地キ過ニ鷲脱駆魔欲ア復 トん東号年 ! 一港イ業グ男記早 スやズ ・赤のシ 一ンユ 8 空のイ年 なテ星 ズ一陛 ロエ女 1 激ゴ大小卒ス刺火
新米の気おくれではなかった。そんなものはとっくに卒業してい に聞こえるところで咳払いをしたくはなかった。 た。それにもかかわらずコルビーは胃が浮きあがり、喉がしめつけ特別往復便は定員十二人の小型の電動車だった。警乗員はいな られるような思いを味わっていた。このどんよりした月曜の朝、自 。乗客はコルビー一人だったが、まもなく長身のがっしりした男 分がどこへ行くのか、この列車の中の誰もが知っているのではない が乗りこんできてすぐ後ろの席に着いた。その男はちらとコルビー かという漠とした不安がひっそりとしのび寄っていた。 を見たが、何もいわなかった。さらに男がふたり乗ってきた。彼ら コルビーは座席の背にもたれ、大きく息を吸いこむと神経を鎮めは座席の上でせいいつばい快適に体を伸ばし、腕を組んで寝入って ようとして、静かに震動しつづけている列車の窓の外へ視線をむけしまった。コルビーは彼らを見ならおうとした。眠れなかった。グ た。列車はすでに市内へ入りこんでおり、防禦フェンスの後ろ、ち リーンベルトの学校のことが頭から離れなかった。その気なら、今 ようど地面よりもやや上を疾走している。コルビーの目は無意識のでもまだ、あそこにいられたのだ。まだ遅すぎはしない。きっと呼 うちに燃えっきた窓から窓へ、瓦礫の山から山へと、危険の徴候をび返してくれるはずだ。 探して動きまわった。何の気配も目につかない。細かい雨がしとし こんな風に考えるのはよくない。それはわかっていた。男はいっ とと降りつづけている。チン。ヒラどもも屋根の下に隠れているのだ たん決心したら最後までそれをつらぬくものだ。イナー・シティ ろう、とコルビーは考えた。今日は体を乾かすためにみんな学校に 3 への転属は、それにともなう損得を十分に考えに入れて、自由 やってくる。まったくおれはついているよ。 意志で選択した。おそらく、特に初めのうちは少しはつらいだろう 列車はなめらかに勾配を昇って、安全な屋上の高さを二マイルほ が、そのための訓練はすませてあるし、協力も期待できる。くよく ど走ったあと、スビードを落して大きな乗換駅に着いた。コルビー よ気に病むことはない。 は鞄を抱えると、乗客にまじって早すぎもせず遅すぎもせぬ足どり 特別往復便は九人の男を乗せて駅を離れ、斜道をくだって市街の で、高まる興奮を鎮めようとしながら列車を降りた。 路面へ出た。定期便は静かに、おどろくほど快調に走った。急に揺 こんなに朝早いというのに、ほとんどの乗客は商業地区と市の中れがひどくなったので、コルビーはちらと外を見た。ガソリンを使 央部を結ぶ八輛連結の定期往復便の方へ足を運んでいたが、それに う旧式な本物の自動車が路傍に乱雑に積みあげてあり、どの車も は乗客数に負けないくらいの警乗員も乗りこむのだ。コルビーはきつくされた姿をさらしていた。おそらく夜のあいだに障害物がわ 〈イナー・シティ〉と表示された特別往復便へ向かった。係員りに積みあげられたものが、早朝巡回隊の手で脇へかたずけられた のだろう。コルビーはふたたび目を閉じた。どさっという大きな音 はコルビーの身分証を確認し、鞄の中をかんたんにのぞきこむと、 一言も発しないでコルビーを通過させた。その次の係員はあるかな に、コルビーははっと起き直った。定期便の屋根に何か大きなもの しかの微笑を浮かべてコルビーこ、 冫しった。「たっしやでな」 がぶつかったのだ。しかし、ほかの誰ひとり身じろぎもしない。 8 「ありがとう」とコルビーは応じた。声がしわがれていたが、係員ルビーはうしろにもたれて目をつぶり、列車が止まるまで二度と開
海の向こうでは、相変らずファンタジイとらえた。その感覚は次第に強まってゆかった。首尾よくディフォークを誘拐し、 禾の量産が続いている。ローカス誌によれき、近くの巨大な岩が胎動するがごとく震地の底ーー - 、死の世界ーーからの使者を待っ ば、八二年度のファンタジイ出版点数は長え始めた。と見る間に岩にき裂がはいり、 た。やがて地の底からやって来た死霊の案 篇だけで一二九冊 ( 再版を除く ) 。このスその裂け目から骨だけの手がにゆっとの内人と魂抜取人に連れられて、彼らは死界 本 キャナーのためもあって、頑張って読んでび、這い上がってきたものは、髪をしたた へと、魑魅魍魎のひしめく地底の河を下っ 襃はいるつもりだがなにせ横文字、この二割らせた骸骨だ 0 た。その手には大きな黄金て行 0 た。 もこなせば上出来といったところだ。しかの鍵がにぎられていた。骸骨は焚き火のそ「これより先、あちこちに支配者の代官が しここ一年を振り返ってみると、意外なほ ばでくずおれた、と見るや、その骨に肉がおる。そこを通るには通行税として、おま ど印象に残っている作品が少ない。量産に いや、何万、何億という地虫えらの体の一かけらをそれそれ一回だけ差 よる質の低下も歪めぬ事実だが、″あくのが骨を覆っているのだ。やがて虫どもが何し出さねばならぬ、よいな」、死の地に着 強さ″が欠如しているよう くと案内人は言った。妖獣に引かれた車で に思える。やはりファンタ ・出発した彼らを最初に迎えたのは、顔も体 ジイには、その完成度もさ もただれた三人の鬼婆だった。「さあ、肉 の一部を : : : 」との要求にニフトが進み出 ることながら、鮮烈なイメ・、ー・ ' さー ( ると、鬼婆は左耳をくれという。彼は自ら ージが不可欠なのである。、 今回紹介するマイクル・ 刀で耳を切り取って投げた。鬼婆共はそれ どくろ シェイの『変屈者ニフト』 を奪い合って食べた。次に彼らは骸骨の面 をかぶった大きな猿人に出合った。それは 4 ザーを想わせる設定のも・・・、 ハルダーに人差し指を求め、彼が切り落し と、かのウィアード・テー た指をうまそうにロに放りこんだ。目的地 ルズ誌的色彩を色濃く漂わ が近づいた頃、全身を包帯でくるんだ、男 せた、強烈な印象を残すあ。 と女とお・ほしきふたりの巨人が彼らを待っ ていた。「わたしの赤ん坊にその男の眼玉 〃 - い 0 強」作品であゑ がほしい」と女は言う。ぞっとして後退る 処へともなく去ったあとには、見まごうこ ディフォークより素早く包帯男の腕がの その女が語っ 陽が西に沈む頃、ふたりの男が大草原をとなき全裸の美女が = 渡っていた。狼の群が出没すると知りつつナ こ、「私はダリッセム、七年前にこの世をび、彼の眠を抜き取った。女が抱きかかえ も、そのふたりの盗賊ーーニフトとハルダ去った女です。私の願いをきいて下されていた包みを開くと、そこには赤子の顔は は止むなくそこで一夜を過すことに ば、この魔術師の鍵を差しあげます。私をなく、無数の妖虫がのたうっており、眼玉 シ した。その夜ふけ、「俺がこの世でほしい裏切った男、ラークナ・ダウンズのディフを飲みこむようにつつみこんだ。 ものは″魔術師の鍵″と呼ばれているやっ オークを地の底まで連れてきて下さい」そ目的地の丘に着いた彼らはダリッセムを 屈クだ。そいつのためなら首だ 0 てかけるぜ」れだけ言い残すと、女は再び大地の下へ吸呼んだ。しかし : ・ イと ( ルダーが話していたとき、地面の下か いこまれるように消えた。 一九八三年〈世界幻想文学大賞〉ノヴェ 偏 ル部門受賞作。 マら何かがや「てくるような感覚がふたりを早速ふたりはラークナ・ダウンズ〈と向 ソウルナイカー 5
世界は戦時下にあるのか ? 一一追いつめられてゆく男の前に現れる謎の女は ? ゲレニカ 1984 年 ( 中篇 ) 栗本薰 イラストレーション冫ロド釜 . 7 209
謎の追跡者に怯え、一時の安らぎも許されぬ逃亡の日々をおくる男は・・・ 逃走 ジョージ・ R ・ R ・マーティン 冬川亘訳 イラストレ→ョン金森達 T, んに 4 アけ尾バ 5 2
「もう真夜中に近いのに。あのコン。ヒュータ、なんでこんなに手間 ね。あの男、わたしを見てました ? 」 「ええ。恋におちたのは確実ね。・ハラ色のオーラが輝いているようをかけてるのかしらん」 だったもの」 「他にも処理しなくちゃいけない仕事をたくさんかかえているから 「それで、わたしは ? わたしの反応も調べていたんですか ? 」 よ。わたしの計算もまだなの。スー ーコン・ヒュータを入れて欲し いわね。ミニコンではだめよ。もっとも予算がとれないか。所長に 「調べるだなんて。そうじゃないわよ。でも、そうね、あなたも恋 をしているわ、たぶん。わかるの。わたしの仕事とは別よ。女の勘政治力があればねえ」 ってとこかしら」 「今夜中に結果を検討してみたかったのに、無理かしら。リスト処 「満井さんのこと、なんとも思っていません。あれはお仕事だも理だから。専門のリスト処理コンビ = ータがあればいいのにと思い の」 ます。でも、パソコンよりはましです」 「いま、なにをやらせてるの、計算機に ? 」 「そうね」 彩子はコーヒーカツ。フを広いデスクにおいた。雑然としたこのデ「磨琉という男のパーソナリティ分析です。人格を構成する多元要 スクの上はなんとかならないものかと思い、自分の室のデスクも大素を並列に参考させながら、行動パターンを出力させるつもりです 差ないことを思って、ロに出すのはやめた。その星香のデスクに、 : 。なかなかうまくいかなくて。既成行動パターンにのらない男な 彩子は弟の本が、専門書の山の上に重ねられているのに気づいた。 んだわ」 場違いな存在に映った。彩子はそれを手に取った。『まばゆい空へ 「たとえば、どんなふうに ? 」 落ちてゆく / 如月淳』 「たとえばといわれても : : : ぐっとくだけて説明すると、犯罪者は 「犯罪とは無縁の本ね」 必ず犯行現場にもどってくる、というようなものが既成の。ハターン 「あ、それ」照れたように星香は微笑んだ。「よかったです。そう にあるのです。無数にあります。犯行の公式集みたいなもので、そ いうの、好きなんです」 の人間のパーソナリテイやその他のデータから、その人間がこれか 「実際の恋愛のお手本にはならないわ。弟の書くのはお話だもの。 らどう行動するかというようなことが予想できるのです。犯行現場 よくこんなものが書けると感心しちゃう。恥ずかしくないのかしの状況とかからも、ある程度の犯人像を浮かびあがらせることもで ら」 きます。でも、今度の犯罪者は、なにを考えているのかよくわから 彩子は弟から本を受け取ってはいたが、ほとんど読んではいなか ないんです。手あたりしだいに、犯罪とされていることをすべてや っこ 0 こんなのは初めてです。 ろうとしているみたい。予想が立たない。 「遅いなあ」 人間じゃないみたい」 星香は端末ディス。フレイに向きなおり、話題をそらした。 「じゃあ、人間じゃないんだわ」 びと 4